退職日は「1日」で数十万円変わる!

年金と失業手当を同時にもらう仕組みを税理士がやさしく解説

「そろそろ定年だけど、年金と失業手当は同時にもらえないと聞いた」——そう思い込んで、何十万円も損をしてしまう人が少なくありません。じつは、退職日をたった1日調整するだけで、年金と失業手当を同時に受け取れる合法的な仕組みがあります。この記事を読めば、退職日をいつにすればよいか、なぜそれで得をするのか、実際にいくら差が出るのかが、数字とともにはっきり分かります。結論から言うと、ポイントは「65歳の誕生日の2日前までに退職すること」です。

なぜ年金と失業手当は「原則」同時にもらえないのか

併給調整とは、複数の公的な給付を同時に受け取れる場合に、片方の支給額を減らしたり止めたりして、給付が重複しすぎないように調整する仕組みのことです。年金と失業手当(雇用保険の基本手当)の間にも、この併給調整があります。

たとえば、60歳から65歳になるまでの間に受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」をもらっている人が、退職して失業手当(基本手当)を受け取ろうとすると、年金のほうが支給停止になります。お小遣い帳にたとえると、お父さんとお母さんの両方から同じ目的のお小遣いをもらおうとしても、片方から「もう渡さなくていいよ」と止められてしまうようなイメージです。

また、年金の繰上げ受給をしている場合も、失業手当を受け取っている期間は、老齢基礎年金は支給されますが、老齢厚生年金は支給停止となります。このように、年金と失業手当は「原則として同時には満額もらえない」というのが、雇用保険と年金制度の基本ルールです。

「64歳11か月」で退職すると年金と失業手当を同時に受け取れる仕組み

税理士の実務視点から見た結論をお伝えします。65歳になる2日前までに退職し、65歳になってからハローワークで求職の申込みをすれば、年金と失業手当(基本手当)を同時に受け取ることができます。これは、雇用保険法における「年齢の数え方」の特例を利用した、正式な制度上の仕組みです。

雇用保険法上の「年齢」は誕生日の前日に加算される

雇用保険法上の年齢とは、誕生日の前日に1歳加算されるという民法の考え方に基づいて数える年齢のことです。つまり、65歳の誕生日の前日にはすでに「65歳」として扱われ、その前々日までは「64歳」として扱われます。

この1日の差が、受け取れる給付の種類を大きく分けます。65歳未満(64歳)で退職して求職の申込みをすると、日数の多い「基本手当(一般の失業手当)」の対象になります。一方、65歳以上で退職すると、「高年齢求職者給付金」という別の一時金の対象になり、もらえる総額が少なくなる傾向があります。

誕生日ごとの退職日の具体例

誕生日64歳として扱われる最終退職日65歳として扱われる退職日
4月2日生まれ3月31日(誕生日の前々日)4月1日(誕生日の前日)以降
10月10日生まれ10月8日(誕生日の前々日)10月9日(誕生日の前日)以降

上の表のとおり、誕生日の前々日までに退職すれば「64歳」として扱われ、誕生日の前日以降に退職すると「65歳」として扱われます。たった1日の退職日の違いで、受け取れる制度が変わる点に注意が必要です。

🖼 誕生日カレンダー上に「前々日退職=64歳扱い」「前日退職=65歳扱い」を対比させた図解イラスト / キャプション:たった1日の退職日の違いが、もらえる給付の種類を変える

退職から受給までの流れ(フローチャート)

① 退職日を決める

② 誕生日の何日前に辞めるかを確認する(65歳の誕生日の2日前までは「64歳」扱い)

③-A【誕生日の前々日までに退職】→ 手続き上は64歳のまま

 → 65歳になってからハローワークで求職の申込み

 → 基本手当(最大150日分)を年金と同時に受給できる

③-B【誕生日の前日以降に退職】→ 手続き上は65歳

 → 高年齢求職者給付金(最大50日分の一時金)のみが対象

64歳退職と65歳退職で何が変わるのか(比較表)

基本手当と高年齢求職者給付金は、どちらも失業中の生活を支える給付ですが、支給日数や受け取り方に違いがあります。この違いこそが、退職日を1日調整する価値がある理由です。

項目64歳11か月で退職(基本手当)65歳以降に退職(高年齢求職者給付金)
給付の種類基本手当(いわゆる失業保険)高年齢求職者給付金(一時金)
年金との同時受給手続き次第で同時受給が可能そもそも併給調整の対象外で同時受給できる
支給日数の上限被保険者期間に応じて90日~150日被保険者期間1年未満は30日、1年以上は50日
受け取り方原則4週間ごとに分割して支給要件を満たせば一括で一時金として支給
受給できる期間離職日の翌日から原則1年以内離職日の翌日から1年以内

メリット

  • 64歳11か月で退職すれば、年金を受け取りながら、支給日数の多い基本手当も受け取れる
  • 被保険者期間が長い人ほど、基本手当と高年齢求職者給付金の差額が大きくなりやすい

デメリット・注意点

  • 64歳11か月での退職は、会社の定年制度によっては自己都合退職の扱いになりやすい
  • 求職の申込みが遅れると、受給期間から外れた分の給付日数を受け取れなくなる

実務上の注意点・落とし穴

特別支給の老齢厚生年金は生年月日によって対象外になる

特別支給の老齢厚生年金とは、原則65歳から支給される老齢厚生年金を、生年月日に応じて60歳から64歳の間に前倒しで受け取れる経過措置のことです。ただし、男性は昭和36年4月2日以降生まれ、女性は昭和41年4月2日以降生まれの人は、この特別支給の対象外であり、65歳になってから通常の老齢厚生年金を受け取ることになります。この場合、64歳の時点ではそもそも年金と失業手当の併給調整自体が生じないため、退職日を調整する意味合いが変わってきます。ご自身が対象かどうかは、日本年金機構から届く「年金請求書」やねんきんネットで必ず確認してください。

給付制限期間に注意する

正当な理由のない自己都合退職の場合、7日間の待期期間に加えて、原則1か月の給付制限期間が設けられます。この給付制限期間中は基本手当が支給されません。なお、2025年4月の制度改正により、この給付制限期間は従来の2か月から1か月に短縮されました。ただし、退職日から過去5年以内に自己都合退職を3回以上している場合は、給付制限期間が3か月になる点に注意が必要です。

求職の申込みは早めに行う

基本手当を受け取れる「受給期間」は、離職日の翌日から原則1年間と決まっています。求職の申込みが遅れて受給期間からはみ出してしまうと、所定給付日数が残っていても、その分は受け取れなくなります。64歳11か月で退職した場合、65歳になってから求職の申込みをする必要があるため、退職後はできるだけ早くハローワークに相談することが大切です。

定年後にひと休みしたい人は「受給期間延長制度」も選択肢に

60歳以上(65歳未満)で定年退職した場合、体調を整えるためにすぐには働かないという選択をする人もいます。そのようなときは、失業手当の受給期間の延長申請制度を利用すると、受給期間を最長1年間延長できます。退職日の翌日から2か月以内にハローワークで申請すれば、あわてずに次のステップを考える時間を確保できます。

具体的なシミュレーション:退職日でいくら差がつくのか

ここでは、令和8年8月以降に適用されている基本手当日額の上限(60歳以上65歳未満:7,830円)をもとに、退職日による受給額の違いを試算します。

ケース1:Aさん(雇用保険の被保険者期間25年、64歳11か月で退職)

  • 被保険者期間が20年以上のため、所定給付日数は150日
  • 基本手当日額は上限の7,830円で計算
  • 受給見込み額:7,830円 × 150日 = 117万4,500円

Aさんは、65歳になった直後にハローワークで求職の申込みをすることで、年金を受け取りながら、この基本手当を同時に受け取ることができます。

ケース2:Bさん(同じ雇用保険の被保険者期間25年、65歳になってから退職)

  • 65歳以降の退職のため、高年齢求職者給付金の対象(被保険者期間1年以上なので50日分)
  • 給付金の日額も上限7,830円で計算
  • 受給見込み額:7,830円 × 50日 = 39万1,500円(一時金)
 Aさん(64歳11か月で退職)Bさん(65歳以降に退職)
受給する給付基本手当高年齢求職者給付金
支給日数150日50日
受給見込み額約117万4,500円約39万1,500円
年金との同時受給可能可能

同じ被保険者期間、同じ年収であっても、退職日を1日調整するかどうかで、受け取れる給付総額に約78万円もの差が生まれる計算になります。

🖼 同じ年収・同じ勤続年数の2人が、退職日の違いによって受け取る金額に差が出る様子を、家計簿やお財布のイラストで対比する図解 / キャプション:退職日の1日の差が、老後の受け取り総額を大きく左右する

よくある質問(FAQ)

Q. 年金をすでにもらっている場合、退職すればすぐに失業手当と両方もらえますか?

A. いいえ、原則として、特別支給の老齢厚生年金は失業手当(基本手当)と同時には受け取れません。65歳になる2日前までに退職し、65歳になってからハローワークで求職の申込みをすることで、基本手当を受け取れる仕組みを活用する必要があります。

Q. 64歳11か月で退職すると、退職金や有給消化に影響はありますか?

A. 退職金や有給休暇の扱いは、年齢ではなく、勤務先の就業規則や労働契約の定めによります。定年年齢を60歳や65歳と定めている会社では、定年前の退職が自己都合退職として扱われる場合があるため、退職前に人事担当者へ確認しておく必要があります。

Q. 65歳以降に退職した場合は、年金と失業手当を同時にもらえないのですか?

A. いいえ、65歳以降に退職した場合、そもそも年金と高年齢求職者給付金は併給調整の対象外なので同時に受け取れます。ただし、高年齢求職者給付金は基本手当より支給日数の上限が少なく、受け取れる総額は基本手当より少なくなる傾向があります。

Q. 求職の申込みが遅れるとどうなりますか?

A. 基本手当を受け取れる受給期間は、原則、離職日の翌日から1年間と決まっています。申込みが遅れて受給期間を過ぎてしまうと、所定給付日数が残っていても、その分は受け取れなくなります。退職後はできるだけ早くハローワークで手続きすることが重要です。

Q. 定年退職後、すぐに働く気になれない場合はどうすればいいですか?

A. 60歳以上で定年退職した場合、失業手当の受給期間を最長1年間延長できる「受給期間延長制度」があります。退職日の翌日から2か月以内にハローワークで申請すれば、心身を休めてから改めて求職活動を始めることができます。

まとめ:退職日はたった1日で、受け取れる金額が大きく変わる

  • 雇用保険法上、65歳の誕生日の2日前までに退職すれば「64歳」として扱われ、年金と失業手当(基本手当)を同時に受け取れます。
  • 65歳の誕生日の前日以降に退職すると、支給日数の少ない高年齢求職者給付金のみとなり、受け取れる総額が少なくなる可能性があります。
  • 退職日はたった1日の差で受け取れる金額が大きく変わるため、退職前に必ず制度と自分の生年月日・被保険者期間を確認することが大切です。

税務・社会保険の判断は、勤続年数や生年月日、加入していた年金の種類など、お一人おひとりの状況によって結論が異なります。自己判断で手続きを進めて損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

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退職日をたった1日変えるだけで、年金と失業手当を同時に受け取れることをご存知ですか。雇用保険法上の年齢の数え方や、64歳11か月で退職する仕組み、具体的な受給額のシミュレーションまで、実務の視点でわかりやすく解説します。

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