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中小企業M&Aの税金を徹底比較
「会社を売る」と一言で言っても、実は方法が2つあることをご存じでしょうか。「株式譲渡」と「事業譲渡」、どちらを選ぶかによって、手取り額も手続きの手間も大きく変わってきます。
結論からお伝えすると、多くの中小企業のオーナー経営者にとっては、税負担の面で「株式譲渡」の方が手取りが多くなるケースが一般的です。ただし、買い手側の意向や会社の状況によっては事業譲渡が選ばれることもあります。この記事を読めば、それぞれの仕組みと税金の違い、具体的な手取り額のシミュレーションまで理解できます。
株式譲渡と事業譲渡とは、それぞれ何が違うのか
株式譲渡とは、会社のオーナー(株主)が保有している株式を買い手に売り渡すことで、会社の経営権を移転させる方法です。会社そのものは変わらず、社長という「持ち主」だけが交代するイメージです。
事業譲渡とは、会社という「箱」はそのまま残し、その中にある特定の事業(工場・店舗・従業員・取引先との契約など)だけを個別に買い手企業へ売り渡す方法です。八百屋さんで例えるなら、株式譲渡は「お店ごと看板ごと売る」こと、事業譲渡は「店内の商品棚と冷蔵庫だけを選んで売る」ことに近いイメージです。
[画像指示:株式譲渡(会社ごと渡す)と事業譲渡(中身だけ渡す)を対比するシンプルなイラスト/キャプション:株式譲渡は「会社ごと」、事業譲渡は「中身だけ」を譲り渡す]
株式譲渡と事業譲渡の違いを一覧で比較
両者の違いは税金だけではありません。契約の対象、許認可の扱い、手続きの煩雑さなど、実務上のポイントを一覧で整理します。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
| 譲渡の対象 | 会社の株式(経営権) | 特定の事業・資産・契約 |
| 対価の受け取り手 | 株主(社長個人) | 会社(法人) |
| 主にかかる税金 | 譲渡所得税(申告分離課税 20.315%) | 法人税等(約30〜34%)+消費税(課税資産部分) |
| 許認可・契約の引き継ぎ | 原則そのまま引き継がれる | 個別に契約を結び直す必要がある場合が多い |
| 簿外債務のリスク | 会社ごと引き継ぐため、買い手が負うリスクが高い | 個別に資産・負債を選んで引き継げるため、買い手のリスクを限定しやすい |
| 手続きの煩雑さ | 比較的シンプル | 契約の巻き直しなどで煩雑になりやすい |
それぞれの税金の仕組みを詳しく見る
株式譲渡にかかる税金:譲渡所得税
株式譲渡の場合、株式を売った社長個人に譲渡所得税が課税されます。譲渡所得は「譲渡価格-(取得費+譲渡費用)」で計算され、この譲渡所得に対して所得税15.315%(復興特別所得税を含む)と住民税5%、合計20.315%の税率が適用される申告分離課税の対象となります。給与所得など他の所得とは分離して計算されるため、税率が一定である点が特徴です。
事業譲渡にかかる税金:法人税と消費税
事業譲渡の場合、対価を受け取るのは会社(法人)です。譲渡益(譲渡価格-譲渡資産の簿価)は会社の益金となり、他の事業年度の損益と合算のうえ法人税・法人住民税・法人事業税(実効税率でおおむね30〜34%程度)が課税されます。さらに、譲渡する資産の中に土地以外の課税資産(機械設備や在庫、のれんなど)が含まれる場合は、消費税の課税対象にもなります。
また、事業譲渡で会社に残った譲渡代金を、社長個人が役員退職金や配当として受け取る場合には、さらにそこへ所得税・住民税が課税される点にも注意が必要です。これが「二重課税」と呼ばれる事業譲渡の税負担の重さにつながります。
[画像指示:株式譲渡は個人へ一段階課税、事業譲渡は法人課税+個人への分配で二段階課税となることを示す階層図/キャプション:事業譲渡は会社と個人の「二段階」で税金がかかることがある]
それぞれのメリット・デメリット
株式譲渡のメリット・デメリット
- メリット:税率が20.315%と一定で、事業譲渡に比べて手取り額が多くなりやすい
- メリット:許認可や取引契約がそのまま引き継がれるため、手続きが比較的シンプル
- デメリット:簿外債務や偶発債務も含めて会社ごと引き継がれるため、買い手がリスクを警戒しやすい
事業譲渡のメリット・デメリット
- メリット:買い手は必要な資産・契約だけを選んで引き継げるため、簿外債務のリスクを避けやすい
- メリット:不採算部門を除いた優良事業だけを譲渡するといった柔軟な設計がしやすい
- デメリット:法人税と個人への分配課税が重なりやすく、税負担は株式譲渡より重くなりがち
- デメリット:許認可や雇用契約、取引契約を個別に結び直す必要があり、手続きに手間がかかる
具体的なシミュレーション:譲渡価格1億円のケース
譲渡価格1億円、取得費(資本金等)1,000万円のケースで、株式譲渡と事業譲渡それぞれの手取り額を比較してみましょう(事業譲渡後に会社を清算し、残余財産をすべて社長が受け取る前提での簡易試算です)。
| 項目 | 株式譲渡の場合 | 事業譲渡の場合(簡易試算) |
| 譲渡価格 | 1億円 | 1億円 |
| 取得費・簿価等 | 1,000万円 | 1,000万円(帳簿価額と仮定) |
| 譲渡益 | 9,000万円 | 9,000万円 |
| 法人税等(実効税率約33%と仮定) | 課税なし(個人が直接譲渡) | 約2,970万円 |
| 会社に残る資金 | ― | 約7,030万円(1,000万円+税引後利益) |
| 個人への課税(譲渡所得税20.315%/会社清算時のみなし配当課税として概算) | 約1,828万円 | 残余財産分配に対し総合的な課税(概算で約1,500万円〜2,000万円程度) |
| 社長個人の手取り額(概算) | 約8,172万円 | 約5,000万円台〜6,000万円台程度 |
| 税理士の実務視点から見た結論 上記はあくまで簡易的な試算モデルです。実際には取得費の算定方法、会社清算時のみなし配当課税の扱い、退職金として受け取る場合の退職所得控除の活用など、個別の事情によって手取り額は大きく変動します。 一般論として、オーナー経営者個人の手取りを最大化する観点では株式譲渡が有利になりやすい一方、買い手企業が「特定の事業だけを引き継ぎたい」と希望するケースでは事業譲渡が選択されることもあります。どちらを選ぶべきかは、必ず個別の試算のうえで判断することを強く推奨します。 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 株式譲渡と事業譲渡、どちらを選べば必ず得ということはありますか?
一概には言えません。多くのケースでオーナー個人の手取りは株式譲渡の方が多くなる傾向がありますが、買い手側が不採算部門を除外したい場合や、簿外債務を避けたい場合は事業譲渡が選ばれることもあります。会社の状況ごとの試算が不可欠です。
Q2. 事業譲渡の場合、退職金として受け取れば税金は安くなりますか?
役員退職金には退職所得控除という優遇措置があり、通常の給与や配当に比べて税負担が軽くなる場合があります。ただし、退職金として認められる金額には功績倍率などの目安があり、過大な金額は損金として認められないリスクもあるため、事前の設計が重要です。
Q3. 消費税は必ずかかるのですか?
株式譲渡の場合、株式の譲渡は消費税の非課税取引にあたるため消費税はかかりません。一方、事業譲渡では、譲渡する資産のうち土地や有価証券などの非課税資産を除いた機械設備・棚卸資産・のれんなどには消費税が課税されます。
Q4. 中小企業の事業承継税制を使えば、税金はゼロになりますか?
事業承継税制は、後継者が株式を贈与・相続で引き継ぐ場合の納税を猶予・免除する制度であり、第三者へのM&A(株式譲渡)とは適用場面が異なります。M&Aによる譲渡益への課税を直接ゼロにする制度ではない点にご注意ください。
まとめ:手法の選択が手取り額を大きく左右する
- 株式譲渡は会社ごと譲渡し、個人に譲渡所得税20.315%が課税される、比較的シンプルな仕組み
- 事業譲渡は事業の中身だけを譲渡し、法人税等に加えて個人への分配時にも課税されうるため、税負担が重くなりやすい
- どちらが有利かは会社の状況や買い手の意向によって異なるため、必ず事前の試算に基づいて判断することが重要
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください.
