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退職日は「1日」で数十万円変わる!
年金と失業手当を同時にもらう仕組みを税理士がやさしく解説
「そろそろ定年だけど、年金と失業手当は同時にもらえないと聞いた」——そう思い込んで、何十万円も損をしてしまう人が少なくありません。じつは、退職日をたった1日調整するだけで、年金と失業手当を同時に受け取れる合法的な仕組みがあります。この記事を読めば、退職日をいつにすればよいか、なぜそれで得をするのか、実際にいくら差が出るのかが、数字とともにはっきり分かります。結論から言うと、ポイントは「65歳の誕生日の2日前までに退職すること」です。
なぜ年金と失業手当は「原則」同時にもらえないのか
併給調整とは、複数の公的な給付を同時に受け取れる場合に、片方の支給額を減らしたり止めたりして、給付が重複しすぎないように調整する仕組みのことです。年金と失業手当(雇用保険の基本手当)の間にも、この併給調整があります。
たとえば、60歳から65歳になるまでの間に受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」をもらっている人が、退職して失業手当(基本手当)を受け取ろうとすると、年金のほうが支給停止になります。お小遣い帳にたとえると、お父さんとお母さんの両方から同じ目的のお小遣いをもらおうとしても、片方から「もう渡さなくていいよ」と止められてしまうようなイメージです。
また、年金の繰上げ受給をしている場合も、失業手当を受け取っている期間は、老齢基礎年金は支給されますが、老齢厚生年金は支給停止となります。このように、年金と失業手当は「原則として同時には満額もらえない」というのが、雇用保険と年金制度の基本ルールです。
「64歳11か月」で退職すると年金と失業手当を同時に受け取れる仕組み
税理士の実務視点から見た結論をお伝えします。65歳になる2日前までに退職し、65歳になってからハローワークで求職の申込みをすれば、年金と失業手当(基本手当)を同時に受け取ることができます。これは、雇用保険法における「年齢の数え方」の特例を利用した、正式な制度上の仕組みです。
雇用保険法上の「年齢」は誕生日の前日に加算される
雇用保険法上の年齢とは、誕生日の前日に1歳加算されるという民法の考え方に基づいて数える年齢のことです。つまり、65歳の誕生日の前日にはすでに「65歳」として扱われ、その前々日までは「64歳」として扱われます。
この1日の差が、受け取れる給付の種類を大きく分けます。65歳未満(64歳)で退職して求職の申込みをすると、日数の多い「基本手当(一般の失業手当)」の対象になります。一方、65歳以上で退職すると、「高年齢求職者給付金」という別の一時金の対象になり、もらえる総額が少なくなる傾向があります。
誕生日ごとの退職日の具体例
| 誕生日 | 64歳として扱われる最終退職日 | 65歳として扱われる退職日 |
| 4月2日生まれ | 3月31日(誕生日の前々日) | 4月1日(誕生日の前日)以降 |
| 10月10日生まれ | 10月8日(誕生日の前々日) | 10月9日(誕生日の前日)以降 |
上の表のとおり、誕生日の前々日までに退職すれば「64歳」として扱われ、誕生日の前日以降に退職すると「65歳」として扱われます。たった1日の退職日の違いで、受け取れる制度が変わる点に注意が必要です。
🖼 誕生日カレンダー上に「前々日退職=64歳扱い」「前日退職=65歳扱い」を対比させた図解イラスト / キャプション:たった1日の退職日の違いが、もらえる給付の種類を変える
退職から受給までの流れ(フローチャート)
① 退職日を決める
↓
② 誕生日の何日前に辞めるかを確認する(65歳の誕生日の2日前までは「64歳」扱い)
↓
③-A【誕生日の前々日までに退職】→ 手続き上は64歳のまま
→ 65歳になってからハローワークで求職の申込み
→ 基本手当(最大150日分)を年金と同時に受給できる
③-B【誕生日の前日以降に退職】→ 手続き上は65歳
→ 高年齢求職者給付金(最大50日分の一時金)のみが対象
64歳退職と65歳退職で何が変わるのか(比較表)
基本手当と高年齢求職者給付金は、どちらも失業中の生活を支える給付ですが、支給日数や受け取り方に違いがあります。この違いこそが、退職日を1日調整する価値がある理由です。
| 項目 | 64歳11か月で退職(基本手当) | 65歳以降に退職(高年齢求職者給付金) |
| 給付の種類 | 基本手当(いわゆる失業保険) | 高年齢求職者給付金(一時金) |
| 年金との同時受給 | 手続き次第で同時受給が可能 | そもそも併給調整の対象外で同時受給できる |
| 支給日数の上限 | 被保険者期間に応じて90日~150日 | 被保険者期間1年未満は30日、1年以上は50日 |
| 受け取り方 | 原則4週間ごとに分割して支給 | 要件を満たせば一括で一時金として支給 |
| 受給できる期間 | 離職日の翌日から原則1年以内 | 離職日の翌日から1年以内 |
メリット
- 64歳11か月で退職すれば、年金を受け取りながら、支給日数の多い基本手当も受け取れる
- 被保険者期間が長い人ほど、基本手当と高年齢求職者給付金の差額が大きくなりやすい
デメリット・注意点
- 64歳11か月での退職は、会社の定年制度によっては自己都合退職の扱いになりやすい
- 求職の申込みが遅れると、受給期間から外れた分の給付日数を受け取れなくなる
実務上の注意点・落とし穴
特別支給の老齢厚生年金は生年月日によって対象外になる
特別支給の老齢厚生年金とは、原則65歳から支給される老齢厚生年金を、生年月日に応じて60歳から64歳の間に前倒しで受け取れる経過措置のことです。ただし、男性は昭和36年4月2日以降生まれ、女性は昭和41年4月2日以降生まれの人は、この特別支給の対象外であり、65歳になってから通常の老齢厚生年金を受け取ることになります。この場合、64歳の時点ではそもそも年金と失業手当の併給調整自体が生じないため、退職日を調整する意味合いが変わってきます。ご自身が対象かどうかは、日本年金機構から届く「年金請求書」やねんきんネットで必ず確認してください。
給付制限期間に注意する
正当な理由のない自己都合退職の場合、7日間の待期期間に加えて、原則1か月の給付制限期間が設けられます。この給付制限期間中は基本手当が支給されません。なお、2025年4月の制度改正により、この給付制限期間は従来の2か月から1か月に短縮されました。ただし、退職日から過去5年以内に自己都合退職を3回以上している場合は、給付制限期間が3か月になる点に注意が必要です。
求職の申込みは早めに行う
基本手当を受け取れる「受給期間」は、離職日の翌日から原則1年間と決まっています。求職の申込みが遅れて受給期間からはみ出してしまうと、所定給付日数が残っていても、その分は受け取れなくなります。64歳11か月で退職した場合、65歳になってから求職の申込みをする必要があるため、退職後はできるだけ早くハローワークに相談することが大切です。
定年後にひと休みしたい人は「受給期間延長制度」も選択肢に
60歳以上(65歳未満)で定年退職した場合、体調を整えるためにすぐには働かないという選択をする人もいます。そのようなときは、失業手当の受給期間の延長申請制度を利用すると、受給期間を最長1年間延長できます。退職日の翌日から2か月以内にハローワークで申請すれば、あわてずに次のステップを考える時間を確保できます。
具体的なシミュレーション:退職日でいくら差がつくのか
ここでは、令和8年8月以降に適用されている基本手当日額の上限(60歳以上65歳未満:7,830円)をもとに、退職日による受給額の違いを試算します。
ケース1:Aさん(雇用保険の被保険者期間25年、64歳11か月で退職)
- 被保険者期間が20年以上のため、所定給付日数は150日
- 基本手当日額は上限の7,830円で計算
- 受給見込み額:7,830円 × 150日 = 117万4,500円
Aさんは、65歳になった直後にハローワークで求職の申込みをすることで、年金を受け取りながら、この基本手当を同時に受け取ることができます。
ケース2:Bさん(同じ雇用保険の被保険者期間25年、65歳になってから退職)
- 65歳以降の退職のため、高年齢求職者給付金の対象(被保険者期間1年以上なので50日分)
- 給付金の日額も上限7,830円で計算
- 受給見込み額:7,830円 × 50日 = 39万1,500円(一時金)
| Aさん(64歳11か月で退職) | Bさん(65歳以降に退職) | |
| 受給する給付 | 基本手当 | 高年齢求職者給付金 |
| 支給日数 | 150日 | 50日 |
| 受給見込み額 | 約117万4,500円 | 約39万1,500円 |
| 年金との同時受給 | 可能 | 可能 |
同じ被保険者期間、同じ年収であっても、退職日を1日調整するかどうかで、受け取れる給付総額に約78万円もの差が生まれる計算になります。
🖼 同じ年収・同じ勤続年数の2人が、退職日の違いによって受け取る金額に差が出る様子を、家計簿やお財布のイラストで対比する図解 / キャプション:退職日の1日の差が、老後の受け取り総額を大きく左右する
よくある質問(FAQ)
Q. 年金をすでにもらっている場合、退職すればすぐに失業手当と両方もらえますか?
A. いいえ、原則として、特別支給の老齢厚生年金は失業手当(基本手当)と同時には受け取れません。65歳になる2日前までに退職し、65歳になってからハローワークで求職の申込みをすることで、基本手当を受け取れる仕組みを活用する必要があります。
Q. 64歳11か月で退職すると、退職金や有給消化に影響はありますか?
A. 退職金や有給休暇の扱いは、年齢ではなく、勤務先の就業規則や労働契約の定めによります。定年年齢を60歳や65歳と定めている会社では、定年前の退職が自己都合退職として扱われる場合があるため、退職前に人事担当者へ確認しておく必要があります。
Q. 65歳以降に退職した場合は、年金と失業手当を同時にもらえないのですか?
A. いいえ、65歳以降に退職した場合、そもそも年金と高年齢求職者給付金は併給調整の対象外なので同時に受け取れます。ただし、高年齢求職者給付金は基本手当より支給日数の上限が少なく、受け取れる総額は基本手当より少なくなる傾向があります。
Q. 求職の申込みが遅れるとどうなりますか?
A. 基本手当を受け取れる受給期間は、原則、離職日の翌日から1年間と決まっています。申込みが遅れて受給期間を過ぎてしまうと、所定給付日数が残っていても、その分は受け取れなくなります。退職後はできるだけ早くハローワークで手続きすることが重要です。
Q. 定年退職後、すぐに働く気になれない場合はどうすればいいですか?
A. 60歳以上で定年退職した場合、失業手当の受給期間を最長1年間延長できる「受給期間延長制度」があります。退職日の翌日から2か月以内にハローワークで申請すれば、心身を休めてから改めて求職活動を始めることができます。
まとめ:退職日はたった1日で、受け取れる金額が大きく変わる
- 雇用保険法上、65歳の誕生日の2日前までに退職すれば「64歳」として扱われ、年金と失業手当(基本手当)を同時に受け取れます。
- 65歳の誕生日の前日以降に退職すると、支給日数の少ない高年齢求職者給付金のみとなり、受け取れる総額が少なくなる可能性があります。
- 退職日はたった1日の差で受け取れる金額が大きく変わるため、退職前に必ず制度と自分の生年月日・被保険者期間を確認することが大切です。
税務・社会保険の判断は、勤続年数や生年月日、加入していた年金の種類など、お一人おひとりの状況によって結論が異なります。自己判断で手続きを進めて損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
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退職日をたった1日変えるだけで、年金と失業手当を同時に受け取れることをご存知ですか。雇用保険法上の年齢の数え方や、64歳11か月で退職する仕組み、具体的な受給額のシミュレーションまで、実務の視点でわかりやすく解説します。
【2026年12月の年末調整から適用】年収の壁が178万円に引き上げ!内訳と対象者、退職者が損をする落とし穴を解説
「年収の壁が178万円に変わるらしいけど、結局いくらまで働けば税金がかからないの?」「103万円で覚えていたのに、今は178万円って聞いて混乱している」——今まさに、こうした不安を抱えていませんか。
結論から申し上げます。2026年分(令和8年分)の所得税から、給与収入が年間178万円以下であれば所得税がかからない仕組みに変わります。これは、給与所得控除の最低保障額(74万円)と、基礎控除(62万円)、さらに基礎控除の上乗せ特例(42万円)という3つの控除を合計した金額です。
この記事を最後まで読んでいただければ、次の3点が正確に分かります。第一に、178万円という数字がどのような内訳で成り立っているのか。第二に、この新しい制度の対象者と、いつから実際に反映されるのか。第三に、年の途中で退職した方が絶対に知っておくべき「年末調整で自動的には反映されない」という落とし穴です。特に退職者や転職を予定している方にとっては、知らないままだと本来受け取れるはずの還付金を逃してしまう可能性があります。国税庁が公表している一次資料に基づき、税理士の実務視点から分かりやすく整理していきます。
年収の壁178万円とは、どのような仕組みなのか
年収の壁178万円とは、給与収入だけで生活している方について、年間の給与収入が178万円以下であれば所得税が発生しない、という所得税制上の境界線のことです。これは令和8年度税制改正によって新しく生まれた基準であり、2026年分(令和8年分)以後の所得税から適用されます。
家計簿に例えるとイメージしやすくなります。毎月のお小遣い帳で「このお金は生活に絶対必要だから、使ったうちに入れない」と決めている金額があるとします。所得税の世界でも同じように、「これだけの金額には、そもそも税金をかけません」という非課税の範囲が法律で決められています。この非課税の範囲を積み上げた合計額が、令和8年分については178万円になった、ということです。
178万円の内訳は3つの控除の合計
178万円という金額は、次の3つの控除を単純に足し算した数字です。
1. 給与所得控除の最低保障額:74万円
2. 基礎控除(恒久部分):62万円
3. 基礎控除の上乗せ特例:42万円
74万円+62万円+42万円=178万円という計算になります。それぞれが何を意味しているのか、順番に見ていきましょう。
◆ 給与所得控除74万円とは
給与所得控除とは、会社員やパート従業員が仕事のために使った経費を、実際の領収書を集めなくても一律の金額で差し引いてもらえる制度のことです。スーツ代や交通費、資格取得費用など、仕事に必要な出費を一つ一つ計算するのは大変ですから、国があらかじめ「これくらいは経費として認めます」という金額を決めてくれているとイメージしてください。
令和8年度税制改正により、この給与所得控除の最低保障額が、これまでの65万円から74万円に引き上げられました。給与収入が190万円以下の給与所得者については、この74万円が一律で差し引かれます。
◆ 基礎控除62万円と上乗せ特例42万円とは
基礎控除とは、所得の金額にかかわらず、すべての納税者に対して一律に認められる非課税の枠のことです。誰にとっても最低限の生活費には税金をかけない、という考え方に基づいた控除で、いわば全員に共通する「生活防衛費」のようなものです。
令和8年度税制改正では、この基礎控除の基本部分が62万円に引き上げられました。さらに、合計所得金額が132万円以下(給与収入だけの場合はおおむね206万円以下)の方については、42万円を上乗せする特例が設けられ、基礎控除の合計は104万円(62万円+42万円)となります。
給与収入が190万円以下の方は、所得金額(給与収入から給与所得控除74万円を差し引いた金額)が132万円以下に収まるため、この104万円の基礎控除がまるごと適用されます。結果として、給与所得控除74万円と基礎控除104万円を合計した178万円までの給与収入であれば、課税される所得がゼロになる、という仕組みです。
🖼 画像指示:178万円の壁の内訳(給与所得控除74万円+基礎控除62万円+上乗せ特例42万円)を積み木のように積み上げて示す図解イラスト/キャプション:178万円の壁は3つの控除を積み上げた合計額です
178万円の壁の対象者
178万円の壁の対象者とは、給与収入のみを得ている居住者(日本国内に住所がある方)のうち、合計所得金額が132万円以下の方のことです。具体的には、パートやアルバイトとして働く方、扶養の範囲内で働く配偶者、在学中にアルバイトをしている学生などが典型的な対象者にあたります。
一方で、次のような方は178万円という数字がそのまま当てはまらないため、注意が必要です。まず、給与収入が190万円を超える方は、給与所得控除が74万円の定額ではなく、収入に応じた計算方法に切り替わります。また、事業所得や年金収入など、給与以外の所得がある方は、合計所得金額の計算方法が異なりますので、178万円という数字を単純に当てはめることはできません。
178万円の壁と、扶養に関する136万円の壁は別物
178万円の壁と、家族の扶養に入れるかどうかの基準となる年収の壁は、別の制度である、というのが実務上の結論です。この二つを混同している方が非常に多いため、明確に区別しておきましょう。
178万円は「本人自身に所得税がかかるかどうか」の基準です。これに対して、配偶者や親などが扶養控除・配偶者控除を受けられるかどうかの基準となる、扶養親族等の合計所得金額の要件も、令和8年度税制改正で58万円から62万円に引き上げられました。給与収入だけで見るとおおむね123万円から136万円への引き上げです。つまり「自分の税金がゼロになる178万円」と「家族の扶養に入れる136万円」は、金額も判定の対象も異なる別の壁だということです。
さらに、社会保険料の負担が生じるかどうかを分ける、いわゆる106万円や130万円という壁は、所得税とは全く別の社会保険制度の話です。178万円という数字だけを見て「この金額まではすべて安心」と判断すると、社会保険の扶養から外れて手取りが減ってしまうケースもあります。年収の壁と一口に言っても複数の制度が重なっていますので、自分がどの制度の対象になるのかを一つずつ確認することが、損をしないための実務上のポイントです。
178万円の壁のメリットとデメリット
178万円の壁のメリットとは、これまでよりも多くの収入を得ても所得税がかからなくなる、という点に尽きます。改正前の基準と比べて非課税で働ける範囲が広がりましたので、パートやアルバイトで働く方にとっては、収入を増やしながら手取りを維持しやすくなりました。
一方でデメリットとして押さえておくべきなのは、この178万円という金額のうち、上乗せ特例の42万円部分が令和8年分・令和9年分に限った時限的な措置である、という点です。国税庁および財務省の資料によれば、令和10年分以降はこの上乗せ額が37万円に統一される設計になっています。単純計算では、令和10年分以降の壁は74万円+62万円+37万円=173万円になる見込みです。178万円という金額を恒久的なものと思い込んでしまうと、数年後に見込みが狂ってしまいますので、時限措置であることは必ず押さえておいてください。
実務上の注意点・罠:年末調整で自動的には反映されないケースがある
ここが今回の改正で最も見落とされやすく、かつ実害が大きいポイントです。結論として、令和8年11月30日以前に令和8年分の最後の給与が支払われた方は、年末調整でこの178万円ベースの新しい控除が適用されません。改正後の控除を受けるには、確定申告が必要になります。
なぜ年末調整で反映されないのか
年末調整とは、会社がその年最後の給与を支払う際に、1年間の所得税の過不足をまとめて精算する手続きのことです。今回の改正は令和8年12月1日に施行されるため、令和8年12月に行う年末調整からでなければ、新しい控除額を反映した計算ができません。
つまり、令和8年11月30日までにその年最後の給与が支払われてしまった方については、勤務先の年末調整という機会そのものが、新しい制度が始まる前に終わってしまっている、ということになります。
退職者が特に注意すべき理由
年の中途で退職し、その後年末調整を受けていない方は、この178万円ベースの新しい控除の適用を受けないまま、給与から所得税が源泉徴収され続けています。国税庁が公表しているQ&A資料でも、退職して年末調整を受けていない方について、改正後の控除の適用を受けるためには確定申告が必要である、と明確に示されています。
具体的には、次のような方が典型的な注意対象です。
- 年の途中で退職し、年内に再就職しなかった方
- 転職はしたものの、新しい勤務先で年末調整に必要な書類(扶養控除等申告書など)を提出していない方
- 令和8年11月30日以前に、その年最後の給与を受け取ってそのまま退職した方
これらに当てはまる方は、確定申告をしなければ、本来戻ってくるはずの所得税の還付を受け取れないまま終わってしまいます。会社が自動的にやってくれる年末調整とは違い、確定申告は自分自身で手続きをしない限り、誰も代わりに行ってはくれません。この点が、今回の改正における最大の落とし穴です。
🖼 画像指示:年末調整で改正後の控除が反映されるケースと、反映されず確定申告が必要になるケースを分岐で示すフローチャート図解/キャプション:退職のタイミングによって、確定申告が必要かどうかが変わります
年末調整と確定申告の対応関係(比較表)
| ケース | 年末調整での反映 | 必要な手続き |
|---|---|---|
| 令和8年12月1日以降も在職し、勤務先で年末調整を受ける | 反映される | 原則、追加の手続きは不要 |
| 令和8年11月30日以前に最後の給与が支払われて退職した | 反映されない | 確定申告が必要 |
| 年の中途で退職し、年内に年末調整を受けていない | 反映されない | 確定申告が必要 |
| 転職先で扶養控除等申告書を提出せず年末調整を受けなかった | 反映されない | 確定申告が必要 |
手続きの流れ(ステップ図)
【ステップ1】令和8年中に退職・転職をしたかどうかを確認する
↓
【ステップ2】令和8年12月1日以降も年末調整を受けられるかを確認する
↓
受けられる場合 → 勤務先の年末調整で178万円ベースの控除が反映される
↓
受けられない場合
↓
【ステップ3】翌年(令和9年)2月16日から3月15日の間に確定申告を行う
↓
【ステップ4】払いすぎていた所得税があれば還付を受け取る
具体的なシミュレーション:年収別に所得税を計算してみる
ここでは、実際の数字を使って、178万円の壁がどのように働くのかを具体的に確認します。いずれも給与収入のみで、扶養親族等がいない方を前提とした、所得税の計算例です。
ケース1:年収130万円のパート勤務Aさんの場合
Aさんの給与所得は、給与収入130万円から給与所得控除74万円を差し引いた56万円です。この56万円は、基礎控除104万円(基礎控除62万円+上乗せ特例42万円)よりも小さいため、課税される所得はゼロになります。したがって、Aさんの所得税は0円です。
ケース2:年収178万円ちょうどのパート勤務Bさんの場合
Bさんの給与所得は、給与収入178万円から給与所得控除74万円を差し引いた104万円です。この104万円は、基礎控除104万円とちょうど同じ金額になるため、課税される所得はゼロになります。したがって、Bさんの所得税も0円です。これが178万円が「壁」と呼ばれる理由であり、ぴったり境界線上にある金額です。
ケース3:年収190万円のパート勤務Cさんの場合
Cさんの給与所得は、給与収入190万円から給与所得控除74万円を差し引いた116万円です。この116万円は基礎控除104万円を12万円上回りますので、課税される所得は12万円になります。所得税の税率のうち最も低い区分は5%ですので、所得税額は12万円×5%=6,000円です(復興特別所得税は含みません)。
このケースから分かるとおり、178万円の壁を超えたからといって、税金や手取りが急激に減るわけではありません。壁を超えた部分にだけ、少しずつ税金がかかっていく仕組みですので、「壁を超えると一気に損をする」という誤解は禁物です。ただし、130万円や106万円といった社会保険の壁は仕組みが異なり、超えた瞬間に社会保険料の負担が発生することがありますので、そちらは別途の確認が必要です。
年収別・所得税シミュレーション早見表
| 年収(給与収入) | 給与所得控除 | 給与所得 | 基礎控除 | 課税所得 | 所得税額(目安) |
|---|---|---|---|---|---|
| 130万円 | 74万円 | 56万円 | 104万円 | 0円 | 0円 |
| 150万円 | 74万円 | 76万円 | 104万円 | 0円 | 0円 |
| 178万円 | 74万円 | 104万円 | 104万円 | 0円 | 0円 |
| 190万円 | 74万円 | 116万円 | 104万円 | 12万円 | 6,000円 |
※復興特別所得税・住民税は含んでいません。給与収入190万円を超える場合は給与所得控除の計算方法が変わるため、別途の確認が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 178万円の壁は、いつから始まりますか。
A. 令和8年分(2026年分)以後の所得税から適用されます。ただし、勤務先での源泉徴収事務や年末調整の実務においては、令和8年12月1日に施行され、令和8年12月に行う年末調整から反映されます。
Q. 178万円という金額は、これからもずっと変わりませんか。
A. 変わる可能性が高いというのが実務上の結論です。178万円のうち42万円は令和8年分・令和9年分限定の時限的な上乗せ特例であり、国税庁および財務省の資料によれば、令和10年分以降はこの上乗せ額が37万円に統一される予定です。単純計算では、令和10年分以降の壁は173万円(74万円+62万円+37万円)になる見込みですので、178万円を恒久の数字と考えないようにしてください。
Q. パートで働いていて年の途中で退職しました。何もしなくても還付は受けられますか。
A. いいえ、何もしなければ還付は受けられません。年の途中で退職し、年末調整を受けていない方は、178万円ベースの新しい控除が給与計算に反映されないまま所得税が源泉徴収されています。払いすぎた税金の還付を受けるには、翌年に自分自身で確定申告をする必要があります。
Q. 178万円を少し超える年収で働いた場合、手取りが大きく減ってしまいますか。
A. いいえ、急激には減りません。178万円を超えた部分にだけ、5%という低い税率から所得税がかかる仕組みですので、超えた金額に比例して少しずつ税金が発生するだけです。ただし、社会保険の加入基準となる106万円や130万円といった壁は所得税の仕組みとは別ですので、あわせて確認しておくことをおすすめします。
Q. 178万円の壁と、家族の扶養に入れる基準は同じ金額ですか。
A. いいえ、異なります。178万円は本人自身の所得税がゼロになる基準であるのに対し、配偶者や親の扶養に入れるかどうかの基準となる扶養親族等の合計所得金額の要件は、令和8年度税制改正で給与収入ベースにするとおおむね136万円まで引き上げられています。二つの基準を混同しないよう、それぞれ別の数字として覚えておく必要があります。
まとめ
最後に、この記事の要点を3行にまとめます。
1. 178万円の壁とは、給与所得控除74万円・基礎控除62万円・上乗せ特例42万円を合計した、令和8年分から所得税がゼロになる給与収入の基準です。
2. この改正は令和8年12月の年末調整から反映されるため、それより前に退職して年末調整を受けていない方は、確定申告をしなければ還付を受けられません。
3. 178万円のうち42万円部分は時限措置であり、令和10年分以降は173万円に変わる見込みですので、恒久的な数字だと思い込まないことが重要です。
今回ご紹介した内容は、給与収入のみで扶養親族がいない方を前提とした一般的な整理です。実際の税額は、ご自身の家族構成や他の所得の有無、勤務先の実務対応によって一つひとつ異なります。特に退職や転職を控えている方は、確定申告の要否を見誤ると、本来受け取れるはずの還付金を取りこぼしてしまうおそれがあります。
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
元夫が亡くなったときの遺族年金、実は「今の奥さん」だけのものではありません
「元夫が再婚後に病気で亡くなった」——そう聞いたとき、真っ先に頭をよぎったのが「うちの子は何ももらえないのでは」という不安ではないでしょうか。
結論からお伝えします。遺族年金は「今の配偶者」だけのものではありません。条件を満たせば、元夫との間のお子さんご自身が、ご自分の名前で遺族年金を受け取れる可能性があります。
この記事を読めば、遺族年金の仕組み、お子さんが受け取れる条件、具体的な金額のイメージ、そして今すぐ確認すべきことがすべて分かります。
【結論】お子さんが「生計を維持されていた実子」であり、年齢などの要件を満たしていれば、今の配偶者の有無にかかわらず、お子さんご自身の名前で遺族年金を受け取れる可能性が高い——これが実務上の結論です。
1. 遺族年金とは、そもそもどんな制度か
遺族年金とは、年金に加入していた方が亡くなったときに、その方に生計を支えてもらっていた家族の生活を守るために国から支給される年金のことです。
たとえるなら、家族というチームの「大黒柱」が倒れてしまったときに、残されたチームメンバーの生活が急に苦しくならないよう、国が支える「生活の安全ネット」のようなものだとイメージしてください。
◆ 遺族年金には2種類ある
- 遺族基礎年金:国民年金からの給付(自営業者・会社員・公務員など全員が対象)
- 遺族厚生年金:厚生年金からの給付(会社員・公務員など厚生年金加入者が対象)
| 項目 | 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 |
| 財源 | 国民年金 | 厚生年金 |
| 対象になる亡くなった方 | 国民年金加入者(自営業を含む全員) | 厚生年金加入の会社員・公務員など |
| 主な受給者 | 子のある配偶者 → 子 | 配偶者・子・孫・父母・祖父母(優先順位あり) |
| 「子」の年齢要件 | 18歳になった年度の3/31まで(障害等級1・2級は20歳未満) | 同左 |
| 特徴 | 子がいないと原則もらえない | 子の有無にかかわらずもらえる場合がある |
[画像:遺族基礎年金と遺族厚生年金の関係を示す2階建てピラミッド図解イラスト(1階=遺族基礎年金、2階=遺族厚生年金)/キャプション:遺族年金は「1階部分(基礎年金)」と「2階部分(厚生年金)」の2階建て構造になっています]
2.「今の配偶者だけがもらえる」という誤解はなぜ生まれるのか
この誤解が生まれる最大の理由は、「配偶者」という言葉のイメージが先行してしまうことにあります。しかし実際の制度では、「配偶者」だけでなく「子」も独立した受給者として明確に位置づけられています。
◆ 遺族基礎年金の受給順位のルール
遺族基礎年金は、次の優先順位で支給されます。
- ① 子のある配偶者
- ② 子
ここでいう「子のある配偶者」とは、亡くなった方の死亡当時、その子と生計を同じくしていた配偶者のことです。たとえば、再婚相手がお子さん(元夫との間の子)と同居・扶養していなければ、「子のある配偶者」の要件を満たしません。その場合、受給の権利は自動的に「子」へと移ります。
たとえて言うなら、お小遣いを渡す相手を決める順番のようなものです。「一緒に子どもの面倒を見ている人」がいなければ、次の順番である「子ども自身」に渡される、というイメージを持っていただくと分かりやすいでしょう。
◆ お子さんが「子」として認められるための3つの条件
- ① 亡くなった元夫の実子(または養子)であること
- ② 年齢要件を満たすこと(18歳になった年度の3月31日までの間。障害等級1・2級の場合は20歳未満)
- ③ 婚姻していないこと
離婚は夫婦の関係を解消するものであり、親子関係を切り離すものではありません。したがって、離婚してあなたが親権を持っていても、お子さんが元夫の「実子」であるという事実は変わらず、上記の条件を満たせば受給資格があります。
3. 実務上の注意点・見落としやすい落とし穴
◆ 「生計維持関係」の確認が必須
年金を受け取るには、亡くなった方に「生計を維持されていた」と認められる必要があります。具体的には次の基準で判断されます。
- 生計同一要件:住民票上同居している、あるいは仕送り・訪問など経済的・精神的なつながりがあること
- 収入要件:前年の収入が850万円未満(または所得655万5千円未満)であること
養育費を継続的に受け取っていた実績があれば、「生計を維持されていた」と認められやすくなります。逆に、養育費の支払いが長期間なく、交流もほとんどなかった場合は、この要件の証明に時間がかかることがあります。
◆ 再婚相手との間にも子がいる場合の按分
今の配偶者と元夫との間に子がいる場合、その子も「子のある配偶者」の要件における「子」に含まれます。この場合、遺族基礎年金の子の加算額は、あなたのお子さんと再婚相手のお子さんの人数に応じて按分・調整されるケースがあります。実務上は年金事務所での個別確認が不可欠です。
◆ 時効に注意
遺族年金の請求権には5年の時効があります。「知らなかった」では済まされないため、対象になる可能性に気づいたら早めに動くことが重要です。
【手続きの流れ】
- ステップ1:年金事務所で、元夫の年金加入記録を確認する
- ステップ2:戸籍謄本・住民票などで、お子さんの「子」としての受給資格と生計維持関係を確認する
- ステップ3:必要書類(戸籍謄本、住民票、養育費の入金記録など)を準備する
- ステップ4:年金事務所へ「遺族年金裁定請求書」を提出する
- ステップ5:審査(数か月程度)を待つ
- ステップ6:年金証書が届き、受給が開始される
[画像:遺族年金請求の手続きの流れを示すステップフローチャートのイラスト(戸籍謄本の準備→年金事務所への相談→必要書類の提出→審査→年金証書の交付)/キャプション:請求から受給開始までの一般的な流れ]
4. 具体的なシミュレーション:数字で見る受給イメージ
【設例】会社員として厚生年金に20年間(240か月)加入していたAさん(享年42歳)。平均標準報酬額は月30万円。離婚した前妻Bさんが引き取っている実子C(15歳)が1人おり、Aさんは再婚して今の配偶者Dさんと同居していますが、Dさんとの間に子はいません。
このケースでは、Dさん(今の配偶者)はCさんと同居・扶養しておらず「子のある配偶者」の要件を満たさないため、遺族基礎年金の第一順位者にはなれません。一方、実子Cは、Aさんから継続的に養育費を受け取っており生計維持関係が認められるため、Cが受給者になります。
| 区分 | 内訳 | 参考額(年額) |
| 遺族基礎年金 | 基本額 | 816,000円 |
| 遺族基礎年金 | 子の加算(1人目) | 234,800円 |
| 遺族基礎年金 合計 | 1,050,800円(月額 約87,566円) | |
| 遺族厚生年金(概算) | 平均標準報酬額30万円 × 5.481/1000 × 240か月 × 3/4 | 約296,000円 |
| 受給額 合計(概算) | 約1,346,800円(月額 約11.2万円) |
※ 上記は2024年度の参考額をもとにした、制度理解のための概算です。年金額は年度改定や加入期間・報酬額によって変動し、実際の受給額は年金事務所での試算が必要です。曖昧な自己判断は避け、必ず正式な確認を行ってください。
| ケース | 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | 実際の受給者 |
| 今の配偶者が子と同居・扶養している | 配偶者が受給(子の加算含む) | 配偶者が受給 | 今の配偶者 |
| 今の配偶者が子と別居・非扶養 | 子が受給 | 子が受給(配偶者と按分の可能性あり) | お子さん |
| 再婚相手との間にも子がいる | 按分計算が発生 | 按分計算が発生 | 双方の子(按分) |
5. よくある質問(FAQ)
◆ Q1. 離婚してもう何年も元夫と会っていません。それでも子どもは遺族年金をもらえますか?
A. 会っていない期間の長さそのものは、直接の不支給理由にはなりません。重要なのは「生計維持関係」があったかどうかです。養育費の入金記録などがあれば証明の助けになります。まずは年金事務所へ加入記録の確認を依頼することをおすすめします。
◆ Q2. 今の配偶者がすでに遺族年金を受け取っている場合、子どもはもう請求できませんか?
A. 今の配偶者がお子さんと生計を同じくしていない状態で受給している場合、本来の受給者が異なっている可能性があります。個別の事実関係により結論は変わるため、年金事務所での確認が必要です。
◆ Q3. 遺族年金と養育費は両方もらえますか?
A. 遺族年金と養育費は法的性質が異なるため、原則として両方受け取ることができます。ただし、元夫が亡くなった後は養育費の支払い自体が終了しますので、実務上は遺族年金が生活費の柱になります。
◆ Q4. 子が18歳になったら遺族年金はどうなりますか?
A. 遺族基礎年金は、子が18歳になった年度の3月31日を迎えると、原則として支給が終了します(障害等級1・2級の場合は20歳未満まで延長)。厚生年金部分についても、子としての受給要件を失った時点で権利が消滅します。
◆ Q5. 手続きに必要な書類は何ですか?
A. 主に、戸籍謄本(親子関係の証明)、住民票、年金手帳または基礎年金番号のわかる書類、養育費の入金記録など生計維持を示す資料が必要です。個別のケースにより追加書類を求められることがあります。
6. まとめ
- 遺族年金は「今の配偶者」だけの制度ではなく、要件を満たせば元夫との間の「お子さん」も受給できる
- 「子のある配偶者」がその子と生計を同じくしていない場合、受給の権利は子に移る
- 生計維持関係の証明や按分計算など実務上の判断が難しい場面が多いため、早めの確認が損を防ぐ
税務や年金の判断は、ご家庭ごとの事情によって結論が大きく変わります。「うちの場合はどうなるのだろう」と少しでも不安に感じたら、自己判断のまま時間だけが過ぎてしまう前に、お気軽に当事務所へご相談ください。年金事務所への確認の同行や書類準備のサポートも含め、丁寧にご案内いたします。
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離婚後に元夫が死亡した場合、遺族年金は今の配偶者だけのものではありません。子どもが受給できる条件や生計維持要件、具体的な受給額のシミュレーションまで、実務目線でわかりやすく解説します。
「配当を確定申告したら医療保険料が上がった」を防ぐ!後期高齢者医療の窓口負担割合と保険料の新ルール完全ガイド
「株の配当について確定申告をしたら、後期高齢者医療の保険料の通知書を見て驚いた」「病院の窓口で、去年までと違って急に自己負担割合が上がっていた」——このようなご相談は、年金生活を送っていらっしゃる方から本当によく寄せられます。実はこれには、はっきりとした理由があります。
令和6年度の税制改正により、配当や株の売却益について「確定申告をするかどうか」が、そのまま後期高齢者医療の保険料や窓口負担割合に直結するようになったのです。この記事を読めば、なぜそのようなことが起こるのか、その仕組みを中学生の方でも一読で理解できるレベルまで、やさしい言葉と身近なたとえ話でしっかりと解説していきます。そして、ご自身にとって確定申告をすべきかどうかを、自信を持って判断できるようになります。
結論:配当や株の売却益について、あえて確定申告をせず、証券会社での源泉徴収(天引き)だけで完結させることを選べば、後期高齢者医療の保険料や窓口負担割合への影響を避けられるケースが多くあります。ただし、確定申告をしたほうが結果的に得になる場合もあり、どちらが良いかはご自身の年金額や資産状況によって異なりますので、慎重な見極めが必要です。
■ そもそも後期高齢者医療の保険料と窓口負担割合はどう決まるのか
結論:後期高齢者医療の保険料も、病院の窓口で支払う自己負担割合も、どちらも「住民税を計算するときの元になる所得」の金額によって決まります。つまり、住民税の元になる所得が増えれば、保険料も窓口負担割合も上がる可能性があるということです。
◆ 後期高齢者医療制度とは
後期高齢者医療制度とは、原則として75歳以上の方(一定の障害がある65歳以上の方を含みます)が加入する、医療費の一部をご本人の保険料と、公費(税金)や現役世代からの支援金などで支え合う医療保険制度のことです。75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた国民健康保険や健康保険から自動的に切り替わります。
◆ 保険料の決まり方——家計簿にたとえると
後期高齢者医療の保険料は、「均等割(加入者全員が等しく負担する部分)」と「所得割(所得に応じて負担する部分)」の合計で計算されます。このうち所得割の金額は、住民税を計算する際に使われる所得(正確には「賦課のもととなる所得金額」といいます)に、都道府県ごとに定められた率を掛けて算出します。
たとえるなら、家計簿の「収入の欄」に記入する金額が多ければ多いほど、そこから計算される「負担すべき金額」も大きくなる、というシンプルな関係です。配当を確定申告して住民税上の所得として計上すれば、家計簿の収入欄にその分がプラスされ、結果として保険料の計算のもとになる金額も膨らんでしまうのです。
◆ 窓口負担割合(1割・2割・3割)の決まり方
病院の窓口で支払う医療費の自己負担割合も、同じく住民税上の所得金額と年金収入などの合計額を基準に、毎年8月に見直されます。目安は次の表のとおりです。
| 区分 | 住民税課税所得の目安 | 収入等の目安(単身世帯) | 窓口負担割合 |
| 一般 | 145万円未満 | - | 1割 |
| 一定以上所得のある方 | 28万円以上 | 「年金収入+その他の合計所得金額」200万円以上 | 2割 |
| 現役並み所得者 | 145万円以上 | 収入383万円以上(等) | 3割 |
※上記は単身世帯の目安であり、世帯構成や収入の内訳によって基準は異なります。正確な判定はお住まいの自治体または当事務所へご確認ください。
[画像指示:住民税課税所得と後期高齢者医療の窓口負担割合(1割・2割・3割)の関係を示すピラミッド型の図解イラスト/キャプション:住民税上の所得が増えるほど、窓口負担割合も上がっていく仕組みをイメージした図]
■ 配当を受け取ったときの3つの申告方法
結論:配当を受け取ったときの税金の扱いには、「確定申告不要制度」「総合課税」「申告分離課税」という3つの選び方があります。この選び方の違いこそが、後期高齢者医療の保険料や窓口負担割合に影響するかどうかの分かれ道になります。
◆ ① 確定申告不要制度
確定申告不要制度とは、証券会社があらかじめ税金(所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%)を差し引いて(源泉徴収して)納めてくれるため、受け取った側が改めて確定申告をしなくてもよい制度のことです。特定口座(源泉徴収あり)で株式や投資信託を保有している場合、通常はこの方法で自動的に手続きが完了しています。
◆ ② 総合課税
総合課税とは、配当を年金や給与など他の所得と合算して税金を計算する申告方法のことです。この方法を選ぶと「配当控除」という税額控除を受けられる場合があり、所得税だけを見れば税金が安くなることがあります。
◆ ③ 申告分離課税
申告分離課税とは、配当を他の所得とは分けて、株式の売却損などと相殺(損益通算)できる申告方法のことです。その年に株の売却で損失が出ている方が、配当の税金を取り戻す目的でよく利用します。
たとえるなら、特定口座(源泉徴収あり)は「あらかじめ代金から手数料を天引きして販売してくれる、代行してくれる八百屋さん」のようなものです。何もしなくても取引は完結します。一方、確定申告をするというのは、その八百屋さんの帳簿を、自分で改めて見直して「精算」する作業にあたります。精算すれば還付を受けられることもありますが、その代わり、その所得が住民税の計算にも顔を出すことになるのです。
■ なぜ「確定申告の有無」で保険料が変わるようになったのか——令和6年度改正のポイント
結論:令和6年度分の住民税から、「所得税の申告で選んだ方法が、そのまま住民税にも自動的に適用される」というルールに変わりました。以前は、所得税では確定申告をしつつ、住民税だけは別途「申告書」を出して申告不要を選ぶという方法が認められていましたが、この選択の使い分けができなくなりました。
◆ 改正前の仕組み
令和5年度分の住民税までは、所得税の確定申告で配当を総合課税や申告分離課税として申告した場合でも、別途「住民税・国民健康保険税に関する申告書」を提出することで、住民税の計算においてはその配当所得を含めない(申告不要制度を選ぶ)ことが認められていました。つまり、税金の還付は受けつつ、住民税上の所得は増やさず、保険料や窓口負担割合への影響を避けることができたのです。
◆ 改正後の仕組み
令和6年度分の住民税からは、この「所得税と住民税で異なる申告方法を選ぶ」ことができなくなりました。所得税の確定申告で総合課税や申告分離課税を選んだ場合、その配当所得は自動的に住民税の所得にも算入されます。結果として、確定申告をするかしないかという選択そのものが、保険料や窓口負担割合に直接影響する形になったのです。
〇 申告方法の判断フロー
配当を受け取る(特定口座で源泉徴収済み)
↓
確定申告をするかどうかを選ぶ
↓
| 選択 | 住民税への影響 | 保険料・窓口負担割合 |
| 確定申告をしない | 源泉徴収のみで完結。住民税の所得に含まれない | 保険料・窓口負担割合への影響なし |
| 確定申告をする(総合課税/申告分離課税) | 所得税の申告内容が住民税にも自動反映される | 保険料が上がる・窓口負担割合が上がる可能性あり |
〇 改正前・改正後の比較表
| 項目 | 改正前(令和5年度分住民税まで) | 改正後(令和6年度分住民税から) |
| 所得税の申告方法 | 総合課税・申告分離課税・申告不要から選択 | 同左(変更なし) |
| 住民税の申告方法 | 所得税と別に選択可能(住民税申告書の提出で申告不要を選択できた) | 所得税で選んだ方法が自動的に適用される |
| 保険料・窓口負担割合 | 住民税申告書の提出により影響を回避できた | 確定申告をすれば原則として回避できない |
[画像指示:改正前と改正後で、所得税の確定申告と住民税の申告方法がどう連動するようになったかを示すビフォーアフター比較のフローチャート図解/キャプション:令和6年度改正により、所得税と住民税の「申告方法の抜け道」が閉じられたことを表す図]
■ 実務上の注意点・落とし穴
結論:配当控除や損益通算だけを見て確定申告をすると、税金は安くなっても、保険料や窓口負担割合が上がり、トータルでは損をしてしまうことがあります。目先の還付額だけでなく、翌年度以降の保険料まで含めて判断することが重要です。
◆ 落とし穴① 配当控除・損益通算の「見えない代償」
総合課税で配当控除を使ったり、申告分離課税で株の売却損と損益通算したりすると、所得税・住民税そのものは還付・軽減されることがあります。しかし、その裏側で住民税上の所得が増えるため、翌年度の後期高齢者医療の保険料が上がったり、窓口負担割合が1割から2割、あるいは2割から3割に上がったりすることがあります。数万円の税金還付のために、数年間にわたって医療費の負担が増え続けては、本末転倒になりかねません。
◆ 落とし穴② 扶養控除・配偶者控除の判定にも影響
配当を確定申告して所得が増えると、後期高齢者医療の話だけでなく、ご家族の税務上の扶養控除や配偶者控除の判定にも影響することがあります。ご本人だけでなく、ご家族全体の手取りにも波及する可能性があるため、注意が必要です。
◆ 落とし穴③ 高額療養費の自己負担限度額にも波及
住民税上の所得区分は、窓口負担割合だけでなく、高額療養費制度(医療費が高額になったときに払い戻しを受けられる制度)の自己負担限度額の区分判定にも使われます。所得区分が上がると、この限度額も引き上げられ、いざというときの負担が重くなる可能性があります。
◆ 落とし穴④ 医療費控除だけが目的なら、配当は記載しなくてよい
医療費控除を受けるためだけに確定申告をする場合、特定口座(源泉徴収あり)で完結している配当まで、あえて申告書に記載する必要はありません。医療費控除の申告と、配当の申告は別物です。混同して不要な情報まで記載してしまうと、思わぬ形で住民税上の所得を押し上げてしまいます。
■ 具体的なシミュレーションで見る「確定申告あり・なし」の差
結論:同じ収入状況でも、確定申告をするかしないかで、後期高齢者医療の窓口負担割合が変わり、年間の医療費負担に大きな差が生まれることがあります。以下は理解を深めるための一例(概算)です。実際の金額は個々の状況により異なります。
【設定】79歳・単身世帯の方。公的年金収入 180万円。上場株式の配当収入 120万円(特定口座・源泉徴収あり)。同年中に株式の売却損が30万円発生。
◆ ケースA 確定申告をしない場合
- 配当120万円は源泉徴収(20.315%)で完結し、約24万4千円が天引き済みの状態で手続きが終わる
- 住民税上の所得に配当は含まれないため、窓口負担割合の判定は年金収入のみで行われ、1割のまま据え置き
- 翌年度の保険料も、配当を反映せずに計算されるため上昇しない
- 一方で、売却損30万円と配当を相殺(損益通算)できないため、天引きされた税金の還付は受けられない
◆ ケースB 確定申告をする場合(申告分離課税で損益通算)
- 配当120万円と売却損30万円を損益通算し、課税対象となる配当を90万円に圧縮
- 天引きされていた税金の一部について還付を受けられる(源泉徴収額をもとにした概算で、数万円程度の還付となるケースが一般的)
- しかし、相殺後の配当90万円分が住民税上の所得に加算されるため、窓口負担割合が1割から2割に引き上げられる可能性がある
- 窓口負担割合が2割になると、同じ治療を受けても自己負担額は単純計算で2倍になり、通院頻度によっては還付を受けた金額を上回る負担増となることがある
| 比較項目 | ケースA(確定申告なし) | ケースB(確定申告あり・損益通算) |
| 配当への課税関係 | 源泉徴収のみで完結 | 申告分離課税で申告 |
| 損益通算による還付 | なし | あり(概算で数万円程度) |
| 住民税上の所得への算入 | 算入されない | 算入される(相殺後90万円が加算) |
| 翌年度の窓口負担割合 | 1割のまま | 2割に上がる可能性 |
| 医療費の年間自己負担(目安) | 現状維持 | 通院頻度によっては還付額を上回る増加も |
※本シミュレーションは制度の仕組みをご理解いただくための一例であり、実際の保険料額・還付額・窓口負担割合は、お住まいの自治体の算定基準やその他の所得状況によって異なります。個別の試算は当事務所までご相談ください。
[画像指示:ケースAとケースBの1年間の医療費・保険料の負担の違いを、天秤やグラフでビジュアル化した図解イラスト/キャプション:確定申告の有無による窓口負担割合の差が、長期的な負担にどう影響するかを示すイメージ図]
■ よくある質問(FAQ)
〇 Q1. 特定口座(源泉徴収あり)なら、何もしなければ保険料は上がりませんか?
A. はい。原則として、確定申告をしなければ、特定口座(源泉徴収あり)内の配当や売却益は住民税上の所得に含まれません。そのため、後期高齢者医療の保険料や窓口負担割合には影響しません。
〇 Q2. 医療費控除を受けたいのですが、配当も一緒に申告しないといけませんか?
A. いいえ、その必要はありません。医療費控除だけを目的とする確定申告であれば、特定口座(源泉徴収あり)で完結している配当をあえて記載する義務はありません。記載しなければ、その部分は住民税上の所得に反映されません。
〇 Q3. うっかり配当を確定申告してしまいました。取り消せますか?
A. 一定の期間内であれば「更正の請求」などの手続きにより見直せる場合がありますが、要件や期限が定められています。ご自身の申告内容と時期を確認したうえで、早めに専門家へご相談ください。
〇 Q4. 窓口負担割合が1割から2割になると、具体的にどれくらい負担が増えますか?
A. 医療機関にかかる回数や治療内容によって差はありますが、同じ治療を受けた場合、自己負担額は単純計算で2倍になります。持病があり通院が多い方ほど、影響は大きくなります。
〇 Q5. NISA口座の配当も、同じように保険料に影響しますか?
A. いいえ。NISA(少額投資非課税制度)口座内で得た配当や売却益は、そもそも税金がかからない非課税の扱いであり、確定申告の対象にもなりません。そのため、後期高齢者医療の保険料や窓口負担割合には影響しません。
■ まとめ&ご相談のご案内
この記事の要点は次の3つです。
- 後期高齢者医療の保険料も窓口負担割合も、住民税上の所得を基準に決まる
- 令和6年度改正により、所得税の確定申告で選んだ方法が、住民税にもそのまま適用されるようになった
- 配当を確定申告しない(源泉徴収のみで完結させる)を選べば、多くの場合、保険料や窓口負担割合への影響を避けられる
配当控除や損益通算による還付額と、翌年度以降の保険料・窓口負担割合の上昇分を比べたとき、どちらが本当に得なのかは、年金額や資産状況、ご家族の扶養関係などによって一人ひとり異なります。
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
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【推奨メタディスクリプション】 配当を確定申告すると後期高齢者医療の保険料や窓口負担割合が上がることがあります。令和6年度改正の仕組みと、損をしないための判断基準を実例つきでやさしく解説します。
【2028年4月施行】遺族年金が大改正!経営者・個人事業主が「今」知っておくべきすべて
「もし自分に万が一のことがあったら、家族の生活は、会社はどうなるのか」——経営者や個人事業主であれば、一度は頭をよぎる不安ではないでしょうか。実は2025年、遺族年金の制度が65年ぶりともいわれる大きな見直しを受け、2028年4月から新しいルールがスタートします。これまで「配偶者が亡くなったら一生涯もらえる」と思われていた遺族厚生年金が、条件によっては「5年間だけ」に変わるのです。
この記事では、中学生でも理解できるレベルまでかみ砕いて、①遺族年金の基本のしくみ、②2028年4月から何がどう変わるのか、③経営者・個人事業主がなぜ特に注意すべきなのか、④具体的な金額シミュレーション、⑤今からできる備えまで、一つひとつ丁寧に解説します。読み終える頃には、「自分の場合はどうなるのか」がはっきりとイメージできるようになります。
1. そもそも「遺族年金」とは?家計を支える「1階部分」と「2階部分」
遺族年金とは、一家の大黒柱(年金の加入者)が亡くなったときに、残された家族の生活を支えるために支給される公的年金です。マンションで例えると、年金制度は2階建ての建物のようになっています。
📌 1階部分=遺族基礎年金 国民年金に加入していた人が亡くなったときに、原則「18歳になった年度末までの子」がいる配偶者・子に支給されます。自営業者もサラリーマンも、みんなが入っている国民年金がベースです。
📌 2階部分=遺族厚生年金 会社員や公務員、法人の役員など、厚生年金に加入していた人が亡くなったときに、1階部分に上乗せして支給されます。個人事業主自身は原則この2階部分には入っていません。
[画像:2階建て年金制度のイメージ図。1階に「遺族基礎年金(国民年金)」、2階に「遺族厚生年金(厚生年金)」と書かれた家のイラストで、誰が対象になるかを図解する。]
1-1. 遺族基礎年金と遺族厚生年金のちがい(比較表)
| 項目 | 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 |
| 加入していた年金 | 国民年金 | 厚生年金 |
| 対象になりやすい人 | 自営業者・フリーランス・会社員・公務員(全員) | 会社員・公務員・法人役員など厚生年金加入者 |
| 主な受給対象 | 子のある配偶者、または子 | 子の有無を問わない配偶者・子・父母など |
| 受給できる期間(現行) | 子が18歳になる年度末まで | 条件を満たせば原則終身 |
| 今回の改正の影響 | 期間は変更なし(子の加算額などは見直しあり) | 原則終身 → 一定の場合は「原則5年」に変更 |
2. 何がどう変わる?「年金制度改正法」の全体像
2025年5月30日、衆議院で「年金制度改正法案」が可決・成立しました。今回の改正の柱の一つが、遺族厚生年金の見直しです。背景にあるのは、共働き世帯の増加や女性の就業率上昇といった社会構造の変化です。これまでの制度は「夫が働き、妻は専業主婦」という昭和の家庭モデルを前提に作られていたため、現代の実情に合わせて「配偶者が亡くなった後の生活の立て直しを支援する制度」へと考え方が転換されます。あわせて、これまで「子のいない55歳未満の夫」がほぼ対象外だったような男女間の不公平も是正されます。
2-1. 改正までのスケジュール
STEP 1
2025年5月30日:法案成立
衆議院で「年金制度改正法案」が可決され、遺族厚生年金の見直しを含む制度改正が正式に決まりました。
▼
STEP 2
2025年〜2028年:周知・準備期間
国や日本年金機構による制度周知が行われます。この間に、経営者や個人事業主は自分自身の保障内容を確認し、必要な対策を検討する時間があります。
▼
STEP 3
2028年4月:新制度スタート
改正後のルールが施行されます。この日以降に発生する遺族厚生年金の受給権から、新しいルールが適用されます。
📌 重要 2028年4月より前にすでに遺族厚生年金を受け取っている人や、施行前に受給権が発生している人は、今回の見直しの対象にはなりません(経過措置)。
3.【最重要】遺族厚生年金が「終身」から「原則5年」へ
今回の改正の中でもっとも影響が大きいのが、遺族厚生年金の支給期間の見直しです。「配偶者が亡くなったら一生涯もらえる」というイメージは、一部の方については当てはまらなくなります。ここでは7つの変更点を、一つずつ具体的に見ていきましょう。
3-1. 20〜50代・子なし配偶者は「原則5年間の有期給付」に
改正後は、20代から50代で、18歳になる年度末までの子がいない配偶者が亡くなった場合、遺族厚生年金は原則として「5年間」の有期給付になります。たとえるなら、これまでは「一度契約したら一生続く保険」だったものが、「まずは5年間、生活再建までの間をしっかり support する保険」に設計が変わるイメージです。子どもがいる家庭や、すでに受給している人はこの変更の対象外です。
3-2. 「有期給付加算」というクッションが新設される
支給期間が5年に短縮される代わりに、その5年間の受給額を手厚くする「有期給付加算」が新設されます。現行制度の遺族厚生年金は、亡くなった方の老齢厚生年金の4分の3相当額です。改正後は、5年間に限りここへ4分の1相当額が上乗せされ、合計で老齢厚生年金の100%相当額を受け取れる計算になります。つまり「期間は短くなるが、その分、金額は手厚くする」という設計です。
3-3. 「死亡時分割制度」の新設——将来の年金を増やすしくみ
婚姻期間中に、亡くなった配偶者が納めていた厚生年金の記録の一部(およそ半分)を、残された配偶者自身の年金記録として分割できる「死亡時分割制度」が新設されます。これは離婚のときに使われる「離婚時分割」と似たしくみです。これにより、残された配偶者が65歳から受け取る自分自身の老齢厚生年金の額が増え、5年間の有期給付が終わったあとの「老後の生活の土台」が手厚くなります。
3-4. 「収入要件」が撤廃され、受給しやすくなる
現行制度では、遺族厚生年金を受け取るには「同一生計要件」(亡くなった人と生計をともにしていたこと)に加えて、「収入要件」(前年の年収が850万円未満であることなど)の両方を満たす必要がありました。改正後は収入要件が撤廃され、同一生計要件のみで受給できるようになります。配偶者を亡くしたことによる生活への影響は、収入の多い少ないにかかわらず生じるものだという考え方に基づく変更です。
3-5. 「中高齢寡婦加算」は25年かけて段階的に廃止
40歳から65歳になるまでの間、子のいない妻の遺族厚生年金には「中高齢寡婦加算」(令和8年度の目安で年額約62万円)が上乗せされてきました。この加算は、2028年4月以降、法改正から25年という長い期間をかけて段階的に減額され、最終的に廃止されます。急に打ち切られるわけではなく、非常に緩やかな移行期間が設けられている点は覚えておきましょう。
3-6. 子のいない60歳未満の男性も新たに対象に
これまで、子のいない男性は妻の死亡時に55歳以上でなければ遺族厚生年金を受け取れませんでした。改正後は、18歳になる年度末までの子がいない60歳未満の男性も、新たに(5年間の)有期給付の対象に加わります。男女差を解消し、公平な制度にすることが目的です。
3-7. 遺族基礎年金:期間は据え置き、子の加算額は引き上げへ
1階部分にあたる遺族基礎年金は、受け取れる期間そのものに変更はありません。ただし、子の加算額は引き上げられる予定です。令和8年度時点の子の加算額は、第1子・第2子が1人あたり243,800円、第3子以降が1人あたり81,300円ですが、改正後は子1人につき281,700円へ引き上げられ、支給される子の範囲も広がる方向で見直されます(親が再婚して受給資格を失った場合でも、生計を同じくする子への支給が続くようになるなど)。金額は毎年度の物価・賃金動向で改定されるため、最新の金額は日本年金機構の発表をご確認ください。
[画像:改正前と改正後の遺族厚生年金の受給イメージを比較したタイムライン図。改正前は矢印が一生涯続くのに対し、改正後は「5年間+有期給付加算」で終わり、その後は「死亡時分割による増額後の老齢厚生年金」に接続していく様子を図解する。]
3-8. 改正前・改正後 早見比較表
| 項目 | 改正前(現行) | 改正後(2028年4月〜) |
| 支給期間(子なし・20〜50代) | 条件を満たせば原則終身 | 原則5年間の有期給付 |
| 受給額(5年間) | 老齢厚生年金の4分の3相当 | 有期給付加算により100%相当に増額 |
| 年金記録 | 分割制度なし | 死亡時分割制度で将来の老齢厚生年金を増額可能 |
| 収入要件 | 年収850万円未満などの制限あり | 撤廃(同一生計要件のみ) |
| 中高齢寡婦加算 | 年額約62万円(令和8年度目安) | 25年かけて段階的に廃止 |
| 対象となる男性 | 子なしは55歳以上のみ | 子なし60歳未満も対象に拡大 |
| 子のいる家庭・既受給者 | - | 原則、今回の見直しの対象外(経過措置) |
4. 経営者・個人事業主だからこそ「他人事」ではない理由
会社員であれば、勤務先の総務や労務担当者が制度の変更を教えてくれることもありますが、経営者や個人事業主は、自分自身で情報を取りに行かない限り、誰も教えてくれません。しかも、立場によって影響の大きさがまったく異なります。
4-1. 個人事業主は「1階建て」——遺族厚生年金がそもそもない
個人事業主自身は原則として国民年金にしか加入していません。つまり、自分に万が一のことがあっても、家族が受け取れるのは1階部分の遺族基礎年金だけです。しかも遺族基礎年金は「18歳になる年度末までの子」がいなければ支給されません。子のいない個人事業主の配偶者は、現行制度でも改正後も、公的年金からの遺族保障は基本的にゼロという厳しい現実があります。これは今回の改正うんぬん以前の、個人事業主の方が押さえておくべき大前提です。
4-2. 法人の代表者・役員は「2階建て」——今回の改正の直撃を受ける
一方、法人を設立し、自分自身に役員報酬を支払っている経営者は、厚生年金に加入しています。つまり2階部分(遺族厚生年金)の対象であり、今回の改正の影響を正面から受けます。特に、子どもが独立した後の40〜50代の経営者夫婦や、子どもを持たない選択をしている経営者夫婦にとっては、「配偶者に何かあっても一生涯の保障がある」という前提が崩れることを意味します。
4-3. 個人事業主と法人経営者の比較
| 項目 | 個人事業主 | 法人代表者・役員 |
| 加入する年金 | 国民年金(1階のみ) | 国民年金+厚生年金(2階建て) |
| 子なし配偶者の遺族年金 | 原則なし | 改正後は原則5年間の有期給付+加算 |
| 今回の改正の影響度 | 限定的(もともと保障が薄い) | 大きい(保障の前提が変わる) |
| 主な備えの方向性 | 生命保険・小規模企業共済等での上乗せ | 保障内容の再設計、死亡退職金規程の整備等 |
5. 数字でわかる!具体的シミュレーション
実際にどれくらい金額が変わるのか、2つのケースで見てみましょう。数字はいずれも説明のための概算であり、実際の受給額は加入期間や標準報酬額等により異なります。
事例1:法人代表(43歳・男性)が死亡、妻(38歳・子なし)が遺族となるケース
亡くなった代表者の老齢厚生年金の見込み額を年150万円と仮定します。
| 改正前(現行制度) | 改正後(2028年4月〜) | |
| 受給できる年金額の目安 | 年額 約112.5万円(150万円×4分の3) | 年額 約150万円(有期給付加算により100%相当) |
| 受給できる期間 | 条件を満たせば一生涯 | 5年間(その後は打ち切り) |
| 5年間の受給総額の目安 | 約562.5万円 | 約750万円 |
| 5年経過後 | そのまま継続受給 | 死亡時分割で増えた自分自身の老齢厚生年金へ移行(65歳から) |
📌 読み解き方 5年間だけを見ると受給額はむしろ増えますが、6年目以降の収入がゼロになる点が最大の変化です。5年間で得られる約750万円を「その後の生活の立て直し原資」として計画的に使う視点が欠かせません。
事例2:個人事業主(45歳)が死亡、子2人(10歳・7歳)がいる配偶者のケース
子がいる家庭は、遺族厚生年金の有期化の対象外です。個人事業主なので厚生年金はもともとなく、遺族基礎年金のみが支給対象になります。
| 受給できる年金の目安(令和8年度水準) | |
| 基礎額 | 年額 847,300円 |
| 子の加算(2人分) | 年額 487,600円(243,800円×2人) |
| 合計の目安 | 年額 約133万円(末子が18歳になる年度末まで) |
📌 読み解き方 子がいる間は基礎年金がベースとして支給されますが、末子が18歳になる年度末を迎えると打ち切られます。個人事業主の場合はここに厚生年金の上乗せがないため、生命保険や共済制度での上乗せ準備がより重要になります。
[画像:2つの事例を並べたシミュレーション比較グラフ(棒グラフ)。横軸に「改正前」「改正後(5年間)」「6年目以降」を置き、縦軸に受給額の目安を示す。]
6. あなたは対象?影響を受ける人・受けない人 早見表
| 区分 | 詳細 |
| 影響を受ける可能性が高い人 | 2028年度末時点で40歳未満・子なしの女性(主に30代)/18歳年度末までの子がいない60歳未満の男性 |
| 影響を受けない人① | すでに遺族厚生年金を受給している人(経過措置により継続) |
| 影響を受けない人② | 60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する人 |
| 影響を受けない人③ | 18歳になる年度末までの子がいる人 |
| 影響を受けない人④ | 2028年度末時点で40歳以上の女性 |
厚生労働省の推計では、新たに有期給付の対象となる女性は年間約250人、男性は年間約1万6,000人と見込まれており、特に「子のいない男性」への影響が大きいことがわかります。経営者・役員には男性も多いため、他人事とせず自分ごととして確認しておく必要があります。
7. 経営者が「今」からできる3つの備え
STEP 1
自分の保障を「見える化」する
自分が国民年金だけなのか、厚生年金にも加入しているのか、配偶者に子がいるかどうかで、遺族年金の扱いはまったく異なります。まずはねんきん定期便や日本年金機構の「ねんきんネット」で、自分の加入状況と将来の見込み額を確認しましょう。
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STEP 2
生命保険・法人保険で「5年後・6年目以降」を埋める
遺族厚生年金が5年間で終わるなら、その後の生活費・教育費・住宅ローンなどを、生命保険や法人の死亡退職金規程、小規模企業共済などでカバーできるよう設計し直すことが重要です。特に子どもがいない経営者夫婦は、優先的に見直すべきポイントです。
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STEP 3
専門家に相談し、定期的に見直す
遺族年金の制度は複雑で、家族構成や年齢、法人か個人事業か等によって受け取れる内容が大きく変わります。一度の見直しで終わりにせず、事業や家族構成の変化に合わせて、税理士や社会保険労務士など専門家と定期的に確認する体制を作っておくと安心です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 制度はいつから変わりますか?すでに受け取っている遺族年金が急に減らされることはありますか?
A. 新しいルールが適用されるのは2028年4月からで、それより前に遺族厚生年金の受給権が発生している人(すでに受給している人を含む)には、経過措置により従来どおりの内容が続きます。突然、今の受給額が引き下げられることはありません。
Q2. 個人事業主でも今回の改正に関係がありますか?
A. 個人事業主自身は原則として国民年金のみの加入のため、遺族厚生年金の有期化そのものの直接的な影響は限定的です。ただし、遺族基礎年金の子の加算額引き上げなど一部の変更は関わってきます。また、事業のために配偶者を役員として厚生年金に加入させている場合などは、配偶者側が改正の対象になる可能性があるため、家族の年金加入状況を個別に確認することが大切です。
Q3. 5年間の有期給付が終わったら、その後はどうなりますか?
A. 有期給付の期間が終了すると遺族厚生年金の支給自体は終了しますが、死亡時分割制度により増額された、ご自身の老齢厚生年金を65歳から受け取ることになります。あわせて、公的年金だけに頼らず、生命保険等で「空白期間」を補う準備をしておくことが推奨されます。
Q4. 中高齢寡婦加算は、いつから受け取れなくなりますか?
A. 2028年4月以降、法改正から25年という長期間をかけて段階的に減額・廃止される予定であり、ある年を境に一気になくなるわけではありません。対象になる方でも、当面は大きな影響を受けにくい設計になっています。
Q5. 制度が複雑でよくわかりません。誰に相談すればよいですか?
A. 遺族年金は、公的年金の知識に加えて、生命保険・退職金制度・事業承継といった経営全体の視点を組み合わせて考える必要がある分野です。税理士や社会保険労務士など、税務と社会保険の両方に詳しい専門家に相談することで、ご自身の状況に合った具体的な対策を整理できます。
まとめ:制度の変化を「知らなかった」では済まされない時代へ
- 2028年4月から、遺族厚生年金は一定の条件下で「原則5年間の有期給付」に変わります。
- 5年間の受給額は「有期給付加算」により手厚くなり、あわせて「死亡時分割制度」で将来の老齢厚生年金も増える設計です。
- 子どもがいる家庭や、すでに受給している方は今回の見直しの対象外です。
- 個人事業主はもともと遺族厚生年金の対象外のため、生命保険や共済での備えがより重要になります。
- 法人経営者・役員、特に子どもがいない世帯は影響が大きいため、早めの現状把握と見直しが欠かせません。
遺族年金は、家族構成や年齢、事業形態によって受け取れる金額も期間も大きく変わる、非常に個別性の高い制度です。「自分の場合は結局どうなるのか」「今の生命保険や退職金の準備で十分なのか」は、実際の年金加入状況や事業の状況を踏まえて、一つひとつ確認していく必要があります。個別具体的なケースはご自身での判断が難しい部分も多いため、制度改正を踏まえた保障の見直しや事業承継対策も含め、当事務所へお気軽にご相談ください。経営者・個人事業主の皆さまが安心して事業に専念できるよう、専門的な立場からサポートいたします。
