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【第5回】うちの会社はいくらで売れる?
中小企業M&Aの企業価値評価のしくみと「高く・納得して」譲るための成功のポイント
「会社を譲るなら、せめて長年の苦労に見合う値段がついてほしい」「でも、そもそも自分の会社にいくらの値打ちがあるのか見当もつかない」――M&Aを考え始めた経営者の方から、最も多くいただくご相談がこの「値段」の話です。
この記事では、中小企業M&Aシリーズの総まとめとして、会社の値段(企業価値)がどう決まるのかを、「年買法」「純資産法」「DCF法」などの代表的な考え方から、中学生でも分かる言葉でやさしく解説します。さらに、同じ会社でも準備次第で売却価格と手取りが1,000万円単位で変わることを、具体的な数字のシミュレーションでお見せします。
先に結論をお伝えします。中小企業の会社の値段は、「今ある財産の本当の価値(時価純資産)」+「これから稼ぐ力(営業権)」で決まるのが基本です。そして値段を上げる一番の近道は、売る2〜3年前から「数字をきれいにし、隠れたリスクをつぶし、社長がいなくても回る会社にする」こと、つまり「磨き上げ」です。
| 【結論】 ・中小企業M&Aの価格は、実務では「時価純資産+営業利益の数年分」(年買法)を目安に交渉がスタートすることが多い ・評価額は決算書の数字そのままではなく、役員報酬や私的な経費を調整した「本当の稼ぐ力」で見られる ・未払残業代や税務リスクなどの「隠れた借金」は、見つかると容赦なく値引きされる ・売る2〜3年前からの「磨き上げ」で、評価額も手取りも大きく変わる |
| [画像指示:会社の値段=「時価純資産」+「営業権(稼ぐ力)」の積み木で表した図解イラスト / キャプション:中小企業の会社の値段は「今ある財産」と「これから稼ぐ力」の合計で考えるのが基本です] |
会社の値段(企業価値)とは?まず押さえたい基本
結論から言うと、M&Aでの会社の値段は「法律で決まった計算式」ではなく、売り手と買い手が納得して決める「交渉の結果」です。ただし、交渉のスタート地点となる「目安の計算方法」はいくつか決まっています。
「企業価値」と「株式価値」の違い
企業価値とは、会社の事業全体が生み出す価値のことです。一方、株式価値とは、企業価値から借入金などの借金を差し引き、手元の現預金を足した「株主の取り分」のことです。
身近な例でたとえると、ローンが残っている家を売る場面と同じです。家そのものの値段が3,000万円でも、ローンが1,000万円残っていれば、売った人の手元に残る価値は2,000万円です。株式譲渡で社長が受け取る金額は、この「ローンを差し引いた後」の株式価値のほうになります。
会社の値段を決める3つの目線
会社の値段を測る方法は、大きく分けて次の3つの目線があります。
- 財産の目線(コストアプローチ):会社が今持っている財産から借金を引いた「正味の財産」で考える
- 稼ぐ力の目線(インカムアプローチ):会社がこれから生み出すお金で考える
- 相場の目線(マーケットアプローチ):似た会社がいくらで売買されているかで考える
リンゴ農園にたとえると、「畑や倉庫がいくらになるか」が財産の目線、「毎年リンゴでいくら稼げるか」が稼ぐ力の目線、「近所の同じ規模の農園がいくらで売れたか」が相場の目線です。
中小企業M&Aで使われる代表的な評価方法
結論として、中小企業のM&Aでは「年買法(ねんばいほう)」が最もよく使われ、規模が大きくなるほどDCF法やマルチプル法も併用されるのが実務の姿です。
① 年買法(時価純資産+営業権)
年買法とは、「時価純資産」に「営業利益の数年分(営業権)」を足して会社の値段を出す方法のことです。計算がシンプルで、売り手の社長にも分かりやすいため、中小企業のM&Aで広く使われています。
| 会社の値段(目安)= 時価純資産 + 実質営業利益 × 2〜5年分 |
「何年分」を掛けるかは法律で決まっているわけではなく、業種の成長性、利益の安定性、社長への依存度などを見て交渉で決まります。安定して利益が出ていて、社長がいなくても回る会社ほど年数は長く(高く)なります。
時価純資産とは
時価純資産とは、決算書の帳簿上の財産を「今売ったらいくらになるか」という時価に置き直し、借金を差し引いた正味の財産のことです。たとえば、何十年も前に買った土地は帳簿より時価が高いことが多く、逆に回収できない売掛金や売れ残った在庫は帳簿より価値が低くなります。
営業権(のれん)とは
営業権(のれん)とは、取引先との信頼関係、従業員のノウハウ、ブランドなど、決算書には載らない「稼ぐ力」を金額にしたもののことです。地元で長年愛されているお店が「看板」だけで価値を持つのと同じ考え方です。
② 時価純資産法
時価純資産法とは、時価純資産そのものを会社の値段とする方法のことです。赤字の会社や、利益より不動産などの財産に価値がある会社で使われます。営業権を見ないため、年買法より低めの金額になるのが一般的です。
③ DCF法
DCF法とは、会社が将来生み出すお金(キャッシュフロー)を予測し、それを現在の価値に割り戻して会社の値段を出す方法のことです。理論的には最も優れた方法ですが、将来の事業計画の精度に結果が大きく左右されるため、事業計画を作り込んでいない中小企業では参考程度にとどまることが多いのが実情です。
④ マルチプル法(類似会社比較法)
マルチプル法とは、似た業種・規模の上場企業や過去のM&A事例の「利益の何倍で売れたか」という倍率を使って会社の値段を出す方法のことです。よく使われる指標がEBITDA(イービットダー)で、これは「営業利益+減価償却費」でざっくり表される「本業で生み出すお金の力」のことです。
評価方法の比較表
| 評価方法 | 考え方 | 向いている会社 | 注意点 |
| 年買法 | 時価純資産+営業利益の数年分 | 利益が安定した中小企業全般 | 年数の根拠は交渉次第 |
| 時価純資産法 | 正味の財産のみで評価 | 赤字企業・資産の多い会社 | 稼ぐ力が価格に反映されにくい |
| DCF法 | 将来のお金を現在価値に換算 | 成長企業・中堅規模以上 | 事業計画の精度に大きく依存 |
| マルチプル法 | 類似企業の倍率を当てはめる | 同業の取引事例が多い業種 | 比べる会社選びで結果がぶれる |
| 💡 税理士の実務視点 実務では、1つの方法だけで値段を決めることはまずありません。複数の方法で「このくらいの幅」という価格帯を出し、その幅の中で交渉するのが通常です。 売り手の社長が最初に知っておくべきなのは「一番高い数字」ではなく、「買い手がどの方法で、どこを減点してくるか」です。減点ポイントを先回りしてつぶしておけば、交渉で主導権を握れます。 |
決算書の利益がそのまま使われない理由――「正常収益力」の考え方
結論から言うと、買い手は決算書の利益ではなく、社長個人の事情を取り除いた「本当の稼ぐ力(正常収益力)」で会社を評価します。 正常収益力とは、オーナー社長ならではの特殊な支出や一時的な損益を取り除いた、会社本来の利益のことです。
中小企業では、節税の観点から社長の役員報酬を高めに設定していたり、会社名義で社長の私的な支出をしていたりすることが少なくありません。こうした支出は買い手が引き継いだ後にはなくなるため、利益に「足し戻し」して評価します。
| 調整項目 | 調整の方向 | 具体例 |
| 社長の役員報酬(相場超過分) | 利益にプラス | 後任の社長なら年800万円で済むところ、現社長は年1,000万円 |
| 私的な経費 | 利益にプラス | 社長個人の車両費・交際費・家族の保険料など |
| 一時的な損益 | プラスまたはマイナス | 災害損失、固定資産の売却益、単発の大型受注 |
| 本来かかるべき費用の未計上 | 利益にマイナス | 未払残業代、修繕の先送り、身内の無給労働 |
ここで注意したいのは、足し戻しは「プラス」だけではないという点です。家族が無給で手伝っていたり、必要な設備投資を先送りしていたりすると、買い手は「本来ならかかる費用」として利益から差し引きます。
値下げの原因になる「隠れた借金(簿外債務)」と実務上の罠
結論として、M&Aで最も怖いのは、買収監査(デューデリジェンス)で「隠れた借金」が見つかり、大幅な値下げや交渉打ち切りになることです。簿外債務とは、決算書には載っていないものの、将来会社が支払わなければならない可能性のある債務のことです。
罠① 未払残業代などの労務リスク
残業代の未払いがあると、従業員は過去にさかのぼって請求できます。賃金請求権の時効は現在「当分の間3年」とされており、従業員数が多い会社ほど金額は膨らみます。買い手はこれを推計し、そのまま価格から差し引いてきます。
罠② 税務調査で否認されそうな処理
過去の申告に問題がある場合、M&A後に税務調査で追徴課税を受けるのは買い手が引き継いだ会社です。そのため買い手は税務のリスクを厳しく確認し、リスク相当額の値下げや、「表明保証」と呼ばれる契約条項で売り手に責任を負わせようとします。表明保証とは、売り手が「決算書や契約内容に誤りや隠し事はありません」と約束し、違反があれば補償する契約上の取り決めのことです。
罠③ 社長への依存と取引先の集中
「社長がいないと仕事が回らない」「売上の半分以上が1社に集中している」といった会社は、買った後に売上が落ちるリスクが高いと見なされ、年買法の「年数」が短くされます。
罠④ 相続税評価額と混同してしまう
事業承継の対策で耳にする「相続税評価額(類似業種比準方式・純資産価額方式などで計算する株価)」は、相続や贈与の税金を計算するための評価で、M&Aの売買価格とは別物です。「顧問税理士から株価は1億円と言われた」という数字をそのまま希望価格にしてしまうと、交渉がかみ合わなくなることがあります。
| 💡 税理士の実務視点 税務調査の現場を数多く見てきた立場から言うと、買収監査で指摘される税務リスクの多くは「普段の処理のクセ」です。役員への貸付金の放置、根拠のない外注費、期ズレの売上などは、平時から整えておけば怖くありません。 また、未払残業代や就業規則の不備は、税理士だけでは見落としがちな領域です。財務と労務の両面から事前に「自主監査」をしておくことが、値下げを防ぐ最大の防御策になります。 |
| [画像指示:買収監査(デューデリジェンス)で見つかった隠れた借金が、会社の値段から差し引かれていく様子を表す図解イラスト / キャプション:簿外債務は発見されると、そのまま売却価格から差し引かれてしまいます] |
会社の値段を上げる「磨き上げ」5ステップ
結論として、会社の値段を上げるには、売却の2〜3年前から計画的に「磨き上げ」を進めることが最も効果的です。磨き上げとは、会社の数字・リスク・仕組みを整えて、買い手から見た魅力を高める準備作業のことです。
| STEP1 自社の「今の値段」を知る 年買法などで概算の評価額を出し、どこが減点されそうかを洗い出します。 |
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| STEP2 数字をきれいにする 私的な経費や不要な資産を整理し、毎月の試算表を正確に作れる体制を整えます。決算書の信頼性そのものが価格に影響します。 |
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| STEP3 隠れたリスクをつぶす 未払残業代、就業規則、契約書、過去の税務処理などを点検し、問題を解消しておきます。 |
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| STEP4 社長がいなくても回る会社にする 幹部への権限委譲、業務マニュアル化、取引先との関係を複数の社員で担う体制づくりを進めます。 |
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| STEP5 売り方と手取りを設計する 株式譲渡か事業譲渡か、退職金をどう組み合わせるかなど、税金を含めた「最終的な手取り」で方針を決めます。 |
ステップ5の手取り設計については、シリーズ第4回(税金編)で詳しく解説した役員退職金の活用がポイントになります。退職金を支払うと会社の財産が減る分だけ株式価値は下がりますが、退職金は税負担の軽い「退職所得」として受け取れるため、トータルの手取りが増えるケースが多いのです。
【シミュレーション】磨き上げ前と後で、手取りはいくら変わる?
結論として、今回のモデルケースでは、磨き上げをした場合としなかった場合で売却価格に1,200万円、税引き後の手取りに約956万円の差が生まれます。
モデルケースの前提
| 項目 | 内容 |
| 会社の概要 | 年商8,000万円のサービス業(シリーズ第1回・第2回と同じモデル会社) |
| 決算書上の営業利益 | 500万円 |
| 社長の役員報酬 | 年1,000万円(後任の相場は年800万円と想定) |
| 社長の私的な経費 | 年100万円 |
| 時価純資産 | 2,100万円(帳簿上の純資産に土地の含み益などを調整後) |
| 株式の取得費 | 300万円(創業時の出資額) |
| 売却方法 | 株式譲渡(個人の譲渡所得として税率20.315%) |
ステップ1:本当の稼ぐ力(実質営業利益)を計算する
| 項目 | 金額 |
| 決算書上の営業利益 | 500万円 |
| + 役員報酬の相場超過分(1,000万円-800万円) | +200万円 |
| + 私的な経費の足し戻し | +100万円 |
| = 実質営業利益 | 800万円 |
ステップ2:磨き上げ前と後の評価額・手取りを比較する
磨き上げをしなかった場合、買収監査で未払残業代などのリスク400万円が見つかって差し引かれ、社長への依存度が高いことから営業権は「2年分」と評価されたとします。一方、事前に磨き上げを行った場合は、リスクが解消され、営業権は「3年分」で評価されたとします。
| 項目 | 磨き上げなし | 磨き上げあり |
| 時価純資産 | 2,100万円 | 2,100万円 |
| 簿外債務(未払残業代など)の差し引き | -400万円 | 0円 |
| 営業権(実質営業利益800万円×年数) | 1,600万円(2年分) | 2,400万円(3年分) |
| 売却価格 | 3,300万円 | 4,500万円 |
| 譲渡益(売却価格-取得費300万円) | 3,000万円 | 4,200万円 |
| 税金(譲渡益×20.315%) | 約609万円 | 約853万円 |
| 税引き後の手取り | 約2,691万円 | 約3,647万円 |
同じ会社でも、準備の有無だけで手取りに約956万円の差がつきました。さらに第4回で解説した退職金の活用を組み合わせれば、手取りをもう一段増やせる可能性があります。
※本シミュレーションは考え方を示すための簡略化した試算です。仲介手数料、住民税・所得税の詳細な計算、含み益にかかる税金相当額の調整などは考慮していません。実際の評価額は業種・財務内容・交渉により大きく異なります。
| 💡 税理士の実務視点 この差を生んだのは、特別な節税テクニックではなく「当たり前の準備」です。社長が毎月の数字を正しく把握し、労務と税務のリスクを平時から整えている会社は、買い手から見て「安心して買える会社」になります。 M&Aの準備は、実は売らなかった場合にもそのまま会社の体質強化につながります。「いつでも売れる会社」は「誰が継いでも強い会社」です。 |
| [画像指示:磨き上げ前と後で売却価格と手取りが変わる様子を、2本の棒グラフで比較した図解イラスト / キャプション:同じ会社でも、事前の準備だけで手取りに約956万円の差がつくケースがあります] |
M&Aを成功させる秘訣――シリーズ総まとめ
結論として、中小企業のM&Aを成功させる秘訣は「早めに準備を始め、税金・労務・価格を一体で考え、信頼できる専門家と進めること」に尽きます。全5回のポイントを振り返ります。
| 回 | テーマ | 押さえるべきポイント |
| 第1回 | M&Aによる事業承継の基本 | 後継者不在でも廃業せず、会社と雇用を残す選択肢がある |
| 第2回 | スキームの選び方 | 株式譲渡・事業譲渡などで手続きも税金も大きく変わる |
| 第3回 | 進め方と仲介会社選び | 秘密保持を徹底し、報酬体系と立場を確認して専門家を選ぶ |
| 第4回 | 税金と手取りの最大化 | 退職金の活用など、税引き後の手取りで方針を決める |
| 第5回 | 企業価値評価と成功のポイント | 会社の値段は準備次第。2〜3年前からの磨き上げが鍵 |
そして何より大切なのは、「値段」だけで相手を選ばないことです。従業員の雇用、取引先との関係、会社の理念を大切にしてくれる相手に譲れるかどうかが、経営者として最後に後悔しないための一番のポイントです。
よくある質問(FAQ)
Q. 赤字の会社でも売ることはできますか?
A. はい、売ることはできます。赤字でも、優秀な従業員、許認可、取引先、技術やノウハウに価値を感じる買い手は存在します。評価は時価純資産法が中心となり、営業権はつきにくくなりますが、赤字の原因が社長の高額報酬など「調整可能なもの」であれば、実質的には黒字と評価されることもあります。
Q. 自分の会社の値段は、自分で計算できますか?
A. 年買法を使えば、おおよその目安は計算できます。「時価純資産+実質営業利益×2〜5年分」で幅を出してみてください。ただし、土地の時価、回収できない売掛金、簿外債務などの調整には専門知識が必要なため、正確な評価は税理士などの専門家に依頼するのが確実です。
Q. 相続税の計算で使う株価と、M&Aの売却価格は同じですか?
A. 同じではありません。相続税評価額は税金を計算するためのルールに沿った評価で、M&Aの売却価格は売り手と買い手の交渉で決まる価格です。一般的には、利益が出ている会社ほどM&Aの価格のほうが高くなる傾向がありますが、両者を混同しないことが大切です。
Q. 仲介会社の「査定額」どおりに売れるものですか?
A. 査定額はあくまで交渉のスタート地点です。買収監査の結果によって値下げされることもあれば、複数の買い手が競合して上がることもあります。査定額の高さだけで仲介会社を選ぶのではなく、その根拠と、減点されそうなポイントを具体的に説明してくれるかどうかを確認しましょう。
Q. 磨き上げは、いつから始めればよいですか?
A. 売却の2〜3年前から始めるのが理想です。買い手は通常、直近3期分程度の決算書を確認するため、数字の改善が決算書に表れるまでには時間がかかります。「まだ先の話」と思っている段階から始めるのが、結果的に最も高く、有利に譲る近道です。
まとめ:会社の値段は「準備」で決まる。まずは今の価値を知ることから
- 中小企業の会社の値段は「時価純資産+実質営業利益の数年分」(年買法)が交渉の目安になる
- 決算書の利益ではなく、役員報酬や私的経費を調整した「本当の稼ぐ力」で評価される
- 未払残業代や税務リスクなどの隠れた借金を事前につぶす「磨き上げ」で、手取りは大きく変わる
| 会社の価値診断・M&A準備のご相談はお気軽に 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 当事務所では、税理士と社会保険労務士が連携し、会社の概算評価額の算定から、税務・労務の自主点検、退職金を含めた手取りの最適化まで、経営者の立場に立って一貫してサポートいたします。「売るかどうかはまだ決めていない」という段階でも大歓迎です。まずは、あなたの会社の「今の価値」を一緒に確認するところから始めませんか。 |
M&Aで会社を譲渡すると税金はいくら?
手取りを最大化する退職金活用の節税策を税理士が解説
「会社を譲渡することは決まったが、結局いくら手元に残るのか分からない」——中小企業のM&Aをご検討中の経営者様から、最も多くいただくご相談がこの手取り額に関する不安です。譲渡価格の金額だけを見て安心していると、税金の仕組みを知らなかったばかりに数百万円単位で損をしてしまうケースも少なくありません。
本記事を読むことで、株式譲渡・事業譲渡それぞれにかかる税金の全体像、そして手取りを合法的に最大化するための「退職金活用」という実務上極めて重要な節税策まで、具体的な数字とともに理解いただけます。
| ◆ 結論 株式譲渡は譲渡益に対して申告分離課税20.315%が原則、事業譲渡は法人税等(実効税率約30〜34%)と消費税が別途かかる、という構造の違いをまず正確に理解することが出発点です。 その上で、譲渡対価の一部を「退職金」として受け取る設計にすることで、退職所得控除・1/2課税・分離課税という3つの優遇を活用し、手取り額を合法的に増やせるケースが数多くあります。 ただし退職金には「過大退職金」と税務署に否認されるリスクがあるため、功績倍率法に基づく算定と役員退職慰労金規程の事前整備が不可欠です。 |
- この記事で分かること
- 株式譲渡と事業譲渡、それぞれにかかる税金の種類と税率の違い
- 事業譲渡で見落とされがちな消費税の課税対象資産
- 退職金を活用した手取り最大化の仕組みと注意すべき落とし穴
- 譲渡価格1億円ケースで比較する、退職金活用の有無による手取り差額シミュレーション
1. M&Aにかかる税金の全体像|スキームで課税の仕組みがまったく違う
結論から申し上げると、M&Aで発生する税金は「株式譲渡」か「事業譲渡」かというスキームの違いによって、課税される「人」も「税目」もまったく異なります。この全体像を理解しないまま交渉を進めると、税引き後の手取りを見誤ることになります。
(1)株式譲渡とは|個人の譲渡所得に対する分離課税
株式譲渡とは、会社のオーナーである経営者個人が保有する自社株式を買い手に売却し、会社の経営権を丸ごと引き継いでもらうM&A手法のことです。中小企業のM&Aで最も多く用いられる方式で、売り手が受け取る譲渡代金と株式の取得費・譲渡費用との差額(譲渡益)に対して、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて一律20.315%の税率で課税されます(申告分離課税)。
重要なポイントは、この20.315%が給与所得や事業所得のような累進課税ではなく、金額の大小にかかわらず一定率であるという点です。譲渡益が大きくなるほど、他の所得区分と比較して税負担割合を抑えやすい仕組みだと言えます。
(2)事業譲渡とは|法人税等と消費税がダブルでかかる
事業譲渡とは、会社という法人格(箱)はそのまま残し、特定の事業部門や資産・従業員・取引先との契約関係などを個別に選んで他社へ譲渡する手法のことです。不採算部門を切り離したい場合や、買い手が特定の事業だけを求めている場合に選ばれます。
事業譲渡で譲渡益を得るのは経営者個人ではなく「法人」です。そのため譲渡益は法人の他の利益と合算されて法人税・地方法人税・法人住民税・事業税が課税され、実効税率はおおむね30〜34%程度になります。さらに、その譲渡代金を会社に残したままにせず経営者個人が受け取ろうとすると、役員報酬・配当・退職金といった形で会社から個人へ資金を移す際に、もう一段階の課税が発生します。これがいわゆる「二重課税」構造です。
| 🔶 税理士の実務視点 事業譲渡は「会社に法人税がかかり、さらに個人が受け取る際にも課税される」という二段階構造になりやすいため、単純な税率の比較だけで株式譲渡より不利と決めつけるのは早計です。繰越欠損金の活用や、譲渡後に会社を清算するか存続させるかによっても最終的な手取りは変わります。スキーム選定は必ず個別のシミュレーションを行った上で判断してください。 |
(3)事業譲渡で見落とされがちな消費税の課税対象資産
事業譲渡のもう一つの特徴は、譲渡する資産の種類によって消費税がかかる点です。土地や金銭債権(売掛金など)は非課税ですが、建物・機械設備・什器備品・在庫(棚卸資産)、そして「のれん(営業権)」は課税資産に該当し、消費税10%の対象になります。契約書上で資産ごとの対価配分を明確にしていないと、後から想定外の消費税負担が発覚することもあるため、実務上の注意点として押さえておく必要があります。
| 🖼 [画像指示:株式譲渡と事業譲渡で課税される「人」と「税目」が異なることを示す対比イラスト(個人アイコンに20.315%、法人アイコンに法人税等30〜34%+消費税10%を矢印で紐づける構図)] キャプション:スキームが変われば、課税される対象も税率もこれだけ変わります |
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
| 課税される主体 | 経営者個人 | 譲渡した法人 |
| 主な税目 | 譲渡所得税(申告分離課税) | 法人税・地方法人税・法人住民税・事業税 |
| 税率の目安 | 一律20.315% | 実効税率 約30〜34% |
| 消費税 | 原則かからない(有価証券は非課税) | 建物・設備・のれん等は課税対象(10%) |
| 個人が資金を受け取るまで | 譲渡と同時に個人が受領(一段階) | 法人受領後、配当・退職金等で個人へ(二段階) |
| 繰越欠損金の引継ぎ | 会社ごと引き継がれる(買い手に有利) | 引き継がれない(会社に残る) |
2. 手取りを最大化する実務的な節税手法|退職金活用のロジック
結論として、M&Aで手取りを合法的に最大化するための最も効果的な実務手法は「役員退職慰労金(退職金)」の活用です。退職所得には他の所得区分にはない3つの強力な税制優遇があるためです。
(1)退職所得課税が有利な3つの理由
退職所得とは、退職によって勤務先から一時金として受け取る所得のことで、長年の勤続に対する慰労的な性格から、税制上きわめて手厚い優遇が設けられています。
- ① 退職所得控除:勤続年数に応じた大きな非課税枠(勤続20年までは1年あたり40万円、20年超の部分は1年あたり70万円)が収入から差し引かれます
- ② 1/2課税:控除後の金額に、さらに2分の1を乗じた金額のみが課税対象になります(役員等で勤続年数5年以下の一部は対象外)
- ③ 分離課税:他の所得(給与所得・事業所得等)と合算されず、退職所得だけで独立して税額を計算します
この3つが組み合わさることで、同じ金額を「譲渡対価」としてそのまま受け取るよりも、適正範囲内で「退職金」として受け取った方が、結果として手取りが増えるケースが数多く生まれます。
(2)功績倍率法による適正額の算定と「過大退職金」のリスク
功績倍率法とは、退職金の適正額を「最終月額役員報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率」という計算式で算定する、税務上最も一般的で合理性が認められやすい算定方法のことです。代表取締役の場合、功績倍率はおおむね3.0倍程度が実務上の目安とされています。
この基準から大きく外れた過大な退職金を支給すると、税務調査において「不相当に高額な部分の金額」が法人の損金として認められず、さらに受け取った個人側でも退職所得ではなく給与所得(賞与)として扱われ、税制優遇が受けられなくなるという二重の不利益を被ります。
| 🔶 税理士の実務視点 M&Aのクロージング直前になって急いで退職金規程を作成したり、金額だけを積み増したりするケースを実務上よく見かけますが、これは税務調査で最も狙われやすいポイントの一つです。功績倍率法による算定根拠を書面化し、類似法人の水準とも乖離がないかを事前に確認したうえで、株主総会決議と役員退職慰労金規程の整備を、譲渡契約締結前の段階から並行して進めることを強く推奨します。 |
(3)役員退職慰労金規程の整備というプロセス
役員退職慰労金規程とは、退職金の算定方法・支給基準・支給時期などをあらかじめ会社の内部規程として定めておく文書のことです。規程が存在し、かつ株主総会でその支給が正式に決議されていることが、退職金として損金算入・退職所得課税を受けるための前提条件になります。M&A実行後に慌てて整備するのではなく、譲渡交渉と並行して準備を進めることが実務上のポイントです。
(4)consulting fee(顧問料・業務委託料)活用の是非
譲渡後も一定期間、売り手経営者が引き継ぎのために顧問やアドバイザーとして会社に関与し、その対価を「業務委託料(コンサルティングフィー)」として受け取る設計も実務上見られます。しかし、実態の伴わない名目上の顧問料は、税務上「譲渡対価の分割払い」とみなされて否認されるリスクが高い手法です。活用する場合は、実際の業務提供の実態(稼働時間、成果物、契約書上の役務内容)を伴わせ、対価水準も市場相場から乖離しないよう設計する必要があります。
| 🖼 [画像指示:手取り最大化を検討するための5ステップフロー図(①スキーム選定→②譲渡対価の内訳設計→③退職金規程の整備→④デューデリジェンスでの税務リスク洗い出し→⑤クロージング・申告)] キャプション:手取りは「決まった後」ではなく「設計段階」でほぼ決まります |
【STEP 1】 スキーム選定
株式譲渡か事業譲渡か、税負担のシミュレーションを踏まえて選択します。
【STEP 2】 譲渡対価の内訳設計
総額のうち、株式譲渡対価と退職金の配分をあらかじめ検討します。
【STEP 3】 退職金規程の整備
功績倍率法に基づく算定根拠を作成し、株主総会決議を経て規程化します。
【STEP 4】 デューデリジェンスでの税務確認
買い手側の税務DDでも整合性が問われるため、事前に資料を揃えておきます。
【STEP 5】 クロージング・申告
契約書の記載と実際の資金移動、確定申告の内容を一致させます。
3. 具体的シミュレーション|譲渡価格1億円ケースで見る手取りの差
結論として、退職金を組み合わせた設計にすることで、同じ譲渡価格1億円でも手取り額に約280万円の差が生まれる、という試算例を見ていきましょう(勤続25年、最終役員報酬月額80万円、功績倍率3.0倍という前提です)。
パターンA:譲渡対価1億円をすべて株式譲渡で受け取る場合
取得費・譲渡費用の合計を1,000万円と仮定すると、譲渡益は9,000万円になります。これに20.315%を乗じると、税額は約1,828万円。手取り額は約8,172万円となります。
パターンB:株式譲渡8,000万円+退職金2,000万円に分けて受け取る場合
株式譲渡部分(8,000万円)にかかる取得費・譲渡費用を800万円と仮定すると、譲渡益は7,200万円、税額は約1,462万円、手取りは約6,538万円です。
退職金部分(2,000万円)は、勤続25年の退職所得控除が1,150万円(40万円×20年+70万円×5年)となり、課税対象額は差額1,150万円分に1/2を乗じた425万円。ここに所得税・復興特別所得税・住民税を合わせても税額は約86万円にとどまり、手取りは約1,914万円になります。
| 項目 | パターンA(株式譲渡のみ) | パターンB(株式譲渡+退職金) |
| 譲渡対価の内訳 | 株式譲渡 1億円 | 株式譲渡 8,000万円/退職金 2,000万円 |
| 株式譲渡分の税額 | 約1,828万円 | 約1,462万円 |
| 退職金分の税額 | ― | 約86万円 |
| 合計税額 | 約1,828万円 | 約1,548万円 |
| 最終手取り額 | 約8,172万円 | 約8,452万円 |
同じ1億円の対価でも、退職金という受け取り方を組み合わせるだけで手取り額に約280万円の差が生まれる計算です。これはあくまで一例であり、勤続年数・役員報酬額・功績倍率、そして買い手側との交渉状況によって最適な配分は変わります。必ず個別のシミュレーションを行ってください。
4. よくある質問(FAQ)
Q1. 株式譲渡の税率20.315%はどんな場合でも一律ですか?
A. はい。株式譲渡による譲渡所得は、上場株式・非上場株式を問わず申告分離課税で一律20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)です。給与所得のような累進課税ではないため、譲渡益の金額にかかわらず税率は変わりません。
Q2. 退職金を活用すれば必ず節税になりますか?
A. 適正な金額の範囲内であれば手取りが増えるケースが多いですが、功績倍率法などの基準から大きく外れた過大な退職金は、税務調査で損金不算入・給与課税と認定されるリスクがあります。事前の規程整備と算定根拠の準備が前提条件です。
Q3. 事業譲渡の消費税はどの資産にかかりますか?
A. 土地や売掛金などの金銭債権は非課税ですが、建物・機械設備・什器備品・のれん(営業権)・棚卸資産などは課税資産として消費税10%の対象になります。契約書での資産ごとの対価配分を明確にしておくことが重要です。
Q4. 会社分割や合併の場合も同じ税金がかかりますか?
A. 会社分割や合併が税制上の「適格組織再編」の要件を満たす場合は、譲渡益への課税が繰り延べられる特例が適用されることがあり、株式譲渡や事業譲渡とは大きく異なる仕組みになります。要件判定が非常に複雑なため、検討の初期段階から専門家への相談が不可欠です。
Q5. コンサルティングフィーとして対価を分割して受け取れば税負担は下がりますか?
A. 実態の伴わない名目上の顧問料は、税務上「譲渡対価の分割払い」とみなされ否認されるリスクが高い手法です。活用する場合は、実際の業務提供の実態を伴う契約設計と、市場相場から乖離しない適正な対価水準の設定が必要になります。
5. まとめ|税務の判断は個々の状況によって異なります
- 株式譲渡は個人に20.315%、事業譲渡は法人に約30〜34%+消費税がかかるなど、スキームによって課税の仕組みがまったく異なります
- 退職所得控除・1/2課税・分離課税という3つの優遇を活用した「退職金活用」は、手取りを合法的に最大化する有力な手法です
- ただし過大退職金と認定されるリスクがあるため、功績倍率法に基づく算定根拠と規程整備を、譲渡交渉と並行して事前に進めておく必要があります
税務の判断は、会社の規模・業績の推移・役員報酬の水準・譲渡スキームなど、個々の状況によって最適解が大きく異なります。自己判断のまま交渉を進めて後から思わぬ税負担が発覚し、損をしてしまう前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
会社を譲って手元にいくら残る?
M&Aでかかる税金の全体像と、退職金を使った手取り最大化の技術
「譲渡価格〇〇万円で話がまとまりそうだ」——そこまで来て、ふと不安になる経営者の方は少なくありません。契約書に書かれた金額がそのまま自分の口座に入るわけではなく、税金という大きな網がかかるからです。「結局、手元にはいくら残るのか」が分からないまま契約を進めてしまうと、後になって想定より数百万円も少ない手取りに愕然とすることになりかねません。
この記事を読むことで、M&Aの対価にどのような税金がかかるのかという全体像と、同じ譲渡価格でも受け取り方を工夫するだけで手取りを大きく増やせる「退職金の活用」という実務的な技術が分かります。
結論:中小企業のM&Aでは、株式譲渡なら個人の譲渡所得として20.315%の分離課税で済むのが原則です。しかし、譲渡対価の一部を「役員退職金」として受け取る設計に組み替えるだけで、税負担をさらに引き下げ、手取りを数百万円単位で増やせるケースが数多くあります。ただし規程整備や算定根拠がなければ税務調査で否認されるリスクもあるため、交渉の初期段階から税理士を交えた事前設計が欠かせません。
M&Aでかかる税金の全体像
M&Aの税金とは、会社や事業を譲り渡す対価に対して課される税金の総称であり、譲渡の方法(株式譲渡か事業譲渡か)や売り手が個人か法人かによって、課税される税目も税率も全く異なるものを指します。まずはこの「全体像」を正確に押さえることが、手取り最大化の出発点です。
株式譲渡の場合の税金
オーナー経営者個人が保有する株式を買い手に売却する「株式譲渡」では、個人の譲渡所得として、所得税・住民税・復興特別所得税をあわせて20.315%の申告分離課税が適用されます。これは給与所得などとは合算されない別枠の計算方式で、譲渡益が大きくても税率が跳ね上がらない点が最大の特徴です。売り手が資産管理会社などの法人である場合は、法人税・地方法人税・法人住民税・事業税をあわせた実効税率(概算約33%)での総合課税となり、個人の場合とは仕組みが大きく異なります。
事業譲渡の場合の税金
会社という器ではなく、工場・顧客との契約・のれん(営業権)といった個々の資産・負債を買い手に譲る「事業譲渡」では、譲渡益は法人の利益として法人税等(実効税率約33%)の対象になります。加えて、譲渡する資産のうち機械設備やのれんなど課税資産には消費税が課される一方、土地や有価証券などは非課税資産にあたるため、資産ごとの課否判定が必要になります。株式譲渡と異なり、消費税の申告・納付という追加の実務が発生する点は見落とされがちな注意点です。
| 🖊 税理士の実務視点 「株式譲渡だから20.315%で済むはず」と思い込んで交渉を進め、あとから資産管理会社経由の株式であることが判明し、法人税率で計算し直す羽目になるケースを何度も見てきました。誰が株主で、どの法人が売り手になるのかは、税額計算の前提そのものです。基本合意の前に必ず確認してください。 |
| 比較項目 | 株式譲渡(個人株主) | 事業譲渡(法人) |
| 課税対象 | 株式の譲渡益(譲渡所得) | 資産・負債の譲渡益(法人の利益) |
| 主な税目 | 所得税・住民税・復興特別所得税 | 法人税・地方法人税・法人住民税・事業税 |
| 課税方式 | 申告分離課税(給与等と合算しない) | 総合課税(法人の他の損益と合算) |
| 実効税率の目安 | 20.315% | 約33%(会社の規模・所得により変動) |
| 消費税 | かからない(有価証券の譲渡は非課税) | 課税資産(機械・のれん等)にはかかる |
| 会社(法人格)の扱い | そのまま買い手に承継される | 会社は売り手に残り、資産だけが移転する |
| 【画像挿入】株式譲渡と事業譲渡で課税される税金の違いを、会社の器と中身に分けて示す対比イラスト キャプション:同じ「会社を譲る」でも、税金の仕組みはこんなに違います |
手取りを最大化する3つの実務的な工夫
譲渡方法が決まれば税率の大枠は動かせませんが、「対価の受け取り方」を工夫することで、同じ譲渡価格でも手取り額を増やせる余地があります。ここでは中小企業のM&Aで実際によく使われる3つの手法を、メリットと注意点あわせて解説します。
① 役員退職慰労金の活用
役員退職慰労金とは、会社を退任する役員に対して、それまでの功労に報いる目的で会社が支給する退職金のことです。退職所得には「退職所得控除」という大きな非課税枠が設けられており、さらに控除後の金額に2分の1を掛けてから税率を適用する「2分の1課税」という優遇措置があります。譲渡対価の一部をこの退職金として受け取る形に組み替えることで、株式譲渡の20.315%よりもさらに低い実効税率を実現できるケースが少なくありません。
② 役員退職慰労金規程の整備
退職金を活用する際に絶対に欠かせないのが、「役員退職慰労金規程」の整備です。功績倍率法(最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率)など、あらかじめ定められた合理的な基準に基づいて金額を算定していなければ、税務調査で「不相当に高額な部分」と指摘され、会社側の損金算入が否認されるリスクがあります。M&Aの交渉が始まってから慌てて規程を作るのではなく、日頃から規程を整備し、株主総会・取締役会の議事録を残しておくことが、退職金活用の前提条件になります。
③ コンサルティング料(顧問料)の活用と注意点
譲渡後も一定期間、旧オーナーが顧問やアドバイザーとして会社に関与し、その対価をコンサルティング料として受け取る設計も選択肢の一つです。所得区分が事業所得・雑所得となり、必要経費を控除できる余地がある点がメリットですが、実態を伴わない名目だけの顧問料は、税務上「実質的な譲渡対価の一部」と合算して認定される可能性があります。業務実態(稼働時間・成果物)を明確にし、金額も市場水準に見合う範囲に収めることが安全に活用するための条件です。
| 🖊 税理士の実務視点 退職金・コンサル料ともに「節税効果は大きいが、設計を誤ると税務調査で全額否認される諸刃の剣」です。国税当局は退任の実態・規程の有無・金額の合理性を厳しく見ます。国税OBが在籍し税務調査対応に精通した専門家と、契約書を作る前の段階でシミュレーションしておくことを強くおすすめします。 |
対価設計から退職金活用までの流れ
STEP 1 譲渡価格の総額・スキーム(株式/事業譲渡)を確定する
↓
STEP 2 役員退職慰労金規程の有無・内容を確認し、なければ整備する
↓
STEP 3 功績倍率法等で退職金の適正額を算定する
↓
STEP 4 退職金部分と株式譲渡対価部分に対価を切り分けた契約設計を行う
↓
STEP 5 税理士が税額シミュレーションを行い、双方合意のうえ契約書に反映する
| 【画像挿入】退職金活用を組み込んだM&Aの対価設計プロセスを示すフロー図 キャプション:「切り分け」の設計は契約書を作る前に済ませておくのが鉄則です |
具体的なシミュレーション:譲渡価格6,000万円のケース
年商8,000万円規模の会社を、譲渡価格6,000万円で株式譲渡する場合を例に、退職金を活用した場合としない場合の手取り額を比較してみます(取得費は簡便的に1,000万円、勤続年数30年と仮定した概算値です)。
ケースA:対価6,000万円をすべて株式譲渡対価として受け取る場合
- 譲渡所得=6,000万円-取得費1,000万円=5,000万円
- 税額=5,000万円×20.315%=約1,016万円
- 手取り=6,000万円-約1,016万円=約4,984万円
ケースB:対価のうち2,000万円を役員退職金、残り4,000万円を株式譲渡対価とする場合
- 退職所得控除額=800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
- 退職所得=(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円(分離課税・概算実効税率20%として税額約50万円)
- 株式譲渡分の譲渡所得=4,000万円-取得費1,000万円=3,000万円
- 株式譲渡分の税額=3,000万円×20.315%=約609万円
- 税額合計=約50万円+約609万円=約659万円
- 手取り=6,000万円-約659万円=約5,341万円
| 🖊 税理士の実務視点 同じ6,000万円の譲渡価格でも、対価の切り分け方によって手取り額に約357万円もの差が生まれる計算になります。これはあくまで勤続年数・功績倍率などを仮定した概算シミュレーションであり、実際の金額は退職金規程の内容や個々の所得状況によって変動します。契約条件を固める前に、必ず個別の試算を行ってください。 |
| 比較項目 | ケースA(全額株式譲渡) | ケースB(退職金2,000万円活用) |
| 対価の内訳 | 株式譲渡対価6,000万円 | 退職金2,000万円+株式譲渡対価4,000万円 |
| 税額(概算) | 約1,016万円 | 約659万円 |
| 手取り額(概算) | 約4,984万円 | 約5,341万円 |
| 差額 | - | 約+357万円 |
よくある質問(FAQ)
Q. 退職金を活用すれば必ず税金は安くなりますか?
A. 多くのケースで有利になりますが、必ずではありません。役員退職慰労金規程が整備されておらず金額の算定根拠が乏しい場合、税務調査で「不相当に高額」と判断され、会社側で損金不算入となるリスクがあります。事前の規程整備と適正額の算定が前提条件です。
Q. 事業譲渡では消費税は必ずかかりますか?
A. 資産ごとに課税・非課税の判定が必要です。機械設備やのれん(営業権)などは課税資産にあたり消費税がかかりますが、土地や有価証券は非課税資産にあたります。譲渡資産の一覧を作り、資産ごとに課否判定を行う実務が必要になります。
Q. 売り手が個人か法人かで、税金の扱いはどう変わりますか?
A. 個人が株式を譲渡する場合は譲渡所得として20.315%の分離課税、法人(資産管理会社など)が譲渡する場合は法人税等として実効税率約33%の総合課税になります。同じ株式譲渡でも税率も申告方法も根本的に異なるため、誰が株主かの確認が最初のステップです。
Q. コンサルティング料(顧問料)を使った節税は安全ですか?
A. 業務の実態が伴っていれば有効な選択肢ですが、名目だけの顧問料は「実質的な譲渡対価の分割払い」とみなされ、譲渡所得として合算課税される可能性があります。稼働実態を明確にし、金額も市場水準に収めることが必要です。
Q. こうした節税策は、いつから準備すればよいですか?
A. 交渉が本格化する前、遅くとも基本合意書を締結する前の段階で準備を始めるべきです。契約金額が固まった後に対価の内訳を組み替えようとすると、買い手との再交渉が必要になり、まとまりかけた話が振り出しに戻ることもあります。
まとめ ―― ご相談はお気軽に
- 株式譲渡は20.315%の分離課税、事業譲渡は法人税等(実効税率約33%)+消費税と、税金の仕組みは全く異なります。
- 役員退職慰労金を活用すると手取りを大きく増やせる可能性がありますが、規程整備と適正額の算定が絶対条件です。
- 対価の内訳(株式譲渡対価と退職金の切り分け)は、契約条件を固める前の段階で設計しておく必要があります。
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。国税OBによる税務調査対応力と、税理士・社会保険労務士が連携する体制で、税務面だけでなく退職金規程の整備や労務面まで含めたM&A後の手取り最大化を総合的にサポートいたします。
M&Aで会社を売った後、手取りはいくら残る?
税金の仕組みと合法的に増やす3つの工夫【M&A特集・第4回税金編】
結論から申し上げます。M&Aで本当に大事なのは「いくらで売れたか」ではなく「税金を引かれたあと、手元に何が残るか」です。同じ譲渡価格1億円のM&Aでも、株式譲渡か事業譲渡か、退職金を活用するかどうかで、手取り額は数百万円単位で変わります。今回は中小企業M&Aシリーズ第4回として、M&Aにかかる税金の全体像と、税理士の実務視点から見た「合法的に手取りを増やす工夫」を、具体的な数字とともに解説します。
この記事でわかること
- M&Aでかかる税金の種類と、株式譲渡・事業譲渡で税金がどう違うか
- 手取りを最大化する3つの実務的な工夫(退職金・対価の分散・消費税の精査)
- 退職金を活用する際の具体的な手順と注意点
- 譲渡価格1億円ケースでの手取りシミュレーション
- 実務でよくある失敗・税務調査で否認されるパターン
| 📌 結論:手取り最大化の3つの柱 ① 個人株主であれば、原則として税率20.315%の分離課税で済む株式譲渡を軸に検討する。② 役員退職慰労金規程を整備したうえで、譲渡対価の一部を退職金として受け取る。③ 消費税の課税区分を精査し、想定外の納税を防ぐ。ただし、これらはいずれも「税務署に否認されないための事前設計」が前提です。M&Aの契約を締結する前に、必ず税理士に相談してシミュレーションを行ってください。 |
1. M&Aにかかる税金の全体像 ― 株式譲渡と事業譲渡ではまったく違う
結論として、M&Aの税金は「誰が」「何を」売るかによって、税金の種類も税率もまったく異なります。まずは全体像を押さえましょう。
1-1. 株式譲渡の場合にかかる税金
株式譲渡とは、会社のオーナー(株主)が保有している株式を買い手に売り渡し、会社の経営権をそのまま引き継いでもらう方法のことです。たとえるなら、八百屋さんの「お店の看板・在庫・従業員・お客様」をまるごと、経営権の証明書(株式)を渡すだけで引き継いでもらうイメージです。
個人株主が株式を譲渡した場合、その利益(譲渡所得)には、給与所得などとは切り離して計算する「申告分離課税」が適用されます。税率は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%を合わせて合計20.315%です。この税率は、譲渡益がいくら大きくなっても一律である点が特徴です。
🖼 株式譲渡と事業譲渡の違いをイラストで比較する図解/キャプション:「会社ごと渡す」株式譲渡と「一部だけ渡す」事業譲渡の違い
1-2. 事業譲渡の場合にかかる税金
事業譲渡とは、会社という器(法人格)はそのまま残し、工場・店舗・顧客との契約など「特定の事業」だけを切り出して買い手に売る方法のことです。リンゴ農家でたとえるなら、農園という経営体はそのまま残しつつ、「りんごの木とその収穫の権利」だけを他の農家に売るようなイメージです。
事業譲渡で利益が出た場合、その利益は会社の利益として法人税・法人住民税・法人事業税(合わせて実効税率でおおむね30%台前半)が課税されます。さらに、譲渡する資産のうち機械設備や在庫、のれん(営業権)といった課税資産には消費税もかかります。株式譲渡にはない「消費税の負担」が生じる点が、事業譲渡の大きな特徴です。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
| 課税される主体 | 個人株主(オーナー) | 会社(法人) |
| 主な税金 | 譲渡所得税等 20.315%(分離課税) | 法人税等 実効税率 約30%台 |
| 消費税 | かからない(有価証券の譲渡は非課税) | 課税資産(設備・在庫・のれん等)にかかる |
| 繰越欠損金の活用 | 会社が存続するため、一定要件で引き継ぎ余地あり | 資産のみの移転のため、原則引き継げない |
| 税額の目安 | 譲渡益に対して一律20.315% | 利益額・他の損益との通算次第で変動 |
2. 手取りを最大化する3つの実務的な工夫
税金の仕組みを理解したら、次は「合法的に手取りを増やす」実務のテクニックです。結論として、有効な工夫は大きく3つあります。
2-1. ① 退職金の活用(役員退職慰労金規程)
退職金とは、長年の功績に報いるために会社から支給される一時金のことです。退職金には税制上、非常に手厚い優遇(退職所得控除・2分の1課税)が用意されており、M&Aのクロージング時に、譲渡対価の一部を「退職金」として受け取ることで、株式譲渡の税率20.315%よりも実質的な負担を抑えられるケースがあります。
ただし、退職金として認められるには「実際に退職の実態があること」「金額が過大でないこと(功績倍率法などで適正水準を算定していること)」が必須です。名目だけ退職金にして、実際は経営に関与し続けている場合、税務調査で否認され、追徴課税を受けるリスクがあります。
2-2. ② 譲渡対価の受け取り方・タイミングの分散
M&A後、旧オーナーが一定期間、顧問(コンサルティング)として会社に関与し、その対価の一部を顧問料として受け取る設計も選択肢のひとつです。顧問料は給与所得や事業所得として課税されますが、支払いの時期を分散させることで、資金繰りや税負担のバランスを取りやすくなります。ここでも「実態のある役務提供」であることが前提です。
2-3. ③ 消費税の課否区分の精査(事業譲渡の場合)
事業譲渡を選ぶ場合は、譲渡する資産ひとつひとつについて、消費税が課税されるものか非課税・不課税のものかを事前に精査することが欠かせません。土地は非課税、機械設備やのれんは課税対象など、区分を誤ると想定外の消費税納付が発生し、手取りを圧迫します。
🖼 退職金活用による手取り増加のイメージ図(積み上げ棒グラフ風)/キャプション:譲渡対価の一部を退職金に振り替えると、税負担の山が低くなるイメージ
2-4. 退職金活用の実務ステップ
| STEP 1 M&Aの検討を開始した早い段階で、役員退職慰労金規程を整備する |
↓
| STEP 2 功績倍率法などを用いて、適正な退職金の水準をあらかじめ試算する |
↓
| STEP 3 M&A契約書上、譲渡対価と退職金の支払いを明確に区分して記載する |
↓
| STEP 4 クロージング時に退職金を支給し、退職所得としての源泉徴収を行う |
↓
| STEP 5 実行前に税理士とシミュレーションを行い、否認リスクを最小化する |
| 🖋 税理士の実務視点 退職金の活用は非常に有効な手取り最大化の手法ですが、税務署は「実態」を厳しく確認します。譲渡後も実質的に経営の意思決定に関与し続けているにもかかわらず退職金として処理すると、給与や賞与とみなされて否認される可能性が高くなります。契約書・株主総会や取締役会の議事録・実際の業務引継ぎの状況を、すべて整合させておくことが実務上のポイントです。 |
3. シミュレーション:譲渡価格1億円のケースで比較する
結論として、退職金を組み合わせることで、同じ譲渡価格1億円でも手取りに差が生まれます。以下は個人株主(勤続20年、株式の取得費1,000万円)を前提とした概算シミュレーションです。数字はあくまで目安であり、実際の税額は個々の所得状況や累進課税により変動するため、実行前に必ず税理士による精密なシミュレーションを行ってください。
ケースA:譲渡対価の全額を株式譲渡で受け取る場合
- 譲渡益 = 1億円 − 取得費1,000万円 = 9,000万円
- 税額 = 9,000万円 × 20.315% ≒ 1,828万円
- 手取り = 1億円 − 1,828万円 ≒ 8,172万円
ケースB:対価のうち2,000万円を退職金、残り8,000万円を株式譲渡で受け取る場合
- 退職所得控除 = 40万円 × 勤続20年 = 800万円
- 退職所得 = (2,000万円 − 800万円)× 1/2 = 600万円 → 概算税額 約180万円(他の所得との合算・税率を概算で仮定)
- 株式譲渡部分の譲渡益 = 8,000万円 − 取得費800万円(按分後) = 7,200万円
- 株式譲渡部分の税額 = 7,200万円 × 20.315% ≒ 1,463万円
- 合計税額 ≒ 1,643万円 → 手取り ≒ 8,357万円
| 比較項目 | ケースA(株式譲渡のみ) | ケースB(退職金2,000万円を活用) |
| 譲渡価格(総額) | 1億円 | 1億円 |
| 税額(概算合計) | 約1,828万円 | 約1,643万円 |
| 手取り額(概算) | 約8,172万円 | 約8,357万円 |
| 差額 | ― | 約185万円の手取り増(あくまで概算目安) |
※上記はあくまで概算の目安です。退職所得の実際の税額は累進課税に基づき他の所得と合算して計算されるため、個々の状況によって結果は変わります。必ず事前に税理士へご相談のうえ、精密なシミュレーションを行ってください。
4. 実務上の注意点・よくある失敗の罠
- 過大退職金の否認リスク:功績倍率法から大きく逸脱した金額を退職金として処理すると、超過部分が損金不算入・給与認定されるおそれがあります。
- 実態のない「名目上の退職」:M&A後も実質的に経営を続けているのに退職金として処理すると、租税回避と判断されるリスクがあります。
- 顧問料が給与とみなされるリスク:勤務実態・指揮命令関係によっては、顧問料が給与とみなされ、社会保険料の追徴につながることがあります。
- 消費税の課否区分の誤り:事業譲渡で資産ごとの課税区分を誤ると、想定外の消費税納付が発生し、手取りを圧迫します。
- 対策の実行タイミングの遅れ:退職金規程の整備や契約書の設計は、M&Aの基本合意前後から準備しないと間に合わないケースが多くあります。
5. よくある質問(FAQ)
Q1. M&Aの税金は、必ず20.315%になるのですか?
いいえ、必ずしもそうではありません。個人株主による株式譲渡であれば分離課税の20.315%が原則ですが、事業譲渡の場合は会社に法人税等(実効税率約30%台)と消費税が別途かかります。また退職金を活用する場合は、退職所得の計算方法に基づいた別の税率になります。
Q2. 譲渡対価を退職金として受け取れば、必ず得になりますか?
必ずしも得になるとは限りません。退職金の金額・勤続年数・他の所得の状況によって有利不利が変わるため、契約前に必ず税理士によるシミュレーションを行うことが重要です。
Q3. 消費税はどのような場合にかかりますか?
事業譲渡において、機械設備や在庫、のれん(営業権)といった課税資産を譲渡する場合に消費税がかかります。一方、株式譲渡は有価証券の譲渡にあたるため、消費税は非課税です。
Q4. 繰越欠損金はM&A後も引き継げますか?
株式譲渡の場合、会社自体は存続するため、一定の要件を満たせば繰越欠損金を引き継げる余地があります。事業譲渡の場合は資産のみが移転するため、原則として繰越欠損金は引き継げません。
Q5. 顧問料(consulting fee)として対価を受け取る際の注意点は?
実態のある役務提供であることが大前提です。名目だけの顧問契約で実際の業務がない場合、税務調査で否認され、追徴課税や社会保険料の追徴につながるおそれがあります。
6. まとめ:M&Aの手取りは、税金の設計次第で変わる
- M&Aで重要なのは譲渡価格そのものではなく、税金を差し引いたあとの「手取り額」である
- 退職金の活用や対価の分散は有効な手法だが、税務署に否認されないための事前の実態づくりと書類整備が不可欠である
- 株式譲渡・事業譲渡それぞれの税金の仕組みを正しく理解したうえで、M&Aの契約前に税務戦略を立てることが手取り最大化の第一歩である
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
後継者不在でも会社は残せる
中小企業のM&Aによる事業承継、廃業する前に知っておきたい基礎知識
「長年かけて育ててきた会社なのに、継いでくれる子どもも身内もいない」——多くの経営者さまが、口には出さなくても、この悩みを抱えていらっしゃいます。「後継者がいないなら、いずれ会社をたたむしかない」と思い込んでいませんか。
結論から申し上げます。後継者がいないことは、廃業の理由にはなりません。M&A(会社や事業を第三者に引き継ぐ取引)という選択肢を使えば、従業員の雇用を守りながら、経営者ご自身も引退後の生活資金を確保したうえで、会社を次の世代へとつなぐことができます。
この記事を読んでいただければ、中小企業のM&Aとはどのような仕組みなのか、株式譲渡と事業譲渡の違い、実際にどれくらいの金額で会社を譲渡できるのか、そして何より「何から始めればよいのか」が具体的にイメージできるようになります。税理士の実務視点から、廃業とM&A、どちらが本当に会社と社員のためになるのかを、順を追って解説いたします。
そもそも中小企業のM&Aとは?「会社を売る」ことの本当の意味
結論 中小企業のM&Aとは、会社を見捨てることでも身売りすることでもなく、経営者が大切に育ててきた事業を「次の担い手」に引き継ぐための出口戦略です。
M&Aとは、Mergers and Acquisitions(合併と買収)の略で、会社や事業の経営権を、契約によって他の会社や個人に引き継ぐ取引全体のことです。中小企業の世界では、後継者がいない経営者が、取引先や投資会社など第三者に会社を譲り、経営者は引退資金を受け取り、従業員はそのまま新しい体制のもとで働き続ける、という形が最も一般的です。
例えば、長年リンゴ農園を営んできた方が、跡を継ぐ子どもがいないとします。畑を放置すれば、木は枯れ、働いていた従業員も職を失います。しかし、その畑と栽培のノウハウを、意欲のある近隣の農家さんに引き継いでもらえれば、りんごの木も、従業員の仕事も、取引先との関係も、すべてそのまま存続します。中小企業のM&Aは、まさにこの「畑ごと引き継ぐ」発想と同じです。
■ なぜ「身売り」ではなく「バトンタッチ」なのか
廃業を選んだ場合、従業員は全員解雇となり、取引先との契約も終了し、長年培ってきた技術やノウハウ、顧客からの信用(のれん)もすべて失われます。一方、M&Aによって会社を引き継いだ場合は、経営者は交代しますが、会社そのものは存続し、雇用契約も、取引先との契約も、多くの場合そのまま引き継がれます。「会社を売る」という言葉のイメージだけで判断せず、実質的にどちらが会社と従業員を守れる選択か、という観点で考えることが実務上は重要です。
■ 中小企業のM&Aが増えている背景
経営者の高齢化と後継者不在という構造的な課題を背景に、第三者への引き継ぎを前提としたM&Aは、中小企業にとってごく一般的な事業承継の手段になっています。かつては「会社は身内が継ぐもの」という考え方が主流でしたが、少子化や職業選択の多様化により、子どもや親族に継ぐ意思がない、あるいは経営者としての適性や本人の希望が合わないケースが増えています。こうした背景から、国や金融機関、民間の仲介会社が連携し、第三者への引き継ぎを支援する体制が整ってきました。今や中小企業のM&Aは、一部の限られた企業だけの話ではなく、後継者不在に悩むすべての経営者にとって検討する価値のある選択肢です。
[画像指示:後継者不在の会社が「廃業」と「M&Aによる第三者承継」のどちらを選ぶかで、従業員・取引先・地域経済への影響がどう変わるかを対比して示す図解イラスト/キャプション:廃業とM&A、会社の未来はこんなに変わります]
廃業とM&A、何が違うのか(比較表)
結論 廃業は会社の歴史を終わらせる選択、M&Aは会社の歴史を次につなぐ選択です。両者の違いを整理すると、経営者にとっての得失がはっきり見えてきます。
| 比較項目 | 廃業を選んだ場合 | M&Aで引き継いだ場合 |
| 従業員の雇用 | 原則としてすべて解雇 | 多くの場合、雇用契約ごと引き継がれる |
| 取引先との関係 | 契約終了・取引停止 | 契約が存続するケースが多い |
| 経営者の手取り | 資産売却・清算費用を差し引いた残り | 譲渡対価としてまとまった資金を受け取れる可能性 |
| 借入金の個人保証 | 経営者が返済義務を負い続けることが多い | 譲渡先への引き継ぎ・解除を交渉できる |
| 清算手続きの費用 | 発生する(解散登記・在庫処分等) | 事業が継続するため不要なことが多い |
| 会社の歴史・のれん | 消滅する | 存続し、次の世代に引き継がれる |
このように比較すると、廃業は「終わらせる」選択であるのに対し、M&Aは「引き継ぎながら、経営者自身も次の生活の準備ができる」選択であることがわかります。もちろんすべての会社がM&Aできるわけではありませんが、検討すらせずに廃業を選んでしまうのは、経営者にとっても従業員にとっても、大きな機会損失になりかねません。
M&Aの2つの主な方法「株式譲渡」と「事業譲渡」の仕組み
結論 中小企業のM&Aは、会社ごと渡す「株式譲渡」と、事業の一部だけを渡す「事業譲渡」の、大きく2つの方法に分かれます。どちらを選ぶかで、税金の種類も手続きの手間も大きく変わります。
■ 株式譲渡とは
株式譲渡とは、会社のオーナーである株主が、保有する株式を買い手に譲り渡すことで、会社の経営権をそのまま引き継ぐ方法のことです。
家計に例えるなら、財布の中身を一つひとつ分けるのではなく、「財布そのもの」を丸ごと渡すイメージです。会社が持っている資産も負債も、従業員との雇用契約も、取引先との契約も、許認可も、基本的にはすべてそのままの状態で新しい株主(買い手)に引き継がれます。手続きが比較的シンプルなため、中小企業のM&Aでは最も多く使われる方法です。
■ 事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社という器はそのままに、特定の事業(店舗、設備、従業員との契約、顧客との関係など)だけを選んで買い手に譲り渡す方法のことです。
先ほどの家計の例で言えば、財布ごと渡すのではなく、「財布の中から必要なものだけを選んで渡す」イメージです。複数の事業を展開している会社が、不採算部門を切り離して優良部門だけを譲渡する場合や、買い手が特定の店舗や技術だけを求めている場合に使われます。ただし、契約や許認可、従業員との雇用契約は一つひとつ個別に引き継ぎの手続きが必要になるため、株式譲渡に比べて実務上の手間は大きくなります。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
| 引き継ぐ対象 | 会社そのもの(資産・負債・契約すべて) | 選んだ事業・資産・契約のみ |
| 手続きの手間 | 比較的シンプル | 契約・許認可を個別に引き継ぐため煩雑 |
| 対価を受け取る主体 | 株主である経営者個人 | 会社(法人) |
| かかる税金の種類 | 譲渡所得税(申告分離課税) | 法人税等、消費税(課税資産のみ) |
| 簿外債務のリスク | 買い手が引き継ぐ可能性がある | 会社側に残るため買い手はリスクを避けやすい |
| 許認可の引き継ぎ | 原則そのまま存続 | 業種によっては買い手が再取得する必要がある |
[画像指示:株式譲渡は「財布ごと渡す」、事業譲渡は「財布の中身を選んで渡す」という違いを対比するイラスト/キャプション:株式譲渡と事業譲渡、渡し方の違いをイメージで理解しましょう]
中小企業がM&Aを行う3つのメリット
結論 中小企業のM&Aには、廃業では得られない3つの大きなメリットがあります。
1つ目は、従業員の雇用が守られることです。長年一緒に働いてきた従業員の生活を、経営者の引退を理由に断ち切らずに済みます。
2つ目は、経営者自身が引退後の生活資金を確保できることです。譲渡の対価として、まとまった資金を受け取ることができ、老後の生活設計に充てることができます。
3つ目は、取引先や地域経済への影響を最小限に抑えられることです。会社が存続することで、取引先との契約や地域での雇用が維持され、長年築いてきた信用(のれん)も次の経営者に引き継がれます。
知っておくべき2つのデメリット・注意点
結論 メリットが大きい一方で、M&Aには事前に理解しておくべきデメリットもあります。
1つ目は、希望どおりの相手が見つかるとは限らず、成約までに一定の時間がかかることです。相手探しから最終契約まで、半年から1年以上かかるケースも珍しくありません。早めに動き出すことが、良い条件での成約につながります。
2つ目は、情報管理の難しさです。M&Aを検討していることが早期に社内外に漏れてしまうと、従業員の不安や取引先の疑念を招き、交渉自体が不利になることがあります。信頼できる専門家を通じて、秘密保持契約のもとで慎重に進める必要があります。
なお、金融機関からの借入に経営者個人が保証人になっている場合(経営者保証)、譲渡後にこの保証をどう解除するかも、事前に確認しておくべき重要なポイントです。
実務上の注意点・失敗しやすい罠
結論 M&Aで後悔しないためには、「早すぎる社内公表」「価格だけでの相手選び」「専門家を通さない個人交渉」という3つの罠を避けることが重要です。
■ 早すぎる社内公表による社内混乱
M&Aの検討段階で従業員に情報が伝わってしまうと、「会社が売られる」という不安から、優秀な人材が先に離職してしまうことがあります。原則として、基本合意が固まる段階まで、情報を知る人は最小限にとどめるべきです。
■ 相手先選びを価格だけで決めてしまう罠
提示された譲渡価格の高さだけで相手を選んでしまうと、譲渡後に従業員の待遇が悪化したり、経営方針が大きく変わってしまったりするリスクがあります。価格だけでなく、従業員の雇用条件をどう維持するか、経営理念を引き継ぐ意思があるかも、重要な判断材料です。
■ 公的機関や専門家を通さない個人間交渉のリスク
知人の紹介など、専門家を介さない個人間の交渉で話を進めてしまうと、契約書の不備や、簿外債務の見落とし、税務上の思わぬ負担が後から発覚するケースがあります。税理士や中小企業のM&Aに精通した専門家に、初期の段階から関与してもらうことが、後悔しないM&Aの絶対条件です。
M&Aが成約するまでの流れ(ステップ図)
結論 中小企業のM&Aは、おおよそ半年から1年程度をかけて、次の7つのステップで進みます。
STEP1 専門家への相談
↓
STEP2 秘密保持契約の締結
↓
STEP3 ノンネーム(会社名を伏せた概要書)での相手探し
↓
STEP4 トップ面談(経営者同士の顔合わせ)
↓
STEP5 基本合意書の締結(価格・条件のおおまかな合意)
↓
STEP6 デューデリジェンス(買い手による財務・法務等の詳細調査)
↓
STEP7 最終契約・クロージング(契約締結・資金決済・経営権の引き継ぎ)
それぞれのステップで後戻りややり直しが発生することもありますが、事前に流れを知っておくことで、今どの段階にいるのか、次に何をすべきかを見失わずに進めることができます。
[画像指示:相談からクロージングまでのM&A手続き7ステップを示すフローチャート図解/キャプション:中小企業のM&A、成約までの一般的な流れ]
具体的なシミュレーション:年商8,000万円の製造業のケース
結論 会社の値段は「純資産+数年分の利益」という考え方(年買法)で、実務上おおよその目安をつけることができます。実際の数字で見てみましょう。
【前提条件】
・業種:金属加工業
・年商:8,000万円
・営業利益:500万円
・純資産(時価ベース):3,000万円
・経営者が設立時に出資した資本金(取得費):300万円
【譲渡価格の目安(年買法による簡易計算)】
時価純資産3,000万円 + 営業利益500万円 × 3年分1,500万円 = 譲渡価格の目安 4,500万円
【株式譲渡を選んだ場合の手取り試算】
譲渡所得 = 譲渡価格4,500万円 - 取得費300万円 = 4,200万円
譲渡所得税等(申告分離課税20.315%) = 4,200万円 × 20.315% = 約853万円
手取り額 = 4,500万円 - 約853万円 = 約3,647万円
このケースでは、経営者は会社を譲渡することで約3,647万円の資金を手にしたうえで、8,000万円の売上を生み出していた会社と、そこで働く従業員の雇用を存続させることができます。廃業を選んだ場合、在庫処分や解散・清算の費用、原状回復費用などがかかり、手元に残る金額はこれより大きく目減りするのが一般的です。
※ここでの譲渡価格は簡易的な目安であり、実際の取引価格は、収益力、将来性、業界動向、買い手との交渉によって変動します。正式な評価には専門家による詳細な算定が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 赤字の会社や、業績が悪化している会社でもM&Aはできますか?
A. 可能です。技術力や顧客基盤、許認可など、赤字であっても買い手にとって価値のある要素があれば、譲渡先が見つかるケースは珍しくありません。赤字だからとあきらめず、まずは専門家に相談することをお勧めします。
Q. 家族に話す前に、外部の専門家に相談しても問題ありませんか?
A. 問題ありません。M&Aの専門家との相談は、秘密保持契約のもとで行われるのが一般的です。家族や従業員に伝えるタイミングは、話が具体的に進んでから慎重に検討すればよく、まずは情報収集の意味で早めに専門家に相談することをお勧めします。
Q. 従業員には、いつ、どのように伝えればよいですか?
A. 一般的には、基本合意が固まり、成約の見通しが立った段階で伝えるケースが多くなっています。あまりに早い段階で伝えると、不安から離職者が出るリスクがあるため、伝えるタイミングと伝え方は、専門家と相談しながら慎重に設計することが重要です。
Q. 個人事業主でも会社と同じようにM&Aはできますか?
A. できます。個人事業主の場合は株式が存在しないため、店舗や設備、顧客との契約などを個別に引き継ぐ「事業譲渡」に近い形で行われるのが一般的です。
Q. 専門家への相談には費用がかかりますか?
A. 事務所や公的な相談窓口によって異なりますが、初回の相談を無料で行っているところも多くあります。まずは費用の心配をする前に、現状を整理する目的で相談してみることをお勧めします。
まとめ&お問い合わせへの誘導
この記事の要点は次の3つです。
1.後継者不在は廃業の理由にはならず、M&Aによって会社と従業員の雇用を守りながら、経営者自身も引退後の資金を確保できます。
2.M&Aには「株式譲渡」と「事業譲渡」という2つの方法があり、それぞれ税金の種類や手続きの手間が異なります。
3.良い条件でのM&Aを実現するには、早めの相談と、信頼できる専門家の関与が欠かせません。
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
株式譲渡と事業譲渡、結局どっちが得?
中小企業M&Aの税金を徹底比較
「会社を売る」と一言で言っても、実は方法が2つあることをご存じでしょうか。「株式譲渡」と「事業譲渡」、どちらを選ぶかによって、手取り額も手続きの手間も大きく変わってきます。
結論からお伝えすると、多くの中小企業のオーナー経営者にとっては、税負担の面で「株式譲渡」の方が手取りが多くなるケースが一般的です。ただし、買い手側の意向や会社の状況によっては事業譲渡が選ばれることもあります。この記事を読めば、それぞれの仕組みと税金の違い、具体的な手取り額のシミュレーションまで理解できます。
株式譲渡と事業譲渡とは、それぞれ何が違うのか
株式譲渡とは、会社のオーナー(株主)が保有している株式を買い手に売り渡すことで、会社の経営権を移転させる方法です。会社そのものは変わらず、社長という「持ち主」だけが交代するイメージです。
事業譲渡とは、会社という「箱」はそのまま残し、その中にある特定の事業(工場・店舗・従業員・取引先との契約など)だけを個別に買い手企業へ売り渡す方法です。八百屋さんで例えるなら、株式譲渡は「お店ごと看板ごと売る」こと、事業譲渡は「店内の商品棚と冷蔵庫だけを選んで売る」ことに近いイメージです。
[画像指示:株式譲渡(会社ごと渡す)と事業譲渡(中身だけ渡す)を対比するシンプルなイラスト/キャプション:株式譲渡は「会社ごと」、事業譲渡は「中身だけ」を譲り渡す]
株式譲渡と事業譲渡の違いを一覧で比較
両者の違いは税金だけではありません。契約の対象、許認可の扱い、手続きの煩雑さなど、実務上のポイントを一覧で整理します。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
| 譲渡の対象 | 会社の株式(経営権) | 特定の事業・資産・契約 |
| 対価の受け取り手 | 株主(社長個人) | 会社(法人) |
| 主にかかる税金 | 譲渡所得税(申告分離課税 20.315%) | 法人税等(約30〜34%)+消費税(課税資産部分) |
| 許認可・契約の引き継ぎ | 原則そのまま引き継がれる | 個別に契約を結び直す必要がある場合が多い |
| 簿外債務のリスク | 会社ごと引き継ぐため、買い手が負うリスクが高い | 個別に資産・負債を選んで引き継げるため、買い手のリスクを限定しやすい |
| 手続きの煩雑さ | 比較的シンプル | 契約の巻き直しなどで煩雑になりやすい |
それぞれの税金の仕組みを詳しく見る
株式譲渡にかかる税金:譲渡所得税
株式譲渡の場合、株式を売った社長個人に譲渡所得税が課税されます。譲渡所得は「譲渡価格-(取得費+譲渡費用)」で計算され、この譲渡所得に対して所得税15.315%(復興特別所得税を含む)と住民税5%、合計20.315%の税率が適用される申告分離課税の対象となります。給与所得など他の所得とは分離して計算されるため、税率が一定である点が特徴です。
事業譲渡にかかる税金:法人税と消費税
事業譲渡の場合、対価を受け取るのは会社(法人)です。譲渡益(譲渡価格-譲渡資産の簿価)は会社の益金となり、他の事業年度の損益と合算のうえ法人税・法人住民税・法人事業税(実効税率でおおむね30〜34%程度)が課税されます。さらに、譲渡する資産の中に土地以外の課税資産(機械設備や在庫、のれんなど)が含まれる場合は、消費税の課税対象にもなります。
また、事業譲渡で会社に残った譲渡代金を、社長個人が役員退職金や配当として受け取る場合には、さらにそこへ所得税・住民税が課税される点にも注意が必要です。これが「二重課税」と呼ばれる事業譲渡の税負担の重さにつながります。
[画像指示:株式譲渡は個人へ一段階課税、事業譲渡は法人課税+個人への分配で二段階課税となることを示す階層図/キャプション:事業譲渡は会社と個人の「二段階」で税金がかかることがある]
それぞれのメリット・デメリット
株式譲渡のメリット・デメリット
- メリット:税率が20.315%と一定で、事業譲渡に比べて手取り額が多くなりやすい
- メリット:許認可や取引契約がそのまま引き継がれるため、手続きが比較的シンプル
- デメリット:簿外債務や偶発債務も含めて会社ごと引き継がれるため、買い手がリスクを警戒しやすい
事業譲渡のメリット・デメリット
- メリット:買い手は必要な資産・契約だけを選んで引き継げるため、簿外債務のリスクを避けやすい
- メリット:不採算部門を除いた優良事業だけを譲渡するといった柔軟な設計がしやすい
- デメリット:法人税と個人への分配課税が重なりやすく、税負担は株式譲渡より重くなりがち
- デメリット:許認可や雇用契約、取引契約を個別に結び直す必要があり、手続きに手間がかかる
具体的なシミュレーション:譲渡価格1億円のケース
譲渡価格1億円、取得費(資本金等)1,000万円のケースで、株式譲渡と事業譲渡それぞれの手取り額を比較してみましょう(事業譲渡後に会社を清算し、残余財産をすべて社長が受け取る前提での簡易試算です)。
| 項目 | 株式譲渡の場合 | 事業譲渡の場合(簡易試算) |
| 譲渡価格 | 1億円 | 1億円 |
| 取得費・簿価等 | 1,000万円 | 1,000万円(帳簿価額と仮定) |
| 譲渡益 | 9,000万円 | 9,000万円 |
| 法人税等(実効税率約33%と仮定) | 課税なし(個人が直接譲渡) | 約2,970万円 |
| 会社に残る資金 | ― | 約7,030万円(1,000万円+税引後利益) |
| 個人への課税(譲渡所得税20.315%/会社清算時のみなし配当課税として概算) | 約1,828万円 | 残余財産分配に対し総合的な課税(概算で約1,500万円〜2,000万円程度) |
| 社長個人の手取り額(概算) | 約8,172万円 | 約5,000万円台〜6,000万円台程度 |
| 税理士の実務視点から見た結論 上記はあくまで簡易的な試算モデルです。実際には取得費の算定方法、会社清算時のみなし配当課税の扱い、退職金として受け取る場合の退職所得控除の活用など、個別の事情によって手取り額は大きく変動します。 一般論として、オーナー経営者個人の手取りを最大化する観点では株式譲渡が有利になりやすい一方、買い手企業が「特定の事業だけを引き継ぎたい」と希望するケースでは事業譲渡が選択されることもあります。どちらを選ぶべきかは、必ず個別の試算のうえで判断することを強く推奨します。 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 株式譲渡と事業譲渡、どちらを選べば必ず得ということはありますか?
一概には言えません。多くのケースでオーナー個人の手取りは株式譲渡の方が多くなる傾向がありますが、買い手側が不採算部門を除外したい場合や、簿外債務を避けたい場合は事業譲渡が選ばれることもあります。会社の状況ごとの試算が不可欠です。
Q2. 事業譲渡の場合、退職金として受け取れば税金は安くなりますか?
役員退職金には退職所得控除という優遇措置があり、通常の給与や配当に比べて税負担が軽くなる場合があります。ただし、退職金として認められる金額には功績倍率などの目安があり、過大な金額は損金として認められないリスクもあるため、事前の設計が重要です。
Q3. 消費税は必ずかかるのですか?
株式譲渡の場合、株式の譲渡は消費税の非課税取引にあたるため消費税はかかりません。一方、事業譲渡では、譲渡する資産のうち土地や有価証券などの非課税資産を除いた機械設備・棚卸資産・のれんなどには消費税が課税されます。
Q4. 中小企業の事業承継税制を使えば、税金はゼロになりますか?
事業承継税制は、後継者が株式を贈与・相続で引き継ぐ場合の納税を猶予・免除する制度であり、第三者へのM&A(株式譲渡)とは適用場面が異なります。M&Aによる譲渡益への課税を直接ゼロにする制度ではない点にご注意ください。
まとめ:手法の選択が手取り額を大きく左右する
- 株式譲渡は会社ごと譲渡し、個人に譲渡所得税20.315%が課税される、比較的シンプルな仕組み
- 事業譲渡は事業の中身だけを譲渡し、法人税等に加えて個人への分配時にも課税されうるため、税負担が重くなりやすい
- どちらが有利かは会社の状況や買い手の意向によって異なるため、必ず事前の試算に基づいて判断することが重要
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください.
M&Aの進め方とは?
相談から会社の引き継ぎ完了までの流れを7ステップで解説
「M&Aをしようと決めたけれど、何から手をつければいいのか分からない」——前回、M&Aの基本的な仕組みについてお伝えしましたが、実際に会社を売る・買うとなると、次に気になるのは「具体的にどう進むのか」ではないでしょうか。
結論からお伝えすると、M&Aは思いつきで即日成立するものではなく、「相談」「相手探し」「秘密保持」「トップ面談」「デューデリジェンス」「契約」「引き継ぎ」という7つの段階を、半年から1年半ほどかけて踏んでいきます。この記事を読めば、それぞれの段階で何が行われ、どこに落とし穴があるのかが具体的に分かります。
M&Aの全体の流れとは
M&Aの流れとは、経営者が会社の譲渡(または譲受)を検討し始めてから、実際に経営権が引き継がれるまでの一連の手続きのことです。大きく分けると次の7つのステップで進みます。
① 検討・相談 → ② 相手探し(マッチング) → ③ 秘密保持契約(NDA) → ④ トップ面談・意向表明 → ⑤ デューデリジェンス(買収監査) → ⑥ 最終契約・クロージング → ⑦ 統合作業(PMI)
[画像指示:7つのステップを横に並べた矢印付きフローチャート/キャプション:M&Aは7つの段階を経て進んでいく]
それぞれの段階で必要な期間や作業内容が異なります。ここから一つずつ、中学生でも分かるレベルまで噛み砕いて解説します。
ステップ①・②:検討・相談と相手探し
① 検討・相談:まず「誰に」相談するか
検討・相談とは、経営者が自社の状況を整理し、M&Aという選択肢が本当に適切かどうかを専門家と一緒に確認する最初の段階です。この時点ではまだ社外に情報を出しません。従業員や取引先に知られる前に、信頼できる税理士や公的な事業承継・引継ぎ支援センターなどに相談するのが実務上の定石です。
② 相手探し(マッチング):会社の「お見合い」
相手探しとは、会社を売りたい経営者と、買いたい・引き継ぎたい企業を引き合わせる作業のことです。いわば会社同士の「お見合い」です。この段階では、会社名を伏せた概要書(ノンネームシート)を使って、複数の候補先に打診を行います。
ステップ③・④:秘密保持契約とトップ面談
③ 秘密保持契約(NDA):情報が漏れないようにする約束
秘密保持契約(NDA)とは、M&Aの検討中に知った相手企業の情報を、目的外に使用したり第三者に漏らしたりしないことを約束する契約です。この契約を結んで初めて、会社名や決算内容などの詳しい情報が開示されます。
④ トップ面談・意向表明:経営者同士が直接会う
トップ面談とは、売り手と買い手の経営者が直接顔を合わせ、経営理念や従業員への思い、会社の将来像について話し合う場です。条件面の細部よりも、「この相手になら会社を任せられるか」という信頼関係の確認が主な目的です。ここで双方が前向きであれば、買い手側から意向表明書(価格や条件の大枠を示す書面)が提示されます。
ステップ⑤:デューデリジェンス(買収監査)と実務上の罠
デューデリジェンスとは、買い手企業が、売り手企業の財務・税務・法務・労務などの状況を専門家(公認会計士・税理士・弁護士等)を通じて詳しく調査することです。略して「DD(ディーディー)」とも呼ばれます。
この調査で問題が見つかると、譲渡価格の引き下げや、最悪の場合は破談につながることもあります。実務上、特に注意すべき「罠」となりやすいポイントは次の通りです。
| 調査項目 | 見つかりやすい問題点 | 対応のポイント |
| 財務・税務 | 簿外債務、税務申告の誤り、在庫の過大計上 | 早期に決算書・申告書を整理し、顧問税理士と事前チェックを行う |
| 労務 | 未払残業代、名ばかり管理職、社会保険の未加入 | 労働時間管理や就業規則を事前に見直しておく |
| 契約関係 | 取引先との契約にチェンジオブコントロール条項(経営者交代時の解除条項)がある | 主要契約書を事前に確認し、必要に応じて取引先へ説明の準備をする |
| 税理士の実務視点から見た結論 デューデリジェンスで問題が見つかること自体は珍しくありません。重要なのは、売り手側が事前に自社の決算内容や労務管理の状態を「見える化」しておくことです。 国税OBが在籍する事務所による事前の税務チェックを受けておくことで、指摘事項を先回りして是正でき、交渉における不利な価格修正を防ぐことにつながります。 |
ステップ⑥・⑦:最終契約・クロージングと統合作業(PMI)
⑥ 最終契約・クロージング:契約書に押印し、対価が支払われる
最終契約とは、譲渡価格や引き継ぎ条件を正式に確定させ、株式譲渡契約書などに調印することです。クロージングとは、契約に基づいて実際に株式や事業が引き渡され、対価が支払われる決済日を指します。
⑦ 統合作業(PMI):M&A成功の分かれ道
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後に、経営方針や業務ルール、人事制度などを買い手・売り手双方ですり合わせ、実際に一体の会社として機能させていく統合作業のことです。
M&Aは契約が成立したら終わりではありません。むしろ、契約後のPMIをどれだけ丁寧に進められるかが、従業員の定着や取引先との関係維持を左右する最重要局面です。
[画像指示:契約成立(ゴール)ではなく、その先のPMI(統合)に向かう矢印を強調したイラスト/キャプション:M&Aの本当の勝負は契約後のPMIにある]
具体的なシミュレーション:相談開始から統合完了までのスケジュール例
年商3億円、従業員20名の製造業(後継者不在)が、同業の中堅企業へM&Aによる事業承継を行ったケースのスケジュール例を見てみましょう。
| 時期 | 段階 | 主な内容 |
| 1〜2ヶ月目 | 検討・相談 | 顧問税理士に相談し、会社の状況(決算・株主構成)を整理 |
| 3〜5ヶ月目 | 相手探し | ノンネームシートで複数候補に打診、2社と秘密保持契約を締結 |
| 6ヶ月目 | トップ面談 | 1社と経営者同士が面談、意向表明書を受領 |
| 7〜8ヶ月目 | デューデリジェンス | 財務・労務調査を実施、未払残業代の指摘を受け事前是正 |
| 9ヶ月目 | 最終契約・クロージング | 株式譲渡契約を締結、譲渡代金を受領 |
| 10ヶ月目以降 | PMI(統合) | 人事制度・給与体系のすり合わせ、取引先への挨拶回り |
| 税理士の実務視点から見た結論 このケースのように、相談開始から統合完了まではおおむね10ヶ月〜1年程度が一つの目安です。 デューデリジェンスで指摘を受けてから慌てて是正するのではなく、相談の初期段階(①検討・相談の時点)で決算・労務の状態を確認しておくことが、スケジュールの遅延や価格交渉での不利を避ける最大のポイントです。 |
よくある質問(FAQ)
Q1. M&Aの相談は無料でできますか?
初期の相談段階では無料で対応する専門家や公的機関(事業承継・引継ぎ支援センター等)が多くあります。ただし、その後の本格的な仲介やデューデリジェンスの段階では、着手金や成功報酬が発生するのが一般的です。
Q2. デューデリジェンスでは具体的に何を見られますか?
主に財務状況(決算書の内容、資産・負債の実態)、税務申告の適正性、労務管理(残業代の未払いや社会保険の加入状況)、契約関係(取引先との契約内容)が調査対象になります。
Q3. 秘密保持契約を結ぶ前に、会社名を教える必要はありますか?
いいえ、必要ありません。相手探しの段階では、会社名を伏せたノンネームシートのみで打診を行い、秘密保持契約を締結した後に初めて会社名や詳細な財務情報を開示するのが実務上の一般的な進め方です。
Q4. トップ面談で失敗しないためのコツはありますか?
条件交渉の細部にこだわりすぎず、従業員への思いや会社の理念など「経営に対する価値観」をお互いに率直に伝え合うことが重要です。ここでの信頼関係が、その後の交渉やPMIの土台になります。
まとめ:M&Aは「進め方」を知ることが成功の第一歩
- M&Aは「検討・相談→相手探し→秘密保持契約→トップ面談→デューデリジェンス→最終契約→PMI」という7段階で進み、成立まで半年〜1年半程度かかる
- デューデリジェンスでの指摘を避けるには、検討・相談の初期段階から決算・労務状況を整理しておくことが重要
- 契約成立はゴールではなく、契約後のPMI(統合作業)こそが従業員定着とM&A成功を左右する
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください.
M&Aとは?
中学生でも分かる「会社の売り買い」の仕組みと中小企業の後継ぎ問題
「M&Aって最近よく聞くけど、結局なにをすることなの?」——そう感じたことはありませんか。会社が会社を買う、というニュースは目にしても、その中身は意外と説明されていません。
結論からお伝えすると、M&Aとは「会社を買う・売る・合体させる」ことです。この記事を読めば、M&Aの基本的な仕組みから、なぜ多くの中小企業がM&Aを選ぶのか、その理由まで、専門知識がなくても完全に理解できるようになります。
M&Aとは、ひとことで言うと
M&Aとは、ある会社が別の会社を「買う」「売る」、または複数の会社が「合体する」ことです。英語のMergers(合併)とAcquisitions(買収)の頭文字を取った言葉で、会社という「モノ」を売り買いする取引全般を指します。
たとえば、あなたが小さなパン屋さんを経営していて、となり町の人気ケーキ屋さんを丸ごと買い取るとします。看板もお店もお客さんも、そのままあなたのものになる——これがM&Aの最もシンプルな形です。
身近な例で理解する2つのパターン
M&Aには大きく分けて「買収」と「合併」の2つの形があります。どちらも複数の会社が1つの経済圏になるという点は同じですが、方法が異なります。
| 種類 | 仕組み | 身近なたとえ話 |
| 買収(Acquisition) | 会社Aが会社Bを買って、自分の子会社にする | パン屋がケーキ屋を買収し、看板は残したまま自社グループに入れる |
| 合併(Merger) | 会社Aと会社Bが1つの会社になる | パン屋とケーキ屋が合体して「新・お菓子屋さん」という1つの会社になる |
[画像指示:買収と合併の違いを表すシンプルな図解イラスト(矢印で会社が合体・吸収される様子)/キャプション:M&Aには「買収」と「合併」の2つの形がある]
なぜ会社はM&Aをするのか
結論として、会社がM&Aをする最大の理由は「時間を買う」ためです。
自分でゼロから何かを始めるには、時間もお金もかかります。すでにお店の場所や常連客を持っている会社を買えば、その苦労をショートカットできます。M&Aは大きく分けて次の2つの目的で使われます。
① 攻めのM&A(成長のため)
- 新しい地域や事業分野に、ゼロから挑戦するのではなく、すでにその分野で実績のある会社を買うことで、短期間で事業を拡大できます。
② 守りのM&A(会社を存続させるため)
- 後継ぎがいない社長さんが、自分の会社を他の会社に売ることで、従業員の雇用と会社の看板(事業)を守ってもらいます。
[画像指示:「攻めのM&A」と「守りのM&A」を対比させるシンプルなアイコン図解/キャプション:M&Aには成長のための攻めと、会社存続のための守りの2つの目的がある]
中小企業にとってのM&A(事業承継という視点)
近年、中小企業のM&Aで急増しているのが「後継者がいない」という理由によるものです。これを事業承継M&Aと呼びます。事業承継とは、経営者が会社の経営を次の世代に引き継ぐことを指します。
事業承継には大きく3つの道があります。次の図をご覧ください。
【事業承継の3つの道】
① 親族内承継 → 息子・娘などの親族に会社を継がせる
② 従業員承継 → 右腕として働く社員に会社を継がせる
③ M&A(第三者承継) → 社外の会社や個人に会社を売り、経営を引き継いでもらう
[画像指示:事業承継の3つの道(親族内・従業員・M&A)を分岐する矢印で示すフローチャート/キャプション:後継者不在の解決策として、M&Aは第三の選択肢として国も後押ししている]
| 税理士の実務視点から見た結論 中小企業のM&Aは、大企業同士の派手な買収劇とは違い、「社長の引退後も会社と従業員を守るための選択肢の一つ」という位置づけが実態に近いものです。 親族内承継・従業員承継と並ぶ「第三の選択肢」として、国も税制優遇や補助金でM&Aによる事業承継を後押ししています。 |
M&Aの基本的な流れ(超シンプル版)
M&Aは、思いついたその日に成立するものではなく、いくつかの段階を踏んで進みます。全体像をつかんでおくだけでも、不安はぐっと減ります。
① 検討・相談 → ② 相手探し(マッチング) → ③ 秘密保持契約 → ④ トップ面談・条件交渉 → ⑤ デューデリジェンス(相手の会社の中身を確認) → ⑥ 最終契約 → ⑦ 引き継ぎ・統合
この中でも「デューデリジェンス」とは、買う側の会社が、売る側の会社の財務状況や契約関係、税務リスクなどを詳しく調べる作業のことです。ここで隠れた問題(簿外債務や未払残業代など)が見つかることも珍しくありません。
具体的なシミュレーション:小さな町工場のケース
たとえば、後継者のいない年商5,000万円の小さな町工場(社長個人が全株式を保有)を例に考えてみましょう。
| 項目 | 内容 |
| 会社の状況 | 年商5,000万円、従業員8名、社長が全株式(発行済株式100株)を保有 |
| 後継者の有無 | 社長の子どもは別の仕事に就いており、会社を継ぐ予定なし |
| 選んだ選択肢 | 同業の中堅企業への株式譲渡(M&A) |
| 譲渡価格の目安 | 純資産+営業利益の数年分(簡易的な目安として算出、実際は精緻な企業価値評価が必要) |
| 結果 | 従業員の雇用は維持されたまま、社長は引退。買い手企業の傘下で工場は存続 |
| 税理士の実務視点から見た結論 株式譲渡によるM&Aの場合、売り手である社長個人には株式譲渡益に対して税金がかかります。譲渡益(譲渡価格-取得費等)に対し、原則として20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)の申告分離課税が適用されます。 廃業して会社をたたむ場合と比較すると、譲渡益に課税されるとはいえ、従業員の雇用維持や設備・取引先との関係を継続できる点で、経営者・従業員双方にとってメリットの大きい選択肢となるケースが多く見られます。 |
よくある質問(FAQ)
Q1. M&Aは大企業だけがやるものですか?
いいえ、違います。むしろ現在、日本国内で最も件数が増えているのは、後継者不在に悩む中小企業のM&Aです。従業員数名〜数十名規模の会社同士の取引が数多く成立しています。
Q2. M&Aをすると、従業員はクビになりますか?
必ずしもそうではありません。多くの中小企業M&Aでは、むしろ従業員の雇用継続が取引の重要な条件として盛り込まれます。買い手企業にとっても、経験を持つ従業員は貴重な財産だからです。
Q3. 会社を売ると、社長個人にお金が入るのですか?
はい。株式譲渡という方法でM&Aを行った場合、株式を保有していた社長個人が買い手から売却代金を受け取ります。ただし、その譲渡益には税金がかかりますので、事前の試算が重要です。
Q4. M&Aの相談は、会社が儲かっていないとできませんか?
赤字であっても相談は可能です。ただし、譲渡価格や買い手の見つかりやすさには影響します。早めに相談するほど、選択肢の幅は広がります。
Q5. M&Aにはどれくらいの期間がかかりますか?
案件によって幅がありますが、検討開始から最終契約まで半年〜1年半程度かかるケースが一般的です。相手探しやデューデリジェンスに時間を要するため、早期の準備が望まれます。
まとめ:会社を守り、成長させるための選択肢として
- M&Aとは、会社を「買う」「売る」「合体させる」ことであり、成長のためにも会社存続のためにも活用される
- 中小企業では、後継者不在を解決する「第三の事業承継の道」として、M&Aの活用が急増している
- M&Aは検討から成立まで時間がかかるため、早めの情報収集と専門家への相談が結果を大きく左右する
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
