Archive for the ‘税理士’ Category

忘年会・社員旅行の費用は全額経費にできる?

2026-10-08

福利厚生費で落とす条件と、給与課税・労務トラブルを防ぐ社長のチェックポイント

「今年は業績も良かったし、忘年会は少し豪華にしよう」「久しぶりに社員旅行を復活させたい」——そう考え始めるのが、ちょうど今の時期です。

一方で、「この費用は全部経費にしていいのだろうか」「税務調査で何か言われないか」「参加しない社員にはどう対応すればいいのか」と迷う経営者の方も少なくありません。せっかく社員に喜んでもらうための行事なのに、あとから社員に税金がかかったり、会社が追加で税金を払ったりしては本末転倒です。

この記事では、忘年会・新年会・社員旅行の費用を「福利厚生費」として経費にするための条件、交際費や給与と判断されてしまう境目、そして見落とされがちな労働時間・ハラスメント・労災といった労務の注意点まで、はじめての方でも一読で分かるように解説します。後半では、社員旅行で「不参加者に現金を渡す」とどれだけ負担が増えるのか、具体的な数字でシミュレーションします。

【この記事の結論】 ① 「全員が対象」で「常識的な金額」なら、忘年会も社員旅行も福利厚生費として全額経費にでき、社員に税金もかかりません。 ② 一部の人だけ・役員だけ・豪華すぎる・不参加者に現金を渡す——このどれかに当てはまると、交際費や「給与」に変わります。特に役員だけの旅行は、会社の経費にならない「役員賞与」とされるおそれがあります。 ③ 参加を事実上強制すると、税金とは別に「労働時間(賃金の支払い)」や「ハラスメント」の問題が生じます。税金と労務の両面から行事を設計することが、会社を守る最大のポイントです。

社内イベントの費用は何になる?4つの「行き先」を知ろう

結論から言うと、忘年会や社員旅行の費用は、「誰のために」「誰が参加できるか」によって、福利厚生費・交際費・給与・役員賞与の4つのどれかに分かれます。どこに分かれるかで、会社の経費になるか、社員に税金がかかるかが変わります。

福利厚生費とは、従業員みんなの働きやすさや健康、親睦のために、会社が公平に負担する費用のことです。

家庭にたとえると、家族全員で行く誕生日の外食は「家計の楽しみのための出費」ですが、特定の子どもにだけ渡すお小遣いは「その子へのお金」ですよね。会社も同じで、全員に公平に開かれた行事は「会社の福利厚生」、一部の人だけが得をするものは「その人への給与」や「接待」と考えるのが基本です。

区分典型的な例会社の経費になるか社員への課税
福利厚生費全従業員を対象にした忘年会、条件を満たした社員旅行全額経費になるなし
交際費取引先を招いた宴会、一部の社員だけの飲み会・二次会中小法人は年800万円まで経費になる(接待飲食費の50%との選択)なし
給与(従業員)不参加者に渡す現金、豪華すぎる旅行、商品券の配布経費になるが、源泉徴収が必要あり
役員賞与役員だけの旅行、役員の家族の旅行費用原則として経費にならないあり(源泉徴収が必要)

ここで覚えておきたいのは、「経費になるかどうか」と「社員に税金がかかるかどうか」は別の問題だということです。たとえば給与と判断された場合、会社の経費にはなっても、会社には源泉所得税を天引きして納める義務が生じます。天引きしていなければ、会社が代わりに納めたうえでペナルティの税金もかかります。

忘年会・新年会を福利厚生費にするための条件

結論として、忘年会・新年会は「全従業員が対象」「通常の飲食の範囲の金額」「会社の行事として実施」の3つがそろえば、福利厚生費として全額経費にできます。

条件① 全従業員を対象にしている

参加するかどうかは自由で構いませんが、案内は全員に出していることが前提です。部署単位で行う場合も、その部署の全員が対象であれば福利厚生費として扱えます。反対に、「営業成績の上位者だけ」「管理職だけ」の会食は、福利厚生費にはなりません。

条件② 金額が「通常の飲食の範囲」である

法律で1人あたりの上限金額が決まっているわけではありません。ただし、社会一般の感覚から見て豪華すぎる場合は、福利厚生の範囲を超えて「給与」と判断されるおそれがあります。税理士の実務上の結論としては、一次会の通常の飲食にとどめ、高級店での飲食や高額な景品は避けるのが安全です。

条件③ 会社の行事として記録を残している

税務調査では「本当に全員を対象にした会社の行事だったのか」が確認されます。案内文(メールや掲示)、参加者名簿、日時・場所・金額が分かる領収書をセットで保管しておきましょう。

二次会・取引先の参加はどう扱う?

よく迷うのが、二次会と取引先が参加した場合です。ケース別に整理すると次のとおりです。

ケース判定の目安ポイント
全員を対象にした一次会福利厚生費案内文と名簿を保管
有志だけの二次会を会社が負担交際費社内の人だけの飲食は「1人1万円以下なら交際費から除く」ルールの対象外
取引先を招いた忘年会(取引先の分)交際費(1人1万円以下なら交際費から除外可)日付・参加者の氏名と関係・人数・金額・店名の記録が必要
社長と役員だけの慰労会交際費、または内容により役員賞与「会社の行事」として説明しにくい
ビンゴ大会の景品で商品券を配布給与現金や商品券は、金額が小さくても原則として給与扱い
【要注意】「1人1万円以下なら交際費にならない」は社内の飲み会には使えません 2024年4月以降、取引先との飲食で1人あたり1万円以下のものは、記録を残せば交際費から除くことができます。ただしこのルールは、社内の役員・従業員だけで行う飲食(いわゆる社内飲食費)には使えません。 「1人8,000円だから交際費ではない」と考えて、有志の二次会を会議費などで処理していると、税務調査で交際費に振り替えられます。中小企業は年800万円まで経費にできるため税額への影響は小さいことが多いものの、処理の誤りは調査官に「ほかも確認しよう」と思わせるきっかけになります。

社員旅行を福利厚生費にするための条件

結論として、社員旅行は「旅行期間が4泊5日以内」「参加者が全従業員の50%以上」「会社の負担額が常識的な範囲」であれば、原則として社員に税金はかからず、会社の福利厚生費として経費にできます。

社員旅行とは、従業員の親睦や慰労のために会社が企画し、費用の全部または一部を負担して行うレクリエーション旅行のことです。旅行は社員にとって「経済的な得」になるため、本来は給与と考えることもできますが、一定の条件を満たすものは、あえて税金をかけない扱いになっています。

判定の5ステップ

次の順番でチェックすると、迷わず判定できます。

STEP1 旅行期間は4泊5日以内か 海外旅行の場合は、機内泊を除いた「現地での滞在日数」で数えます。5泊以上なら福利厚生費の扱いになりません。
▼
STEP2 参加者は全従業員の50%以上か 会社全体でなく、工場や支店などの職場単位で行う場合は、その職場の従業員の50%以上が参加していれば認められます。
▼
STEP3 会社の負担額は常識的な範囲か 法律上の上限額はありませんが、国税庁が示す事例では1人あたり10万円程度の負担が課税されない例として紹介されており、実務上の一つの目安になっています。
▼
STEP4 不参加者に現金を渡していないか 自己都合で参加しなかった人に代わりの現金を渡すと、参加者も含めた全員が給与課税の対象になります(詳しくは下記)。
▼
STEP5 役員や特定の人だけの旅行ではないか 役員だけ、成績優秀者だけ、といった旅行は福利厚生とは言えず、給与(役員なら役員賞与)になります。
▼
判定 すべてクリア 福利厚生費として全額経費。社員に税金はかかりません。
画像指示 [画像指示:社員旅行が福利厚生費になるかを「4泊5日以内」「参加率50%以上」「負担額は常識的な範囲」「不参加者に現金なし」「役員だけではない」の順にYES/NOで判定するフローチャートの図解イラスト / キャプション:5つの関門をすべて通過すれば、社員に税金はかかりません]

不参加者に「代わりの現金」を渡すと何が起きる?

「旅行に行けない人がかわいそうだから、代わりに5万円渡そう」——善意から出たこの対応が、実は最も大きな落とし穴です。

不参加の理由現金を渡した場合の扱い
自己都合(私用など)で参加しなかった参加者・不参加者の全員に、その現金と同じ額の給与を支払ったものとされる
会社の業務の都合で参加できなかった現金を受け取ったその不参加者だけが給与課税の対象になる
不参加者に何も渡さない課税関係は生じない(条件を満たせば旅行は福利厚生費のまま)

つまり、旅行を選んでも現金を選んでもよいという状態は「旅行という形をとった給与」と見られてしまうのです。税理士の実務上の結論は、「不参加者への金銭の支給はしない」をあらかじめ社内ルールで決めておくことです。

家族同伴・研修旅行の扱い

  • 家族の旅行費用を会社が負担した場合:家族分は、その従業員(役員なら役員)への給与になります。家族分は本人負担とするのが原則です。
  • 業務上必要な研修・視察旅行の場合:業務に直接必要な研修や視察であれば、福利厚生費ではなく「旅費交通費」などとして経費になります。ただし観光が中心なら研修とは認められないため、日程表や研修報告書を残すことが大切です。

税金だけ見ていると危ない!社内行事の労務トラブル

結論として、忘年会や社員旅行は「自由参加」を徹底しないと、労働時間・ハラスメント・労災という3つの労務トラブルの火種になります。税金の要件を満たしていても、労務の設計を誤ると別の問題が起こります。

参加を強制すると「労働時間」になる

労働時間とは、会社の指揮命令のもとに置かれている時間のことです。忘年会や社員旅行への参加が業務命令であったり、参加しないと評価が下がる・欠勤扱いになるといった事実上の強制があったりすると、その時間は労働時間と判断される可能性があります。

労働時間と判断されれば、その時間分の賃金の支払いが必要です。所定の労働時間を超えれば25%以上、法定休日に行えば35%以上の割増賃金がかかります。「週末に1泊2日の社員旅行に全員参加させた」場合、思わぬ未払い賃金が生じることがあります。

宴席でのハラスメントは「職場」の問題になる

パワーハラスメントの防止について国が示している指針では、勤務時間外の懇親の場であっても、実質的に職務の延長と考えられるものは「職場」に含まれるとされています。お酒の強要や、宴席での不適切な言動は、会社としての防止措置や対応が問われる問題です。開催前に「飲酒は強要しない」「二次会は自由」と全員に伝えておくことが有効です。

社員旅行中のけがは労災になる?

自由参加の親睦旅行は会社の業務とは言えないため、旅行中のけがは原則として労災保険の対象外です。一方で、幹事として業務命令で参加した人などは、業務中と判断される場合もあります。万一に備えて、国内・海外旅行保険への加入を検討しておくと安心です。

税理士・社労士の実務視点 社内行事は「税金の条件(全員対象・50%以上参加)」と「労務の条件(自由参加・強制しない)」が一見ぶつかるように見えます。参加率を上げたいあまり出席を強く求めれば、労働時間やハラスメントの問題に近づくからです。 実務上の鉄則は、「全員に案内する(税金のため)」と「参加は本人の自由と明記する(労務のため)」を両立させた案内文と社内規程を作ることです。福利厚生規程や旅行規程に「自由参加」「不参加者への金銭支給は行わない」「家族の費用は本人負担」と定めておけば、税務調査でも労務トラブルでも、会社の説明が一貫します。

シミュレーション:社員旅行の「ちょっとした配慮」でいくら変わる?

結論から言うと、同じ社員旅行でも、不参加者に現金を渡すだけで約20万円、役員だけの旅行にすると約66万円の追加負担が生じる可能性があります。具体的な数字で比べてみましょう。

前提条件

  • 従業員28人+役員2人=30人の会社(中小法人)
  • 海外への社員旅行(現地3泊)、会社負担は1人あたり10万円
  • 法人税・住民税・事業税の実効税率は約33%と仮定
  • 賞与として源泉徴収する税率は、従業員は一律約10%、役員は約20%と仮定(実際は前月の給与額や扶養人数で変わります)
  • 数値は分かりやすさを優先した概算です(延滞税は含めていません)

3つのケースの比較

項目ケースA:ルールどおりケースB:不参加者に現金ケースC:役員2人だけで旅行
内容27人参加(参加率90%)、不参加3人には何も渡さないケースAと同じ旅行で、自己都合の不参加3人に5万円ずつ支給役員2人だけで5泊の観光中心の旅行、総額120万円
税務上の扱い福利厚生費30人全員に5万円の給与(計150万円)があったものとされる役員賞与(会社の経費にならない)
源泉所得税0円150万円×約10%=約15万円120万円×約20%=約24万円
不納付加算税(10%)0円約1.5万円約2.4万円
法人税等の増加0円役員2人分10万円が経費にならず×33%=約3.3万円120万円×33%=約39.6万円
追加負担の合計0円約19.8万円約66万円

ケースBでは、旅行に参加した27人も「5万円の給与をもらった」扱いになる点が最大のポイントです。本来は社員の給与から天引きすべき税金ですが、過去の分を社員に請求するのは現実的に難しく、会社がかぶらざるを得ないケースがほとんどです。さらに、30人分の源泉徴収票の訂正など、事務の負担も発生します。

ケースCは、税務調査で特に厳しく見られるパターンです。会社の経費が否認されるうえ、役員個人にも所得税がかかる「二重の負担」になります。

【シミュレーションから分かること】 同じ旅行でも、「不参加者に現金を渡さない」「役員だけの旅行にしない」という2つのルールを守るだけで、追加負担はゼロにできます。 善意の配慮が、結果として会社と社員の両方に負担をかけることがあります。行事を企画する前に、ルールを決めておくことが最も効果的な節税策です。

よくある質問(FAQ)

Q. 忘年会に参加しなかった社員に、代わりにお金や商品券を渡してもいいですか?

A. 渡すこと自体はできますが、その金額は給与として源泉徴収の対象になります。現金や商品券は、金額にかかわらず原則として給与扱いです。社員旅行の場合は、自己都合の不参加者に現金を渡すと参加者全員が課税対象になるため、渡さないルールにしておくのが安全です。

Q. 個人事業主の忘年会費用は経費になりますか?

A. 従業員がいて、その従業員を対象にした忘年会であれば、福利厚生費として経費にできます。ただし、事業主本人だけ、または生計を一にする家族だけで行う飲食は、事業のための支出とは言えないため経費になりません。

Q. 社員旅行の行き先が海外でも福利厚生費になりますか?

A. なります。海外旅行の場合は、移動中の機内泊を除いた「現地での滞在日数」が4泊5日以内であるかで判定します。参加率50%以上、負担額が常識的な範囲という条件は国内旅行と同じです。

Q. 忘年会や社員旅行の費用について、領収書以外に何を残せばいいですか?

A. 全員に案内したことが分かる案内文(メールや掲示物)、参加者名簿、日程表を残しましょう。社員旅行の場合は、全従業員数と参加者数が分かる資料があると、参加率50%以上の条件を説明しやすくなります。

Q. 忘年会や社員旅行に参加しない社員の評価を下げてもいいですか?

A. 下げるべきではありません。不参加を理由に不利益な扱いをすると、参加が事実上の強制とみなされ、その時間が労働時間として賃金の支払い対象になるおそれがあります。ハラスメントの問題にもつながるため、「参加は自由」であることを明確にしておきましょう。

まとめ:社内行事は「全員に開かれ、参加は自由」が鉄則

【3行まとめ】 1.全員を対象にした常識的な忘年会・社員旅行(4泊5日以内・参加率50%以上)は、福利厚生費として全額経費。社員に税金もかかりません。 2.不参加者への現金、役員だけの旅行、社内だけの二次会は、給与・役員賞与・交際費に変わります。特に現金支給は全員課税の引き金です。 3.参加を強制すると労働時間・ハラスメントの問題に。「全員に案内、参加は自由」を案内文と社内規程で明確にしましょう。

忘年会や社員旅行は、社員のやる気や一体感を高める大切な機会です。だからこそ、あとから税金や労務の問題で水を差されることのないよう、企画の段階でルールを決めておくことをおすすめします。

当事務所には、国税の調査実務を内側から知る国税OBの税理士が在籍しており、調査官が社内行事の費用のどこを確認するのかを踏まえた処理のアドバイスを行っています。さらに、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、税金の条件を満たしつつ労務トラブルも防ぐ福利厚生規程・旅行規程の作成まで、一体でご支援できます。定期的な訪問による帳簿の確認で、日ごろから「調査に強い経理」を一緒につくっていきます。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今年の忘年会・社員旅行の予算を決める前に確認したい」「不参加者への対応をどうすればいいか迷っている」——そんな企画段階でのご相談こそ、最も効果が出るタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。

税務調査の連絡が来たら?

2026-10-07

秋の調査シーズンに慌てない事前準備と当日の流れ、追徴税額を最小限に抑える対策

「税務署から電話がありました。来月、調査に来るそうです……」

この一本の電話で、頭が真っ白になる経営者の方は少なくありません。「何か悪いことをしたと思われているのでは」「いくら取られるのだろう」「当日は何を聞かれるのか」——そんな不安で眠れなくなるのは、ごく自然なことです。

実は、税務署は毎年7月に人事異動があり、そこから年末にかけての秋は法人の税務調査が最も多くなる時期です。つまり今まさに、多くの会社に連絡が入っている季節なのです。

この記事では、税務調査とは何か、事前の連絡から調査終了までの流れ、調査官に指摘されやすいポイント、そして追加で払う税金(追徴税額)を最小限に抑える具体的な方法を、はじめての方でも一読で分かるように解説します。後半では、税金だけでなく社会保険にまで影響が広がる「外注費の落とし穴」を、実際の数字でシミュレーションします。

【この記事の結論】 ① 税務調査は「悪いことをした会社」だけに来るものではありません。申告内容を確かめる通常の手続きで、正しく準備すれば怖がる必要はありません。 ② 連絡が来たら、調査当日までの「自己点検」が勝負です。調査の前に自分で誤りを見つけて修正申告すれば、ペナルティの税金(加算税)は10%から5%に軽くなります。 ③ 最大の落とし穴は「外注費」「交際費」「売上の計上時期」の3つ。特に外注費が給与と判断されると、税金に加えて社会保険料まで遡って請求される危険があります。

税務調査とは?まず押さえておきたい基本

結論から言うと、税務調査は「会社が出した申告書の答え合わせ」です。

税務調査とは、税務署や国税局が、会社や個人が提出した申告書の内容が正しいかどうかを、帳簿や請求書などの書類をもとに確認する手続きのことです。

身近な例でいえば、子どもが「今月のお小遣いはこう使ったよ」とお小遣い帳を見せたとき、親がレシートと照らし合わせて確認するようなものです。きちんと記録してレシートを残していれば、何も困ることはありません。逆に、レシートがない支出や、書き忘れた収入があると、そこを質問されることになります。

「任意調査」と「強制調査」の違い

一般の会社に来る税務調査のほとんどは「任意調査」です。テレビドラマで見るような、突然段ボールを運び出す調査は「強制調査(査察)」と呼ばれ、まったく別物です。

項目任意調査(一般的な税務調査)強制調査(査察)
担当税務署・国税局の調査部門国税局の査察部(通称マルサ)
事前の連絡原則あり(電話などで通知)なし(予告なしで着手)
対象申告内容を確認する必要がある会社・個人悪質で金額の大きい脱税が疑われる場合
法的な根拠調査官の「質問検査権」(正当な理由のない拒否や虚偽の回答には罰則あり)裁判官が出す許可状(令状)
主な結果問題なし(是認)/修正申告/更正検察への告発→刑事罰の可能性
税理士の実務視点 「任意」という言葉から「断ってもよい」と誤解される方がいますが、これは誤りです。任意調査であっても、正当な理由なく帳簿の提示を拒んだり、うその説明をしたりすると罰則の対象になります。「任意」とは、日程や進め方を話し合いで決められるという意味だと理解してください。

何年分さかのぼって調べられるのか

通常の税務調査では、直近3年分(3事業年度)を中心に確認するのが一般的です。ただし、誤りが見つかれば最大5年分、意図的に事実を隠したり偽ったりしていた場合は最大7年分までさかのぼって追加の税金が課されます。

調査の対象に選ばれやすい会社の特徴

税務署は、提出された申告書や取引先から集めた資料をもとに、確認が必要な会社を選んでいます。近年はAIなどのデータ分析を活用した選定も進められています。実務上、次のような会社は対象になりやすい傾向があります。

  • 売上や利益が前年から大きく増えた、または急に減った
  • 同業他社と比べて、原価や経費の割合が不自然に高い
  • 外注費・交際費・旅費などの金額が多い
  • 現金で売上を受け取る商売をしている
  • 前回の調査から長い期間がたっている
  • 消費税の還付を受ける申告をしている

事前の連絡から調査終了までの流れ

結論として、税務調査は「連絡→日程調整→準備→実地調査→結果説明→終了」の6段階で進みます。中でも、連絡から当日までの準備期間が最も重要です。

事前通知とは、税務署が調査の前に、日時・場所・調査の目的・対象となる税金の種類や期間などを、あらかじめ会社に知らせる手続きのことです。顧問税理士がいて、その税理士に代理を任せる書類を提出している場合は、税理士にも通知されます。一定の手続きをしておけば、税理士だけに連絡してもらうことも可能です。

STEP1 事前通知(主に電話) 調査の日時・場所・目的・対象期間などが伝えられます。慌てて即答せず、「税理士と相談して折り返します」で問題ありません。
▼
STEP2 日程の調整 決算や繁忙期など、合理的な理由があれば日程の変更を相談できます。
▼
STEP3 事前準備(自己点検・書類整理) 帳簿や請求書を整理し、税理士と一緒に誤りがないか点検します。誤りが見つかれば、この段階で修正申告することで加算税が軽くなります。
▼
STEP4 実地調査(中小企業は通常2〜3日) 調査官が会社を訪れ、社長へのヒアリングと帳簿・書類の確認を行います。
▼
STEP5 調査結果の説明 指摘事項がある場合は、その内容と理由が説明されます。納得できない点はこの段階でしっかり主張します。
▼
STEP6 終了 問題がなければ「是認(追加の税金なし)」の通知。誤りがあれば修正申告または税務署による更正(税額の決定)で終了します。
[画像指示:税務調査の事前通知から終了までの6ステップを、カレンダーと矢印で示した図解イラスト / キャプション:連絡から当日までの準備期間が、追徴税額を左右する最大のポイントです]

調査当日のタイムスケジュール(例)

当日の流れをイメージできると、不安はぐっと小さくなります。中小企業の一般的な例は次のとおりです。

時間帯主な内容準備・心構え
10:00〜あいさつ・会社概要のヒアリング(事業内容、取引先、社長の経歴など)社長の同席が基本。事業の流れを自分の言葉で説明できるように
11:00〜帳簿・請求書・契約書などの確認求められた書類をすぐ出せるよう、年度ごとにまとめておく
12:00〜昼休憩(調査官は外で食事をとるのが通例)食事の用意は不要。気を遣いすぎなくて大丈夫です
13:00〜書類の確認の続き、取引内容についての質問分からないことは推測で答えず「確認して回答します」
16:00頃1日目終了(翌日の予定や追加資料の確認)依頼された資料のメモを取り、税理士と共有

調査官が確認する主な書類

  • 総勘定元帳・仕訳帳などの帳簿、決算書・申告書
  • 請求書・領収書・納品書、見積書、契約書
  • 預金通帳(会社名義。場合により社長個人や家族名義も)
  • 取締役会・株主総会の議事録、役員報酬の決定資料
  • 賃金台帳・出勤簿・タイムカード、外注先との業務委託契約書

最後の「賃金台帳・出勤簿」は見落とされがちですが、外注費が本当に外注なのかを判断する材料として、実務では必ずと言ってよいほど確認されます。

調査で指摘されやすい3大ポイントと実務上の罠

結論として、指摘の多くは「売上の計上時期」「交際費」「外注費」の3つに集中しています。ここを事前に点検しておけば、追徴税額の大半は防げます。

ポイント① 売上の計上時期(いわゆる「期ズレ」)

期ズレとは、本来その年度に計上すべき売上や経費を、前後の年度に計上してしまうことです。

たとえば3月決算の会社が、3月28日にリンゴを納品したのに、請求書を4月に出したからといって売上を4月(翌年度)に入れてしまうケースです。売上は原則として「商品を引き渡した日」や「サービスを提供し終えた日」の年度に計上します。翌年度に計上しているので「いずれ税金は払う」と考えがちですが、本来の年度の税金が不足していたことになり、加算税と延滞税がかかります。

ポイント② 交際費と会議費・福利厚生費の区分

交際費とは、取引先など事業に関係のある人への接待や贈り物、お祝い金などにかかる費用のことです。中小企業(資本金1億円以下の法人など)は、年800万円までは経費(損金)にできるため、金額面で問題になることは多くありません。

注意したいのは「誰と、何のために」使ったかの記録です。1人あたり1万円以下の飲食費(2024年4月以降の支出分)は交際費から除くことができますが、そのためには日付・参加者の氏名と関係・人数・金額・店名の記録が必要です。また、社長の家族との食事や私的な飲み会を会社の経費にしていると、後述する「役員賞与」と判断されるおそれがあります。

ポイント③ 外注費と給与の区分(税金と社会保険にまたがる最大の罠)

ここが、私たちが最も注意を呼びかけたいポイントです。

外注費とは、仕事の完成や業務を、独立した事業者に依頼して支払う報酬のことです。給与とは、会社の指示のもとで働く従業員に支払う労働の対価のことです。

契約書の名前が「業務委託契約」になっていても、税務署は働き方の実態で判断します。主な判断のポイントは次の表のとおりです。

判断のポイント外注費と判断されやすい給与と判断されやすい
仕事の代わり本人以外が代わりに行ってもよい本人でなければならない
指示・監督仕事の進め方は本人の裁量会社が作業内容・手順を細かく指示
時間・場所勤務時間や場所の拘束がない始業・終業時刻が決まっている
道具・材料本人が自分で用意・負担会社が用意・負担
報酬の決まり方成果物(完成)に対して支払う働いた時間や日数で計算する
完成前の事故本人が責任を負う完成しなくても報酬が支払われる
【要注意】外注費が「給与」と判断されると三重の負担に ① 源泉所得税:給与なら会社が天引きして納めるべきだった所得税を、会社が納めることになり、さらに「不納付加算税(原則10%)」がかかります。 ② 消費税:外注費は消費税の計算で差し引ける(仕入税額控除)一方、給与は差し引けません。過去に差し引いた消費税が取り消され、追加で納めることになります。 ③ 社会保険:実態が雇用であれば、社会保険(健康保険・厚生年金)や労働保険への加入が必要です。年金事務所の調査では、保険料を最大2年さかのぼって請求されることがあります。
[画像指示:「外注費→給与」と判断された場合に、源泉所得税・消費税・社会保険の3方向へ負担が広がる様子を示した図解イラスト / キャプション:税金と社会保険は別々の制度ですが、判断のもとになる「働き方の実態」は同じです]

見落としがちな罠:社長個人の支出と帳簿の不備

家族旅行の費用や自宅で使う家電を会社の経費にしていると、その金額は社長への「役員賞与」とみなされます。役員賞与は会社の経費にならないうえ、社長個人の給与として源泉所得税もかかります。

また、2024年1月以降に申告期限が来る分からは、調査で帳簿を提示できなかったり、売上の記載が大幅に不足していたりすると、過少申告加算税などが5%または10%上乗せされる仕組みが導入されています。「帳簿をきちんと残す」こと自体が、最大の防御策です。

追徴税額を最小限に抑える4つの対策

結論として、追徴税額を小さくする最大の鍵は「タイミング」と「記録」です。同じ誤りでも、いつ・どう対応したかで負担額は大きく変わります。

まず知っておきたい「加算税」と「延滞税」

加算税とは、申告した税金が少なかった場合などに、本来の税金に上乗せして課される「ペナルティの税金」のことです。延滞税とは、納めるのが遅れた日数に応じてかかる「利息」のような税金のことです。

このうち加算税は、修正するタイミングによって税率が変わります。追加で納める税金が100万円だった場合で比べてみましょう。

修正のタイミング過少申告加算税の税率追加税額100万円の場合
調査の連絡が来る前に、自分から修正0%0円
調査の連絡が来た後〜調査で指摘される前に修正5%5万円
調査で指摘された後に修正・更正10%(一定額を超える部分は15%)10万円
事実を隠したり偽ったりしていた場合(重加算税)35%35万円

※延滞税は上記とは別に、いずれの場合もかかります。延滞税の割合は毎年見直されます。また、過去5年以内に加算税を課されたことがある場合、同じ種類の加算税が10%上乗せされます。

対策① 連絡が来たら「調査前の自己点検」を最優先にする

調査の連絡から当日までは、通常数週間あります。この期間に税理士と一緒に、前述の3大ポイントを中心に帳簿を点検しましょう。誤りが見つかれば、調査前に修正申告することで加算税は10%から5%に下がります。誤りを隠すのではなく、自分から正すことが、結果的に最も負担を小さくする方法です。

対策② 当日は「聞かれたことに、事実だけを」答える

調査官の質問には、聞かれたことに対して、事実だけを簡潔に答えるのが基本です。うろ覚えのことを推測で答えると、あとで書類と食い違ったときに不信感を招きます。分からないことは「確認して後日お答えします」で問題ありません。机の中や金庫を見せてほしいと言われた場合も、慌てずに税理士に相談してから対応しましょう。

対策③ 「書面添付制度」を活用する

書面添付制度とは、税理士が申告書を作るにあたって、どのような書類を確認し、どのように判断したかを記載した書面を、申告書に添えて提出する制度のことです。

この書面が添付されていると、税務署は調査の連絡をする前に、まず税理士から意見を聞く機会を設けることになっています。その意見聴取で疑問が解消されれば、実地調査に進まずに終わることもあります。日ごろの申告の段階から、調査に強い体制をつくっておく方法です。

対策④ 外注契約は「税金」と「労務」を一体で見直す

外注先との関係は、契約書の文言を整えるだけでは不十分です。報酬の決め方、指示の出し方、道具の負担など、働き方の実態そのものを外注にふさわしい形にする必要があります。反対に、実態が雇用に近いのであれば、思い切って雇用契約に切り替え、社会保険に加入させる方が、長い目で見てリスクもコストも小さくなるケースが少なくありません。

税理士の実務視点 外注費か給与かの判断は、税務署は「税金」の観点から、年金事務所や労働基準監督署は「社会保険・労働法」の観点から行います。窓口は別々でも、見ている事実は同じです。税金の面だけで対策すると、労務の面で思わぬ請求を受けることがあります。両方の視点で同時に点検することが、実務上の鉄則です。

シミュレーション:外注費が「給与」と判断された場合の負担額

結論から言うと、年600万円の外注費が給与と判断されると、税金だけで3年分約284万円、社会保険まで含めると最大約640万円の負担になる可能性があります。具体的な数字で確認しましょう。

前提条件

  • 3月決算の建設関連の会社(年商1億円)
  • 同じ職人1人に、毎月50万円(税込)、年600万円を「外注費」として3年間支払ってきた
  • 職人はインボイス登録済みの事業者。ほかに収入はなく、扶養する家族はいない
  • 調査で「毎日会社の指示で現場に出ている」「道具は会社が用意」「日当で計算」と判明し、給与と判断された
  • 数値は分かりやすさを優先した概算です(延滞税は含めていません)

1年あたり・3年分の追加負担

項目計算の考え方1年あたり3年分
消費税(仕入税額控除の取消し)600万円 × 10/110約54.5万円約163.6万円
過少申告加算税(消費税分)上記の10%約5.4万円約16.4万円
源泉所得税年収600万円の給与とした場合の年税額で概算約31.5万円約94.5万円
不納付加算税源泉所得税の10%約3.1万円約9.4万円
税金の合計 約94.5万円約283.9万円

なお、法人税については、外注費も給与もどちらも会社の経費になるため、この判断だけで法人税が増えることはありません。負担が増えるのは、主に消費税と源泉所得税です。

社会保険まで含めた場合

同じ実態をもとに、年金事務所から社会保険の加入対象と判断された場合、保険料は最大2年さかのぼって請求されることがあります。月給50万円の場合、健康保険・介護保険・厚生年金の保険料は労使合計で月約15万円前後(保険料率を合計約30%とした目安)となり、2年分で約360万円です。本来は半分を本人が負担しますが、過去分を本人から回収するのは現実には難しく、会社が大半を負担せざるを得ないケースも少なくありません。

区分負担額の目安
税金(3年分、延滞税を除く)約284万円
社会保険料(2年分、労使合計)約360万円
合計約644万円+延滞税
【シミュレーションから分かること】 外注費か給与かの判断ひとつで、数百万円単位の負担差が生まれます。しかもこの負担は、調査があって初めて表に出てきます。 一方で、成果物に対して報酬を払う、道具は本人が負担する、作業の進め方は本人に任せるなど、実態を伴った外注契約にしておけば、こうしたリスクは大きく下げられます。実態が雇用に近いなら、早めに雇用へ切り替えるのが最も確実な対策です。

よくある質問(FAQ)

Q. 税務調査は断ったり、延期したりできますか?

A. 断ることはできません。正当な理由なく調査を拒否すると罰則の対象になります。ただし、決算業務や繁忙期、体調不良など合理的な理由があれば、日程の変更を相談することは可能です。連絡を受けたら、まず顧問税理士に相談したうえで日程を調整しましょう。

Q. 税務調査はどのくらいの頻度で来るのですか?

A. 法律で決まった周期はありません。申告内容や業種、売上の変化、前回の調査からの年数などをもとに対象が選ばれます。売上が急に伸びた会社や、前回の調査から長く間が空いている会社は、対象になりやすい傾向があります。

Q. 税理士がいないと不利になりますか?

A. 税理士の立会いは義務ではありません。ただし、税理士が代理人として立ち会うことで、調査官の質問の意図をくみ取り、法律に基づいて会社の主張を整理して伝えることができます。また、書面添付制度を使えば、実地調査の前に税理士が意見を述べる機会も得られます。

Q. 調査で指摘されたら、必ず修正申告をしなければいけませんか?

A. 修正申告はあくまで税務署からの「勧め(勧奨)」であり、義務ではありません。指摘に納得できない場合は修正申告をせず、税務署の更正(税額の決定)を受けたうえで、不服を申し立てる(再調査の請求や審査請求)ことができます。ただし、自分で修正申告をすると、その内容について後から不服を申し立てることはできなくなるため、判断は慎重に行ってください。

Q. 会社の調査なのに、社長個人の預金まで調べられるのですか?

A. 会社の取引を確認する過程で、社長個人や家族名義の預金口座を確認されることはあります。会社のお金と個人のお金が混ざっていると、その説明を求められます。日ごろから会社と個人のお金をきちんと分けておくことが、最も確実な備えです。

まとめ:税務調査は「準備した会社」が強い

【3行まとめ】 1.税務調査は申告内容の答え合わせ。秋は調査が最も多い時期なので、今のうちに帳簿を点検しておきましょう。 2.連絡が来たら調査前に自己点検し、誤りは自分から修正申告。加算税は10%から5%に軽くなります。 3.最大の落とし穴は外注費。給与と判断されると、税金と社会保険の両方で数百万円規模の負担になり得ます。

税務調査で本当に差がつくのは、当日の受け答えよりも、それまでの「日ごろの記録」と「連絡を受けてからの準備」です。そして外注費の問題のように、税金と社会保険の両方にまたがる論点は、どちらか一方の専門家だけでは見落としが生まれやすい分野でもあります。

当事務所には、国税の調査実務を内側から知る国税OBの税理士が在籍しており、調査官がどこを見て、何を確認したいのかを踏まえた事前点検と立会いを行っています。さらに、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、外注契約の見直しや雇用への切り替えも、税金と社会保険の両面から一体で支援できます。書面添付制度を活用した、日ごろからの調査に強い申告体制づくりもお任せください。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「税務署から連絡が来た」「外注先との契約がこのままで大丈夫か不安」——そんな段階でのご相談こそ、最も大きな効果が出るタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。

税務調査の連絡が来ても慌てない!

2026-10-06

秋のピークに中小企業の経営者が知っておくべき対策と当日の乗り切り方

この記事の結論(3分で分かる要点) ① 税務調査とは「罰」ではなく、申告内容の「答え合わせ」です。中小企業の調査は、原則として事前に電話で連絡が来ます。 ② 税務署の1年は7月に始まるため、実務上9月〜11月は調査が集中する時期です。今まさにピークを迎えています。 ③ 調査の結果は「準備」で8割決まります。帳簿・契約書・領収書を「誰に聞かれても説明できる状態」にしておくことが最大の対策です。 ④ 中小企業で特に大きな追徴につながりやすいのが、外注費が「給与」と判断されるケースです。税金だけでなく社会保険にも飛び火します。 ⑤ 誤りに気づいたら、調査の連絡が来る前に自分から修正すれば加算税(ペナルティ)はかかりません。迷ったら早めに専門家へ相談するのが一番の節約です。

「税務署から電話がありまして……」。この一言を聞いた瞬間、頭が真っ白になった経験はありませんか。あるいは、「うちもいつか来るのでは」と、なんとなく不安を抱えたまま毎年の申告をしている経営者の方も多いはずです。

結論からお伝えすると、税務調査は正しく準備していれば、決して怖いものではありません。むしろ怖いのは「何を見られるのか知らないまま当日を迎えること」です。

この記事では、税務調査の仕組みから、連絡が来てから終わるまでの流れ、調査官が必ず確認するポイント、追徴税額の決まり方、そして税金と社会保険の両面から見た「最大の落とし穴」までを、実際の数字を使ってやさしく解説します。読み終える頃には、「何を準備すればいいか」がはっきり分かり、落ち着いて調査を迎えられるようになります。

税務調査とは?まずは仕組みを正しく知りましょう

税務調査とは、税務署などが「会社や個人の申告内容が正しいかどうか」を、帳簿や書類を見ながら確かめる手続きのことです。

身近な例でいうと、お子さんのお小遣い帳を親がチェックする場面に似ています。「今月はお菓子に300円使った」と書いてあれば、レシートを見せてもらって本当かどうかを確認しますよね。税務調査も同じで、決算書に書かれた売上や経費が、実際のお金の流れや証拠書類と合っているかを確かめる作業です。

[画像指示:お小遣い帳とレシートを照らし合わせる親子のイラストと、決算書と領収書を照らし合わせる調査官のイラストを並べた対比図 / キャプション:税務調査は「申告内容の答え合わせ」です]

「任意調査」と「強制調査」の違い

税務調査には大きく分けて「任意調査」と「強制調査」の2種類があり、一般の中小企業が受けるのはほぼすべて任意調査です。ニュースで見るような段ボールを運び出す光景は「強制調査(査察)」で、多額の脱税が疑われるごく一部のケースに限られます。

項目任意調査(一般的な税務調査)強制調査(査察)
担当税務署・国税局の調査部門国税局の査察部
事前連絡原則あり(電話で日程調整)なし(裁判所の許可状に基づき実施)
目的申告内容の誤りを正す悪質な脱税を刑事事件として告発する
対象中小企業・個人事業主の大半多額かつ悪質な脱税が疑われる場合
結果修正申告・追徴課税で終わるのが通常追徴課税に加え刑事罰の可能性

なお「任意」という名前ですが、調査官には法律上「質問し、帳簿を確認する権限」が認められています。正当な理由なく拒否したり、うその説明をしたりすると罰則の対象になるため、「任意=断ってよい」ではない点は押さえておいてください。

なぜ秋に税務調査が多いのか

税務署の1年(事務年度)は7月に始まり翌年6月に終わるため、人事異動が落ち着いた8月下旬から11月にかけて調査が集中します。12月に入ると年末調整、年明けからは確定申告の対応で税務署が忙しくなるため、法人の調査は「秋が勝負」というのが実務の実感です。

つまり、10月の今は「来るならこの時期」というタイミングです。連絡が来てから慌てるのではなく、今のうちに準備を進めておくことをおすすめします。

調査に選ばれやすい会社の特徴

税務調査の対象はくじ引きではなく、申告データの分析によって「確認すべき点がありそうな会社」から優先的に選ばれます。代表的な特徴は次のとおりです。

  • 売上が急に伸びた、または急に落ち込んだのに利益率が不自然に変わっていない
  • 同業他社と比べて利益率や経費の割合が大きく違う
  • 現金での取引が多い業種(飲食・小売・建設など)
  • 外注費が多額で、相手が個人である
  • 決算月に大きな経費(修繕費・消耗品・賞与など)が集中している
  • 前回の調査から相当の年数(目安として5年前後)が経っている、または一度も調査を受けていない
📌 税理士の実務視点 調査に選ばれること自体は、悪いことをした証拠ではありません。きちんと申告している会社にも定期的に調査は来ます。大切なのは「選ばれないこと」より「選ばれても困らないこと」です。

事前通知から調査終了までの流れ【7ステップ】

一般的な税務調査は「事前通知 → 準備 → 実地調査 → 講評 → 修正または更正 → 納付」という流れで進み、通知から終了までは1〜3か月程度が目安です。全体像を知っておくだけで、不安はぐっと小さくなります。

【図解】税務調査の流れ(中小企業の一般的なケース)

STEP1 事前通知 税務署から会社(顧問税理士がいれば税理士)へ電話。日時・場所・対象税目・対象期間などが伝えられる

▼

STEP2 日程調整・準備 都合が悪ければ日程変更を相談できる。帳簿・契約書・領収書・通帳などを整理する

▼

STEP3 実地調査(通常2〜3日) 初日の午前は社長への会社概要のヒアリング、その後は帳簿や書類の確認

▼

STEP4 追加資料の提出・質問への回答 調査後に追加の資料や説明を求められることがある

▼

STEP5 講評(調査結果の説明) 誤りがあった点・なかった点が説明される

▼

STEP6 修正申告 または 更正 誤りがあれば修正申告を勧められる。応じない場合は税務署が更正(税額の決定)を行う

▼

STEP7 納付・調査終了 追加の税金・加算税・延滞税を納めて終了。誤りがなければ「是認」の通知で終了

[画像指示:電話が鳴ってから調査終了までをカレンダー形式で示したタイムラインの図解イラスト / キャプション:通知から終了までは1〜3か月が目安です]

事前通知で伝えられること

事前通知とは、調査の前に税務署が「いつ・どこで・何を調べるか」を知らせる手続きのことで、法律で定められています。主に、調査を始める日時と場所、調査の目的、対象となる税金の種類(法人税・消費税・源泉所得税など)、対象期間、確認する帳簿や書類などが伝えられます。

ただし、現金商売などで「事前に知らせると正確な実態が分からなくなる」と判断された場合は、事前通知なしで調査が行われることもあります。

日程は変更できます

繁忙期や社長の出張など合理的な理由があれば、調査の日程は変更を相談できます。電話を受けたその場で日程を確定させる必要はありません。「顧問税理士と相談して折り返します」と伝え、対象期間と税目だけ控えておけば十分です。

実地調査当日の過ごし方

当日は「聞かれたことに、事実を、簡潔に答える」が鉄則です。初日の午前中は、会社の歴史、事業内容、取引先、社長の1日の過ごし方といった雑談に近い質問が中心ですが、ここでの回答と帳簿の内容が合っているかが後で確認されます。

  • 分からないことはその場で推測で答えず、「確認してお答えします」と伝える
  • 聞かれていないことまで話しすぎない
  • 求められた書類は用意するが、無関係な私物や書類を広げない
  • 机の上やパソコンのデスクトップは事前に整理しておく

「修正申告」と「更正」の違い

修正申告とは会社が自ら誤りを認めて申告をやり直すこと、更正とは税務署が税額を決定することです。どちらも追加の税金を納める点は同じですが、大きな違いがあります。

⚠ 注意:ここが落とし穴 修正申告に応じると、その内容について後から不服を申し立てることはできません。指摘に納得できない部分があるなら、安易に修正申告に応じず、根拠を確認し、必要であれば更正を受けてから「再調査の請求」や「審査請求」で争う道を残すことが重要です。

調査で必ず見られる5つのポイント

税務調査で調査官が重点的に確認するのは「売上の計上時期」「人件費」「役員への支払い」「交際費などの経費」「在庫」の5つです。ここを押さえておけば、準備の優先順位がはっきりします。

チェック項目調査官が見るポイントよくある誤り
① 売上の計上時期決算日前後の請求書・納品書・入金記録3月決算なのに3月納品分を4月の売上にしている(期ズレ)
② 人件費外注先の実態、家族への給与の働きぶり実態は従業員なのに「外注費」で処理
③ 役員への支払い役員報酬の金額変更の時期と手続き期中に役員報酬を増減し、一部が経費にならない
④ 交際費・会議費相手先・人数・目的の記録プライベートの飲食を経費にしている
⑤ 在庫(棚卸資産)期末の棚卸表と実際の在庫期末在庫の計上漏れで利益が過少

このほか最近は、電子メールやネットで受け取った請求書などの「電子取引データ」が正しく保存されているか、インボイス(適格請求書)の要件を満たした書類で消費税の計算をしているかも確認されています。

最大の落とし穴:「外注費」が「給与」と判断されるケース

外注費の給与認定とは、会社が「外注費(業務委託)」として支払っていたお金について、働き方の実態から「実は給与だった」と判断されることです。中小企業の調査で最も追徴額が大きくなりやすい論点の一つです。

リンゴ農家で例えてみましょう。収穫の手伝いを「業務委託」として頼んでいても、毎朝8時に来て、農家の指示どおりに、農家のハサミとカゴを使って作業し、時間単位でお金を受け取っているなら、それは実質的に「アルバイトとして雇っている」のと同じです。契約書の名前ではなく、働き方の実態で判断されるのです。

判断の目安となるポイント

判断のポイント「給与」と判断されやすい「外注費」と認められやすい
仕事の進め方会社が具体的に指示・監督する進め方は本人の裁量に任されている
時間・場所の拘束勤務時間や場所が決められている時間・場所は本人が自由に決める
代わりの人本人以外が作業することは認められない本人の判断で他の人に任せられる
道具・材料会社が無償で提供する本人が自分で用意する
報酬の決まり方時間給・日給など働いた時間で決まる完成した仕事の成果に対して支払う
失敗の責任作業のやり直し費用は会社負担完成品の不具合は本人が責任を負う

[画像指示:同じ「作業する人」でも、指示・時間・道具の3点で「従業員」と「外注先」に分かれることを示す左右比較の図解イラスト / キャプション:契約書の名前ではなく、働き方の実態で判断されます]

税金と社会保険の「トリプルパンチ」

外注費が給与と判断されると、①消費税、②源泉所得税、③社会保険の3方向から負担が発生します。

  • 消費税:外注費は消費税の計算で差し引ける(仕入税額控除)一方、給与は差し引けません。過去にさかのぼって消費税が追加で発生します
  • 源泉所得税:給与なら会社が所得税を天引きして納める義務があります。天引きしていなかった分を会社が納め、さらにペナルティ(不納付加算税)がかかります
  • 社会保険・労働保険:税務調査とは別の手続きですが、実態が従業員であれば社会保険の加入義務が生じ、年金事務所の調査などで最大2年さかのぼって保険料を求められる可能性があります

なお法人税については、外注費が給与に変わっても「経費であること」自体は変わらないため、影響は限定的です。ここが「経費として認められているのに、なぜこんなに追徴されるのか」と驚かれるポイントです。

📌 税理士の実務視点 外注先との関係は、税務だけで判断すると見落としが生まれます。社会保険や労働時間の考え方まで含めて、契約書・請求書・業務の指示方法を一体で整えることが本当の対策です。税金と労務の両方の目で同時にチェックすることで、調査にも労務トラブルにも強い会社になります。

追徴税額はどう決まる?加算税・延滞税のしくみ

税務調査で誤りが見つかると、本来の税金(本税)に加えて「加算税」と「延滞税」がかかります。加算税とは申告の誤りに対するペナルティ、延滞税とは納付が遅れた期間に対する利息のようなものです。

加算税の種類どんなときにかかるか税率(原則)
過少申告加算税期限内に申告したが、税額が少なかった10%(一定額を超える部分は15%)
無申告加算税期限までに申告しなかった15%(金額に応じて20%・30%)
不納付加算税源泉所得税を期限までに納めなかった10%
重加算税売上を隠す・書類を偽るなど「隠ぺい・仮装」があった35%(無申告の場合は40%)

延滞税は、本来の納期限の翌日から実際に納めた日までの日数に応じてかかります。納期限から2か月以内は低めの割合、2か月を超えると高い割合になり、その割合は毎年見直されます。つまり、追加で納める税金は「早く納めるほど少なくて済む」ということです。

調査の連絡が来る前の「自主修正」が最も有利

調査の事前通知が来る前に自分から誤りを修正すれば、過少申告加算税はかかりません。事前通知の後に修正した場合は5%(一定額を超える部分は10%)、調査で指摘されてからだと10%以上と、タイミングが遅くなるほど負担が重くなります。

【図解】修正のタイミングと過少申告加算税

調査の通知前に自主修正 → 加算税 0%(延滞税のみ)

▼

通知後〜調査での指摘前に修正 → 加算税 5%(一定額超の部分は10%)

▼

調査で指摘されてから修正・更正 → 加算税 10%(一定額超の部分は15%)/隠ぺい・仮装があれば重加算税35%
⚠ 注意:ここが落とし穴 重加算税は「意図的に隠した」と判断された場合にかかる重いペナルティです。売上の除外、架空の経費、書類の改ざんなどが典型例で、調査の対象期間も通常より長くなります。「うっかり」と「隠した」では結果がまったく違うため、普段から説明できる記録を残しておくことが自分を守ります。

今日からできる税務調査の準備チェックリスト

税務調査の対策とは、特別な裏ワザではなく「普段の記録を説明できる状態にしておくこと」です。次の項目を、今月中に一度チェックしてみてください。

  • 直近3期分の決算書・申告書・総勘定元帳がすぐに出せる
  • 決算日前後1か月の請求書・納品書が日付順に整理されている
  • 外注先ごとに業務委託契約書があり、請求書が成果に基づく内容になっている
  • 役員報酬の決定・変更を株主総会や取締役会の議事録で残している
  • 交際費の領収書に「誰と・何人で・何の目的で」をメモしている
  • 期末の棚卸表を作成し、担当者と日付を記録している
  • メールやネットで受け取った請求書などのデータを、検索できる形で保存している
  • 会社の口座と社長個人の口座のお金の出入りを混ぜていない

税理士による「書面添付制度」の活用

書面添付制度とは、税理士が申告書の作成にあたり「何を確認し、どう判断したか」を記載した書面を申告書に添付する制度です。この書面が添付されていると、税務署は調査の連絡をする前に、まず税理士から意見を聴く機会を設けることになっています。その説明で疑問が解消されれば、実地調査に進まずに終わることもあります。日頃から帳簿を一緒に確認している税理士がいる会社ほど、この制度を活かしやすくなります。

【シミュレーション】外注費が給与と判断されたら、いくら追徴される?

結論:外注費として毎月55万円を支払っていた1人分が給与と判断されると、税金だけで約290万円、社会保険まで含めると約680万円の負担になる可能性があります。具体的な数字で見てみましょう。

前提条件

  • 会社:内装工事業の法人(年商1億円、消費税は原則課税で申告)
  • 支払い:個人の職人1名に「外注費」として毎月55万円(税込)、年660万円を支払い
  • 働き方:毎日会社の現場に、会社の指示した時間に出勤し、会社の工具を使用。日当で計算
  • 調査対象期間:3年分。調査で「給与」と判断された
  • 源泉所得税は年25万円、延滞税は概算10万円と仮定(扶養状況・納付日・各年の割合により変動)
  • 社会保険は、別途さかのぼり加入となった場合を想定し、2年分・標準報酬月額56万円・保険料率(労使合計)約29%で概算

追加負担の試算

項目計算金額(概算)
消費税(仕入税額控除の否認)年60万円 × 3年180万円
過少申告加算税180万円 × 10%18万円
源泉所得税(天引き漏れ)年25万円 × 3年75万円
不納付加算税75万円 × 10%7.5万円
延滞税期間・割合により変動(仮置き)約10万円
税金の追加負担 小計 約290万円
社会保険料のさかのぼり(労使合計)約16.2万円 × 24か月約390万円
合計 約680万円

源泉所得税は本来、働いた本人が負担する税金ですが、何年も前の分を本人から回収するのは現実的に難しく、社会保険料の本人負担分も同様です。結果として、会社がほぼ全額をかぶることになりやすいのがこの論点の怖さです。

同じ状況でも「準備」していれば結果は変わる

対応起きること負担の目安
何もしないまま調査給与認定+加算税+延滞税、社会保険のリスク約680万円
調査の通知前に気づき自主修正過少申告加算税(18万円)がかからず、不納付加算税も10%→5%に軽減約658万円
実態を「外注」に合わせて見直し成果報酬・裁量・道具の自己負担へ変更し、契約書を整備将来の追徴リスクを大幅に軽減
実態どおり「雇用」に切り替え給与として源泉徴収・社会保険に加入毎月の負担は増えるが、調査・労務リスクは解消
📌 税理士の実務視点 この試算から分かるのは、税務調査の対策は「調査の当日」ではなく「普段の契約と働き方の設計」で決まるということです。外注で続けるのか、雇用に切り替えるのかは、税金・社会保険・人材確保の3つを比べて経営判断として選ぶべきテーマです。

よくある質問(FAQ)

Q. 税務調査は断ることができますか?

A. 原則として断ることはできません。一般的な税務調査は「任意調査」ですが、調査官には法律上の質問や帳簿確認の権限があり、正当な理由なく拒否すると罰則の対象になります。ただし、日程は合理的な理由があれば変更を相談できます。

Q. 税務調査は何日くらいかかり、何年分を調べられますか?

A. 中小企業の場合、会社に来て行う実地調査は2〜3日が一般的です。対象期間は直近3年分が多く、誤りが見つかれば5年分、意図的な隠ぺいなどがあれば最長7年分までさかのぼることがあります。

Q. 赤字の会社にも税務調査は来ますか?

A. 来ます。消費税や源泉所得税は赤字かどうかに関係なく発生するため、赤字の会社でも調査の対象になります。また、赤字を翌年以降に繰り越している会社では、その赤字の金額が正しいかも確認されます。

Q. 顧問税理士がいないと不利になりますか?

A. 税理士がいなくても調査は受けられますが、実務上は不利になりやすいといえます。税理士は調査に立ち会い、指摘が法律上正しいかをその場で判断できるほか、書面添付制度を使えば調査の前に税理士が説明する機会も得られます。調査の連絡が来てからでも依頼は可能です。

Q. 調査官の指摘に納得できない場合はどうすればいいですか?

A. その場で修正申告に応じず、指摘の根拠を確認してください。修正申告をすると後から不服を申し立てられなくなります。納得できない場合は税務署による更正を受け、通知を受けた日の翌日から3か月以内に「再調査の請求」または「審査請求」を行うことができます。

まとめ:税務調査は「準備した会社」が必ず勝つ

この記事の要点 1. 税務調査は申告内容の答え合わせ。秋(9〜11月)がピークで、原則として事前に連絡が来ます。 2. 最大の落とし穴は外注費の給与認定。消費税・源泉所得税・社会保険のトリプルパンチで数百万円規模になることもあります。 3. 誤りに気づいたら調査の通知前に自主修正。普段から「説明できる記録」を残すことが最強の対策です。

税務調査への対応は、会社の業種、取引の内容、これまでの申告状況によって、取るべき対策がまったく異なります。「うちの外注費は大丈夫だろうか」「調査の連絡が来たけれど、何から手をつければいいか分からない」――そんな不安を抱えたままにしておくことが、一番の損失につながります。

当事務所には、税務調査を「調べる側」として経験してきた国税OBの税理士が在籍しており、調査官がどこに注目し、どう判断するのかを熟知したうえで、事前準備から当日の立会い、指摘への対応までを一貫してサポートします。さらに、税理士と社会保険労務士が連携する体制により、外注と雇用の区分、社会保険の加入判断、契約書の見直しまで、税金と労務をまとめて解決できるのが強みです。

📞 まずはお気軽にご相談ください 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「調査の連絡が来た」「外注先との契約が心配」「今の帳簿で大丈夫か見てほしい」――どんな段階でも構いません。オンラインでのご相談にも対応しています。

税務調査の連絡が来たら最初に何をすべきか

2026-10-05

秋の調査シーズンに経営者が損をしない対応手順と加算税の仕組み

「税務署の〇〇と申しますが、御社の税務調査に伺いたく…」。ある日突然かかってくるこの電話に、心臓が止まりそうになった経営者は少なくありません。「何か悪いことをしたのだろうか」「会社が潰れるほどの税金を取られるのでは」と、不安で夜も眠れなくなる方もいます。

でも、安心してください。税務調査は「悪いことをした会社だけに来るもの」ではありません。きちんと申告している会社にも、数年に一度は来る可能性がある、いわば「定期健康診断」のようなものです。そして、最初の対応を間違えなければ、余計な税金を払わずに済むケースがほとんどです。

この記事では、税務調査の電話が来たときに「最初にやるべきこと」「やってはいけないこと」、そして調査で指摘を受けたときに払う「加算税」の仕組みまで、具体的な数字を使ってやさしく解説します。

✔ この記事の結論 ・税務調査の連絡が来たら、その場で日程を即決せず、まず顧問税理士に連絡するのが鉄則です。 ・日程の変更は、合理的な理由があれば相談できます。慌てて準備不足のまま臨むのが一番の損です。 ・指摘を受けた場合の追加負担(加算税)は、「いつ・どのように」修正したかで0%〜40%以上まで大きく変わります。 ・秋(9〜11月)は調査が集中しやすい時期です。今のうちに帳簿・契約書・領収書を整えておくことが最大の防御です。

税務調査とは?まずは正体を正しく知ろう

結論から言うと、税務調査とは「会社や個人が提出した申告書の内容が正しいかを、税務署が帳簿や書類で確かめる手続き」のことです。罰を与えるための手続きではなく、「答え合わせ」だと考えてください。

身近な例でいえば、子どもがつけている「お小遣い帳」を、親が月末にレシートと照らし合わせてチェックするようなものです。書いてある金額とレシートが合っていれば何も問題はありません。合っていなければ、正しい金額に直す。それだけのことです。

任意調査と強制調査の違い

税務調査には大きく2種類あります。ほとんどの会社が受けるのは「任意調査」です。任意調査とは、事前に連絡があり、会社の同意と協力のもとで行われる通常の税務調査のことです。一方、強制調査とは、悪質な脱税が疑われる場合に、裁判所の許可を得て行われる査察(いわゆる「マルサ」)のことです。

項目任意調査(一般的な税務調査)強制調査(査察)
対象一般の法人・個人事業主悪質・多額の脱税が疑われる者
事前連絡原則あり(電話等で事前通知)なし(予告なく着手)
担当税務署の調査官国税局査察部
期間の目安中小企業で2〜3日程度の臨場が一般的数か月〜1年以上
結果修正申告・更正など刑事告発の可能性

この記事で扱うのは、多くの経営者が経験する「任意調査」です。任意とはいえ、正当な理由なく調査を拒否したり、帳簿の提示を拒んだりすると罰則の対象になるため、「協力はするが、言いなりにはならない」姿勢が大切です。

なぜ秋は税務調査が多いのか

結論として、税務署の仕事の年度(事務年度)が7月から始まり、人事異動が落ち着いた秋から年末にかけて調査が本格化するためです。3月の確定申告期は個人の申告対応で忙しく、調査件数が少なくなる傾向があります。そのため、「9月〜11月に電話が来る」というのは、実務上とてもよくあるパターンです。

[画像指示:税務署の1年間(7月事務年度開始→秋の調査集中期→確定申告期)を示すカレンダー型の図解イラスト / キャプション:税務調査は人事異動後の秋から年末にかけて集中しやすい]

電話が来たら最初にやるべき5つのステップ

結論を先に言います。電話を受けた瞬間にやるべきことは「メモを取る」「即答しない」「税理士に連絡する」の3つだけです。その場で日程を決めたり、質問に詳しく答えたりする必要はありません。

■ 税務調査の連絡を受けてから当日までの流れ

STEP1 電話の内容をメモする 調査官の氏名・所属税務署・対象税目・対象期間・希望日程
▼
STEP2 「顧問税理士と相談して折り返します」と伝える その場で日程を即決しない
▼
STEP3 顧問税理士に連絡する 税理士が窓口となり日程調整を行う
▼
STEP4 対象期間の書類を準備・点検する 帳簿・請求書・契約書・通帳・議事録など
▼
STEP5 税理士と事前打ち合わせ(リハーサル) 想定質問への回答と論点の整理

STEP1〜2:その場で答えすぎない

税務調査の事前通知では、法律上、調査を始める日時・場所・目的・対象となる税目・対象期間・調べる帳簿などを伝えることになっています。電話口ではこれらを落ち着いてメモし、「税理士と相談のうえ、折り返しご連絡します」と伝えれば十分です。

⚠ 注意 電話口で「うちは売上を少し少なめに…」「あの経費は実は…」など、聞かれてもいないことを話すのは絶対にやめましょう。電話の段階から、会話の内容は調査官の記録に残ると考えてください。

STEP3:日程変更は「相談できる」

「税務署に言われた日程は断れない」と思い込んでいる方が多いのですが、これは誤解です。繁忙期の業務、出張、体調不良など、合理的な理由があれば日程の変更を相談できます。準備不足のまま慌てて調査を受けるよりも、しっかり準備できる日程にするほうが、結果的に会社を守ることにつながります。

STEP4〜5:準備は「3年分」が基本

一般的な税務調査では、直近3年分の申告内容が確認の中心になります。ただし、問題が見つかれば5年分、偽りや不正があれば最長7年分までさかのぼることがあります。まずは直近3年分の書類がすぐに出せる状態か、チェックしましょう。

準備する書類チェックのポイント
総勘定元帳・仕訳帳決算書・申告書の数字と一致しているか
請求書・領収書売上・経費の裏付けがそろっているか(インボイスの要件も含む)
契約書外注先・賃貸借・役員との取引の契約書があるか
預金通帳会社の口座と社長個人の口座が混在していないか
株主総会・取締役会議事録役員報酬の決定・変更が記録されているか
賃金台帳・出勤簿給与と外注費の区分、源泉徴収が正しいか
税理士の実務視点 調査官が最初の数時間で見ているのは「会社の雰囲気」と「社長の話の一貫性」です。会社の沿革や事業内容の説明は、事前に税理士と練習しておくと落ち着いて話せます。また、税理士が「税務代理権限証書」を提出していれば、税務署からの連絡は税理士にも届きます。顧問契約を結ぶ際は、この書類の提出を確認しておきましょう。

調査でよく指摘されるポイントと「税×労務」の落とし穴

結論として、中小企業の調査で指摘されやすいのは「売上の計上時期」「役員報酬・役員への支出」「外注費と給与の区分」「交際費と私的支出の区別」の4つです。特に外注費の問題は、税金だけでなく労務(社会保険・労働法)にも波及するため注意が必要です。

①売上の期ズレ

期ズレとは、本来は今期の売上なのに、翌期の売上として計上してしまうことです。決算月の末日に納品した商品の請求書を翌月に発行した、といったケースが典型です。故意でなくても、税金の納付が遅れたことになるため指摘の対象になります。

②役員報酬と役員への支出

役員報酬は、原則として毎月同じ金額でなければ経費になりません(定期同額給与)。期の途中で根拠なく増額した部分や、社長の家族旅行・私的な飲食代を会社の経費にしている場合は、厳しく見られます。

③外注費と給与の区分(税と労務の両方に影響)

外注費とは、仕事を「請負」として外部の事業者に依頼した対価のことです。一方、給与とは、会社の指揮命令のもとで働いた「雇用」の対価のことです。名目が外注費でも、実態が「会社が時間や場所を指示し、道具も会社が用意している」なら給与と判断される可能性があります。

影響する分野外注費が給与と認定された場合の主なリスク
消費税外注費として差し引いていた消費税(仕入税額控除)が認められなくなる
源泉所得税給与として源泉徴収すべきだった所得税の納付漏れ(不納付加算税の対象)
社会保険実態が雇用であれば、社会保険・雇用保険の加入義務が問題になる
労働法残業代・有給休暇・解雇規制など、労働者としての保護が及ぶ
税理士の実務視点 外注費の問題は、税務調査では「税金の追加」で終わっても、その後に元外注先から「実は労働者だった」と未払い残業代を請求されるなど、労務トラブルに発展することがあります。税理士と社会保険労務士の両方の目で契約書と働き方をチェックしておくことが、二重のリスクを防ぐ近道です。

④交際費と私的支出

取引先との会食は交際費として認められますが、家族との食事や個人的な買い物の領収書が混ざっていると、会社の経費として認められないだけでなく、社長への「給与(役員賞与)」とみなされ、法人税と所得税の両方がかかるケースもあります。

指摘を受けたら払う「加算税」の仕組み

結論から言うと、税務調査で申告の誤りが見つかった場合、本来の税金(本税)に加えて「加算税」と「延滞税」がかかります。そして、加算税の割合は「自分から直したのか」「隠そうとしたのか」で大きく変わります。

加算税とは、申告や納付が正しく行われなかったことに対するペナルティとして、本税に上乗せして課される税金のことです。延滞税とは、納付が遅れた日数に応じてかかる、いわば「遅延利息」のことです。

加算税の種類かかる場面税率の目安
過少申告加算税申告した税額が少なかった10%(一定額を超える部分は15%)
無申告加算税期限までに申告しなかった15%(50万円超の部分20%、300万円超の部分30%)
不納付加算税源泉所得税を期限までに納めなかった10%
重加算税売上を隠す・書類を偽るなど仮装・隠ぺいがあった35%(無申告の場合40%)

修正のタイミングで負担が変わる

過少申告加算税は、修正申告をするタイミングによって次のように軽くなります。「調査の連絡が来る前に、自分で誤りに気づいて直した」場合は、過少申告加算税はかかりません。

修正のタイミング過少申告加算税
調査の事前通知の前に、自主的に修正申告0%
事前通知の後、調査による指摘を予知する前に修正申告5%(一定額を超える部分は10%)
調査で指摘を受けてから修正申告・更正10%(一定額を超える部分は15%)
⚠ 注意 過去5年以内に無申告加算税や重加算税を課されたことがある場合、さらに10%加重される仕組みがあります。また、調査で帳簿の提示ができない・記載が著しく不十分な場合にも、加算税が5%または10%加重されることがあります。「帳簿をきちんとつけて保存すること」自体が、加算税を減らす防御策になっています。

修正申告と更正の違い

修正申告とは、納税者が自分で誤りを認めて申告をやり直すことです。更正とは、税務署が「正しい税額はこれです」と決定する処分のことです。修正申告をすると、原則としてその内容に不服を申し立てることはできません。指摘に納得できない点がある場合は、安易に修正申告に応じず、税理士と相談して論点を整理することが重要です。

具体的なシミュレーション:同じ500万円の申告漏れでも、対応次第でこれだけ違う

結論として、同じ金額の申告漏れでも、「自主的に直した場合」と「隠していたと判断された場合」では、加算税だけで50万円以上の差が出ます。年商1億円の会社で、所得の申告漏れが500万円見つかったケースで試算してみましょう。

【前提条件】年商1億円の製造業(中小法人)/当初の申告で納めた法人税額300万円/申告漏れの所得500万円/わかりやすくするため、本税は「実効税率30%」と仮定し150万円とします。

ケース本税加算税合計(延滞税別)
A:事前通知前に自主修正150万円0円(0%)150万円
B:事前通知後・指摘予知前に修正150万円7.5万円(5%)157.5万円
C:調査で指摘を受けて修正150万円15万円(10%)165万円
D:売上除外など仮装・隠ぺいと認定150万円52.5万円(35%)202.5万円

ケースCとDの差は37.5万円です。さらに、重加算税の対象となった場合は延滞税の計算期間の扱いも厳しくなり、翌年以降の調査でも厳しく見られるようになります。「うっかりミス」と「隠ぺい」では、お金だけでなく会社の信用にも大きな差がつくのです。

※本試算は仕組みを理解するための簡略モデルです。実際には法人税・地方法人税・住民税・事業税をそれぞれ計算し、地方税には加算金がかかります。延滞税の率は毎年変動します。

[画像指示:4つのケース(自主修正・通知後修正・指摘後修正・重加算税)の負担額を比べた棒グラフ / キャプション:同じ申告漏れでも、対応のタイミングと内容で負担は大きく変わる]

税理士の実務視点 税理士が申告書に「書面添付」(申告書の作成にあたって税理士が確認した内容を記載する書面)を添付している場合、税務署は調査の事前通知をする前に、まず税理士から意見を聴く機会を設けることになっています。その説明で疑問が解消すれば、実地調査が省略されることもあります。日頃の申告の質を高めることが、調査そのものを減らす最も確実な方法です。

よくある質問(FAQ)

Q. 税務調査はどんな会社に来るのですか?

A. 売上や利益の急な変動がある会社、同業他社と比べて利益率が極端に低い会社、現金商売の会社、長年調査を受けていない会社などが選ばれやすい傾向があります。ただし、きちんと申告している会社にも一定の周期で来る可能性があるため、「調査が来た=悪いことをした」ではありません。

Q. 調査の日程は変更できますか?

A. はい、変更を相談できます。事業上の繁忙期や出張、体調不良など合理的な理由があれば、税務署と日程を調整できます。顧問税理士を窓口にすると、スムーズに調整できます。

Q. 何年分の書類を準備すればいいですか?

A. 一般的には直近3年分が中心です。ただし、誤りが見つかった場合は5年分、偽りや不正がある場合は最長7年分までさかのぼって調べられることがあります。法人の帳簿書類は原則7年間(欠損金がある事業年度は最長10年間)の保存義務があります。

Q. 税理士がいなくても調査は受けられますか?

A. 受けることはできます。ただし、調査官の指摘が法律上正しいかどうかをその場で判断するのは、専門家でなければ難しいのが実情です。納得できない指摘に安易に応じてしまうと、後から不服を申し立てられなくなる場合があるため、税理士の立ち会いを強くおすすめします。

Q. 調査の途中で自分のミスに気づいたら、どうすればいいですか?

A. 隠さずに税理士に相談してください。調査官に指摘される前に自ら申し出て修正する方が、加算税の負担や調査全体の印象の面で有利になることが多いです。逆に、ミスを隠そうとして書類を改ざんすると重加算税の対象になり、最悪の結果を招きます。

まとめ:税務調査は「準備」と「最初の一手」で結果が決まる

  • 税務調査は「答え合わせ」。電話が来たら即答せず、まず顧問税理士に連絡するのが鉄則です。
  • 加算税は修正のタイミングと内容で0%〜40%以上まで変わります。帳簿の整備と自主的な見直しが最大の節約策です。
  • 外注費と給与の区分など、税務の指摘が労務トラブルに波及するケースもあるため、税と労務の両面から備えましょう。
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 当事務所には、国税の現場で調査を担当してきた国税OBの税理士が在籍しています。調査官が「どこを、なぜ見るのか」を知り尽くした立場から、事前準備・当日の立ち会い・指摘への反論まで一貫してサポートします。さらに、税理士と社会保険労務士が連携しているため、外注費・給与・社会保険といった「税と労務にまたがる論点」もワンストップで対応可能です。 「税務署から電話が来た」「調査が不安で準備をしておきたい」という方は、今すぐ当事務所の無料相談窓口からお問い合わせください。

「防衛特別法人税」で中小企業の税金はいくら増える?

2026-10-04

所得2,400万円のラインと決算月別の開始時期を税理士がやさしく解説

【この記事の結論】 ✔ 防衛特別法人税とは、法人税額から500万円を差し引いた残りに4%をかける新しい国の税金です。2026年4月1日以後に始まる事業年度から課税されています。 ✔ 基礎控除500万円があるため、中小企業(資本金1億円以下)なら年間の所得がおよそ2,400万円までは負担ゼロです。多くの中小企業は実質的に影響を受けません。 ✔ 開始時期は決算月で異なり、9月決算の会社は2026年10月1日から始まる事業年度が最初、12月決算の会社は2027年1月からです。 ✔ 個人向けには2027年1月から「防衛特別所得税」(所得税額の1%)が始まる予定ですが、復興特別所得税が同じだけ下がるため、当面の負担は変わらない設計です。

「防衛のための増税が始まったらしいけれど、うちの会社も払うの?」「いつから、いくら増えるの?」――2026年4月の施行以降、経営者の方からこうしたご質問が急増しています。ニュースでは「法人税増税」とひとくくりに報じられることが多く、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、中小企業の大半は、この新しい税金の負担はゼロです。ただし、利益が大きく伸びている会社や、今後成長を目指す会社にとっては、事業計画や資金繰りに織り込んでおくべき「確実なコスト増」です。

この記事では、防衛特別法人税の仕組み、自社がかかるかどうかの判定方法、決算月別の開始時期、所得別の負担額、そして個人に関わる防衛特別所得税までを、身近な例えを使って分かりやすく解説します。

防衛特別法人税とは?仕組みを3分で理解する

結論として、防衛特別法人税とは、防衛力強化の財源を確保するために、法人税に上乗せする形で新しく設けられた国の税金のことです。

計算方法はとてもシンプル

計算式は次のとおりです。

【この記事の結論】 ✔ 防衛特別法人税 =(基準法人税額 − 500万円)× 4% ✔ 基準法人税額とは、その事業年度の法人税額(一定の調整を加えたもの)のことです。

お小遣い帳に例えてみましょう。毎年もらうお小遣いのうち、「500万円までは手数料なし、500万円を超えた分にだけ4%の手数料がかかる」というルールです。ポイントは、もうけ(所得)そのものではなく、「法人税の金額」から500万円を引くという点です。

[画像指示:法人税額のバーのうち、下の500万円部分が「非課税ゾーン」、上にはみ出た部分にだけ4%が課税される様子を示す棒グラフ図解 / キャプション:法人税額が500万円を超えた部分にだけ、4%の防衛特別法人税がかかります]

防衛財源確保のための3つの税

防衛力強化の財源は、法人税だけでなく、所得税とたばこ税の3本柱でまかなう設計になっています。

▼ 防衛財源確保のための3つの税の比較

項目防衛特別法人税防衛特別所得税たばこ税
対象法人個人(所得税を納める人)たばこを買う人
開始時期2026年4月1日以後に開始する事業年度2027年1月(予定)2026年4月から段階的に実施
税率・内容(法人税額−500万円)×4%所得税額×1%加熱式たばこの課税見直し・段階的な引上げ
負担軽減の仕組み基礎控除500万円復興特別所得税を同率引下げ―
実質的な影響法人税額500万円超の会社のみ当面は合計負担が変わらない喫煙者の負担増

自社はかかる?「所得約2,400万円」の判定ライン

結論として、資本金1億円以下の中小企業であれば、年間の所得(税務上のもうけ)がおよそ2,440万円以下なら負担はゼロです。

なぜ2,400万円なのか

中小企業の法人税は、所得800万円までの部分に15%、800万円を超える部分に23.2%の税率がかかります。法人税額がちょうど500万円になる所得を逆算すると、次のようになります。

  • 所得800万円までの法人税:800万円×15%=120万円
  • 残り380万円分の法人税を生む所得:380万円÷23.2%≒1,638万円
  • 合計:800万円+1,638万円=約2,438万円

つまり、年間の所得が約2,440万円を超えたところから、防衛特別法人税がかかり始めます。国税庁の統計でも、中小法人の多くはこの水準を下回っており、大半の中小企業にとっては実質的な負担のない税金といえます。

所得別の負担額早見表

▼ 中小企業(資本金1億円以下)の所得別・防衛特別法人税の目安(年額)

年間所得法人税額500万円を超える部分防衛特別法人税
1,000万円約166万円なし0円
2,000万円約398万円なし0円
3,000万円約630万円約130万円約5.2万円
5,000万円約1,094万円約594万円約23.8万円
1億円約2,254万円約1,754万円約70.2万円
3億円約6,894万円約6,394万円約255.8万円

※所得800万円以下の部分に軽減税率15%を適用し、税額控除等は考慮しない概算です。

💡 税理士の実務視点 所得が1億円を超える水準になると、防衛特別法人税は所得のおよそ0.9%に相当します。つまり、会社全体の税負担率(実効税率)が1ポイント弱上がると考えておけば、事業計画上は十分です。 一方、所得2,000万円前後の会社は「来期以降、利益が伸びれば課税ラインを超える」位置にいます。成長局面の会社ほど、予算と納税資金の計画に早めに織り込むことをおすすめします。

いつから?決算月別の開始時期

結論として、「2026年4月1日以後に開始する事業年度」から適用されるため、決算月によって最初の対象年度が最大1年近くずれます。

▼ 決算月別・防衛特別法人税の最初の対象事業年度

決算月最初の対象となる事業年度最初の申告期限(原則)
3月決算2026年4月1日〜2027年3月31日2027年5月末
6月決算2026年7月1日〜2027年6月30日2027年8月末
9月決算2026年10月1日〜2027年9月30日2027年11月末
12月決算2027年1月1日〜2027年12月31日2028年2月末
2月決算2027年3月1日〜2028年2月29日2028年4月末

※2月決算の会社は2026年3月1日開始の事業年度が対象外となるため、最初の対象は翌事業年度です。

9月決算の会社は、まさに2026年10月1日から始まった今期が最初の対象年度です。3月決算の会社も、すでに対象年度の半分が過ぎています。「まだ先の話」ではなく、今期の決算予測に組み込むべき税金です。

⚠ 申告と納付は法人税と同じタイミング 防衛特別法人税は、法人税と同じく事業年度終了の日の翌日から2か月以内(申告期限の延長を受けている場合はその期限)に申告・納付します。法人税と同様に経費(損金)にはなりません。 納税資金の準備が遅れると延滞税の対象になります。決算3か月前の段階で、法人税・地方税と合わせた納税額の見込みを立てておきましょう。

経営者が取るべき対応:5つのステップ

結論として、まず自社が課税ラインを超えるかを判定し、超える場合は納税計画と利益計画を見直します。

▼ 防衛特別法人税への対応手順

STEP 1 最初の対象事業年度を確認する

自社の決算月から、どの事業年度から課税されるかを確認します(上の表を参照)。

▼

STEP 2 今期の所得見込みを試算する

月次決算をもとに、今期の所得が約2,440万円を超えるかを判定します。

▼

STEP 3 納税額と納付時期を資金繰り表に反映する

法人税・地方税と合わせた納税総額を見積もり、納付月の資金を確保します。

▼

STEP 4 利益計画と投資計画を見直す

実効税率の上昇を前提に、賃上げ・設備投資・役員退職金の準備など、会社の将来につながる支出のタイミングを検討します。

▼

STEP 5 中長期の税負担を経営計画に組み込む

複数年にわたる増税として、3〜5年の経営計画に反映します。

⚠ 「会社を分ければ500万円を何回も使える」は危険な発想 基礎控除500万円を複数回使う目的だけで会社を分割するのは、実務上おすすめできません。事業上の合理的な理由がない分社化は、税務調査で否認されるリスクがあるうえ、会社ごとに法人住民税の均等割や事務コストもかかります。 分社化は、事業の独立性や事業承継、リスク分散といった本来の経営目的から判断すべきものです。

個人にも関係:2027年から始まる防衛特別所得税

結論として、防衛特別所得税とは、所得税額の1%を上乗せする個人向けの新しい税金のことで、2027年1月から始まる予定です。ただし同時に、東日本大震災の復興財源である復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に引き下げられるため、当面の手取りへの影響はありません。

▼ 所得税額300万円の社長の場合の比較

項目2026年まで2027年以降(予定)
復興特別所得税300万円×2.1%=6.3万円300万円×1.1%=3.3万円
防衛特別所得税―300万円×1%=3.0万円
上乗せ税の合計6.3万円6.3万円(変わらず)

ただし、復興特別所得税の課税期間は延長されるため、上乗せの税金を払い続ける期間は長くなります。役員報酬の源泉徴収は給与計算ソフトの更新で自動的に対応されることが一般的ですが、2027年1月の給与計算からの変更点として押さえておきましょう。

具体的なシミュレーション:所得5,000万円の製造業の場合

結論として、所得5,000万円の会社では年間約23.8万円、10年間で約238万円の税負担増になります。金額以上に大切なのは、「納税資金と利益計画に織り込むこと」です。

ケース設定

  • 年商10億円の製造業、資本金5,000万円、9月決算
  • 年間所得5,000万円(今後も同水準で推移すると仮定)
  • 最初の対象事業年度:2026年10月1日〜2027年9月30日

▼ 所得5,000万円の会社の防衛特別法人税シミュレーション

計算項目金額
所得800万円までの法人税(15%)120.0万円
所得800万円を超える部分の法人税(4,200万円×23.2%)974.4万円
基準法人税額(合計)1,094.4万円
基礎控除▲500.0万円
課税標準594.4万円
防衛特別法人税(×4%)約23.8万円
10年間の累計(同水準が続いた場合)約238万円

※税額控除や地方税への影響は考慮していない概算です。

💡 税理士の実務視点:増税分を「会社の力」に変える 年23.8万円という金額だけを見れば、会社の経営を揺るがすものではありません。しかし、税率が上がる局面では、同じ100万円の支出でも「使い方」による差が広がります。 例えば、社員の賃上げや人材育成、生産性を高める設備投資、社長自身の役員退職金の準備などは、会社の将来の力を高めながら、税負担の最適化にもつながります。単なる節税ではなく、「税金として払うか、会社の未来に投資するか」を選ぶ視点で、決算前の打ち手を検討しましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字の会社にも防衛特別法人税はかかりますか?

A. かかりません。防衛特別法人税は法人税額を基準に計算するため、赤字で法人税がゼロの会社は負担もゼロです。また、黒字でも法人税額が500万円以下であれば負担はありません。

Q. 防衛特別法人税は経費(損金)になりますか?

A. なりません。法人税と同様に、防衛特別法人税は所得の計算上、損金に算入されません。

Q. 地方税(法人住民税・事業税)の税率も上がりますか?

A. 防衛特別法人税は国の税金として新たに設けられたもので、法人住民税や法人事業税の税率そのものが引き上げられるわけではありません。

Q. 個人事業主にも関係がありますか?

A. 防衛特別法人税は法人のみが対象です。個人事業主には、2027年1月から予定されている防衛特別所得税(所得税額の1%)が関係しますが、復興特別所得税が同じ率だけ引き下げられるため、当面の負担は変わりません。

Q. 申告のために特別な準備は必要ですか?

A. 法人税の申告と合わせて申告・納付する仕組みのため、会計ソフトや申告ソフトの対応で大きな手間は生じません。ただし、所得が課税ラインを超える会社は、納税額が増える分の資金準備と、中間納付を含めた納付スケジュールの確認が必要です。

まとめ:大半の中小企業は負担ゼロ。成長企業は今期から計画に織り込む

この記事の要点を3行でまとめます。

  1. 防衛特別法人税は「(法人税額−500万円)×4%」。中小企業なら所得約2,440万円までは負担ゼロ。
  2. 2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用。9月決算の会社は2026年10月からの今期が最初の対象。
  3. 個人向けの防衛特別所得税は2027年1月から予定されているが、復興特別所得税の引下げで当面の負担は変わらない。

税制は毎年のように変わり、そのたびに「自社にどう影響するのか」を正しく見極める必要があります。影響がない税金に不安を感じる必要はありませんし、影響がある会社は早めに備えることで、納税を「会社の未来への投資」と両立させることができます。

私たちは、国税OBを含む税理士と社会保険労務士が連携し、税制改正が会社の利益・資金繰り・人件費に与える影響を一体で分析します。定期的な巡回監査で月次の数字を把握しているからこそ、決算前の早い段階で具体的な打ち手をご提案できます。65年の歴史と、時代の変化に合わせた経営支援の力で、成長を目指す経営者の皆さまを支えます。

【この記事の結論】 ✔ 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 ✔ 「うちの会社は課税ラインを超えるのか」「今期の納税額はいくらになるのか」といった試算のご相談から承っています。

法人成りは所得いくらから得?

2026-10-03

税金と社会保険料で「本当の手取り」を比べる個人事業主の法人化タイミング

【この記事の結論】 ✔ 法人化すると、所得税・住民税の負担は大きく下がります。利益1,200万円のモデルケースでは、税金だけで年間約147万円の差が出ます。 ✔ ただし法人化すると社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務になり、保険料が増えます。同じケースでは、保険料の増加と運営コストを差し引いた実際の手取り増は約19万円です。 ✔ よく言われる「所得800万円が目安」は税金だけを見た話です。社会保険料まで含めると、利益(事業所得)1,000万円前後が本格的な検討ラインというのが実務上の結論です。 ✔ 法人化の本当の価値は、節税額そのものよりも、退職金の準備・家族への所得分散・信用力の向上といった「将来の選択肢」が広がる点にあります。

「売上が伸びてきたから、そろそろ法人にした方がいいと言われた」「でも、会社にすると手続きや税理士費用が増えて、かえって損をするのでは?」――個人事業主の方から、最も多く寄せられるご相談の一つです。

実は、ネットや知人から聞く「所得○○万円を超えたら法人化」という話の多くは、社会保険料を計算に入れていません。そのため、言われるまま法人化して「思ったほど手取りが増えない」と後悔するケースが後を絶ちません。

この記事では、法人成りの仕組み、メリット・デメリット、見落としがちな落とし穴を解説したうえで、税金と社会保険料をすべて含めた「本当の手取り」を具体的な数字で比較します。読み終えるころには、ご自身がいま法人化すべきかどうか、判断の物差しを持てるはずです。

法人成りとは?個人事業との違いを「お財布」で理解する

結論として、法人成りとは、個人で営んでいた事業を、新しく設立した会社に引き継いで続けることです。

個人事業と法人の根本的な違い

個人事業では、事業のお金とあなた自身のお金は「同じお財布」です。もうけはすべてあなたの所得になり、そこに所得税と住民税がかかります。

一方、法人を作ると、会社のお財布とあなたのお財布が分かれます。会社はもうけの中からあなたに「役員報酬」というお給料を払い、残ったもうけには法人税がかかります。あなたは会社から受け取ったお給料に対して所得税と住民税を払います。この「お財布を2つに分ける」ことが、法人化で税金が下がる仕組みの出発点です。

[画像指示:個人事業は財布が1つ、法人化すると「会社の財布」と「社長の財布」の2つに分かれ、役員報酬で橋渡しする様子を示す図解 / キャプション:法人化の本質は、1つのお財布を2つに分けることです]

税金が下がる3つの理由

■ 理由1:税率の構造が違う

個人の所得税は、もうけが増えるほど税率が上がる「累進課税」です。住民税と合わせると最高55%に達します。これに対して中小企業の法人税等は、所得800万円以下の部分で約25%、それを超える部分でも約34%程度にとどまります。

▼ 個人と法人の税率の比較(所得が増えたときに追加でかかる税率の目安)

課税される所得個人(所得税+住民税)法人(中小法人の実効税率)
195万円以下15%約25%(所得800万円以下)
195万〜330万円20%約25%
330万〜695万円30%約25%
695万〜900万円33%約25%〜34%(800万円超は約34%)
900万〜1,800万円43%約34%
1,800万〜4,000万円50%約34%
4,000万円超55%約34%

※個人の税率は所得税率+住民税10%(復興特別所得税を除く)。個人は業種により別途個人事業税(原則5%)がかかります。法人の実効税率は地域や事業規模で異なる概算です。

■ 理由2:役員報酬に「給与所得控除」が使える

給与所得控除とは、会社員などのお給料から、必要経費の代わりに一定額を自動的に差し引ける仕組みです。社長が自分の会社から受け取る役員報酬にもこの控除が使えます。会社側では報酬が経費になり、個人側でも控除が引ける。いわば「経費を二度引ける」ような効果が生まれます。

■ 理由3:所得を分散できる

もうけを「社長の報酬」「会社の利益」、さらに実際に働く家族への報酬に分けることで、それぞれに低い税率が適用されます。1人に所得が集中するほど税率が上がる累進課税を、分散によって避けられるのです。

法人化のメリット・デメリット

結論として、メリットは「税率・控除・将来の備え」、デメリットは「社会保険料・コスト・手間」です。どちらが大きいかは、利益の水準で決まります。

▼ 法人成りのメリット・デメリット一覧

観点メリットデメリット
税金高所得層ほど税率が下がる/給与所得控除が使える赤字でも法人住民税の均等割(最低年7万円程度)がかかる
社会保険厚生年金で将来の年金が手厚くなる社長1人でも加入義務があり、会社負担分も含め保険料が増える
将来の備え役員退職金を経費にでき、受け取る側も税負担が軽い―
赤字の繰越赤字を10年間繰り越せる(個人の青色申告は3年)―
信用力取引先や金融機関からの信用が高まりやすい―
コスト・手間―設立費用、税理士報酬、社会保険の事務などが増える
お金の自由度―会社のお金を自由に引き出せない(役員報酬は原則年1回しか変更できない)

見落としがちな最大のポイント:社会保険料

法人は、社長1人だけの会社でも、役員報酬を払う以上、健康保険と厚生年金への加入が法律上の義務です。保険料は報酬のおよそ3割にもなり、そのうち半分を会社が、半分を社長個人が負担します。社長の会社なので、実質的には全額を自分で払っているのと同じです。

個人事業主のときに払っていた国民健康保険と国民年金と比べると、多くの場合、保険料の総額は増えます。ここを計算に入れずに「税金が○○万円下がる」とだけ説明されて法人化するのが、最も典型的な失敗パターンです。

💡 税理士の実務視点:社会保険料は「ただのコスト」ではない 厚生年金の保険料は、将来の年金として一部が戻ってきます。国民年金だけの場合と比べ、老後の年金額は確実に増えます。また、健康保険には病気やけがで休んだときの「傷病手当金」があり、国民健康保険にはない保障です。 つまり社会保険料の増加は、「消える税金」ではなく「将来への積立と保障」の側面を持ちます。手取りの損得と、老後・万一の保障のバランスで判断するのが正しい考え方です。

実務上の注意点・法人化で陥りやすい5つの罠

結論として、法人化のメリットを最大限に活かすには、設立前の設計で8割が決まります。

■ 罠1:役員報酬を後から自由に変えられない

役員報酬を経費にするには、原則として事業年度の開始(設立)から3か月以内に金額を決め、毎月同じ額を支払う必要があります。これを定期同額給与といいます。「もうかったから期末に報酬を増やす」ことはできません。報酬額の設計は、1年分の利益予測をもとに慎重に決める必要があります。

■ 罠2:「消費税2年免税」はもう当てにできない

資本金1,000万円未満で会社を作ると、原則として最初の2期は消費税の納税義務が免除されます。しかしインボイス制度のもとで、取引先のためにインボイス発行事業者の登録をすると、免税期間中でも消費税を納めることになります。法人化による消費税メリットは、取引先の状況次第で大きく縮小しています。

■ 罠3:会社のお金を個人的に使えない

会社のお金を社長が勝手に使うと、「役員への貸付金」や「役員賞与」として扱われ、余分な税金がかかることがあります。個人事業のころの感覚で財布を混同しないことが大切です。

■ 罠4:法人化の時期によって損をする

年の途中で法人化すると、その年の個人事業の所得と役員報酬の両方に所得税がかかります。また、個人事業で使っていた車や設備を会社に引き継ぐ方法(売買か、賃貸か)によっても税金が変わります。決算期(事業年度)の選び方と合わせて、いつ法人化するかを計画的に決めましょう。

■ 罠5:会社に残したお金を取り出すときにも税金がかかる

会社に残した利益は、社長が自由に使えるお金ではありません。配当として受け取れば、配当に税金がかかります。会社に貯めたお金を効率よく個人に移す手段の代表が、退職時に受け取る役員退職金です。法人化の段階から、退職金の準備まで含めた長期の設計が重要です。

法人成りの進め方:6つのステップ

結論として、「試算→設計→設立→届出→個人事業の整理→報酬決定」の順で進めます。特に届出には期限があるものが多いため注意が必要です。

▼ 個人事業主が法人化するまでの流れ

STEP 1 手取りシミュレーションを行う

税金だけでなく社会保険料・設立費用・運営コストを含めて、法人化の損得を試算します。

▼

STEP 2 会社の形・決算期・役員報酬を設計する

株式会社か合同会社か、何月決算にするか、報酬をいくらにするかを決めます。

▼

STEP 3 定款を作成し、設立登記をする

株式会社は定款認証と登録免許税(最低15万円)などで約20万〜25万円、合同会社は約6万〜10万円が目安です。

▼

STEP 4 税務署・都道府県・市区町村・年金事務所へ届け出る

法人設立届出書(設立から2か月以内)、青色申告の承認申請書(原則3か月以内)、社会保険の新規適用届(5日以内)などを提出します。

▼

STEP 5 個人事業を整理する

個人事業の廃業届(1か月以内)を出し、銀行口座・契約・車両や設備などを会社に移します。

▼

STEP 6 役員報酬を決定し、毎月同額で支給する

設立から3か月以内に株主総会等で報酬額を決め、議事録を残します。

⚠ 青色申告の承認申請は特に要注意 法人の青色申告承認申請書は、原則として設立日から3か月以内、または第1期の終了日の前日のいずれか早い日までに提出が必要です。出し忘れると1期目の赤字を繰り越せないなどの大きな不利益があります。

具体的なシミュレーション:利益1,200万円の個人事業主が法人化したら

結論として、このケースでは税金が年間約147万円減る一方、社会保険料が約98万円増え、運営コスト約30万円を差し引いた手取りの増加は約19万円です。

ケース設定

  • 売上3,000万円、経費1,800万円、利益1,200万円の個人事業主(青色申告65万円控除)
  • 個人事業時代の国民健康保険料+国民年金保険料:約110万円と仮定
  • 法人化後の役員報酬:年720万円(月60万円)
  • 社会保険料は報酬の約29%(会社・個人で約104万円ずつ)と仮定
  • 法人化で増える運営コスト(税理士報酬の増加分など):年30万円と仮定

▼ 個人事業のままの場合と法人化した場合の比較(年額・概算)

項目個人事業のまま法人化した場合
所得税(復興特別所得税を含む)約169.0万円約33.1万円
住民税約98.2万円約39.1万円
個人事業税約45.5万円―
法人税・法人住民税等(均等割含む)―約93.5万円
税金の合計約312.7万円約165.7万円
社会保険料(会社負担分+本人負担分)約110万円約208万円
増える運営コスト―約30万円
社長個人の手取り約777.3万円約543.8万円
会社に残るお金(税引後)―約252.5万円
手取り+会社に残るお金約777.3万円約796.3万円(約19万円増)

※基礎控除58万円で計算し、令和7・8年分の基礎控除上乗せ特例、事業税の翌年経費算入、その他の所得控除は考慮していません。法人税等は中小法人の実効税率約25%で概算しています。

数字から読み取れる3つのポイント

  1. 税金は約147万円下がる:法人化の税率・控除の効果は非常に大きいことが分かります。
  2. 社会保険料が約98万円増える:税金の減少分の3分の2近くが、保険料の増加で相殺されます。
  3. 会社に約252万円が残る:このお金は社長が自由に使えるわけではありませんが、将来の役員退職金や設備投資、不況時の備えとして活用できます。
💡 税理士の実務視点:同じ法人化でも「設計」で結果は変わる 今回の試算は、役員報酬を1つの金額に固定した単純なモデルです。実務では、役員報酬の金額、実際に働く配偶者への報酬、役員退職金の積立、生命保険の活用などを組み合わせることで、手取りと将来の備えのバランスを最適化します。 利益が1,500万円、2,000万円と増えるほど、法人化の効果は加速度的に大きくなります。逆に利益が800万円程度だと、社会保険料の増加で手取りが減ることもあります。「いくらなら得か」は、ご本人の年齢・家族構成・将来設計で変わるため、個別の試算が欠かせません。

よくある質問(FAQ)

Q. 株式会社と合同会社、どちらで法人化すべきですか?

A. 税金の計算は株式会社も合同会社も同じです。設立費用を抑えたい、取引先が個人中心で対外的な見え方にこだわらない場合は合同会社、将来の資金調達や採用、大企業との取引で信用を重視する場合は株式会社が向いています。後から合同会社を株式会社に変更することも可能です。

Q. 社長1人の会社でも、社会保険に入らなければいけませんか?

A. はい、役員報酬を支払う以上、社長1人の会社でも健康保険と厚生年金への加入は法律上の義務です。加入しないことは認められません。そのため、法人化の損得は必ず社会保険料を含めて判断してください。

Q. 役員報酬を途中で上げたり下げたりできますか?

A. 原則として、事業年度開始から3か月以内に決めた金額を、その年度中は毎月同額で支払う必要があります。途中で変更すると、変更分が経費として認められないことがあります。業績の著しい悪化など、例外的に減額が認められるケースもありますが、要件は厳格です。

Q. 赤字の年でも、法人には税金がかかりますか?

A. はい。法人住民税の「均等割」は、利益がなくても毎年かかります。資本金1,000万円以下・従業員50人以下の会社で、地域により異なりますが年間7万円程度が目安です。

Q. 法人化するなら、何月に会社を作るのが良いですか?

A. 一概には言えませんが、繁忙期と決算期が重ならないようにすること、個人事業の最後の年の所得と役員報酬が二重に課税される期間を短くすることがポイントです。個人事業の所得が多い年ほど、年初に近い時期の法人化が有利になりやすい傾向があります。具体的な時期は試算のうえで決めましょう。

まとめ:法人化は「税金」ではなく「手取りと将来設計」で判断する

この記事の要点を3行でまとめます。

  1. 法人化で税金は大きく下がるが、社長1人でも社会保険の加入が義務になり、保険料が増える。
  2. 社会保険料まで含めると、利益1,000万円前後が本格的な検討ライン。「所得800万円」は税金だけを見た目安にすぎない。
  3. 成否を分けるのは設立前の設計。役員報酬・家族への報酬・退職金の準備まで含めて計画すべき。

法人化は、一度決めると簡単には元に戻せない経営判断です。税金だけで判断すると、社会保険料や運営コストで思わぬ負担増になりかねません。

私たちは、税理士と社会保険労務士が一つのチームとして、税金と社会保険の両方を踏まえた法人化シミュレーションを行います。設立後も、定期的な訪問による巡回監査で経理と役員報酬の設計を見守り、国税OBの知見を活かした税務調査への備えまで一貫してサポートします。65年にわたり地域の経営者と歩んできた経験をもとに、「法人化してよかった」と思える会社づくりをお手伝いします。

【この記事の結論】 ✔ 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 ✔ 「自分の場合は法人化すべきか」を、税金と社会保険料を含めた手取りで試算するご相談から承っています。

決算賞与で節税は本当にできる?

2026-10-02

社長と従業員で違う損金ルールと社会保険料の落とし穴を税理士・社労士が解説

「今期は思ったより利益が出そう。税金で持っていかれるくらいなら、頑張ってくれた社員にボーナスを出したい」――決算が近づくと、多くの経営者の方からこのご相談をいただきます。気持ちはとてもよく分かります。ところが、決算賞与は出し方をひとつ間違えるだけで、税金が1円も減らないどころか、社員との関係までこじれてしまうことがある、意外と奥の深い対策です。

この記事では、決算賞与で本当に税金を減らすための条件、社長・役員に出してはいけない理由、そして見落とされがちな社会保険料と就業規則の落とし穴までを、税金と労務の両方の目線から、中学生でも分かる言葉で解説します。12月決算・3月決算の会社なら、今から準備すれば十分に間に合います。

【結論】 決算賞与とは、その期の業績に応じて決算前後に支給するボーナスのことです。従業員に出す分は、ルールを守れば今期の経費(損金)にできます。決算日までに支払えない場合でも、①決算日までに全員へ個別に金額を通知 ②決算日の翌日から1か月以内に支払う ③今期の帳簿に未払計上する――の3つを満たせば今期の経費になります。社長・役員への決算賞与は原則として経費になりません。節税どころか、会社と個人で二重に税金がかかります。決算賞与は「税金を減らす道具」ではなく「社員への投資」です。税金が減っても、会社のお金はそれ以上に出ていくことを前提に判断しましょう。

決算賞与とは? 普通のボーナスとの違いを知ろう

結論から言うと、決算賞与は「期末に利益の見込みが立ってから、金額を決めて出すボーナス」です。夏・冬の定例ボーナスとの一番の違いは、支給するかどうか・いくらにするかを、決算直前に決められる点にあります。

決算賞与の定義

決算賞与とは、会社の事業年度の業績(利益)に応じて、決算期末の前後に従業員へ支給する臨時のボーナスのことです。法律上の特別な制度名ではなく、税金のルールの上では普通の「賞与」と同じように扱われます。

身近な例えで考えてみましょう。家族でお店を手伝ってくれた子どもに、年末に「今年は売上が良かったから、お小遣いを上乗せするね」と渡すのが決算賞与のイメージです。夏休みに毎年決まって渡すお小遣い(定例賞与)とは違い、その年の出来栄えを見てから決められるのが特徴です。

なぜ「節税になる」と言われるのか

会社の税金(法人税・住民税・事業税)は、利益=売上-経費に対してかかります。従業員への賞与は経費(税金の世界では「損金(そんきん)」と呼びます)になるので、賞与を出した分だけ利益が減り、税金も減ります。

損金とは、法人税を計算するときに、利益から差し引くことが認められる費用のことです。会計上の「費用」とほぼ同じですが、税法独自のルールで「費用だけど損金にならない」ものがある点に注意が必要です。決算賞与の落とし穴は、まさにこの「損金にならない」ケースに潜んでいます。

[画像指示:売上-経費=利益、利益×税率=税金の関係を、リンゴ販売のお店で表した図解イラスト / キャプション:賞与を経費にできれば利益が減り、その分だけ会社の税金も減る]

決算日までに払えなくても大丈夫? 未払賞与を経費にする3つの条件

結論として、決算日までに実際に支払っていなくても、3つの条件をすべて満たせば今期の経費にできます。逆に、1つでも欠けると経費になるのは「実際に払った翌期」になり、今期の節税効果はゼロです。

未払賞与とは

未払賞与とは、支給額は決まっているものの、決算日の時点でまだ支払っていない賞与のことです。帳簿に「未払金」として載せておき、翌期に支払います。

お店の「ツケ払い」を思い浮かべてください。今月リンゴを仕入れて「代金は来月払います」と約束した場合、金額がはっきりしていて、相手にも伝わっていて、すぐ払うのであれば、今月の仕入れとして家計簿に書いても問題ありませんよね。未払賞与も同じ考え方で、「金額が確定し、本人に伝わり、すぐ払う」ことが条件になります。

法人税法で定められた3つの要件

法人税法施行令では、使用人(従業員)への賞与を「通知した期」の損金にするための要件を、次のように定めています。

要件内容実務でのチェックポイント
① 個別通知支給額を各人別に、かつ同じ時期に支給を受ける全員に、決算日までに通知していること一部の人だけへの通知、「総額○万円」だけの発表はNG。書面・メールで個人別の金額を伝え、受領の記録を残す
② 1か月以内の支払通知した金額を、通知した全員に、決算日の翌日から1か月以内に支払っていること12月決算なら翌年1月31日まで。通知額より少ない支払いや、遅れは要件を満たさない
③ 損金経理通知した期の決算で、その賞与を費用として帳簿に計上していること決算整理で「賞与/未払金」の仕訳を必ず入れる。計上漏れは後から取り戻せない

表1:未払賞与を今期の損金にするための3要件

最大の罠:「支給日に在籍している人だけに払う」という条件

ここが実務で最も多い失敗です。多くの会社の就業規則や賃金規程には「賞与は支給日に在籍する者に支給する」という一文(支給日在籍要件)が入っています。この条件付きで決算賞与を通知すると、「支給日までに辞めた人には払わない=決算日の時点では金額が確定していない」と判断され、未払計上が認められないという考え方が、国税庁から示されています。

こんなケースは要注意 通知書に「支給日に在籍していることを条件とします」と書いた就業規則の賞与規定に支給日在籍要件があり、決算賞与だけの例外規定がない「総額500万円を、業績貢献に応じて後日配分します」とだけ伝えた繁忙期で、決算日を過ぎてから通知した(通知日がさかのぼって作られた書類は、税務調査で特に厳しく見られます)
税理士・社労士の実務視点 労務の世界では、支給日在籍要件は「辞める人に賞与を払わずに済む」ための一般的な規定です。一方、税務の世界ではこの規定が未払計上の障害になります。税金と労務のルールが正面からぶつかる典型例です。 解決策は2つあります。1つは決算日までに実際に支払ってしまうこと(未払計上の問題自体が生じません)。もう1つは、賃金規程に「決算賞与は通知をもって支給額を確定し、支給日前に退職した者にも支払う」という決算賞与専用の条文を置くことです。規程の変更は従業員代表の意見聴取や労働基準監督署への届出が必要になるため、決算の2〜3か月前には着手しておくのが安全です。

社長・役員への決算賞与はなぜ経費にならないのか

結論として、社長や取締役などの役員に出す決算賞与は、原則として損金になりません。「利益が出たから社長の自分にボーナスを」という発想は、最も避けるべき決算対策です。

理由は「後出しジャンケン」を防ぐため

役員は自分たちで自分の報酬を決められる立場にあります。もし決算直前に役員賞与を自由に経費にできたら、「利益が出た年は社長にボーナスを出して税金をゼロにする」という後出しジャンケンが可能になってしまいます。そこで税法は、役員の報酬について「あらかじめ決めた金額を、決めたとおりに払ったもの」だけを損金と認めるルールにしています。

役員報酬で損金になる3つのパターン

種類どんなものか決算賞与として使えるか
定期同額給与毎月同じ額を支払う役員報酬。改定は原則として期首から3か月以内使えない(毎月の額を期中に増やしても増額分は損金不算入)
事前確定届出給与支給時期と金額を事前に税務署へ届け出て、そのとおり支給する役員賞与今期分は使えない(届出期限は原則、株主総会等の決議から1か月以内と期首から4か月以内のいずれか早い日)
業績連動給与利益などの指標に連動して支給額が決まる報酬同族会社(多くの中小企業)は原則として使えない

表2:役員報酬が損金になる3パターンと決算賞与への適用

事前確定届出給与は、届け出た金額と1円でも違えば(多くても少なくても)、原則としてその支給額の全額が損金にならないという厳しい制度です。業績が読めない年に高めの金額で届け出て、払えなくなるケースも珍しくありません。

使用人兼務役員の「従業員分」にも注意

部長などの肩書きを持ち、従業員としても働いている役員(使用人兼務役員)の「従業員としての賞与」は、損金にできる場合があります。ただし、他の従業員と同じ時期に支給しなければ、役員賞与として損金不算入になります。また、社長・副社長・代表取締役、同族会社の一定の大株主などは、そもそも使用人兼務役員になれません。

見落としがちな社会保険料と労務のルール

結論として、決算賞与には税金だけでなく会社負担・本人負担それぞれ約15%前後の社会保険料がかかります。さらに、一度出した決算賞与は労務上「取り消せない約束」になる点にも注意が必要です。

賞与にかかる社会保険料の仕組み

賞与からは、健康保険・介護保険(40歳以上)・厚生年金・雇用保険の保険料が差し引かれ、会社も同程度の額を負担します。保険料は標準賞与額(賞与額の1,000円未満を切り捨てた額)に保険料率を掛けて計算します。

項目ルールの概要
標準賞与額の上限健康保険は年度(4月〜翌3月)の累計573万円、厚生年金は1か月あたり150万円が上限
届出支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を年金事務所(または健康保険組合)へ提出
年4回以上の支給同じ性質の賞与を年4回以上支給すると「賞与」ではなく毎月の「報酬」扱いとなり、標準報酬月額に反映される
会社負担の損金時期保険料の対象となる月(=賞与の支給月)の属する期の損金。未払計上した決算賞与の会社負担分は、原則として翌期の損金になる

表3:決算賞与にかかる社会保険料の主なルール

最後の行は、税理士でも見落としがちなポイントです。決算賞与を未払計上して翌月に支払う場合、賞与本体は今期の損金になっても、会社負担の社会保険料は支給月が属する翌期の損金になります。今期の節税額を試算するときは、この点を必ず反映させましょう。

「毎年もらえるもの」と思われないための就業規則

決算賞与を何年も続けて同じように支給していると、社員にとっては「毎年もらえるのが当たり前」になり、業績が悪い年に支給をやめるとトラブルになりかねません。就業規則・賃金規程には、「会社の業績に応じて支給する。業績によっては支給しないことがある」と明記し、毎回の通知書にも同じ趣旨を書いておくことをおすすめします。

また、パート・アルバイトなど短時間・有期で働く人への支給の有無や金額差は、同一労働同一賃金のルール(パートタイム・有期雇用労働法)との関係で「不合理な差」と言われないよう、貢献度など合理的な基準で説明できるようにしておく必要があります。

税理士・社労士の実務視点 決算賞与は、税務と労務と社会保険が一度に動く「三位一体」の手続きです。経理は未払計上、総務は通知書と規程、社会保険は賞与支払届――と担当がバラバラになると、どこかで抜け漏れが起きます。税金・労務・社会保険を1つのチェックリストで管理することが、失敗しない最大のコツです。

決算賞与で失敗しないための7ステップ

結論として、決算賞与は決算日の3か月前から逆算して動くのが理想です。12月決算なら10月、3月決算なら1月がスタートの目安です。

STEP 1業績の着地見込みを立てる(決算3か月前) 月次決算をもとに、今期の利益と納税額の見込みを試算します。資金繰り(来期の運転資金・納税資金)も同時に確認します。

▼

STEP 2支給総額と配分ルールを決める 利益見込みと手元資金から総額を決め、評価や勤続など配分の基準を決めます。社会保険料の会社負担(約15%前後)も予算に入れます。

▼

STEP 3就業規則・賃金規程を確認する 支給日在籍要件の有無、決算賞与の根拠規定を確認。必要なら規程を変更し、労働基準監督署へ届け出ます。

▼

STEP 4決算日までに全員へ個別に通知する 支給を受ける全員に、個人別の金額を書面またはメールで通知し、受領の記録を残します。

▼

STEP 5決算で未払計上(損金経理)する 決算日までに支払わない場合は、「賞与/未払金」を今期の帳簿に計上します。

▼

STEP 6決算日の翌日から1か月以内に支払う 通知した金額どおり、通知した全員に支払います。源泉所得税は原則として翌月10日までに納付します。

▼

STEP 7社会保険の届出をする 支給日から5日以内に被保険者賞与支払届を提出します。給与計算ソフトの賞与データとの一致も確認します。

図:決算賞与の実務フロー(12月決算なら10月スタートが目安)

[画像指示:決算日を中心に、3か月前〜1か月後までのスケジュールを時間軸で示したタイムライン図 / キャプション:「通知は決算日まで」「支払は翌日から1か月以内」の2つの期限が最重要]

シミュレーション:従業員10名の会社が決算賞与500万円を出したら

結論として、決算賞与で会社の税金は確かに減りますが、減る税金より、会社から出ていくお金のほうが必ず大きいことが数字で分かります。

前提条件

  • 12月決算の中小企業、従業員10名
  • 決算前の利益見込み:1,500万円
  • 従業員10名に1人50万円、総額500万円の決算賞与を支給
  • 会社負担の社会保険料:賞与額の約15%(75万円)と仮定
  • 法人税・住民税・事業税の合計税率(実効税率):概算で約30%と仮定(計算を分かりやすくするための簡便な仮定です)

3つのパターンの比較

項目A:何もしないB:決算月中に支給C:未払計上し翌月支給
当期の損金0円575万円(賞与500+保険料75)500万円(保険料75は翌期)
当期の課税所得1,500万円925万円1,000万円
当期の税金(約30%)450万円277.5万円300万円
当期の税金の減少額-▲172.5万円▲150万円(翌期に保険料分の効果)
会社から出るお金(賞与+保険料)0円575万円575万円(翌月支払)
差引:会社の手元資金の減少-402.5万円425万円(翌期に22.5万円戻る計算)

表4:決算賞与の有無による税金と手元資金の比較(概算)

パターンBでは税金が172.5万円減りますが、会社からは575万円が出ていくため、差し引き約400万円、会社の手元資金は減ります。「税金を払うより得」なのではなく、「約400万円を社員への投資に回し、その一部を国が税金の減少という形で負担してくれる」と考えるのが正確です。

なお、社員の手取りは、50万円から本人負担の社会保険料(約7.5万円)と源泉所得税(前月の給与額などにより異なります)が差し引かれるため、40万円前後になるのが一般的です。

もし同じ500万円を社長に出したら

事前確定届出をしていない社長に500万円の決算賞与を出すと、500万円は損金になりません(会社負担の社会保険料部分のみ損金)。つまり、会社の法人税等はほとんど減らないうえに、社長個人には所得税・住民税がかかります。同じお金に「会社の税金」と「個人の税金」が二重にかかる、最も避けるべきパターンです。

決算前にできる他の対策との比較

対策税金の効果お金の流れ向いている会社
従業員への決算賞与支給額+保険料が損金社外(社員)へ出ていく社員への還元・定着を強化したい
役員の事前確定届出給与届出どおりの支給なら損金社長個人へ(個人課税あり)翌期以降に計画的に設計したい
経営セーフティ共済掛金(月20万円・総額800万円まで)が損金積立として会社に残る(解約時は益金)将来の資金繰りに備えたい
必要な設備・備品の前倒し取得価額や耐用年数に応じて減価償却資産として会社に残る近く買い替え予定の設備がある

表5:決算前に検討できる主な対策の比較

経営セーフティ共済は、解約後2年以内に再加入した場合の掛金が損金にならないなど、近年ルールが見直されています。どの対策も「会社に必要な支出かどうか」を最優先に判断することが、結果として会社を強くします。

税理士・社労士の実務視点 従業員への賞与は、賃上げ促進税制の「給与等支給額」にも含まれます。今期に決算賞与で支給額を大きく増やすと、今期の税額控除には有利に働く一方で、翌期は「前期比で増やす」ハードルが上がります。単年の節税だけでなく、2〜3年先の人件費計画とセットで設計しましょう。

よくある質問(FAQ)

Q.  パートやアルバイトにも決算賞与を払わないといけませんか?

A. 支給する法的な義務はありません。未払計上の要件にある「全員」とは、同じ時期に支給を受ける全員のことで、従業員全員に払う必要はありません。ただし、正社員との差については同一労働同一賃金の観点から、貢献度など合理的な理由を説明できるようにしておきましょう。

Q.  金額の通知は口頭でもよいのですか?

A. 法律上、通知の方法に決まった形式はありません。しかし税務調査では「決算日までに個人別の金額を通知したか」が確認されるため、実務上は書面やメールで通知し、受け取った記録(受領サインや既読記録)を残すことが必須と考えてください。

Q.  一度決算賞与を出したら、翌年も払わなければいけませんか?

A. 就業規則に「業績に応じて支給し、支給しないことがある」と定め、毎回その趣旨を伝えていれば、翌年の支給義務は生じにくくなります。逆に、規定がなく毎年同じ基準で支給し続けると、労使慣行として支給を求められるリスクがあります。

Q.  社長や役員に決算賞与を出す方法はありませんか?

A. 今期分を損金にする方法は、原則としてありません。役員に賞与を出したい場合は、翌期に事前確定届出給与として期限内に届け出て、届け出た金額どおりに支給する方法を検討します。業績の読み違いに備え、無理のない金額で設計することが大切です。

Q.  決算日を過ぎてしまいました。今からでも決算賞与は間に合いますか?

A. 決算日を過ぎてからの通知では、今期の損金にはなりません。その賞与は支払った期(翌期)の損金になります。決算日をさかのぼった日付の通知書を作ることは、仮装隠ぺいとして重い追徴課税の対象になり得るため、絶対に避けてください。

まとめ:決算賞与は「節税」ではなく「社員への投資」として設計しよう

この記事の3行まとめ 従業員への決算賞与は、決算日までの個別通知・1か月以内の支払・未払計上の3条件を満たせば今期の経費になる。支給日在籍要件には要注意。社長・役員への決算賞与は原則として経費にならず、会社と個人で二重に課税される。税金は減っても手元資金はそれ以上に減る。社会保険料・就業規則・翌期の人件費計画まで含めて判断する。

決算賞与は、上手に使えば社員のやる気と定着を高め、会社の税負担も軽くできる優れた対策です。しかし、未払計上の要件、役員給与の規制、社会保険料、就業規則と、税金と労務の両方にまたがる落とし穴が数多くあります。

決算前のご相談は、お早めに 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 当事務所には、国税の現場を知り尽くした国税OBの税理士と、労務・社会保険の専門家である社会保険労務士が在籍しています。決算賞与の要件チェックから、就業規則・賃金規程の見直し、賞与支払届まで、税務と労務をワンストップでサポートできるのが私たちの強みです。 定期的な巡回監査で毎月の数字を一緒に確認しているからこそ、決算の3か月前から「今期はいくらまでなら出せるか」を具体的にご提案できます。12月決算・3月決算の経営者の方は、ぜひ今のうちにご相談ください。

最低賃金が上がる10月は給与見直しの分岐点

2026-10-01

 違反リスクを防ぎ賃上げ促進税制で負担を軽くする経営者の実務ガイド

「また最低賃金が上がるらしいけれど、うちの給料はこのままで大丈夫だろうか」「正社員は月給だから関係ないはず」「人件費が増えるのは分かるが、少しでも負担を減らす方法はないのか」――毎年秋になると、こうしたご相談が一気に増えます。

最低賃金の引き上げは、パート・アルバイトの時給だけの話ではありません。月給制の正社員でも、計算してみると最低賃金を下回っていたというケースは、実務の現場で決して珍しくないのです。しかも、給料を上げれば社会保険料や従業員の「扶養」の問題にも波及します。

この記事では、税金と労務の両方を日々扱う専門家の立場から、①最低賃金チェックの正しいやり方、②賃上げが社会保険・扶養に与える影響、③賃上げ促進税制と助成金で実質負担を軽くする方法を、具体的な数字を使って分かりやすく解説します。

【この記事の結論】 ① 月給制でも「時給に換算」して必ずチェックする。手当の一部や残業代は計算に含めないため、思わぬ違反が起きやすいのが実務の実態です。 ② 賃上げは「社会保険料」と「扶養の壁」まで一緒に設計する。給料だけ上げて終わりにすると、会社負担の増加やパートの働き控えを招きます。 ③ どうせ上げるなら「賃上げ促進税制」と「業務改善助成金」を使う。条件を満たせば、増えた人件費の最大45%相当を法人税から差し引けます。助成金は「賃上げ前の申請」が鉄則です。

1. 最低賃金とは?まず押さえておきたい基本の仕組み

結論から言うと、最低賃金は「会社と従業員が合意していても、これより安い賃金は無効になる」という強制力のあるルールです。「本人が納得しているから大丈夫」は通用しません。

最低賃金とは

最低賃金とは、最低賃金法にもとづいて国が決める「1時間あたりの賃金の下限額」のことです。

家庭で例えるなら、「お手伝い1時間につき、お小遣いは最低〇〇円」と家のルールで決まっているようなものです。親子で「今回は半額でいいよ」と話し合っても、家のルールのほうが優先されます。最低賃金を下回る約束をした場合、その部分は無効となり、最低賃金額で約束したものとみなされます。

最低賃金には2種類ある

最低賃金には、都道府県ごとに決まる「地域別最低賃金」と、特定の産業に決まる「特定最低賃金(産業別最低賃金)」があります。両方が当てはまる場合は、高いほうの金額を支払わなければなりません。

項目地域別最低賃金特定最低賃金
対象その都道府県で働くすべての労働者(パート・アルバイト・学生アルバイト含む)特定の産業(一部の製造業など)で働く労働者
金額の水準基本となる金額地域別より高く設定されるのが一般的
違反した場合50万円以下の罰金(最低賃金法)30万円以下の罰金(労働基準法の賃金全額払い違反)
どちらを適用?両方が当てはまる場合は、高いほうの金額を適用 

毎年秋に改定される仕組み

最低賃金は、毎年夏に国の審議会で引き上げの目安が示され、各都道府県で金額が決まり、おおむね10月以降に都道府県ごとの発効日から新しい金額が適用されます。前年度(2025年度)の改定では全国加重平均が1,121円(前年度比66円増)となり、過去最大の引き上げ幅となりました。政府は「2020年代中に全国平均1,500円」という目標を掲げており、今後も大幅な引き上げが続く前提で経営計画を立てることが欠かせません。

なお、近年は都道府県によって発効日が大きく異なり、10月上旬の地域もあれば、翌年に発効する地域もあります。自社の事業所がある都道府県の「金額」と「発効日」の両方を、必ず確認してください。

[画像指示:日本地図上に都道府県ごとの最低賃金と発効日を色分けで示した図解イラスト / キャプション:最低賃金は都道府県ごとに金額も発効日も異なります]
【ここが落とし穴】 最低賃金は「会社の本社所在地」ではなく「従業員が実際に働く事業所の所在地」で決まります。本社が地方、支店が都市部にある会社では、支店のパートだけ基準が高くなるため、全社一律の時給表を使っていると違反が起きやすくなります。

2. 月給制でも油断禁物 最低賃金チェックの正しい計算方法

結論として、月給制の従業員も「月給 ÷ 1か月の平均所定労働時間」で時給に換算し、最低賃金と比べる必要があります。しかも、月給の全額を計算に入れてよいわけではない点が最大の落とし穴です。

計算に「含める賃金」と「含めない賃金」

最低賃金の計算に使うのは、毎月決まって支払われる基本的な賃金だけです。リンゴ農家で例えるなら、「毎月の基本の手間賃」は数えますが、「たまたま多く収穫できた月のボーナス」や「遠くの畑まで通う交通費」は数えない、というイメージです。

区分具体例最低賃金の計算
含める賃金基本給、職務手当、役職手当、資格手当など毎月決まって支払う手当含める
含めない賃金①時間外・休日・深夜の割増賃金(固定残業代を含む)含めない
含めない賃金②通勤手当、家族手当、精皆勤手当含めない
含めない賃金③賞与など1か月を超える期間ごとに支払う賃金含めない
含めない賃金④結婚手当など臨時に支払う賃金含めない

最低賃金チェックの5ステップ

月給制の従業員の最低賃金チェック手順

STEP 1 年間の所定労働日数を出す 365日(うるう年は366日)から年間休日数を引きます。

▼

STEP 2 1か月の平均所定労働時間を出す 「年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月」で計算します。

▼

STEP 3 計算に含める賃金を集計する 基本給+毎月決まった手当だけを合計し、残業代・通勤手当・家族手当・精皆勤手当は除きます。

▼

STEP 4 時給に換算する 「含める賃金の合計 ÷ 1か月の平均所定労働時間」で時給を出します。

▼

STEP 5 最低賃金と比べる 事業所の都道府県の最低賃金(特定最低賃金があれば高いほう)以上かを確認します。発効日以降の給与から適用します。

■ 計算例:月給18万円の正社員は大丈夫?

年間休日105日、1日8時間勤務、月給18万円(基本給16万円+職務手当2万円)、別に通勤手当1万円を支給している正社員で計算してみます。仮に、この地域の最低賃金を1,100円とします。

計算項目計算式結果
年間所定労働日数365日 − 105日260日
1か月の平均所定労働時間260日 × 8時間 ÷ 12か月約173.3時間
計算に含める賃金基本給16万円 + 職務手当2万円(通勤手当は除く)180,000円
時給換算額180,000円 ÷ 173.3時間約1,038円
判定(最低賃金1,100円の場合)1,038円 < 1,100円違反(月約1.1万円不足)

このように、「月給18万円あるから大丈夫」と思っていても、休日が少なく労働時間が長い会社ほど、時給に直すと最低賃金を下回ります。年間休日を増やすと1か月の労働時間が減るため、同じ月給でも時給換算額は上がります。賃上げだけでなく、休日数の見直しも対策の選択肢になるのです。

実務でよくある3つの罠

■ 罠① 固定残業代込みの月給

「月給25万円(固定残業代5万円を含む)」のような給与体系では、最低賃金の計算に使えるのは残業代を除いた20万円だけです。求人票の総額だけを見て安心するのは危険です。

■ 罠② 試用期間中の減額

試用期間中だからといって、最低賃金を下回る賃金を払うことはできません。減額の特例は、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限られ、減額できる率にも上限があります。許可なく「試用期間は時給900円」とすることは違反です。

■ 罠③ 発効日をまたぐ給与計算期間

たとえば「20日締め・25日払い」の会社で発効日が10月上旬の場合、9月21日〜10月20日の給与計算期間のうち、発効日以降に働いた分から新しい最低賃金が適用されます。「11月分から切り替えればいい」と考えていると、1か月弱の未払いが発生します。

【税理士×社労士の実務視点】 最低賃金の不足は、労働基準監督署の調査で指摘されると、原則としてさかのぼって差額を支払う必要があります。未払いの賃金は過去分(現在は3年)まで請求される可能性があり、人数が多い会社ほど金額が膨らみます。 また、差額を支払えば給与が増え、その分の社会保険料や源泉所得税の計算もやり直しになります。労務の問題が、そのまま税務・社会保険の修正作業に連鎖するのが最低賃金違反の怖さです。給与計算を担う社労士と、決算・税務を担う税理士が同じ情報を共有していれば、この連鎖を未然に防げます。

3. 賃上げが社会保険と「扶養の壁」に与える影響

結論として、賃上げをするときは「会社の社会保険料負担の増加」と「パートの働き控え」の2点をセットで考える必要があります。ここは税金の知識だけでは見落としやすい、労務ならではのポイントです。

標準報酬月額と随時改定(月額変更届)

標準報酬月額とは、社会保険料を計算するために、毎月の給与をいくつかの段階(等級)に当てはめた金額のことです。

基本給や手当など「固定的な賃金」が変わり、その後3か月の平均で標準報酬月額が2等級以上変わった場合は、「随時改定」として年の途中でも保険料が変わります。このとき会社は「月額変更届」を提出しなければなりません。10月の賃上げであれば、10月・11月・12月の3か月の給与で判定し、該当すれば翌年1月分から保険料が変わります。

社会保険料は会社と従業員が折半で負担するため、給与を1万円上げると、会社負担もおおむね1,500円前後増えると考えておきましょう(加入する健康保険や年齢によって率は異なります)。

パートの「年収の壁」と就業調整

時給が上がると、同じ時間働くだけで年収が増え、「扶養から外れたくない」パートの方が勤務時間を減らしてしまうことがあります。これを就業調整といいます。主な壁を整理すると、次のとおりです。

壁中身影響最近の動き
106万円の壁一定の会社で週20時間以上などの条件を満たすと、本人が社会保険に加入社会保険料の本人負担が発生月額8.8万円の賃金要件は撤廃の方向
130万円の壁家族の社会保険の扶養から外れ、自分で国民健康保険・国民年金などに加入保険料の負担が大きく、手取りが減りやすい一時的な収入増は事業主の証明で扶養継続できる仕組みあり
所得税の壁本人に所得税がかかり始めるライン所得税の負担が発生税制改正で103万円から160万円へ引き上げ
[画像指示:時給アップによって年収が各「壁」に近づき、勤務時間を減らしてしまう流れを示した図解イラスト / キャプション:時給が上がると、同じ時間でも年収の壁に近づきます]
【税理士×社労士の実務視点】 人手不足の時代に、時給を上げた結果シフトに入れる時間が減ってしまっては本末転倒です。賃上げの前に、パートの方一人ひとりについて「今の働き方で年収がいくらになるか」「壁を越えた場合の手取りはどう変わるか」を試算し、本人と話し合っておくことをおすすめします。 所得税の壁は大きく緩和されましたが、社会保険の壁は別のルールで動いています。税金と社会保険の両方の壁を一枚の表で説明できるかどうかが、従業員の安心感と定着率を左右します。

4. 賃上げの負担を軽くする「税制」と「助成金」

結論として、中小企業が使える代表的な支援策は「賃上げ促進税制」と「業務改善助成金」の2つです。前者は「上げた後」に法人税を減らす制度、後者は「上げる前」に申請して設備投資費用などの助成を受ける制度で、タイミングがまったく異なります。

賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制とは、従業員の給与総額を前の年より一定以上増やした会社が、増えた金額の一定割合を法人税(個人事業主は所得税)から直接差し引ける制度のことです。

「経費になる」だけの制度とは違い、税金そのものから差し引ける(税額控除)のが大きな特徴です。お小遣い帳で例えるなら、「使ったお金を記録できる」だけでなく、「使った分の一部をおうちの人が後から返してくれる」ようなイメージです。

■ 中小企業向けの主な要件と控除率

要件内容控除率
基本要件雇用者給与等支給額(従業員の給与総額)が前年度比1.5%以上増加増加額の15%
上乗せ要件雇用者給与等支給額が前年度比2.5%以上増加増加額の30%
教育訓練費の上乗せ教育訓練費が前年度比5%以上増加し、給与総額の0.05%以上+10%
子育て・女性活躍の上乗せ「くるみん」または「えるぼし(2段階目以上)」の認定を取得+5%
最大控除率上記をすべて満たした場合最大45%
控除の上限その年度の法人税額の20%まで—
繰越控除控除しきれなかった金額は最長5年間繰り越し可能(繰越先の年度でも給与総額の増加が必要)—

対象となるのは青色申告をしている中小企業者等で、給与総額には役員やその親族などに支払う給与は含まれません。社長の役員報酬を増やしても、この制度の計算には入らない点に注意しましょう。

業務改善助成金とは

業務改善助成金とは、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、あわせて生産性を上げる設備投資などを行った中小企業に、その費用の一部を国が助成する制度のことです。

たとえば、飲食店が時給を引き上げると同時に、券売機や食器洗浄機を導入して作業時間を短くする、といった使い方が典型例です。助成額や対象となる条件は年度ごとに見直されるため、申請前に最新の要件を確認することが欠かせません。

2つの制度の比較

比較項目賃上げ促進税制業務改善助成金
仕組み法人税(所得税)から差し引く国から現金が支給される
手続きのタイミング賃上げ後、決算の申告時賃上げ前に交付申請が必要
赤字の会社その年は効果なし(5年間繰り越し可能)赤字でも利用可能
設備投資不要必要(生産性向上につながるもの)
主な担当専門家税理士社労士(労務・賃金台帳の整備)
併用同じ賃上げで併用できる場合がある(控除額の計算に調整が入ることがある) 
【ここが落とし穴】 業務改善助成金は、交付決定を受ける前に賃金を引き上げたり、設備を発注したりすると対象外になるのが原則です。「最低賃金が上がったから時給を上げた。後で助成金を申請しよう」では間に合いません。 賃上げ促進税制も、給与総額の計算を誤ると、せっかくの控除が受けられないうえ、税務調査で否認されるリスクがあります。前年度と当年度の給与総額を、同じ基準で正確に集計しておくことが重要です。

5. シミュレーション:従業員10名の会社が賃上げした場合

結論として、次のケースでは増えた人件費約97万円のうち、税額控除と経費算入による法人税等の減少で約58万円が戻り、実質負担は約39万円まで圧縮できます。具体的な数字で見てみましょう。

前提条件

項目内容
会社地方で飲食店と惣菜販売を営む株式会社(青色申告・中小企業者)
従業員正社員4名、パート6名(全員社会保険に加入していると仮定)
前年度の給与総額3,000万円(役員報酬は除く)
賃上げの内容パート時給を1,050円→1,110円(+60円・年1,000時間勤務)/正社員の月給を1人1万円アップ
教育訓練外部研修の受講費を前年度より増やし、教育訓練費の上乗せ要件を満たすと仮定
法人税額賃上げ前の見込みで年250万円(控除上限は20%の50万円)

試算結果

項目計算式金額
パートの給与増加額60円 × 1,000時間 × 6名36万円
正社員の給与増加額1万円 × 12か月 × 4名48万円
給与総額の増加額(増加率)36万円 + 48万円(3,084万円 ÷ 3,000万円 = 2.8%増)84万円
会社負担の社会保険料増加84万円 × 約15%約12.6万円
人件費の増加合計(A)84万円 + 12.6万円約96.6万円
賃上げ促進税制の控除額(B)84万円 × 40%(2.5%以上:30%+教育訓練:10%)約33.6万円
経費算入による法人税等の減少(C)96.6万円 × 実効税率約25%(概算)約24.2万円
実質的な負担額(A)−(B)−(C)約38.8万円
[画像指示:人件費増加額96.6万円が、税額控除33.6万円・法人税等の減少24.2万円・実質負担38.8万円に分かれる積み上げ棒グラフ / キャプション:制度を使うと、賃上げの実質負担は約4割まで下がります]

シミュレーションから分かること

  • 制度を使わなければ約72万円(96.6万円−24.2万円)の負担だったものが、賃上げ促進税制によってさらに33.6万円軽くなります。
  • 給与の増加率が2.5%に届くかどうかで、控除率が15%か30%かに分かれます。このケースで増加率が2.4%だった場合、控除額はほぼ半分になるため、「あと少しで2.5%」の場合は昇給額の上乗せを検討する価値があります。
  • 設備投資を伴う場合は、業務改善助成金を賃上げ前に申請することで、さらに負担を減らせる可能性があります。
【税理士×社労士の実務視点】 賃上げの金額は、決算直前ではなく期首のうちに年間の給与総額の着地を見込んで決めるのが理想です。巡回監査で毎月の給与台帳と試算表を確認していれば、「このままだと増加率は2.3%なので、冬の賞与を少し上乗せすれば2.5%に届く」といった判断を、決算前に余裕をもって行えます。 ※上記は制度の仕組みを理解していただくための概算です。社会保険料率、実効税率、控除の可否は会社ごとの条件で異なります。

6. よくある質問(FAQ)

Q. 最低賃金を下回っていることに気づいたら、どうすればよいですか?

A. 直ちに賃金を引き上げ、発効日以降の不足分を計算して差額を支払ってください。地域別最低賃金を下回った場合は最低賃金法により50万円以下の罰金の対象となります。自主的に早く是正することが、労働基準監督署の調査リスクや従業員との信頼関係の面でも最善策です。

Q. 赤字の会社でも賃上げ促進税制は使えますか?

A. 赤字で法人税がかからない年は、その年に控除を受けることはできません。ただし、中小企業者等は控除しきれなかった金額を最長5年間繰り越せます。繰り越した年度に黒字となり、かつ給与総額が前年度より増えていれば控除を受けられるため、赤字の年でも要件を満たしているかを申告書に記録しておくことが大切です。

Q. 社長や家族役員の報酬を上げた場合も、賃上げ促進税制の対象になりますか?

A. 対象になりません。賃上げ促進税制の給与総額には、役員や役員の親族など特殊な関係にある人への給与は含まれません。あくまで一般の従業員に支払う給与が対象です。

Q. パートの方に「扶養の範囲内で働きたいので時給は上げないで」と言われました。

A. 最低賃金を下回る時給にすることは、本人の希望があってもできません。この場合は時給を上げたうえで、年間の勤務時間を調整することになります。あわせて、社会保険の扶養(130万円)は一時的な収入増なら事業主の証明で扶養を続けられる仕組みがあることや、所得税の壁は160万円まで引き上げられたことを説明すると、働き方の選択肢が広がります。

Q. 最低賃金の改定に向けて、会社は何をいつまでにすればよいですか?

A. 発効日より前に、次の3つを済ませておくのが実務上の結論です。①全従業員の時給換算額を一覧にして最低賃金との差を確認する、②給与計算ソフトの時給・月給の設定を変更する、③賃上げ額が決まったら賃金規程や雇用契約書(労働条件通知書)を更新する。設備投資を伴う場合は、業務改善助成金の申請をこれより前に行ってください。

7. まとめ:賃上げは「守り」と「攻め」を同時に考える

【3行でわかるこの記事のポイント】 1. 月給制の社員も、残業代・通勤手当などを除いて時給に換算し、事業所ごとの最低賃金と必ず比べる。 2. 賃上げは社会保険料の増加とパートの「扶養の壁」までセットで設計し、働き控えを防ぐ。 3. 賃上げ促進税制(最大45%の税額控除)と業務改善助成金(賃上げ前に申請)で実質負担を軽くする。

最低賃金の引き上げは、毎年必ずやってくる「避けられない経営課題」です。しかし、正しい計算で違反リスクを防ぎ、税制や助成金を上手に組み合わせれば、賃上げを「単なるコスト増」から「人材確保と会社の成長への投資」に変えることができます。

当事務所では、税理士と社会保険労務士が同じチームで連携し、最低賃金のチェックから給与体系の見直し、社会保険手続き、賃上げ促進税制の適用判断、決算・申告までを一貫してサポートしています。国税の現場を知り尽くした元国税職員も在籍しており、税務調査で指摘されない正確な集計・書類づくりにも万全の体制で臨みます。毎月の巡回監査を通じて、決算を待たずに「今年の賃上げをどう着地させるか」を一緒に考えられるのも私たちの強みです。

【ご相談はお気軽に】 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「うちの給与は最低賃金を満たしているか確認してほしい」「賃上げ促進税制が使えるか知りたい」――そんな一言からで大丈夫です。オンラインでのご相談にも対応しています。

【10月1日から変更】インボイス経過措置80%→70%で会社の負担はいくら増える?

2026-09-30

免税事業者の外注先と損せず・揉めずに付き合う方法

「インボイスの経過措置が10月から変わるらしいけれど、うちの会社に何か関係あるの?」「免税事業者のフリーランスや一人親方さんにお願いしている外注、このままで大丈夫?」――月末の今、こうした不安を抱えている経営者の方は少なくありません。

2026年10月1日から、インボイス(適格請求書)を発行できない免税事業者との取引について、消費税の控除できる割合が80%から70%に下がります。数字だけ見ると小さな変化ですが、外注比率の高い建設業・IT・デザイン・運送などの業種では、放っておくと毎年じわじわと納税額が増えていきます。

一方で、慌てて取引先に一方的な値下げを求めたり、外注をいきなり雇用に切り替えたりすると、法律違反や社会保険料の大幅な負担増という「別の損」を招きます。この記事では、税理士と社会保険労務士の両方の視点から、10月以降に会社が本当に取るべき行動を、数字を使ってわかりやすく解説します。

◆ 結論 ・10月1日以降の免税事業者からの仕入れ・外注は、消費税相当額の70%しか控除できません(2028年9月まで。その後50%→30%と段階的に縮小)。 ・判定は「支払日」ではなく取引をした日。9月中に完了した仕事は、10月に支払っても80%です。 ・簡易課税・2割特例で申告している会社は、この変更の影響を受けません。 ・多くの中小企業では、影響額は外注費の1%程度。一方的な値下げや安易な「外注→雇用」切替のほうが、はるかに大きな損につながります。

1. インボイスの経過措置とは?まず仕組みを30秒で理解する

結論から言うと、経過措置とは「インボイスがなくても、消費税の一部を差し引いてよい」という、期間限定のお助けルールです。仕組みを理解するために、まず消費税の払い方から整理しましょう。

仕入税額控除とは「預かった消費税から、払った消費税を差し引く」こと

仕入税額控除とは、お客さまから預かった消費税から、仕入れや外注で自分が支払った消費税を差し引いて、残りだけを国に納める仕組みのことです。

リンゴ屋さんで例えてみましょう。農家から100円(消費税10円)でリンゴを仕入れ、お客さまに200円(消費税20円)で売りました。リンゴ屋さんが国に納めるのは、預かった20円から払った10円を引いた「10円」だけです。この「払った10円を引ける」ことが仕入税額控除です。

インボイスがないと、本来は1円も差し引けない

2023年10月のインボイス制度開始により、この差し引きをするには、仕入れ先が発行するインボイス(登録番号が書かれた請求書)が必要になりました。仕入れ先が免税事業者でインボイスを出せない場合、原則として差し引きはゼロです。

経過措置とは「いきなりゼロは厳しいので、少しずつ減らす」ルール

経過措置とは、免税事業者からの仕入れでも、一定割合を控除できるよう認める移行期間のルールのことです。これまでの3年間は80%を控除できましたが、2026年10月からはその割合が一段階下がります。

[画像指示:リンゴ屋さんの例で「預かった消費税20円−払った消費税10円=納める10円」を示し、インボイスなしの場合は控除が70%(7円)に減る様子を描いた図解イラスト / キャプション:インボイスがない仕入れは、差し引ける消費税が段階的に減っていきます]

2. 10月1日から何が変わる?控除割合のスケジュール

結論として、10月1日から2028年9月30日までの2年間は70%、その後は50%、30%と段階的に下がり、2031年10月以降はゼロになります。当初の予定では10月から一気に50%に下がる予定でしたが、令和8年度税制改正で、より緩やかな縮小に見直されました。

期間控除できる割合消費税10万円分の外注なら
〜2023年9月30日100%(旧制度)10万円控除
2023年10月1日〜2026年9月30日80%8万円控除
2026年10月1日〜2028年9月30日70%7万円控除
2028年10月1日〜2030年9月30日50%5万円控除
2030年10月1日〜2031年9月30日30%3万円控除
2031年10月1日〜0%控除なし

もう一つの変更:同じ相手からの仕入れが年1億円を超えると対象外

あわせて、一つの免税事業者からの仕入れ・外注の合計が年間1億円(税込)を超える場合、その超えた部分には経過措置が使えなくなります(改正前は10億円)。大口の外注先を免税事業者のまま使っている会社は、特に注意が必要です。

実務の罠:判定は「支払った日」ではなく「取引をした日」

結論として、80%と70%のどちらを使うかは、商品を受け取った日・サービスが完了した日で判定します。請求書を受け取った日や支払った日ではありません。

  • 9月中に工事や制作が完了し、10月に請求・支払い → 80%
  • 10月に入ってから作業が完了 → 70%
  • 9月末締め・10月請求の月額顧問料や保守料 → 9月分のサービスなので80%

月をまたぐ取引では、請求書に作業完了日や対象期間を明記してもらうことが、後の税務調査で説明できる証拠になります。

⚠ 注意 会計ソフトの税区分を「80%控除」のまま放置すると、10月以降の取引で控除を多く計上しすぎてしまいます。追徴課税の原因になるため、10月1日の取引から税区分を切り替える設定を必ず行ってください。

3. この変更で影響を受ける会社・受けない会社

結論として、影響を受けるのは「本則課税(一般課税)」で消費税を申告し、かつ免税事業者との取引がある会社です。

申告方法10月の変更の影響理由
本則課税(一般課税)影響あり実際に払った消費税を集計して控除するため
簡易課税影響なし売上の消費税×みなし仕入率で控除額を計算するため
2割特例影響なし売上の消費税の80%を控除する計算のため
免税事業者(自社)直接の影響なし消費税の申告自体がないため。ただし取引先から交渉を受ける可能性あり

[画像指示:「自社の申告方法は?」から始まり、本則課税→影響あり、簡易課税・2割特例→影響なし、と分かれるYes/Noチャート図解 / キャプション:まずは自社の消費税の申告方法を確認しましょう]

4. 免税事業者の外注先への対応は4つの選択肢から選ぶ

結論として、多くの中小企業にとって最も合理的なのは「取引条件を維持しつつ、影響額を把握したうえで、必要なら誠実に協議する」ことです。4つの選択肢を比べてみましょう。

選択肢メリットデメリット・リスク実務評価
① 現状のまま継続関係を維持できる。手間がかからない納税額が少しずつ増える◎ 影響が小さいならまずこれ
② 価格の見直しを協議増えた税負担を分け合える一方的な値下げは法律違反のおそれ○ 書面で丁寧に協議すれば可
③ 課税事業者になってもらうインボイスが出て100%控除できる相手の事務・納税負担が増え、単価アップを求められることも○ 相手の事情次第
④ 雇用(社員)に切り替える人材の囲い込み・定着社会保険料の負担増。給与は消費税の控除対象外△ 税の理由だけならおすすめしない

選択肢②の罠:一方的な値下げは「買いたたき」になる

結論として、インボイスを理由にした価格交渉そのものは違法ではありませんが、相手と十分に協議せず、一方的に値下げを通告することは法律違反となるおそれがあります。

■ 関係する3つのルール

  • 独占禁止法(優越的地位の濫用):立場の強い発注者が、取引先に不当に不利な条件を押し付けることを禁じるルールです。
  • 中小受託取引適正化法(旧・下請法):2026年1月から名称と内容が改められ、価格協議に応じないまま一方的に代金を決めることが明確に禁止されました。
  • フリーランス保護法:個人の外注先に仕事を頼む際、報酬額などの条件を書面やメールで明示する義務があります。

公正取引委員会などは、免税事業者であることを理由に、取引先と協議せずに大幅な値下げを求める行為を問題となり得る例として示しています。協議の経緯はメールや議事メモで残しておきましょう。

選択肢③の注意点:相手の「2割特例」は9月で終わる

免税事業者から課税事業者になった人が使える「2割特例」(納める消費税を売上の消費税の2割にできる特例)は、2026年9月30日を含む課税期間までの措置です。個人事業主については、改正により2027年分・2028年分は「3割特例」として負担軽減が続きますが、法人は対象外です。取引先に登録を依頼する場合は、相手の負担が今後重くなることも踏まえて話し合う必要があります。

選択肢④の罠:「外注→雇用」は税も社会保険も高くつく

結論として、消費税対策だけを目的に外注先を社員に切り替えるのは、ほとんどの場合、逆効果です。理由は二つあります。

  • 給与は消費税の控除対象外:外注費なら70%は控除できますが、給与にした瞬間に控除はゼロになります。
  • 社会保険料・労働保険料の会社負担:健康保険・厚生年金の会社負担だけで給与のおよそ15%前後、さらに雇用保険・労災保険も加わります。
◆ 税理士・社労士の実務視点 社労士の立場から見ると、より注意すべきなのは逆のパターンです。実態は社員と同じ働き方なのに、契約だけ「外注」にしているケースは、労働基準監督署や年金事務所の調査で雇用と判断されることがあります。 ・勤務時間や場所を会社が指定している ・仕事の進め方を細かく指示している ・他社の仕事を実質的に受けられない こうした実態がある場合、さかのぼって社会保険料や残業代を請求されるリスクがあります。インボイスの見直しは、外注契約の実態を点検する絶好の機会です。税務と労務を一体で確認することで、両方のリスクを同時に減らせます。

5. 10月からの実務対応5ステップ

結論として、次の5つを順番に進めれば、10月以降の対応に漏れはありません。

STEP 1取引先リストを作り、登録番号を確認する 国税庁の公表サイトで、外注先・仕入れ先が適格請求書発行事業者かどうかを確認し、免税事業者を洗い出します。

▼

STEP 2免税事業者との年間取引額を集計し、影響額を試算する 「年間の税込取引額×10/110×10%(80%→70%の差)」が、おおよその年間負担増です。年1億円を超える相手がいないかも確認します。

▼

STEP 3会計ソフトの税区分を切り替える 10月1日以降の取引から「70%控除」の区分を使うよう設定します。帳簿には経過措置の適用である旨の記載が必要です。

▼

STEP 4必要に応じて取引条件を書面で協議する 影響額が大きい相手とだけ、根拠を示して丁寧に協議します。一方的な通告は避け、協議記録を残します。

▼

STEP 5外注契約の「実態」を点検する 指揮命令や時間拘束の有無を確認し、雇用と判断されるリスクがないか、契約書と働き方を見直します。

[画像指示:5つのステップを左から右へ矢印でつないだ横型フロー図。各ステップにチェックリストのアイコン / キャプション:10月からの対応は「確認→試算→設定→協議→点検」の順で進めます]

6. シミュレーション:年商8,000万円の工務店の場合

結論として、このケースでは10月以降の負担増は年間12万円程度にとどまり、「外注→雇用」に切り替えると年間300万円近くコストが増える計算になります。数字で確かめてみましょう。

前提条件

項目内容
会社の規模年商8,000万円の工務店(本則課税で消費税を申告)
免税事業者の外注先一人親方3名(各人 年間税込440万円)
免税事業者への外注費合計年間 税込1,320万円
その中に含まれる消費税相当額1,320万円×10/110=120万円

控除割合の変化による年間の税負担

期間控除できる額控除できない額(=負担)80%時点との差
2026年9月まで(80%)96万円24万円―
2026年10月〜(70%)84万円36万円+12万円
2028年10月〜(50%)60万円60万円+36万円
2031年10月〜(0%)0円120万円+96万円

4つの選択肢を比べた年間コスト(70%期間)

選択肢80%時点からの年間コスト増ポイント
① 現状のまま継続約12万円外注費全体の約0.9%
② 協議で負担を折半約6万円相手の同意と協議記録が前提
③ 課税事業者になってもらう単価次第(据え置きならマイナス24万円)相手が単価アップを求めれば相殺される
④ 3名を同額で雇用約300万円控除84万円を失う+社会保険・労働保険の会社負担 約210万円

※④は、外注費1,320万円を同額の給与に置き換え、社会保険料の会社負担を約15%、労働保険料を約1%として概算しています。消費税控除の喪失84万円と保険料約210万円の合計で、約300万円の負担増です(80%時点比では控除喪失96万円となり、さらに差は広がります)。

◆ 税理士・社労士の実務視点 このケースの結論は「①を基本に、2028年10月の50%への縮小を見据えて、今のうちに取引先と将来の方針を話し合っておく」です。 年12万円の負担増に焦って関係を壊すより、良い職人さんとの関係を守るほうが経営上の価値は大きいはずです。ただし、50%、0%と進むにつれて負担は確実に増えるため、2年後に向けた計画を今から立てておくことが大切です。

7. よくある質問(FAQ)

Q. 簡易課税で申告していますが、何か対応は必要ですか?

A. 簡易課税の会社は、控除額を売上から計算するため、今回の変更による税額への影響はありません。ただし、翌期以降に本則課税へ戻る可能性がある場合や、取引先から交渉を受ける場合に備えて、免税事業者との取引状況は把握しておくことをおすすめします。

Q. 9月に終わった仕事の請求書が10月に届きました。80%と70%どちらですか?

A. 80%です。判定は、請求書の日付や支払日ではなく、商品の引渡しやサービスの提供が完了した日で行います。完了日が9月中であることが分かるよう、請求書や納品書に作業日を記載してもらいましょう。

Q. 経過措置を使うために、帳簿や書類で必要なことはありますか?

A. 帳簿に「経過措置の適用を受ける取引である」ことが分かる記載(例:「※は70%控除対象」などの記号と注記)をし、相手の名前・日付・内容・金額などが書かれた請求書や領収書を保存する必要があります。記載がないと控除が認められないため、会計ソフトの設定で自動表示されるか確認してください。

Q. 免税事業者の外注先に、値下げをお願いしても大丈夫ですか?

A. 話し合いを申し入れること自体は問題ありません。ただし、相手と十分に協議せずに一方的に値下げを決めることは、独占禁止法や中小受託取引適正化法に違反するおそれがあります。影響額の根拠を示し、相手の意見も聞いたうえで、協議の記録を残すことが重要です。

Q. 私自身が免税事業者の個人事業主です。今回の変更で何か起きますか?

A. ご自身の税金は変わりませんが、取引先(本則課税の会社)の負担が増えるため、単価の見直しや登録の相談を受ける可能性が高まります。登録するかどうかは、取引先の申告方法、売上の規模、個人事業主向けの負担軽減措置の有無を踏まえて判断するのが正解です。登録すべきか迷ったら、試算してから決めることをおすすめします。

8. まとめ & ご相談のご案内

この記事の要点3行まとめ

  • 2026年10月1日から、免税事業者からの仕入れ・外注の控除割合は80%→70%に下がり、判定は「取引をした日」で行います。
  • 影響を受けるのは本則課税の会社だけ。多くの中小企業では負担増は外注費の1%程度です。
  • 一方的な値下げや安易な「外注→雇用」切替は、法律違反や社会保険料の負担増というより大きな損を招きます。
◆ 自己判断で損をする前に、まずはご相談ください 税務の判断は、会社の申告方法や取引先の状況によって一つひとつ異なります。「うちは本則課税と簡易課税、どちらが有利?」「この外注契約は雇用と判断されない?」といった疑問は、自己判断のまま進めると思わぬ損や労務トラブルにつながります。 当事務所には、税務署の現場を知り尽くした国税OBの税理士と、社会保険労務士が在籍しています。消費税の影響試算から会計ソフトの設定、外注契約の実態チェック、取引先との協議の進め方まで、税務と労務を一体でサポートできるのが当事務所の強みです。定期的な巡回監査を通じて、10月以降の処理が正しく行われているかも毎月確認いたします。 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

「106万円の壁」撤廃で会社の負担はいくら増える?

2026-09-29

社会保険の適用拡大を損せず乗り切る経営者の5つの準備

「パートさんから『来年から社会保険に入らないといけないんですか?』と聞かれたけれど、正直よく分からない」「うちは従業員50人もいないから関係ないと思っていた」――最近、こうしたご相談が一気に増えています。

先日の記事では、年末調整で話題の「103万円の壁(税金の壁)」の改正を取り上げました。今回はその“もう一つの壁”である「106万円の壁(社会保険の壁)」がテーマです。税金の壁が「手取りが少し減る壁」だとすると、社会保険の壁は「会社と従業員の両方に毎月の負担が生まれる壁」です。インパクトはこちらの方がはるかに大きくなります。

この記事を読めば、①何がいつ変わるのか、②自社は対象になるのか、③会社の負担はいくら増えるのか、④今から何を準備すればよいのか、がすべて分かります。まずは結論からお伝えします。

結論:この記事のポイント ① 「106万円の壁」(月8.8万円の賃金要件)は、2025年成立の改正法により撤廃が決まっています。今後は「週20時間以上働くかどうか」が加入の分かれ目になります。 ② 「従業員51人以上の会社だけ」という条件も段階的になくなります。2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上へと対象が広がり、最終的には人数に関係なく適用されます。 ③ 会社の負担は、新たに加入するパート1人あたり年間約18万円が目安です。ただし保険料は全額が会社の経費(損金)になり、国の支援策や賃上げ税制を組み合わせれば実質負担は大きく下げられます。 ④ 税理士の実務視点から見た結論:「加入させない(時間を減らす)」より「加入を前提に人件費と手取りを設計し直す」方が、人手不足の時代には会社にとって得です。準備は対象になる1年前から始めてください。

1. 社会保険の適用拡大とは?まず「106万円の壁」の正体を知ろう

結論から言うと、社会保険の適用拡大とは、これまで社会保険に入らなくてよかったパート・アルバイトの人も、会社の健康保険と厚生年金に入る仕組みに変えていくことです。

1-1. 「106万円の壁」とは何か

「106万円の壁」とは、パート・アルバイトの月給が8.8万円(年収に直すと約106万円)以上になると、勤務先の社会保険に加入しなければならなくなる境目のことです。

身近な例えで言うと、お小遣い帳に「毎月8,800円以上もらったら、そのうち1割5分を貯金箱(将来の年金や医療の備え)に入れなさい。貯金箱には家の人も同じ額を入れてくれる」というルールがあるイメージです。貯金が増えるのは良いことですが、使えるお小遣いは目の前で減るため、「8,800円を超えないようにお手伝いを減らそう」と考える子が出てきます。これが、いわゆる「働き控え」です。

1-2. 現在の加入条件(5つの要件)

現在、パート・アルバイトの人(短時間労働者)が勤務先の社会保険に入る条件は、次の5つをすべて満たす場合です。

要件現在の基準改正後の方向性
① 労働時間週の所定労働時間が20時間以上変更なし(ここが唯一の分かれ目に)
② 賃金月額賃金8.8万円以上(=106万円の壁)撤廃(公布から3年以内に施行)
③ 雇用期間2か月を超えて使用される見込み変更なし
④ 学生学生でないこと(夜間・通信制等は除く)変更なし
⑤ 企業規模従業員(厚生年金の被保険者)51人以上段階的に縮小し、最終的に撤廃

[画像指示:パート従業員が社会保険に加入するかどうかを判定する5つの要件を、チェックリスト形式で示した図解イラスト / キャプション:現在は5つすべてを満たすと加入。改正後は「賃金」と「企業規模」の2つが外れ、実質的に「週20時間」が基準になる]

2. 何がいつ変わる?改正スケジュールを整理

結論として、改正は「賃金の壁の撤廃」と「会社の規模の条件の撤廃」の2本立てで、数年から10年かけて段階的に進みます。自社がいつ対象になるかを、まず確認してください。

2-1. 賃金要件(106万円の壁)の撤廃

月8.8万円という賃金要件は、2025年6月に成立した年金制度改正法により撤廃が決まりました。施行時期は「公布から3年以内で、政令で定める日」とされ、最低賃金の引き上げ状況を見ながら決められます。最低賃金が上がり続けると、週20時間働くだけで自然に月8.8万円を超えるようになるため、「壁」そのものが意味を持たなくなるからです。

2-2. 企業規模要件の段階的縮小

より多くの中小企業に直接関係するのがこちらです。「従業員51人以上の会社だけ」という条件が、次のスケジュールで広がっていきます。

施行時期対象となる会社の規模(厚生年金の被保険者数)地方の中小企業への影響
現在51人以上一部の中堅企業のみ
2027年10月36人以上従業員40人前後の会社が対象に
2029年10月21人以上多くの製造業・小売・介護・飲食が対象に
2032年10月11人以上小規模な会社もほぼ対象に
2035年10月人数要件なし(撤廃)パートを1人でも雇う法人はすべて対象

[画像指示:企業規模要件が51人→36人→21人→11人→撤廃と段階的に広がっていくタイムライン図 / キャプション:自社の「厚生年金の被保険者数」をこの年表に当てはめると、対象になる時期が分かる]

2-3. 個人事業主(個人の事業所)はどうなる?

個人事業主の事業所は、現在「常時5人以上で、法律で定められた業種」の場合に社会保険の対象です。改正により、2029年10月以降は業種の限定がなくなりますが、対象となるのはその時点以降に新しく開業する事業所で、既存の事業所は当分の間は対象外とされています。これから起業する方は、この点を開業計画に織り込んでおく必要があります。

2-4. 「130万円の壁」(扶養の壁)はどうなる?

「130万円の壁」とは、会社員の配偶者や家族が、年収130万円以上になると家族の扶養から外れ、自分で国民年金・国民健康保険に加入しなければならなくなる境目のことです。

こちらは撤廃されていませんが、運用が2点変わっています。第一に、2025年10月からは19歳以上23歳未満の人(配偶者を除く)については基準が150万円に引き上げられました。第二に、2026年4月からは、扶養に入れるかどうかの年収判定を、原則として労働契約(雇用契約書や労働条件通知書)に書かれた賃金で行う運用になりました。つまり、契約書の内容がこれまで以上に重要になっています。

税理士の実務視点:「壁」は3種類あると覚える 経営者の方には、①税金の壁(所得税がかかる境目。令和7年度改正で実質160万円に)、②社会保険の壁(週20時間・会社規模。今回のテーマ)、③扶養の壁(130万円)の3種類を区別して従業員に説明していただくことをお勧めします。 現場で最も多い誤解は「103万円を超えたら社会保険に入る」というものです。税金と社会保険は別の制度です。この区別を説明できるだけで、従業員の不安と働き控えは大きく減ります。

3. 会社と従業員、それぞれのメリット・デメリット

結論として、適用拡大は会社にとっては「コスト増」ですが「人材確保の武器」にもなり、従業員にとっては「今の手取り減」と引き換えに「将来と万一への備え」が手厚くなる制度です。

3-1. 会社にとってのメリット・デメリット

■ メリット

  • 人材の確保・定着に有利になる。「社会保険完備」は求人で強いアピール材料です。
  • 働き控えが減り、繁忙期のシフトが組みやすくなる。年末の「時間調整による人手不足」が起きにくくなります。
  • 保険料の会社負担分は全額が経費(法定福利費)になる。利益が出ている会社では法人税等の負担が下がります。

■ デメリット

  • 保険料の会社負担(給与のおよそ15%)が毎月発生する。
  • 加入手続き・給与計算・労務管理の事務負担が増える。
  • 時間を減らしたい従業員が出た場合、人員の補充が必要になる。

3-2. 従業員にとっての変化

項目加入前(国民年金・国保 または 扶養)加入後(会社の社会保険)
毎月の手取り減らない(扶養の場合)給与のおよそ14〜15%が天引きされ減る
将来の年金基礎年金のみ基礎年金+厚生年金(一生涯上乗せ)
病気・けがで休んだとき国保には原則として給付なし傷病手当金(給与の約3分の2)
出産で休んだとき国保には原則として給付なし出産手当金(給与の約3分の2)
障害・死亡への備え障害基礎年金・遺族基礎年金のみ障害厚生年金・遺族厚生年金が上乗せ

ポイントは、従業員が「手取りが減る」ことだけを見て判断しがちな点です。会社が「将来と万一の保障がこれだけ増える」と数字で示すことで、加入を前向きに受け止める人は確実に増えます。

4. 実務上の注意点・落とし穴

結論として、適用拡大で失敗する会社の多くは、「人数の数え方」「働き控えの連鎖」「税金との関係」「支援策の申請漏れ」の4点でつまずいています。

4-1. 「従業員数」は社会保険の加入者数で数える

企業規模の「36人以上」「21人以上」は、パートを含めた全従業員の数ではなく、厚生年金に加入している人(被保険者)の数で判定します。また、直近12か月のうち6か月以上その人数を上回った時点で対象になり、いったん対象になると、その後人数が減っても原則として対象のままです。「一時的に人数を減らせば大丈夫」という考え方は通用しません。

4-2. 「時間を減らす」が連鎖すると現場が回らなくなる

加入を避けるために全員を週19時間に抑えると、1人あたりの労働時間が約5%減り、10人なら0.5人分の人手が消えます。さらに、雇用保険も2028年10月から「週10時間以上」に対象が広がるため、時間調整による“回避”の余地は今後どんどん小さくなります。時間調整は一時しのぎであり、根本的な解決策にはなりません。

4-3. 社会保険料の増加は「賃上げ税制」の対象にならない

中小企業には、給与を前年より増やすと法人税が安くなる「賃上げ促進税制」があります。しかし、この税制の計算に使う「給与等の支給額」には、会社が負担する社会保険料(法定福利費)は含まれません。「社会保険料が増えた分で賃上げ税制が使える」という誤解は非常に多いので注意してください。一方で、加入に合わせて時給を引き上げた分は「給与」として計算対象になります。

4-4. 国の支援策は「事前準備」がないと使えない

注意:支援策は申請のタイミングを逃すと受けられません 改正法では、新たに加入対象となる短時間労働者(標準報酬月額が一定額以下の人)について、会社が従業員本人の保険料負担を軽くした場合、その追加負担分を国が支援する特例(3年間)が設けられています。 また、社会保険の加入に合わせて手取り減を補う賃上げ等を行った会社を対象とする助成金(キャリアアップ助成金の関連コース)もあります。 いずれも計画書の事前提出や、就業規則・雇用契約書の整備が前提となることが多く、「加入させてから申請しよう」では間に合わないケースがあります。対象になる時期が見えた段階で、要件を確認してください。

5. 今から打つべき5つの準備ステップ

結論として、準備は「対象時期の確認」から始め、「従業員への説明」で終える5ステップで進めるのが最も確実です。対象となる1年前には着手してください。

STEP 1自社がいつ対象になるかを確認する 直近1年間の厚生年金の被保険者数を月ごとに一覧にし、2-2の年表に当てはめます。

▼

STEP 2対象になるパート・アルバイトを洗い出す 週20時間以上の人、20時間前後の人を名簿化し、本人の扶養状況(配偶者の扶養か、学生か等)も把握します。

▼

STEP 3会社負担額と手取り変化を試算する 1人あたりの会社負担、本人の手取り減、将来の年金増を数字にします(6章のシミュレーション参照)。

▼

STEP 4対応方針と人件費計画を決める 「そのまま加入」「時給を上げて加入」「時間を調整」を人ごとに検討し、支援策・賃上げ税制も含めた資金計画を立てます。

▼

STEP 5従業員に個別説明し、契約書を整える 手取りと保障の変化を一人ひとりに書面で説明し、雇用契約書・労働条件通知書を新しい条件に合わせて更新します。

6. シミュレーション:従業員40人の食品製造業(パート10人)のケース

結論として、このケースでは会社負担は年間約176万円増えますが、経費になる効果で実質負担は約118万円になります。さらに「時給を上げて手取りを守る」選択をしても、賃上げ税制を組み合わせることで負担を一部取り戻せます。

6-1. 前提条件

項目内容
会社地方の食品製造業(法人)。厚生年金の被保険者は正社員など40人
対象時期2027年10月(36人以上の段階)で適用対象に
パート10人。時給1,100円×週20時間=月約9.5万円(年約114万円)。全員40歳未満
保険料率(概算)会社負担:給与の約15.0%/本人負担:給与の約14.5%(厚生年金・健康保険・子ども子育て関係を含む概算)
標準報酬月額98,000円(保険料計算の基準となる月額)
法人の実効税率約33%(黒字法人と仮定)

6-2. 会社の負担はいくら増える?

項目1人あたり(月)1人あたり(年)パート10人(年)
会社負担の社会保険料約14,700円約176,400円約176万円
経費になることによる税負担の軽減(×33%)—約▲58,200円約▲58万円
実質的な会社負担—約118,200円約118万円

6-3. パート本人の手取りと選択肢の比較

選択肢月の給与社会保険料(本人)月の手取り(概算)会社の追加負担(10人・年)
加入前(現状)95,300円0円95,300円—
A:週19時間に減らして加入回避90,500円0円90,500円0円(ただし人手0.5人分減)
B:そのまま加入95,300円約14,200円約81,100円約176万円
C:時給1,290円に上げて加入約111,500円約16,000円約95,500円約392万円

※所得税・住民税、雇用保険料(加入前から天引き)は比較を分かりやすくするため除いています。Cの標準報酬月額は110,000円で計算しています。

6-4. 将来の年金と賃上げ税制を加えると

Bのように加入した場合、パート本人の手取りは月約1.4万円減ります。一方で、厚生年金は加入1年ごとに年約6,400円ずつ、一生涯上乗せされます(98,000円×5.481/1000×12か月)。10年加入すれば、65歳以降の年金が年約6.4万円増える計算です。これに加えて、傷病手当金や出産手当金という「万一の給与保障」も得られます。

Cのように時給を上げた場合、パート10人の給与は年約194万円増えます。会社全体の給与総額を1億2,000万円とすると、増加率は約1.6%です。中小企業向けの賃上げ促進税制(前年比1.5%以上の増加で増加額の15%を税額控除)を使えれば、約29万円の法人税が減ります(法人税額の20%が上限)。社会保険料そのものは対象外ですが、時給アップ分は対象になるという4-3の論点が、ここで効いてきます。

税理士の実務視点:このケースでの推奨 人手不足が深刻な製造業では、Aの「時間を減らす」は現場の生産力を直接削るため、推奨しません。 最も現実的なのは、Bを基本としつつ、長く働いてほしい中核パートにはCを適用し、国の保険料支援特例や助成金で最初の3年間の負担を和らげる組み合わせです。 重要なのは、保険料の負担増を「月次の試算表」と「来期の経営計画」に事前に織り込むことです。決算直前に気づくと、資金繰りと納税計画の両方が狂います。

7. よくある質問(FAQ)

Q. うちは従業員30人ですが、今回の改正は関係ありますか?

A. はい、関係あります。厚生年金の被保険者が21人以上であれば、2029年10月から対象になります。11人以上なら2032年10月、それ以下でも2035年10月には人数要件がなくなります。「いつかは必ず対象になる」前提で、今から計画的に準備するのが正解です。

Q. 「106万円の壁」はいつなくなるのですか?

A. 月8.8万円の賃金要件は、2025年6月の改正法公布から3年以内の政令で定める日に撤廃されます。具体的な日付は最低賃金の動向を見て決まるため、今後の政府の発表を確認してください。撤廃後は、会社規模の要件を満たしていれば、週20時間以上働く人は月給にかかわらず加入対象になります。

Q. 週20時間未満に抑えれば、ずっと加入しなくて済みますか?

A. 社会保険については、週20時間未満であれば加入対象になりません。ただし、雇用保険は2028年10月から週10時間以上の人が対象になります。また、時間調整を続けると人手不足と採用難を招きます。時間調整は一時的な対策にとどめ、加入を前提とした人件費設計に切り替えることをお勧めします。

Q. 配偶者の扶養に入っているパートさんが会社の社会保険に入ると、どうなりますか?

A. 会社の社会保険に加入すると、年収130万円未満であっても配偶者の扶養からは外れ、ご本人が自分の健康保険と厚生年金に加入する形になります。その代わり、将来の厚生年金や傷病手当金などの保障が得られます。ご本人の家計への影響を個別に試算して説明することが、トラブル防止の鍵です。

Q. 会社が負担する社会保険料は経費になりますか?

A. はい、会社が負担する社会保険料は「法定福利費」として全額が経費(損金)になります。個人事業主の場合も、従業員分の事業主負担は経費です。なお、個人事業主ご自身の国民年金・国民健康保険料は経費ではなく、確定申告の「社会保険料控除」として所得から差し引きます。

8. まとめ & ご相談のご案内

最後に、この記事の要点を3行でまとめます。

  • 「106万円の壁」と「51人以上」の条件はなくなり、週20時間以上働くパートは原則として社会保険に加入する時代になります。
  • 会社負担はパート1人あたり年約18万円が目安ですが、経費になる効果・国の支援策・賃上げ税制で実質負担は下げられます。
  • 「時間を減らす」より「加入を前提に人件費と手取りを設計し直す」ことが、人手不足時代に会社を守る正解です。

社会保険の適用拡大は、税金(法人税・賃上げ税制)と労務(社会保険・雇用契約・助成金)が複雑に絡み合うテーマです。税金だけ、労務だけの視点で判断すると、「保険料は抑えたが人が辞めた」「助成金の申請期限を逃した」といった損失につながりかねません。

当事務所では、税理士と社会保険労務士が同じチームで連携し、対象時期の確認から人件費シミュレーション、就業規則・雇用契約書の見直し、助成金の活用までをワンストップでご支援しています。国税の現場を知り尽くした元国税職員の税理士も在籍しており、税務面での判断にも確かな裏付けをもってお応えします。また、毎月の巡回監査を通じて、保険料の増加を試算表と経営計画に早めに織り込むことができます。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。「うちはいつから対象?」「いくら負担が増える?」という最初の疑問からで構いません。貴社の数字をもとに、最適な対応策を一緒に考えます。

« Older Entries Newer Entries »

keyboard_arrow_up

0263520972 お問い合わせバナー 無料法律相談について