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相続した実家の名義、そのままで大丈夫?

2026-09-28

相続登記義務化の期限「2027年3月末」までに経営者・資産家がやるべきこと

【この記事の結論】 ✔ 2024年4月から相続登記は義務になり、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料の対象になります。 ✔ 義務化より前に発生した相続(親や祖父母の代の名義のままの土地)も対象で、その期限は2027年3月31日です。残りはちょうど半年です。 ✔ 遺産分割がまとまらない場合でも、「相続人申告登記」という簡単な手続きで義務を果たすことができます。 ✔ 2026年4月からは住所・氏名の変更登記も義務化されました。会社の事業用不動産が先代名義のままの経営者は、事業承継・融資・M&Aの障害になる前に今すぐ整理すべきです。

「父が亡くなって何年も経つけれど、実家の名義はそのまま」「祖父名義の田んぼがあるらしいが、誰が相続したのかよく分からない」――こうしたご相談は、税理士の現場で毎週のように寄せられます。

これまでは、名義を変えなくても罰則はありませんでした。しかし法律が変わり、不動産の名義変更は「やった方がいいこと」から「やらなければならないこと」に変わりました。しかも、昔の相続についての猶予期限は2027年3月31日。「まだ先」と思っていると、あっという間に期限が来ます。

この記事では、相続登記の義務化の中身、期限、放置した場合のリスク、そして費用を抑えて確実に手続きを終える方法を、中学生でも分かる言葉で解説します。結論から言えば、「まず自分の家の不動産の名義を確認し、分割が難しければ相続人申告登記で期限を守る」。これが実務上の最善手です。

相続登記の義務化とは?まず押さえるべき基本

結論として、相続登記の義務化とは、不動産を相続した人に「3年以内に名義変更の登記をする義務」を課すルールのことです。

相続登記とは何か

相続登記とは、亡くなった人の名義になっている土地や建物を、相続した人の名義に書き換える手続きのことです。法務局という国の役所が管理する「登記簿」という台帳に、「この土地の持ち主は誰か」が記録されています。

身近な例えでいえば、登記簿は「土地や建物の住民票」のようなものです。人が引っ越したら住民票を移すように、持ち主が変わったら登記簿も書き換える必要があります。ところが、これまでは書き換えなくても罰則がなかったため、亡くなった人の名前のまま何十年も放置された土地が全国に大量に生まれてしまいました。

なぜ義務化されたのか

理由は「所有者不明土地」の増加です。所有者不明土地とは、登記簿を見ても今の持ち主が分からない、または連絡がつかない土地のことです。その合計面積は九州本島を上回る規模とも言われ、道路工事や災害復旧、空き家対策が進まない大きな原因になっていました。そこで国は、相続のたびに名義を確実に更新してもらうため、2024年4月1日から相続登記を義務にしたのです。

[画像指示:亡くなった親名義の土地が放置され、孫・ひ孫の代で相続人が数十人に増えていく様子を示す家系図イラスト / キャプション:名義を放置すると、世代を重ねるごとに相続人がねずみ算式に増えていきます]

期限と過料:いつまでに何をしなければならないのか

結論として、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に登記をしなければなりません。義務化前の相続は、2027年3月31日が最終期限です。

相続登記と住所変更登記の2つの義務

今回の法改正では、相続登記だけでなく、持ち主の住所や氏名が変わったときの変更登記も義務になりました。2つを並べると次のとおりです。

▼ 相続登記と住所・氏名変更登記の義務化比較

項目相続登記住所・氏名変更登記
施行日2024年4月1日2026年4月1日
期限相続で取得したことを知った日から3年以内住所・氏名が変わった日から2年以内
罰則正当な理由なく怠ると10万円以下の過料正当な理由なく怠ると5万円以下の過料
施行日前の分2027年3月31日までに登記が必要2028年3月31日までに登記が必要
簡易な方法相続人申告登記検索用情報の申出(法務局による職権変更)

「3年以内」はいつから数えるのか

3年のカウントは、亡くなった日ではなく、「自分が相続人であること」と「その不動産を取得したこと」の両方を知った日から始まります。たとえば、疎遠だった叔父が亡くなったことを1年後に知った場合は、その知った日からの3年です。

また、遺産分割協議(相続人全員で「誰が何を相続するか」を決める話し合い)がまとまった場合は、まとまった日から3年以内に、その内容どおりの登記をする必要があります。

過料はいきなり科されるのか

過料とは、刑罰ではない行政上の金銭的なペナルティのことです。前科はつきませんが、支払い義務は生じます。法務局は、登記漏れを把握すると、まず「期限内に登記してください」という催告(お知らせ)を送ります。それでも正当な理由なく応じない場合に、裁判所へ通知され、過料が決まる流れです。

⚠ 「催告が来てから動けばいい」は危険です 催告が来た時点で慌てて動いても、戸籍集めや相続人全員の合意には数か月かかることが珍しくありません。特に相続人が多い古い相続では、催告後の期間内に終わらないおそれがあります。 正当な理由とは、相続人が極めて多く戸籍収集に長期間かかる場合や、相続人に重病の方がいる場合などに限られます。「忙しかった」「知らなかった」は原則として認められません。

相続登記を放置すると起きる5つのリスク

結論として、放置の本当のリスクは過料よりも、「売れない・貸せない・担保にできない」状態が固定化し、次の世代に問題が雪だるま式に大きくなることです。

■ リスク1:相続人がねずみ算式に増える(数次相続)

数次相続とは、遺産分割が終わらないうちに相続人の誰かが亡くなり、次の相続が重なることです。祖父名義の土地を放置している間に父やおじが亡くなれば、その配偶者や子どもたちも話し合いに加わる必要があります。当初3人だった相続人が、10年後には10人以上になることもあります。

■ リスク2:売却も融資の担保にもできない

登記簿の名義が亡くなった人のままでは、不動産を売ることも、銀行融資の担保に入れることもできません。「いざ売りたい」と思ったときに数か月の手続きが必要になり、買い手を逃すことになります。

■ リスク3:一部の相続人の持分が差し押さえられる

相続人の中に借金を抱えた人がいると、その人の法定相続分が債権者に差し押さえられることがあります。会社の工場や店舗の敷地で起きれば、事業そのものが揺らぎます。

■ リスク4:事業承継やM&Aが止まる

中小企業では、会社が使っている土地や建物が社長個人や先代名義になっているケースが多くあります。事業承継やM&Aの際、買い手や金融機関は必ず不動産の権利関係を確認します。名義が整理されていないだけで交渉が数か月止まる、あるいは譲渡価格の引き下げを求められることは実務で実際に起きています。

■ リスク5:相続税の特例が使えなくなることがある

登記そのものと相続税は別の手続きですが、放置の原因である「遺産分割がまとまらない状態」は相続税に直結します。相続税の申告期限(亡くなった日の翌日から10か月)までに分割が終わっていないと、小規模宅地等の特例(自宅や事業用地の評価を最大80%減額する制度)や配偶者の税額軽減が、その時点では使えません。

💡 税理士の実務視点 相続税がかからない家庭でも、相続登記の義務は必ずかかります。「うちは財産が少ないから関係ない」は誤解です。 逆に相続税の申告が必要なご家庭では、申告と登記を同じタイミングで進めるのが最も効率的です。遺産分割協議書や戸籍一式を両方の手続きで共用でき、手間も費用も抑えられます。

状況別に選ぶ3つの解決策

結論として、①分割がまとまるなら通常の相続登記、②まとまらないなら相続人申告登記で期限を守る、③いらない土地なら相続土地国庫帰属制度を検討、の3つから選びます。

▼ 相続した不動産の3つの対処法の比較

項目通常の相続登記相続人申告登記相続土地国庫帰属制度
どんな手続き?相続人の名義に正式に変更する「自分が相続人です」と法務局に申し出る不要な土地を国に引き取ってもらう
義務を果たせるか〇(完全に解決)〇(ひとまず義務は履行)〇(所有者でなくなる)
必要な合意分割協議なら相続人全員不要(1人で申出可)共有なら共有者全員
費用登録免許税(評価額の0.4%)+専門家報酬登録免許税はかからない審査手数料+負担金(原則20万円)
売却・担保可能不可(別途正式な登記が必要)―
向いている人分割がまとまっている人話し合いが長引きそうな人管理できない山林・農地などを持つ人

相続人申告登記とは

相続人申告登記とは、「この不動産の持ち主が亡くなり、私はその相続人の一人です」と法務局に申し出るだけで、相続登記の義務を果たしたとみなされる制度です。相続人全員の合意は不要で、自分の戸籍謄本などを出せば1人で手続きができます。登録免許税もかかりません。

たとえるなら、「宿題はまだ終わっていないけれど、提出日までに途中経過を先生に届けておく」ようなものです。ただし、これで持ち主が確定するわけではないため、後日遺産分割がまとまったら、その日から3年以内に正式な相続登記が必要です。

相続土地国庫帰属制度とは

相続土地国庫帰属制度とは、相続で取得した不要な土地を、一定の条件を満たせば国が引き取ってくれる制度です。2023年4月から始まりました。建物が建っていない、担保が付いていない、境界争いがないなどの条件があり、10年分の管理費相当として負担金(原則20万円)を納めます。遠方の山林や使い道のない農地を持て余している方には有力な選択肢です。

相続登記の進め方:6つのステップ

結論として、手続きは「財産の把握→戸籍集め→分割協議→申請」の順で進めます。最初の2ステップに最も時間がかかるため、早く着手するほど有利です。

▼ 相続登記完了までの流れ

STEP 1 相続した不動産をすべて洗い出す

固定資産税の納税通知書、市区町村の「名寄帳」、2026年2月に始まった「所有不動産記録証明制度」(亡くなった人名義の不動産を全国分まとめて調べられる制度)を活用します。

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STEP 2 戸籍謄本を集めて相続人を確定する

亡くなった人の出生から死亡までの戸籍が必要です。2024年3月から、本籍地以外の市区町村窓口でもまとめて取得できる「広域交付」が使えます。

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STEP 3 遺産分割協議を行う

相続人全員で誰が何を相続するかを決め、遺産分割協議書に全員が署名・実印を押します。まとまらない場合は相続人申告登記で期限を守ります。

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STEP 4 登記申請書を作成する

固定資産評価証明書をもとに登録免許税を計算し、申請書を作ります。

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STEP 5 法務局に申請する

不動産所在地を管轄する法務局へ、窓口・郵送・オンラインのいずれかで申請します。

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STEP 6 登記完了・権利証(登記識別情報)を受け取る

完了後に通知される登記識別情報は、将来の売却時に必要なので厳重に保管します。

[画像指示:書類の束(戸籍・協議書・評価証明書)を持って法務局に向かう家族のイラスト / キャプション:準備書類をそろえれば、手続き自体はシンプルです]
💡 税理士の実務視点:自分でやるか、専門家に頼むか 相続人が配偶者と子だけで、不動産が自宅1か所といったシンプルなケースなら、ご自身での申請も十分可能です。 一方、相続人が多い古い相続、複数の市区町村に土地が散らばっている、事業用不動産が含まれる、相続税の申告もある、のいずれかに当てはまる場合は、税理士と司法書士の連携に任せた方が、結果的に時間も費用も少なく済みます。

具体的なシミュレーション:放置した場合といま手続きした場合の比較

結論として、今すぐ手続きをすれば約20万円で済むものが、放置して次の相続が重なると、手間と費用が2倍以上に膨らみます。

ケース設定

  • 5年前に父が死亡。相続人は母・長男(会社経営者)・長女の3人
  • 父名義の自宅:土地の固定資産税評価額1,500万円、建物300万円
  • 父名義の地方の山林:固定資産税評価額80万円
  • 遺産分割はまだ話し合っていない(相続税は基礎控除内で申告不要だった)

▼ 今手続きする場合の費用概算

費用項目計算金額(概算)
登録免許税(自宅)(1,500万円+300万円)×0.4%72,000円
登録免許税(山林)評価額100万円以下の土地の免税措置を適用0円
戸籍・評価証明書等の実費―約10,000円
司法書士報酬(目安)不動産2か所・相続人3人約100,000円
合計 約182,000円

※司法書士報酬は事案や地域により異なります。免税措置は適用期限(2027年3月31日まで)内の登記が前提です。

放置した場合に起きること

このまま10年放置し、その間に母が亡くなったとします。すると父の相続と母の相続が重なり(数次相続)、戸籍収集の範囲が広がり、書類作成も2つの相続分必要になります。さらに長女が亡くなれば、長女の夫と子ども2人が話し合いに加わり、相続人は3人から5人以上に増えます。

▼ 今手続きした場合と10年放置した場合の比較

項目今手続きする10年放置した場合
話し合う相続人3人(家族内で完結)5人以上(義理の親族を含む)
専門家報酬・実費約11万円20万〜40万円程度に増加
登録免許税約7.2万円(山林は免税)評価額・免税措置の有無により増加の可能性
過料のリスクなし最大10万円(1人あたり)
売却・担保すぐ可能手続き完了まで不可
家族関係円満に決めやすい疎遠な親族との交渉で難航しやすい
💡 税理士の実務視点 この試算で最も大きな差は、実はお金ではなく「話し合いの難しさ」です。母が元気なうちなら家族3人で決められることも、世代が変わると顔も知らない親族の実印が必要になります。 長男が会社経営者の場合、自宅の土地を将来の会社の借入の担保に使う可能性もあります。名義を整えておくことは、そのまま経営の選択肢を広げることにつながります。

よくある質問(FAQ)

Q. 相続登記をしないと、必ず10万円の過料を払うことになりますか?

A. いいえ、必ずではありません。法務局からの催告に応じて期限内に登記すれば過料は科されません。また、相続人が極めて多いなどの正当な理由があれば対象外です。ただし「知らなかった」「忙しかった」は正当な理由になりません。催告を待たず、早めに手続きすることをおすすめします。

Q. 兄弟で遺産の分け方がまとまりません。どうすればいいですか?

A. 相続人申告登記を利用してください。相続人1人だけで申し出ることができ、登録免許税もかからず、ひとまず相続登記の義務を果たしたことになります。その後分割がまとまったら、その日から3年以内に正式な相続登記を行います。

Q. 祖父名義のままの土地があります。これも義務化の対象ですか?

A. はい、対象です。義務化前(2024年4月1日より前)に発生した相続も含まれ、原則として2027年3月31日までに登記が必要です。祖父から父、父から自分と相続が重なっている場合は手続きが複雑になるため、早めの着手が重要です。

Q. 相続税がかからなかった場合でも、相続登記は必要ですか?

A. 必要です。相続税の申告と相続登記はまったく別の手続きです。相続税が基礎控除内でゼロだった場合でも、不動産を相続したなら登記の義務はかかります。

Q. 会社が使っている土地が、亡くなった先代社長の個人名義のままです。何から始めればいいですか?

A. まずは登記簿謄本(登記事項証明書)を取り、現在の名義と担保の状況を確認してください。そのうえで、後継者が相続するのか、会社が買い取るのか、会社に賃貸するのかによって、登記だけでなく相続税・法人税・贈与税の影響が変わります。登記と税務を一体で検討することが重要です。

まとめ:期限の半年前の今こそ、名義の確認から始めましょう

この記事の要点を3行でまとめます。

  1. 相続登記は2024年4月から義務化され、義務化前の相続の期限は2027年3月31日。住所変更登記も2026年4月から義務になりました。
  2. 分割がまとまらなくても「相続人申告登記」で期限は守れます。不要な土地は国庫帰属制度も選択肢です。
  3. 放置の本当のリスクは過料ではなく、相続人の増加と、売却・融資・事業承継ができなくなることです。

相続登記は「名義を書き換えるだけ」に見えて、実は相続税、事業承継、会社の資金繰りにまで影響する重要な手続きです。特に会社の事業用不動産が関わる場合、誰の名義にするかで将来の税負担が大きく変わります。

私たちは、国税OBを含む税理士と社会保険労務士が連携し、相続・事業承継を財務と労務の両面から支えてきました。司法書士とのネットワークにより、相続税の申告から登記までワンストップで対応し、長年の巡回監査で培った「ご家族と会社の事情に寄り添う姿勢」で、円満な解決をお手伝いします。

【この記事の結論】 ✔ 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 ✔ 「実家の名義を確認したい」「先代名義の会社の土地をどうすべきか」といった、最初の一歩のご相談から承っています。

決算前に知らないと損する

2026-09-27

小規模企業共済と倒産防止共済の違いと経営者が失敗しない使い分け

「利益が出そうだけど、税金で持っていかれるのはもったいない」「共済がいいと聞くけれど、どれに入ればいいのか分からない」――決算や年末が近づくと、多くの経営者がこうした悩みを抱えます。

経営者の節税の「二大定番」と言われるのが、小規模企業共済と経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)です。名前は似ていますが、目的も税金の効き方もまったく違います。使い方を間違えると、元本割れや「節税したつもりが後で大きな税金」という失敗につながります。

この記事では、2つの共済の違いを家庭のやりくりに例えながらやさしく解説し、実際の数字で「いくら税金が変わるのか」をシミュレーションします。読み終えるころには、自社と自分にとってどちらを、いくら、いつ始めるべきかが判断できるようになります。

【この記事の結論】 ① 小規模企業共済は「社長個人の退職金づくり」。掛金は全額が社長個人の所得から差し引かれ、税金が本当に減る(節税効果が確定する)制度です。 ② 経営セーフティ共済は「会社の非常用財布」。掛金は全額が会社の経費になりますが、解約時に収入として戻るため、税金を先送りする(課税の繰延べ)制度です。 ③ 失敗しない使い方は「両方を組み合わせ、セーフティ共済は解約する年(役員退職金の支給年や赤字の年)まで決めてから加入する」ことです。

[画像指示:社長個人の「退職金の貯金箱」と会社の「非常用の財布」を並べて比較するイラスト / キャプション:小規模企業共済は社長個人のため、倒産防止共済は会社のための制度です]

1. 2つの共済とは?「自分の退職金」と「会社の非常用財布」

結論から言うと、2つの共済の違いは「誰のための制度か」です。小規模企業共済は社長個人のため、経営セーフティ共済は会社のための制度です。どちらも国の機関(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営しているため、安心して利用できます。

小規模企業共済とは

小規模企業共済とは、小さな会社の役員や個人事業主が、自分の退職金を自分で積み立てる制度のことです。会社員には会社が用意する退職金がありますが、社長や個人事業主には誰も用意してくれません。そこで国が「自分で積み立てるなら、その分の税金を安くしますよ」と後押ししているのがこの制度です。

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは

経営セーフティ共済とは、取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったときに、無担保・無保証人でお金を借りられるように、会社が掛金を積み立てておく制度のことです。家庭で言えば「もしものときの非常用財布」です。この掛金が全額経費になるため、節税策としても広く使われています。

項目小規模企業共済経営セーフティ共済
目的社長個人の退職金づくり取引先倒産への備え(会社の資金)
掛金を払う人社長個人(または個人事業主)会社(または個人事業主)
毎月の掛金1,000円〜7万円(500円単位)5,000円〜20万円(5,000円単位)
積立の上限なし掛金総額800万円まで
税金の扱い全額が個人の所得控除全額が会社の経費(損金)
節税の性質税金が減る(確定的な節税)税金の先送り(繰延べ)
受け取るときの税金退職所得・年金の雑所得など優遇あり会社の収入(益金)として課税
元本割れの注意加入20年未満の任意解約加入40か月未満の解約

表1:小規模企業共済と経営セーフティ共済の比較

2. 小規模企業共済の仕組みとメリット・デメリット

結論として、小規模企業共済は「長く続ける前提」であれば、経営者にとって最も効果の高い節税策の一つです。一方で、途中でやめると損をする仕組みになっている点に注意が必要です。

メリット①:掛金が全額、所得から差し引かれる

掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として、全額がその年の所得から差し引かれます。月7万円なら年84万円が差し引かれ、所得税と住民税が下がります。1年以内の分の掛金をまとめて前納した場合も、支払った年の控除にできます。

メリット②:受け取るときも税金が優遇される

廃業や役員退任のときに一括で受け取る共済金は「退職所得」として扱われます。退職所得は、退職所得控除を差し引いた残りの半分にしか税金がかからないため、税負担がとても軽くなります。分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得となり、公的年金等控除が使えます。

メリット③:いざというときに借りられる

掛金の範囲内で、事業資金などを低金利で借りられる貸付制度があります。解約せずに資金繰りの急場をしのげるのは大きな安心材料です。

デメリット・注意点

  • 加入できる人に条件がある:常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下、宿泊業・娯楽業は20人以下)の会社の役員や個人事業主が対象です。
  • 途中でやめると損をする:自己都合の任意解約の場合、掛金を払った期間が12か月未満だと1円も戻らず、20年(240か月)未満だと払った額を下回ります。
  • 会社の経費にはならない:掛金は社長個人が払うものです。会社が代わりに払うと、社長への給与として扱われます。
💡 税理士の実務視点 小規模企業共済は「無理のない金額で、長く続ける」のが鉄則です。いきなり上限の月7万円にせず、役員報酬の手取りと生活費のバランスを見て決めましょう。 当事務所の実務では、役員報酬の設定と小規模企業共済の掛金をセットで設計することをおすすめしています。報酬を少し上げて会社の法人税を抑え、増えた個人の所得を共済の掛金で圧縮する、という組み立てが可能だからです。

3. 経営セーフティ共済の仕組みとメリット・デメリット

結論として、経営セーフティ共済は「利益が出た年に税金を先送りし、会社にお金を残す」ための制度です。ただし、解約時には必ず税金がかかるため、入口(加入)と出口(解約)をセットで設計することが成功の条件です。

メリット①:掛金が全額経費になり、最大年240万円まで損金にできる

掛金は月最大20万円、年240万円まで全額が会社の経費(損金)になります。さらに、1年以内の分をまとめて前納すれば、その年度の経費にできます。決算直前に利益が大きく出そうなときに、年払いで加入する方法がよく使われます。

メリット②:40か月以上続ければ全額戻ってくる

掛金を40か月以上払っていれば、解約したときに払った掛金が100%戻ってきます。月20万円なら40か月で上限の800万円に達し、そのまま積立金として置いておくこともできます。

メリット③:取引先が倒産したときに借りられる

取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったとき、掛金総額の10倍(最高8,000万円)の範囲内で、回収できなくなった金額まで無担保・無保証人・無利子で借りられます。ただし、借りると掛金の一部が戻らなくなる点には注意が必要です。

注意点①:「節税」ではなく「税金の先送り」である

解約して戻ってきたお金(解約手当金)は、その年の会社の収入(益金)になります。つまり、払ったときに減った税金は、解約したときに戻ってくる計算です。解約する年に利益が大きいと、先送りした税金をまとめて払うことになります。

注意点②:2024年10月以降の解約は、再加入後2年間の掛金が経費にならない

以前は「利益が出た年に加入し、赤字の年に解約し、また加入する」という使い方ができました。しかし、2024年10月1日以後に解約した場合、その後2年以内に再加入して払った掛金は経費にできなくなりました。安易な「解約と再加入の繰り返し」はできなくなったのです。

⚠ 実務上の落とし穴 経営セーフティ共済は、引き続き1年以上事業を行っている中小企業者でないと加入できません。設立したばかりの会社は、1年を待ってからの加入となります。 掛金を経費にするには、法人は申告書に所定の明細書(別表)を、個人事業主は確定申告書に必要経費算入に関する明細書を添付する必要があります。添付を忘れると経費として認められないおそれがあります。 加入から12か月未満で解約すると掛金は1円も戻らず、40か月未満では元本割れします。

4. 2つの共済をどう使い分ける?判断の5ステップ

結論として、まずは確定的に税金が減る小規模企業共済を優先し、会社に利益と資金の余裕がある場合に経営セーフティ共済を上乗せするのが基本です。以下の5ステップで判断してください。

STEP 1加入条件を確認する 従業員数(小規模企業共済)と事業年数1年以上(経営セーフティ共済)の条件を満たしているかを確認します。

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STEP 2社長個人の手取りと生活費を整理する 役員報酬の手取りから生活費を引き、毎月無理なく積み立てられる金額を出します。これが小規模企業共済の掛金の目安です。

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STEP 3会社の利益と資金繰りを見込む 今期と来期の利益見込み、手元資金の余裕を確認します。掛金を払ってもお金が回るかが最重要です。

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STEP 4セーフティ共済の「出口」を決める 役員退職金を払う予定の年、大きな設備投資や修繕をする年など、解約手当金の収入をぶつけられる年を想定します。出口が決まらないなら、加入は慎重にします。

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STEP 5掛金と支払方法を決めて申し込む 決算前なら年払い(前納)の活用も検討します。加入後は毎年、利益見込みに合わせて掛金の増減を見直します。

[画像指示:社長の人生設計(退職)と会社の利益の波をグラフにし、共済の加入と解約のタイミングを示した図解 / キャプション:「いつ解約するか」まで決めてから加入するのが成功の秘訣です]

5. 具体的なシミュレーション:いくら税金が変わる?

結論として、課税所得800万円の社長が小規模企業共済に月7万円を積み立てると、税金は毎年約28万円減ります。また、利益2,000万円の会社が経営セーフティ共済に年240万円を払うと、その年の法人税等は約79万円少なくなります(ただし解約時に課税)。

ケース1:小規模企業共済|社長の課税所得800万円、掛金月7万円

社長個人の課税所得が800万円のケースです。800万円は所得税の税率23%の区分にあり、掛金84万円を差し引いても716万円で同じ区分にとどまります(住民税は一律10%、復興特別所得税を含めて計算)。

項目金額
年間の掛金(月7万円×12か月)840,000円
所得税の軽減額(84万円×23%×1.021)197,257円
住民税の軽減額(84万円×10%)84,000円
1年あたりの税金の軽減額281,257円
20年間続けた場合の軽減額(同じ税率が続くと仮定)約562万円

表2:小規模企業共済に月7万円を積み立てた場合の税金の軽減額

20年間で払う掛金は1,680万円、その間に減る税金は約562万円です。さらに、受け取るときは退職所得として税負担が軽くなります。「払った分が将来戻り、しかも途中の税金が減る」のが小規模企業共済の強みです。

ケース2:経営セーフティ共済|会社の税引前利益2,000万円、年払い240万円

決算前に税引前利益が2,000万円となる見込みの会社が、年240万円を前納するケースです。法人税・住民税・事業税をあわせた実効税率は、簡便的に約33%と仮定します。

項目共済なし共済あり(年240万円)
税引前利益2,000万円1,760万円
法人税等(約33%)660万円580.8万円
その年の税金の差―約79万円少ない
会社に残る資産―共済の積立金240万円

表3:経営セーフティ共済に年240万円を払った場合の法人税等の比較(概算)

この会社が毎年240万円を払い続けると、約3年4か月(40か月)で上限の800万円に達します。10年後に社長が退任し、役員退職金3,000万円を払う年に共済を解約すれば、解約手当金800万円の収入を退職金という大きな経費と相殺できます。これが「出口まで設計された」正しい使い方です。

💡 税理士の実務視点 出口がないまま解約すると、800万円がまるごと利益になり、約264万円(約33%)の税金がかかります。先送りした税金がそのまま戻ってくるだけで、手元には何も残りません。 一方、役員退職金の支給年や、大規模修繕・設備の除却で赤字になる年に解約すれば、税金をかけずに資金を取り戻せます。加入時に「解約予定年」を経営計画に書き込んでおくことを強くおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q.  小規模企業共済と経営セーフティ共済は両方に加入できますか?

A. はい、できます。小規模企業共済は社長個人、経営セーフティ共済は会社が加入する制度なので、同時に加入して組み合わせることが可能です。

Q.  資金繰りが苦しくなったら、掛金を減らしたり止めたりできますか?

A. できます。どちらの共済も掛金の減額が可能です。小規模企業共済には一時的に掛金の払込みを止める制度もあります。ただし、解約は元本割れにつながるため、まずは減額を検討しましょう。

Q.  決算直前に加入しても、今期の経費や控除にできますか?

A. できます。経営セーフティ共済は1年以内の分を前納すれば、支払った事業年度の経費にできます。小規模企業共済も、1年以内の前納分は支払った年の所得控除になります。ただし、申込みから引落しまで時間がかかるため、決算月の2か月前までには準備を始めてください。

Q.  iDeCo(個人型確定拠出年金)とはどう違いますか?

A. iDeCoも掛金が全額所得控除になる点は同じですが、原則60歳まで引き出せず、運用成績によって受取額が変わります。小規模企業共済は廃業や退任で受け取れ、貸付制度もあります。両方に加入することも可能です。

Q.  解約したときの税金はどうなりますか?

A. 経営セーフティ共済の解約手当金は、法人なら益金、個人事業主なら事業所得の収入になります。小規模企業共済は、廃業や退任による受取りなら退職所得、自己都合の任意解約なら一時所得(65歳以上は退職所得)として扱われます。

まとめ:共済は「入り方」より「出口」で差がつく

  • 小規模企業共済は社長個人の退職金づくりで、掛金が全額所得控除となり、税金が確実に減ります。
  • 経営セーフティ共済は会社の非常用財布で、掛金は全額経費になりますが、解約時に課税される「税金の先送り」です。
  • 2024年10月以降は解約後2年間の再加入掛金が経費にならないため、加入前に解約予定年まで決めておくことが成功の条件です。

共済は、加入の手続き自体は簡単です。しかし、役員報酬、役員退職金、会社の利益計画、資金繰りをどう組み合わせるかで、最終的に手元に残るお金は大きく変わります。当事務所では、税理士と社会保険労務士が連携し、役員報酬の最適化から退職金規程の整備、共済の出口設計まで、経営者の人生設計に寄り添ってトータルにサポートしています。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。決算の2か月前までにご相談いただければ、今期の対策にも十分間に合います。

2026年10月からインボイス経過措置は80%から70%へ

2026-09-26

免税事業者との取引で会社が損をしない見直し術と2割特例の出口戦略

「外注先に免税事業者がいるけれど、10月から何がどう変わるの?」「2割特例が終わったら、うちの消費税はいくらになるの?」――インボイス制度が始まって3年。ようやく慣れてきたところで、2026年10月1日に制度の大きな節目がやってきます。

この記事では、インボイス制度の「経過措置」がどう縮小していくのか、会社(仕入れる側)と個人事業主(売る側)それぞれに何が起こるのかを、リンゴ屋さんの例え話と具体的な数字で、どこよりもやさしく解説します。読み終えるころには、10月までに何をすべきか、10月以降どんな順番で見直せばよいかがはっきり分かります。

【この記事の結論】 ① 免税事業者からの仕入れで差し引ける消費税の割合は、2026年10月1日から80%→70%に下がり、その後も50%→30%→0%と段階的に縮小します。 ② 会社側は「取引先ごとの影響額」を今すぐ計算し、価格据え置き・適正な価格協議・登録依頼のどれを選ぶかを取引先ごとに決めることが最優先です。 ③ 2割特例を使っている個人事業主・小さな会社は「特例が終わった後の納税額」を試算し、簡易課税の届出タイミングを逃さないことが最大の防衛策です。

[画像指示:インボイス経過措置の控除割合が80%→70%→50%→30%→0%と階段状に下がっていく様子を示すグラフ風イラスト / キャプション:2026年10月は「階段の一段目」。ここから毎年のように負担が増えていきます]

1. インボイスの「経過措置」とは?リンゴ屋さんで仕組みを理解する

結論から言うと、経過措置とは、インボイス(登録番号付きの請求書)をもらえない相手から仕入れても、消費税の一部だけは差し引いてよいとする「おまけ期間」のことです。このおまけが、2026年10月から少しずつ小さくなっていきます。

消費税は「預かった税」から「支払った税」を引いて納める

まず、消費税の基本の仕組みを確認しましょう。消費税とは、商品やサービスの代金に上乗せして、最終的にはお客さんが負担する税金のことです。お店や会社は、お客さんから「預かった消費税」から、自分が仕入れのときに「支払った消費税」を差し引いて、残りを国に納めます。この差し引きのことを「仕入税額控除(しいれぜいがくこうじょ)」と呼びます。

たとえば、リンゴ屋さんが農家から1,000円(+消費税100円)でリンゴを仕入れ、お客さんに2,000円(+消費税200円)で売ったとします。リンゴ屋さんが納める消費税は、預かった200円-支払った100円=100円です。

インボイスがないと「支払った税」を引けない

インボイス制度とは、「支払った消費税を差し引きたいなら、税務署に登録した事業者が発行する請求書(インボイス)を保存してください」というルールのことです。もし農家さんが登録していない免税事業者だと、リンゴ屋さんは支払った100円を原則として差し引けず、200円をまるまる納めることになります。

いきなり全額が差し引けなくなると商売が混乱するため、国は「最初の3年間は80%、その後は少しずつ減らす」という経過措置を設けました。これが今回の主役です。

2. 2026年10月から何が変わる?控除割合の新スケジュール

結論として、2026年10月1日から2028年9月30日までの2年間は70%、その後は50%、30%と下がり、2031年10月以降はゼロになります。当初は2026年10月から一気に50%へ下がる予定でしたが、令和8年度税制改正で下がり方がゆるやかに見直されました。

課税仕入れを行った期間差し引ける割合当初の予定(改正前)
2023年10月1日〜2026年9月30日80%80%
2026年10月1日〜2028年9月30日70%50%(〜2029年9月)
2028年10月1日〜2030年9月30日50%同上/2029年10月以降0%
2030年10月1日〜2031年9月30日30%0%
2031年10月1日以降0%(全額差し引けない)0%

表1:免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の控除割合(令和8年度税制改正後)

ゆるやかになっても「負担が増える」ことに変わりはない

当初の50%より緩和されたとはいえ、差し引ける額は確実に減ります。免税事業者への支払いが多い会社ほど、10月以降の消費税の納税額が増えます。「緩和されたから大丈夫」ではなく、「緩和されている今のうちに手を打つ」のが正しい受け止め方です。

一つの取引先から年10億円を超える仕入れには経過措置が使えない

見落としやすいルールとして、一つの免税事業者等からの仕入れが1年間(課税期間)で合計10億円(税込)を超える場合、その超えた部分には経過措置が使えません。大規模な外注先を抱える会社は注意が必要です。

💡 税理士の実務視点 経過措置の割合は「代金を払った日」ではなく「仕入れを行った日(商品の引渡しやサービスの提供が完了した日)」で判定します。9月30日までに納品・作業完了したものは、支払いが10月でも80%です。 月末締めの外注費や、9月末をまたぐ継続業務は、契約上いつ役務提供が完了したのかを請求書・納品書で明確にしておくと、税務調査でも説明がスムーズになります。

3. 会社(仕入れる側)への影響と3つの選択肢

結論として、会社がとるべき行動は「取引先ごとに影響額を計算し、①価格据え置き、②適正な価格協議、③インボイス登録の依頼、のいずれかを選ぶ」ことです。一律の対応ではなく、取引先ごとの判断が必要です。

選択肢①:価格を据え置いて会社が負担を受け入れる

腕のよい職人さんや長年のパートナーなど、取引関係を最優先したい相手には、差し引けなくなる消費税分を会社がかぶる選択もあります。影響額が小さい取引先はこの選択が合理的です。

選択肢②:取引先と価格について協議する

影響額が大きい場合は、取引条件の見直しを話し合います。ただし、一方的な値下げの押し付けは法律違反になるおそれがあります。必ず協議の場を設け、根拠を示して合意を得ることが大前提です。

選択肢③:取引先にインボイス登録を検討してもらう

取引先が登録すれば、会社は全額を差し引けます。ただし、登録すると取引先自身が消費税を納めることになるため、後述する2割特例や簡易課税の情報もあわせて伝えると、相手の不安が和らぎ、話がまとまりやすくなります。

選択肢会社のメリット会社のデメリット・リスク向いている取引先
①価格据え置き関係が良好に保てる消費税負担が毎年増える影響額が小さい・代わりがきかない相手
②価格協議負担を分け合える進め方を誤ると法令違反のリスク取引額が大きく、協議の余地がある相手
③登録依頼全額差し引ける相手の負担増で関係悪化の可能性売上規模があり、登録しても困らない相手

表2:免税事業者との取引における会社側の3つの選択肢の比較

⚠ 実務上の落とし穴 免税事業者であることを理由に、協議なしで一方的に取引価格を引き下げたり、取引を打ち切ったりすると、独占禁止法や下請法(2026年1月からは中小受託取引適正化法)上の問題となるおそれがあります。 価格協議は「経過措置の縮小でいくら負担が増えるのか」を数字で示し、書面で合意内容を残すのが鉄則です。

4. 個人事業主・小さな会社(売る側)への影響:2割特例の終わりと出口戦略

結論として、免税事業者からインボイス登録をした事業者が使える「2割特例」は終わりが近づいています。特例終了後の納税額を今のうちに試算し、簡易課税を選ぶかどうかを決めておくことが最も大切です。

2割特例とは?

2割特例とは、もともと免税事業者だった人がインボイス登録した場合に、納める消費税を「お客さんから預かった消費税の2割」だけでよいとする負担軽減措置のことです。届出は不要で、申告書にチェックを入れるだけで使えます。

■ 個人事業主の場合

2023年分から2026年分(2026年12月31日まで)の申告で使えます。つまり、2026年分の確定申告(2027年3月申告)が2割特例の最後です。

■ 法人の場合

2026年9月30日を含む事業年度までが対象です。たとえば3月決算の会社なら2027年3月期まで、9月決算の会社なら2026年9月期までとなります。

個人事業主には「3割特例」という激変緩和がある

令和8年度税制改正で、2割特例が終わった個人事業主について、2027年分・2028年分の2年間は、納める消費税を預かった消費税の3割とできる措置(いわゆる3割特例)が設けられました。いきなり本来の計算に戻るのではなく、もう一段階クッションがあると理解してください。なお、法人はこの対象外です。

特例が終わった後は「簡易課税」か「本則課税」を選ぶ

特例終了後の計算方法は2つです。簡易課税とは、実際の経費を集計せず、業種ごとに決められた割合(みなし仕入率)で支払った消費税を計算する方法のことです。本則課税とは、実際に支払った消費税を一つひとつ積み上げて計算する方法のことです。

計算方法納める消費税の目安手間使える期間・条件
2割特例預かった消費税×20%最も少ない個人:2026年分まで/法人:2026年9月30日を含む期まで
3割特例預かった消費税×30%少ない個人事業主のみ・2027年分と2028年分
簡易課税預かった消費税×(1-みなし仕入率)少ない基準期間の売上5,000万円以下+事前届出
本則課税預かった消費税-実際に支払った消費税多い条件なし(原則的な方法)

表3:インボイス登録事業者が選べる消費税の計算方法の比較

💡 税理士の実務視点 簡易課税は原則として「使いたい期の前の期の末日まで」に届出が必要です。ただし、2割特例を使った期の翌期に簡易課税を選ぶ場合は、その翌期中に届出を出せばその期から適用できる特例があります。 とはいえ、ギリギリの判断は禁物です。経費が多い業種(仕入れの多い小売業など)は本則課税の方が有利なこともあります。簡易課税は一度選ぶと原則2年間やめられないため、必ず両方の方法で試算してから届出を出しましょう。

5. 10月までに・10月以降にやるべき5ステップ

結論として、やるべきことは「洗い出し→影響額の計算→方針決定→協議・届出→経理体制の更新」の5つです。以下の順番で進めれば漏れがありません。

STEP 1取引先の洗い出し 外注先・仕入先の中から、インボイス登録をしていない取引先を一覧にします。国税庁の公表サイトで登録番号の有無を確認し、年間の取引額も並べます。

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STEP 2影響額の計算 取引先ごとに「年間支払額(税込)×10/110×(100%-差し引ける割合)」で、差し引けなくなる消費税を計算します。70%・50%・0%の3パターンで比べると将来の負担が見えます。

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STEP 3取引先ごとの方針決定 表2の3つの選択肢から、影響額と取引関係の重要度をふまえて方針を決めます。

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STEP 4協議・届出の実行 価格協議は書面で合意を残します。自社が2割特例の利用者なら、特例終了後の計算方法を試算し、簡易課税の届出期限をカレンダーに登録します。

▼

STEP 5経理処理の更新 会計ソフトの経過措置の設定を「80%」から「70%」に切り替えます。帳簿には経過措置の適用を受ける仕入れである旨の記載が必要です。

[画像指示:5ステップのチェックリストを経営者と担当者が確認している様子のイラスト / キャプション:10月1日をまたぐ前に、取引先一覧と会計ソフトの設定を必ず確認しましょう]

6. 具体的なシミュレーション:いくら負担が変わる?

結論として、免税事業者への年間支払いが税込1,100万円の会社では、差し引けない消費税が年20万円から30万円に増え、2031年10月以降は年100万円になります。また、売上800万円の個人事業主では、特例終了後に納税額が2倍以上になるケースがあります。

ケース1:会社(仕入れる側)|免税事業者の外注先に年間税込1,100万円を支払う

外注費1,000万円+消費税100万円=税込1,100万円を、インボイス登録をしていない職人さんに支払っている建設業の会社を想定します(消費税率10%で簡便計算)。

期間差し引ける消費税差し引けない消費税(会社の負担増)
登録事業者だった場合100万円0円
〜2026年9月(80%)80万円20万円
2026年10月〜2028年9月(70%)70万円30万円
2028年10月〜2030年9月(50%)50万円50万円
2030年10月〜2031年9月(30%)30万円70万円
2031年10月〜(0%)0円100万円

表4:年間税込1,100万円の外注費に係る消費税負担の推移

10月からの増加額は年10万円ですが、5年後には年100万円の差になります。同じ規模の取引先が3社あれば、最終的には年300万円です。「今は小さな差」でも、先を見た判断が必要なことが分かります。

ケース2:個人事業主(売る側)|売上税込880万円のWebデザイナー

売上800万円+消費税80万円=税込880万円、経費は税込220万円(うち消費税20万円)の個人デザイナーを想定します。デザイン業は簡易課税では「第5種事業(サービス業等)」で、みなし仕入率は50%です。

計算方法計算式納める消費税
2割特例(2026年分まで)80万円×20%16万円
3割特例(2027・2028年分)80万円×30%24万円
簡易課税(第5種)80万円-80万円×50%40万円
本則課税80万円-20万円60万円

表5:売上税込880万円の個人事業主の消費税納税額の比較

このケースでは、2027年・2028年は3割特例の24万円、2029年以降は簡易課税の40万円が最も有利です。本則課税のままだと60万円となり、2割特例の時代と比べて年44万円も負担が増えます。簡易課税の届出を忘れるだけで、毎年20万円の差がつくのです。

💡 税理士の実務視点 会社側の「差し引けない消費税」は、法人税の計算上は経費(損金)になるため、その分だけ法人税は軽くなります。しかし、現金が出ていく事実は変わりません。消費税・法人税・資金繰りを一体で見て判断することが、経営判断としての正解です。 個人事業主側は、特例が終わる年の前年に、翌年以降の納税額を資金繰り表に組み込んでおくと、納税時期に慌てずに済みます。

よくある質問(FAQ)

Q.  9月に作業が終わり、10月に支払う外注費は80%と70%のどちらですか?

A. 80%です。経過措置の割合は、代金を支払った日ではなく、仕入れを行った日(引渡しや役務提供が完了した日)で判定します。

Q.  経過措置を使うために必要な書類はありますか?

A. はい。取引先が発行する、内容や金額が区分された請求書等を保存し、帳簿に経過措置の適用を受ける仕入れである旨(「80%控除対象」「70%控除対象」など)を記載する必要があります。

Q.  自社が簡易課税を選んでいる場合も影響はありますか?

A. 自社の納税額への直接の影響はありません。簡易課税は売上をもとに計算するため、仕入先が登録事業者かどうかは関係しないからです。ただし、自社の取引先から登録状況を確認されることはあります。

Q.  2割特例を使うのに届出は必要ですか?

A. 不要です。消費税の申告書に2割特例を適用する旨を記載するだけで使えます。毎回、有利な方法を選べるのも特長です。

Q.  インボイス登録をやめて免税事業者に戻ることはできますか?

A. 登録取消しの届出書を提出すれば可能です。ただし、提出期限があるほか、登録した時期によっては一定期間は免税事業者に戻れない制限があります。取引先への影響も大きいため、必ず事前に専門家に相談してください。

まとめ:10月1日は「見直しのスタートライン」

  • 免税事業者からの仕入れで差し引ける消費税は、2026年10月1日から80%→70%に縮小し、2031年10月にはゼロになります。
  • 会社側は取引先ごとの影響額を計算し、価格据え置き・適正な協議・登録依頼を使い分けることが重要です。
  • 2割特例を使う事業者は、3割特例や簡易課税を含めた「特例後の納税額」を試算し、届出の期限を逃さないことが最大の防衛策です。

インボイス制度の経過措置は、取引先との関係、消費税、法人税、そして資金繰りのすべてに関わる経営テーマです。当事務所では、国税の実務を知り尽くした税理士が、取引先ごとの影響額の試算から、価格協議の進め方、簡易課税の有利不利判定まで、会社の実情に合わせて具体的にサポートしています。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。10月1日をまたぐ前の今こそ、見直しの絶好のタイミングです。

10月からインボイスの経過措置が縮小!

2026-09-25

免税事業者との取引と「2割特例」終了で損をしないために経営者が今すぐやるべきこと

「インボイスって、もう対応は終わったはずでは?」「10月から何か変わるらしいけれど、うちに関係あるの?」――そう感じている経営者・個人事業主の方は少なくありません。実は、インボイス制度が始まった2023年10月から「3年間の助走期間」として用意されていた優遇ルールが、2026年9月30日で一区切りを迎えます。

この記事を読めば、10月以降に「何が」「いくら」変わるのか、買い手(仕入れる側)と売り手(売る側)それぞれの立場で損をしないための具体的な手順が、数字付きで分かります。

結論 ① 免税事業者からの仕入れは、2026年10月1日から消費税を差し引ける割合が「80%」から縮小します。外注費が多い会社ほど、手元に残るお金が減ります。 ② 「2割特例」(売上の消費税の2割だけ納めればよい特例)は、2026年9月30日を含む課税期間で適用期間が終わります。個人事業主には激変緩和の「3割特例」が用意されますが、法人にはありません。 ③ やるべきことは「取引先の登録状況の確認」「価格・契約の見直し」「来期の計算方法(簡易課税か原則課税か)の選択」の3つ。特に届出書の期限を逃すと、1年間取り返しがつきません。

[画像指示:2026年10月を境に変わるインボイスの2つの経過措置(仕入側の控除割合・売上側の2割特例)を時系列で示すタイムライン図 / キャプション:2026年10月はインボイス制度の「第2段階」のスタートです]

そもそもインボイス制度とは?3分でおさらい

結論から言うと、インボイス制度とは「国に登録した事業者が発行する正式な請求書(インボイス)がないと、支払った消費税を納税額から差し引けない」仕組みのことです。

リンゴ屋さんで考える消費税の仕組み

消費税は「お客さんから預かった消費税」から「仕入れのときに支払った消費税」を差し引いた残りを国に納める仕組みです。この差し引くことを「仕入税額控除(しいれぜいがくこうじょ)」といいます。仕入税額控除とは、二重に税金を払わないために、仕入れで払った消費税を納税額から引ける制度のことです。

例えば、あなたがリンゴ屋さんで、農家から1,100円(うち消費税100円)でリンゴを仕入れ、お客さんに2,200円(うち消費税200円)で売ったとします。このとき国に納めるのは「200円-100円=100円」です。

ところがインボイス制度のもとでは、農家がインボイスを発行できない「免税事業者」だった場合、原則としてこの100円を差し引けません。つまり、リンゴ屋さんは200円をまるごと納めることになり、100円分損をします。

免税事業者と課税事業者の違い

免税事業者とは、2年前(基準期間)の売上が1,000万円以下などの条件を満たし、消費税を納める義務が免除されている事業者のことです。一方、課税事業者とは消費税を納める義務がある事業者のことで、インボイスを発行するには「適格請求書発行事業者」として登録し、課税事業者になる必要があります。

区分消費税の納税インボイス発行取引先(買い手)の控除
免税事業者(未登録)なしできない原則不可(経過措置で一部可)
インボイス登録事業者ありできる全額可
2割特例を使う登録事業者売上税額の2割できる全額可

2026年10月に何が変わるのか?2つの経過措置の変更点

結論として、10月から変わるのは「買い手側の80%控除」と「売り手側の2割特例」の2つです。どちらも制度開始時の混乱を和らげるための期間限定ルールで、2026年9月30日が節目になります。

変更点①:免税事業者からの仕入れの「80%控除」が縮小

インボイス制度には、免税事業者からの仕入れでも一定割合の消費税を差し引ける「経過措置」があります。経過措置とは、新しいルールへ急に切り替えると混乱するため、段階的に移行させる期間限定の特例のことです。

2023年10月から2026年9月までは、免税事業者に支払った消費税相当額の80%を差し引けました。これが令和8年度税制改正により、当初予定の「50%へ一気に引き下げ」から、より緩やかな段階的縮小へ見直されています。

期間控除できる割合消費税100万円相当の仕入れで差し引ける額
2023年10月1日〜2026年9月30日80%80万円
2026年10月1日〜2028年9月30日70%70万円
2028年10月1日〜2030年9月30日50%50万円
2030年10月1日〜2031年9月30日30%30万円
2031年10月1日以降0%(控除不可)0円

[画像指示:免税事業者からの仕入れで控除できる割合が80%→70%→50%→30%→0%と階段状に下がっていく棒グラフ / キャプション:控除割合は段階的に縮小し、最終的にはゼロになります]

変更点②:「2割特例」の適用期間が終了

2割特例とは、免税事業者からインボイス登録をして課税事業者になった小規模事業者が、「売上で預かった消費税の2割」だけを納めればよいとする特例のことです。面倒な仕入れの集計が不要で、多くの個人事業主・小規模法人が利用しています。

この2割特例は「2023年10月1日から2026年9月30日までの日を含む課税期間」が対象です。個人事業主なら2026年分(2026年1月〜12月)が最後、3月決算法人なら2027年3月期が最後となります。

■ 個人事業主には「3割特例」という激変緩和

令和8年度税制改正により、2割特例の対象だった個人事業主については、2027年分・2028年分の2年間、売上の消費税の3割を納める「3割特例」が設けられました。法人はこの対象外のため、2割特例終了後は原則課税か簡易課税を選ぶ必要があります。

立場2026年分・期までその後
個人事業主2割特例2027年・2028年分は3割特例 → その後は原則課税か簡易課税
法人(3月決算の例)2027年3月期まで2割特例2028年3月期から原則課税か簡易課税
税理士の実務視点 現場で一番多い誤解は「経過措置は9月で全部終わる」「来年から急に税金が5倍になる」という極端な受け止め方です。実際は段階的な縮小ですが、裏を返せば「数年かけて確実に負担が増えていく」ということ。今のうちに取引構造そのものを見直す経営判断が、5年後の利益を左右します。

買い手(仕入れる側)の会社が受ける影響と対策

結論として、外注費・仕入れの中に免税事業者との取引が多い会社ほど、10月以降に実質的なコストが上がります。特に一人親方への外注が多い建設業、フリーランスへの委託が多いIT・デザイン業、個人の配送業者を使う運送業は影響が大きくなります。

影響が出る仕組み

控除できない消費税は、会社が自腹で負担することになります。控除割合が80%から70%に下がると、免税事業者に支払った消費税相当額の10%分が新たに会社の負担になります。

取るべき3つの対策

  • 取引先の登録状況を再確認する:国税庁の公表サイトで登録番号を確認し、免税事業者との取引額を一覧化します。
  • 価格・契約条件を話し合う:増えた負担分について、取引先と誠実に協議します。
  • 帳簿の記載を切り替える:経過措置を使うには、帳簿に「70%控除対象」などの記載が必要です。会計ソフトの税区分の設定変更を忘れないようにしましょう。

■ 実務上の罠:一方的な値下げ要求は法律違反になり得る

「免税事業者だから消費税分を払わない」と一方的に取引価格を引き下げると、独占禁止法や、2026年1月に下請法から改正・施行された中小受託取引適正化法(取適法)に抵触するおそれがあります。価格の見直しは、必ず相手方との十分な協議を経て、書面で合意することが鉄則です。

また、同じ免税事業者からの仕入れが年間で多額になる場合には、経過措置の適用に上限が設けられている点にも注意が必要です。大口の外注先がある会社は、事前に個別の確認をおすすめします。

売り手(2割特例を使っている事業者)が受ける影響と対策

結論として、2割特例の終了後は「簡易課税」と「原則課税」のどちらが有利かを試算し、期限内に届出を出すことが最重要です。何もしなければ自動的に原則課税となり、毎年の仕入れ集計の手間と納税額が一気に増える可能性があります。

簡易課税と原則課税とは

簡易課税とは、実際の仕入れの額ではなく、業種ごとに決められた「みなし仕入率」を使って納税額を計算する方法のことです(基準期間の売上が5,000万円以下の事業者が選択可能)。原則課税とは、実際に支払った仕入れや経費の消費税を一つひとつ集計して差し引く、本来の計算方法のことです。

比較項目簡易課税原則課税
計算の手間少ない(売上だけでほぼ計算可能)多い(全仕入れのインボイス管理が必要)
有利になりやすい人経費が少ないサービス業・士業など設備投資や仕入れが多い業種
還付の可能性なしあり(大型投資の年など)
縛り原則2年間継続が必要なし
届出「簡易課税制度選択届出書」が必要届出不要

■ 実務上の罠:届出の期限

簡易課税を選ぶための届出書は、原則として「適用を受けたい課税期間が始まる前日まで」に提出が必要です。ただし、2割特例を使った事業者には救済措置があり、2割特例を適用した課税期間の翌課税期間中に提出すれば、その課税期間から簡易課税を使えます。この特例を知らずに「期限切れ」とあきらめてしまうケースが実務では目立ちます。

[画像指示:2割特例終了後の選択肢を「簡易課税」「原則課税」「(個人のみ)3割特例」の3方向に分岐させた判断フロー図 / キャプション:2割特例のあとは、どの計算方法を選ぶかで納税額が大きく変わります]

10月までに終わらせたい!インボイス見直しの5ステップ

結論として、次の5ステップを順番に進めれば、買い手・売り手のどちらの立場でも漏れなく対応できます。

STEP 1取引先リストの作成 外注先・仕入先ごとに年間取引額と登録番号の有無を一覧化し、免税事業者との取引額を把握します。

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STEP 2影響額の試算 免税事業者への支払額×10/110×(80%−70%)で、10月以降に増える年間負担をざっくり計算します。

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STEP 3取引先との協議 負担増が大きい先とは、登録の検討や価格見直しを誠実に話し合い、合意内容を書面に残します。

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STEP 4会計ソフト・帳簿の設定変更 10月1日以降の取引から「70%控除」の税区分に切り替え、帳簿の記載要件を満たします。

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STEP 5自社の計算方法の選択 2割特例を使っている場合は、終了後の簡易課税・原則課税(個人は3割特例)を試算し、届出期限をカレンダーに登録します。

具体的なシミュレーション:いくら負担が変わるのか

結論として、免税事業者への外注費が年1,100万円の会社では、年間10万円の負担増が10月から始まり、最終的には年100万円の負担になります。売り手側では、2割特例終了後の計算方法の選び方ひとつで、年間の納税額に20万円以上の差が出ることもあります。

ケース①:買い手側(一人親方への外注が多い工務店)

前提:免税事業者である一人親方への外注費が年間1,100万円(消費税相当額100万円)。

期間控除割合差し引ける消費税会社の自己負担80%期間との差
〜2026年9月80%80万円20万円—
2026年10月〜70%70万円30万円+10万円
2028年10月〜50%50万円50万円+30万円
2030年10月〜30%30万円70万円+50万円
2031年10月〜0%0円100万円+80万円

※年間ベースの概算です。控除できない消費税は経費(損金)となるため、法人税等を含めた実際の手取りへの影響は上記よりやや小さくなります。

ケース②:売り手側(デザイン業の個人事業主)

前提:年間売上(税抜)800万円(預かった消費税80万円)、経費の課税仕入れ(税込)330万円(支払った消費税30万円)。デザイン業は簡易課税の第5種(みなし仕入率50%)。

計算方法計算式年間の納税額
2割特例(2026年分まで)80万円×20%16万円
3割特例(2027・2028年分)80万円×30%24万円
簡易課税(第5種)80万円−80万円×50%40万円
原則課税80万円−30万円50万円

※消費税額は国税・地方消費税の合計(10%)で簡略化した概算です。

税理士の実務視点 このケースでは、3割特例が終わる2029年分以降は「簡易課税」を選ぶほうが原則課税より年10万円有利です。ただし、パソコンや車両など大きな投資を予定している年は原則課税で還付を受けられる可能性もあります。「どの年に何を買うか」という事業計画とセットで判断するのが、税理士の立場から見た正解です。

よくある質問(FAQ)

Q. 10月以降は、免税事業者の取引先と取引をやめるべきですか?

A. いいえ、取引をやめる必要はありません。控除できない消費税の負担が増えるだけで、取引そのものは違法ではありません。技術力や信頼関係などを総合的に考え、負担増を価格協議や登録の検討で調整するのが現実的な対応です。

Q. 経過措置の70%控除を受けるのに、特別な手続きは必要ですか?

A. 届出は不要ですが、帳簿に「70%控除対象」など経過措置の適用を受ける旨の記載と、区分記載請求書等の保存が必要です。会計ソフトの税区分を10月1日以降の取引から切り替えれば、多くの場合は対応できます。

Q. 法人でも3割特例は使えますか?

A. 使えません。3割特例は2割特例の対象だった個人事業主に限った激変緩和措置です。法人は2割特例終了後、原則課税か簡易課税のどちらかで計算します。

Q. 1万円未満の経費もインボイスが必要ですか?

A. 基準期間の売上が1億円以下などの中小事業者は、1万円未満(税込)の仕入れについてインボイスがなくても帳簿の保存だけで控除できる「少額特例」があります。この特例は2029年9月30日までの期間限定です。

Q. 簡易課税の届出を出し忘れた場合はどうなりますか?

A. 原則課税で計算することになり、全仕入れのインボイス管理が必要になります。ただし、2割特例を適用した課税期間の翌課税期間中であれば、その期中に届出を出すことで簡易課税を適用できる特例があります。早めに専門家へご相談ください。

まとめ:10月は「取引の見直し」と「計算方法の選択」のラストチャンス

  • 免税事業者からの仕入れの控除割合は、2026年10月から80%→70%へ縮小し、最終的にはゼロになります。
  • 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了。個人事業主は3割特例がありますが、法人は原則課税か簡易課税を選ぶ必要があります。
  • 取引先の確認・価格協議・帳簿設定・計算方法の選択を、期限を意識して計画的に進めることが損をしない唯一の方法です。
ご相談はお気軽に 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 当事務所では、国税OBを含む税理士が消費税の計算方法の有利判定や届出スケジュールの管理を行い、社会保険労務士と連携して外注先・従業員との契約の見直しまで一体的にサポートします。取引先一覧をお持ちいただければ、10月以降の影響額を具体的な数字でお示しします。オンラインでのご相談にも対応しています。

【第5回】うちの会社はいくらで売れる?

2026-09-24

中小企業M&Aの企業価値評価のしくみと「高く・納得して」譲るための成功のポイント

「会社を譲るなら、せめて長年の苦労に見合う値段がついてほしい」「でも、そもそも自分の会社にいくらの値打ちがあるのか見当もつかない」――M&Aを考え始めた経営者の方から、最も多くいただくご相談がこの「値段」の話です。

この記事では、中小企業M&Aシリーズの総まとめとして、会社の値段(企業価値)がどう決まるのかを、「年買法」「純資産法」「DCF法」などの代表的な考え方から、中学生でも分かる言葉でやさしく解説します。さらに、同じ会社でも準備次第で売却価格と手取りが1,000万円単位で変わることを、具体的な数字のシミュレーションでお見せします。

先に結論をお伝えします。中小企業の会社の値段は、「今ある財産の本当の価値(時価純資産)」+「これから稼ぐ力(営業権)」で決まるのが基本です。そして値段を上げる一番の近道は、売る2〜3年前から「数字をきれいにし、隠れたリスクをつぶし、社長がいなくても回る会社にする」こと、つまり「磨き上げ」です。

【結論】 ・中小企業M&Aの価格は、実務では「時価純資産+営業利益の数年分」(年買法)を目安に交渉がスタートすることが多い ・評価額は決算書の数字そのままではなく、役員報酬や私的な経費を調整した「本当の稼ぐ力」で見られる ・未払残業代や税務リスクなどの「隠れた借金」は、見つかると容赦なく値引きされる ・売る2〜3年前からの「磨き上げ」で、評価額も手取りも大きく変わる
[画像指示:会社の値段=「時価純資産」+「営業権(稼ぐ力)」の積み木で表した図解イラスト / キャプション:中小企業の会社の値段は「今ある財産」と「これから稼ぐ力」の合計で考えるのが基本です]

会社の値段(企業価値)とは?まず押さえたい基本

結論から言うと、M&Aでの会社の値段は「法律で決まった計算式」ではなく、売り手と買い手が納得して決める「交渉の結果」です。ただし、交渉のスタート地点となる「目安の計算方法」はいくつか決まっています。

「企業価値」と「株式価値」の違い

企業価値とは、会社の事業全体が生み出す価値のことです。一方、株式価値とは、企業価値から借入金などの借金を差し引き、手元の現預金を足した「株主の取り分」のことです。

身近な例でたとえると、ローンが残っている家を売る場面と同じです。家そのものの値段が3,000万円でも、ローンが1,000万円残っていれば、売った人の手元に残る価値は2,000万円です。株式譲渡で社長が受け取る金額は、この「ローンを差し引いた後」の株式価値のほうになります。

会社の値段を決める3つの目線

会社の値段を測る方法は、大きく分けて次の3つの目線があります。

  • 財産の目線(コストアプローチ):会社が今持っている財産から借金を引いた「正味の財産」で考える
  • 稼ぐ力の目線(インカムアプローチ):会社がこれから生み出すお金で考える
  • 相場の目線(マーケットアプローチ):似た会社がいくらで売買されているかで考える

リンゴ農園にたとえると、「畑や倉庫がいくらになるか」が財産の目線、「毎年リンゴでいくら稼げるか」が稼ぐ力の目線、「近所の同じ規模の農園がいくらで売れたか」が相場の目線です。

中小企業M&Aで使われる代表的な評価方法

結論として、中小企業のM&Aでは「年買法(ねんばいほう)」が最もよく使われ、規模が大きくなるほどDCF法やマルチプル法も併用されるのが実務の姿です。

① 年買法(時価純資産+営業権)

年買法とは、「時価純資産」に「営業利益の数年分(営業権)」を足して会社の値段を出す方法のことです。計算がシンプルで、売り手の社長にも分かりやすいため、中小企業のM&Aで広く使われています。

会社の値段(目安)= 時価純資産 + 実質営業利益 × 2〜5年分

「何年分」を掛けるかは法律で決まっているわけではなく、業種の成長性、利益の安定性、社長への依存度などを見て交渉で決まります。安定して利益が出ていて、社長がいなくても回る会社ほど年数は長く(高く)なります。

時価純資産とは

時価純資産とは、決算書の帳簿上の財産を「今売ったらいくらになるか」という時価に置き直し、借金を差し引いた正味の財産のことです。たとえば、何十年も前に買った土地は帳簿より時価が高いことが多く、逆に回収できない売掛金や売れ残った在庫は帳簿より価値が低くなります。

営業権(のれん)とは

営業権(のれん)とは、取引先との信頼関係、従業員のノウハウ、ブランドなど、決算書には載らない「稼ぐ力」を金額にしたもののことです。地元で長年愛されているお店が「看板」だけで価値を持つのと同じ考え方です。

② 時価純資産法

時価純資産法とは、時価純資産そのものを会社の値段とする方法のことです。赤字の会社や、利益より不動産などの財産に価値がある会社で使われます。営業権を見ないため、年買法より低めの金額になるのが一般的です。

③ DCF法

DCF法とは、会社が将来生み出すお金(キャッシュフロー)を予測し、それを現在の価値に割り戻して会社の値段を出す方法のことです。理論的には最も優れた方法ですが、将来の事業計画の精度に結果が大きく左右されるため、事業計画を作り込んでいない中小企業では参考程度にとどまることが多いのが実情です。

④ マルチプル法(類似会社比較法)

マルチプル法とは、似た業種・規模の上場企業や過去のM&A事例の「利益の何倍で売れたか」という倍率を使って会社の値段を出す方法のことです。よく使われる指標がEBITDA(イービットダー)で、これは「営業利益+減価償却費」でざっくり表される「本業で生み出すお金の力」のことです。

評価方法の比較表

評価方法考え方向いている会社注意点
年買法時価純資産+営業利益の数年分利益が安定した中小企業全般年数の根拠は交渉次第
時価純資産法正味の財産のみで評価赤字企業・資産の多い会社稼ぐ力が価格に反映されにくい
DCF法将来のお金を現在価値に換算成長企業・中堅規模以上事業計画の精度に大きく依存
マルチプル法類似企業の倍率を当てはめる同業の取引事例が多い業種比べる会社選びで結果がぶれる
💡 税理士の実務視点 実務では、1つの方法だけで値段を決めることはまずありません。複数の方法で「このくらいの幅」という価格帯を出し、その幅の中で交渉するのが通常です。 売り手の社長が最初に知っておくべきなのは「一番高い数字」ではなく、「買い手がどの方法で、どこを減点してくるか」です。減点ポイントを先回りしてつぶしておけば、交渉で主導権を握れます。

決算書の利益がそのまま使われない理由――「正常収益力」の考え方

結論から言うと、買い手は決算書の利益ではなく、社長個人の事情を取り除いた「本当の稼ぐ力(正常収益力)」で会社を評価します。 正常収益力とは、オーナー社長ならではの特殊な支出や一時的な損益を取り除いた、会社本来の利益のことです。

中小企業では、節税の観点から社長の役員報酬を高めに設定していたり、会社名義で社長の私的な支出をしていたりすることが少なくありません。こうした支出は買い手が引き継いだ後にはなくなるため、利益に「足し戻し」して評価します。

調整項目調整の方向具体例
社長の役員報酬(相場超過分)利益にプラス後任の社長なら年800万円で済むところ、現社長は年1,000万円
私的な経費利益にプラス社長個人の車両費・交際費・家族の保険料など
一時的な損益プラスまたはマイナス災害損失、固定資産の売却益、単発の大型受注
本来かかるべき費用の未計上利益にマイナス未払残業代、修繕の先送り、身内の無給労働

ここで注意したいのは、足し戻しは「プラス」だけではないという点です。家族が無給で手伝っていたり、必要な設備投資を先送りしていたりすると、買い手は「本来ならかかる費用」として利益から差し引きます。

値下げの原因になる「隠れた借金(簿外債務)」と実務上の罠

結論として、M&Aで最も怖いのは、買収監査(デューデリジェンス)で「隠れた借金」が見つかり、大幅な値下げや交渉打ち切りになることです。簿外債務とは、決算書には載っていないものの、将来会社が支払わなければならない可能性のある債務のことです。

罠① 未払残業代などの労務リスク

残業代の未払いがあると、従業員は過去にさかのぼって請求できます。賃金請求権の時効は現在「当分の間3年」とされており、従業員数が多い会社ほど金額は膨らみます。買い手はこれを推計し、そのまま価格から差し引いてきます。

罠② 税務調査で否認されそうな処理

過去の申告に問題がある場合、M&A後に税務調査で追徴課税を受けるのは買い手が引き継いだ会社です。そのため買い手は税務のリスクを厳しく確認し、リスク相当額の値下げや、「表明保証」と呼ばれる契約条項で売り手に責任を負わせようとします。表明保証とは、売り手が「決算書や契約内容に誤りや隠し事はありません」と約束し、違反があれば補償する契約上の取り決めのことです。

罠③ 社長への依存と取引先の集中

「社長がいないと仕事が回らない」「売上の半分以上が1社に集中している」といった会社は、買った後に売上が落ちるリスクが高いと見なされ、年買法の「年数」が短くされます。

罠④ 相続税評価額と混同してしまう

事業承継の対策で耳にする「相続税評価額(類似業種比準方式・純資産価額方式などで計算する株価)」は、相続や贈与の税金を計算するための評価で、M&Aの売買価格とは別物です。「顧問税理士から株価は1億円と言われた」という数字をそのまま希望価格にしてしまうと、交渉がかみ合わなくなることがあります。

💡 税理士の実務視点 税務調査の現場を数多く見てきた立場から言うと、買収監査で指摘される税務リスクの多くは「普段の処理のクセ」です。役員への貸付金の放置、根拠のない外注費、期ズレの売上などは、平時から整えておけば怖くありません。 また、未払残業代や就業規則の不備は、税理士だけでは見落としがちな領域です。財務と労務の両面から事前に「自主監査」をしておくことが、値下げを防ぐ最大の防御策になります。
[画像指示:買収監査(デューデリジェンス)で見つかった隠れた借金が、会社の値段から差し引かれていく様子を表す図解イラスト / キャプション:簿外債務は発見されると、そのまま売却価格から差し引かれてしまいます]

会社の値段を上げる「磨き上げ」5ステップ

結論として、会社の値段を上げるには、売却の2〜3年前から計画的に「磨き上げ」を進めることが最も効果的です。磨き上げとは、会社の数字・リスク・仕組みを整えて、買い手から見た魅力を高める準備作業のことです。

STEP1 自社の「今の値段」を知る 年買法などで概算の評価額を出し、どこが減点されそうかを洗い出します。

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STEP2 数字をきれいにする 私的な経費や不要な資産を整理し、毎月の試算表を正確に作れる体制を整えます。決算書の信頼性そのものが価格に影響します。

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STEP3 隠れたリスクをつぶす 未払残業代、就業規則、契約書、過去の税務処理などを点検し、問題を解消しておきます。

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STEP4 社長がいなくても回る会社にする 幹部への権限委譲、業務マニュアル化、取引先との関係を複数の社員で担う体制づくりを進めます。

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STEP5 売り方と手取りを設計する 株式譲渡か事業譲渡か、退職金をどう組み合わせるかなど、税金を含めた「最終的な手取り」で方針を決めます。

ステップ5の手取り設計については、シリーズ第4回(税金編)で詳しく解説した役員退職金の活用がポイントになります。退職金を支払うと会社の財産が減る分だけ株式価値は下がりますが、退職金は税負担の軽い「退職所得」として受け取れるため、トータルの手取りが増えるケースが多いのです。

【シミュレーション】磨き上げ前と後で、手取りはいくら変わる?

結論として、今回のモデルケースでは、磨き上げをした場合としなかった場合で売却価格に1,200万円、税引き後の手取りに約956万円の差が生まれます。

モデルケースの前提

項目内容
会社の概要年商8,000万円のサービス業(シリーズ第1回・第2回と同じモデル会社)
決算書上の営業利益500万円
社長の役員報酬年1,000万円(後任の相場は年800万円と想定)
社長の私的な経費年100万円
時価純資産2,100万円(帳簿上の純資産に土地の含み益などを調整後)
株式の取得費300万円(創業時の出資額)
売却方法株式譲渡(個人の譲渡所得として税率20.315%)

ステップ1:本当の稼ぐ力(実質営業利益)を計算する

項目金額
決算書上の営業利益500万円
+ 役員報酬の相場超過分(1,000万円-800万円)+200万円
+ 私的な経費の足し戻し+100万円
= 実質営業利益800万円

ステップ2:磨き上げ前と後の評価額・手取りを比較する

磨き上げをしなかった場合、買収監査で未払残業代などのリスク400万円が見つかって差し引かれ、社長への依存度が高いことから営業権は「2年分」と評価されたとします。一方、事前に磨き上げを行った場合は、リスクが解消され、営業権は「3年分」で評価されたとします。

項目磨き上げなし磨き上げあり
時価純資産2,100万円2,100万円
簿外債務(未払残業代など)の差し引き-400万円0円
営業権(実質営業利益800万円×年数)1,600万円(2年分)2,400万円(3年分)
売却価格3,300万円4,500万円
譲渡益(売却価格-取得費300万円)3,000万円4,200万円
税金(譲渡益×20.315%)約609万円約853万円
税引き後の手取り約2,691万円約3,647万円

同じ会社でも、準備の有無だけで手取りに約956万円の差がつきました。さらに第4回で解説した退職金の活用を組み合わせれば、手取りをもう一段増やせる可能性があります。

※本シミュレーションは考え方を示すための簡略化した試算です。仲介手数料、住民税・所得税の詳細な計算、含み益にかかる税金相当額の調整などは考慮していません。実際の評価額は業種・財務内容・交渉により大きく異なります。

💡 税理士の実務視点 この差を生んだのは、特別な節税テクニックではなく「当たり前の準備」です。社長が毎月の数字を正しく把握し、労務と税務のリスクを平時から整えている会社は、買い手から見て「安心して買える会社」になります。 M&Aの準備は、実は売らなかった場合にもそのまま会社の体質強化につながります。「いつでも売れる会社」は「誰が継いでも強い会社」です。
[画像指示:磨き上げ前と後で売却価格と手取りが変わる様子を、2本の棒グラフで比較した図解イラスト / キャプション:同じ会社でも、事前の準備だけで手取りに約956万円の差がつくケースがあります]

M&Aを成功させる秘訣――シリーズ総まとめ

結論として、中小企業のM&Aを成功させる秘訣は「早めに準備を始め、税金・労務・価格を一体で考え、信頼できる専門家と進めること」に尽きます。全5回のポイントを振り返ります。

回テーマ押さえるべきポイント
第1回M&Aによる事業承継の基本後継者不在でも廃業せず、会社と雇用を残す選択肢がある
第2回スキームの選び方株式譲渡・事業譲渡などで手続きも税金も大きく変わる
第3回進め方と仲介会社選び秘密保持を徹底し、報酬体系と立場を確認して専門家を選ぶ
第4回税金と手取りの最大化退職金の活用など、税引き後の手取りで方針を決める
第5回企業価値評価と成功のポイント会社の値段は準備次第。2〜3年前からの磨き上げが鍵

そして何より大切なのは、「値段」だけで相手を選ばないことです。従業員の雇用、取引先との関係、会社の理念を大切にしてくれる相手に譲れるかどうかが、経営者として最後に後悔しないための一番のポイントです。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字の会社でも売ることはできますか?

A. はい、売ることはできます。赤字でも、優秀な従業員、許認可、取引先、技術やノウハウに価値を感じる買い手は存在します。評価は時価純資産法が中心となり、営業権はつきにくくなりますが、赤字の原因が社長の高額報酬など「調整可能なもの」であれば、実質的には黒字と評価されることもあります。

Q. 自分の会社の値段は、自分で計算できますか?

A. 年買法を使えば、おおよその目安は計算できます。「時価純資産+実質営業利益×2〜5年分」で幅を出してみてください。ただし、土地の時価、回収できない売掛金、簿外債務などの調整には専門知識が必要なため、正確な評価は税理士などの専門家に依頼するのが確実です。

Q. 相続税の計算で使う株価と、M&Aの売却価格は同じですか?

A. 同じではありません。相続税評価額は税金を計算するためのルールに沿った評価で、M&Aの売却価格は売り手と買い手の交渉で決まる価格です。一般的には、利益が出ている会社ほどM&Aの価格のほうが高くなる傾向がありますが、両者を混同しないことが大切です。

Q. 仲介会社の「査定額」どおりに売れるものですか?

A. 査定額はあくまで交渉のスタート地点です。買収監査の結果によって値下げされることもあれば、複数の買い手が競合して上がることもあります。査定額の高さだけで仲介会社を選ぶのではなく、その根拠と、減点されそうなポイントを具体的に説明してくれるかどうかを確認しましょう。

Q. 磨き上げは、いつから始めればよいですか?

A. 売却の2〜3年前から始めるのが理想です。買い手は通常、直近3期分程度の決算書を確認するため、数字の改善が決算書に表れるまでには時間がかかります。「まだ先の話」と思っている段階から始めるのが、結果的に最も高く、有利に譲る近道です。

まとめ:会社の値段は「準備」で決まる。まずは今の価値を知ることから

  • 中小企業の会社の値段は「時価純資産+実質営業利益の数年分」(年買法)が交渉の目安になる
  • 決算書の利益ではなく、役員報酬や私的経費を調整した「本当の稼ぐ力」で評価される
  • 未払残業代や税務リスクなどの隠れた借金を事前につぶす「磨き上げ」で、手取りは大きく変わる
会社の価値診断・M&A準備のご相談はお気軽に 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 当事務所では、税理士と社会保険労務士が連携し、会社の概算評価額の算定から、税務・労務の自主点検、退職金を含めた手取りの最適化まで、経営者の立場に立って一貫してサポートいたします。「売るかどうかはまだ決めていない」という段階でも大歓迎です。まずは、あなたの会社の「今の価値」を一緒に確認するところから始めませんか。

税務調査の連絡が来ても慌てない!

2026-09-23

秋に集中する税務調査の流れと、追徴課税を最小限に抑える経営者の対策
「税務署の者ですが、来月、御社の税務調査に伺いたいのですが…」。ある日突然かかってくるこの1本の電話で、頭が真っ白になる経営者の方は少なくありません。「何か悪いことをしたのだろうか」「会社に多額の税金を請求されたらどうしよう」――そう不安になるのは、ごく自然なことです。
実は、税務調査は毎年9月〜11月に最も多く行われます。つまり、今まさに「調査の季節」の真っただ中です。この記事では、税務調査の仕組みと当日までの流れ、調査官が必ず見るポイント、そして追徴課税を最小限に抑えるために今日からできる対策を、専門用語をできるだけ使わずに解説します。
先に結論をお伝えします。税務調査は「正しく準備すれば怖くない手続き」です。そして、追徴課税(あとから追加で払う税金)を減らす最大の鍵は、調査の連絡が来る前に自社の申告を点検し、誤りがあれば自分から直しておくことです。
【結論】この記事のポイント
①税務調査は秋(9月〜11月)がピーク。国税の1年(事務年度)が7月に始まり、夏の人事異動が落ち着いた後に調査が本格化するためです。
②中小企業の調査は「事前の電話連絡 → 会社での調査1〜2日 → 結果の説明」が基本の流れ。選ばれた=不正を疑われている、ではありません。
③追徴課税を抑える鍵は「日頃の帳簿と証拠の整備」と「連絡前の自主点検」。調査の連絡前に自分から修正すれば、ペナルティの税金(過少申告加算税)はかかりません。

[画像指示]
税務署から会社へ電話が入り、調査官が来社して帳簿を確認する一連の流れをやさしいタッチで描いたイラスト
キャプション:税務調査は「申告内容の答え合わせ」。流れを知っておけば落ち着いて対応できます

  1. 税務調査とは?まずは仕組みを正しく知ろう
    結論から言うと、税務調査とは「申告書の答え合わせ」です。怖いイメージが先行しがちですが、目的はあくまで「申告された税金の額が正しいかどうか」を確かめることにあります。
    税務調査とは、税務署や国税局の職員が、会社や個人が提出した申告書の内容が正しいかを、帳簿・領収書・契約書などの証拠と照らし合わせて確認する手続きのことです。
    身近な例でたとえると、お子さんがお小遣い帳をつけていて、親が「今月のお菓子代、レシートはある?」と確認するようなものです。帳簿(お小遣い帳)と証拠(レシート)がきちんとそろっていれば、何も困ることはありません。
    任意調査と強制調査の違い
    税務調査には大きく分けて2種類あり、中小企業が受ける調査のほとんどは「任意調査」です。映画やドラマで見る段ボールを運び出す場面は、ごく一部の悪質なケースに限られます。
    項目 任意調査 強制調査(査察)
    担当 税務署・国税局の調査部門 国税局査察部(いわゆるマルサ)
    対象 一般の会社・個人事業主 多額で悪質な脱税が疑われる場合
    事前の連絡 原則あり(電話で日程調整) なし(裁判所の令状に基づき突然実施)
    拒否できるか 「任意」でも正当な理由なく拒否すると罰則の対象 拒否できない
    主な結果 修正申告・追徴課税 追徴課税に加え、刑事告発の可能性

なぜ秋(9月〜11月)に調査が多いのか
結論として、国税の組織の「1年のサイクル」が理由です。国税の事務年度は7月1日から翌年6月30日までで、7月に大規模な人事異動があります。新しい体制が整った8月下旬から調査が本格化し、9月〜11月が最も多い時期になります。反対に、年末や確定申告の時期(2月〜3月)は調査が少なくなる傾向があります。
どんな会社が調査に選ばれやすいのか
調査先は、申告書のデータ分析などをもとに選ばれます。近年は税務当局もデータ分析やAIを活用しており、次のような「数字の動きが目立つ会社」は選ばれやすくなります。
● 売上や利益が急に大きく増えた、または利益率が前年から大きく変動した
● 現金での売上が多い業種(飲食業、小売業、美容業など)
● 前回の調査から相当の年数(目安として3〜5年以上)が空いている
● 外注費・交際費・役員への支払いなどが同業他社と比べて突出している
● 消費税の還付申告をしている、または申告期限を過ぎて申告した
税理士の実務視点
国税の調査現場を知る立場から申し上げると、調査先に選ばれることは「不正を疑われている」という意味ではありません。定期的な確認として、きちんと申告している会社にも調査は来ます。
大切なのは、調査官に「この会社はきちんと管理されている」と感じてもらうことです。初日の午前中に会社の概要や社長のお話を伺う中で、調査官は会社全体の管理レベルを見ています。帳簿や書類がすぐに出てくる会社は、それだけで調査がスムーズに進みます。

  1. 税務調査の流れ|連絡から終了までの5ステップ
    結論として、中小企業の一般的な税務調査は、次の5つのステップで進みます。事前の電話から結果の説明まで、早ければ1か月程度、長いと数か月かかります。
    STEP
    1 事前通知(電話連絡)
    税務署から会社(または顧問税理士)へ電話が入ります。調査の日時・場所・目的・対象となる税金の種類・対象期間などが伝えられます。顧問税理士がいて代理の届出をしていれば、税理士に連絡が入るのが一般的です。
    ▼
    STEP
    2 日程調整と事前準備
    業務の都合などやむを得ない理由があれば、日程の変更を相談できます。この間に過去3年分程度の帳簿・請求書・契約書・通帳などを整理し、申告内容を自主点検します。
    ▼
    STEP
    3 実地調査(会社での調査)
    中小企業では1〜2日程度が一般的です。初日の午前は会社の事業内容や社長の経歴などのヒアリング、午後からは帳簿や証拠書類のチェックが中心です。
    ▼
    STEP
    4 追加の確認
    調査官が署に持ち帰って検討し、追加の資料提出や質問への回答を求められることがあります。取引先へ確認(反面調査)が行われることもあります。
    ▼
    STEP
    5 結果の説明と手続き
    誤りがあれば内容の説明を受け、修正申告をして不足分の税金を納めます。誤りがなければ「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」が届き、調査は終了します。

事前通知で伝えられる主な内容
事前通知とは、調査を始める前に税務署が納税者に調査の予定を知らせる手続きのことで、法律で伝える項目が決められています。
● 調査を始める日時と場所
● 調査の目的と、対象となる税金の種類(法人税・消費税・源泉所得税など)
● 調査の対象となる期間
● 調査の対象となる帳簿や書類
ただし、現金商売などで事前に知らせると正確な確認ができないと判断された場合は、連絡なしで調査官が来る「無予告調査」が行われることもあります。
当日に見られるもの・準備しておくもの
確認される項目 調査官が見ているポイント 準備しておくもの
売上 計上もれ・計上時期のずれがないか 請求書控え、納品書、通帳、レジデータ
経費 事業に関係のない支出が混ざっていないか 領収書、契約書、クレジット明細
人件費 実態のない給与や家族への過大な給与がないか 賃金台帳、出勤簿、源泉徴収簿
在庫 期末の在庫が正しく計上されているか 棚卸表、仕入伝票
電子データ メールやネットで受け取った請求書等を保存しているか 電子取引データ(保存ルールに沿ったもの)

[画像指示]
事前通知から結果の説明までの5ステップを時系列で並べたフローチャート図
キャプション:税務調査は「連絡→準備→調査→追加確認→結果説明」の5段階で進みます

  1. 追徴課税の仕組み|本税・加算税・延滞税の3つを理解する
    結論として、税務調査で誤りが見つかると、「本来払うべきだった税金(本税)」に加えて「ペナルティの税金(加算税)」と「遅れた分の利息(延滞税)」がかかります。
    追徴課税とは、申告した税金が本来より少なかった場合に、不足分の税金とあわせて、罰金的な税金や利息をあとから追加で納めることです。図書館で借りた本の返却が遅れると延滞料がかかるのと似ていて、「遅れた期間」と「遅れた理由(うっかりか、わざとか)」によって負担が変わります。
    加算税の種類と税率
    加算税の種類 かかる場面 税率(原則)
    過少申告加算税 申告した税額が少なかった 増えた税額の10%(一定額を超える部分は15%)
    無申告加算税 期限までに申告しなかった 15%(50万円超の部分は20%、300万円超の部分は30%)
    不納付加算税 源泉所得税を期限までに納めなかった 10%
    重加算税 売上を隠す・書類を偽造するなど「仮装・隠ぺい」があった 35%(無申告の場合は40%)

とくに注意すべきなのが重加算税です。重加算税とは、帳簿の改ざんや売上の隠ぺいなど、意図的に事実をごまかした場合に課される最も重い加算税のことで、税率は35%〜40%にもなります。さらに、仮装・隠ぺいがあると判断されると、さかのぼって調べられる期間が最長7年に延びます。
「連絡前の自主修正」が最強の対策になる理由
結論として、同じ誤りでも「いつ直すか」で過少申告加算税の負担が大きく変わります。調査の事前通知が来る前に自分から修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません。
修正するタイミング 過少申告加算税 ひとことで言うと
事前通知の前に自主的に修正 0%(かからない) 最も有利
事前通知の後〜調査で指摘される前 5%(一定額を超える部分は10%) まだ軽く済む
調査で指摘された後 10%(一定額を超える部分は15%) 通常のペナルティ

なお、延滞税とは、本来の納期限から実際に納めた日までの日数に応じてかかる利息のような税金のことです。税率は市場金利をもとに毎年見直され、納期限から2か月を過ぎると大きく上がる仕組みになっています。誤りに気づいたら、1日でも早く直して納めることが延滞税の節約にもつながります。
税理士の実務視点
実務では「うっかりミス」と「意図的なごまかし」の境目が大きな争点になります。たとえば売上の計上時期がずれていたとしても、請求書や納品書の流れが説明できれば、単純な誤りとして扱われるのが通常です。
一方、書類を書き換えたり、「なかったこと」にしようとしたりすると、一気に重加算税の対象になります。調査で指摘を受けたときに最も大切なのは、事実をありのまま説明し、その場で安易に認めたり否定したりせず、専門家と一緒に整理して回答することです。

  1. 調査で指摘されやすい5つのポイント(実務上の罠)
    結論として、中小企業の税務調査で指摘が多いのは、次の5つの分野です。どれも「知らなかった」では済まされないため、今のうちに自社をチェックしておきましょう。
    ① 売上の計上時期のずれ(期ズレ)
    期ズレとは、本来は今期の売上として計上すべき取引を、翌期の売上にしてしまうことです。とくに決算月の月末に納品・完了した取引の請求書発行が翌月になるケースで起こりやすく、調査官が最初に確認するポイントの一つです。
    ② 社長やご家族の私的な支出
    家族との食事代を交際費にする、プライベートで使う車の費用を会社で払う、といった支出は代表的な指摘項目です。法人の場合、これが社長個人への支出と判断されると「役員賞与」として経費にならないうえ、社長個人への給与として源泉所得税までかかるという二重の負担になりかねません。
    ③ 外注費と給与の区別
    毎日決まった時間に会社の指示で働いている人への支払いを「外注費」にしていると、実態は給与だと判断されることがあります。その場合、源泉所得税の徴収もれに加えて、消費税の計算(外注費は仕入税額控除の対象、給与は対象外)にも影響が出ます。社会保険の加入義務にも関わるため、税務と労務の両面から確認が必要な論点です。
    ④ 期末の在庫(棚卸)の計上もれ
    在庫が少なく計上されていると、その分だけ利益が少なく見えてしまいます。倉庫以外の場所(取引先や車両内など)にある在庫や、預けている商品の計上もれがよく見られます。
    ⑤ 電子取引データの保存
    メールで受け取ったPDFの請求書や、ネット通販の領収書などの電子データは、原則として電子データのまま、決められたルールに沿って保存する必要があります(電子帳簿保存法)。紙に印刷しただけで元データを消している状態は保存要件を満たさないため、調査の際に確認されることが増えています。
  2. 税理士の立会い・書面添付制度のメリットと注意点
    結論として、税務調査は税理士が立ち会うことで、精神的な負担も、追徴課税のリスクも大きく下げることができます。ただし、「調査が決まってから慌てて依頼する」よりも、日頃から会社の中身を知っている税理士に任せるほうが効果は格段に高くなります。
    比較項目 社長が自分で対応 税理士が立ち会う
    調査官とのやりとり 専門用語での質問に一人で回答 税理士が論点を整理し、必要に応じて説明・反論
    指摘への対応 言われるがまま修正に応じがち 法律・通達に照らして妥当性を確認
    精神的な負担 大きい(本業にも支障) 小さい(本業に集中できる)
    費用 かからない 立会い報酬がかかる(顧問契約なら軽減されることが多い)
    事前の準備 何を用意すべきか分からない 論点を予測して事前に自主点検できる

また、書面添付制度という仕組みも有効です。書面添付制度とは、税理士が申告書を作成する際に「どのような資料を確認し、どう判断したか」を記した書面を申告書に添付する制度のことです。この書面がある場合、税務署は調査の連絡をする前に税理士から意見を聞く機会を設けることになっており、その段階で疑問が解消すれば、調査そのものが行われずに済むこともあります。
税理士の実務視点
税務調査で差がつくのは「当日の話し方」よりも「日頃の積み重ね」です。毎月会社を訪問して帳簿を確認する巡回監査を続けている会社は、そもそも誤りが少なく、調査官からの質問にもすぐに根拠を示せます。
さらに、外注費と給与の区別のように税務と労務がまたがる論点は、税理士と社会保険労務士が連携して確認することで、調査後の社会保険の遡及加入といった「二次被害」まで防ぐことができます。

  1. シミュレーション|「いつ直すか」で追徴額はここまで変わる
    結論として、同じ誤りでも、自主修正と重加算税のケースでは、1年分だけで追加負担に40万円以上の差が生まれます。具体的な数字で見てみましょう。
    前提条件
    項目 内容
    会社の概要 年商1億円の小売業(法人・3月決算)
    誤りの内容① 決算月末に納品した売上300万円を翌期に計上(期ズレ)
    誤りの内容② 社長の家族との私的な飲食代100万円を交際費として計上
    増える所得 300万円+100万円=400万円(1期分)
    税率の仮定 法人税・地方法人税・住民税・事業税をあわせた実効税率を約30%と仮定
    その他の仮定 当初申告の税額は50万円を上回っており、加算税の加重部分(15%等)は生じないものとする

ケース別の追加負担(1期分)
ケース 本税 加算税 合計(延滞税を除く)
A:事前通知の前に自主修正 120万円 0円(0%) 120万円
B:調査で指摘されて修正 120万円 12万円(10%) 132万円
C:仮装・隠ぺいと判断された 120万円 42万円(35%) 162万円

本税は「400万円×約30%=120万円」で、どのケースでも同じです。違いを生むのは加算税で、ケースAとケースCの差は42万円になります。ここに延滞税(本ケースで納付が1年遅れた場合、概算で10万円前後)が加わります。
さらに見落とせないのが、「同じ誤りが毎期続いていた場合」です。仮に3期分とも同じ指摘を受けると、ケースBでも追加負担は約396万円(132万円×3期)に膨らみます。ケースCで7年分さかのぼられた場合は、会社の資金繰りに深刻な影響を与える金額になります。
加えて、誤り②の家族との飲食代は社長への「役員賞与」と判断されると、会社側で経費にならないだけでなく、社長個人への給与として源泉所得税の追加納付(不納付加算税を含む)も発生します。「たかが100万円」が、会社と社長個人の両方に跳ね返ってくる点に注意が必要です。
[画像指示]
ケースA・B・Cの追加負担額を棒グラフで比較した図解(本税と加算税を色分け)
キャプション:同じ400万円の誤りでも、直すタイミングと理由で負担は最大42万円変わります

  1. よくある質問(FAQ)
    Q. 税務調査の日程は変更してもらえますか?
    A. はい、変更できます。繁忙期や社長の出張、体調不良など合理的な理由があれば、事前通知の段階で日程の変更を相談できます。ただし、理由なく何度も延期すると印象がよくないため、早めに候補日を伝えるのが実務上のポイントです。
    Q. 税務調査は何年分さかのぼって調べられますか?
    A. 原則として過去3年分が調べられることが多く、誤りが見つかれば最長5年分までさかのぼります。売上の隠ぺいなど仮装・隠ぺいがあった場合は、最長7年分までさかのぼることができます。
    Q. 赤字の会社にも税務調査は来ますか?
    A. はい、来ます。赤字でも、繰越欠損金(翌年以降の利益と相殺できる過去の赤字)の金額が正しいか、源泉所得税や消費税が正しく納められているかは確認の対象です。赤字だから安心、ということはありません。
    Q. 顧問税理士がいないと、税務調査で不利になりますか?
    A. 法律上の扱いが変わるわけではありませんが、実務上は大きな差が出ます。税理士がいれば、調査官の質問の意図をくみ取って根拠を示しながら説明でき、法律に照らして妥当でない指摘には意見を伝えることができます。
    Q. 調査で指摘されたことは、その場で認めなければいけませんか?
    A. いいえ、その場で認める必要はありません。「確認して後日回答します」と伝えて問題ありません。安易にその場で認めると、事実と異なる内容が記録に残るおそれがあるため、税理士と事実関係を整理してから回答するのが最善です。
  2. まとめ|税務調査は「日頃の準備」と「早めの相談」で怖くなくなる
    この記事の要点を3行でまとめます。
    ● 税務調査は9月〜11月がピーク。任意調査は事前通知から結果説明までの流れが決まっており、正しく準備すれば怖くありません。
    ● 追徴課税は本税・加算税・延滞税の3つ。事前通知の前に自主修正すれば過少申告加算税はかからず、仮装・隠ぺいと判断されると最大40%の重加算税が課されます。
    ● 期ズレ・私的支出・外注費・在庫・電子データの5点を今すぐ点検。日頃から帳簿と証拠を整え、税理士と連携しておくことが最大の防御策です。
    ご相談はお気軽に
    税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
    当事務所には、国税の調査の現場を知り尽くした国税OBの税理士が在籍しており、調査の事前準備から当日の立会い、指摘への対応まで一貫してサポートします。税理士と社会保険労務士が連携しているため、外注費と給与の区別のような「税務と労務がまたがる問題」もまとめて解決できます。
    「税務署から連絡が来てしまった」「うちの帳簿で調査に耐えられるか不安」という方は、調査の連絡が来る前の今こそが、対策の最適なタイミングです。オンラインでのご相談にも対応していますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

M&Aで会社を譲渡すると税金はいくら?

2026-09-22

手取りを最大化する退職金活用の節税策を税理士が解説

「会社を譲渡することは決まったが、結局いくら手元に残るのか分からない」——中小企業のM&Aをご検討中の経営者様から、最も多くいただくご相談がこの手取り額に関する不安です。譲渡価格の金額だけを見て安心していると、税金の仕組みを知らなかったばかりに数百万円単位で損をしてしまうケースも少なくありません。

本記事を読むことで、株式譲渡・事業譲渡それぞれにかかる税金の全体像、そして手取りを合法的に最大化するための「退職金活用」という実務上極めて重要な節税策まで、具体的な数字とともに理解いただけます。

◆ 結論 株式譲渡は譲渡益に対して申告分離課税20.315%が原則、事業譲渡は法人税等(実効税率約30〜34%)と消費税が別途かかる、という構造の違いをまず正確に理解することが出発点です。 その上で、譲渡対価の一部を「退職金」として受け取る設計にすることで、退職所得控除・1/2課税・分離課税という3つの優遇を活用し、手取り額を合法的に増やせるケースが数多くあります。 ただし退職金には「過大退職金」と税務署に否認されるリスクがあるため、功績倍率法に基づく算定と役員退職慰労金規程の事前整備が不可欠です。
  • この記事で分かること
  • 株式譲渡と事業譲渡、それぞれにかかる税金の種類と税率の違い
  • 事業譲渡で見落とされがちな消費税の課税対象資産
  • 退職金を活用した手取り最大化の仕組みと注意すべき落とし穴
  • 譲渡価格1億円ケースで比較する、退職金活用の有無による手取り差額シミュレーション

 1. M&Aにかかる税金の全体像|スキームで課税の仕組みがまったく違う

結論から申し上げると、M&Aで発生する税金は「株式譲渡」か「事業譲渡」かというスキームの違いによって、課税される「人」も「税目」もまったく異なります。この全体像を理解しないまま交渉を進めると、税引き後の手取りを見誤ることになります。

(1)株式譲渡とは|個人の譲渡所得に対する分離課税

株式譲渡とは、会社のオーナーである経営者個人が保有する自社株式を買い手に売却し、会社の経営権を丸ごと引き継いでもらうM&A手法のことです。中小企業のM&Aで最も多く用いられる方式で、売り手が受け取る譲渡代金と株式の取得費・譲渡費用との差額(譲渡益)に対して、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて一律20.315%の税率で課税されます(申告分離課税)。

重要なポイントは、この20.315%が給与所得や事業所得のような累進課税ではなく、金額の大小にかかわらず一定率であるという点です。譲渡益が大きくなるほど、他の所得区分と比較して税負担割合を抑えやすい仕組みだと言えます。

(2)事業譲渡とは|法人税等と消費税がダブルでかかる

事業譲渡とは、会社という法人格(箱)はそのまま残し、特定の事業部門や資産・従業員・取引先との契約関係などを個別に選んで他社へ譲渡する手法のことです。不採算部門を切り離したい場合や、買い手が特定の事業だけを求めている場合に選ばれます。

事業譲渡で譲渡益を得るのは経営者個人ではなく「法人」です。そのため譲渡益は法人の他の利益と合算されて法人税・地方法人税・法人住民税・事業税が課税され、実効税率はおおむね30〜34%程度になります。さらに、その譲渡代金を会社に残したままにせず経営者個人が受け取ろうとすると、役員報酬・配当・退職金といった形で会社から個人へ資金を移す際に、もう一段階の課税が発生します。これがいわゆる「二重課税」構造です。

🔶 税理士の実務視点 事業譲渡は「会社に法人税がかかり、さらに個人が受け取る際にも課税される」という二段階構造になりやすいため、単純な税率の比較だけで株式譲渡より不利と決めつけるのは早計です。繰越欠損金の活用や、譲渡後に会社を清算するか存続させるかによっても最終的な手取りは変わります。スキーム選定は必ず個別のシミュレーションを行った上で判断してください。

(3)事業譲渡で見落とされがちな消費税の課税対象資産

事業譲渡のもう一つの特徴は、譲渡する資産の種類によって消費税がかかる点です。土地や金銭債権(売掛金など)は非課税ですが、建物・機械設備・什器備品・在庫(棚卸資産)、そして「のれん(営業権)」は課税資産に該当し、消費税10%の対象になります。契約書上で資産ごとの対価配分を明確にしていないと、後から想定外の消費税負担が発覚することもあるため、実務上の注意点として押さえておく必要があります。

🖼 [画像指示:株式譲渡と事業譲渡で課税される「人」と「税目」が異なることを示す対比イラスト(個人アイコンに20.315%、法人アイコンに法人税等30〜34%+消費税10%を矢印で紐づける構図)] キャプション:スキームが変われば、課税される対象も税率もこれだけ変わります
比較項目株式譲渡事業譲渡
課税される主体経営者個人譲渡した法人
主な税目譲渡所得税(申告分離課税)法人税・地方法人税・法人住民税・事業税
税率の目安一律20.315%実効税率 約30〜34%
消費税原則かからない(有価証券は非課税)建物・設備・のれん等は課税対象(10%)
個人が資金を受け取るまで譲渡と同時に個人が受領(一段階)法人受領後、配当・退職金等で個人へ(二段階)
繰越欠損金の引継ぎ会社ごと引き継がれる(買い手に有利)引き継がれない(会社に残る)

 2. 手取りを最大化する実務的な節税手法|退職金活用のロジック

結論として、M&Aで手取りを合法的に最大化するための最も効果的な実務手法は「役員退職慰労金(退職金)」の活用です。退職所得には他の所得区分にはない3つの強力な税制優遇があるためです。

(1)退職所得課税が有利な3つの理由

退職所得とは、退職によって勤務先から一時金として受け取る所得のことで、長年の勤続に対する慰労的な性格から、税制上きわめて手厚い優遇が設けられています。

  • ① 退職所得控除:勤続年数に応じた大きな非課税枠(勤続20年までは1年あたり40万円、20年超の部分は1年あたり70万円)が収入から差し引かれます
  • ② 1/2課税:控除後の金額に、さらに2分の1を乗じた金額のみが課税対象になります(役員等で勤続年数5年以下の一部は対象外)
  • ③ 分離課税:他の所得(給与所得・事業所得等)と合算されず、退職所得だけで独立して税額を計算します

この3つが組み合わさることで、同じ金額を「譲渡対価」としてそのまま受け取るよりも、適正範囲内で「退職金」として受け取った方が、結果として手取りが増えるケースが数多く生まれます。

(2)功績倍率法による適正額の算定と「過大退職金」のリスク

功績倍率法とは、退職金の適正額を「最終月額役員報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率」という計算式で算定する、税務上最も一般的で合理性が認められやすい算定方法のことです。代表取締役の場合、功績倍率はおおむね3.0倍程度が実務上の目安とされています。

この基準から大きく外れた過大な退職金を支給すると、税務調査において「不相当に高額な部分の金額」が法人の損金として認められず、さらに受け取った個人側でも退職所得ではなく給与所得(賞与)として扱われ、税制優遇が受けられなくなるという二重の不利益を被ります。

🔶 税理士の実務視点 M&Aのクロージング直前になって急いで退職金規程を作成したり、金額だけを積み増したりするケースを実務上よく見かけますが、これは税務調査で最も狙われやすいポイントの一つです。功績倍率法による算定根拠を書面化し、類似法人の水準とも乖離がないかを事前に確認したうえで、株主総会決議と役員退職慰労金規程の整備を、譲渡契約締結前の段階から並行して進めることを強く推奨します。

(3)役員退職慰労金規程の整備というプロセス

役員退職慰労金規程とは、退職金の算定方法・支給基準・支給時期などをあらかじめ会社の内部規程として定めておく文書のことです。規程が存在し、かつ株主総会でその支給が正式に決議されていることが、退職金として損金算入・退職所得課税を受けるための前提条件になります。M&A実行後に慌てて整備するのではなく、譲渡交渉と並行して準備を進めることが実務上のポイントです。

(4)consulting fee(顧問料・業務委託料)活用の是非

譲渡後も一定期間、売り手経営者が引き継ぎのために顧問やアドバイザーとして会社に関与し、その対価を「業務委託料(コンサルティングフィー)」として受け取る設計も実務上見られます。しかし、実態の伴わない名目上の顧問料は、税務上「譲渡対価の分割払い」とみなされて否認されるリスクが高い手法です。活用する場合は、実際の業務提供の実態(稼働時間、成果物、契約書上の役務内容)を伴わせ、対価水準も市場相場から乖離しないよう設計する必要があります。

🖼 [画像指示:手取り最大化を検討するための5ステップフロー図(①スキーム選定→②譲渡対価の内訳設計→③退職金規程の整備→④デューデリジェンスでの税務リスク洗い出し→⑤クロージング・申告)] キャプション:手取りは「決まった後」ではなく「設計段階」でほぼ決まります

【STEP 1】 スキーム選定
 株式譲渡か事業譲渡か、税負担のシミュレーションを踏まえて選択します。

【STEP 2】 譲渡対価の内訳設計
 総額のうち、株式譲渡対価と退職金の配分をあらかじめ検討します。

【STEP 3】 退職金規程の整備
 功績倍率法に基づく算定根拠を作成し、株主総会決議を経て規程化します。

【STEP 4】 デューデリジェンスでの税務確認
 買い手側の税務DDでも整合性が問われるため、事前に資料を揃えておきます。

【STEP 5】 クロージング・申告
 契約書の記載と実際の資金移動、確定申告の内容を一致させます。

 3. 具体的シミュレーション|譲渡価格1億円ケースで見る手取りの差

結論として、退職金を組み合わせた設計にすることで、同じ譲渡価格1億円でも手取り額に約280万円の差が生まれる、という試算例を見ていきましょう(勤続25年、最終役員報酬月額80万円、功績倍率3.0倍という前提です)。

パターンA:譲渡対価1億円をすべて株式譲渡で受け取る場合

取得費・譲渡費用の合計を1,000万円と仮定すると、譲渡益は9,000万円になります。これに20.315%を乗じると、税額は約1,828万円。手取り額は約8,172万円となります。

パターンB:株式譲渡8,000万円+退職金2,000万円に分けて受け取る場合

株式譲渡部分(8,000万円)にかかる取得費・譲渡費用を800万円と仮定すると、譲渡益は7,200万円、税額は約1,462万円、手取りは約6,538万円です。

退職金部分(2,000万円)は、勤続25年の退職所得控除が1,150万円(40万円×20年+70万円×5年)となり、課税対象額は差額1,150万円分に1/2を乗じた425万円。ここに所得税・復興特別所得税・住民税を合わせても税額は約86万円にとどまり、手取りは約1,914万円になります。

項目パターンA(株式譲渡のみ)パターンB(株式譲渡+退職金)
譲渡対価の内訳株式譲渡 1億円株式譲渡 8,000万円/退職金 2,000万円
株式譲渡分の税額約1,828万円約1,462万円
退職金分の税額―約86万円
合計税額約1,828万円約1,548万円
最終手取り額約8,172万円約8,452万円

同じ1億円の対価でも、退職金という受け取り方を組み合わせるだけで手取り額に約280万円の差が生まれる計算です。これはあくまで一例であり、勤続年数・役員報酬額・功績倍率、そして買い手側との交渉状況によって最適な配分は変わります。必ず個別のシミュレーションを行ってください。

 4. よくある質問(FAQ)

Q1. 株式譲渡の税率20.315%はどんな場合でも一律ですか?

A. はい。株式譲渡による譲渡所得は、上場株式・非上場株式を問わず申告分離課税で一律20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)です。給与所得のような累進課税ではないため、譲渡益の金額にかかわらず税率は変わりません。

Q2. 退職金を活用すれば必ず節税になりますか?

A. 適正な金額の範囲内であれば手取りが増えるケースが多いですが、功績倍率法などの基準から大きく外れた過大な退職金は、税務調査で損金不算入・給与課税と認定されるリスクがあります。事前の規程整備と算定根拠の準備が前提条件です。

Q3. 事業譲渡の消費税はどの資産にかかりますか?

A. 土地や売掛金などの金銭債権は非課税ですが、建物・機械設備・什器備品・のれん(営業権)・棚卸資産などは課税資産として消費税10%の対象になります。契約書での資産ごとの対価配分を明確にしておくことが重要です。

Q4. 会社分割や合併の場合も同じ税金がかかりますか?

A. 会社分割や合併が税制上の「適格組織再編」の要件を満たす場合は、譲渡益への課税が繰り延べられる特例が適用されることがあり、株式譲渡や事業譲渡とは大きく異なる仕組みになります。要件判定が非常に複雑なため、検討の初期段階から専門家への相談が不可欠です。

Q5. コンサルティングフィーとして対価を分割して受け取れば税負担は下がりますか?

A. 実態の伴わない名目上の顧問料は、税務上「譲渡対価の分割払い」とみなされ否認されるリスクが高い手法です。活用する場合は、実際の業務提供の実態を伴う契約設計と、市場相場から乖離しない適正な対価水準の設定が必要になります。

 5. まとめ|税務の判断は個々の状況によって異なります

  • 株式譲渡は個人に20.315%、事業譲渡は法人に約30〜34%+消費税がかかるなど、スキームによって課税の仕組みがまったく異なります
  • 退職所得控除・1/2課税・分離課税という3つの優遇を活用した「退職金活用」は、手取りを合法的に最大化する有力な手法です
  • ただし過大退職金と認定されるリスクがあるため、功績倍率法に基づく算定根拠と規程整備を、譲渡交渉と並行して事前に進めておく必要があります

税務の判断は、会社の規模・業績の推移・役員報酬の水準・譲渡スキームなど、個々の状況によって最適解が大きく異なります。自己判断のまま交渉を進めて後から思わぬ税負担が発覚し、損をしてしまう前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

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2026-09-21

知らないと損する正しい使い方

「子どもや孫にお金を渡してあげたいけれど、贈与税がかかるのが心配…」「110万円以内なら申告しなくていいと聞いたけれど、本当に大丈夫だろうか」——将来の相続や、お子さん・お孫さんの生活を思って生前贈与を考える経営者・資産家の方から、こうしたご相談を数多くいただきます。

結論からお伝えします。1人の方が1年間(1月1日〜12月31日)に受け取る贈与財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかからず、贈与税の申告も不要です。これは「暦年課税」という贈与税の計算方法に組み込まれた「基礎控除」の仕組みによるものです。

ただし、この非課税枠には見落としがちな落とし穴がいくつも存在します。「毎年110万円ずつ渡していたのに、税務調査で贈与そのものを否定されてしまった」「良かれと思って贈与したのに、かえって相続税が増えてしまった」という事例は決して珍しくありません。

この記事では、①110万円の非課税枠が使える正しい条件、②申告不要の範囲と注意点、③税務調査で否認されないための実務ポイント、④相続税を賢く減らすための具体的なシミュレーションまで、生前贈与を安全かつ効果的に活用するための知識を、税理士の実務視点も交えて解説します。

贈与税の「110万円の壁」とは?暦年課税の基本の仕組み

贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの計算方法があり、特に手続きをしなければ自動的に「暦年課税」が適用されます。暦年課税とは、1年間に個人が受け取った贈与財産の合計額から110万円の基礎控除を差し引き、残った金額に応じて贈与税を計算する仕組みのことです。

「もらう人」ごとに110万円。「あげる人」ごとではない

ここが最初のポイントです。110万円の非課税枠は、贈与を「受け取る人(受贈者)」1人につき年間110万円です。「あげる人(贈与者)」を基準にした枠ではありません。

例えば、祖父・祖母のそれぞれから孫が110万円ずつ、合計220万円を1年間で受け取った場合、非課税になるのは110万円までで、残りの110万円には贈与税がかかります。逆に、1人の親が子ども2人にそれぞれ110万円ずつ渡す場合は、子ども1人あたり110万円以内なので、どちらも非課税です。

🖼 贈与税の110万円非課税枠が「もらう人」単位であることを示す図解イラスト(祖父母2人から孫1人への贈与は合算され、親から子2人への贈与はそれぞれ別枠になることが一目でわかる図)/キャプション:110万円の非課税枠は「受け取る人」ごとに1年間で判定します

なぜ110万円なのか

贈与税の基礎控除額は相続税法によって定められており、2026年9月現在110万円です。相続税の課税を補完する目的で設けられている贈与税について、少額の贈与にまで課税の手間をかけないための制度趣旨によるものです。

「申告不要」の範囲を正しく理解する

1年間に受け取った贈与財産の合計額が110万円以下(基礎控除の範囲内)であれば、贈与税額はゼロとなり、税務署への贈与税申告書の提出義務もありません。

申告が必要になる主なケース

一方で、次のようなケースでは110万円以下であっても申告が必要になる、または別の制度に基づく申告が必要になりますので注意してください。

  • 相続時精算課税を選択している場合(毎年110万円の基礎控除はありますが、選択後は別ルールでの管理・申告が必要です)
  • 住宅取得等資金の贈与税の非課税特例など、他の非課税特例の適用を受ける場合(適用を受けるための申告が必要です)
  • その年に110万円を超える贈与を受けた場合(超えた部分だけでなく、贈与税の申告自体が必要になります)
💡 税理士の実務視点 「申告不要=税務署に何もしなくていい=記録も残さなくていい」ではありません。税務調査では、贈与が「いつ、いくら、誰から誰へ、どのような形で」行われたかが厳しく確認されます。申告不要だからこそ、後から贈与の事実を客観的に証明できる記録(贈与契約書、振込記録など)を残しておくことが、将来のトラブルを防ぐ最大のポイントです。

110万円を超えたらいくら税金がかかる?速算表で確認

110万円を超えた部分には、贈与税の速算表に基づいて10%〜55%の累進税率で贈与税が課税されます。贈与財産の種類(一般贈与財産か特例贈与財産か)によって税率が異なります。

一般贈与財産用(兄弟間・夫婦間・他人からの贈与など)

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%—
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

特例贈与財産用(直系尊属から18歳以上の子・孫への贈与)

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%—
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

特例贈与財産用は、祖父母や親(直系尊属)から18歳以上の子・孫への贈与に適用され、一般贈与財産用より税率が低く設定されています(2022年4月の成年年齢引下げにより「18歳以上」が適用対象です)。

実務で失敗しがちな3つの落とし穴

落とし穴① 定期贈与(連年贈与)とみなされるリスク

「毎年110万円ずつ、10年間で1,100万円を贈与する」と最初から約束していたとみなされると、初年度に1,100万円の贈与があったものとして課税される可能性があります。

対策としては、贈与のたびに贈与契約書を作成する、金額や時期をあえて毎年少し変える、贈与するたびに受贈者本人の意思確認を行う、といった対応で「その都度独立した贈与」であることを明確にすることが実務上重要です。

落とし穴② 名義預金とみなされるリスク

贈与を受けた(とされる)子や孫名義の口座であっても、実際の管理・支配を贈与者本人が続けている場合、税務上は贈与が成立しておらず、単なる「名義預金」として相続財産に含められてしまいます。

対策としては、口座の通帳・印鑑・キャッシュカードは受贈者本人が管理し、受贈者自身がその口座の存在と残高を認識していることが不可欠です。

🖼 名義預金と認められるNGパターンと、有効な贈与と認められるOKパターンを対比させる図解イラスト/キャプション:通帳・印鑑を贈与者が管理し続けていると「名義預金」とみなされ相続税の対象になります

落とし穴③ 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される(生前贈与加算)

相続や遺贈で財産を受け取る人が、亡くなった方(被相続人)から相続開始前7年以内に受けた暦年贈与は、贈与税が非課税だった110万円以下の部分も含めて、相続税の課税価格に加算されます。

2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から、この加算対象期間は従来の「相続開始前3年以内」から「相続開始前7年以内」へと段階的に延長されています。ただし延長された4年間(相続開始前4年目〜7年目)に受けた贈与については、合計100万円までは加算の対象から除外される経過措置が設けられています。

💡 税理士の実務視点 生前贈与による相続税対策は「早く始めるほど効果が大きい」制度です。7年以内加算のルールがある以上、贈与を始めるタイミングが遅くなるほど、非課税のはずだった110万円分まで相続財産に戻されてしまうリスクが高まります。特に高齢のご資産家の方ほど、対策の着手を先延ばしにしない判断が重要です。

非課税贈与を安全に実行する5ステップ

STEP1 贈与財産・贈与したい相手を決める(誰に、何を、いくら渡すか)

↓

STEP2 贈与契約書を作成する(贈与者・受贈者双方が署名・捺印する)

↓

STEP3 受贈者本人名義の口座へ、贈与者の口座から振込で贈与を実行する

↓

STEP4 受贈者本人が通帳・印鑑・キャッシュカードを自分で管理する

↓

STEP5 110万円を超える贈与を行った年は、翌年2月1日〜3月15日までに贈与税の申告・納税を行う

具体的シミュレーション:孫2人へ10年間の暦年贈与を行った場合

想定相続財産3億円、法定相続人は子2人の資産家Aさん(70歳)が、将来の相続税を見据えて、孫2人にそれぞれ年110万円ずつ、10年間にわたって暦年贈与を行うケースで試算します(相続税の実効税率を仮に40%と仮定)。

項目内容
贈与額孫2人にそれぞれ年110万円ずつ
贈与期間10年間
各年の贈与税額0円(毎年110万円以内のため非課税)
累計贈与額110万円 × 2人 × 10年 = 2,200万円
相続財産からの圧縮額2,200万円
想定相続税の実効税率40%(仮定)
相続税の軽減効果(概算)2,200万円 × 40% = 880万円

なお、孫は通常、法定相続人(遺産分割・相続の当事者)ではないため、遺言による遺贈や生命保険金の受取人になっているなどの事情がない限り、相続開始前7年以内の生前贈与加算の対象外となるケースが多く、対策の効果がそのまま残りやすいという特徴があります。一方、法定相続人である子への贈与は、亡くなる直前7年間の分については相続財産に戻される可能性がある点に留意が必要です。

🖼 10年間の暦年贈与による相続財産の圧縮効果を示す積み上げ棒グラフ風イラスト(毎年110万円ずつ積み上がり、10年で2,200万円の相続財産圧縮につながるイメージ)/キャプション:孫への贈与は生前贈与加算の対象外となるケースが多く、対策の効果が出やすい方法です

よくある質問(FAQ)

Q1. 110万円以内の贈与でも、税務署にバレますか?

銀行口座の入出金や不動産の名義変更などの情報は、税務署が把握できる仕組みが整っています。金額の大小にかかわらず贈与の事実そのものを隠す必要はなく、贈与契約書や振込記録などの証拠を残しておくことが最も確実な対策です。

Q2. 現金を手渡しで110万円贈与すれば記録が残らないので安心ですか?

記録が残らないことは、かえって将来「贈与が実際にあったのか」を証明できないリスクにつながります。振込によって記録を残す方法をおすすめします。

Q3. 毎年110万円を10年間贈与する約束を最初にしても大丈夫ですか?

最初にまとめて約束(定期贈与)をしたとみなされると、初年度に総額へ課税される可能性があります。贈与のたびに個別の意思確認と契約書の作成を行うことが重要です。

Q4. 孫への贈与は、子への贈与より相続税対策として有利ですか?

孫は原則として法定相続人ではないため、相続開始前7年以内の生前贈与加算の対象外となるケースが多く、相続税対策としての効果が出やすい傾向にあります。ただし孫が遺言により財産を受け取る場合などは加算対象となるため、個別の判断が必要です。

Q5. 110万円の非課税枠と相続時精算課税は、どちらを選んだほうがいいですか?

どちらが有利かは、財産の種類・金額、贈与したい時期、将来の値上がり見込みなどによって異なります。一般的に、将来値上がりが見込まれる財産の早期移転には相続時精算課税、コツコツとした資産移転には暦年課税の110万円非課税枠が向いていますが、必ず個別の試算を行った上で判断することをおすすめします。

まとめ & 問い合わせへの誘導

  • 贈与税は1年間に受け取る人ごとに110万円まで非課税で、その範囲内なら申告も不要です
  • ただし「定期贈与」「名義預金」とみなされないための証拠づくりと、相続開始前7年以内の生前贈与加算の理解が不可欠です
  • 生前贈与による相続税対策は早く始めるほど効果が大きく、贈与の相手・方法次第で結果が大きく変わります

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

ふるさと納税、ポイントがもらえなくなったのは本当?

2026-09-20

失敗しないための上限額シミュレーションと申告方法

今年もふるさと納税をやらなきゃ、と思いつつ、いくらまで寄付していいのか分からず後回しにしていませんか。しかも「ポイントがもらえなくなった」という話を聞いて、以前ほどお得ではなくなったのではと感じている方も多いはずです。

この記事を読めば、自分の年収でいくらまでふるさと納税ができるのかという上限額の考え方、2025年10月の制度改正で具体的に何が変わったのか、そしてワンストップ特例と確定申告のどちらを選ぶべきかが、迷わず判断できるようになります。

結論から申し上げます。ふるさと納税は、自己負担2,000円で全国の返礼品を受け取りながら、応援したい自治体に納税先を実質的に変更できる制度であることに変わりはありません。2025年10月からポータルサイトによる独自ポイントの付与は禁止されましたが、控除の仕組みそのものは一切変わっていません。上限額は年収と家族構成によって決まるため、寄付する前に必ずシミュレーションを行うことが、損をしないための第一歩です。

  ふるさと納税とは何か

ふるさと納税とは、応援したい自治体に寄付を行うことで、寄付額から2,000円を差し引いた金額が、翌年の所得税の還付および住民税の控除という形で戻ってくる制度のことです。

たとえるなら、来年払うはずだった税金の一部を前払いで好きな自治体に渡し、その御礼として地域の特産品を受け取れる仕組みです。実質的な自己負担は2,000円だけで、残りは翌年の税金から差し引かれると考えると分かりやすいでしょう。

なぜ「上限額」があるのか

控除には、年収や家族構成に応じた上限額が設定されています。上限を超えて寄付した分は単なる寄付として扱われ、2,000円を超える部分についても税金の控除は受けられません。したがって、上限額を正確に把握しないまま寄付をすると、想定より自己負担が増えてしまいます。

  2025年10月の制度改正で何が変わったのか

ポイント付与禁止の背景

総務省は2025年10月1日から、ふるさと納税のポータルサイトが独自に付与するポイントを禁止しました。返礼品競争がポイント還元競争へと転化し、制度本来の趣旨である地域応援から外れてしまうことが懸念されたためです。

経営者・個人事業主への影響

ポイント目当てでポータルサイトを選んでいた方にとっては、実質的な還元率が下がったように感じられます。しかし、控除される金額そのものは制度改正前後で変わりません。返礼品の還元率(寄付額の3割以下という基準)も従来どおり維持されているため、返礼品そのものの魅力で選ぶという、本来の制度趣旨に沿った選び方が今後は重要になります。

🖼 ポイント制度改正の前後でふるさと納税の何が変わり、何が変わらないのかを整理した比較イラスト/キャプション:変わったのはポイントだけ、控除の仕組みは同じです

  上限額はどう決まるのか

ふるさと納税で自己負担が実質2,000円で済む寄付額の上限は、給与収入と家族構成によって変わります。総務省が公表している早見表に基づく目安は次のとおりです(社会保険料控除等の他の控除状況により多少前後します)。

給与収入独身または共働き夫婦(配偶者は控除対象)夫婦+子1人(高校生)
400万円42,000円33,000円25,000円
500万円61,000円49,000円40,000円
600万円77,000円69,000円60,000円
700万円108,000円86,000円78,000円
800万円129,000円120,000円107,000円
1000万円180,000円171,000円159,000円

  ワンストップ特例制度 vs 確定申告

 ワンストップ特例制度確定申告
対象者確定申告が不要な給与所得者個人事業主・確定申告が必要な人すべて
寄付先の自治体数1年間で5自治体以内制限なし
手続き寄付の都度、自治体へ申請書を提出翌年3月15日までに税務署へ申告
控除される税目住民税のみから控除所得税の還付+住民税の控除

ワンストップ特例のよくある落とし穴

  • 1年間で6自治体以上に寄付すると、ワンストップ特例の申請自体が全て無効になり、確定申告が必須になる
  • 住宅ローン控除の初年度や医療費控除など、他の理由で確定申告をする年は、ワンストップ特例の申請をしていても自動的に無効になり、寄付先すべてを確定申告書に記載し直す必要がある
  • 申請書の提出期限(寄付の翌年1月10日必着が目安)を過ぎると特例が使えなくなる

  ふるさと納税の流れ

STEP1 上限額をシミュレーションで確認する

↓

STEP2 自治体・返礼品を選んで寄付を申し込む

↓

STEP3 返礼品を受け取り、寄附金受領証明書を保管する

↓

STEP4 ワンストップ特例を申請するか、確定申告を行う

↓

STEP5 翌年6月頃、住民税決定通知書で控除額を確認する

  具体的シミュレーション

給与収入600万円・独身の方が、上限額の目安である77,000円をふるさと納税した場合で考えてみます。

項目金額
寄付総額77,000円
自己負担額2,000円
翌年の住民税・所得税からの控除額75,000円
受け取れる返礼品の目安(寄付額の3割以下)23,100円相当まで

実質2,000円の負担で、23,100円相当までの返礼品を受け取れる計算になります。ポイントが付与されなくなった今でも、この控除の構造自体は変わっていないため、上限額の範囲内で寄付を行う限り、制度のメリットは従来どおり享受できます。

  よくある質問(FAQ)

Q. ふるさと納税をすると本当に税金は安くなるのですか?

A. いいえ、税金そのものが安くなるわけではありません。本来納めるはずだった税金を先に自治体へ寄付として納め、その分が翌年の税金から差し引かれる前払いの仕組みです。実質負担が2,000円になる点にお得さがあります。

Q. ポイントがもらえなくなったので、もうやる意味がないのでは?

A. 意味は十分にあります。控除される金額自体はポイント制度と関係なく変わっておらず、返礼品(寄付額の3割以下)も引き続き受け取れます。

Q. ワンストップ特例と確定申告、どちらがお得ですか?

A. 控除される金額そのものに差はありません。ただし、住宅ローン控除の初年度や医療費控除がある方は確定申告が必須になるため、その場合はワンストップ特例を選べません。

Q. 上限額を超えて寄付してしまったらどうなりますか?

A. 上限を超えた部分は控除の対象外となり、単純な寄付として扱われます。実質負担が2,000円を上回ることになるため、寄付前のシミュレーションが欠かせません。

Q. 個人事業主でもふるさと納税はできますか?

A. できます。ただし給与所得者と異なり、事業所得の増減によって上限額が年によって変動しやすいため、所得がおおむね確定してから寄付額を決めるのが安全です。

この記事の要点

  • ふるさと納税は自己負担2,000円で返礼品と地域応援を両立できる制度で、控除の仕組みは2025年10月の改正後も変わっていない。
  • 変わったのはポータルサイトの独自ポイントが禁止された点のみで、返礼品の還元率や控除額には影響しない。
  • 上限額は年収・家族構成で決まるため、寄付前のシミュレーションと、ワンストップ特例か確定申告かの選択が欠かせない。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

【令和7年分・8年分】年末調整はここが変わった!

2026-09-19

103万円の壁改正と新しい控除を経営者が失敗せずに乗り切る方法

毎年9月から10月にかけて、多くの経営者や総務担当者の頭を悩ませるのが年末調整です。しかも令和7年度の税制改正により、基礎控除や給与所得控除の金額が大きく見直され、いわゆる「103万円の壁」の姿も変わりました。「今年の年末調整、去年までと同じ書式で本当に大丈夫だろうか」「従業員から質問されても答えられない」——そんな不安を抱えていませんか。

この記事を最後まで読めば、令和7年分・8年分の年末調整で具体的に何が変わったのか、経営者として従業員にどう説明すればよいか、そして自社と従業員の税負担にどう影響するのかが、数字の根拠とともにはっきりと分かります。

結論から申し上げます。令和7年度税制改正により、基礎控除は48万円から58万円へ、給与所得控除の最低保証額は55万円から65万円へと、それぞれ引き上げられました。この結果、いわゆる「103万円の壁」は、令和7年分・8年分については所得水準に応じて最大160万円まで広がっています。さらに、19歳から22歳までの子(大学生年代)を扶養する家庭のために「特定親族特別控除」という新しい控除も創設されました。年末調整で従業員に配布する「扶養控除等申告書」の記載内容にも影響が出るため、経営者・総務担当者は早めに制度を理解し、社内周知を進める必要があります。

  そもそも年末調整とは何か

年末調整とは、会社が従業員の給与から毎月天引きしていた所得税(源泉徴収税額)と、その年に本来納めるべき所得税額との差額を、年末に一括で精算する手続きのことです。

たとえるなら、毎月のお小遣いから少し多めに天引きして積み立てておき、年末に実際にかかった金額を計算して、余った分を返し、足りない分を追加でもらう、というイメージです。多くの会社員は確定申告をしなくても、この年末調整だけで1年間の所得税の手続きが完了します。

なぜ経営者・総務担当者が押さえておくべきなのか

年末調整は、従業員一人ひとりの税額を正しく計算するだけでなく、会社が源泉徴収義務者として法律上の義務を負う手続きです。書類の配布・回収・計算・納付のいずれかに不備があれば、後日税務署から指摘を受け、追加徴収や延滞税が発生する可能性があります。制度改正があった年は特に、書式や控除額の変更を見落としたまま昨年と同じ運用を続けてしまうミスが起こりやすくなります。

  令和7年度税制改正で何が変わったのか

基礎控除の引き上げ(48万円→58万円、さらに時限的な上乗せ)

基礎控除とは、所得の多い少ないにかかわらず、すべての納税者に一律で認められる控除のことです。令和7年度改正で、この基礎控除が48万円から58万円に引き上げられました。さらに、合計所得金額655万円以下の人については、令和7年分・8年分の2年間に限り上乗せの特例が設けられ、所得水準に応じて基礎控除が最大95万円まで拡大します。

給与所得控除の最低保証額引き上げ(55万円→65万円)

給与所得控除とは、給与収入を得るために実際にかかった経費を、いちいち領収書を集めなくても一定額差し引ける、いわば「みなし経費」のような制度です。この最低保証額が55万円から65万円に引き上げられました。

結果として「103万円の壁」は何万円になったのか

基礎控除と給与所得控除の合計額が、所得税が発生しない給与収入の上限、いわゆる「壁」の正体です。改正前は48万円+55万円=103万円でしたが、改正後は次のとおりです。

区分基礎控除給与所得控除壁の金額
改正前(〜令和6年分)48万円55万円103万円
令和7年分・8年分(上乗せ特例あり)最大95万円65万円最大160万円
令和9年分以降(恒久ルール)58万円65万円123万円

🖼 103万円の壁が123万円・160万円に広がる様子を示すビフォーアフター図解イラスト/キャプション:基礎控除と給与所得控除の引き上げで壁はここまで動きました

新設「特定親族特別控除」——大学生年代の子がいる家庭へ

19歳から22歳までの子(大学生年代)がいる家庭は、これまで子のアルバイト収入が103万円を1円でも超えると、特定扶養控除(63万円)が一気にゼロになる「崖」がありました。令和7年度改正では、この崖をなだらかにするため「特定親族特別控除」が新設され、子の給与収入が123万円を超えても188万円に達するまでは、収入額に応じて段階的に控除を受けられるようになりました。段階ごとの正確な控除額は国税庁が公表する年末調整の早見表に基づいて算出されるため、対象となる従業員がいる場合は最新の早見表で確認することが実務上のポイントです。

  経営者・総務担当者が年末調整で注意すべき実務ポイント

「扶養控除等申告書」の記載内容を再確認する

基礎控除や配偶者控除、扶養控除の所得要件が軒並み引き上げられたため、従業員に「扶養に入れられるかどうか」を旧基準(103万円)で判断させてしまうと、本来受けられる控除を取りこぼす従業員が出てきます。書類配布時に、金額の基準が変わったことを一言添えるだけでも社内の混乱を大きく減らせます。

よくある間違い・落とし穴

  • 昨年の様式や社内案内文をそのまま使い回し、控除額の変更を反映し忘れる
  • 子のアルバイト収入を旧基準の103万円で判定し、特定親族特別控除の対象者を見落とす
  • 基礎控除の上乗せ特例は令和7年分・8年分限りの時限措置であることを従業員に伝えず、翌年以降の手取り変化への説明責任を果たせなくなる

  年末調整の流れ(実務フロー)

STEP1 従業員へ申告書類を配布(10月頃が目安)

↓

STEP2 従業員が記入し、保険料控除証明書等の必要書類を添付して提出

↓

STEP3 総務・経理担当者が内容を確認し、各人の年税額を計算

↓

STEP4 過不足額を12月の給与・賞与で精算

↓

STEP5 源泉徴収票を発行し、税務署・市区町村へ法定調書を提出

  具体的シミュレーション

パート・アルバイトとして働く従業員の給与収入が年130万円のケースで考えてみます。

 改正前ルール(〜令和6年分)改正後ルール(令和7・8年分)
壁の金額103万円最大160万円
年収130万円の場合の課税対象額約27万円が課税対象壁の範囲内のため課税対象なし
所得税への影響(目安・税率5%)年間約13,500円の所得税が発生所得税は0円

このように、同じ年収130万円で働く従業員でも、改正前は所得税が発生していたのに対し、改正後は所得税が発生しないケースが生まれます。従業員から「働き方を変えたほうがよいか」と相談を受けた際は、こうした具体的な金額を示しながら説明すると納得を得やすくなります。

  よくある質問(FAQ)

Q. 「103万円の壁」は完全になくなったのですか?

A. いいえ、なくなったわけではなく、金額が引き上げられ、新しい水準に移動しました。令和7年分・8年分は基礎控除の上乗せ特例により最大160万円、令和9年分以降は基礎控除58万円と給与所得控除65万円を合わせた123万円が壁になります。

Q. 基礎控除の上乗せ特例は誰でも受けられますか?

A. 合計所得金額655万円以下(給与収入の目安でおおむね850万円未満)の人が対象です。それを超える所得の人は、上乗せのない基礎控除58万円のみが適用されます。

Q. 大学生年代の子の年収が103万円を超えたら、もう扶養にできませんか?

A. 令和7年度改正により、子の年収が123万円を超えても188万円に達するまでは特定親族特別控除が段階的に適用されるため、扶養控除が一気にゼロになることはありません。

Q. 年末調整の書類はいつまでに従業員へ配布・回収すべきですか?

A. 一般的には10月中に配布し、11月末までに回収を完了させるのが実務上の目安です。生命保険料控除証明書等が届くのは10月以降になることが多いため、余裕を持ったスケジュールが欠かせません。

Q. 年末調整の内容に誤りがあった場合はどうなりますか?

A. 年内であれば会社側で再年末調整として訂正できます。年が明けてしまった場合は、従業員自身による確定申告での訂正が必要になります。

この記事の要点

  • 基礎控除・給与所得控除の引き上げにより「103万円の壁」は令和7年分・8年分は最大160万円まで拡大した。
  • 大学生年代の子がいる家庭には「特定親族特別控除」が新設され、扶養控除の崖がなだらかになった。
  • 上乗せ特例は令和7・8年分限りの時限措置であり、経営者・総務担当者は年ごとの変更点を正確に把握する必要がある。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

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