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株式譲渡と事業譲渡、結局どっちが得?

2026-09-10

中小企業M&Aの税金を徹底比較

「会社を売る」と一言で言っても、実は方法が2つあることをご存じでしょうか。「株式譲渡」と「事業譲渡」、どちらを選ぶかによって、手取り額も手続きの手間も大きく変わってきます。

結論からお伝えすると、多くの中小企業のオーナー経営者にとっては、税負担の面で「株式譲渡」の方が手取りが多くなるケースが一般的です。ただし、買い手側の意向や会社の状況によっては事業譲渡が選ばれることもあります。この記事を読めば、それぞれの仕組みと税金の違い、具体的な手取り額のシミュレーションまで理解できます。

株式譲渡と事業譲渡とは、それぞれ何が違うのか

株式譲渡とは、会社のオーナー(株主)が保有している株式を買い手に売り渡すことで、会社の経営権を移転させる方法です。会社そのものは変わらず、社長という「持ち主」だけが交代するイメージです。

事業譲渡とは、会社という「箱」はそのまま残し、その中にある特定の事業(工場・店舗・従業員・取引先との契約など)だけを個別に買い手企業へ売り渡す方法です。八百屋さんで例えるなら、株式譲渡は「お店ごと看板ごと売る」こと、事業譲渡は「店内の商品棚と冷蔵庫だけを選んで売る」ことに近いイメージです。

[画像指示:株式譲渡(会社ごと渡す)と事業譲渡(中身だけ渡す)を対比するシンプルなイラスト/キャプション:株式譲渡は「会社ごと」、事業譲渡は「中身だけ」を譲り渡す]

株式譲渡と事業譲渡の違いを一覧で比較

両者の違いは税金だけではありません。契約の対象、許認可の扱い、手続きの煩雑さなど、実務上のポイントを一覧で整理します。

比較項目株式譲渡事業譲渡
譲渡の対象会社の株式(経営権)特定の事業・資産・契約
対価の受け取り手株主(社長個人)会社(法人)
主にかかる税金譲渡所得税(申告分離課税 20.315%)法人税等(約30〜34%)+消費税(課税資産部分)
許認可・契約の引き継ぎ原則そのまま引き継がれる個別に契約を結び直す必要がある場合が多い
簿外債務のリスク会社ごと引き継ぐため、買い手が負うリスクが高い個別に資産・負債を選んで引き継げるため、買い手のリスクを限定しやすい
手続きの煩雑さ比較的シンプル契約の巻き直しなどで煩雑になりやすい

それぞれの税金の仕組みを詳しく見る

株式譲渡にかかる税金:譲渡所得税

株式譲渡の場合、株式を売った社長個人に譲渡所得税が課税されます。譲渡所得は「譲渡価格-(取得費+譲渡費用)」で計算され、この譲渡所得に対して所得税15.315%(復興特別所得税を含む)と住民税5%、合計20.315%の税率が適用される申告分離課税の対象となります。給与所得など他の所得とは分離して計算されるため、税率が一定である点が特徴です。

事業譲渡にかかる税金:法人税と消費税

事業譲渡の場合、対価を受け取るのは会社(法人)です。譲渡益(譲渡価格-譲渡資産の簿価)は会社の益金となり、他の事業年度の損益と合算のうえ法人税・法人住民税・法人事業税(実効税率でおおむね30〜34%程度)が課税されます。さらに、譲渡する資産の中に土地以外の課税資産(機械設備や在庫、のれんなど)が含まれる場合は、消費税の課税対象にもなります。

また、事業譲渡で会社に残った譲渡代金を、社長個人が役員退職金や配当として受け取る場合には、さらにそこへ所得税・住民税が課税される点にも注意が必要です。これが「二重課税」と呼ばれる事業譲渡の税負担の重さにつながります。

[画像指示:株式譲渡は個人へ一段階課税、事業譲渡は法人課税+個人への分配で二段階課税となることを示す階層図/キャプション:事業譲渡は会社と個人の「二段階」で税金がかかることがある]

それぞれのメリット・デメリット

株式譲渡のメリット・デメリット

  • メリット:税率が20.315%と一定で、事業譲渡に比べて手取り額が多くなりやすい
  • メリット:許認可や取引契約がそのまま引き継がれるため、手続きが比較的シンプル
  • デメリット:簿外債務や偶発債務も含めて会社ごと引き継がれるため、買い手がリスクを警戒しやすい

事業譲渡のメリット・デメリット

  • メリット:買い手は必要な資産・契約だけを選んで引き継げるため、簿外債務のリスクを避けやすい
  • メリット:不採算部門を除いた優良事業だけを譲渡するといった柔軟な設計がしやすい
  • デメリット:法人税と個人への分配課税が重なりやすく、税負担は株式譲渡より重くなりがち
  • デメリット:許認可や雇用契約、取引契約を個別に結び直す必要があり、手続きに手間がかかる

具体的なシミュレーション:譲渡価格1億円のケース

譲渡価格1億円、取得費(資本金等)1,000万円のケースで、株式譲渡と事業譲渡それぞれの手取り額を比較してみましょう(事業譲渡後に会社を清算し、残余財産をすべて社長が受け取る前提での簡易試算です)。

項目株式譲渡の場合事業譲渡の場合(簡易試算)
譲渡価格1億円1億円
取得費・簿価等1,000万円1,000万円(帳簿価額と仮定)
譲渡益9,000万円9,000万円
法人税等(実効税率約33%と仮定)課税なし(個人が直接譲渡)約2,970万円
会社に残る資金約7,030万円(1,000万円+税引後利益)
個人への課税(譲渡所得税20.315%/会社清算時のみなし配当課税として概算)約1,828万円残余財産分配に対し総合的な課税(概算で約1,500万円〜2,000万円程度)
社長個人の手取り額(概算)約8,172万円約5,000万円台〜6,000万円台程度
税理士の実務視点から見た結論 上記はあくまで簡易的な試算モデルです。実際には取得費の算定方法、会社清算時のみなし配当課税の扱い、退職金として受け取る場合の退職所得控除の活用など、個別の事情によって手取り額は大きく変動します。 一般論として、オーナー経営者個人の手取りを最大化する観点では株式譲渡が有利になりやすい一方、買い手企業が「特定の事業だけを引き継ぎたい」と希望するケースでは事業譲渡が選択されることもあります。どちらを選ぶべきかは、必ず個別の試算のうえで判断することを強く推奨します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 株式譲渡と事業譲渡、どちらを選べば必ず得ということはありますか?

一概には言えません。多くのケースでオーナー個人の手取りは株式譲渡の方が多くなる傾向がありますが、買い手側が不採算部門を除外したい場合や、簿外債務を避けたい場合は事業譲渡が選ばれることもあります。会社の状況ごとの試算が不可欠です。

Q2. 事業譲渡の場合、退職金として受け取れば税金は安くなりますか?

役員退職金には退職所得控除という優遇措置があり、通常の給与や配当に比べて税負担が軽くなる場合があります。ただし、退職金として認められる金額には功績倍率などの目安があり、過大な金額は損金として認められないリスクもあるため、事前の設計が重要です。

Q3. 消費税は必ずかかるのですか?

株式譲渡の場合、株式の譲渡は消費税の非課税取引にあたるため消費税はかかりません。一方、事業譲渡では、譲渡する資産のうち土地や有価証券などの非課税資産を除いた機械設備・棚卸資産・のれんなどには消費税が課税されます。

Q4. 中小企業の事業承継税制を使えば、税金はゼロになりますか?

事業承継税制は、後継者が株式を贈与・相続で引き継ぐ場合の納税を猶予・免除する制度であり、第三者へのM&A(株式譲渡)とは適用場面が異なります。M&Aによる譲渡益への課税を直接ゼロにする制度ではない点にご注意ください。

まとめ:手法の選択が手取り額を大きく左右する

  • 株式譲渡は会社ごと譲渡し、個人に譲渡所得税20.315%が課税される、比較的シンプルな仕組み
  • 事業譲渡は事業の中身だけを譲渡し、法人税等に加えて個人への分配時にも課税されうるため、税負担が重くなりやすい
  • どちらが有利かは会社の状況や買い手の意向によって異なるため、必ず事前の試算に基づいて判断することが重要

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください.

M&Aの進め方とは?

2026-09-09

相談から会社の引き継ぎ完了までの流れを7ステップで解説

「M&Aをしようと決めたけれど、何から手をつければいいのか分からない」——前回、M&Aの基本的な仕組みについてお伝えしましたが、実際に会社を売る・買うとなると、次に気になるのは「具体的にどう進むのか」ではないでしょうか。

結論からお伝えすると、M&Aは思いつきで即日成立するものではなく、「相談」「相手探し」「秘密保持」「トップ面談」「デューデリジェンス」「契約」「引き継ぎ」という7つの段階を、半年から1年半ほどかけて踏んでいきます。この記事を読めば、それぞれの段階で何が行われ、どこに落とし穴があるのかが具体的に分かります。

M&Aの全体の流れとは

M&Aの流れとは、経営者が会社の譲渡(または譲受)を検討し始めてから、実際に経営権が引き継がれるまでの一連の手続きのことです。大きく分けると次の7つのステップで進みます。

① 検討・相談 → ② 相手探し(マッチング) → ③ 秘密保持契約(NDA) → ④ トップ面談・意向表明 → ⑤ デューデリジェンス(買収監査) → ⑥ 最終契約・クロージング → ⑦ 統合作業(PMI)

[画像指示:7つのステップを横に並べた矢印付きフローチャート/キャプション:M&Aは7つの段階を経て進んでいく]

それぞれの段階で必要な期間や作業内容が異なります。ここから一つずつ、中学生でも分かるレベルまで噛み砕いて解説します。

ステップ①・②:検討・相談と相手探し

検討・相談:まず「誰に」相談するか

検討・相談とは、経営者が自社の状況を整理し、M&Aという選択肢が本当に適切かどうかを専門家と一緒に確認する最初の段階です。この時点ではまだ社外に情報を出しません。従業員や取引先に知られる前に、信頼できる税理士や公的な事業承継・引継ぎ支援センターなどに相談するのが実務上の定石です。

相手探し(マッチング):会社の「お見合い」

相手探しとは、会社を売りたい経営者と、買いたい・引き継ぎたい企業を引き合わせる作業のことです。いわば会社同士の「お見合い」です。この段階では、会社名を伏せた概要書(ノンネームシート)を使って、複数の候補先に打診を行います。

ステップ③・④:秘密保持契約とトップ面談

秘密保持契約(NDA):情報が漏れないようにする約束

秘密保持契約(NDA)とは、M&Aの検討中に知った相手企業の情報を、目的外に使用したり第三者に漏らしたりしないことを約束する契約です。この契約を結んで初めて、会社名や決算内容などの詳しい情報が開示されます。

トップ面談・意向表明:経営者同士が直接会う

トップ面談とは、売り手と買い手の経営者が直接顔を合わせ、経営理念や従業員への思い、会社の将来像について話し合う場です。条件面の細部よりも、「この相手になら会社を任せられるか」という信頼関係の確認が主な目的です。ここで双方が前向きであれば、買い手側から意向表明書(価格や条件の大枠を示す書面)が提示されます。

ステップ⑤:デューデリジェンス(買収監査)と実務上の罠

デューデリジェンスとは、買い手企業が、売り手企業の財務・税務・法務・労務などの状況を専門家(公認会計士・税理士・弁護士等)を通じて詳しく調査することです。略して「DD(ディーディー)」とも呼ばれます。

この調査で問題が見つかると、譲渡価格の引き下げや、最悪の場合は破談につながることもあります。実務上、特に注意すべき「罠」となりやすいポイントは次の通りです。

調査項目見つかりやすい問題点対応のポイント
財務・税務簿外債務、税務申告の誤り、在庫の過大計上早期に決算書・申告書を整理し、顧問税理士と事前チェックを行う
労務未払残業代、名ばかり管理職、社会保険の未加入労働時間管理や就業規則を事前に見直しておく
契約関係取引先との契約にチェンジオブコントロール条項(経営者交代時の解除条項)がある主要契約書を事前に確認し、必要に応じて取引先へ説明の準備をする
税理士の実務視点から見た結論 デューデリジェンスで問題が見つかること自体は珍しくありません。重要なのは、売り手側が事前に自社の決算内容や労務管理の状態を「見える化」しておくことです。 国税OBが在籍する事務所による事前の税務チェックを受けておくことで、指摘事項を先回りして是正でき、交渉における不利な価格修正を防ぐことにつながります。

ステップ⑥・⑦:最終契約・クロージングと統合作業(PMI)

最終契約・クロージング:契約書に押印し、対価が支払われる

最終契約とは、譲渡価格や引き継ぎ条件を正式に確定させ、株式譲渡契約書などに調印することです。クロージングとは、契約に基づいて実際に株式や事業が引き渡され、対価が支払われる決済日を指します。

統合作業(PMI):M&A成功の分かれ道

PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後に、経営方針や業務ルール、人事制度などを買い手・売り手双方ですり合わせ、実際に一体の会社として機能させていく統合作業のことです。

M&Aは契約が成立したら終わりではありません。むしろ、契約後のPMIをどれだけ丁寧に進められるかが、従業員の定着や取引先との関係維持を左右する最重要局面です。

[画像指示:契約成立(ゴール)ではなく、その先のPMI(統合)に向かう矢印を強調したイラスト/キャプション:M&Aの本当の勝負は契約後のPMIにある]

具体的なシミュレーション:相談開始から統合完了までのスケジュール例

年商3億円、従業員20名の製造業(後継者不在)が、同業の中堅企業へM&Aによる事業承継を行ったケースのスケジュール例を見てみましょう。

時期段階主な内容
1〜2ヶ月目検討・相談顧問税理士に相談し、会社の状況(決算・株主構成)を整理
3〜5ヶ月目相手探しノンネームシートで複数候補に打診、2社と秘密保持契約を締結
6ヶ月目トップ面談1社と経営者同士が面談、意向表明書を受領
7〜8ヶ月目デューデリジェンス財務・労務調査を実施、未払残業代の指摘を受け事前是正
9ヶ月目最終契約・クロージング株式譲渡契約を締結、譲渡代金を受領
10ヶ月目以降PMI(統合)人事制度・給与体系のすり合わせ、取引先への挨拶回り
税理士の実務視点から見た結論 このケースのように、相談開始から統合完了まではおおむね10ヶ月〜1年程度が一つの目安です。 デューデリジェンスで指摘を受けてから慌てて是正するのではなく、相談の初期段階(①検討・相談の時点)で決算・労務の状態を確認しておくことが、スケジュールの遅延や価格交渉での不利を避ける最大のポイントです。

よくある質問(FAQ)

Q1. M&Aの相談は無料でできますか?

初期の相談段階では無料で対応する専門家や公的機関(事業承継・引継ぎ支援センター等)が多くあります。ただし、その後の本格的な仲介やデューデリジェンスの段階では、着手金や成功報酬が発生するのが一般的です。

Q2. デューデリジェンスでは具体的に何を見られますか?

主に財務状況(決算書の内容、資産・負債の実態)、税務申告の適正性、労務管理(残業代の未払いや社会保険の加入状況)、契約関係(取引先との契約内容)が調査対象になります。

Q3. 秘密保持契約を結ぶ前に、会社名を教える必要はありますか?

いいえ、必要ありません。相手探しの段階では、会社名を伏せたノンネームシートのみで打診を行い、秘密保持契約を締結した後に初めて会社名や詳細な財務情報を開示するのが実務上の一般的な進め方です。

Q4. トップ面談で失敗しないためのコツはありますか?

条件交渉の細部にこだわりすぎず、従業員への思いや会社の理念など「経営に対する価値観」をお互いに率直に伝え合うことが重要です。ここでの信頼関係が、その後の交渉やPMIの土台になります。

まとめ:M&Aは「進め方」を知ることが成功の第一歩

  • M&Aは「検討・相談→相手探し→秘密保持契約→トップ面談→デューデリジェンス→最終契約→PMI」という7段階で進み、成立まで半年〜1年半程度かかる
  • デューデリジェンスでの指摘を避けるには、検討・相談の初期段階から決算・労務状況を整理しておくことが重要
  • 契約成立はゴールではなく、契約後のPMI(統合作業)こそが従業員定着とM&A成功を左右する

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください.

M&Aとは?

2026-09-08

中学生でも分かる「会社の売り買い」の仕組みと中小企業の後継ぎ問題

「M&Aって最近よく聞くけど、結局なにをすることなの?」——そう感じたことはありませんか。会社が会社を買う、というニュースは目にしても、その中身は意外と説明されていません。

結論からお伝えすると、M&Aとは「会社を買う・売る・合体させる」ことです。この記事を読めば、M&Aの基本的な仕組みから、なぜ多くの中小企業がM&Aを選ぶのか、その理由まで、専門知識がなくても完全に理解できるようになります。

M&Aとは、ひとことで言うと

M&Aとは、ある会社が別の会社を「買う」「売る」、または複数の会社が「合体する」ことです。英語のMergers(合併)とAcquisitions(買収)の頭文字を取った言葉で、会社という「モノ」を売り買いする取引全般を指します。

たとえば、あなたが小さなパン屋さんを経営していて、となり町の人気ケーキ屋さんを丸ごと買い取るとします。看板もお店もお客さんも、そのままあなたのものになる——これがM&Aの最もシンプルな形です。

身近な例で理解する2つのパターン

M&Aには大きく分けて「買収」と「合併」の2つの形があります。どちらも複数の会社が1つの経済圏になるという点は同じですが、方法が異なります。

種類仕組み身近なたとえ話
買収(Acquisition)会社Aが会社Bを買って、自分の子会社にするパン屋がケーキ屋を買収し、看板は残したまま自社グループに入れる
合併(Merger)会社Aと会社Bが1つの会社になるパン屋とケーキ屋が合体して「新・お菓子屋さん」という1つの会社になる

[画像指示:買収と合併の違いを表すシンプルな図解イラスト(矢印で会社が合体・吸収される様子)/キャプション:M&Aには「買収」と「合併」の2つの形がある]

なぜ会社はM&Aをするのか

結論として、会社がM&Aをする最大の理由は「時間を買う」ためです。

自分でゼロから何かを始めるには、時間もお金もかかります。すでにお店の場所や常連客を持っている会社を買えば、その苦労をショートカットできます。M&Aは大きく分けて次の2つの目的で使われます。

攻めのM&A(成長のため)

  • 新しい地域や事業分野に、ゼロから挑戦するのではなく、すでにその分野で実績のある会社を買うことで、短期間で事業を拡大できます。

守りのM&A(会社を存続させるため)

  • 後継ぎがいない社長さんが、自分の会社を他の会社に売ることで、従業員の雇用と会社の看板(事業)を守ってもらいます。

[画像指示:「攻めのM&A」と「守りのM&A」を対比させるシンプルなアイコン図解/キャプション:M&Aには成長のための攻めと、会社存続のための守りの2つの目的がある]

中小企業にとってのM&A(事業承継という視点)

近年、中小企業のM&Aで急増しているのが「後継者がいない」という理由によるものです。これを事業承継M&Aと呼びます。事業承継とは、経営者が会社の経営を次の世代に引き継ぐことを指します。

事業承継には大きく3つの道があります。次の図をご覧ください。

【事業承継の3つの道】

① 親族内承継 → 息子・娘などの親族に会社を継がせる

② 従業員承継 → 右腕として働く社員に会社を継がせる

③ M&A(第三者承継) → 社外の会社や個人に会社を売り、経営を引き継いでもらう

[画像指示:事業承継の3つの道(親族内・従業員・M&A)を分岐する矢印で示すフローチャート/キャプション:後継者不在の解決策として、M&Aは第三の選択肢として国も後押ししている]

税理士の実務視点から見た結論 中小企業のM&Aは、大企業同士の派手な買収劇とは違い、「社長の引退後も会社と従業員を守るための選択肢の一つ」という位置づけが実態に近いものです。 親族内承継・従業員承継と並ぶ「第三の選択肢」として、国も税制優遇や補助金でM&Aによる事業承継を後押ししています。

M&Aの基本的な流れ(超シンプル版)

M&Aは、思いついたその日に成立するものではなく、いくつかの段階を踏んで進みます。全体像をつかんでおくだけでも、不安はぐっと減ります。

① 検討・相談 → ② 相手探し(マッチング) → ③ 秘密保持契約 → ④ トップ面談・条件交渉 → ⑤ デューデリジェンス(相手の会社の中身を確認) → ⑥ 最終契約 → ⑦ 引き継ぎ・統合

この中でも「デューデリジェンス」とは、買う側の会社が、売る側の会社の財務状況や契約関係、税務リスクなどを詳しく調べる作業のことです。ここで隠れた問題(簿外債務や未払残業代など)が見つかることも珍しくありません。

具体的なシミュレーション:小さな町工場のケース

たとえば、後継者のいない年商5,000万円の小さな町工場(社長個人が全株式を保有)を例に考えてみましょう。

項目内容
会社の状況年商5,000万円、従業員8名、社長が全株式(発行済株式100株)を保有
後継者の有無社長の子どもは別の仕事に就いており、会社を継ぐ予定なし
選んだ選択肢同業の中堅企業への株式譲渡(M&A)
譲渡価格の目安純資産+営業利益の数年分(簡易的な目安として算出、実際は精緻な企業価値評価が必要)
結果従業員の雇用は維持されたまま、社長は引退。買い手企業の傘下で工場は存続
税理士の実務視点から見た結論 株式譲渡によるM&Aの場合、売り手である社長個人には株式譲渡益に対して税金がかかります。譲渡益(譲渡価格-取得費等)に対し、原則として20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)の申告分離課税が適用されます。 廃業して会社をたたむ場合と比較すると、譲渡益に課税されるとはいえ、従業員の雇用維持や設備・取引先との関係を継続できる点で、経営者・従業員双方にとってメリットの大きい選択肢となるケースが多く見られます。

よくある質問(FAQ)

Q1. M&Aは大企業だけがやるものですか?

いいえ、違います。むしろ現在、日本国内で最も件数が増えているのは、後継者不在に悩む中小企業のM&Aです。従業員数名〜数十名規模の会社同士の取引が数多く成立しています。

Q2. M&Aをすると、従業員はクビになりますか?

必ずしもそうではありません。多くの中小企業M&Aでは、むしろ従業員の雇用継続が取引の重要な条件として盛り込まれます。買い手企業にとっても、経験を持つ従業員は貴重な財産だからです。

Q3. 会社を売ると、社長個人にお金が入るのですか?

はい。株式譲渡という方法でM&Aを行った場合、株式を保有していた社長個人が買い手から売却代金を受け取ります。ただし、その譲渡益には税金がかかりますので、事前の試算が重要です。

Q4. M&Aの相談は、会社が儲かっていないとできませんか?

赤字であっても相談は可能です。ただし、譲渡価格や買い手の見つかりやすさには影響します。早めに相談するほど、選択肢の幅は広がります。

Q5. M&Aにはどれくらいの期間がかかりますか?

案件によって幅がありますが、検討開始から最終契約まで半年〜1年半程度かかるケースが一般的です。相手探しやデューデリジェンスに時間を要するため、早期の準備が望まれます。

まとめ:会社を守り、成長させるための選択肢として

  • M&Aとは、会社を「買う」「売る」「合体させる」ことであり、成長のためにも会社存続のためにも活用される
  • 中小企業では、後継者不在を解決する「第三の事業承継の道」として、M&Aの活用が急増している
  • M&Aは検討から成立まで時間がかかるため、早めの情報収集と専門家への相談が結果を大きく左右する

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

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