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税務調査の連絡が来ても慌てない!

2026-09-23

秋に集中する税務調査の流れと、追徴課税を最小限に抑える経営者の対策
「税務署の者ですが、来月、御社の税務調査に伺いたいのですが…」。ある日突然かかってくるこの1本の電話で、頭が真っ白になる経営者の方は少なくありません。「何か悪いことをしたのだろうか」「会社に多額の税金を請求されたらどうしよう」――そう不安になるのは、ごく自然なことです。
実は、税務調査は毎年9月〜11月に最も多く行われます。つまり、今まさに「調査の季節」の真っただ中です。この記事では、税務調査の仕組みと当日までの流れ、調査官が必ず見るポイント、そして追徴課税を最小限に抑えるために今日からできる対策を、専門用語をできるだけ使わずに解説します。
先に結論をお伝えします。税務調査は「正しく準備すれば怖くない手続き」です。そして、追徴課税(あとから追加で払う税金)を減らす最大の鍵は、調査の連絡が来る前に自社の申告を点検し、誤りがあれば自分から直しておくことです。
【結論】この記事のポイント
①税務調査は秋(9月〜11月)がピーク。国税の1年(事務年度)が7月に始まり、夏の人事異動が落ち着いた後に調査が本格化するためです。
②中小企業の調査は「事前の電話連絡 → 会社での調査1〜2日 → 結果の説明」が基本の流れ。選ばれた=不正を疑われている、ではありません。
③追徴課税を抑える鍵は「日頃の帳簿と証拠の整備」と「連絡前の自主点検」。調査の連絡前に自分から修正すれば、ペナルティの税金(過少申告加算税)はかかりません。

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税務署から会社へ電話が入り、調査官が来社して帳簿を確認する一連の流れをやさしいタッチで描いたイラスト
キャプション:税務調査は「申告内容の答え合わせ」。流れを知っておけば落ち着いて対応できます

  1. 税務調査とは?まずは仕組みを正しく知ろう
    結論から言うと、税務調査とは「申告書の答え合わせ」です。怖いイメージが先行しがちですが、目的はあくまで「申告された税金の額が正しいかどうか」を確かめることにあります。
    税務調査とは、税務署や国税局の職員が、会社や個人が提出した申告書の内容が正しいかを、帳簿・領収書・契約書などの証拠と照らし合わせて確認する手続きのことです。
    身近な例でたとえると、お子さんがお小遣い帳をつけていて、親が「今月のお菓子代、レシートはある?」と確認するようなものです。帳簿(お小遣い帳)と証拠(レシート)がきちんとそろっていれば、何も困ることはありません。
    任意調査と強制調査の違い
    税務調査には大きく分けて2種類あり、中小企業が受ける調査のほとんどは「任意調査」です。映画やドラマで見る段ボールを運び出す場面は、ごく一部の悪質なケースに限られます。
    項目 任意調査 強制調査(査察)
    担当 税務署・国税局の調査部門 国税局査察部(いわゆるマルサ)
    対象 一般の会社・個人事業主 多額で悪質な脱税が疑われる場合
    事前の連絡 原則あり(電話で日程調整) なし(裁判所の令状に基づき突然実施)
    拒否できるか 「任意」でも正当な理由なく拒否すると罰則の対象 拒否できない
    主な結果 修正申告・追徴課税 追徴課税に加え、刑事告発の可能性

なぜ秋(9月〜11月)に調査が多いのか
結論として、国税の組織の「1年のサイクル」が理由です。国税の事務年度は7月1日から翌年6月30日までで、7月に大規模な人事異動があります。新しい体制が整った8月下旬から調査が本格化し、9月〜11月が最も多い時期になります。反対に、年末や確定申告の時期(2月〜3月)は調査が少なくなる傾向があります。
どんな会社が調査に選ばれやすいのか
調査先は、申告書のデータ分析などをもとに選ばれます。近年は税務当局もデータ分析やAIを活用しており、次のような「数字の動きが目立つ会社」は選ばれやすくなります。
● 売上や利益が急に大きく増えた、または利益率が前年から大きく変動した
● 現金での売上が多い業種(飲食業、小売業、美容業など)
● 前回の調査から相当の年数(目安として3〜5年以上)が空いている
● 外注費・交際費・役員への支払いなどが同業他社と比べて突出している
● 消費税の還付申告をしている、または申告期限を過ぎて申告した
税理士の実務視点
国税の調査現場を知る立場から申し上げると、調査先に選ばれることは「不正を疑われている」という意味ではありません。定期的な確認として、きちんと申告している会社にも調査は来ます。
大切なのは、調査官に「この会社はきちんと管理されている」と感じてもらうことです。初日の午前中に会社の概要や社長のお話を伺う中で、調査官は会社全体の管理レベルを見ています。帳簿や書類がすぐに出てくる会社は、それだけで調査がスムーズに進みます。

  1. 税務調査の流れ|連絡から終了までの5ステップ
    結論として、中小企業の一般的な税務調査は、次の5つのステップで進みます。事前の電話から結果の説明まで、早ければ1か月程度、長いと数か月かかります。
    STEP
    1 事前通知(電話連絡)
    税務署から会社(または顧問税理士)へ電話が入ります。調査の日時・場所・目的・対象となる税金の種類・対象期間などが伝えられます。顧問税理士がいて代理の届出をしていれば、税理士に連絡が入るのが一般的です。
    ▼
    STEP
    2 日程調整と事前準備
    業務の都合などやむを得ない理由があれば、日程の変更を相談できます。この間に過去3年分程度の帳簿・請求書・契約書・通帳などを整理し、申告内容を自主点検します。
    ▼
    STEP
    3 実地調査(会社での調査)
    中小企業では1〜2日程度が一般的です。初日の午前は会社の事業内容や社長の経歴などのヒアリング、午後からは帳簿や証拠書類のチェックが中心です。
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    STEP
    4 追加の確認
    調査官が署に持ち帰って検討し、追加の資料提出や質問への回答を求められることがあります。取引先へ確認(反面調査)が行われることもあります。
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    STEP
    5 結果の説明と手続き
    誤りがあれば内容の説明を受け、修正申告をして不足分の税金を納めます。誤りがなければ「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」が届き、調査は終了します。

事前通知で伝えられる主な内容
事前通知とは、調査を始める前に税務署が納税者に調査の予定を知らせる手続きのことで、法律で伝える項目が決められています。
● 調査を始める日時と場所
● 調査の目的と、対象となる税金の種類(法人税・消費税・源泉所得税など)
● 調査の対象となる期間
● 調査の対象となる帳簿や書類
ただし、現金商売などで事前に知らせると正確な確認ができないと判断された場合は、連絡なしで調査官が来る「無予告調査」が行われることもあります。
当日に見られるもの・準備しておくもの
確認される項目 調査官が見ているポイント 準備しておくもの
売上 計上もれ・計上時期のずれがないか 請求書控え、納品書、通帳、レジデータ
経費 事業に関係のない支出が混ざっていないか 領収書、契約書、クレジット明細
人件費 実態のない給与や家族への過大な給与がないか 賃金台帳、出勤簿、源泉徴収簿
在庫 期末の在庫が正しく計上されているか 棚卸表、仕入伝票
電子データ メールやネットで受け取った請求書等を保存しているか 電子取引データ(保存ルールに沿ったもの)

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事前通知から結果の説明までの5ステップを時系列で並べたフローチャート図
キャプション:税務調査は「連絡→準備→調査→追加確認→結果説明」の5段階で進みます

  1. 追徴課税の仕組み|本税・加算税・延滞税の3つを理解する
    結論として、税務調査で誤りが見つかると、「本来払うべきだった税金(本税)」に加えて「ペナルティの税金(加算税)」と「遅れた分の利息(延滞税)」がかかります。
    追徴課税とは、申告した税金が本来より少なかった場合に、不足分の税金とあわせて、罰金的な税金や利息をあとから追加で納めることです。図書館で借りた本の返却が遅れると延滞料がかかるのと似ていて、「遅れた期間」と「遅れた理由(うっかりか、わざとか)」によって負担が変わります。
    加算税の種類と税率
    加算税の種類 かかる場面 税率(原則)
    過少申告加算税 申告した税額が少なかった 増えた税額の10%(一定額を超える部分は15%)
    無申告加算税 期限までに申告しなかった 15%(50万円超の部分は20%、300万円超の部分は30%)
    不納付加算税 源泉所得税を期限までに納めなかった 10%
    重加算税 売上を隠す・書類を偽造するなど「仮装・隠ぺい」があった 35%(無申告の場合は40%)

とくに注意すべきなのが重加算税です。重加算税とは、帳簿の改ざんや売上の隠ぺいなど、意図的に事実をごまかした場合に課される最も重い加算税のことで、税率は35%〜40%にもなります。さらに、仮装・隠ぺいがあると判断されると、さかのぼって調べられる期間が最長7年に延びます。
「連絡前の自主修正」が最強の対策になる理由
結論として、同じ誤りでも「いつ直すか」で過少申告加算税の負担が大きく変わります。調査の事前通知が来る前に自分から修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません。
修正するタイミング 過少申告加算税 ひとことで言うと
事前通知の前に自主的に修正 0%(かからない) 最も有利
事前通知の後〜調査で指摘される前 5%(一定額を超える部分は10%) まだ軽く済む
調査で指摘された後 10%(一定額を超える部分は15%) 通常のペナルティ

なお、延滞税とは、本来の納期限から実際に納めた日までの日数に応じてかかる利息のような税金のことです。税率は市場金利をもとに毎年見直され、納期限から2か月を過ぎると大きく上がる仕組みになっています。誤りに気づいたら、1日でも早く直して納めることが延滞税の節約にもつながります。
税理士の実務視点
実務では「うっかりミス」と「意図的なごまかし」の境目が大きな争点になります。たとえば売上の計上時期がずれていたとしても、請求書や納品書の流れが説明できれば、単純な誤りとして扱われるのが通常です。
一方、書類を書き換えたり、「なかったこと」にしようとしたりすると、一気に重加算税の対象になります。調査で指摘を受けたときに最も大切なのは、事実をありのまま説明し、その場で安易に認めたり否定したりせず、専門家と一緒に整理して回答することです。

  1. 調査で指摘されやすい5つのポイント(実務上の罠)
    結論として、中小企業の税務調査で指摘が多いのは、次の5つの分野です。どれも「知らなかった」では済まされないため、今のうちに自社をチェックしておきましょう。
    ① 売上の計上時期のずれ(期ズレ)
    期ズレとは、本来は今期の売上として計上すべき取引を、翌期の売上にしてしまうことです。とくに決算月の月末に納品・完了した取引の請求書発行が翌月になるケースで起こりやすく、調査官が最初に確認するポイントの一つです。
    ② 社長やご家族の私的な支出
    家族との食事代を交際費にする、プライベートで使う車の費用を会社で払う、といった支出は代表的な指摘項目です。法人の場合、これが社長個人への支出と判断されると「役員賞与」として経費にならないうえ、社長個人への給与として源泉所得税までかかるという二重の負担になりかねません。
    ③ 外注費と給与の区別
    毎日決まった時間に会社の指示で働いている人への支払いを「外注費」にしていると、実態は給与だと判断されることがあります。その場合、源泉所得税の徴収もれに加えて、消費税の計算(外注費は仕入税額控除の対象、給与は対象外)にも影響が出ます。社会保険の加入義務にも関わるため、税務と労務の両面から確認が必要な論点です。
    ④ 期末の在庫(棚卸)の計上もれ
    在庫が少なく計上されていると、その分だけ利益が少なく見えてしまいます。倉庫以外の場所(取引先や車両内など)にある在庫や、預けている商品の計上もれがよく見られます。
    ⑤ 電子取引データの保存
    メールで受け取ったPDFの請求書や、ネット通販の領収書などの電子データは、原則として電子データのまま、決められたルールに沿って保存する必要があります(電子帳簿保存法)。紙に印刷しただけで元データを消している状態は保存要件を満たさないため、調査の際に確認されることが増えています。
  2. 税理士の立会い・書面添付制度のメリットと注意点
    結論として、税務調査は税理士が立ち会うことで、精神的な負担も、追徴課税のリスクも大きく下げることができます。ただし、「調査が決まってから慌てて依頼する」よりも、日頃から会社の中身を知っている税理士に任せるほうが効果は格段に高くなります。
    比較項目 社長が自分で対応 税理士が立ち会う
    調査官とのやりとり 専門用語での質問に一人で回答 税理士が論点を整理し、必要に応じて説明・反論
    指摘への対応 言われるがまま修正に応じがち 法律・通達に照らして妥当性を確認
    精神的な負担 大きい(本業にも支障) 小さい(本業に集中できる)
    費用 かからない 立会い報酬がかかる(顧問契約なら軽減されることが多い)
    事前の準備 何を用意すべきか分からない 論点を予測して事前に自主点検できる

また、書面添付制度という仕組みも有効です。書面添付制度とは、税理士が申告書を作成する際に「どのような資料を確認し、どう判断したか」を記した書面を申告書に添付する制度のことです。この書面がある場合、税務署は調査の連絡をする前に税理士から意見を聞く機会を設けることになっており、その段階で疑問が解消すれば、調査そのものが行われずに済むこともあります。
税理士の実務視点
税務調査で差がつくのは「当日の話し方」よりも「日頃の積み重ね」です。毎月会社を訪問して帳簿を確認する巡回監査を続けている会社は、そもそも誤りが少なく、調査官からの質問にもすぐに根拠を示せます。
さらに、外注費と給与の区別のように税務と労務がまたがる論点は、税理士と社会保険労務士が連携して確認することで、調査後の社会保険の遡及加入といった「二次被害」まで防ぐことができます。

  1. シミュレーション|「いつ直すか」で追徴額はここまで変わる
    結論として、同じ誤りでも、自主修正と重加算税のケースでは、1年分だけで追加負担に40万円以上の差が生まれます。具体的な数字で見てみましょう。
    前提条件
    項目 内容
    会社の概要 年商1億円の小売業(法人・3月決算)
    誤りの内容① 決算月末に納品した売上300万円を翌期に計上(期ズレ)
    誤りの内容② 社長の家族との私的な飲食代100万円を交際費として計上
    増える所得 300万円+100万円=400万円(1期分)
    税率の仮定 法人税・地方法人税・住民税・事業税をあわせた実効税率を約30%と仮定
    その他の仮定 当初申告の税額は50万円を上回っており、加算税の加重部分(15%等)は生じないものとする

ケース別の追加負担(1期分)
ケース 本税 加算税 合計(延滞税を除く)
A:事前通知の前に自主修正 120万円 0円(0%) 120万円
B:調査で指摘されて修正 120万円 12万円(10%) 132万円
C:仮装・隠ぺいと判断された 120万円 42万円(35%) 162万円

本税は「400万円×約30%=120万円」で、どのケースでも同じです。違いを生むのは加算税で、ケースAとケースCの差は42万円になります。ここに延滞税(本ケースで納付が1年遅れた場合、概算で10万円前後)が加わります。
さらに見落とせないのが、「同じ誤りが毎期続いていた場合」です。仮に3期分とも同じ指摘を受けると、ケースBでも追加負担は約396万円(132万円×3期)に膨らみます。ケースCで7年分さかのぼられた場合は、会社の資金繰りに深刻な影響を与える金額になります。
加えて、誤り②の家族との飲食代は社長への「役員賞与」と判断されると、会社側で経費にならないだけでなく、社長個人への給与として源泉所得税の追加納付(不納付加算税を含む)も発生します。「たかが100万円」が、会社と社長個人の両方に跳ね返ってくる点に注意が必要です。
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ケースA・B・Cの追加負担額を棒グラフで比較した図解(本税と加算税を色分け)
キャプション:同じ400万円の誤りでも、直すタイミングと理由で負担は最大42万円変わります

  1. よくある質問(FAQ)
    Q. 税務調査の日程は変更してもらえますか?
    A. はい、変更できます。繁忙期や社長の出張、体調不良など合理的な理由があれば、事前通知の段階で日程の変更を相談できます。ただし、理由なく何度も延期すると印象がよくないため、早めに候補日を伝えるのが実務上のポイントです。
    Q. 税務調査は何年分さかのぼって調べられますか?
    A. 原則として過去3年分が調べられることが多く、誤りが見つかれば最長5年分までさかのぼります。売上の隠ぺいなど仮装・隠ぺいがあった場合は、最長7年分までさかのぼることができます。
    Q. 赤字の会社にも税務調査は来ますか?
    A. はい、来ます。赤字でも、繰越欠損金(翌年以降の利益と相殺できる過去の赤字)の金額が正しいか、源泉所得税や消費税が正しく納められているかは確認の対象です。赤字だから安心、ということはありません。
    Q. 顧問税理士がいないと、税務調査で不利になりますか?
    A. 法律上の扱いが変わるわけではありませんが、実務上は大きな差が出ます。税理士がいれば、調査官の質問の意図をくみ取って根拠を示しながら説明でき、法律に照らして妥当でない指摘には意見を伝えることができます。
    Q. 調査で指摘されたことは、その場で認めなければいけませんか?
    A. いいえ、その場で認める必要はありません。「確認して後日回答します」と伝えて問題ありません。安易にその場で認めると、事実と異なる内容が記録に残るおそれがあるため、税理士と事実関係を整理してから回答するのが最善です。
  2. まとめ|税務調査は「日頃の準備」と「早めの相談」で怖くなくなる
    この記事の要点を3行でまとめます。
    ● 税務調査は9月〜11月がピーク。任意調査は事前通知から結果説明までの流れが決まっており、正しく準備すれば怖くありません。
    ● 追徴課税は本税・加算税・延滞税の3つ。事前通知の前に自主修正すれば過少申告加算税はかからず、仮装・隠ぺいと判断されると最大40%の重加算税が課されます。
    ● 期ズレ・私的支出・外注費・在庫・電子データの5点を今すぐ点検。日頃から帳簿と証拠を整え、税理士と連携しておくことが最大の防御策です。
    ご相談はお気軽に
    税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
    当事務所には、国税の調査の現場を知り尽くした国税OBの税理士が在籍しており、調査の事前準備から当日の立会い、指摘への対応まで一貫してサポートします。税理士と社会保険労務士が連携しているため、外注費と給与の区別のような「税務と労務がまたがる問題」もまとめて解決できます。
    「税務署から連絡が来てしまった」「うちの帳簿で調査に耐えられるか不安」という方は、調査の連絡が来る前の今こそが、対策の最適なタイミングです。オンラインでのご相談にも対応していますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

M&Aで会社を譲渡すると税金はいくら?

2026-09-22

手取りを最大化する退職金活用の節税策を税理士が解説

「会社を譲渡することは決まったが、結局いくら手元に残るのか分からない」——中小企業のM&Aをご検討中の経営者様から、最も多くいただくご相談がこの手取り額に関する不安です。譲渡価格の金額だけを見て安心していると、税金の仕組みを知らなかったばかりに数百万円単位で損をしてしまうケースも少なくありません。

本記事を読むことで、株式譲渡・事業譲渡それぞれにかかる税金の全体像、そして手取りを合法的に最大化するための「退職金活用」という実務上極めて重要な節税策まで、具体的な数字とともに理解いただけます。

◆ 結論 株式譲渡は譲渡益に対して申告分離課税20.315%が原則、事業譲渡は法人税等(実効税率約30〜34%)と消費税が別途かかる、という構造の違いをまず正確に理解することが出発点です。 その上で、譲渡対価の一部を「退職金」として受け取る設計にすることで、退職所得控除・1/2課税・分離課税という3つの優遇を活用し、手取り額を合法的に増やせるケースが数多くあります。 ただし退職金には「過大退職金」と税務署に否認されるリスクがあるため、功績倍率法に基づく算定と役員退職慰労金規程の事前整備が不可欠です。
  • この記事で分かること
  • 株式譲渡と事業譲渡、それぞれにかかる税金の種類と税率の違い
  • 事業譲渡で見落とされがちな消費税の課税対象資産
  • 退職金を活用した手取り最大化の仕組みと注意すべき落とし穴
  • 譲渡価格1億円ケースで比較する、退職金活用の有無による手取り差額シミュレーション

 1. M&Aにかかる税金の全体像|スキームで課税の仕組みがまったく違う

結論から申し上げると、M&Aで発生する税金は「株式譲渡」か「事業譲渡」かというスキームの違いによって、課税される「人」も「税目」もまったく異なります。この全体像を理解しないまま交渉を進めると、税引き後の手取りを見誤ることになります。

(1)株式譲渡とは|個人の譲渡所得に対する分離課税

株式譲渡とは、会社のオーナーである経営者個人が保有する自社株式を買い手に売却し、会社の経営権を丸ごと引き継いでもらうM&A手法のことです。中小企業のM&Aで最も多く用いられる方式で、売り手が受け取る譲渡代金と株式の取得費・譲渡費用との差額(譲渡益)に対して、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて一律20.315%の税率で課税されます(申告分離課税)。

重要なポイントは、この20.315%が給与所得や事業所得のような累進課税ではなく、金額の大小にかかわらず一定率であるという点です。譲渡益が大きくなるほど、他の所得区分と比較して税負担割合を抑えやすい仕組みだと言えます。

(2)事業譲渡とは|法人税等と消費税がダブルでかかる

事業譲渡とは、会社という法人格(箱)はそのまま残し、特定の事業部門や資産・従業員・取引先との契約関係などを個別に選んで他社へ譲渡する手法のことです。不採算部門を切り離したい場合や、買い手が特定の事業だけを求めている場合に選ばれます。

事業譲渡で譲渡益を得るのは経営者個人ではなく「法人」です。そのため譲渡益は法人の他の利益と合算されて法人税・地方法人税・法人住民税・事業税が課税され、実効税率はおおむね30〜34%程度になります。さらに、その譲渡代金を会社に残したままにせず経営者個人が受け取ろうとすると、役員報酬・配当・退職金といった形で会社から個人へ資金を移す際に、もう一段階の課税が発生します。これがいわゆる「二重課税」構造です。

🔶 税理士の実務視点 事業譲渡は「会社に法人税がかかり、さらに個人が受け取る際にも課税される」という二段階構造になりやすいため、単純な税率の比較だけで株式譲渡より不利と決めつけるのは早計です。繰越欠損金の活用や、譲渡後に会社を清算するか存続させるかによっても最終的な手取りは変わります。スキーム選定は必ず個別のシミュレーションを行った上で判断してください。

(3)事業譲渡で見落とされがちな消費税の課税対象資産

事業譲渡のもう一つの特徴は、譲渡する資産の種類によって消費税がかかる点です。土地や金銭債権(売掛金など)は非課税ですが、建物・機械設備・什器備品・在庫(棚卸資産)、そして「のれん(営業権)」は課税資産に該当し、消費税10%の対象になります。契約書上で資産ごとの対価配分を明確にしていないと、後から想定外の消費税負担が発覚することもあるため、実務上の注意点として押さえておく必要があります。

🖼 [画像指示:株式譲渡と事業譲渡で課税される「人」と「税目」が異なることを示す対比イラスト(個人アイコンに20.315%、法人アイコンに法人税等30〜34%+消費税10%を矢印で紐づける構図)] キャプション:スキームが変われば、課税される対象も税率もこれだけ変わります
比較項目株式譲渡事業譲渡
課税される主体経営者個人譲渡した法人
主な税目譲渡所得税(申告分離課税)法人税・地方法人税・法人住民税・事業税
税率の目安一律20.315%実効税率 約30〜34%
消費税原則かからない(有価証券は非課税)建物・設備・のれん等は課税対象(10%)
個人が資金を受け取るまで譲渡と同時に個人が受領(一段階)法人受領後、配当・退職金等で個人へ(二段階)
繰越欠損金の引継ぎ会社ごと引き継がれる(買い手に有利)引き継がれない(会社に残る)

 2. 手取りを最大化する実務的な節税手法|退職金活用のロジック

結論として、M&Aで手取りを合法的に最大化するための最も効果的な実務手法は「役員退職慰労金(退職金)」の活用です。退職所得には他の所得区分にはない3つの強力な税制優遇があるためです。

(1)退職所得課税が有利な3つの理由

退職所得とは、退職によって勤務先から一時金として受け取る所得のことで、長年の勤続に対する慰労的な性格から、税制上きわめて手厚い優遇が設けられています。

  • ① 退職所得控除:勤続年数に応じた大きな非課税枠(勤続20年までは1年あたり40万円、20年超の部分は1年あたり70万円)が収入から差し引かれます
  • ② 1/2課税:控除後の金額に、さらに2分の1を乗じた金額のみが課税対象になります(役員等で勤続年数5年以下の一部は対象外)
  • ③ 分離課税:他の所得(給与所得・事業所得等)と合算されず、退職所得だけで独立して税額を計算します

この3つが組み合わさることで、同じ金額を「譲渡対価」としてそのまま受け取るよりも、適正範囲内で「退職金」として受け取った方が、結果として手取りが増えるケースが数多く生まれます。

(2)功績倍率法による適正額の算定と「過大退職金」のリスク

功績倍率法とは、退職金の適正額を「最終月額役員報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率」という計算式で算定する、税務上最も一般的で合理性が認められやすい算定方法のことです。代表取締役の場合、功績倍率はおおむね3.0倍程度が実務上の目安とされています。

この基準から大きく外れた過大な退職金を支給すると、税務調査において「不相当に高額な部分の金額」が法人の損金として認められず、さらに受け取った個人側でも退職所得ではなく給与所得(賞与)として扱われ、税制優遇が受けられなくなるという二重の不利益を被ります。

🔶 税理士の実務視点 M&Aのクロージング直前になって急いで退職金規程を作成したり、金額だけを積み増したりするケースを実務上よく見かけますが、これは税務調査で最も狙われやすいポイントの一つです。功績倍率法による算定根拠を書面化し、類似法人の水準とも乖離がないかを事前に確認したうえで、株主総会決議と役員退職慰労金規程の整備を、譲渡契約締結前の段階から並行して進めることを強く推奨します。

(3)役員退職慰労金規程の整備というプロセス

役員退職慰労金規程とは、退職金の算定方法・支給基準・支給時期などをあらかじめ会社の内部規程として定めておく文書のことです。規程が存在し、かつ株主総会でその支給が正式に決議されていることが、退職金として損金算入・退職所得課税を受けるための前提条件になります。M&A実行後に慌てて整備するのではなく、譲渡交渉と並行して準備を進めることが実務上のポイントです。

(4)consulting fee(顧問料・業務委託料)活用の是非

譲渡後も一定期間、売り手経営者が引き継ぎのために顧問やアドバイザーとして会社に関与し、その対価を「業務委託料(コンサルティングフィー)」として受け取る設計も実務上見られます。しかし、実態の伴わない名目上の顧問料は、税務上「譲渡対価の分割払い」とみなされて否認されるリスクが高い手法です。活用する場合は、実際の業務提供の実態(稼働時間、成果物、契約書上の役務内容)を伴わせ、対価水準も市場相場から乖離しないよう設計する必要があります。

🖼 [画像指示:手取り最大化を検討するための5ステップフロー図(①スキーム選定→②譲渡対価の内訳設計→③退職金規程の整備→④デューデリジェンスでの税務リスク洗い出し→⑤クロージング・申告)] キャプション:手取りは「決まった後」ではなく「設計段階」でほぼ決まります

【STEP 1】 スキーム選定
 株式譲渡か事業譲渡か、税負担のシミュレーションを踏まえて選択します。

【STEP 2】 譲渡対価の内訳設計
 総額のうち、株式譲渡対価と退職金の配分をあらかじめ検討します。

【STEP 3】 退職金規程の整備
 功績倍率法に基づく算定根拠を作成し、株主総会決議を経て規程化します。

【STEP 4】 デューデリジェンスでの税務確認
 買い手側の税務DDでも整合性が問われるため、事前に資料を揃えておきます。

【STEP 5】 クロージング・申告
 契約書の記載と実際の資金移動、確定申告の内容を一致させます。

 3. 具体的シミュレーション|譲渡価格1億円ケースで見る手取りの差

結論として、退職金を組み合わせた設計にすることで、同じ譲渡価格1億円でも手取り額に約280万円の差が生まれる、という試算例を見ていきましょう(勤続25年、最終役員報酬月額80万円、功績倍率3.0倍という前提です)。

パターンA:譲渡対価1億円をすべて株式譲渡で受け取る場合

取得費・譲渡費用の合計を1,000万円と仮定すると、譲渡益は9,000万円になります。これに20.315%を乗じると、税額は約1,828万円。手取り額は約8,172万円となります。

パターンB:株式譲渡8,000万円+退職金2,000万円に分けて受け取る場合

株式譲渡部分(8,000万円)にかかる取得費・譲渡費用を800万円と仮定すると、譲渡益は7,200万円、税額は約1,462万円、手取りは約6,538万円です。

退職金部分(2,000万円)は、勤続25年の退職所得控除が1,150万円(40万円×20年+70万円×5年)となり、課税対象額は差額1,150万円分に1/2を乗じた425万円。ここに所得税・復興特別所得税・住民税を合わせても税額は約86万円にとどまり、手取りは約1,914万円になります。

項目パターンA(株式譲渡のみ)パターンB(株式譲渡+退職金)
譲渡対価の内訳株式譲渡 1億円株式譲渡 8,000万円/退職金 2,000万円
株式譲渡分の税額約1,828万円約1,462万円
退職金分の税額―約86万円
合計税額約1,828万円約1,548万円
最終手取り額約8,172万円約8,452万円

同じ1億円の対価でも、退職金という受け取り方を組み合わせるだけで手取り額に約280万円の差が生まれる計算です。これはあくまで一例であり、勤続年数・役員報酬額・功績倍率、そして買い手側との交渉状況によって最適な配分は変わります。必ず個別のシミュレーションを行ってください。

 4. よくある質問(FAQ)

Q1. 株式譲渡の税率20.315%はどんな場合でも一律ですか?

A. はい。株式譲渡による譲渡所得は、上場株式・非上場株式を問わず申告分離課税で一律20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)です。給与所得のような累進課税ではないため、譲渡益の金額にかかわらず税率は変わりません。

Q2. 退職金を活用すれば必ず節税になりますか?

A. 適正な金額の範囲内であれば手取りが増えるケースが多いですが、功績倍率法などの基準から大きく外れた過大な退職金は、税務調査で損金不算入・給与課税と認定されるリスクがあります。事前の規程整備と算定根拠の準備が前提条件です。

Q3. 事業譲渡の消費税はどの資産にかかりますか?

A. 土地や売掛金などの金銭債権は非課税ですが、建物・機械設備・什器備品・のれん(営業権)・棚卸資産などは課税資産として消費税10%の対象になります。契約書での資産ごとの対価配分を明確にしておくことが重要です。

Q4. 会社分割や合併の場合も同じ税金がかかりますか?

A. 会社分割や合併が税制上の「適格組織再編」の要件を満たす場合は、譲渡益への課税が繰り延べられる特例が適用されることがあり、株式譲渡や事業譲渡とは大きく異なる仕組みになります。要件判定が非常に複雑なため、検討の初期段階から専門家への相談が不可欠です。

Q5. コンサルティングフィーとして対価を分割して受け取れば税負担は下がりますか?

A. 実態の伴わない名目上の顧問料は、税務上「譲渡対価の分割払い」とみなされ否認されるリスクが高い手法です。活用する場合は、実際の業務提供の実態を伴う契約設計と、市場相場から乖離しない適正な対価水準の設定が必要になります。

 5. まとめ|税務の判断は個々の状況によって異なります

  • 株式譲渡は個人に20.315%、事業譲渡は法人に約30〜34%+消費税がかかるなど、スキームによって課税の仕組みがまったく異なります
  • 退職所得控除・1/2課税・分離課税という3つの優遇を活用した「退職金活用」は、手取りを合法的に最大化する有力な手法です
  • ただし過大退職金と認定されるリスクがあるため、功績倍率法に基づく算定根拠と規程整備を、譲渡交渉と並行して事前に進めておく必要があります

税務の判断は、会社の規模・業績の推移・役員報酬の水準・譲渡スキームなど、個々の状況によって最適解が大きく異なります。自己判断のまま交渉を進めて後から思わぬ税負担が発覚し、損をしてしまう前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

年110万円までの贈与は贈与税ゼロ・申告不要は本当?

2026-09-21

知らないと損する正しい使い方

「子どもや孫にお金を渡してあげたいけれど、贈与税がかかるのが心配…」「110万円以内なら申告しなくていいと聞いたけれど、本当に大丈夫だろうか」——将来の相続や、お子さん・お孫さんの生活を思って生前贈与を考える経営者・資産家の方から、こうしたご相談を数多くいただきます。

結論からお伝えします。1人の方が1年間(1月1日〜12月31日)に受け取る贈与財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかからず、贈与税の申告も不要です。これは「暦年課税」という贈与税の計算方法に組み込まれた「基礎控除」の仕組みによるものです。

ただし、この非課税枠には見落としがちな落とし穴がいくつも存在します。「毎年110万円ずつ渡していたのに、税務調査で贈与そのものを否定されてしまった」「良かれと思って贈与したのに、かえって相続税が増えてしまった」という事例は決して珍しくありません。

この記事では、①110万円の非課税枠が使える正しい条件、②申告不要の範囲と注意点、③税務調査で否認されないための実務ポイント、④相続税を賢く減らすための具体的なシミュレーションまで、生前贈与を安全かつ効果的に活用するための知識を、税理士の実務視点も交えて解説します。

贈与税の「110万円の壁」とは?暦年課税の基本の仕組み

贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの計算方法があり、特に手続きをしなければ自動的に「暦年課税」が適用されます。暦年課税とは、1年間に個人が受け取った贈与財産の合計額から110万円の基礎控除を差し引き、残った金額に応じて贈与税を計算する仕組みのことです。

「もらう人」ごとに110万円。「あげる人」ごとではない

ここが最初のポイントです。110万円の非課税枠は、贈与を「受け取る人(受贈者)」1人につき年間110万円です。「あげる人(贈与者)」を基準にした枠ではありません。

例えば、祖父・祖母のそれぞれから孫が110万円ずつ、合計220万円を1年間で受け取った場合、非課税になるのは110万円までで、残りの110万円には贈与税がかかります。逆に、1人の親が子ども2人にそれぞれ110万円ずつ渡す場合は、子ども1人あたり110万円以内なので、どちらも非課税です。

🖼 贈与税の110万円非課税枠が「もらう人」単位であることを示す図解イラスト(祖父母2人から孫1人への贈与は合算され、親から子2人への贈与はそれぞれ別枠になることが一目でわかる図)/キャプション:110万円の非課税枠は「受け取る人」ごとに1年間で判定します

なぜ110万円なのか

贈与税の基礎控除額は相続税法によって定められており、2026年9月現在110万円です。相続税の課税を補完する目的で設けられている贈与税について、少額の贈与にまで課税の手間をかけないための制度趣旨によるものです。

「申告不要」の範囲を正しく理解する

1年間に受け取った贈与財産の合計額が110万円以下(基礎控除の範囲内)であれば、贈与税額はゼロとなり、税務署への贈与税申告書の提出義務もありません。

申告が必要になる主なケース

一方で、次のようなケースでは110万円以下であっても申告が必要になる、または別の制度に基づく申告が必要になりますので注意してください。

  • 相続時精算課税を選択している場合(毎年110万円の基礎控除はありますが、選択後は別ルールでの管理・申告が必要です)
  • 住宅取得等資金の贈与税の非課税特例など、他の非課税特例の適用を受ける場合(適用を受けるための申告が必要です)
  • その年に110万円を超える贈与を受けた場合(超えた部分だけでなく、贈与税の申告自体が必要になります)
💡 税理士の実務視点 「申告不要=税務署に何もしなくていい=記録も残さなくていい」ではありません。税務調査では、贈与が「いつ、いくら、誰から誰へ、どのような形で」行われたかが厳しく確認されます。申告不要だからこそ、後から贈与の事実を客観的に証明できる記録(贈与契約書、振込記録など)を残しておくことが、将来のトラブルを防ぐ最大のポイントです。

110万円を超えたらいくら税金がかかる?速算表で確認

110万円を超えた部分には、贈与税の速算表に基づいて10%〜55%の累進税率で贈与税が課税されます。贈与財産の種類(一般贈与財産か特例贈与財産か)によって税率が異なります。

一般贈与財産用(兄弟間・夫婦間・他人からの贈与など)

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%—
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

特例贈与財産用(直系尊属から18歳以上の子・孫への贈与)

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%—
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

特例贈与財産用は、祖父母や親(直系尊属)から18歳以上の子・孫への贈与に適用され、一般贈与財産用より税率が低く設定されています(2022年4月の成年年齢引下げにより「18歳以上」が適用対象です)。

実務で失敗しがちな3つの落とし穴

落とし穴① 定期贈与(連年贈与)とみなされるリスク

「毎年110万円ずつ、10年間で1,100万円を贈与する」と最初から約束していたとみなされると、初年度に1,100万円の贈与があったものとして課税される可能性があります。

対策としては、贈与のたびに贈与契約書を作成する、金額や時期をあえて毎年少し変える、贈与するたびに受贈者本人の意思確認を行う、といった対応で「その都度独立した贈与」であることを明確にすることが実務上重要です。

落とし穴② 名義預金とみなされるリスク

贈与を受けた(とされる)子や孫名義の口座であっても、実際の管理・支配を贈与者本人が続けている場合、税務上は贈与が成立しておらず、単なる「名義預金」として相続財産に含められてしまいます。

対策としては、口座の通帳・印鑑・キャッシュカードは受贈者本人が管理し、受贈者自身がその口座の存在と残高を認識していることが不可欠です。

🖼 名義預金と認められるNGパターンと、有効な贈与と認められるOKパターンを対比させる図解イラスト/キャプション:通帳・印鑑を贈与者が管理し続けていると「名義預金」とみなされ相続税の対象になります

落とし穴③ 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される(生前贈与加算)

相続や遺贈で財産を受け取る人が、亡くなった方(被相続人)から相続開始前7年以内に受けた暦年贈与は、贈与税が非課税だった110万円以下の部分も含めて、相続税の課税価格に加算されます。

2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から、この加算対象期間は従来の「相続開始前3年以内」から「相続開始前7年以内」へと段階的に延長されています。ただし延長された4年間(相続開始前4年目〜7年目)に受けた贈与については、合計100万円までは加算の対象から除外される経過措置が設けられています。

💡 税理士の実務視点 生前贈与による相続税対策は「早く始めるほど効果が大きい」制度です。7年以内加算のルールがある以上、贈与を始めるタイミングが遅くなるほど、非課税のはずだった110万円分まで相続財産に戻されてしまうリスクが高まります。特に高齢のご資産家の方ほど、対策の着手を先延ばしにしない判断が重要です。

非課税贈与を安全に実行する5ステップ

STEP1 贈与財産・贈与したい相手を決める(誰に、何を、いくら渡すか)

↓

STEP2 贈与契約書を作成する(贈与者・受贈者双方が署名・捺印する)

↓

STEP3 受贈者本人名義の口座へ、贈与者の口座から振込で贈与を実行する

↓

STEP4 受贈者本人が通帳・印鑑・キャッシュカードを自分で管理する

↓

STEP5 110万円を超える贈与を行った年は、翌年2月1日〜3月15日までに贈与税の申告・納税を行う

具体的シミュレーション:孫2人へ10年間の暦年贈与を行った場合

想定相続財産3億円、法定相続人は子2人の資産家Aさん(70歳)が、将来の相続税を見据えて、孫2人にそれぞれ年110万円ずつ、10年間にわたって暦年贈与を行うケースで試算します(相続税の実効税率を仮に40%と仮定)。

項目内容
贈与額孫2人にそれぞれ年110万円ずつ
贈与期間10年間
各年の贈与税額0円(毎年110万円以内のため非課税)
累計贈与額110万円 × 2人 × 10年 = 2,200万円
相続財産からの圧縮額2,200万円
想定相続税の実効税率40%(仮定)
相続税の軽減効果(概算)2,200万円 × 40% = 880万円

なお、孫は通常、法定相続人(遺産分割・相続の当事者)ではないため、遺言による遺贈や生命保険金の受取人になっているなどの事情がない限り、相続開始前7年以内の生前贈与加算の対象外となるケースが多く、対策の効果がそのまま残りやすいという特徴があります。一方、法定相続人である子への贈与は、亡くなる直前7年間の分については相続財産に戻される可能性がある点に留意が必要です。

🖼 10年間の暦年贈与による相続財産の圧縮効果を示す積み上げ棒グラフ風イラスト(毎年110万円ずつ積み上がり、10年で2,200万円の相続財産圧縮につながるイメージ)/キャプション:孫への贈与は生前贈与加算の対象外となるケースが多く、対策の効果が出やすい方法です

よくある質問(FAQ)

Q1. 110万円以内の贈与でも、税務署にバレますか?

銀行口座の入出金や不動産の名義変更などの情報は、税務署が把握できる仕組みが整っています。金額の大小にかかわらず贈与の事実そのものを隠す必要はなく、贈与契約書や振込記録などの証拠を残しておくことが最も確実な対策です。

Q2. 現金を手渡しで110万円贈与すれば記録が残らないので安心ですか?

記録が残らないことは、かえって将来「贈与が実際にあったのか」を証明できないリスクにつながります。振込によって記録を残す方法をおすすめします。

Q3. 毎年110万円を10年間贈与する約束を最初にしても大丈夫ですか?

最初にまとめて約束(定期贈与)をしたとみなされると、初年度に総額へ課税される可能性があります。贈与のたびに個別の意思確認と契約書の作成を行うことが重要です。

Q4. 孫への贈与は、子への贈与より相続税対策として有利ですか?

孫は原則として法定相続人ではないため、相続開始前7年以内の生前贈与加算の対象外となるケースが多く、相続税対策としての効果が出やすい傾向にあります。ただし孫が遺言により財産を受け取る場合などは加算対象となるため、個別の判断が必要です。

Q5. 110万円の非課税枠と相続時精算課税は、どちらを選んだほうがいいですか?

どちらが有利かは、財産の種類・金額、贈与したい時期、将来の値上がり見込みなどによって異なります。一般的に、将来値上がりが見込まれる財産の早期移転には相続時精算課税、コツコツとした資産移転には暦年課税の110万円非課税枠が向いていますが、必ず個別の試算を行った上で判断することをおすすめします。

まとめ & 問い合わせへの誘導

  • 贈与税は1年間に受け取る人ごとに110万円まで非課税で、その範囲内なら申告も不要です
  • ただし「定期贈与」「名義預金」とみなされないための証拠づくりと、相続開始前7年以内の生前贈与加算の理解が不可欠です
  • 生前贈与による相続税対策は早く始めるほど効果が大きく、贈与の相手・方法次第で結果が大きく変わります

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

ふるさと納税、ポイントがもらえなくなったのは本当?

2026-09-20

失敗しないための上限額シミュレーションと申告方法

今年もふるさと納税をやらなきゃ、と思いつつ、いくらまで寄付していいのか分からず後回しにしていませんか。しかも「ポイントがもらえなくなった」という話を聞いて、以前ほどお得ではなくなったのではと感じている方も多いはずです。

この記事を読めば、自分の年収でいくらまでふるさと納税ができるのかという上限額の考え方、2025年10月の制度改正で具体的に何が変わったのか、そしてワンストップ特例と確定申告のどちらを選ぶべきかが、迷わず判断できるようになります。

結論から申し上げます。ふるさと納税は、自己負担2,000円で全国の返礼品を受け取りながら、応援したい自治体に納税先を実質的に変更できる制度であることに変わりはありません。2025年10月からポータルサイトによる独自ポイントの付与は禁止されましたが、控除の仕組みそのものは一切変わっていません。上限額は年収と家族構成によって決まるため、寄付する前に必ずシミュレーションを行うことが、損をしないための第一歩です。

  ふるさと納税とは何か

ふるさと納税とは、応援したい自治体に寄付を行うことで、寄付額から2,000円を差し引いた金額が、翌年の所得税の還付および住民税の控除という形で戻ってくる制度のことです。

たとえるなら、来年払うはずだった税金の一部を前払いで好きな自治体に渡し、その御礼として地域の特産品を受け取れる仕組みです。実質的な自己負担は2,000円だけで、残りは翌年の税金から差し引かれると考えると分かりやすいでしょう。

なぜ「上限額」があるのか

控除には、年収や家族構成に応じた上限額が設定されています。上限を超えて寄付した分は単なる寄付として扱われ、2,000円を超える部分についても税金の控除は受けられません。したがって、上限額を正確に把握しないまま寄付をすると、想定より自己負担が増えてしまいます。

  2025年10月の制度改正で何が変わったのか

ポイント付与禁止の背景

総務省は2025年10月1日から、ふるさと納税のポータルサイトが独自に付与するポイントを禁止しました。返礼品競争がポイント還元競争へと転化し、制度本来の趣旨である地域応援から外れてしまうことが懸念されたためです。

経営者・個人事業主への影響

ポイント目当てでポータルサイトを選んでいた方にとっては、実質的な還元率が下がったように感じられます。しかし、控除される金額そのものは制度改正前後で変わりません。返礼品の還元率(寄付額の3割以下という基準)も従来どおり維持されているため、返礼品そのものの魅力で選ぶという、本来の制度趣旨に沿った選び方が今後は重要になります。

🖼 ポイント制度改正の前後でふるさと納税の何が変わり、何が変わらないのかを整理した比較イラスト/キャプション:変わったのはポイントだけ、控除の仕組みは同じです

  上限額はどう決まるのか

ふるさと納税で自己負担が実質2,000円で済む寄付額の上限は、給与収入と家族構成によって変わります。総務省が公表している早見表に基づく目安は次のとおりです(社会保険料控除等の他の控除状況により多少前後します)。

給与収入独身または共働き夫婦(配偶者は控除対象)夫婦+子1人(高校生)
400万円42,000円33,000円25,000円
500万円61,000円49,000円40,000円
600万円77,000円69,000円60,000円
700万円108,000円86,000円78,000円
800万円129,000円120,000円107,000円
1000万円180,000円171,000円159,000円

  ワンストップ特例制度 vs 確定申告

 ワンストップ特例制度確定申告
対象者確定申告が不要な給与所得者個人事業主・確定申告が必要な人すべて
寄付先の自治体数1年間で5自治体以内制限なし
手続き寄付の都度、自治体へ申請書を提出翌年3月15日までに税務署へ申告
控除される税目住民税のみから控除所得税の還付+住民税の控除

ワンストップ特例のよくある落とし穴

  • 1年間で6自治体以上に寄付すると、ワンストップ特例の申請自体が全て無効になり、確定申告が必須になる
  • 住宅ローン控除の初年度や医療費控除など、他の理由で確定申告をする年は、ワンストップ特例の申請をしていても自動的に無効になり、寄付先すべてを確定申告書に記載し直す必要がある
  • 申請書の提出期限(寄付の翌年1月10日必着が目安)を過ぎると特例が使えなくなる

  ふるさと納税の流れ

STEP1 上限額をシミュレーションで確認する

↓

STEP2 自治体・返礼品を選んで寄付を申し込む

↓

STEP3 返礼品を受け取り、寄附金受領証明書を保管する

↓

STEP4 ワンストップ特例を申請するか、確定申告を行う

↓

STEP5 翌年6月頃、住民税決定通知書で控除額を確認する

  具体的シミュレーション

給与収入600万円・独身の方が、上限額の目安である77,000円をふるさと納税した場合で考えてみます。

項目金額
寄付総額77,000円
自己負担額2,000円
翌年の住民税・所得税からの控除額75,000円
受け取れる返礼品の目安(寄付額の3割以下)23,100円相当まで

実質2,000円の負担で、23,100円相当までの返礼品を受け取れる計算になります。ポイントが付与されなくなった今でも、この控除の構造自体は変わっていないため、上限額の範囲内で寄付を行う限り、制度のメリットは従来どおり享受できます。

  よくある質問(FAQ)

Q. ふるさと納税をすると本当に税金は安くなるのですか?

A. いいえ、税金そのものが安くなるわけではありません。本来納めるはずだった税金を先に自治体へ寄付として納め、その分が翌年の税金から差し引かれる前払いの仕組みです。実質負担が2,000円になる点にお得さがあります。

Q. ポイントがもらえなくなったので、もうやる意味がないのでは?

A. 意味は十分にあります。控除される金額自体はポイント制度と関係なく変わっておらず、返礼品(寄付額の3割以下)も引き続き受け取れます。

Q. ワンストップ特例と確定申告、どちらがお得ですか?

A. 控除される金額そのものに差はありません。ただし、住宅ローン控除の初年度や医療費控除がある方は確定申告が必須になるため、その場合はワンストップ特例を選べません。

Q. 上限額を超えて寄付してしまったらどうなりますか?

A. 上限を超えた部分は控除の対象外となり、単純な寄付として扱われます。実質負担が2,000円を上回ることになるため、寄付前のシミュレーションが欠かせません。

Q. 個人事業主でもふるさと納税はできますか?

A. できます。ただし給与所得者と異なり、事業所得の増減によって上限額が年によって変動しやすいため、所得がおおむね確定してから寄付額を決めるのが安全です。

この記事の要点

  • ふるさと納税は自己負担2,000円で返礼品と地域応援を両立できる制度で、控除の仕組みは2025年10月の改正後も変わっていない。
  • 変わったのはポータルサイトの独自ポイントが禁止された点のみで、返礼品の還元率や控除額には影響しない。
  • 上限額は年収・家族構成で決まるため、寄付前のシミュレーションと、ワンストップ特例か確定申告かの選択が欠かせない。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

【令和7年分・8年分】年末調整はここが変わった!

2026-09-19

103万円の壁改正と新しい控除を経営者が失敗せずに乗り切る方法

毎年9月から10月にかけて、多くの経営者や総務担当者の頭を悩ませるのが年末調整です。しかも令和7年度の税制改正により、基礎控除や給与所得控除の金額が大きく見直され、いわゆる「103万円の壁」の姿も変わりました。「今年の年末調整、去年までと同じ書式で本当に大丈夫だろうか」「従業員から質問されても答えられない」——そんな不安を抱えていませんか。

この記事を最後まで読めば、令和7年分・8年分の年末調整で具体的に何が変わったのか、経営者として従業員にどう説明すればよいか、そして自社と従業員の税負担にどう影響するのかが、数字の根拠とともにはっきりと分かります。

結論から申し上げます。令和7年度税制改正により、基礎控除は48万円から58万円へ、給与所得控除の最低保証額は55万円から65万円へと、それぞれ引き上げられました。この結果、いわゆる「103万円の壁」は、令和7年分・8年分については所得水準に応じて最大160万円まで広がっています。さらに、19歳から22歳までの子(大学生年代)を扶養する家庭のために「特定親族特別控除」という新しい控除も創設されました。年末調整で従業員に配布する「扶養控除等申告書」の記載内容にも影響が出るため、経営者・総務担当者は早めに制度を理解し、社内周知を進める必要があります。

  そもそも年末調整とは何か

年末調整とは、会社が従業員の給与から毎月天引きしていた所得税(源泉徴収税額)と、その年に本来納めるべき所得税額との差額を、年末に一括で精算する手続きのことです。

たとえるなら、毎月のお小遣いから少し多めに天引きして積み立てておき、年末に実際にかかった金額を計算して、余った分を返し、足りない分を追加でもらう、というイメージです。多くの会社員は確定申告をしなくても、この年末調整だけで1年間の所得税の手続きが完了します。

なぜ経営者・総務担当者が押さえておくべきなのか

年末調整は、従業員一人ひとりの税額を正しく計算するだけでなく、会社が源泉徴収義務者として法律上の義務を負う手続きです。書類の配布・回収・計算・納付のいずれかに不備があれば、後日税務署から指摘を受け、追加徴収や延滞税が発生する可能性があります。制度改正があった年は特に、書式や控除額の変更を見落としたまま昨年と同じ運用を続けてしまうミスが起こりやすくなります。

  令和7年度税制改正で何が変わったのか

基礎控除の引き上げ(48万円→58万円、さらに時限的な上乗せ)

基礎控除とは、所得の多い少ないにかかわらず、すべての納税者に一律で認められる控除のことです。令和7年度改正で、この基礎控除が48万円から58万円に引き上げられました。さらに、合計所得金額655万円以下の人については、令和7年分・8年分の2年間に限り上乗せの特例が設けられ、所得水準に応じて基礎控除が最大95万円まで拡大します。

給与所得控除の最低保証額引き上げ(55万円→65万円)

給与所得控除とは、給与収入を得るために実際にかかった経費を、いちいち領収書を集めなくても一定額差し引ける、いわば「みなし経費」のような制度です。この最低保証額が55万円から65万円に引き上げられました。

結果として「103万円の壁」は何万円になったのか

基礎控除と給与所得控除の合計額が、所得税が発生しない給与収入の上限、いわゆる「壁」の正体です。改正前は48万円+55万円=103万円でしたが、改正後は次のとおりです。

区分基礎控除給与所得控除壁の金額
改正前(〜令和6年分)48万円55万円103万円
令和7年分・8年分(上乗せ特例あり)最大95万円65万円最大160万円
令和9年分以降(恒久ルール)58万円65万円123万円

🖼 103万円の壁が123万円・160万円に広がる様子を示すビフォーアフター図解イラスト/キャプション:基礎控除と給与所得控除の引き上げで壁はここまで動きました

新設「特定親族特別控除」——大学生年代の子がいる家庭へ

19歳から22歳までの子(大学生年代)がいる家庭は、これまで子のアルバイト収入が103万円を1円でも超えると、特定扶養控除(63万円)が一気にゼロになる「崖」がありました。令和7年度改正では、この崖をなだらかにするため「特定親族特別控除」が新設され、子の給与収入が123万円を超えても188万円に達するまでは、収入額に応じて段階的に控除を受けられるようになりました。段階ごとの正確な控除額は国税庁が公表する年末調整の早見表に基づいて算出されるため、対象となる従業員がいる場合は最新の早見表で確認することが実務上のポイントです。

  経営者・総務担当者が年末調整で注意すべき実務ポイント

「扶養控除等申告書」の記載内容を再確認する

基礎控除や配偶者控除、扶養控除の所得要件が軒並み引き上げられたため、従業員に「扶養に入れられるかどうか」を旧基準(103万円)で判断させてしまうと、本来受けられる控除を取りこぼす従業員が出てきます。書類配布時に、金額の基準が変わったことを一言添えるだけでも社内の混乱を大きく減らせます。

よくある間違い・落とし穴

  • 昨年の様式や社内案内文をそのまま使い回し、控除額の変更を反映し忘れる
  • 子のアルバイト収入を旧基準の103万円で判定し、特定親族特別控除の対象者を見落とす
  • 基礎控除の上乗せ特例は令和7年分・8年分限りの時限措置であることを従業員に伝えず、翌年以降の手取り変化への説明責任を果たせなくなる

  年末調整の流れ(実務フロー)

STEP1 従業員へ申告書類を配布(10月頃が目安)

↓

STEP2 従業員が記入し、保険料控除証明書等の必要書類を添付して提出

↓

STEP3 総務・経理担当者が内容を確認し、各人の年税額を計算

↓

STEP4 過不足額を12月の給与・賞与で精算

↓

STEP5 源泉徴収票を発行し、税務署・市区町村へ法定調書を提出

  具体的シミュレーション

パート・アルバイトとして働く従業員の給与収入が年130万円のケースで考えてみます。

 改正前ルール(〜令和6年分)改正後ルール(令和7・8年分)
壁の金額103万円最大160万円
年収130万円の場合の課税対象額約27万円が課税対象壁の範囲内のため課税対象なし
所得税への影響(目安・税率5%)年間約13,500円の所得税が発生所得税は0円

このように、同じ年収130万円で働く従業員でも、改正前は所得税が発生していたのに対し、改正後は所得税が発生しないケースが生まれます。従業員から「働き方を変えたほうがよいか」と相談を受けた際は、こうした具体的な金額を示しながら説明すると納得を得やすくなります。

  よくある質問(FAQ)

Q. 「103万円の壁」は完全になくなったのですか?

A. いいえ、なくなったわけではなく、金額が引き上げられ、新しい水準に移動しました。令和7年分・8年分は基礎控除の上乗せ特例により最大160万円、令和9年分以降は基礎控除58万円と給与所得控除65万円を合わせた123万円が壁になります。

Q. 基礎控除の上乗せ特例は誰でも受けられますか?

A. 合計所得金額655万円以下(給与収入の目安でおおむね850万円未満)の人が対象です。それを超える所得の人は、上乗せのない基礎控除58万円のみが適用されます。

Q. 大学生年代の子の年収が103万円を超えたら、もう扶養にできませんか?

A. 令和7年度改正により、子の年収が123万円を超えても188万円に達するまでは特定親族特別控除が段階的に適用されるため、扶養控除が一気にゼロになることはありません。

Q. 年末調整の書類はいつまでに従業員へ配布・回収すべきですか?

A. 一般的には10月中に配布し、11月末までに回収を完了させるのが実務上の目安です。生命保険料控除証明書等が届くのは10月以降になることが多いため、余裕を持ったスケジュールが欠かせません。

Q. 年末調整の内容に誤りがあった場合はどうなりますか?

A. 年内であれば会社側で再年末調整として訂正できます。年が明けてしまった場合は、従業員自身による確定申告での訂正が必要になります。

この記事の要点

  • 基礎控除・給与所得控除の引き上げにより「103万円の壁」は令和7年分・8年分は最大160万円まで拡大した。
  • 大学生年代の子がいる家庭には「特定親族特別控除」が新設され、扶養控除の崖がなだらかになった。
  • 上乗せ特例は令和7・8年分限りの時限措置であり、経営者・総務担当者は年ごとの変更点を正確に把握する必要がある。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

M&Aで会社を売った後、手取りはいくら残る?

2026-09-17

税金の仕組みと合法的に増やす3つの工夫【M&A特集・第4回税金編】

結論から申し上げます。M&Aで本当に大事なのは「いくらで売れたか」ではなく「税金を引かれたあと、手元に何が残るか」です。同じ譲渡価格1億円のM&Aでも、株式譲渡か事業譲渡か、退職金を活用するかどうかで、手取り額は数百万円単位で変わります。今回は中小企業M&Aシリーズ第4回として、M&Aにかかる税金の全体像と、税理士の実務視点から見た「合法的に手取りを増やす工夫」を、具体的な数字とともに解説します。

この記事でわかること

  • M&Aでかかる税金の種類と、株式譲渡・事業譲渡で税金がどう違うか
  • 手取りを最大化する3つの実務的な工夫(退職金・対価の分散・消費税の精査)
  • 退職金を活用する際の具体的な手順と注意点
  • 譲渡価格1億円ケースでの手取りシミュレーション
  • 実務でよくある失敗・税務調査で否認されるパターン
📌 結論:手取り最大化の3つの柱 ① 個人株主であれば、原則として税率20.315%の分離課税で済む株式譲渡を軸に検討する。② 役員退職慰労金規程を整備したうえで、譲渡対価の一部を退職金として受け取る。③ 消費税の課税区分を精査し、想定外の納税を防ぐ。ただし、これらはいずれも「税務署に否認されないための事前設計」が前提です。M&Aの契約を締結する前に、必ず税理士に相談してシミュレーションを行ってください。

1. M&Aにかかる税金の全体像 ― 株式譲渡と事業譲渡ではまったく違う

結論として、M&Aの税金は「誰が」「何を」売るかによって、税金の種類も税率もまったく異なります。まずは全体像を押さえましょう。

1-1. 株式譲渡の場合にかかる税金

株式譲渡とは、会社のオーナー(株主)が保有している株式を買い手に売り渡し、会社の経営権をそのまま引き継いでもらう方法のことです。たとえるなら、八百屋さんの「お店の看板・在庫・従業員・お客様」をまるごと、経営権の証明書(株式)を渡すだけで引き継いでもらうイメージです。

個人株主が株式を譲渡した場合、その利益(譲渡所得)には、給与所得などとは切り離して計算する「申告分離課税」が適用されます。税率は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%を合わせて合計20.315%です。この税率は、譲渡益がいくら大きくなっても一律である点が特徴です。

🖼 株式譲渡と事業譲渡の違いをイラストで比較する図解/キャプション:「会社ごと渡す」株式譲渡と「一部だけ渡す」事業譲渡の違い

1-2. 事業譲渡の場合にかかる税金

事業譲渡とは、会社という器(法人格)はそのまま残し、工場・店舗・顧客との契約など「特定の事業」だけを切り出して買い手に売る方法のことです。リンゴ農家でたとえるなら、農園という経営体はそのまま残しつつ、「りんごの木とその収穫の権利」だけを他の農家に売るようなイメージです。

事業譲渡で利益が出た場合、その利益は会社の利益として法人税・法人住民税・法人事業税(合わせて実効税率でおおむね30%台前半)が課税されます。さらに、譲渡する資産のうち機械設備や在庫、のれん(営業権)といった課税資産には消費税もかかります。株式譲渡にはない「消費税の負担」が生じる点が、事業譲渡の大きな特徴です。

比較項目株式譲渡事業譲渡
課税される主体個人株主(オーナー)会社(法人)
主な税金譲渡所得税等 20.315%(分離課税)法人税等 実効税率 約30%台
消費税かからない(有価証券の譲渡は非課税)課税資産(設備・在庫・のれん等)にかかる
繰越欠損金の活用会社が存続するため、一定要件で引き継ぎ余地あり資産のみの移転のため、原則引き継げない
税額の目安譲渡益に対して一律20.315%利益額・他の損益との通算次第で変動

2. 手取りを最大化する3つの実務的な工夫

税金の仕組みを理解したら、次は「合法的に手取りを増やす」実務のテクニックです。結論として、有効な工夫は大きく3つあります。

2-1. ① 退職金の活用(役員退職慰労金規程)

退職金とは、長年の功績に報いるために会社から支給される一時金のことです。退職金には税制上、非常に手厚い優遇(退職所得控除・2分の1課税)が用意されており、M&Aのクロージング時に、譲渡対価の一部を「退職金」として受け取ることで、株式譲渡の税率20.315%よりも実質的な負担を抑えられるケースがあります。

ただし、退職金として認められるには「実際に退職の実態があること」「金額が過大でないこと(功績倍率法などで適正水準を算定していること)」が必須です。名目だけ退職金にして、実際は経営に関与し続けている場合、税務調査で否認され、追徴課税を受けるリスクがあります。

2-2. ② 譲渡対価の受け取り方・タイミングの分散

M&A後、旧オーナーが一定期間、顧問(コンサルティング)として会社に関与し、その対価の一部を顧問料として受け取る設計も選択肢のひとつです。顧問料は給与所得や事業所得として課税されますが、支払いの時期を分散させることで、資金繰りや税負担のバランスを取りやすくなります。ここでも「実態のある役務提供」であることが前提です。

2-3. ③ 消費税の課否区分の精査(事業譲渡の場合)

事業譲渡を選ぶ場合は、譲渡する資産ひとつひとつについて、消費税が課税されるものか非課税・不課税のものかを事前に精査することが欠かせません。土地は非課税、機械設備やのれんは課税対象など、区分を誤ると想定外の消費税納付が発生し、手取りを圧迫します。

🖼 退職金活用による手取り増加のイメージ図(積み上げ棒グラフ風)/キャプション:譲渡対価の一部を退職金に振り替えると、税負担の山が低くなるイメージ

2-4. 退職金活用の実務ステップ

STEP 1 M&Aの検討を開始した早い段階で、役員退職慰労金規程を整備する

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STEP 2 功績倍率法などを用いて、適正な退職金の水準をあらかじめ試算する

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STEP 3 M&A契約書上、譲渡対価と退職金の支払いを明確に区分して記載する

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STEP 4 クロージング時に退職金を支給し、退職所得としての源泉徴収を行う

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STEP 5 実行前に税理士とシミュレーションを行い、否認リスクを最小化する
🖋 税理士の実務視点 退職金の活用は非常に有効な手取り最大化の手法ですが、税務署は「実態」を厳しく確認します。譲渡後も実質的に経営の意思決定に関与し続けているにもかかわらず退職金として処理すると、給与や賞与とみなされて否認される可能性が高くなります。契約書・株主総会や取締役会の議事録・実際の業務引継ぎの状況を、すべて整合させておくことが実務上のポイントです。

3. シミュレーション:譲渡価格1億円のケースで比較する

結論として、退職金を組み合わせることで、同じ譲渡価格1億円でも手取りに差が生まれます。以下は個人株主(勤続20年、株式の取得費1,000万円)を前提とした概算シミュレーションです。数字はあくまで目安であり、実際の税額は個々の所得状況や累進課税により変動するため、実行前に必ず税理士による精密なシミュレーションを行ってください。

ケースA:譲渡対価の全額を株式譲渡で受け取る場合

  • 譲渡益 = 1億円 − 取得費1,000万円 = 9,000万円
  • 税額 = 9,000万円 × 20.315% ≒ 1,828万円
  • 手取り = 1億円 − 1,828万円 ≒ 8,172万円

ケースB:対価のうち2,000万円を退職金、残り8,000万円を株式譲渡で受け取る場合

  • 退職所得控除 = 40万円 × 勤続20年 = 800万円
  • 退職所得 = (2,000万円 − 800万円)× 1/2 = 600万円 → 概算税額 約180万円(他の所得との合算・税率を概算で仮定)
  • 株式譲渡部分の譲渡益 = 8,000万円 − 取得費800万円(按分後) = 7,200万円
  • 株式譲渡部分の税額 = 7,200万円 × 20.315% ≒ 1,463万円
  • 合計税額 ≒ 1,643万円 → 手取り ≒ 8,357万円
比較項目ケースA(株式譲渡のみ)ケースB(退職金2,000万円を活用)
譲渡価格(総額)1億円1億円
税額(概算合計)約1,828万円約1,643万円
手取り額(概算)約8,172万円約8,357万円
差額―約185万円の手取り増(あくまで概算目安)

※上記はあくまで概算の目安です。退職所得の実際の税額は累進課税に基づき他の所得と合算して計算されるため、個々の状況によって結果は変わります。必ず事前に税理士へご相談のうえ、精密なシミュレーションを行ってください。

4. 実務上の注意点・よくある失敗の罠

  • 過大退職金の否認リスク:功績倍率法から大きく逸脱した金額を退職金として処理すると、超過部分が損金不算入・給与認定されるおそれがあります。
  • 実態のない「名目上の退職」:M&A後も実質的に経営を続けているのに退職金として処理すると、租税回避と判断されるリスクがあります。
  • 顧問料が給与とみなされるリスク:勤務実態・指揮命令関係によっては、顧問料が給与とみなされ、社会保険料の追徴につながることがあります。
  • 消費税の課否区分の誤り:事業譲渡で資産ごとの課税区分を誤ると、想定外の消費税納付が発生し、手取りを圧迫します。
  • 対策の実行タイミングの遅れ:退職金規程の整備や契約書の設計は、M&Aの基本合意前後から準備しないと間に合わないケースが多くあります。

5. よくある質問(FAQ)

Q1. M&Aの税金は、必ず20.315%になるのですか?

いいえ、必ずしもそうではありません。個人株主による株式譲渡であれば分離課税の20.315%が原則ですが、事業譲渡の場合は会社に法人税等(実効税率約30%台)と消費税が別途かかります。また退職金を活用する場合は、退職所得の計算方法に基づいた別の税率になります。

Q2. 譲渡対価を退職金として受け取れば、必ず得になりますか?

必ずしも得になるとは限りません。退職金の金額・勤続年数・他の所得の状況によって有利不利が変わるため、契約前に必ず税理士によるシミュレーションを行うことが重要です。

Q3. 消費税はどのような場合にかかりますか?

事業譲渡において、機械設備や在庫、のれん(営業権)といった課税資産を譲渡する場合に消費税がかかります。一方、株式譲渡は有価証券の譲渡にあたるため、消費税は非課税です。

Q4. 繰越欠損金はM&A後も引き継げますか?

株式譲渡の場合、会社自体は存続するため、一定の要件を満たせば繰越欠損金を引き継げる余地があります。事業譲渡の場合は資産のみが移転するため、原則として繰越欠損金は引き継げません。

Q5. 顧問料(consulting fee)として対価を受け取る際の注意点は?

実態のある役務提供であることが大前提です。名目だけの顧問契約で実際の業務がない場合、税務調査で否認され、追徴課税や社会保険料の追徴につながるおそれがあります。

6. まとめ:M&Aの手取りは、税金の設計次第で変わる

  • M&Aで重要なのは譲渡価格そのものではなく、税金を差し引いたあとの「手取り額」である
  • 退職金の活用や対価の分散は有効な手法だが、税務署に否認されないための事前の実態づくりと書類整備が不可欠である
  • 株式譲渡・事業譲渡それぞれの税金の仕組みを正しく理解したうえで、M&Aの契約前に税務戦略を立てることが手取り最大化の第一歩である

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

後継者不在でも会社は残せる

2026-09-14

中小企業のM&Aによる事業承継、廃業する前に知っておきたい基礎知識

「長年かけて育ててきた会社なのに、継いでくれる子どもも身内もいない」——多くの経営者さまが、口には出さなくても、この悩みを抱えていらっしゃいます。「後継者がいないなら、いずれ会社をたたむしかない」と思い込んでいませんか。

結論から申し上げます。後継者がいないことは、廃業の理由にはなりません。M&A(会社や事業を第三者に引き継ぐ取引)という選択肢を使えば、従業員の雇用を守りながら、経営者ご自身も引退後の生活資金を確保したうえで、会社を次の世代へとつなぐことができます。

この記事を読んでいただければ、中小企業のM&Aとはどのような仕組みなのか、株式譲渡と事業譲渡の違い、実際にどれくらいの金額で会社を譲渡できるのか、そして何より「何から始めればよいのか」が具体的にイメージできるようになります。税理士の実務視点から、廃業とM&A、どちらが本当に会社と社員のためになるのかを、順を追って解説いたします。

  そもそも中小企業のM&Aとは?「会社を売る」ことの本当の意味

結論 中小企業のM&Aとは、会社を見捨てることでも身売りすることでもなく、経営者が大切に育ててきた事業を「次の担い手」に引き継ぐための出口戦略です。

M&Aとは、Mergers and Acquisitions(合併と買収)の略で、会社や事業の経営権を、契約によって他の会社や個人に引き継ぐ取引全体のことです。中小企業の世界では、後継者がいない経営者が、取引先や投資会社など第三者に会社を譲り、経営者は引退資金を受け取り、従業員はそのまま新しい体制のもとで働き続ける、という形が最も一般的です。

例えば、長年リンゴ農園を営んできた方が、跡を継ぐ子どもがいないとします。畑を放置すれば、木は枯れ、働いていた従業員も職を失います。しかし、その畑と栽培のノウハウを、意欲のある近隣の農家さんに引き継いでもらえれば、りんごの木も、従業員の仕事も、取引先との関係も、すべてそのまま存続します。中小企業のM&Aは、まさにこの「畑ごと引き継ぐ」発想と同じです。

■ なぜ「身売り」ではなく「バトンタッチ」なのか

廃業を選んだ場合、従業員は全員解雇となり、取引先との契約も終了し、長年培ってきた技術やノウハウ、顧客からの信用(のれん)もすべて失われます。一方、M&Aによって会社を引き継いだ場合は、経営者は交代しますが、会社そのものは存続し、雇用契約も、取引先との契約も、多くの場合そのまま引き継がれます。「会社を売る」という言葉のイメージだけで判断せず、実質的にどちらが会社と従業員を守れる選択か、という観点で考えることが実務上は重要です。

■ 中小企業のM&Aが増えている背景

経営者の高齢化と後継者不在という構造的な課題を背景に、第三者への引き継ぎを前提としたM&Aは、中小企業にとってごく一般的な事業承継の手段になっています。かつては「会社は身内が継ぐもの」という考え方が主流でしたが、少子化や職業選択の多様化により、子どもや親族に継ぐ意思がない、あるいは経営者としての適性や本人の希望が合わないケースが増えています。こうした背景から、国や金融機関、民間の仲介会社が連携し、第三者への引き継ぎを支援する体制が整ってきました。今や中小企業のM&Aは、一部の限られた企業だけの話ではなく、後継者不在に悩むすべての経営者にとって検討する価値のある選択肢です。

[画像指示:後継者不在の会社が「廃業」と「M&Aによる第三者承継」のどちらを選ぶかで、従業員・取引先・地域経済への影響がどう変わるかを対比して示す図解イラスト/キャプション:廃業とM&A、会社の未来はこんなに変わります]

  廃業とM&A、何が違うのか(比較表)

結論 廃業は会社の歴史を終わらせる選択、M&Aは会社の歴史を次につなぐ選択です。両者の違いを整理すると、経営者にとっての得失がはっきり見えてきます。

比較項目廃業を選んだ場合M&Aで引き継いだ場合
従業員の雇用原則としてすべて解雇多くの場合、雇用契約ごと引き継がれる
取引先との関係契約終了・取引停止契約が存続するケースが多い
経営者の手取り資産売却・清算費用を差し引いた残り譲渡対価としてまとまった資金を受け取れる可能性
借入金の個人保証経営者が返済義務を負い続けることが多い譲渡先への引き継ぎ・解除を交渉できる
清算手続きの費用発生する(解散登記・在庫処分等)事業が継続するため不要なことが多い
会社の歴史・のれん消滅する存続し、次の世代に引き継がれる

このように比較すると、廃業は「終わらせる」選択であるのに対し、M&Aは「引き継ぎながら、経営者自身も次の生活の準備ができる」選択であることがわかります。もちろんすべての会社がM&Aできるわけではありませんが、検討すらせずに廃業を選んでしまうのは、経営者にとっても従業員にとっても、大きな機会損失になりかねません。

  M&Aの2つの主な方法「株式譲渡」と「事業譲渡」の仕組み

結論 中小企業のM&Aは、会社ごと渡す「株式譲渡」と、事業の一部だけを渡す「事業譲渡」の、大きく2つの方法に分かれます。どちらを選ぶかで、税金の種類も手続きの手間も大きく変わります。

■ 株式譲渡とは

株式譲渡とは、会社のオーナーである株主が、保有する株式を買い手に譲り渡すことで、会社の経営権をそのまま引き継ぐ方法のことです。

家計に例えるなら、財布の中身を一つひとつ分けるのではなく、「財布そのもの」を丸ごと渡すイメージです。会社が持っている資産も負債も、従業員との雇用契約も、取引先との契約も、許認可も、基本的にはすべてそのままの状態で新しい株主(買い手)に引き継がれます。手続きが比較的シンプルなため、中小企業のM&Aでは最も多く使われる方法です。

■ 事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社という器はそのままに、特定の事業(店舗、設備、従業員との契約、顧客との関係など)だけを選んで買い手に譲り渡す方法のことです。

先ほどの家計の例で言えば、財布ごと渡すのではなく、「財布の中から必要なものだけを選んで渡す」イメージです。複数の事業を展開している会社が、不採算部門を切り離して優良部門だけを譲渡する場合や、買い手が特定の店舗や技術だけを求めている場合に使われます。ただし、契約や許認可、従業員との雇用契約は一つひとつ個別に引き継ぎの手続きが必要になるため、株式譲渡に比べて実務上の手間は大きくなります。

比較項目株式譲渡事業譲渡
引き継ぐ対象会社そのもの(資産・負債・契約すべて)選んだ事業・資産・契約のみ
手続きの手間比較的シンプル契約・許認可を個別に引き継ぐため煩雑
対価を受け取る主体株主である経営者個人会社(法人)
かかる税金の種類譲渡所得税(申告分離課税)法人税等、消費税(課税資産のみ)
簿外債務のリスク買い手が引き継ぐ可能性がある会社側に残るため買い手はリスクを避けやすい
許認可の引き継ぎ原則そのまま存続業種によっては買い手が再取得する必要がある

[画像指示:株式譲渡は「財布ごと渡す」、事業譲渡は「財布の中身を選んで渡す」という違いを対比するイラスト/キャプション:株式譲渡と事業譲渡、渡し方の違いをイメージで理解しましょう]

  中小企業がM&Aを行う3つのメリット

結論 中小企業のM&Aには、廃業では得られない3つの大きなメリットがあります。

1つ目は、従業員の雇用が守られることです。長年一緒に働いてきた従業員の生活を、経営者の引退を理由に断ち切らずに済みます。

2つ目は、経営者自身が引退後の生活資金を確保できることです。譲渡の対価として、まとまった資金を受け取ることができ、老後の生活設計に充てることができます。

3つ目は、取引先や地域経済への影響を最小限に抑えられることです。会社が存続することで、取引先との契約や地域での雇用が維持され、長年築いてきた信用(のれん)も次の経営者に引き継がれます。

  知っておくべき2つのデメリット・注意点

結論 メリットが大きい一方で、M&Aには事前に理解しておくべきデメリットもあります。

1つ目は、希望どおりの相手が見つかるとは限らず、成約までに一定の時間がかかることです。相手探しから最終契約まで、半年から1年以上かかるケースも珍しくありません。早めに動き出すことが、良い条件での成約につながります。

2つ目は、情報管理の難しさです。M&Aを検討していることが早期に社内外に漏れてしまうと、従業員の不安や取引先の疑念を招き、交渉自体が不利になることがあります。信頼できる専門家を通じて、秘密保持契約のもとで慎重に進める必要があります。

なお、金融機関からの借入に経営者個人が保証人になっている場合(経営者保証)、譲渡後にこの保証をどう解除するかも、事前に確認しておくべき重要なポイントです。

  実務上の注意点・失敗しやすい罠

結論 M&Aで後悔しないためには、「早すぎる社内公表」「価格だけでの相手選び」「専門家を通さない個人交渉」という3つの罠を避けることが重要です。

■ 早すぎる社内公表による社内混乱

M&Aの検討段階で従業員に情報が伝わってしまうと、「会社が売られる」という不安から、優秀な人材が先に離職してしまうことがあります。原則として、基本合意が固まる段階まで、情報を知る人は最小限にとどめるべきです。

■ 相手先選びを価格だけで決めてしまう罠

提示された譲渡価格の高さだけで相手を選んでしまうと、譲渡後に従業員の待遇が悪化したり、経営方針が大きく変わってしまったりするリスクがあります。価格だけでなく、従業員の雇用条件をどう維持するか、経営理念を引き継ぐ意思があるかも、重要な判断材料です。

■ 公的機関や専門家を通さない個人間交渉のリスク

知人の紹介など、専門家を介さない個人間の交渉で話を進めてしまうと、契約書の不備や、簿外債務の見落とし、税務上の思わぬ負担が後から発覚するケースがあります。税理士や中小企業のM&Aに精通した専門家に、初期の段階から関与してもらうことが、後悔しないM&Aの絶対条件です。

  M&Aが成約するまでの流れ(ステップ図)

結論 中小企業のM&Aは、おおよそ半年から1年程度をかけて、次の7つのステップで進みます。

 STEP1 専門家への相談

↓

 STEP2 秘密保持契約の締結

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 STEP3 ノンネーム(会社名を伏せた概要書)での相手探し

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 STEP4 トップ面談(経営者同士の顔合わせ)

↓

 STEP5 基本合意書の締結(価格・条件のおおまかな合意)

↓

 STEP6 デューデリジェンス(買い手による財務・法務等の詳細調査)

↓

 STEP7 最終契約・クロージング(契約締結・資金決済・経営権の引き継ぎ)

それぞれのステップで後戻りややり直しが発生することもありますが、事前に流れを知っておくことで、今どの段階にいるのか、次に何をすべきかを見失わずに進めることができます。

[画像指示:相談からクロージングまでのM&A手続き7ステップを示すフローチャート図解/キャプション:中小企業のM&A、成約までの一般的な流れ]

  具体的なシミュレーション:年商8,000万円の製造業のケース

結論 会社の値段は「純資産+数年分の利益」という考え方(年買法)で、実務上おおよその目安をつけることができます。実際の数字で見てみましょう。

【前提条件】

・業種:金属加工業

・年商:8,000万円

・営業利益:500万円

・純資産(時価ベース):3,000万円

・経営者が設立時に出資した資本金(取得費):300万円

【譲渡価格の目安(年買法による簡易計算)】

時価純資産3,000万円 + 営業利益500万円 × 3年分1,500万円 = 譲渡価格の目安 4,500万円

【株式譲渡を選んだ場合の手取り試算】

譲渡所得 = 譲渡価格4,500万円 - 取得費300万円 = 4,200万円

譲渡所得税等(申告分離課税20.315%) = 4,200万円 × 20.315% = 約853万円

手取り額 = 4,500万円 - 約853万円 = 約3,647万円

このケースでは、経営者は会社を譲渡することで約3,647万円の資金を手にしたうえで、8,000万円の売上を生み出していた会社と、そこで働く従業員の雇用を存続させることができます。廃業を選んだ場合、在庫処分や解散・清算の費用、原状回復費用などがかかり、手元に残る金額はこれより大きく目減りするのが一般的です。

※ここでの譲渡価格は簡易的な目安であり、実際の取引価格は、収益力、将来性、業界動向、買い手との交渉によって変動します。正式な評価には専門家による詳細な算定が必要です。

  よくある質問(FAQ)

Q. 赤字の会社や、業績が悪化している会社でもM&Aはできますか?

A. 可能です。技術力や顧客基盤、許認可など、赤字であっても買い手にとって価値のある要素があれば、譲渡先が見つかるケースは珍しくありません。赤字だからとあきらめず、まずは専門家に相談することをお勧めします。

Q. 家族に話す前に、外部の専門家に相談しても問題ありませんか?

A. 問題ありません。M&Aの専門家との相談は、秘密保持契約のもとで行われるのが一般的です。家族や従業員に伝えるタイミングは、話が具体的に進んでから慎重に検討すればよく、まずは情報収集の意味で早めに専門家に相談することをお勧めします。

Q. 従業員には、いつ、どのように伝えればよいですか?

A. 一般的には、基本合意が固まり、成約の見通しが立った段階で伝えるケースが多くなっています。あまりに早い段階で伝えると、不安から離職者が出るリスクがあるため、伝えるタイミングと伝え方は、専門家と相談しながら慎重に設計することが重要です。

Q. 個人事業主でも会社と同じようにM&Aはできますか?

A. できます。個人事業主の場合は株式が存在しないため、店舗や設備、顧客との契約などを個別に引き継ぐ「事業譲渡」に近い形で行われるのが一般的です。

Q. 専門家への相談には費用がかかりますか?

A. 事務所や公的な相談窓口によって異なりますが、初回の相談を無料で行っているところも多くあります。まずは費用の心配をする前に、現状を整理する目的で相談してみることをお勧めします。

  まとめ&お問い合わせへの誘導

この記事の要点は次の3つです。

1.後継者不在は廃業の理由にはならず、M&Aによって会社と従業員の雇用を守りながら、経営者自身も引退後の資金を確保できます。

2.M&Aには「株式譲渡」と「事業譲渡」という2つの方法があり、それぞれ税金の種類や手続きの手間が異なります。

3.良い条件でのM&Aを実現するには、早めの相談と、信頼できる専門家の関与が欠かせません。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

「まさか自分が…」相続税の税務調査で「名義預金」が発覚し追徴課税を受けた70代男性の実話に学ぶ、隠れた預金を見逃さないための完全ガイド

2026-09-13

「父の預金なんて、通帳に書いてある300万円くらいのはず。相続税の申告もきちんと済ませたし、もう安心――」

そう思っていた矢先に、税務署から「相続税についてのお尋ね」が届き、続けて実地調査の連絡が入る。そんなとき、多くの方が最初に感じるのが「まさか税務調査が入るなんて」という強い不安です。

この記事を読むとわかること:この記事では、①名義預金とは何か、②なぜ税務署に見つかってしまうのか、③申告漏れが発覚するといくら追徴課税されるのか、④今からできる具体的な対策、の4点を、専門知識がない方でも一読で理解できるレベルで解説します。

結論名義預金は「口座の名前が誰か」ではなく「実質的にお金を出し、管理していたのは誰か」で判断されます。家族名義の口座であっても、実質的に亡くなった方(被相続人)のお金であれば、相続税の課税対象です。申告後に発覚すると、本来の税金に加えて加算税・延滞税という重い負担が上乗せされるため、申告前の段階でしっかり洗い出しておくことが、追徴課税を防ぐ最も確実な方法です。

  そもそも「名義預金」とは何か?なぜ相続税の税務調査で最も狙われるのか

結論:名義預金とは、口座の名義(名前)は配偶者や子・孫になっているものの、実質的な持ち主・管理者が被相続人(亡くなった方)である預金のことです。税務署は「誰の名前の口座か」ではなく「実質的に誰のお金か」で判断するため、相続税申告において最も見落とされやすく、かつ最も重点的にチェックされるポイントになっています。

名義預金が生まれる典型的なパターン

身近な例で考えてみましょう。お小遣い帳をイメージしてください。ノートの表紙に子どもの名前を書いても、実際にお金を入れて管理しているのが親であれば、それは親の財布から出たお金と実質的に変わりません。名義預金もこれと同じ考え方です。次のようなケースが典型例です。

  • 子や孫の将来のためにと、本人に知らせずコツコツ積み立てていた口座
  • 家族の名前を借りて開設した、いわゆる「へそくり」的な資金の移し先
  • 生前贈与のつもりだったが、贈与契約書の作成や贈与税の申告をしていなかったケース

名義預金かどうかの判定基準

名義預金の判定とは、口座の名義人が誰であるかにかかわらず、①資金を出した人は誰か、②通帳・印鑑を管理していたのは誰か、③贈与の意思表示や贈与契約書・贈与税申告の有無、④名義人本人がその口座の存在をそもそも認識していたか、という実質的な事実関係を総合的に見て「本当の持ち主」を認定する作業のことです。次の表で、判定の分かれ目を整理します。

チェック項目名義預金と判定されやすい自分の財産と認められやすい
資金の出所被相続人の給与・退職金・年金から拠出名義人自身の給与・収入から拠出
通帳・印鑑の管理被相続人が保管・管理していた名義人本人が保管・管理していた
口座の存在の認識名義人が口座の存在を知らなかった名義人が存在を知り、自由に使っていた
贈与の記録贈与契約書・贈与税申告がない贈与契約書があり、贈与税の申告も済んでいる
入出金の実態名義人が一度も使ったことがない生活費や買い物等に日常的に使用している

[画像指示:名義預金の判定基準を示す4象限のチェックリスト図解イラスト / キャプション:「名前」ではなく「実質」で判断される、という考え方を視覚化]

  なぜ・いつ税務調査で発覚するのか

結論:相続税の税務調査では、被相続人だけでなく配偶者や子・孫名義の口座の資金の動きまで税務署が確認できる仕組みが整っています。実際に、国税庁が公表している実地調査の結果でも、申告漏れが指摘される財産の種類として「現金・預貯金等」は長年にわたり最も多い項目です。「家族名義だから見つからない」という考えは通用しません。

税務署が資金の動きを把握する仕組み

税務署は、被相続人や家族名義の口座について、金融機関への照会を通じて過去の入出金履歴を確認できます。生前の年収や退職金の額と、相続時の預金残高との間に大きな差がある場合、「本来あるはずのお金がどこに移動したのか」を重点的に調べる、というのが実務上の一般的な流れです。

相続開始から税務調査までの流れ

実際に税務調査が行われるまでには、次のようなステップを踏むのが一般的です。

STEP1 相続開始(被相続人が亡くなる)

↓

STEP2 相続財産の把握・遺産分割協議

↓

STEP3 相続税の申告・納付(原則、相続開始を知った日の翌日から10か月以内)

↓

STEP4 「相続税についてのお尋ね」が届く(申告後、半年〜1年程度が目安)

↓

STEP5 実地調査の実施(申告から1〜2年後に行われるケースが多い)

↓

STEP6 申告漏れが発覚した場合は修正申告・更正処分と加算税・延滞税の負担

[画像指示:相続開始から税務調査までの流れを示すタイムライン図解イラスト / キャプション:申告から1〜2年後に実地調査が入るケースが多い、という時系列を視覚化]

  名義預金の申告漏れがもたらすリスク

結論:名義預金の申告漏れが税務調査で発覚すると、本来納めるべきだった相続税(本税)に加えて、過少申告加算税や重加算税、延滞税という「ペナルティ」が上乗せされます。特に「意図的に隠していた」と判断されると税率が跳ね上がる重加算税の対象となるため、注意が必要です。

加算税の種類と税率

加算税とは、申告内容に誤りがあった場合や、申告そのものをしなかった場合に、本来の税金に上乗せして課される税金のことです。主なものは次の3種類です。

加算税の種類課される場面税率の目安
過少申告加算税期限内に申告はしたが、税額が少なかった場合追加本税の10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%)
無申告加算税申告期限内に申告していなかった場合納付税額のうち50万円までは15%、50万円超300万円までは20%、300万円超の部分は30%
重加算税財産を隠す・書類を偽装するなど、意図的な隠蔽と認定された場合過少申告の場合35%、無申告の場合40%

延滞税も忘れてはいけない

延滞税とは、本来の納付期限までに税金を納めなかった期間に応じて、利息のような形で上乗せされる税金のことです。税率は経済情勢に応じて毎年見直されますが、納期限から一定期間を過ぎると税率が上がる仕組みになっており、発覚から納付までの期間が長引くほど負担は重くなります。正確な税率は申告・納付のタイミングによって変わるため、実際の金額は専門家に確認することをおすすめします。

相続税の時効(除斥期間)

結論:相続税にも時効(正式には「除斥期間」)はありますが、原則として申告期限から6年、意図的な隠蔽・仮装があったと認定された場合は7年と、他の税金より長く設定されています。除斥期間とは、税務署が追加で税金を課すことができる期限のことです。「何年か経てば大丈夫」という考え方は、相続税に関しては通用しないと考えてください。

  名義預金で損をしないための3つの対策

結論:名義預金によるトラブルを防ぐには、①生前の資金移動は書面に残す、②相続発生後は家族全員の名前で口座を洗い出す、③申告前に専門家によるダブルチェックを受ける、という3つの対策が有効です。

対策1 生前贈与は「贈与契約書」とセットで残す

家族名義の口座にお金を移す際は、贈与契約書を作成し、受け取った側が実際に通帳・印鑑を管理し、自由に使える状態にしておくことが基本です。年間110万円を超える贈与であれば、贈与税の申告・納付を済ませておくことも、実質的な贈与であったことを示す有力な証拠になります。

対策2 相続発生後は「家族全員の名前」で口座を洗い出す

被相続人名義の口座だけでなく、配偶者・子・孫名義の口座についても、資金の出所や通帳・印鑑の管理状況を洗い出しておくことが重要です。過去の預金の動きを一つずつ確認する作業は手間がかかりますが、申告前に済ませておくことで、後から追徴課税を受けるリスクを大きく減らせます。

対策3 申告前に専門家によるダブルチェックを受ける

名義預金の判定は、資金の出所や管理状況など、複数の事実関係を総合的に見て判断する必要があり、一般の方だけで正確に見極めるのは簡単ではありません。申告前に相続税に詳しい専門家のチェックを受けることで、見落としを防ぎ、結果として追徴課税による余計な負担を避けることにつながります。

  具体的なシミュレーション:名義預金900万円が発覚したケース

結論:実際の数字で見ると、名義預金の申告漏れは決して他人事ではありません。当初把握していた相続財産が6,000万円、税務調査で名義預金900万円が新たに発覚したケースを例に、追徴課税額を試算します。

前提条件

  • 被相続人:父
  • 相続人:長男(本人)・長女の2人
  • 基礎控除額:3,000万円+600万円×2人=4,200万円

申告時点で把握していた相続財産

財産の内容金額
自宅(土地・建物)5,000万円
父名義の預金300万円
その他(有価証券等)700万円
合計6,000万円

課税遺産総額は、6,000万円-基礎控除4,200万円=1,800万円です。法定相続分どおりに分けると、各相続人の取得金額は900万円ずつになります。相続税の速算表(1,000万円以下:税率10%・控除額0円)にあてはめると、900万円×10%=90万円が1人あたりの税額となり、相続税の総額は90万円×2人=180万円と計算されます。

税務調査で発覚した名義預金

税務調査の結果、子・孫名義の口座に、父が生前コツコツ移していた資金が合計900万円あることが判明しました。通帳・印鑑は父が保管し、名義人本人はその口座の存在すら知らなかった、という典型的な名義預金のケースです。

修正後の相続財産は6,000万円+900万円=6,900万円、課税遺産総額は6,900万円-4,200万円=2,700万円となり、法定相続分どおりの取得金額は1,350万円ずつです。速算表(1,000万円超3,000万円以下:税率15%・控除額50万円)にあてはめると、1,350万円×15%-50万円=152.5万円が1人あたりの税額となり、相続税の総額は152.5万円×2人=305万円です。

結果として、追加でかかる本税は305万円-180万円=125万円となります。

加算税・延滞税を含めた最終的な負担

項目単純な見落としだった場合意図的に隠していたと判断された場合
追加本税125万円125万円
加算税過少申告加算税10%→12.5万円重加算税35%→43.75万円
延滞税(概算)約15万円約15万円
追徴税額の合計(概算)約152.5万円約184万円

「名前を借りていただけ」のつもりでも、税務署から見れば結果は同じく150万円を超える追徴課税です。悪意がなくても、名義預金は必ず相続財産に含めて申告することが、最も確実な対策になります。

※ 上記はあくまで一般的な条件を仮定した試算例です。実際の税額は財産の内容や相続人の構成、延滞税率の年度ごとの改定などにより異なります。

  よくある質問(FAQ)

Q1 子ども名義の口座にお年玉やお小遣いを貯めていただけでも名義預金になりますか?

A 名義人である子ども自身が口座の存在を知り、自由に使える状態であれば、通常は子ども自身の財産と判断されます。一方で、親が通帳・印鑑を管理し続け、子どもがその存在すら知らない場合は、名義預金と判定される可能性が高くなります。

Q2 生前に贈与したつもりの預金は、どうすれば名義預金と判定されずに済みますか?

A 贈与契約書を作成し、受け取った側が実際に通帳・印鑑を管理し、自由に使える状態にしておくことが基本です。年間110万円を超える贈与であれば、贈与税の申告・納付を済ませておくことも、実質的な贈与であったことを示す有力な証拠になります。

Q3 名義預金は必ず税務調査で見つかりますか?

A 相続税の税務調査では、被相続人・家族名義の口座の資金の動きまで税務署が確認できる仕組みが整っているため、家族名義の口座であっても資金の流れから発覚する可能性は高いと考えるべきです。「見つからないだろう」という前提での申告は、大きなリスクを伴います。

Q4 名義預金に気づかずに申告してしまいました。今からできることはありますか?

A 税務調査の通知が届く前に自主的に修正申告をすることで、加算税が課されないか、課されても軽い過少申告加算税で済む可能性があります。発覚が早いほど負担は小さくなるため、気づいた時点ですぐに専門家に相談することが重要です。

Q5 名義預金の対象になるのは預金だけですか?

A 預金に限らず、名義が家族になっている株式・投資信託・保険契約なども、実質的な負担者・管理者が被相続人であれば、同様に相続財産として扱われる可能性があります。預金以外の資産についても、名義と実態が一致しているかを確認しておくことが大切です。

  まとめ & お問い合わせ

  • 名義預金は「口座の名前」ではなく「実質的な持ち主」で判断され、家族名義でも相続税の対象になります。
  • 申告後に発覚すると、本税に加えて加算税・延滞税が上乗せされ、数十万円〜百万円単位の追徴課税につながることもあります。
  • 除斥期間は原則6年(隠蔽等の場合は7年)と長く、「時間が経てば大丈夫」という考え方は通用しません。
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

60歳でiDeCoをやめると数十万円損する?

2026-09-12

会社員の「増額」効果を税理士がわかりやすく解説

「iDeCoって、60歳になったらもう終わりですよね?」

顧問先の経営者様や、そこで働く従業員の方から、こうしたご質問をよくいただきます。実は、60歳以降も会社員として厚生年金に加入して働き続ける方は、iDeCo(個人型確定拠出年金)への掛金拠出を65歳になるまで続けることができます。

これを知らずに60歳で拠出をやめてしまうと、本来受け取れたはずの所得税・住民税の軽減効果や、運用益が非課税になるメリットを、最大5年分も取りこぼしてしまう可能性があります。

この記事を読めば、次の4つがすべて理解できます。

  • 60歳以降もiDeCoの掛金拠出を続けられる条件
  • 拠出期間を延ばすことで生まれる「増額」効果の正体
  • 実際の数字を使った節税シミュレーション
  • 手続き上の注意点・落とし穴

【結論】60歳以降も厚生年金に加入して働く会社員の方は、iDeCoの拠出をやめずに65歳まで続けたほうが、税金の面でも将来受け取る資産の面でも得をするケースがほとんどです。

■ そもそもiDeCo(個人型確定拠出年金)とは

iDeCoとは、自分で毎月一定額を積み立て、自分で選んだ運用商品(投資信託や定期預金など)で運用しながら育て、60歳以降に年金または一時金として受け取る、私的な年金制度のことです。

たとえるなら、毎月決まった金額を「専用のお小遣い帳(口座)」に積み立てて、そのお金を自分で運用しながら育て、老後に引き出す仕組みです。積み立てている間は税金が軽くなり、運用で増えた利益にも税金がかからないという、国が用意した「おトクな貯金箱」とイメージしていただくとわかりやすいと思います。

[画像指示:お小遣い帳にたとえたiDeCoの基本イメージ図解イラスト/キャプション:毎月の掛金を積み立て、自分で運用しながら育て、老後に受け取るという3つのステップで成り立っています]

■ 60歳になったら、iDeCoの掛金拠出はどうなるのか

【結論】60歳以降も厚生年金保険に加入して会社員として働き続ける方(国民年金の第2号被保険者)は、65歳の誕生日の前日まで、iDeCoへの掛金拠出を続けることができます。

◆ 拠出を続けられる人・続けられない人

60歳を境に、iDeCoの掛金拠出を続けられるかどうかは、国民年金の「被保険者区分」によって決まります。まずは下の表でご自身がどこに当てはまるかご確認ください。

国民年金の被保険者区分対象となる方60歳以降の拠出継続
第1号被保険者自営業・フリーランス等原則60歳で終了(国民年金に任意加入すれば65歳未満まで可)
第2号被保険者厚生年金に加入する会社員・公務員65歳の誕生日前日まで継続可能
第3号被保険者会社員・公務員に扶養される配偶者60歳で終了
任意加入被保険者海外居住者等65歳未満まで継続可能

表1:60歳以降のiDeCo拠出継続の可否(被保険者区分別)

◆ なぜ「厚生年金に加入していること」が条件なのか

国民年金第2号被保険者とは、厚生年金保険に加入して働いている会社員・公務員のことです。iDeCoは国民年金の被保険者であることが加入の土台となる制度のため、60歳を過ぎても厚生年金に加入して働き続けている限り、国民年金第2号被保険者としての資格が続き、iDeCoへの加入・拠出も継続できるという仕組みになっています。

一方、自営業の方(第1号被保険者)や、会社員・公務員の配偶者に扶養されている方(第3号被保険者)は、原則として60歳で国民年金の被保険者資格を失うため、iDeCoの掛金拠出も60歳で終了します。

■ 拠出期間を延ばす「増額」効果の正体——3つの節税メリット

【結論】60歳から65歳までの5年間、iDeCoへの拠出を続けると、①毎年の所得控除による税負担軽減、②運用益の非課税、③受け取り時の税制優遇という3つのメリットを、追加でまるまる5年分受け取ることができます。

◆ メリット① 掛金全額が所得控除の対象になる

小規模企業共済等掛金控除とは、iDeCoに拠出した掛金の全額を、その年の所得から差し引くことができる所得控除のことです。

たとえば、リンゴを売って得た利益(所得)にかかる税金を計算するとき、iDeCoに拠出した金額はまるごと「利益」から除外して計算してもらえます。利益が少なく見える分、その年の所得税・住民税が軽くなる、という仕組みです。60歳以降も給与収入があり、所得税・住民税を負担している会社員にとっては、拠出を続けるだけで毎年確実に得られるメリットです。

◆ メリット② 運用で増えた利益に税金がかからない

運用益非課税とは、iDeCoの口座内で投資信託などを運用して得た利益(値上がり益・分配金等)に対して、通常かかる約20.315%の税金が一切かからないことです。

通常、証券会社の一般口座(NISA以外の口座)で運用益が出ると、約2割が税金として差し引かれます。iDeCoの口座の中で運用している間は、この税金が発生しません。拠出期間が長いほど運用期間も長くなるため、非課税で増やせる金額も大きくなります。

◆ メリット③ 受け取るときも税金が優遇される

退職所得控除・公的年金等控除とは、iDeCoの資産を一時金または年金として受け取る際に、通常の所得よりも税負担が軽くなるよう用意された控除制度のことです。

一時金で受け取る場合は退職金と同じ扱いになり、加入期間に応じた大きな控除額が用意されています。年金形式で受け取る場合は、公的年金と合算して公的年金等控除の対象になります。拠出期間(加入期間)が長いほど一時金受け取り時の控除額も大きくなる仕組みのため、60歳で拠出をやめず65歳まで続けることは、受け取り時の税負担軽減にもつながります。

[画像指示:iDeCoの3つの節税メリット(掛金の所得控除・運用益非課税・受け取り時の税制優遇)を一覧できる図解イラスト/キャプション:iDeCoは「積み立てるとき」「運用しているとき」「受け取るとき」の3つの場面で税制優遇を受けられます]

■ メリットだけじゃない!実務上の注意点・落とし穴

【結論】60歳以降の拠出継続には要件や上限額の確認が欠かせません。特に「拠出限度額」「受給開始年齢のルール」「勤務先の制度変更」の3点は事前確認が必須です。

◆ 拠出限度額は勤務先の企業年金の有無で変わる

iDeCoの掛金には上限額があり、勤務先に企業年金があるかどうかで金額が異なります。2024年12月の制度改正により、企業年金がある会社員・公務員の上限額が引き上げられていますので、ご自身がどの区分に当てはまるか確認しておきましょう。

区分月額の拠出限度額
企業年金のない会社員2万3,000円
企業型確定拠出年金(企業型DC)のみに加入2万円(企業型DCの事業主掛金との合計枠内)
確定給付企業年金(DB)等にも加入・公務員2万円
自営業・フリーランス(第1号被保険者)6万8,000円(国民年金基金等と合算)
専業主婦・夫等(第3号被保険者)2万3,000円

表2:iDeCoの掛金拠出限度額(2024年12月改正後)

◆ 60歳から「すぐに」受け取れるとは限らない

通算加入者等期間とは、iDeCoや企業型確定拠出年金に加入していた期間を通算した年数のことです。

60歳から資産を受け取るには、この通算加入者等期間が10年以上必要です。10年に満たない場合は、期間の長さに応じて受給開始可能年齢が61歳から65歳の間に繰り下がります。裏を返せば、60歳を過ぎても慌てて受け取る必要はなく、拠出も運用も引き続き行いながら、ご自身にとって有利なタイミングで受け取りを選べるということでもあります。

◆ 会社の制度変更・再雇用時は運営管理機関への確認を

60歳以降に再雇用や役職変更、勤務先の年金制度変更(企業型DCの導入・終了など)があった場合、拠出限度額や加入資格に影響することがあります。60歳の誕生日を迎える前に、iDeCoの運営管理機関(証券会社・銀行等)や勤務先の担当部署に、拠出継続の可否と上限額を確認しておくことをお勧めします。

・60歳到達時の判定フロー

【60歳到達】   │   ▼Q1. 60歳以降も厚生年金に加入して働きますか?   │   ├─ はい ─────────────▶ 65歳の誕生日前日まで拠出継続が可能   │   └─ いいえ        │        ▼      Q2. 国民年金に任意加入しますか?        │        ├─ はい ───────▶ 65歳未満まで拠出可能(国民年金保険料の納付が必要)        │        └─ いいえ ─────▶ 60歳で掛金拠出は終了(その後は運用指図者として運用のみ継続)

[画像指示:60歳到達時に「iDeCo拠出を続けられるか」を判定するフローチャート図解イラスト/キャプション:60歳以降に厚生年金に加入して働き続けるかどうかで、拠出継続の可否が決まります]

■ 【シミュレーション】60歳から65歳まで拠出を続けた場合の節税効果

【結論】会社に企業年金がない会社員の方が、上限の月額2万3,000円を60歳から65歳まで5年間拠出し続けた場合、所得控除だけで累計約27万6,000円、運用益の非課税効果を含めると合計で約30万円の税負担軽減効果が見込めます。

・前提条件

  • Aさん(60歳、会社員、再雇用契約で65歳まで厚生年金に加入して勤務予定)
  • 勤務先に企業年金制度なし → 拠出限度額は月額2万3,000円(年額27万6,000円)
  • 所得税率10%、住民税率10%(合計20%)と仮定 ※実際の税率は課税所得金額により異なります
  • 運用利回りは年3%と仮定 ※将来の運用成果を保証するものではありません

・① 所得控除による節税効果

年間拠出額27万6,000円 × 税率20% = 5万5,200円/年

5年間の累計節税額 = 5万5,200円 × 5年 = 27万6,000円

・② 運用益非課税による節税効果

毎月2万3,000円を年利3%で5年間(60回)積み立てた場合、5年後の資産額は概算で約148万6,900円(元本合計138万円+運用益 約10万6,900円)となります。

この運用益 約10万6,900円は、通常の課税口座であれば約20.315%(約2万1,700円)が税金として差し引かれますが、iDeCoの口座内であれば非課税のため、まるごと手元に残ります。

・③ 5年間の合計効果

所得控除による節税額 27万6,000円 + 運用益非課税による節税額 約2万1,700円 = 合計 約29万7,700円の税負担軽減効果となります。

項目60歳で拠出を終了した場合65歳まで拠出を継続した場合
拠出期間60歳まで65歳まで(+5年間)
5年間の所得控除による節税額0円約27万6,000円
運用益非課税による節税効果(概算)発生しない約2万1,700円
65歳時点の上乗せ資産額(概算)0円元本+運用益 約148万6,900円

表3:拠出を60歳でやめた場合と65歳まで続けた場合の比較(概算)

【結論】もし60歳で拠出をやめていたら、約29万7,700円の税負担軽減と、約148万6,900円の資産形成の機会を失うことになります。

■ よくある質問(FAQ)

Q. 60歳になったら、iDeCoの掛金拠出は自動的に止まりますか?

A. いいえ、自動的には止まりません。60歳以降も厚生年金保険に加入して働き続ける会社員の方(国民年金第2号被保険者)は、65歳の誕生日の前日まで掛金拠出を継続できます。ただし、退職や再雇用による働き方の変化があった際は、資格の確認が必要です。

Q. 60歳以降も拠出を続けるために、特別な手続きは必要ですか?

A. 60歳到達時点で厚生年金に継続加入していれば、多くの場合、追加の手続きは不要です。ただし、定年退職後にいったん厚生年金の資格を喪失し、再雇用契約で再加入するようなケースでは、勤務先や運営管理機関に加入状況を確認しておくと安心です。

Q. 60歳になったら、すぐにiDeCoの資産を受け取ることはできますか?

A. 通算加入者等期間が10年以上ある方は60歳から受け取りが可能ですが、10年に満たない場合は、期間に応じて受給開始可能年齢が61歳から65歳の間に繰り下がります。焦って受け取らず、拠出や運用を続けながら有利なタイミングを選ぶことができます。

Q. 会社員の掛金の上限額はいくらですか?

A. 勤務先に企業年金がない会社員の場合は月額2万3,000円、企業型確定拠出年金のみに加入している場合は月額2万円が上限です(2024年12月の制度改正により、企業年金がある会社員の上限額が引き上げられています)。ご自身の上限額は、給与明細や勤務先の担当部署、運営管理機関からのお知らせで確認できます。

Q. 65歳になったら、それまで積み立てたiDeCoの資産はどうなりますか?

A. 65歳以降は新たに掛金を拠出することはできませんが、それまで積み立てた資産の運用は75歳になるまで継続できます。受け取り開始のタイミングは60歳から75歳の間で選ぶことができるため、65歳の時点ですぐに受け取る必要はありません。

■ まとめ&ご相談のご案内

最後に、この記事の要点を3つにまとめます。

  • 60歳以降も厚生年金に加入して働く会社員は、iDeCoの掛金拠出を65歳まで続けられます。
  • 拠出を続けることで、所得控除・運用益非課税・受け取り時の税制優遇という3つのメリットを最大5年分積み増せます。
  • 拠出限度額や受給開始年齢のルールは個人の働き方や加入期間によって異なるため、事前の確認が欠かせません。

【結論】税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

M&Aとは?

2026-09-08

中学生でも分かる「会社の売り買い」の仕組みと中小企業の後継ぎ問題

「M&Aって最近よく聞くけど、結局なにをすることなの?」——そう感じたことはありませんか。会社が会社を買う、というニュースは目にしても、その中身は意外と説明されていません。

結論からお伝えすると、M&Aとは「会社を買う・売る・合体させる」ことです。この記事を読めば、M&Aの基本的な仕組みから、なぜ多くの中小企業がM&Aを選ぶのか、その理由まで、専門知識がなくても完全に理解できるようになります。

M&Aとは、ひとことで言うと

M&Aとは、ある会社が別の会社を「買う」「売る」、または複数の会社が「合体する」ことです。英語のMergers(合併)とAcquisitions(買収)の頭文字を取った言葉で、会社という「モノ」を売り買いする取引全般を指します。

たとえば、あなたが小さなパン屋さんを経営していて、となり町の人気ケーキ屋さんを丸ごと買い取るとします。看板もお店もお客さんも、そのままあなたのものになる——これがM&Aの最もシンプルな形です。

身近な例で理解する2つのパターン

M&Aには大きく分けて「買収」と「合併」の2つの形があります。どちらも複数の会社が1つの経済圏になるという点は同じですが、方法が異なります。

種類仕組み身近なたとえ話
買収(Acquisition)会社Aが会社Bを買って、自分の子会社にするパン屋がケーキ屋を買収し、看板は残したまま自社グループに入れる
合併(Merger)会社Aと会社Bが1つの会社になるパン屋とケーキ屋が合体して「新・お菓子屋さん」という1つの会社になる

[画像指示:買収と合併の違いを表すシンプルな図解イラスト(矢印で会社が合体・吸収される様子)/キャプション:M&Aには「買収」と「合併」の2つの形がある]

なぜ会社はM&Aをするのか

結論として、会社がM&Aをする最大の理由は「時間を買う」ためです。

自分でゼロから何かを始めるには、時間もお金もかかります。すでにお店の場所や常連客を持っている会社を買えば、その苦労をショートカットできます。M&Aは大きく分けて次の2つの目的で使われます。

① 攻めのM&A(成長のため)

  • 新しい地域や事業分野に、ゼロから挑戦するのではなく、すでにその分野で実績のある会社を買うことで、短期間で事業を拡大できます。

② 守りのM&A(会社を存続させるため)

  • 後継ぎがいない社長さんが、自分の会社を他の会社に売ることで、従業員の雇用と会社の看板(事業)を守ってもらいます。

[画像指示:「攻めのM&A」と「守りのM&A」を対比させるシンプルなアイコン図解/キャプション:M&Aには成長のための攻めと、会社存続のための守りの2つの目的がある]

中小企業にとってのM&A(事業承継という視点)

近年、中小企業のM&Aで急増しているのが「後継者がいない」という理由によるものです。これを事業承継M&Aと呼びます。事業承継とは、経営者が会社の経営を次の世代に引き継ぐことを指します。

事業承継には大きく3つの道があります。次の図をご覧ください。

【事業承継の3つの道】

① 親族内承継 → 息子・娘などの親族に会社を継がせる

② 従業員承継 → 右腕として働く社員に会社を継がせる

③ M&A(第三者承継) → 社外の会社や個人に会社を売り、経営を引き継いでもらう

[画像指示:事業承継の3つの道(親族内・従業員・M&A)を分岐する矢印で示すフローチャート/キャプション:後継者不在の解決策として、M&Aは第三の選択肢として国も後押ししている]

税理士の実務視点から見た結論 中小企業のM&Aは、大企業同士の派手な買収劇とは違い、「社長の引退後も会社と従業員を守るための選択肢の一つ」という位置づけが実態に近いものです。 親族内承継・従業員承継と並ぶ「第三の選択肢」として、国も税制優遇や補助金でM&Aによる事業承継を後押ししています。

M&Aの基本的な流れ(超シンプル版)

M&Aは、思いついたその日に成立するものではなく、いくつかの段階を踏んで進みます。全体像をつかんでおくだけでも、不安はぐっと減ります。

① 検討・相談 → ② 相手探し(マッチング) → ③ 秘密保持契約 → ④ トップ面談・条件交渉 → ⑤ デューデリジェンス(相手の会社の中身を確認) → ⑥ 最終契約 → ⑦ 引き継ぎ・統合

この中でも「デューデリジェンス」とは、買う側の会社が、売る側の会社の財務状況や契約関係、税務リスクなどを詳しく調べる作業のことです。ここで隠れた問題(簿外債務や未払残業代など)が見つかることも珍しくありません。

具体的なシミュレーション:小さな町工場のケース

たとえば、後継者のいない年商5,000万円の小さな町工場(社長個人が全株式を保有)を例に考えてみましょう。

項目内容
会社の状況年商5,000万円、従業員8名、社長が全株式(発行済株式100株)を保有
後継者の有無社長の子どもは別の仕事に就いており、会社を継ぐ予定なし
選んだ選択肢同業の中堅企業への株式譲渡(M&A)
譲渡価格の目安純資産+営業利益の数年分(簡易的な目安として算出、実際は精緻な企業価値評価が必要)
結果従業員の雇用は維持されたまま、社長は引退。買い手企業の傘下で工場は存続
税理士の実務視点から見た結論 株式譲渡によるM&Aの場合、売り手である社長個人には株式譲渡益に対して税金がかかります。譲渡益(譲渡価格-取得費等)に対し、原則として20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)の申告分離課税が適用されます。 廃業して会社をたたむ場合と比較すると、譲渡益に課税されるとはいえ、従業員の雇用維持や設備・取引先との関係を継続できる点で、経営者・従業員双方にとってメリットの大きい選択肢となるケースが多く見られます。

よくある質問(FAQ)

Q1. M&Aは大企業だけがやるものですか?

いいえ、違います。むしろ現在、日本国内で最も件数が増えているのは、後継者不在に悩む中小企業のM&Aです。従業員数名〜数十名規模の会社同士の取引が数多く成立しています。

Q2. M&Aをすると、従業員はクビになりますか?

必ずしもそうではありません。多くの中小企業M&Aでは、むしろ従業員の雇用継続が取引の重要な条件として盛り込まれます。買い手企業にとっても、経験を持つ従業員は貴重な財産だからです。

Q3. 会社を売ると、社長個人にお金が入るのですか?

はい。株式譲渡という方法でM&Aを行った場合、株式を保有していた社長個人が買い手から売却代金を受け取ります。ただし、その譲渡益には税金がかかりますので、事前の試算が重要です。

Q4. M&Aの相談は、会社が儲かっていないとできませんか?

赤字であっても相談は可能です。ただし、譲渡価格や買い手の見つかりやすさには影響します。早めに相談するほど、選択肢の幅は広がります。

Q5. M&Aにはどれくらいの期間がかかりますか?

案件によって幅がありますが、検討開始から最終契約まで半年〜1年半程度かかるケースが一般的です。相手探しやデューデリジェンスに時間を要するため、早期の準備が望まれます。

まとめ:会社を守り、成長させるための選択肢として

  • M&Aとは、会社を「買う」「売る」「合体させる」ことであり、成長のためにも会社存続のためにも活用される
  • 中小企業では、後継者不在を解決する「第三の事業承継の道」として、M&Aの活用が急増している
  • M&Aは検討から成立まで時間がかかるため、早めの情報収集と専門家への相談が結果を大きく左右する

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

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