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「働くと年金が減る」は変わった?
在職老齢年金の改正で、65歳以上の社長が見直すべき役員報酬の決め方|62万円基準の計算方法とシミュレーション
「役員報酬をもらっていると、年金がカットされるから仕方ない」
65歳を過ぎても会社の先頭に立ち続ける社長から、こうした声をよく聞きます。実際、これまでは役員報酬と年金の合計が月51万円(2025年度)を超えると、年金の一部または全部が止められていました。年金のために、あえて役員報酬を低く抑えてきた社長も少なくありません。
ところが、2026年4月から、この基準が月62万円へ大きく引き上げられました。これまで年金が減らされていた社長の中には、年金を全額受け取れるようになる方も出てきます。一方で、「年金をもらうために報酬を下げる」という判断が、かえって損になるケースもあります。
この記事では、在職老齢年金の仕組みと今回の改正の中身、そして社長が役員報酬をどう決めればよいかを、具体的な数字のシミュレーションで分かりやすく解説します。
| 【この記事の結論】 ① 2026年4月から、年金が減らされる基準が月51万円から月62万円へ上がりました。「年金の月額(報酬比例部分)+役員報酬の月額相当」が62万円以下なら、年金は全額受け取れます。 ② 年金のために役員報酬を下げるのは、個人の手取りだけを見ると多くの場合「損」です。報酬を下げた額に比べて、増える年金はその一部にすぎません。 ③ 役員報酬は「年金」ではなく「会社に残すお金と将来の退職金」まで含めて決めるのが正解です。報酬の変更は事業年度の始めから3か月以内という税務上の制約もあるため、来期に向けた早めの検討が必要です。 |
在職老齢年金とは?仕組みをやさしく解説
結論から言うと、在職老齢年金は「厚生年金に加入して働きながら年金を受け取る人の、年金を一部調整する仕組み」です。
在職老齢年金とは、60歳以上で厚生年金保険に加入して働きながら老齢厚生年金を受け取る人について、給与や役員報酬と年金の合計が一定額を超えた場合に、年金の一部または全部の支給を止める仕組みのことです。
身近なたとえで言えば、「家庭のお小遣いのルール」のようなものです。アルバイト代がたくさん入る月は、親からのお小遣いを少し減らす——そんなイメージです。ただし減らされるのは、超えた分の「半分」だけです。
計算に使う2つの金額
基本月額とは、老齢厚生年金のうち報酬比例部分の年額を12で割った金額のことです。加給年金や、国民年金から支給される老齢基礎年金は含みません。
総報酬月額相当額とは、その月の標準報酬月額に、直近1年間に受け取った賞与(標準賞与額)の合計を12で割った額を足した金額のことです。役員報酬だけでなく、役員賞与も含まれる点がポイントです。
年金が止められる額の計算式
| 【計算式】 基本月額 + 総報酬月額相当額 ≦ 62万円 → 年金は全額支給 基本月額 + 総報酬月額相当額 > 62万円 → (基本月額 + 総報酬月額相当額 − 62万円)× 1/2 が、毎月の年金から止められる |
止められない年金もある
- 老齢基礎年金(国民年金部分):在職老齢年金の対象外で、いくら報酬があっても全額支給されます。
- 加給年金:老齢厚生年金が一部でも支給されていれば全額支給されます。ただし、老齢厚生年金が全額止められると、加給年金も止められます。
- 繰下げによる増額:年金の受け取りを遅らせる「繰下げ」をしても、在職老齢年金で止められるはずだった部分は増額の対象になりません。
| [画像指示:「基本月額+総報酬月額相当額」が62万円を超えた部分の半分だけ年金が止められる仕組みを、棒グラフで示した図解イラスト / キャプション:止められるのは、62万円を超えた部分の「半分」だけです] |
2026年4月の改正で何が変わったのか
結論として、変わったのは「年金が止められ始める基準額」です。計算式そのものは変わっていません。
| 項目 | 改正前(2025年度) | 改正後(2026年4月〜) |
| 支給停止調整額(基準額) | 51万円 | 62万円 |
| 止められる額の計算 | 超えた額の1/2 | 超えた額の1/2(変更なし) |
| 老齢基礎年金 | 対象外 | 対象外(変更なし) |
| 基準額の見直し | 賃金の変動に応じて毎年度改定 | 賃金の変動に応じて毎年度改定(62万円は2024年度の賃金水準で定めた額) |
国の試算では、この改正によって、新たに約20万人が年金を全額受け取れるようになるとされています。中小企業の社長は、まさにその中心となる層です。
もう一つの改正:厚生年金の「標準報酬月額の上限」が段階的に上がる
同じ年金制度の改正で、厚生年金保険料の計算に使う標準報酬月額の上限(現在65万円)が、2027年9月から68万円、2028年9月から71万円、2029年9月から75万円へと段階的に引き上げられる予定です。月65万円を超える役員報酬を受け取っている社長は、保険料の負担が増えるうえに、総報酬月額相当額も増えるため、年金の止められる額が大きくなる可能性があります。高額な報酬を受け取っている社長ほど、今後の見直しが必要です。
| 税理士の実務視点 65歳以上で働きながら厚生年金に加入している方は、毎年9月に、その年の8月までに納めた保険料を年金額に反映する「在職定時改定」が行われます。つまり、役員報酬を受け取りながら保険料を納め続けることは、年金を少しずつ増やすことにもつながります。「保険料を払っても損」と決めつけず、全体で判断することが大切です。 |
役員報酬の決め方:実務上の注意点と落とし穴
結論として、役員報酬の見直しには「税金のルール」「社会保険のルール」「年金のルール」の3つが同時に関わります。どれか一つだけで判断すると、思わぬ損失が生じます。
落とし穴① 役員報酬は「いつでも変えられる」わけではない
定期同額給与とは、毎月同じ額を支給する役員報酬のことで、この形で支給しないと会社の経費(損金)になりません。報酬額を変えられるのは、原則として事業年度の開始から3か月以内(定時株主総会で改定するのが一般的)に限られます。年の途中で「年金のために報酬を下げよう」と思っても、業績の著しい悪化などの特別な理由がなければ、変更前後の差額が経費として認められなくなるおそれがあります。
落とし穴② 賞与に振り替えても年金の計算からは逃れられない
総報酬月額相当額には、直近1年間の賞与も含まれます。月額報酬を下げて役員賞与を増やしても、原則として年金の計算に反映されます。また、役員賞与は事前確定届出給与として税務署に届け出なければ経費になりません。社会保険料の上限の仕組みを利用して高額の賞与を支給する方法が紹介されることもありますが、税務上の要件が厳しく、制度の趣旨からも慎重な判断が必要です。
落とし穴③ 70歳を過ぎても在職老齢年金は続く
厚生年金の加入は70歳までですが、70歳以上でも会社で働き続け、役員報酬を受け取っていれば、在職老齢年金の仕組みは引き続き適用されます。保険料の負担はなくなりますが、年金の調整は続く点に注意しましょう。
落とし穴④ 「非常勤役員」にすれば済むとは限らない
常勤でない役員は厚生年金に加入しないため、在職老齢年金の対象から外れることがあります。ただし、常勤か非常勤かは、役員会への出席状況や業務の内容、報酬の額など実態で判断されます。肩書だけ非常勤にしても、実際には毎日出社して経営判断をしていれば、加入が必要と判断されます。
役員報酬を見直す判断ステップ
| STEP1 ねんきん定期便などで「基本月額」を確認する 老齢厚生年金の報酬比例部分の年額を確認し、12で割って基本月額を出します。 |
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| STEP2 現在の「総報酬月額相当額」を確認する 標準報酬月額と、直近1年の役員賞与を確認します。 |
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| STEP3 62万円との差を計算する 合計が62万円以下なら、年金は全額支給です。超えている場合は、止められている額を計算します。 |
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| STEP4 個人と会社の「トータルの手取り」で比べる 報酬を変えた場合の、個人の手取り、会社に残るお金、将来の退職金をあわせて比較します。 |
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| STEP5 来期の定時株主総会で報酬を決定する 事業年度の開始から3か月以内に改定し、議事録を残します。 |
シミュレーション:役員報酬月50万円と月80万円の社長の場合
結論から言うと、月50万円の社長は今回の改正で年66万円の年金が復活します。一方、月80万円の社長が年金のために報酬を月50万円に下げると、年金は年90万円増えますが、個人の手取りは約156万円減る計算になります。
前提条件
- 68歳の社長。老齢厚生年金(報酬比例部分)は年144万円(基本月額12万円)
- 役員賞与はなし。厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円
- 法人税等の実効税率は約33%と仮定
- 税金・社会保険料は分かりやすさを優先した概算です
ケース① 役員報酬が月50万円の社長
| 項目 | 改正前(基準51万円) | 改正後(基準62万円) |
| 基本月額+総報酬月額相当額 | 12万円+50万円=62万円 | 12万円+50万円=62万円 |
| 止められる額(月) | (62万円−51万円)×1/2=5.5万円 | 0円(62万円以下) |
| 止められる額(年) | 66万円 | 0円 |
| 受け取れる老齢厚生年金(年) | 78万円 | 144万円(全額) |
報酬を変えなくても、改正だけで年66万円の年金が受け取れるようになります。
ケース② 役員報酬が月80万円の社長が、月50万円に下げた場合
月80万円の場合、総報酬月額相当額は上限の65万円で計算されるため、(12万円+65万円−62万円)×1/2=月7.5万円、年90万円の年金が止められます。報酬を月50万円に下げると、ケース①と同じく年金は全額支給になります。
| 項目 | 社長個人への影響(年額) | 会社への影響(年額) |
| 役員報酬 | ▲360万円 | 支払いが360万円減る |
| 老齢厚生年金 | +90万円 | ― |
| 社会保険料 | 本人負担が約34万円減る | 会社負担が約35万円減る |
| 所得税・住民税 | 約80万円減る | ― |
| 法人税等 | ― | 利益が約395万円増え、約130万円増える |
| 差し引き | 手取りが約156万円減る | 会社に残るお金が約265万円増える |
| 【シミュレーションから分かること】 社長個人の手取りだけを見ると、年金のために報酬を下げるのは年約156万円の損です。年金が増える額(90万円)よりも、報酬が減る額(360万円)の方がはるかに大きいためです。 一方で、会社には税引き後で約265万円が残ります。この資金を、将来の役員退職金の原資として積み立てれば、退職所得控除と「2分の1課税」という税負担の軽い形で受け取ることができます。 つまり、判断の基準は「年金が増えるか」ではなく、「いま報酬で受け取るか、会社に残して退職金で受け取るか」という生涯の手取りの設計です。 |
| 【要注意】退職金で受け取るには「本当に退職した」と言える実態が必要です 社長が引き続き経営の中心にいるのに、役員報酬を下げただけで退職金を支給すると、税務上は退職金と認められず、役員賞与として会社の経費にならないおそれがあります。社長から会長へ退くなど役員の立場を変えて退職金を支給する場合は、報酬が大幅に下がり、経営の実権を後継者に移していることが必要です。退職金の額も、在任年数や功績に照らして過大でないことが求められます。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 在職老齢年金の基準額は、2026年4月からいくらになりましたか?
A. 月62万円です(2024年度の賃金水準で定めた額で、毎年度の賃金の変動に応じて改定されます)。基本月額と総報酬月額相当額の合計がこの額以下であれば、老齢厚生年金は全額支給されます。
Q. 国民年金(老齢基礎年金)も減らされますか?
A. いいえ。在職老齢年金で調整されるのは老齢厚生年金だけです。老齢基礎年金は、役員報酬の額にかかわらず全額支給されます。
Q. 年金の受け取りを遅らせれば(繰下げ)、止められた分も増えますか?
A. いいえ。在職老齢年金によって止められるはずだった部分は、繰下げをしても増額の対象になりません。役員報酬が多い社長は、繰下げの効果が小さくなる点に注意が必要です。
Q. 役員報酬は年の途中で下げることができますか?
A. 原則として、事業年度の開始から3か月以内の改定でなければ、会社の経費として認められない部分が生じます。業績の著しい悪化など特別な理由がある場合を除き、来期の定時株主総会に向けて計画的に検討しましょう。
Q. 70歳を過ぎれば、在職老齢年金は関係なくなりますか?
A. いいえ。70歳以上は厚生年金の保険料はかかりませんが、会社で働いて役員報酬を受け取っていれば、在職老齢年金の仕組みは引き続き適用されます。
まとめ:役員報酬は「年金」ではなく「生涯の手取り」で決める
| 【3行まとめ】 1.2026年4月から年金が止められる基準は月62万円に。月50万円前後の報酬の社長は、年金が全額受け取れるようになる可能性があります。 2.年金のために報酬を下げると、個人の手取りは多くの場合減ります。判断は会社に残るお金まで含めて行いましょう。 3.報酬の変更は事業年度の始めから3か月以内。退職金・事業承継の計画とセットで、来期に向けて今から準備を。 |
在職老齢年金の改正は、長く会社を率いてきた社長にとって、役員報酬と年金、そして退職金の関係を見直す絶好の機会です。ただしこのテーマは、法人税・所得税という「税金」と、厚生年金・健康保険という「社会保険」、さらに事業承継まで関わる、専門家の連携が欠かせない分野でもあります。
当事務所では、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携し、年金の受給額の試算から、役員報酬の最適な水準、役員退職金の規程づくり、後継者への事業承継計画まで、一体でサポートしています。国税OBの税理士も在籍しており、役員報酬や役員退職金のように税務調査で確認されやすい論点についても、調査官の視点を踏まえて設計します。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「自分の年金は今回の改正でいくら増えるのか知りたい」「来期の役員報酬と退職金をどう設計すればよいか相談したい」——決算前の今こそ、最も効果の大きいタイミングです。オンラインでのご相談も承っています。 |
忘年会・社員旅行・お歳暮はどこまで経費にできる?
福利厚生費と交際費の線引きを税理士が具体例でスッキリ解説|税務調査で否認されない記録のコツ
「今年の忘年会、会社のお金で払っても大丈夫?」「二次会の分も経費にしていいの?」「社員旅行は全額経費になると聞いたけれど本当?」
年末が近づくと、忘年会や社員旅行、取引先へのお歳暮など、会社としてお金を使う場面が一気に増えます。せっかく社員をねぎらうために使ったお金が、あとから税務調査で「これは経費になりません」「社員への給与です」と指摘されてしまっては、元も子もありません。
この記事では、年末に増える支出を「福利厚生費」「交際費」「給与」のどれとして扱うべきかを、身近な例を使って一読で分かるように解説します。さらに、忘年会への参加が「仕事」になるのかという労務の視点や、社員旅行で思わぬ課税が生じるケースのシミュレーションまで紹介します。
| 【この記事の結論】 ① 社員全員が対象の忘年会は「福利厚生費」として経費にできます。ただし、一部の人だけの二次会や、社長と役員だけの飲み会は「交際費」になります。 ② 取引先との飲食やお歳暮は「交際費」です。中小企業は年800万円まで経費にでき、1人1万円以下の飲食は記録を残せば交際費から外せます。 ③ 最大の落とし穴は「社員への給与扱い」です。社員旅行の要件を満たさない場合や、商品券を配った場合は、社員の給与として源泉所得税がかかります。 |
まず押さえたい3つの区分:福利厚生費・交際費・給与
結論から言うと、年末の支出は「誰のために」「誰が対象で」「何のために」使ったかで、福利厚生費・交際費・給与の3つに分かれます。
福利厚生費とは、社員全員が平等に利用できるように、会社が社員の働きやすさや健康、親睦のために支出する費用のことです。
交際費とは、取引先など事業に関係のある人に対して、接待や贈り物、お祝いなどのために支出する費用のことです。一部の社員や役員だけを対象にした飲食も、交際費に含まれます。
給与(現物給与)とは、お金そのものではなくても、会社から社員個人に経済的な利益が与えられた場合に、給与として扱われるもののことです。
クラスの打ち上げにたとえると、クラス全員を誘って先生が出すジュース代は「福利厚生費」、他のクラスの先生をもてなすお茶代は「交際費」、仲の良い数人にだけ配るお小遣いは「給与」のようなイメージです。
| 区分 | 主な例 | 会社の経費(損金)になるか | 社員への課税 |
| 福利厚生費 | 全員参加の忘年会、要件を満たす社員旅行 | なる | なし |
| 交際費 | 取引先の接待、お歳暮、役員だけの飲み会、一部の社員だけの二次会 | 中小企業は年800万円までなる(または接待飲食費の50%) | なし |
| 給与 | 社員に配る商品券、要件を満たさない社員旅行、特定の人だけへの贈り物 | なる(役員の場合は原則ならない) | あり(源泉所得税) |
| [画像指示:支出を「誰のため・誰が対象・何のため」の3つの質問で福利厚生費・交際費・給与に振り分けるフローチャート風イラスト / キャプション:同じ飲食代でも、対象者と目的で勘定科目が変わります] |
忘年会の費用はどこまで経費になる?
結論として、社員全員を対象とし、常識的な金額で行う一次会は福利厚生費になります。一方で、参加者が限られる二次会や、高級すぎる会場での開催は交際費や給与と判断されやすくなります。
福利厚生費になるための3つの条件
- 全員が対象であること:全社員(または全部署の社員)に参加の機会があること。結果的に欠席者がいても問題ありません。
- 常識的な金額であること:法律で決まった金額はありませんが、一般的な忘年会の水準を大きく超えないこと。実務上は1人あたり数千円〜1万円程度が一つの目安です。
- 会社の行事として行うこと:会社の行事として案内し、会社が費用を負担すること。
二次会・役員だけの会・家族の参加はどうなる?
| ケース | 扱い | 理由 |
| 全社員を対象にした一次会 | 福利厚生費 | 全員に参加の機会があるため |
| 希望者だけで行く二次会 | 交際費 | 参加者が限られるため |
| 社長と役員だけの忘年会 | 交際費 | 役員だけを対象にしているため |
| 取引先を招いた忘年会 | 交際費 | 取引先をもてなす目的が含まれるため |
| 社長が家族だけで行った食事 | 経費にならない(役員賞与と判断されるおそれ) | 事業との関係がないため |
| 1人あたり数万円の高級店での開催 | 交際費または給与と判断されやすい | 常識的な金額を超えるため |
■ 個人事業主の場合
個人事業主には、法人のような交際費の上限はありません。事業に必要な支出であれば必要経費になります。ただし、従業員がいない個人事業主が一人で行う「忘年会」や、家族だけの食事は、事業との関係が説明できないため必要経費にはなりません。
| 税理士の実務視点 税務調査で確認されるのは、金額よりも「誰が参加したか」です。忘年会の案内文(全社員宛のメールや掲示)と参加者名簿、領収書をセットで保管しておけば、福利厚生費であることを明確に説明できます。逆に、領収書しか残っていないと、役員だけの飲み会ではないかと疑われる原因になります。 |
社員旅行は「4泊5日」と「参加率50%」が分かれ目
結論として、社員旅行は旅行期間が4泊5日以内(海外旅行は現地での滞在日数)で、参加者が全社員の50%以上であれば、原則として社員への給与にはならず、福利厚生費として経費にできます。
このほか、会社が負担する金額が常識的な範囲であることも必要です。国税庁は、会社負担が1人あたり10万円程度の旅行を、給与として課税しなくてよい例として示しています。
社員旅行の判定ステップ
| STEP1 旅行期間は4泊5日以内か 海外旅行の場合は、機内泊を除いた現地での滞在日数で判定します。超える場合は給与として課税されます。 |
| ▼ |
| STEP2 参加者は全社員の50%以上か 工場や支店ごとに行う場合は、その職場の人数の50%以上で判定します。満たさない場合は、参加者への給与として課税されます。 |
| ▼ |
| STEP3 会社の負担額は常識的な範囲か 1人あたり10万円程度が目安とされています。豪華すぎる旅行は給与と判断されることがあります。 |
| ▼ |
| STEP4 不参加者に現金を渡していないか 自分の都合で参加しなかった人に現金を支給すると、参加者を含めた全員に、その現金と同じ額の給与があったものとされます。 |
| 【要注意】役員だけの旅行や、取引先との旅行は福利厚生費になりません 役員だけが参加する旅行は、社員全員を対象としていないため福利厚生費にはなりません。役員への給与(役員賞与)と判断されると、会社の経費にならず、役員個人にも所得税がかかります。また、取引先を招待する旅行は交際費です。 |
お歳暮・取引先の接待・社員への商品券の扱い
結論として、取引先へのお歳暮や接待は交際費、社員に配る商品券は給与です。特に商品券は「現金と同じもの」として扱われるため、少額でも課税されます。
取引先へのお歳暮と接待飲食
取引先へのお歳暮やお中元、接待の飲食代は交際費です。中小企業(資本金1億円以下の法人など)は、年800万円までの交際費を全額経費にできるか、接待飲食費の50%を経費にできるか、有利な方を選べます。多くの中小企業では、800万円の範囲に収まるため、交際費だから税金が増えるということはほとんどありません。
また、取引先との飲食で1人あたり1万円以下(2024年4月以降の支出分)のものは、交際費から外して「会議費」などとして扱えます。そのためには、飲食の日付、参加者の氏名と関係、人数、金額、店名を記録しておく必要があります。
社員への年末の贈り物
| 渡すもの | 扱い | ポイント |
| 全社員に同じ品物(お菓子・タオルなど) | 福利厚生費 | 少額で、全員に同じものを渡すこと |
| 商品券・ギフトカード・現金 | 給与(源泉所得税の対象) | 金額にかかわらず現金と同じ扱い |
| 特定の社員だけに高価な品物 | 給与 | 一部の人だけへの経済的利益になるため |
消費税の扱いにも注意
福利厚生費や交際費として支払った飲食代やお歳暮の品物代は、消費税の計算で差し引ける(仕入税額控除)のが原則です。そのためには、お店や業者からインボイス(適格請求書)を受け取って保存しておく必要があります。一方、商品券やギフトカードの購入は消費税がかからない取引なので、差し引くことはできません。
見落としがちな労務の視点:忘年会は「仕事」になる?
結論として、参加が実質的に強制されている忘年会は、労働時間と判断されることがあります。税金の区分だけでなく、労務の面からも運営方法を見直しておくことが大切です。
労働時間とは、会社の指揮命令のもとで働いている時間のことです。忘年会でも、上司から参加を命じられている、欠席すると評価が下がる、幹事として準備や進行を任されているといった場合は、その時間が労働時間とみなされ、賃金の支払いが必要になる可能性があります。
- 参加は任意であることを明確にする:案内文に「自由参加」と明記し、欠席による不利益がないようにします。
- 幹事の負担に配慮する:業務時間内に準備をさせる、幹事の負担が大きい場合は業務として扱うなどの配慮が必要です。
- 行き帰りの事故:業務として参加を命じた会であれば、行き帰りの事故が労災と認められる可能性があります。任意参加の会では、原則として労災の対象になりません。
- お酒の強要やハラスメント:飲酒の強要や不適切な言動があった場合、会社が責任を問われることがあります。
| 税理士の実務視点 「全員参加だから福利厚生費になる」という税金の考え方と、「強制参加なら労働時間になる」という労務の考え方は、一見ぶつかるように見えます。実務上の正解は、「全員に参加の機会を設け、参加は自由とする」という運営です。こうしておけば、税金の面では福利厚生費の要件を満たし、労務の面でも労働時間の問題を避けられます。 |
シミュレーション:年末イベントの経費処理と、社員旅行で失敗した場合の負担
結論から言うと、正しく区分すれば年末の支出はほぼ全額が経費になります。一方で、社員旅行で不参加者に現金を渡してしまうと、参加者全員にまで課税が広がり、会社には源泉所得税の徴収漏れという負担が生じます。
前提条件
- 社員20人、資本金1,000万円の製造業(3月決算)。年間の交際費は800万円以内
- 忘年会:全社員対象、1人8,000円 × 20人
- 二次会:役員2人と希望者の社員3人、合計6万円
- 取引先へのお歳暮:30社 × 5,000円
- 社員旅行:1泊2日、会社負担1人6万円。参加者16人(80%)、自己都合の不参加者4人に「代わりに」3万円ずつ支給
- 数値は分かりやすさを優先した概算です
年末イベントの区分と経費処理
| 支出 | 金額 | 区分 | 経費になるか |
| 忘年会(一次会) | 16万円 | 福利厚生費 | なる |
| 二次会 | 6万円 | 交際費 | なる(800万円の範囲内) |
| お歳暮 | 15万円 | 交際費 | なる(800万円の範囲内) |
| 社員旅行(16人分) | 96万円 | 福利厚生費(要件を満たす場合) | なる |
| 不参加者4人への現金 | 12万円 | 給与 | なる(ただし源泉徴収が必要) |
| 合計 | 145万円 | すべて経費になる |
不参加者への現金支給で生じる問題
自己都合で不参加だった4人に3万円ずつ渡したことで、参加者16人を含む全員20人に、3万円ずつの給与があったとされます。
| 項目 | 計算の考え方 | 金額 |
| 給与とされる額 | 3万円 × 20人 | 60万円 |
| 本来天引きすべきだった源泉所得税 | 賞与の算出率を平均約6%と仮定 | 約3.6万円 |
| 不納付加算税 | 源泉所得税の10%(調査で指摘された場合) | 約0.4万円 |
| 会社の追加負担(参加者から回収できない場合) | 約4万円+延滞税 |
金額だけを見ると大きくないように見えますが、問題は給与計算と年末調整のやり直し、社員一人ひとりへの説明という手間です。社員旅行の金額が大きい会社や、毎年同じ運用を続けている会社では、税務調査で数年分まとめて指摘されることになります。
| 【シミュレーションから分かること】 忘年会・社員旅行・お歳暮は、区分さえ正しければ、ほとんどの中小企業で全額を経費にできます。 一方で、「不参加者がかわいそうだから」という善意の現金支給が、全員への課税という思わぬ結果を招きます。不参加者には現金を渡さない、どうしても配慮したい場合は、業務の都合で参加できなかった人に限るなど、ルールを事前に決めておくことが大切です。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 忘年会の費用は1人いくらまでなら福利厚生費になりますか?
A. 法律で決まった金額の上限はありません。全社員を対象とし、一般的な忘年会の水準を大きく超えない金額であれば福利厚生費になります。実務上は1人あたり数千円〜1万円程度が一つの目安です。
Q. 欠席した社員がいても、福利厚生費になりますか?
A. はい。全社員に参加の機会があれば、結果的に欠席者がいても福利厚生費になります。案内を全社員に出したことが分かる記録を残しておきましょう。
Q. 社員旅行は何泊までなら給与として課税されませんか?
A. 旅行期間が4泊5日以内(海外旅行は現地での滞在日数)で、参加者が全社員の50%以上であることが目安です。会社の負担額が常識的な範囲であることも必要です。
Q. 取引先との飲食はすべて交際費ですか?
A. 原則は交際費ですが、1人あたり1万円以下(2024年4月以降の支出分)の飲食費は、日付・参加者の氏名と関係・人数・金額・店名を記録すれば、交際費から外すことができます。
Q. 社員に商品券を配るのは問題ありますか?
A. 配ること自体は問題ありませんが、商品券は現金と同じ扱いになるため、金額にかかわらず給与として源泉所得税の対象になります。福利厚生費にしたい場合は、全員に同じ品物を渡す方法を検討しましょう。
まとめ:年末の支出は「対象者」と「記録」で決まる
| 【3行まとめ】 1.全社員対象の忘年会は福利厚生費。二次会・役員だけの会・取引先との会は交際費です。 2.社員旅行は「4泊5日以内・参加率50%以上・常識的な金額」が条件。不参加者への現金支給は全員課税の原因に。 3.商品券は給与扱い。強制参加の忘年会は労働時間になり得るため、「全員に機会、参加は自由」で運営を。 |
年末の行事は、社員の一年の頑張りをねぎらい、会社の一体感を高める大切な機会です。だからこそ、あとから税金や労務の問題で水を差されることがないよう、事前のルールづくりと記録の整備が欠かせません。
当事務所には、国税の調査実務を知る国税OBの税理士が在籍しており、税務調査で確認されやすい交際費・福利厚生費の区分や記録の残し方を、調査官の視点から点検しています。また、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、社内行事の運営ルールや就業規則の整備まで、税金と労務の両面から一体でサポートできます。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今年の忘年会や社員旅行の処理がこれで大丈夫か確認したい」「交際費の記録の残し方を社内で統一したい」——年末を迎える前の今が、ご相談に最適なタイミングです。オンラインでのご相談も承っています。 |
個人事業主の年末節税、12月31日までに間に合う5つの対策
― 税金と国保を同時に減らすコツと、やってはいけない落とし穴【2026年版】
「今年は思ったより利益が出た。来年3月の確定申告で、いくら税金を払うことになるんだろう……」
10月も下旬になると、こんな不安を感じ始める個人事業主の方は多いのではないでしょうか。そして毎年のように聞くのが、「12月に慌ててパソコンを買ったけれど、思ったほど税金が減らなかった」「節税のつもりで入った共済が、実は税金の先送りだった」という声です。
個人事業主の税金は、1月1日から12月31日までの1年間で計算が締め切られます。つまり、年が明けてからできることはほとんどありません。逆にいえば、今から12月31日までの約2か月が、今年の税金を減らせる最後のチャンスです。
この記事では、年内に間に合う5つの節税対策を、「本当に税金が減るもの」と「税金を先に送るだけのもの」に分けて解説します。さらに、多くの解説記事が触れていない国民健康保険料(国保)への影響まで含めて、実際の数字でシミュレーションします。
| 【この記事の結論】 ① 年末節税の主役は「小規模企業共済」と「経営セーフティ共済」。どちらも年内に支払えば今年の分として差し引けますが、加入手続きに時間がかかるため、11月中の申込みが目安です。 ② 「所得控除」と「必要経費」では効き方が違います。必要経費になる対策は、所得税・住民税に加えて個人事業税と国民健康保険料まで軽くなります。 ③ 「税金を減らすための買い物」は逆効果。100万円使って減る税金は30万円前後。本当に必要なものを、年内に使い始めることが鉄則です。 |
年末節税とは?まず押さえたい「税金が決まる仕組み」
結論から言うと、年末節税とは「12月31日までに、法律で認められた方法で、税金のもとになる『もうけ』を正しく小さくすること」です。
節税とは、税法で認められたルールの範囲内で、納める税金を少なくする工夫のことです。ルールを破って税金を減らす「脱税」とはまったく別物です。
個人事業主の税金の計算は、お小遣い帳にたとえると分かりやすくなります。1年間にもらったお金(売上)から、仕事のために使ったお金(経費)を引いた残りが「もうけ(所得)」です。そこから、家族構成や保険料などに応じた「差し引ける金額(所得控除)」を引いた残りに、税率をかけて税金が決まります。
| ① 売上(1年間の収入) 1月1日〜12月31日に、お客さまに商品を渡したり、仕事を終えたりした分の金額です。 |
| ▼ |
| ② 売上 -必要経費 = 事業所得(もうけ) 必要経費とは、仕事のために使ったお金のことです。ここを増やすと、所得税・住民税・個人事業税・国保のすべてに効きます。 |
| ▼ |
| ③ 事業所得 -所得控除 = 課税所得 所得控除とは、生活の事情や将来への備えに配慮して、もうけから差し引ける金額のことです。所得税と住民税に効きます。 |
| ▼ |
| ④ 課税所得 × 税率 = 税金 所得税は5%〜45%の7段階。もうけが増えるほど税率が上がるため、利益が多い年ほど節税の効果は大きくなります。 |
| [画像指示:売上から必要経費・所得控除を順に差し引いて税金が決まる流れを、階段状のブロックで示した図解イラスト / キャプション:「必要経費」と「所得控除」のどこを減らすかで、効く税金の種類が変わります] |
「必要経費」と「所得控除」はどこが違うのか
結論として、同じ金額でも必要経費として差し引けるもののほうが、効く範囲が広いのが特徴です。理由は、個人事業税と国民健康保険料は「所得控除を引く前のもうけ」をもとに計算されるからです。
| 軽くなるもの | 必要経費になる対策(経営セーフティ共済・少額減価償却資産など) | 所得控除になる対策(小規模企業共済・iDeCoなど) |
| 所得税 | 軽くなる | 軽くなる |
| 住民税 | 軽くなる | 軽くなる |
| 個人事業税 | 軽くなる | 軽くならない |
| 国民健康保険料 | 軽くなる(上限額に達していない場合) | 軽くならない |
| お金の行き先 | 経費として支出(共済は将来戻る) | 自分の将来のための積立て |
| 税理士の実務視点 個人事業主の方の多くは国民健康保険に加入しています。国保の保険料は「もうけ(総所得金額)から43万円を引いた額」をもとに計算されるため、所得控除をいくら増やしても保険料は1円も下がりません。税金と社会保険をセットで考えると、同じお金を払うなら、どの順番で対策をとるかが手取りを大きく左右します。 |
12月31日までに間に合う5つの節税対策
結論として、年内に実行できる効果の大きい対策は次の5つです。まずは全体像を表で確認しましょう。
| 対策 | 税金上の扱い | 年内の期限の目安 | 効果の性質 |
| ① 小規模企業共済 | 所得控除(全額) | 11月中に申込み | 本当に減る節税 |
| ② 経営セーフティ共済 | 必要経費 | 11月中に申込み | 税金の先送り |
| ③ 少額減価償却資産の特例 | 必要経費(一括) | 12月31日までに使い始める | 税金の前倒し(先送り) |
| ④ 青色申告特別控除65万円 | もうけから控除 | 年内に帳簿・電子申告の準備 | 本当に減る節税 |
| ⑤ 未払費用・前払費用の計上 | 必要経費 | 12月31日時点で整理 | 正しい計上(取りこぼし防止) |
対策① 小規模企業共済:経営者の「退職金」をつくりながら節税
結論として、小規模企業共済は「節税」と「老後の備え」を同時に実現できる、個人事業主にとって最も優先度の高い制度です。
小規模企業共済とは、個人事業主や小さな会社の役員が、事業をやめたときや引退したときに備えて、毎月お金を積み立てる国の制度のことです。会社員には退職金がありますが、個人事業主にはありません。その「自分で用意する退職金」の役割を果たします。
- 掛金は月1,000円〜7万円(500円単位)で、自由に選べます
- 払った掛金は全額が所得控除になります(月7万円なら年84万円)
- 1年以内の分をまとめて前払い(前納)した場合も、払った年の控除にできます
- 事業をやめて一括で受け取るときは「退職所得」として扱われ、税金がかなり軽くなります
| 【実務上の罠】加入しただけでは今年の控除にならない 控除の対象になるのは、12月31日までに実際に口座から引き落とされた掛金だけです。申込みから初回の引落しまでは1〜2か月ほどかかることがあるため、年内に間に合わせるには11月中の申込みが目安です。 また、加入から20年未満で任意に解約すると、受け取る額が払った額を下回ることがあります(12か月未満の解約では受け取れません)。無理のない掛金で長く続けることが前提です。 |
対策② 経営セーフティ共済:取引先の倒産に備えつつ経費にする
結論として、経営セーフティ共済は今年の税金を大きく減らせる一方、「税金の先送り」であることを理解したうえで使う制度です。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは、取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったときに、無担保・無保証人でお金を借りられるよう、毎月掛金を積み立てる国の制度のことです。
- 掛金は月5,000円〜20万円(5,000円単位)、積立ての上限は総額800万円です
- 個人事業主の場合、払った掛金は必要経費になります(1年以内の前納分も、払った年の経費にできます)
- 加入できるのは、1年以上継続して事業を行っている個人事業主です
- 40か月以上掛けてから解約すれば、払った掛金の全額が戻ります
| 【実務上の罠】解約したときに税金がかかる 解約して戻ってきたお金(解約手当金)は、その年の事業の収入として税金がかかります。つまり、掛金を払った年に減った税金を、解約した年に払うことになります。利益が少ない年や、事業をやめる年に解約するなど、出口のタイミングまで計画しておくことが重要です。 また、2024年10月以降は、一度解約してから2年以内に再加入した場合、その期間の掛金は経費にできなくなりました。「解約してすぐ入り直す」という方法は使えません。12か月未満の解約では、掛金は戻ってきません。 |
対策③ 少額減価償却資産の特例:年内に「使い始める」ことが条件
結論として、仕事で本当に必要な機材があるなら、年内に購入して、12月31日までに使い始めれば、その年に一括して経費にできます。
減価償却とは、パソコンや車など長く使うものの購入代金を、一度に経費にせず、使える年数に分けて少しずつ経費にしていく仕組みのことです。たとえば25万円のパソコンは、通常4年に分けて経費にします。しかも12月に買った場合、1年目に経費にできるのは1か月分の約5,000円だけです。
少額減価償却資産の特例とは、青色申告をしている中小規模の事業者が、一定額未満の資産を買ったとき、その年に全額を経費にできる特例のことです。対象は1つあたり30万円未満(令和8年度税制改正により、令和8年4月以後に取得したものは40万円未満)で、1年間の合計300万円までです。
| 購入した金額(1つあたり) | 経費にする方法 | 白色申告でも使えるか |
| 10万円未満 | 買った年に全額経費(消耗品) | 使える |
| 20万円未満 | 3年間で均等に経費(一括償却資産) | 使える |
| 特例の上限額未満(上記参照) | 買った年に全額経費(年300万円まで) | 使えない(青色申告のみ) |
| 特例の上限額以上 | 使える年数に分けて経費(通常の減価償却) | 使える |
| 【実務上の罠】「12月中に買った」だけでは足りない 経費にできるのは、12月31日までに実際に事業で使い始めたものだけです。12月28日に注文して、届いたのが1月5日なら、今年の経費にはなりません。また、総額が大きく減るわけではなく、将来の経費を今年に前倒ししているだけという点も押さえておきましょう。 |
対策④ 青色申告特別控除65万円:電子申告の準備を年内に
結論として、青色申告をしているなら、最大の65万円控除を確実に受けられる体制を、年内に整えておくことが基本中の基本です。
青色申告特別控除とは、日々の取引を決められた方法(複式簿記)で記帳し、期限内に申告する個人事業主に、もうけから最大65万円を差し引くことを認める制度のことです。
| 控除額 | 主な条件 |
| 65万円 | 複式簿記で記帳し、期限内に申告。さらに電子申告(e-Tax)で提出するか、帳簿を一定の要件で電子保存している |
| 55万円 | 複式簿記で記帳し、期限内に紙の申告書で提出 |
| 10万円 | 簡易な帳簿での記帳、または期限後の申告 |
65万円と55万円の差は10万円です。税率と国保の負担を合わせると、電子申告にするだけで年数万円の差になることも珍しくありません。年明けに慌てないよう、マイナンバーカードの準備や会計ソフトの設定は年内に済ませておきましょう。
対策⑤ 未払費用・前払費用:取りこぼしをなくす「正しい計上」
結論として、12月分の経費は12月中に支払っていなくても、今年の経費にできます。これは節税というより、本来の経費を取りこぼさないための大切な作業です。
未払費用とは、すでにサービスを受けたのに、支払いがまだ済んでいない費用のことです。たとえば12月分の電気代や通信費が1月に引き落とされる場合、12月の経費として計上できます。
前払費用とは、まだ受けていないサービスの代金を先に払ったもののことです。原則は翌年の経費ですが、事務所の家賃のように毎月同じサービスを受ける契約で、支払日から1年以内の分を前払いし、毎年同じ方法を続けるなど一定の条件を満たせば、払った年の経費にできます(短期前払費用の特例)。
| 税理士の実務視点 年末の「買いだめ」には注意が必要です。毎年ほぼ同じ量を買って普段どおり使う文房具などは買った年の経費で問題ありませんが、来年分を大量にまとめ買いした場合は「在庫」とみなされ、今年の経費にならないことがあります。 なお、iDeCo(個人型確定拠出年金)も有力な所得控除ですが、12月分の掛金は翌年1月に引き落とされるため翌年の控除になります。新しく加入する場合は手続きに1〜2か月かかるため、今年の対策ではなく「来年の対策」として年内に申込むのが現実的です。 |
年末節税でやってはいけない3つの落とし穴
結論として、年末節税で失敗する人の多くは「税金を減らすこと」が目的になり、手元のお金を減らしてしまっています。
落とし穴① 不要な買い物で「節税したつもり」になる
もうけが600万円前後の方の場合、所得税と住民税を合わせた税率はおおむね30%です。100万円の経費を使って減る税金は約30万円。残りの70万円は、手元から消えたお金です。リンゴ農家が「税金が高いから」と使わない農機具を買えば、その年の税金は減っても、お店のお金は確実に減ります。
落とし穴② 私的な支出を経費に入れる
家族旅行や自宅の家電などを経費にするのは認められません。自宅兼事務所の家賃や車のように仕事とプライベートの両方で使うものは、使った割合(家事按分)で経費にするのが原則です。割合には、床面積や走行距離など、説明できる根拠を残しておきましょう。
落とし穴③ 「先送り」の出口を考えずに加入する
経営セーフティ共済は、解約した年にまとめて税金がかかります。少額減価償却資産の特例も、翌年以降の経費を前倒ししているだけです。本当に減る節税(小規模企業共済・青色申告特別控除)と、先送りの節税を区別して組み合わせるのが、税理士の実務視点から見た正解です。
今から12月31日までの行動スケジュール
| 10月下旬〜11月上旬 今年のもうけを予測する 1〜9月の実績から年間のもうけを見込み、税金と国保がいくらになりそうかを試算します。 |
| ▼ |
| 11月中 共済の申込み 小規模企業共済・経営セーフティ共済は、初回の引落しが年内に間に合うよう早めに申込みます。前納するかもここで決めます。 |
| ▼ |
| 12月上旬 必要な設備の購入と使用開始 本当に必要な機材だけを購入し、年内に設置・使用を始めます。納期の確認も忘れずに。 |
| ▼ |
| 12月31日 帳簿の締め 未払費用・前払費用を整理し、在庫や売上の計上漏れがないか確認します。iDeCoなど来年の対策の申込みもこの時期に。 |
| ▼ |
| 翌年3月15日まで 確定申告 期限内に電子申告し、青色申告特別控除65万円を受けます。 |
| [画像指示:10月下旬から翌年3月までの年末節税スケジュールを、カレンダー形式で示した図解イラスト / キャプション:共済は「申込み」ではなく「引落し」が年内に必要。逆算して動くのがコツです] |
シミュレーション:もうけ900万円の個人事業主が年末に2つの共済を活用した場合
結論から言うと、小規模企業共済と経営セーフティ共済を合わせて年144万円積み立てると、所得税と住民税だけで約45万円、個人事業税を含めると約48万円の負担が軽くなります。具体的な数字で見てみましょう。
前提条件
- デザイン業を営む青色申告の個人事業主(独身・扶養家族なし)
- 青色申告特別控除65万円を差し引いた後の事業所得:900万円
- 社会保険料控除(国民健康保険・国民年金):100万円と仮定
- 対策:経営セーフティ共済 月5万円(年60万円)、小規模企業共済 月7万円(年84万円)を年内に支払い
- 基礎控除は令和7年分以後の58万円(合計所得655万円超の場合)で計算。住民税の均等割・調整控除などは省略した概算です
対策前と対策後の比較
| 項目 | 対策なし | 対策あり | 差額 |
| 事業所得(もうけ) | 900万円 | 840万円(セーフティ共済60万円を経費に) | -60万円 |
| 所得控除の合計 | 158万円(社会保険料100万円+基礎控除58万円) | 242万円(上記+小規模企業共済84万円) | +84万円 |
| 課税所得 | 742万円 | 598万円 | -144万円 |
| 所得税(復興特別所得税を含む) | 約109.3万円(税率23%) | 約78.5万円(税率20%) | 約-30.8万円 |
| 住民税(所得割10%) | 約75.7万円 | 約61.3万円 | 約-14.4万円 |
| 所得税+住民税の合計 | 約185.0万円 | 約139.8万円 | 約-45.2万円 |
| 個人事業税(税率5%) | − | セーフティ共済分が軽減 | 約-3.0万円 |
課税所得が742万円から598万円に下がったことで、所得税の税率が23%から20%の段階へ下がった点にも注目してください。税率が切り替わる境目の近くにいる方ほど、節税の効果は大きくなります。
さらに設備投資をした場合(参考)
同じ方が、仕事用のパソコン(25万円)を12月20日に購入し、その日から使い始めたとします。
| 項目 | 通常の減価償却 | 少額減価償却資産の特例 |
| 今年の経費 | 約5,000円(4年分の1か月分) | 25万円(全額) |
| 今年の税金への効果(所得税・住民税・個人事業税) | ほぼなし | 約8.7万円の軽減 |
| 翌年以降の経費 | 残り約24.5万円を4年かけて計上 | なし |
| 【シミュレーションから分かること】 年144万円の積立てで、税金は約48万円軽くなりました。払ったお金の約3分の1が、税金の軽減として戻ってくる計算です。しかも共済の掛金は消えるお金ではなく、将来の自分のための積立てです。 一方で、経営セーフティ共済の60万円は解約時に収入として課税されます。小規模企業共済(本当に減る節税)を土台にし、セーフティ共済(先送り)は出口の時期まで決めて使う。この組み立て方が、手元にお金を残す最大のポイントです。 なお、経費になるセーフティ共済や設備投資は、国民健康保険料が上限額に達していない方であれば、保険料の軽減にもつながります。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 12月に経費をたくさん使えば、税金はゼロにできますか?
A. 理論上はもうけを減らせますが、おすすめしません。使ったお金の約7割は手元から消えてしまうからです。年末節税の基本は、共済などの「積立て型」の対策を優先し、設備投資は本当に必要なものに限ることです。
Q. 小規模企業共済とiDeCo、どちらを優先すべきですか?
A. 税理士の実務視点では、まず小規模企業共済をおすすめします。どちらも掛金は全額所得控除ですが、小規模企業共済は事業資金の貸付制度が使えるうえ、年内に申込めば今年の控除に間に合いやすいからです。iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、余裕資金の範囲で来年から併用する形が現実的です。
Q. 経営セーフティ共済は、結局「節税」にならないのですか?
A. 税金の総額が大きく減るわけではなく、「もうけが多い年に経費を前倒しし、解約した年に収入を計上する」先送りの効果が中心です。ただし、利益が少ない年や事業をやめる年に解約すれば、税率の差の分だけ実際の負担を減らせます。取引先の倒産に備える本来の機能もあるため、出口まで計画して使えば有効な制度です。
Q. 青色申告特別控除65万円を受けるには、何をすればよいですか?
A. 複式簿記で記帳し、確定申告の期限(原則3月15日)までに、電子申告(e-Tax)で提出するのが最も手軽な方法です。マイナンバーカードと、電子申告に対応した会計ソフトを用意しておきましょう。期限を1日でも過ぎると控除は10万円に下がるため注意してください。
Q. もうけがいくらくらいになったら、法人化を考えるべきですか?
A. 一つの目安は、もうけが800万円前後を超えてきたときです。ただし、法人化すると社長1人の会社でも健康保険・厚生年金への加入が必要になり、社会保険料の負担が変わります。税金だけでなく社会保険料、将来の年金額まで含めて比較することが欠かせません。
まとめ:年末節税は「11月中の行動」で決まる
| 【3行まとめ】 1.個人事業主の税金は12月31日で締め切り。共済は「引落し」が年内に必要なので、11月中に申込みましょう。 2.必要経費になる対策は、所得税・住民税に加えて個人事業税と国保にも効きます。所得控除との違いを理解して組み合わせることが大切です。 3.本当に減る節税(小規模企業共済・青色申告65万円)を土台に、先送りの節税は出口まで計画する。不要な買い物は逆効果です。 |
年末節税で本当に差がつくのは、12月の駆け込みではなく、今のうちに今年のもうけを予測し、税金と社会保険料を合わせて「いくら残るか」を計算しておくことです。そして国保や将来の法人化のように、税金と社会保険の両方にまたがる判断は、どちらか一方の視点だけでは最適な答えにたどり着けません。
当事務所には、国税の実務を内側から知る国税OBの税理士が在籍し、税務署から見ても説明のつく、確かな節税策をご提案しています。さらに、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、税金・国民健康保険・法人化後の社会保険まで一体でシミュレーションし、手元に残るお金を最大化する計画づくりをお手伝いします。巡回監査で日ごろから数字を一緒に見ているからこそ、年末を待たずに先手を打つことができます。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今年のもうけでいくら税金がかかるか知りたい」「共済に入るべきか迷っている」「そろそろ法人化を考えたい」——そんな今の時期のご相談こそ、最も大きな効果が出るタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。 |
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冬のボーナス、社員の手取りと会社の負担はいくら?
賞与にかかる社会保険料・税金の計算と、社長の賞与で損しないための注意点
「冬のボーナスを50万円出したいけれど、会社の負担は結局いくらになるのだろう」「社員からは『思ったより手取りが少ない』と言われてしまった」——毎年この時期、経営者の方からこうしたご相談を数多くいただきます。
ボーナス(賞与)は、社員のやる気を引き出す大切なお金です。ところが、賞与からは社会保険料や所得税が差し引かれ、会社にも社会保険料の負担がかかります。さらに、社長や役員に出す賞与は、事前に税務署へ届け出ていないと会社の経費にならないという、知らないと損をするルールもあります。
この記事では、賞与から何がいくら引かれるのか、会社が負担するお金と必要な手続き、そして社長の賞与で損をしないための注意点を、はじめての方でも一読で分かるように解説します。後半では、賞与50万円を支給した場合の「社員の手取り」と「会社の総負担」を、実際の数字でシミュレーションします。
| 【この記事の結論】 ① 賞与50万円の手取りは約40万円、会社の総負担は約58万円が目安です。支給額のおよそ2割が社員から引かれ、会社にも約16%の上乗せ負担がかかります。 ② 賞与を支払ったら、5日以内に「賞与支払届」の提出が必要です。税金だけでなく社会保険の手続きもセットで行います。 ③ 社長・役員の賞与は「事前確定届出給与」の届出がないと、会社の経費になりません。届出のない冬の役員賞与は、支給する前に必ず見直しましょう。 |
賞与(ボーナス)とは?毎月の給与との違い
結論から言うと、賞与は「毎月の給与とは別に、臨時に支払われるお金」で、社会保険では年に何回支払うかによって扱いが変わります。
賞与とは、毎月決まって支払われる給与とは別に、会社の業績や本人の成果などに応じて臨時に支払われるお金のことです。夏と冬のボーナス、決算期に支払う決算賞与、寸志などがこれにあたります。
家庭のやりくりに例えると、毎月の給与は「毎月のお小遣い」、賞与は「お正月のお年玉」のようなものです。お年玉は毎月もらえるわけではない特別なお金なので、計算の仕方も毎月のお小遣いとは少し違う、と考えるとイメージしやすくなります。
「賞与」と「給与」は支払回数で区別される
社会保険(健康保険・厚生年金)では、名前が「賞与」でも、支払回数によって扱いが変わります。
| 項目 | 賞与として扱われる | 給与(報酬)として扱われる |
| 支払回数 | 年3回以下 | 年4回以上 |
| 社会保険料の計算 | 支払うたびに、その賞与額をもとに計算 | 毎月の給与に上乗せして「標準報酬月額」を計算 |
| 届出 | 支払のたびに「賞与支払届」 | 毎年7月の「算定基礎届」などで反映 |
| 所得税の計算 | 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使う | 毎月の給与に含めて「月額表」で計算 |
| 税理士の実務視点 「年4回以上」は、就業規則や賃金規程にどう定めているか、実際に何回支払ったかで判断されます。四半期ごとの業績手当などを支払っている会社は、賞与ではなく毎月の給与として扱う必要がないか、一度点検してください。社会保険の計算方法が変わるため、税金と労務の両面から確認すべきポイントです。 |
賞与から差し引かれるお金の仕組み
結論として、賞与から差し引かれるのは「社会保険料」「雇用保険料」「所得税」の3つです。住民税は差し引かれません。
社会保険料(健康保険・厚生年金・子ども・子育て支援金)
標準賞与額とは、賞与の支給額から1,000円未満を切り捨てた金額のことで、賞与にかかる社会保険料の計算のもとになります。この標準賞与額に保険料率をかけて保険料を計算し、会社と社員で半分ずつ負担します。
- 健康保険:標準賞与額の上限は年度(4月〜翌年3月)の累計で573万円
- 介護保険:40歳以上65歳未満の人は、健康保険とあわせて負担
- 厚生年金:標準賞与額の上限は1回あたり150万円
- 子ども・子育て支援金:2026年4月分から健康保険料とあわせて徴収が始まった新しい負担で、賞与にもかかります
今年から加わった「子ども・子育て支援金」は、健康保険料と一緒に差し引かれるため気づきにくいのですが、この冬のボーナスでも給与明細に影響が出ます。社員から質問を受けたときに説明できるようにしておきましょう。
雇用保険料
雇用保険料は、上限なしで賞与の支給額そのものに保険料率をかけて計算します。会社と社員の負担割合は同じではなく、会社の方が多く負担します。なお、役員は原則として雇用保険に加入しないため、役員賞与には雇用保険料はかかりません。
源泉所得税
源泉徴収とは、会社が社員に代わって、支払うお金からあらかじめ所得税を差し引き、税務署に納める仕組みのことです。賞与の所得税は、次の手順で計算します。
| STEP1 前月の給与を確認する 賞与を支払う月の「前月」の給与から、社会保険料などを差し引いた金額を確認します。 |
| ▼ |
| STEP2 税率を表から探す 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で、STEP1の金額と扶養親族の人数が交わる税率を探します。 |
| ▼ |
| STEP3 賞与から社会保険料を差し引く 賞与の支給額から、その賞与にかかる社会保険料・雇用保険料を差し引きます。 |
| ▼ |
| STEP4 税率をかける STEP3の金額にSTEP2の税率をかけた金額が、差し引く所得税です。 |
前月に給与の支払がない場合や、賞与の金額が前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超える場合は、別の計算方法(月額表を使う方法)になります。
住民税は賞与から差し引かれない
会社が毎月の給与から住民税を差し引いている場合(特別徴収)、住民税は年税額を12等分して毎月の給与から差し引くため、賞与からは差し引きません。賞与の分の住民税は、翌年度の住民税額に反映されます。
| 差し引かれるもの | 計算のもと | 上限 | 負担する人 |
| 健康保険料(介護保険料を含む) | 標準賞与額 | 年度累計573万円 | 会社と社員で折半 |
| 子ども・子育て支援金 | 標準賞与額 | 健康保険と同じ | 会社と社員で折半 |
| 厚生年金保険料 | 標準賞与額 | 1回150万円 | 会社と社員で折半 |
| 雇用保険料 | 賞与の支給額 | なし | 会社の方が多く負担 |
| 源泉所得税 | 賞与−社会保険料等 | なし | 社員(会社が預かって納付) |
| 住民税 | — | — | 賞与からは差し引かない |
| [画像指示:賞与50万円の内訳を、社会保険料・雇用保険料・所得税・手取りに色分けした帯グラフの図解イラスト / キャプション:賞与から差し引かれるのは社会保険料と所得税。住民税は差し引かれません] |
賞与を支払うときに会社がやるべき手続き
結論として、賞与の支払は「金額を決める→天引きして支払う→5日以内に届出→翌月に納付」の流れで進みます。中でも見落としやすいのが、年金事務所への「賞与支払届」です。
賞与支払届とは、賞与を支払った会社が、誰にいくら支払ったかを日本年金機構(年金事務所)に届け出る書類のことです。この届出をもとに賞与の社会保険料が決まります。
| STEP1 支給額と支給日を決める 就業規則・賃金規程の定めに沿って、支給対象者と金額を決めます。役員の賞与は、事前の届出の有無を必ず確認します。 |
| ▼ |
| STEP2 支給日に天引きして支払う 社会保険料・雇用保険料・源泉所得税を差し引き、賞与明細を渡します。 |
| ▼ |
| STEP3 5日以内に賞与支払届を提出 支給日から5日以内に、年金事務所(健康保険組合加入の場合は組合にも)へ提出します。電子申請も可能です。 |
| ▼ |
| STEP4 源泉所得税を納付 原則として支給した月の翌月10日までに納付します。「納期の特例」を受けている会社は、7月〜12月分をまとめて翌年1月20日までに納付します。 |
| ▼ |
| STEP5 社会保険料を納付 賞与分の保険料は、毎月の保険料とあわせて、翌月末に口座振替などで納付します。 |
| [画像指示:賞与の支給日から賞与支払届の提出(5日以内)、源泉所得税の納付、社会保険料の納付までをカレンダー上に示した図解イラスト / キャプション:賞与は「支払って終わり」ではありません。税金と社会保険の手続きがセットです] |
賞与の実務上の注意点と4つの罠
結論として、賞与で失敗しやすいのは「社長・役員の賞与」「社会保険料を減らす工夫の落とし穴」「退職予定者・パートへの支給」「就業規則の定め」の4つです。
罠① 社長・役員の賞与は「事前の届出」がないと経費にならない
事前確定届出給与とは、役員に支払う賞与の支給時期と金額をあらかじめ税務署に届け出ておき、そのとおりに支払うことで、会社の経費(損金)として認められる仕組みのことです。
社員の賞与は原則としてそのまま会社の経費になりますが、役員の賞与は違います。役員は自分で自分の報酬を決められる立場にあるため、利益が出た年だけ賞与を出して会社の税金を減らす、といったことを防ぐために、厳しいルールが設けられています。
- 届出の期限:株主総会などで決議した日から1か月を経過する日と、その年度の職務執行を始めた日から4か月を経過する日のいずれか早い日(会計期間開始から4か月を経過する日がこれより早い場合はその日)
- 支払い方:届け出た日に、届け出た金額を、1円も違えずに支払う
- 金額が違った場合:原則として、支払った賞与の全額が会社の経費になりません
| 【要注意】届出のない冬の役員賞与は「二重の税金」に 3月決算で6月に株主総会を開く会社の場合、今年度の届出期限はすでに夏に過ぎています。届出をしないまま冬に役員賞与を支払うと、会社では経費にならず法人税がかかり、社長個人にも所得税・住民税がかかるという、同じお金に二重に税金がかかる状態になります。 さらに、役員賞与にも社会保険料はかかります。届出をしていない場合は、今期は賞与として支払わず、来期の役員報酬の見直しや、来期に向けた事前確定届出給与の届出で対応するのが実務上の鉄則です。 |
罠② 「賞与を減らして月給に回す」社会保険料対策は逆効果になることも
「賞与の回数や配分を工夫すれば社会保険料が安くなる」という話を耳にすることがあります。しかし、現在の制度では、毎月の給与にも賞与にもほぼ同じ保険料率がかかるため、配分を変えただけで大きく保険料が下がることは基本的にありません。
むしろ、賞与を年4回以上に分けると毎月の給与として扱われて標準報酬月額が上がったり、根拠のない名目変更を年金事務所の調査で指摘されたりするリスクがあります。社会保険料は将来の年金額にも反映されるため、「保険料を下げること」だけを目的にした配分変更はおすすめしません。
罠③ 退職予定者・扶養内パートへの賞与
賞与の支給対象を「支給日に在籍している人」とする定め(支給日在籍要件)がある会社は多いですが、就業規則や賃金規程に書かれていなければ、退職予定者から支払を求められたときにトラブルになりやすくなります。
また、配偶者の扶養に入っているパートの方の場合、扶養に入れるかどうかの判定(年収130万円未満など)には賞与も含めた年間の収入見込みで判断します。冬の賞与で年収が基準を超えると、扶養から外れて本人の手取りが大きく減ることがあります。支給前に本人の年収見込みを確認しておくと親切です。
罠④ 「払う約束」をしているかどうか
就業規則に「賞与は毎年12月に基本給の2か月分を支給する」と金額まで明記していると、業績が悪い年でも支払義務が生じます。一方、「会社の業績などを考慮して支給する。業績によっては支給しないことがある」という定めであれば、会社の判断で金額を決めることができます。
| 税理士の実務視点 賞与は「税金」「社会保険」「労働法」の3つが同時に関わるお金です。税金の面では役員賞与の届出、社会保険の面では賞与支払届と扶養の判定、労働法の面では就業規則・賃金規程の定め方がポイントになります。 また、賞与を含めた給与の総額が前年より一定以上増えた中小企業は、「賃上げ促進税制」で法人税が軽くなる可能性があります。賞与の金額を決める前に、税額控除を受けられるかどうかも一緒に試算しておくと、同じ人件費でも会社に残るお金が変わります。 |
シミュレーション:賞与50万円の手取りと会社の総負担
結論から言うと、賞与50万円を支給すると、社員の手取りは約40万円、会社の総負担は約58万円です。支給額と手取りの差、そして会社の上乗せ負担を数字で確認しましょう。
前提条件
- 協会けんぽ加入の会社に勤める35歳の社員(介護保険の対象外、扶養親族なし)
- 毎月の給与(前月の給与)は30万円、冬の賞与は50万円
- 保険料率は分かりやすさのため、健康保険10.0%、子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.3%(いずれも労使合計)、雇用保険は社員0.55%・会社0.9%と仮定
- 会社負担には、子ども・子育て拠出金0.36%、労災保険0.3%(業種により異なる)も含める
- 数値はすべて概算の目安です(実際は都道府県・業種・年度の保険料率で変わります)
社員の手取り
| 項目 | 計算の考え方 | 金額 |
| 賞与の支給額 | — | 500,000円 |
| 健康保険料 | 500,000円 × 10.0% ÷ 2 | ▲25,000円 |
| 子ども・子育て支援金 | 500,000円 × 0.23% ÷ 2 | ▲575円 |
| 厚生年金保険料 | 500,000円 × 18.3% ÷ 2 | ▲45,750円 |
| 雇用保険料 | 500,000円 × 0.55% | ▲2,750円 |
| 源泉所得税 | (500,000円−74,075円)× 6.126% | ▲26,092円 |
| 手取り額 | 支給額の約80% | 約399,800円 |
源泉所得税の税率6.126%は、前月の給与30万円から社会保険料等(約4.4万円)を差し引いた約25.6万円・扶養親族なしの場合に「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で当てはまる税率です。
会社の総負担
| 項目 | 計算の考え方 | 金額 |
| 賞与の支給額 | — | 500,000円 |
| 健康保険料(会社負担分) | 500,000円 × 10.0% ÷ 2 | 25,000円 |
| 子ども・子育て支援金(会社負担分) | 500,000円 × 0.23% ÷ 2 | 575円 |
| 厚生年金保険料(会社負担分) | 500,000円 × 18.3% ÷ 2 | 45,750円 |
| 雇用保険料(会社負担分) | 500,000円 × 0.9% | 4,500円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 500,000円 × 0.36% | 1,800円 |
| 労災保険料 | 500,000円 × 0.3%(仮定) | 1,500円 |
| 会社の総負担 | 支給額の約116% | 約579,100円 |
| 【シミュレーションから分かること】 賞与50万円の場合、社員の手取りは約40万円、会社の総負担は約58万円。会社が出すお金と社員が受け取るお金には、約18万円の差があります。 社員10人に同じ額を支給すれば、会社の負担は約579万円。賞与の予算は「支給総額」ではなく「支給総額×約1.16倍」で組んでおくと、資金繰りで慌てずに済みます。 |
社長の賞与100万円:届出の有無で税金はこう変わる
同じ会社で、社長に冬の賞与100万円を支払う場合を比べます(法人税等の実効税率は概算で約30%と仮定)。
| 項目 | 事前確定届出給与の届出あり | 届出なし |
| 会社の経費(損金)になるか | なる | ならない |
| 会社の法人税等への影響 | 約30万円 軽くなる | 軽くならない |
| 社長個人の所得税・住民税 | かかる | かかる |
| 社会保険料(会社・社長) | かかる | かかる |
| 届出の有無による差 | — | 会社の税負担が約30万円重い |
届出がないだけで、同じ100万円の賞与でも会社の税金が約30万円増えます。役員賞与を考えている場合は、決算月ではなく年度が始まった直後に計画を立てることが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. パートやアルバイトに支払う賞与にも社会保険料はかかりますか?
A. 社会保険(健康保険・厚生年金)に加入している人であれば、パート・アルバイトでも賞与に社会保険料がかかります。加入していない人の場合、社会保険料はかかりませんが、雇用保険に加入していれば雇用保険料、また源泉所得税は差し引く必要があります。
Q. 賞与を支給しなかった場合も、何か届出が必要ですか?
A. 必要になる場合があります。年金事務所に登録されている「賞与支払予定月」に賞与を支給しなかったときは、「賞与不支給報告書」を提出します。今年は賞与を見送る会社も、届出を忘れないようにしましょう。
Q. 商品券や寸志も賞与になりますか?
A. なります。商品券は現金と同じように使えるため、金額にかかわらず賞与として所得税と社会保険料の対象になります。少額の寸志も同様です。忘年会の景品などとは区別して処理してください。
Q. 赤字の年でも、賞与は必ず支払わなければいけませんか?
A. 就業規則や賃金規程の定め方によります。「業績によっては支給しないことがある」と定めていれば、会社の判断で支給を見送ることができます。一方、支給時期と金額を明記している場合や、社員に金額を約束している場合は、支払義務が生じます。
Q. 賞与から住民税が引かれていないのは間違いではありませんか?
A. 間違いではありません。給与から住民税を差し引く場合(特別徴収)、住民税は年税額を12回に分けて毎月の給与から差し引くため、賞与からは差し引きません。賞与の分は、翌年度の住民税額に反映されます。
まとめ:賞与は「支払う前の準備」で差がつく
| 【3行まとめ】 1.賞与50万円の手取りは約40万円、会社の総負担は約58万円。予算は支給総額の約1.16倍で考えましょう。 2.賞与を支払ったら5日以内に賞与支払届。支給しない場合も賞与不支給報告書が必要になることがあります。 3.役員賞与は事前確定届出給与の届出がないと経費になりません。届出のない冬の役員賞与は支給前に見直しを。 |
賞与は、社員への感謝を形にする大切なお金です。だからこそ、税金・社会保険・就業規則のどれか一つでも見落とすと、会社にも社員にも思わぬ負担が生まれます。特に役員賞与の届出や賃上げ促進税制の活用は、支払う前に手を打つことで初めて効果が出る対策です。
当事務所には、国税の実務を内側から知る国税OBの税理士が在籍しており、役員賞与の届出や税務調査で確認されやすいポイントを踏まえた助言を行っています。さらに、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、賞与の税金計算から賞与支払届、就業規則・賃金規程の見直しまで、税金と社会保険の両面からまとめて支援できます。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今年の冬の賞与、会社の負担がいくらになるか知りたい」「役員にも賞与を出したいが、届出をしていない」——そんな支給前のご相談こそ、最も大きな効果が出るタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。 |
〒399-0745
長野県塩尻市大門桔梗町6-17
税理士法人 大沼田経営会計事務所
代表社員 大沼田正樹
TEL:0263-52-0972
FAX:0263-52-5977
http://www.oonumata.or.jp/
mail:oonumata@cd.wakwak.com
冬のボーナスの手取りはいくら?
賞与の社会保険料と源泉所得税の計算方法を経営者向けに図解|今年から加わった「子ども・子育て支援金」と支給前に確認すべき5つの落とし穴
「冬のボーナス、いくら出せば社員の手元にいくら残るんだろう」「明細を見た社員から『思ったより少ない』と言われてしまった」
11月が近づくと、こんなご相談が一気に増えます。ボーナス(賞与)は社員にとって一年で最も楽しみなお金のひとつですが、実は支給額のおよそ2割が社会保険料と税金で差し引かれます。しかも会社側にも、支給額とは別に約16%の社会保険料の負担がかかります。
さらに今年(2026年度)からは、健康保険料と一緒に「子ども・子育て支援金」の徴収が始まりました。今年の冬のボーナスは、この支援金が差し引かれるはじめての冬の賞与です。
この記事では、ボーナスから何がいくら引かれるのか、その計算方法、会社が支給前に必ず確認すべき落とし穴を、はじめての方でも一読で分かるように解説します。後半では「賞与60万円」を例に、社員の手取りと会社の総負担を1円単位でシミュレーションします。
| 【この記事の結論】 ① ボーナスの手取りは支給額のおよそ8割。社会保険料(約15〜16%)と源泉所得税(数%)が差し引かれます。 ② 会社の負担は「支給額+約16%」。60万円の賞与なら、会社が実際に負担するのは約70万円です。予算は支給総額ではなく「総人件費」で組みましょう。 ③ 支給前に確認すべきは「退職予定者」「育休中の社員」「役員」の3者。ここを誤ると、払わなくてよい保険料を払ったり、役員賞与が全額経費にならなかったりします。 |
ボーナスから引かれるお金の全体像
結論から言うと、ボーナスから引かれるのは「社会保険料」と「所得税」の2種類だけです。住民税は原則としてボーナスからは引かれません。
賞与(ボーナス)とは、社会保険の世界では、名前を問わず、労働の対価として年3回以下の回数で支給されるお金のことです。「夏季手当」「寸志」「決算賞与」と呼び方が違っても、すべて賞与として扱われます。
家庭のやりくりに例えると、ボーナスは「臨時収入」です。ただし臨時収入であっても、毎月のお給料と同じように「保険の掛け金」と「税金」を先に差し引いてから手元に渡す、というルールになっています。
| 項目 | 社員の負担 | 会社の負担 | ポイント |
| 健康保険料 | あり(折半) | あり(折半) | 料率は都道府県ごとに異なる |
| 介護保険料 | あり(40〜64歳のみ) | あり(折半) | 40歳になった月から対象 |
| 厚生年金保険料 | あり(折半) | あり(折半) | 料率は全国一律18.3% |
| 子ども・子育て支援金 | あり(折半) | あり(折半) | 2026年4月分から徴収開始 |
| 雇用保険料 | あり | あり(社員より多い) | 支給額そのものに料率を掛ける |
| 子ども・子育て拠出金 | なし | あり(全額会社) | 厚生年金と同じ基準で計算 |
| 源泉所得税 | あり | なし | 前月の給与額と扶養人数で税率が決まる |
| 住民税 | 原則なし | なし | 毎月の給与から天引きされている |
月々の給与とボーナスでは「計算の物差し」が違う
毎月の給与の社会保険料は、4〜6月の給与をもとに決めた「標準報酬月額」という等級表の金額で計算します。一方、ボーナスは実際に支給した金額(1,000円未満切り捨て)をそのまま使います。つまり、ボーナスを多く払えば、その分だけ保険料も正直に増える仕組みです。
| 比較項目 | 毎月の給与 | ボーナス(賞与) |
| 保険料の計算の基準 | 標準報酬月額(等級表) | 標準賞与額(実際の支給額の1,000円未満切り捨て) |
| 上限 | 等級表の最高等級まで | 健康保険:年度合計573万円/厚生年金:1回150万円 |
| 所得税の計算 | 月額表(給与額と扶養人数) | 算出率の表(前月の給与額と扶養人数で税率を決定) |
| 住民税 | 毎月天引き | 原則天引きしない |
| 年金事務所への届出 | 原則不要(年1回の算定基礎届など) | 支給のたびに「賞与支払届」が必要 |
賞与の社会保険料の計算方法
結論として、賞与の社会保険料は「標準賞与額 × 保険料率」というシンプルな掛け算で計算できます。難しいのは計算式ではなく、料率が保険ごとに違う点です。
標準賞与額とは
標準賞与額とは、実際に支給したボーナスの金額から1,000円未満を切り捨てた、社会保険料を計算するための基準額のことです。たとえば60万5,800円を支給した場合、標準賞与額は60万5,000円になります。
2026年度の保険料率の目安
中小企業の多くが加入している協会けんぽ(全国健康保険協会)を例にすると、料率の目安は次のとおりです。健康保険料率は都道府県ごとに異なるため、ここでは分かりやすく約10%として示します。
| 保険の種類 | 料率(労使合計) | 社員の負担分 | 会社の負担分 |
| 健康保険 | 約10%(都道府県で異なる) | 約5% | 約5% |
| 介護保険(40〜64歳) | 約1.6% | 約0.8% | 約0.8% |
| 厚生年金 | 18.3% | 9.15% | 9.15% |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 0.115% | 0.115% |
| 雇用保険(一般の事業) | 1.35% | 0.5% | 0.85% |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | なし | 0.36% |
| 合計(40〜64歳の場合) | 約31.8% | 約15.6% | 約16.3% |
※労災保険料は全額会社負担で、業種によって料率が大きく異なるため、上の表とシミュレーションには含めていません。
今年から加わった「子ども・子育て支援金」とは
子ども・子育て支援金とは、児童手当の拡充など国の子育て支援策の財源にあてるため、2026年4月分から医療保険(健康保険など)の保険料と一緒に集められている負担金のことです。
会社員の場合は、健康保険料に上乗せする形で、会社と社員が半分ずつ負担します。毎月の給与だけでなく、ボーナスにも同じ料率がかかります。金額としては賞与60万円で社員・会社それぞれ690円と大きくはありませんが、給与計算ソフトの料率設定が更新されていないと、計算誤りや賞与支払届との不一致の原因になります。
| [画像指示:賞与の支給額から、健康保険・介護保険・厚生年金・子ども・子育て支援金・雇用保険・源泉所得税が順に差し引かれて手取りが残る様子を、積み木を一段ずつ取り除くイメージで示した図解イラスト / キャプション:ボーナスの約2割は、社会保険料と税金として差し引かれます] |
賞与の源泉所得税の計算方法
結論から言うと、ボーナスの所得税は「ボーナスの額」ではなく「前月の給与の額」で税率が決まります。ここが毎月の給与と最も違う点です。
「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の使い方
算出率の表とは、前月の給与(社会保険料を差し引いた後の金額)と扶養する家族の人数を当てはめると、ボーナスにかける所得税の税率が分かる、国税庁の早見表のことです。
計算の手順は次の3ステップです。
- 手順1:前月の給与から社会保険料を差し引いた金額を出す
- 手順2:その金額と扶養親族の人数を算出率の表に当てはめ、税率を確認する
- 手順3:(ボーナスの額 - ボーナスの社会保険料)× 税率 = 源泉所得税(1円未満切り捨て)
算出率の表の税率には、復興特別所得税(所得税の2.1%)もあらかじめ含まれています。
例外:前月の給与がない場合や、ボーナスが前月給与の10倍を超える場合
前月に給与の支払いがない場合や、ボーナス(社会保険料控除後)が前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超える場合は、算出率の表は使いません。代わりに、毎月の給与で使う「月額表」を使って、ボーナスを6分の1(ボーナスの計算期間が6か月を超える場合は12分の1)にして計算する特別な方法になります。
| 税理士・社労士の実務視点 役員報酬を低く抑えて年1回まとめて賞与を払うケースや、入社直後・休職明けの社員にボーナスを払うケースは、この「10倍超」や「前月給与なし」に当たりやすく、給与計算ソフトに任せきりだと計算を誤る典型的な場面です。 源泉所得税の不足は、税務調査で必ず確認される項目です。不足があると、本来の税額に加えて不納付加算税(原則10%)がかかります。例外に当たる社員がいないか、支給前に名簿で確認することを実務上の結論としてお勧めします。 |
ボーナス支給の実務の流れ
結論として、ボーナスの支給は「金額を決める」だけでは終わりません。支給後の届出と納付まで含めて7つのステップがあります。
| STEP1 支給額の決定 就業規則(賃金規程)の定めと人事評価にもとづき、一人ひとりの支給額を決めます。予算は支給総額ではなく、会社負担の社会保険料を含めた「総人件費」で考えます。 |
| ▼ |
| STEP2 役員賞与の届出内容の確認 役員に賞与を払う場合は、税務署に届け出た金額・支給日と一致しているかを確認します(後述の落とし穴⑤)。 |
| ▼ |
| STEP3 対象者の確認 退職予定者、産休・育休中の社員、40歳・65歳になった社員など、保険料の扱いが変わる人を洗い出します。 |
| ▼ |
| STEP4 社会保険料・源泉所得税の計算 標準賞与額に料率を掛け、前月給与をもとに源泉所得税を計算します。料率の更新漏れがないかも確認します。 |
| ▼ |
| STEP5 支給と明細の交付 支給額・控除額・差引支給額を記載した明細を社員に渡します。 |
| ▼ |
| STEP6 賞与支払届の提出(支給日から5日以内) 日本年金機構へ「被保険者賞与支払届」を提出します。電子申請も可能です。 |
| ▼ |
| STEP7 保険料と源泉所得税の納付 賞与分の社会保険料は翌月分の保険料と合わせて翌月末に納付。源泉所得税は原則翌月10日まで(納期の特例を受けている場合は、7〜12月分を翌年1月20日まで)に納付します。 |
支給前に確認すべき5つの落とし穴
結論として、ボーナスの実務で損をしやすいのは計算そのものよりも、「誰に」「いつ」払うかの確認漏れです。次の5つを支給前に必ずチェックしてください。
落とし穴① 退職予定者は「退職日」で保険料が変わる
社会保険は、退職日の翌日に資格を失います。そして、資格を失った月(資格喪失月)に支給されたボーナスには、社会保険料がかかりません。このため、12月10日にボーナスを払った社員が12月中に退職する場合、退職日が「月末」か「月末より前」かで結果が大きく変わります。
| 退職日 | 資格を失う日 | 12月のボーナスの社会保険料 | 注意点 |
| 12月31日(月末) | 翌年1月1日 | かかる(12月はまだ加入中) | 12月分の厚生年金も加入期間に含まれる |
| 12月30日(月末より前) | 12月31日 | かからない(12月が資格喪失月) | 12月分は本人が国民年金・国民健康保険に加入する必要がある |
ただし、月末より前に退職すると、本人は12月分の国民年金・国民健康保険の保険料を自分で払うことになり、将来の厚生年金の加入期間も1か月短くなります。保険料の節約だけを目的に会社が退職日を誘導するのは避け、本人の希望と将来の年金を踏まえて決めることが実務上の結論です。なお、雇用保険料と源泉所得税は退職日にかかわらず差し引きます。
落とし穴② 育休中の社員のボーナスは「1か月超」が条件
産休・育休中の社員の社会保険料は免除されます。ただし2022年10月以降、ボーナスの保険料が免除されるのは、連続して1か月を超える育児休業を取得している場合に限られるようになりました。賞与支給月の月末をはさんで数日だけ育休を取っても、ボーナスの保険料は免除されません。男性の育休が増えた今、見落としが多いポイントです。
落とし穴③ 年4回以上の支給や「現物」の支給
同じ性質のボーナスを年4回以上支給すると、社会保険では賞与ではなく「報酬」として扱われ、毎月の標準報酬月額に組み込まれます。また、ボーナスを商品券や自社製品などの「現物」で渡した場合も、金銭に換算して賞与として保険料と所得税の対象になります。
落とし穴④ 「賞与支払届」と「賞与不支給報告書」
ボーナスを支給したら、支給日から5日以内に賞与支払届を提出します。反対に、年金事務所に登録している「賞与支払予定月」にボーナスを支給しなかった場合は、賞与不支給報告書の提出が必要です。業績の関係で今年は見送る、という場合も届出を忘れないようにしましょう。
落とし穴⑤ 役員のボーナスは事前の届出がないと経費にならない
事前確定届出給与とは、役員に支給する賞与の金額と支給日を、あらかじめ税務署に届け出ておくことで、会社の経費(損金)として認められる仕組みのことです。
| 【要注意】役員賞与の「届出なし」「金額違い」は二重の負担に ① 会社の経費にならない:届出をしていない役員賞与や、届け出た金額・支給日と異なる支給は、原則として全額が損金になりません。届け出た額より1円でも違えば、原則として届出どおりの扱いは受けられません。 ② それでも社員と同じく保険料と所得税はかかる:経費にならない一方で、役員個人には源泉所得税と社会保険料がかかります。つまり会社の法人税と役員個人の所得税の「二重」の負担になります。 ③ 届出の期限:原則として、株主総会などで役員報酬を決めた日から1か月を経過する日と、その事業年度が始まってから4か月を経過する日のいずれか早い日までです。期中に思い立って払うことはできません。 |
| 税理士・社労士の実務視点 ボーナスは、税金と社会保険の両方にまたがる典型的なテーマです。たとえば、ボーナスを含めた給与総額を増やした会社は「賃上げ促進税制」で法人税の控除を受けられる場合があり、逆に、決算期末に支給を決めた賞与を未払いのまま経費に入れるには、支給額の通知や期末から1か月以内の支払いといった条件があります。 税金だけ、社会保険だけを見ていると、どちらか一方で損をすることがあります。支給額を決める段階で、税金と保険料を合わせた「総額」で設計することが鉄則です。 |
シミュレーション:賞与60万円で、社員の手取りと会社の負担はいくら?
結論から言うと、60万円のボーナスで社員の手取りは約47.6万円、会社の総負担は約69.8万円です。会社が払うお金と社員が受け取るお金の差は、約22万円になります。
前提条件
- 協会けんぽに加入する会社の社員(45歳・介護保険の対象)
- 毎月の給与は32万円(標準報酬月額32万円)、扶養する家族はいない
- 12月10日に冬のボーナス60万円を支給
- 健康保険料率は分かりやすく10%、介護保険料率1.6%で仮定(実際は都道府県・年度で異なる)
- 数値は分かりやすさを優先した概算です(労災保険料は含めていません)
手順1 社員が負担する社会保険料
| 項目 | 計算式 | 金額 |
| 健康保険料 | 60万円 × 5% | 30,000円 |
| 介護保険料 | 60万円 × 0.8% | 4,800円 |
| 厚生年金保険料 | 60万円 × 9.15% | 54,900円 |
| 子ども・子育て支援金 | 60万円 × 0.115% | 690円 |
| 雇用保険料 | 60万円 × 0.5% | 3,000円 |
| 社会保険料の合計 | 93,390円 |
手順2 源泉所得税
まず前月(11月)の給与32万円から、毎月の社会保険料(健康保険16,000円+介護保険2,560円+厚生年金29,280円+支援金368円+雇用保険1,600円=49,808円)を差し引くと、27万192円です。これを算出率の表(扶養親族0人)に当てはめると、税率は6.126%になります。
(60万円 - 93,390円)× 6.126% = 506,610円 × 6.126% = 31,034円(1円未満切り捨て)
手順3 社員の手取りと会社の総負担
| 社員側 | 金額 | 会社側 | 金額 |
| ボーナス支給額 | 600,000円 | ボーナス支給額 | 600,000円 |
| 社会保険料(本人分) | -93,390円 | 健康・介護・厚生年金・支援金(会社分) | +90,390円 |
| 源泉所得税 | -31,034円 | 雇用保険料(会社分0.85%) | +5,100円 |
| 子ども・子育て拠出金(0.36%) | +2,160円 | ||
| 手取り額 | 475,576円(約79%) | 会社の総負担 | 697,650円(約116%) |
参考:12月中に退職する社員の場合
同じ社員が12月中に退職する場合、前述の落とし穴①のとおり、退職日によってボーナスの社会保険料が変わります。
| 項目 | 12月31日退職 | 12月30日退職 |
| ボーナスの社会保険料(本人分) | 93,390円 | 3,000円(雇用保険料のみ) |
| ボーナスの社会保険料(会社分) | 97,650円 | 5,100円(雇用保険料のみ) |
| 12月分の年金・医療保険 | 厚生年金・健康保険に加入 | 本人が国民年金・国民健康保険に加入 |
| 将来の厚生年金 | 12月分も加入期間に算入(賞与分も年金額に反映) | 12月分は加入期間に入らない |
| 【シミュレーションから分かること】 ボーナスは「支給額」と「社員の手取り」と「会社の総負担」の3つの数字がまったく違います。60万円の支給なら、会社は約70万円を用意し、社員の手元に残るのは約48万円です。 ボーナスの予算は、必ず会社負担の保険料を含めた総額で組み、社員には手取りの目安も伝えておくと、「思ったより少ない」という不満を防げます。退職予定者や育休中の社員がいる場合は、支給日と退職日・休業期間の関係を、支給前に専門家と確認するのが確実です。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 「寸志」程度の少額のボーナスでも、社会保険料はかかりますか?
A. はい、かかります。社会保険では、名前や金額にかかわらず、年3回以下で支給される労働の対価はすべて賞与として扱われます。1,000円未満は切り捨てになりますが、数千円の寸志でも賞与支払届の提出と保険料の計算が必要です。
Q. 今年はボーナスを出さない予定です。何か手続きは必要ですか?
A. 年金事務所に登録している賞与支払予定月にボーナスを支給しない場合は、「賞与不支給報告書」の提出が必要です。支給しなかった月の翌月上旬を目安に、忘れずに提出しましょう。
Q. ボーナスから引かれた厚生年金保険料は、将来の年金に反映されますか?
A. はい、反映されます。2003年4月からは、ボーナスにかかった保険料(標準賞与額)も厚生年金の年金額の計算に含まれています。差し引かれる金額は大きく感じますが、将来の年金を増やす積み立ての役割もあります。
Q. 年金を受け取りながら働いている社員や役員にボーナスを払うと、年金は減りますか?
A. 減る場合があります。在職老齢年金の仕組みでは、直近1年間のボーナスの12分の1が月々の給与に上乗せされて判定されます。2026年4月から、年金が減り始める基準額は月62万円に引き上げられましたが、高額のボーナスを払う場合は事前に試算しておくことをお勧めします。
Q. 社会保険に加入していないパートの方にボーナスを払う場合は?
A. 健康保険・厚生年金に加入していない方には、ボーナスの社会保険料はかかりません。ただし、雇用保険に加入していれば雇用保険料を差し引き、源泉所得税は加入の有無にかかわらず計算して差し引きます。
まとめ:ボーナスは「総額」で設計し、「人」で確認する
| 【3行まとめ】 1.ボーナスの手取りは支給額の約8割。今年から「子ども・子育て支援金」も差し引かれます。 2.会社の負担は支給額の約1.16倍。予算は保険料を含めた総人件費で組みましょう。 3.退職予定者・育休中の社員・役員の3者は、支給前に必ず個別に確認を。 |
ボーナスは、社員の一年の頑張りに報いる大切なお金です。だからこそ、計算の誤りや手続きの漏れで、社員の信頼や会社のお金を損なうことは避けたいものです。そして賞与の実務は、法人税・所得税といった「税金」と、健康保険・厚生年金といった「社会保険」が同時に関わる、まさに税金と労務の境目にあるテーマです。
当事務所では、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携し、賞与の支給額の設計から、源泉所得税・社会保険料の計算、賞与支払届の提出、役員賞与の事前確定届出まで、税金と社会保険の両面から一体でサポートしています。国税OBの税理士が在籍しているため、税務調査で確認されやすい源泉所得税の論点も、調査官の目線で事前に点検できます。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今年の冬のボーナス、いくら出せばいいか一緒に考えてほしい」「役員にも賞与を払いたいが手続きが分からない」——そんな支給前の段階こそ、最も効果が出るタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。 |
〒399-0745
長野県塩尻市大門桔梗町6-17
税理士法人 大沼田経営会計事務所
代表社員 大沼田正樹
TEL:0263-52-0972
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今年の冬のボーナスから手取りが変わる?
賞与の社会保険料・源泉所得税の計算方法と、社長の賞与で損しないための注意点
「冬のボーナス、明細を見たら思ったより少なかった……」
毎年この時期になると、社員の方からこんな声を聞く経営者の方は多いはずです。そして会社の側でも、「ボーナスにかかる社会保険料はいくら用意すればいいのか」「税金はどうやって計算するのか」「社長自身の賞与は経費になるのか」と、意外と分からないことだらけではないでしょうか。
しかも今年の冬は、例年とは少し事情が違います。2026年度から、医療保険料に上乗せして「子ども・子育て支援金」の徴収が始まりました。つまり、この制度が始まってから初めての冬のボーナスになるのです。
この記事では、ボーナスから何が・いくら引かれるのかという仕組みを、はじめての方でも一読で分かるように整理します。さらに、会社が見落としやすい手続きの罠と、社長・役員の賞与で法人税を数十万円単位で損しないためのルールを、実際の数字でシミュレーションします。
| 【この記事の結論】 ① 冬のボーナスからは「社会保険料」と「源泉所得税」が引かれます。今年からは子ども・子育て支援金も加わり、50万円の賞与なら約9万円が差し引かれる計算になります。 ② 会社側は「賞与支払届」を支給日から5日以内に提出する必要があります。提出漏れは、年金事務所の調査で必ず指摘されるポイントです。 ③ 社長・役員の賞与は、事前に税務署へ届け出ていなければ会社の経費になりません。届出がないと、200万円の賞与で法人税等が約66万円も多くなることがあります。 |
冬のボーナスで何が変わる?まず押さえたい基本
結論から言うと、ボーナスの手取りは「額面 − 社会保険料 − 源泉所得税」で決まります。毎月の給与と考え方は同じですが、計算の方法と上限が少しずつ違います。
賞与とは、毎月の給与とは別に、夏・冬・決算期などに支払われる一時的なお金のことです。社会保険の世界では、名前が「ボーナス」「寸志」「期末手当」のどれであっても、年3回以下の回数で支払われるものを賞与として扱います。
家庭のやりくりにたとえると、毎月の給与は「毎月決まったお小遣い」、賞与は「お年玉」のようなものです。お年玉にも、家に入れる分(社会保険料)と貯金に回す分(税金)が先に決まっている、とイメージすると分かりやすいでしょう。
2026年度から始まった「子ども・子育て支援金」とは
子ども・子育て支援金とは、児童手当の拡充など少子化対策の財源として、健康保険などの医療保険料と一緒に集められるお金のことです。2026年4月分の保険料から徴収が始まり、会社員の場合は会社と本人が半分ずつ負担します。
ポイントは、毎月の給与だけでなく、賞与にもかかることです。つまり、今年の冬のボーナスは、支援金が引かれる初めての冬のボーナスになります。金額は大きくありませんが、明細に新しい項目が増えるため、社員から質問を受けたときに説明できるようにしておきましょう。
ボーナスから差し引かれるもの一覧
ボーナスから引かれるものを一覧にすると、次のとおりです(率は2026年度の目安で、健康保険と介護保険は加入している保険や都道府県によって異なります)。
| 項目 | 計算のもとになる金額 | 本人負担の目安 | 上限 |
| 健康保険料 | 標準賞与額 | 約5%(協会けんぽの目安) | 年度の累計で573万円 |
| 介護保険料 | 標準賞与額 | 約0.8%(40〜64歳の人のみ) | 健康保険と同じ |
| 厚生年金保険料 | 標準賞与額 | 9.15% | 1回あたり150万円 |
| 子ども・子育て支援金 | 標準賞与額 | 約0.115%(支援金率0.23%の半分) | 健康保険と同じ |
| 雇用保険料 | 賞与の実際の金額 | 0.5%(一般の事業の目安) | なし |
| 源泉所得税 | 賞与 − 上記の保険料 | 前月の給与と扶養の人数で決まる率 | なし |
標準賞与額とは、実際に支払った賞与の金額から1,000円未満を切り捨てた金額のことです。社会保険料は、この標準賞与額に保険料率をかけて計算します。
ボーナスの手取りが決まる仕組み
結論として、ボーナスの手取りは「社会保険料を先に引き、残った金額に税率をかける」という順番で決まります。順番を間違えると、税金の額も手取りもずれてしまいます。
| STEP1 賞与の額面を確定する 支給する賞与の総額を決めます。現金だけでなく、商品券など金銭に換えられるものも原則として含みます。 |
| ▼ |
| STEP2 社会保険料を計算する 額面から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に、健康保険・介護保険・厚生年金・子ども・子育て支援金の率をかけます。雇用保険は実際の金額にかけます。 |
| ▼ |
| STEP3 源泉所得税の税率を調べる 「前月の給与から社会保険料を引いた金額」と「扶養親族の人数」を、国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめて税率を求めます。 |
| ▼ |
| STEP4 源泉所得税を計算する 「賞与 − 社会保険料」にSTEP3の税率をかけます(1円未満は切り捨て)。 |
| ▼ |
| STEP5 手取りを確定し、手続きをする 額面から社会保険料と源泉所得税を引いた金額が手取りです。会社は支給日から5日以内に「賞与支払届」を提出し、源泉所得税は原則として翌月10日までに納めます。 |
| [画像指示:賞与の額面から、社会保険料(健康保険・厚生年金・子ども・子育て支援金・雇用保険)と源泉所得税が順番に差し引かれ、手取りが残る流れを示した図解イラスト / キャプション:社会保険料を先に引き、残りに税率をかけるのがボーナス計算の基本です] |
社会保険料の計算ルール
社会保険料には上限があります。健康保険(介護保険・子ども・子育て支援金を含む)は4月から翌年3月までの累計で573万円、厚生年金は1回の支給につき150万円が上限です。上限を超えた部分には保険料がかかりません。高額な賞与を受け取る役員の場合、この上限が手取りに大きく影響します。
源泉所得税の計算ルール
ボーナスの源泉所得税は、毎月の給与とは違い、前月の給与の金額をもとに税率を決めるのが特徴です。前月の給与が高い人ほど、ボーナスにかかる税率も高くなります。
例外:前月の給与がない場合・ボーナスが極端に多い場合
前月に給与の支払いがない場合や、ボーナスの金額(社会保険料を引いた後)が前月の給与(社会保険料を引いた後)の10倍を超える場合は、算出率の表は使いません。賞与を6か月分(賞与の計算期間が6か月を超える場合は12か月分)に分けて毎月の税額表で計算する、特別な方法を使います。役員の賞与や、新しく入社した社員の賞与で起こりやすいため注意してください。
扶養控除等申告書を出していない人は税率が高くなる
年末調整の書類である「扶養控除等申告書」を会社に出していない人(副業先で働く人など)は、高い税率が適用される区分(乙欄)で計算します。
会社が見落としやすい実務上の注意点と罠
結論として、ボーナスの実務で問題になりやすいのは「手続きの漏れ」「支給回数」「退職・育休の扱い」「役員賞与」の4つです。特に役員賞与は、税金への影響が最も大きいポイントです。
罠① 賞与支払届の提出漏れ
賞与支払届とは、賞与を支払ったときに、誰にいくら支払ったかを年金事務所(健康保険組合に加入している場合は組合にも)に届け出る書類のことです。提出期限は支給日から5日以内です。
また、賞与を支払う予定の月を年金事務所に登録している会社が、その月に賞与を支給しなかった場合は「賞与不支給報告書」の提出が必要です。届出が漏れていると、年金事務所の調査でさかのぼって保険料を請求されるだけでなく、社員が将来受け取る年金額にも賞与分が反映されません。
罠② 年4回以上支払うと「賞与」ではなく「報酬」になる
社会保険では、年4回以上支払われるものは賞与ではなく、毎月の報酬(標準報酬月額)の一部として扱われます。たとえば「毎季ごとに業績手当を出す」といった制度にすると、賞与としての上限や計算方法が使えず、毎月の保険料に組み込まれます。賞与の制度を設計するときは、支給回数を年3回以下に収めることを意識してください。
罠③ 退職者・育児休業中の社員の扱い
退職の日や育児休業の期間によって、賞与に社会保険料がかかるかどうかが変わります。ただし、雇用保険料と源泉所得税は、どのケースでも通常どおりかかります。
| ケース | 賞与の社会保険料 | 理由 |
| 賞与を支払った月の月末より前に退職 | かからない | 資格を失った月に支払われた賞与には、保険料がかからないため |
| 賞与を支払った月の月末に退職 | かかる | 資格を失う日が翌月1日となり、その月は加入期間に含まれるため |
| 賞与月の末日を含み、連続して1か月を超える育児休業 | 免除される | 2022年10月からの改正で、1か月を超える育休の場合のみ免除 |
| 賞与月の末日を含むが、育児休業が1か月以下 | 免除されない | 短期間の育休を賞与月に合わせて取る方法が封じられたため |
罠④ 社長・役員の賞与は「事前確定届出給与」がなければ経費にならない
ここが、経営者の方に最も知っておいていただきたいポイントです。
社員のボーナスは、原則としてそのまま会社の経費(損金)になります。しかし、社長や役員に支払う賞与は、原則として会社の経費になりません。役員は自分で自分の報酬を決められるため、利益が出た年だけ賞与を出して税金を減らす、といった調整を防ぐためのルールです。
例外として経費にできるのが「事前確定届出給与」です。事前確定届出給与とは、役員に支払う賞与の支給日と金額を、あらかじめ税務署に届け出て、そのとおりに支払う給与のことです。
| 確認項目 | 内容 |
| 届出の期限 | 株主総会などで決議した日から1か月を経過する日と、事業年度の開始日から4か月を経過する日の、いずれか早い日まで |
| 3月決算・6月25日に株主総会の場合 | 7月25日が期限(今期の冬の賞与の届出は、すでに期限を過ぎています) |
| 支給のしかた | 届け出た日に、届け出た金額を、1円も違えずに支払う |
| 届出と違う金額を支払った場合 | 多く払っても少なく払っても、原則としてその賞与の全額が経費にならない |
| 【要注意】「業績が良かったから、社長にも冬のボーナスを」は危険 届出をしていない役員賞与は、会社の経費にならないうえ、社長個人には所得税・住民税がかかり、さらに社会保険料も会社と社長の双方にかかります。 つまり、会社の段階でも個人の段階でも税金がかかる「二重の負担」になってしまいます。利益が出たときに役員へ還元したい場合は、来期の役員報酬の見直しや、事前確定届出給与の届出を計画的に行うのが正しい順番です。 |
| 税理士・社労士の実務視点 「役員報酬の月額を低くして、その分を年1回の賞与で受け取れば、社会保険料が安くなる」という方法を勧められることがあります。厚生年金の賞与の上限(1回150万円)を利用した考え方ですが、私たちはお勧めしていません。 理由は3つあります。第一に、事前確定届出給与の届出と一円単位の支給管理が毎年必要で、少しのミスで全額が経費にならなくなります。第二に、年金事務所の調査では支給の実態が確認され、実質的に毎月の報酬と判断されると、さかのぼって保険料を請求されるおそれがあります。第三に、保険料が減る分、社長自身が将来受け取る年金も減ります。 役員の報酬は、法人税・所得税・社会保険料・将来の年金を一体で計算して決めるものです。税金だけ、社会保険だけで判断すると、どこかで必ずゆがみが出ます。 |
シミュレーション:冬のボーナスでいくら差し引かれるのか
結論から言うと、社員に50万円のボーナスを出すと手取りは約40.9万円、会社の負担は約58万円です。また、社長の賞与200万円は、届出の有無だけで法人税等が約66万円変わります。具体的な数字で確認しましょう。
ケース1:社員に冬のボーナス50万円を支給する場合
前提条件
- 社員は35歳(介護保険料の対象外)、協会けんぽに加入
- 前月の給与は30万円(社会保険料を引いた後は約25.6万円)、扶養親族は1人
- 健康保険料率は約10%(本人5%)、子ども・子育て支援金率0.23%、雇用保険の本人負担0.5%と仮定
- 源泉所得税の算出率は4.084%と仮定(実際の率は算出率の表で確認してください)
| 項目 | 計算 | 金額 |
| 賞与の額面 | 500,000円 | |
| 健康保険料 | 500,000円 × 5% | 25,000円 |
| 厚生年金保険料 | 500,000円 × 9.15% | 45,750円 |
| 子ども・子育て支援金 | 500,000円 × 0.115% | 575円 |
| 雇用保険料 | 500,000円 × 0.5% | 2,500円 |
| 社会保険料の合計 | 73,825円 | |
| 源泉所得税 | (500,000円 − 73,825円) × 4.084% | 17,404円 |
| 手取り額 | 500,000円 − 73,825円 − 17,404円 | 約408,771円 |
一方、会社の側でも、健康保険・厚生年金・子ども・子育て支援金を本人と同額負担するほか、雇用保険料や子ども・子育て拠出金、労災保険料なども負担します。会社負担は合計で約8万円となり、50万円のボーナスを出すために、会社は約58万円を用意する必要があります。冬の資金繰りを考えるときは、額面だけでなく、この会社負担分まで含めて計画しておきましょう。
ケース2:社長に冬の賞与200万円を支給する場合
前提条件
- 社長は45歳、同じ年度にほかの賞与はなし
- 法人税・住民税・事業税を合わせた実効税率は約33%と仮定
- 社会保険料は、健康保険約5%(介護保険を含めない簡易計算)、厚生年金9.15%(上限150万円で計算)、子ども・子育て支援金0.115%の本人負担分で概算
| 項目 | 事前確定届出あり(届出どおり支給) | 届出なし |
| 会社の経費(損金)になるか | なる | ならない |
| 法人税等への影響 | 200万円 × 約33% = 約66万円減る | 減らない |
| 社長個人の所得税・住民税 | かかる | かかる(同じ) |
| 社会保険料(社長本人分) | 約24万円 | 約24万円(同じ) |
| 社会保険料(会社負担分) | 約24万円(経費になる) | 約24万円(経費になる) |
| 届出ありと比べた会社の負担増 | ― | 法人税等が約66万円多い |
なお、中小企業は所得800万円以下の部分の税率が低く設定されているため、実際の差額は会社の利益の規模によって変わります。それでも、同じ200万円を支払うのに、届出の有無だけで数十万円単位の差が出ることに変わりはありません。
| 【シミュレーションから分かること】 社員のボーナスは、額面の約2割が社会保険料と税金で差し引かれ、会社はさらに額面の約15%を上乗せで負担します。今年からは子ども・子育て支援金も加わり、明細の見え方が変わります。 社長の賞与は、事前確定届出給与の届出がなければ会社の経費になりません。役員への還元は「利益が出てから」ではなく、「期首に計画して届け出る」ことが鉄則です。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 子ども・子育て支援金は、独身の人や子どもがいない人も負担するのですか?
A. はい、負担します。子ども・子育て支援金は、子どもの有無や年齢に関係なく、健康保険などの医療保険に加入しているすべての人が対象です。会社員の場合は、毎月の給与と賞与の両方から、健康保険料と一緒に差し引かれます。
Q. ボーナスで引かれた源泉所得税は、後で精算されるのですか?
A. はい、精算されます。ボーナスの源泉所得税は概算で差し引かれているため、年末調整で1年間の給与と賞与を合計して正しい税額を計算し、差額が還付または追加徴収されます。
Q. 寸志や商品券で渡した場合も、社会保険料や税金はかかりますか?
A. 原則としてかかります。税金の面では、商品券など金銭に換えられるものは給与として課税されます。社会保険の面でも、年3回以下の支給であれば、名前にかかわらず賞与として扱われ、賞与支払届の対象になります。少額だからと手続きを省略しないようにしましょう。
Q. パートやアルバイトのボーナスにも、社会保険料はかかりますか?
A. 社会保険に加入している人であれば、正社員と同じようにかかります。社会保険に加入していない人の場合は、健康保険・厚生年金の保険料はかかりませんが、雇用保険に加入していれば雇用保険料が、また所得税の源泉徴収が必要です。
Q. 今から社長の冬の賞与を経費にする方法はありますか?
A. 多くの会社では、今期分の事前確定届出給与の届出期限はすでに過ぎているため、冬の役員賞与を経費にすることは難しいのが実情です。また、期の途中で役員報酬の月額を増やすことも、原則として経費になりません。来期に向けて、株主総会での決議と届出を計画的に準備することが最も確実な方法です。
まとめ:ボーナスは「出す前の設計」で差がつく
| 【3行まとめ】 1.ボーナスの手取りは「額面 − 社会保険料 − 源泉所得税」。今年の冬から子ども・子育て支援金も差し引かれます。 2.会社は支給日から5日以内に賞与支払届を提出。支給回数・退職日・育休の扱いにも注意が必要です。 3.社長・役員の賞与は事前確定届出給与の届出がなければ経費にならず、数十万円単位で税金が増えることがあります。 |
ボーナスは、社員のやる気を高める大切な仕組みです。だからこそ、支給したあとに「思ったより会社の負担が重かった」「社長の賞与が経費にならなかった」と後悔しないよう、支給する前の設計が重要になります。
賞与の問題は、税金(源泉所得税・法人税)と社会保険(保険料・賞与支払届・年金)の両方にまたがるため、どちらか一方の専門家だけでは見落としが生まれやすい分野です。当事務所では、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携し、賞与の支給額の試算から、賞与支払届の手続き、役員報酬と事前確定届出給与の設計までを、一体でお手伝いしています。さらに、国税の調査実務を知る国税OBの税理士が在籍しているため、税務調査で役員賞与や報酬がどのように確認されるかを踏まえたアドバイスが可能です。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「冬のボーナスの会社負担を正確に知りたい」「社長の賞与や役員報酬を来期から見直したい」——そんな段階でのご相談こそ、最も大きな効果が出るタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。 |
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税理士法人 大沼田経営会計事務所
代表社員 大沼田正樹
TEL:0263-52-0972
FAX:0263-52-5977
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冬のボーナス、手取りはいくら?
賞与の社会保険料と源泉所得税の計算方法を税理士がやさしく解説|経営者が支給前に確認すべき手続きと落とし穴
「冬のボーナス、額面60万円で出したのに、社員から『思ったより少ない』と言われてしまった」
「賞与の社会保険料って、毎月の給与と同じ計算でいいの?」「支給したあとに何か届け出が必要だった気がする……」
12月の賞与支給を前に、こんな疑問や不安を抱えている経営者・総務担当者の方は多いのではないでしょうか。賞与の計算は、毎月の給与とはルールがまったく違う部分があり、なんとなく給与と同じ感覚で処理していると、天引き額の誤りや届出漏れにつながります。
この記事では、賞与から引かれる社会保険料と源泉所得税の計算方法を、はじめての方でも一読で分かるように解説します。さらに、2026年4月分から新しく始まった「子ども・子育て支援金」の扱い、支給後5日以内に必要な届出、退職予定者や育休中の社員の扱いといった実務の落とし穴まで、税金と社会保険の両面から整理します。
| 【この記事の結論】 ① 賞与の手取りは、額面のおよそ8割が目安です。社会保険料(約15%)と源泉所得税(数%)が差し引かれます。 ② 賞与の計算は「毎月の給与とは別ルール」です。社会保険料は賞与の額そのもの(1,000円未満切捨て)に保険料率をかけ、源泉所得税は「前月の給与」をもとに税率を決めます。住民税は賞与からは引きません。 ③ 支給したら5日以内に「賞与支払届」を年金事務所へ。届出を忘れると、社員の将来の年金額にも影響します。支給しなかった月にも届出が必要な場合があります。 |
賞与(ボーナス)とは?社会保険と税金での扱いの基本
結論から言うと、賞与は「年3回以下の臨時の支給」であれば、社会保険でも税金でも毎月の給与とは別の計算方法で処理します。
賞与とは、毎月の給与とは別に、夏や冬、決算期などに臨時で支給されるお金のことです。名前が「ボーナス」「期末手当」「寸志」「決算賞与」など何であっても、労働の対価として支給されるものは賞与として扱われます。
家庭のやりくりにたとえると、毎月の給与は「毎月決まって入るお小遣い」、賞与は「年に数回もらえる特別なお年玉」のようなものです。お年玉にもきちんと記録とルールがあるように、賞与にも専用の計算ルールがあります。
「年4回以上」払うと賞与ではなくなる
社会保険では、支給回数によって扱いが変わります。年3回以下の支給は「賞与」、年4回以上の支給は「報酬(毎月の給与の一部)」として扱われます。年4回以上になると、賞与の額を12で割って毎月の標準報酬月額に上乗せする計算になり、手続きが複雑になります。賞与規程の支給回数は、社会保険の扱いまで見据えて決めることが大切です。
毎月の給与と賞与の違い(比較表)
| 項目 | 毎月の給与 | 賞与(年3回以下) |
| 社会保険料の計算の基準 | 標準報酬月額(4〜6月の平均などで決まる等級) | 標準賞与額(賞与の額の1,000円未満を切り捨てた額) |
| 社会保険料の上限 | 等級の上限まで(厚生年金は65万円の等級が上限) | 健康保険は年度累計573万円、厚生年金は1か月150万円が上限 |
| 源泉所得税の計算方法 | 「月額表」で、その月の給与額から税額を求める | 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で、前月の給与額から税率を求める |
| 住民税 | 毎月の給与から天引き(特別徴収) | 天引きしない |
| 雇用保険料 | 給与額×料率 | 賞与額×料率(上限なし) |
| 年金事務所への届出 | 原則なし(等級変更時を除く) | 支給日から5日以内に「賞与支払届」 |
| 税理士の実務視点 社員から「ボーナスは住民税が引かれないのに、なぜ所得税は引かれるのか」と質問されることがあります。住民税は前年の所得をもとに1年分の税額が決まっており、それを毎月の給与で12回に分けて納めているため、賞与からは引かないのです。一方、所得税は「その年の収入」にかかる税金なので、賞与のたびに概算で天引きし、年末調整で最終的に精算します。 |
賞与から引かれる社会保険料の計算方法
結論として、賞与の社会保険料は「標準賞与額 × 保険料率 ÷ 2(本人負担分)」というシンプルな式で計算します。毎月の給与のように等級表を見る必要はありません。
標準賞与額とは、実際に支給した賞与の額(税金や保険料を引く前の総額)から、1,000円未満を切り捨てた金額のことです。たとえば賞与が603,500円なら、標準賞与額は603,000円になります。
賞与にかかる社会保険料の種類と負担割合
| 保険の種類 | 保険料率の目安(2026年度) | 本人負担 | 会社負担 |
| 健康保険 | 約10%(都道府県・加入する健保組合で異なる) | 半分 | 半分 |
| 介護保険(40〜64歳のみ) | 約1.6% | 半分 | 半分 |
| 厚生年金保険 | 18.3%(全国一律) | 9.15% | 9.15% |
| 子ども・子育て支援金(2026年4月分〜) | 0.23%(健康保険料とあわせて徴収) | 0.115% | 0.115% |
| 雇用保険(一般の事業) | 1.35% | 0.5% | 0.85% |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | なし | 全額 |
| 労災保険 | 業種により異なる | なし | 全額 |
※保険料率は、協会けんぽの全国平均水準などをもとにした目安です。実際の計算では、自社が加入する健康保険の料率を使ってください。
■ 2026年度から新しく加わった「子ども・子育て支援金」
子ども・子育て支援金とは、少子化対策の財源として、2026年4月分の保険料から医療保険(健康保険)の保険料に上乗せして集められるお金のことです。会社と本人が半分ずつ負担し、毎月の給与だけでなく賞与にもかかります。今年の冬のボーナスは、この支援金がかかる初めての冬の賞与になるため、給与計算ソフトの設定が更新されているか、事前に確認しておきましょう。
保険料には上限がある
賞与の額が大きい場合、保険料の計算に使う金額には上限があります。健康保険・介護保険は年度(4月〜翌3月)の累計で573万円、厚生年金保険は1か月あたり150万円が上限です。たとえば役員に1回300万円の賞与を支給した場合、厚生年金保険料は150万円分にしかかかりません。
| [画像指示:賞与の額面から社会保険料・源泉所得税が差し引かれ、手取りが残るまでを階段状に示した図解イラスト / キャプション:賞与から引かれるのは社会保険料と所得税。住民税は引かれません] |
賞与から引かれる源泉所得税の計算方法
結論として、賞与の源泉所得税は「(賞与 − 社会保険料)× 税率」で計算し、その税率は前月の給与と扶養家族の人数で決まります。賞与の金額そのもので税率が決まるわけではない点が、最大のポイントです。
源泉所得税とは、会社が給与や賞与を支払うときに、本人に代わって所得税をあらかじめ差し引き、国に納める仕組みのことです。
計算は4ステップで進める
| STEP1 前月の給与から社会保険料を引いた額を確認する 賞与を支給する月の「前月」に支払った給与の総額から、社会保険料と雇用保険料を差し引いた金額を出します。 |
| ▼ |
| STEP2 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で税率を探す 国税庁が毎年公表している表で、STEP1の金額と扶養親族等の数が交わる欄の税率を確認します。 |
| ▼ |
| STEP3 賞与から社会保険料を差し引く 賞与の総額から、前の章で計算した賞与の社会保険料・雇用保険料を差し引きます。 |
| ▼ |
| STEP4 STEP3の金額に税率をかける これが賞与から天引きする源泉所得税です。支給月の翌月10日までに税務署へ納めます(納期の特例を受けている場合は半年ごと)。 |
例外:前月の給与がない場合や、賞与が前月給与の10倍を超える場合
入社直後で前月に給与がない場合や、賞与の額(社会保険料控除後)が前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超える場合は、算出率の表は使いません。賞与を6か月(賞与の計算対象期間が6か月を超えるときは12か月)で割った金額を毎月の給与に足して「月額表」で計算する、別の方法になります。役員や決算賞与のように大きな額を支給するときは、この例外に当たらないかを必ず確認してください。
| 税理士の実務視点 2026年1月から、令和7年度の税制改正(基礎控除の引上げなど)を反映した新しい源泉徴収税額表が使われています。賞与の算出率の表も改正後のものを使う必要があります。給与計算ソフトをお使いの場合でも、税額表が最新版に更新されているかを、冬の賞与の前に一度確認しておくと安心です。 |
支給前後に必要な手続きと、見落としがちな落とし穴
結論として、賞与で最も多いミスは「計算」よりも「届出漏れ」と「例外的な社員の扱い」です。支給前に次の3点を必ず確認しましょう。
落とし穴① 賞与支払届の提出漏れ
賞与支払届とは、賞与を支給したことと、その金額を年金事務所(健康保険組合に加入している場合は組合にも)に知らせる届出のことです。支給日から5日以内に提出します。電子申請も可能です。
この届出をもとに保険料が請求され、同時に社員の将来の年金額の計算にも反映されます。提出を忘れると、あとから保険料をまとめて請求されるだけでなく、社員の年金記録に賞与が載らないという不利益が生じます。
また、年金事務所に登録している「賞与支払予定月」に賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」の提出が必要です。今年は業績の関係で冬の賞与を見送る、という場合も手続きを忘れないようにしましょう。
落とし穴② 月末退職者の賞与
社会保険料は、資格を失う日(退職日の翌日)の属する月の前月分までかかります。そのため、退職日によって賞与の保険料のかかり方が変わります。
| ケース | 資格を失う日 | 12月支給の賞与の社会保険料 |
| 12月31日(月末)に退職 | 1月1日 | かかる(12月はまだ加入している月のため) |
| 12月30日に退職 | 12月31日 | かからない(12月は資格を失った月のため) |
雇用保険料と源泉所得税は、退職日に関係なく賞与の支給額に対してかかります。退職予定の社員に賞与を支給する際は、退職日と支給日の関係を事前に確認しておきましょう。
落とし穴③ 産休・育休中の社員の賞与
産前産後休業中や育児休業中の社員は、届出をすれば社会保険料が免除されます。ただし、賞与の保険料が免除されるのは、育児休業の期間が1か月を超える場合に限られます(2022年10月以降に開始した育休)。「月末に数日だけ育休を取れば賞与の保険料がかからない」という扱いは、現在はできません。
落とし穴④ 役員への賞与は「事前の届出」がないと会社の経費にならない
社員への賞与は原則として会社の経費(損金)になりますが、役員への賞与は、支給額と支給日を事前に税務署へ届け出る「事前確定届出給与」の手続きをしていなければ、会社の経費になりません。届出の期限は原則として「株主総会の決議日から1か月以内」かつ「事業年度開始から4か月以内」のいずれか早い日です。冬に役員賞与を出す予定がある場合、多くの会社ではすでに期限を過ぎているため、来期の役員報酬の設計とあわせて検討しましょう。
| 【要注意】「寸志」「商品券」も賞与です 少額の寸志や、現金の代わりに渡す商品券・ギフトカードも、給与・賞与として源泉所得税の対象です。社会保険でも、年3回以下の支給であれば賞与として届出の対象になります。「少額だから」「現金ではないから」と給与計算から外していると、税務調査や年金事務所の調査で指摘される原因になります。 |
シミュレーション:額面60万円の冬のボーナス、手取りと会社の負担はいくら?
結論から言うと、額面60万円の賞与の場合、社員の手取りは約49万円、会社が実際に負担する総額は約69万円になります。具体的な数字で確認しましょう。
前提条件
- 社員:35歳(介護保険料はかからない)、扶養親族1人
- 毎月の給与:30万円(標準報酬月額30万円)。前月の給与から社会保険料・雇用保険料を引いた額は約25.6万円
- 冬の賞与:60万円(12月支給)
- 保険料率:健康保険10%、厚生年金18.3%、子ども・子育て支援金0.23%、雇用保険(本人0.5%・会社0.85%)、子ども・子育て拠出金0.36%(会社のみ)
- 源泉所得税の税率:算出率の表で4.084%と仮定
- 数値は分かりやすさを優先した概算です(労災保険料は含めていません)
社員の手取りの計算
| 項目 | 計算の考え方 | 金額 |
| 賞与(額面) | 600,000円 | |
| 健康保険料 | 600,000円 × 10% ÷ 2 | ▲30,000円 |
| 厚生年金保険料 | 600,000円 × 9.15% | ▲54,900円 |
| 子ども・子育て支援金 | 600,000円 × 0.115% | ▲690円 |
| 雇用保険料 | 600,000円 × 0.5% | ▲3,000円 |
| 源泉所得税 | (600,000円 − 88,590円)× 4.084% | ▲20,886円 |
| 手取り額 | 額面の約82% | 約490,500円 |
会社が負担する総額
| 項目 | 計算の考え方 | 金額 |
| 賞与(額面) | 600,000円 | |
| 健康保険料(会社負担) | 600,000円 × 10% ÷ 2 | 30,000円 |
| 厚生年金保険料(会社負担) | 600,000円 × 9.15% | 54,900円 |
| 子ども・子育て支援金(会社負担) | 600,000円 × 0.115% | 690円 |
| 雇用保険料(会社負担) | 600,000円 × 0.85% | 5,100円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 600,000円 × 0.36% | 2,160円 |
| 会社の負担総額 | 額面の約115% | 約692,800円 |
| 【シミュレーションから分かること】 額面60万円の賞与でも、社員の手元に届くのは約49万円、会社が用意するお金は約69万円です。その差は約20万円にもなります。 賞与の予算を組むときは「額面×約1.15倍」を会社の負担として資金繰りに織り込むこと、そして社員には「額面と手取りの違い」を明細で丁寧に説明することが、社員の納得感と信頼につながります。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 賞与から住民税が引かれないのはなぜですか?
A. 住民税は前年の所得をもとに1年分の税額が決まっていて、それを毎月の給与から12回に分けて天引きしているためです。賞与から追加で引くことはありません。
Q. 賞与の社会保険料は、毎月の給与と同じ等級表で計算しますか?
A. いいえ。賞与は等級表を使わず、賞与の額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に保険料率をかけて計算します。健康保険は年度累計573万円、厚生年金は1か月150万円が上限です。
Q. 賞与の源泉所得税は、賞与の金額が大きいほど税率が高くなりますか?
A. 原則として、税率は賞与の金額ではなく「前月の給与(社会保険料控除後)」と扶養親族等の数で決まります。ただし、賞与が前月の給与の10倍を超える場合などは、月額表を使う別の計算方法になります。
Q. 冬の賞与を支給しないことにしました。何か手続きは必要ですか?
A. 年金事務所に登録している賞与支払予定月に賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」の提出が必要です。支払予定月自体を変更したい場合も、あわせて手続きをしておきましょう。
Q. 寸志や商品券を渡す場合も、社会保険料や所得税がかかりますか?
A. はい。労働の対価として渡すものは、金額の大小や現金かどうかにかかわらず給与・賞与として扱われます。源泉所得税の天引きと、社会保険の賞与支払届の対象になります。
まとめ:賞与は「計算」と「届出」をセットで準備する
| 【3行まとめ】 1.賞与の手取りは額面の約8割。会社の負担は額面の約1.15倍を見込んで資金繰りを組みましょう。 2.社会保険料は「標準賞与額×料率」、源泉所得税は「前月の給与」で税率を決める別ルール。住民税は引きません。 3.支給後5日以内の賞与支払届、不支給の報告、退職者・育休者・役員の扱いまで、支給前に確認を。 |
賞与は、社員にとって1年の頑張りが形になる大切なお金です。だからこそ、計算の誤りや手続きの漏れは、会社への信頼を損ないかねません。そして賞与の実務は、源泉所得税という「税金」と、社会保険料・届出という「労務」が同時に関わる分野です。
当事務所では、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携し、賞与の計算・届出から、役員賞与の事前確定届出、賞与規程や人事評価制度の設計まで一体でサポートしています。国税OBの税理士も在籍しており、税務調査で確認されやすい給与・賞与の処理についても、調査官の視点を踏まえて点検します。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今年の冬の賞与、計算や手続きに不安がある」「役員賞与や決算賞与をどう設計すればよいか知りたい」——支給前のご相談が、最も効果の大きいタイミングです。オンラインでのご相談も承っています。 |
役員社宅・借り上げ社宅で節税!
家賃を会社の経費にして手取りを増やす仕組みと、税金と社会保険で「家賃の物差し」が違う落とし穴
「毎月の家賃が重い。しかも、その家賃は税金と社会保険料を引かれた後の手取りから払っている……」
経営者の方から、こうした声をよく伺います。実は、社長や社員が住む家を会社が借りて「社宅」として貸す形に切り替えるだけで、家賃の大部分を会社の経費にでき、社長の手取りと会社の負担の両方を改善できる場合があります。役員社宅は、税務の世界では「王道の節税策」として知られています。
ただし、この仕組みには大きな落とし穴があります。税金と社会保険では、本人が払うべき家賃の「物差し」がまったく違うのです。税金のことだけを考えて設計すると、社会保険料で思わぬ差が出てしまいます。
この記事では、役員社宅・借り上げ社宅の仕組み、本人が払う家賃の決め方、導入の手順と注意点を、はじめての方でも一読で分かるように解説します。後半では、月80万円の役員報酬を受け取る社長のケースで、社宅に切り替えた場合の手取りの変化を具体的な数字でシミュレーションします。
| 【この記事の結論】 ① 会社が借りた家を社宅として貸し、本人から一定の家賃を受け取れば、家賃の大部分を会社の経費にでき、本人は給与として課税されません。 ② 本人が払う家賃の基準は、税金と社会保険で違います。税金は「固定資産税の評価額」、社会保険は「国が定めた1畳あたりの金額」が物差しです。両方を確認して家賃を決めることが成功のカギです。 ③ 契約の名義、役員報酬を変えるタイミング、社員の同意の3つを外すと、効果がなくなるうえにトラブルになります。 |
役員社宅・借り上げ社宅とは?節税になる仕組み
結論から言うと、社宅で節税になるのは、「給料を払って、本人がその手取りから家賃を払う」という流れを、「会社が直接家賃を払い、本人からは少しだけ家賃を受け取る」という流れに変えられるからです。
借り上げ社宅とは、会社が自分の名義で賃貸住宅を借り、それを役員や社員に住まいとして貸す仕組みのことです。役員に貸すものを、特に役員社宅と呼びます。
家庭のやりくりに例えてみましょう。お父さんがお小遣いを渡し、子どもがそこから塾代を払うと、お小遣いの段階で「天引き」があるとしたら、塾代に回せるお金は減ってしまいます。ところが、お父さんが塾に直接塾代を払えば、天引きされずに済みます。社宅は、これと同じ発想で、「天引き(税金と社会保険料)の前」のお金で家賃を払う仕組みなのです。
住宅手当と社宅の違い
「家賃を会社が負担する」という点では住宅手当も同じですが、税金と社会保険料の扱いはまったく違います。
| 項目 | 住宅手当(現金で支給) | 借り上げ社宅(条件を満たす場合) |
| 本人の所得税・住民税 | かかる(給与として課税) | かからない |
| 社会保険料 | かかる(報酬に含まれる) | 国の基準額以上を本人が払えば、かからない |
| 会社の経費 | なる | なる(家賃から本人負担分を引いた額) |
| 契約の名義 | 本人 | 会社 |
| 消費税 | 計算に影響なし | 住宅の家賃は非課税のため、差し引けない |
| [画像指示:「住宅手当」と「借り上げ社宅」で、家賃が税金・社会保険料の天引き前に払われるか後に払われるかを、お金の流れの矢印で比較した図解イラスト / キャプション:社宅は「天引き前」のお金で家賃を払う仕組みです] |
本人が払う家賃はいくら?税金の基準「賃貸料相当額」
結論として、税金の面では、本人から「賃貸料相当額」以上の家賃を受け取っていれば、給与として課税されません。この金額は、実際の家賃より大幅に低くなることが多いのが特徴です。
賃貸料相当額とは、社宅を貸したときに本人から受け取るべき家賃として、税金のルールで定められた計算上の金額のことです。計算には、その建物と土地の「固定資産税の課税標準額」を使います。この金額は、物件の貸主(大家さん)を通じて確認するか、市区町村で証明書を取得して調べます。
役員の場合:住宅の広さで3つに分かれる
| 区分 | 判定の目安 | 本人から受け取る家賃の基準(月額) |
| 小規模な住宅 | 床面積が木造132㎡以下、木造以外(マンション等)99㎡以下 | 次の①〜③の合計額 ①建物の固定資産税の課税標準額×0.2% ②12円×床面積(㎡)÷3.3㎡ ③土地の固定資産税の課税標準額×0.22% |
| 小規模でない住宅 | 上記の面積を超える住宅 | 会社が払う家賃の50%と、所定の計算式で出した金額のうち、多い方 |
| 豪華な社宅 | 床面積240㎡超で、プール等の設備や内装などから総合判断 | 通常支払われるべき家賃(世間相場の家賃) |
一般的なファミリー向けマンション(70㎡程度)であれば「小規模な住宅」にあたり、賃貸料相当額は実際の家賃の1〜2割程度になることも珍しくありません。
社員の場合:賃貸料相当額の50%以上でOK
社員に貸す社宅は、役員よりも条件がやさしく、上記の「小規模な住宅」の計算式で出した賃貸料相当額の50%以上を本人から受け取っていれば、給与として課税されません。
最大の落とし穴:社会保険の「家賃の物差し」は別物
結論から言うと、税金の基準を満たしていても、社会保険の基準を満たしていなければ、差額が「報酬」に加算されて社会保険料が上がります。ここが、税金だけを見て設計した社宅の最大の盲点です。
社会保険では、住まいを会社から提供されることは「現物給与」として扱われます。現物給与とは、お金ではなく、住まいや食事などの「物やサービス」で支払われる給与のことです。その価値は、厚生労働大臣が都道府県ごとに定めた「1畳あたりの金額」に、居間や寝室など居住用の部屋の畳数をかけて計算します(台所・トイレ・浴室・玄関などは含みません)。
| 項目 | 税金(所得税・住民税) | 社会保険(健康保険・厚生年金) |
| 物差し | 固定資産税の課税標準額をもとにした賃貸料相当額 | 都道府県ごとの1畳あたりの金額×居住用の畳数 |
| 本人負担が基準未満のとき | 差額が給与として課税される | 差額が報酬に加算され、保険料が上がる |
| 金額の傾向 | 低めになりやすい | 税金の基準より高くなることが多い |
| 税理士の実務視点 社宅の相談で実際によくあるのが、「税理士の指示で家賃を賃貸料相当額に設定したら、社会保険の手続きで差額の加算が必要だと分かった」というケースです。税金の基準は税理士、社会保険の基準は社会保険労務士の専門領域で、物差しが違うため、片方だけで判断すると必ずズレが生じます。本人負担の家賃は、両方の基準を並べて確認したうえで決めることが実務上の鉄則です。 |
社宅のメリット・デメリット
結論として、社宅は社長・社員の手取りを増やせる一方、将来の年金額がわずかに減ることや、管理の手間が増えるというデメリットもあります。
| 立場 | メリット | デメリット・注意点 |
| 会社 | 家賃が経費になる。給与を減らした分、会社負担の社会保険料が下がる。採用や定着の武器になる | 契約・更新・退去の管理が必要。礼金や仲介手数料などの初期費用も会社負担 |
| 社長・社員 | 税金と社会保険料が下がり、手取りが増える | 報酬が下がる分、将来の厚生年金や傷病手当金などの給付が少し減る。退職時は引っ越しが必要 |
社宅を導入する5つのステップ
結論から言うと、社宅の導入は「規程づくり→契約の名義変更→報酬の見直し→毎月の精算→社会保険の手続き」の順で進めます。
| STEP1 社宅管理規程を作る 対象者、本人負担の家賃の計算方法、水道光熱費の負担、退去時のルールなどを定めます。役員への適用は取締役会などで決議し、議事録を残します。 |
▼
| STEP2 賃貸契約の名義を会社に切り替える 大家さん・管理会社と相談し、会社名義で契約し直します。本人名義のままでは、会社が払う家賃は住宅手当と同じ扱いになります。 |
▼
| STEP3 役員報酬・給与を見直す 役員報酬は原則として事業年度の開始から3か月以内に改定します。社員の給与を減らす場合は、本人の同意が不可欠です。 |
▼
| STEP4 本人負担の家賃を毎月精算する 税金と社会保険の両方の基準を満たす金額を、給与から天引きするなどして毎月受け取ります。 |
▼
| STEP5 社会保険の手続きを行う 報酬が大きく変わった場合は、変更後3か月の報酬をもとに保険料の等級を見直す「随時改定」の届出を行います。 |
| [画像指示:社宅導入の5ステップを、規程・契約書・給与明細・年金事務所のアイコンでつないだ図解イラスト / キャプション:税金の手続きと社会保険の手続きは、セットで進めることが大切です] |
実務上の注意点と見落としがちな罠
結論として、社宅が否認されたりトラブルになったりする原因は、ほとんどが「名義」「費用の線引き」「労務の手続き」のいずれかです。
罠① 水道光熱費や家具を会社が払っている
会社が負担してよいのは、原則として家賃と、建物の管理に必要な費用です。電気・ガス・水道代など本人の生活費を会社が払うと、その分は給与として扱われます。役員の場合は、毎月同じ額でない支給は役員賞与となり、会社の経費にもなりません。
罠② 社員の給与を一方的に下げて社宅に切り替える
社員の給与を減らして社宅に切り替える場合、本人の同意なく給与を下げることは、労働条件の「不利益変更」として認められません。手取りが増える仕組みであっても、内容をていねいに説明し、書面で同意を得ることが必要です。
罠③ 「豪華な社宅」と判断される
床面積が240㎡を超え、プールなどの設備がある住宅や、社長個人の趣味を反映した内装の住宅は、「豪華な社宅」として世間相場の家賃を本人が負担しなければなりません。この場合、節税効果はほとんどなくなります。
| 【要注意】社宅の否認で生じる負担 ① 源泉所得税:本人負担の家賃が不足していた分は給与とされ、源泉所得税と不納付加算税(原則10%)がかかります。 ② 法人税(役員の場合):役員への経済的な利益は役員給与とされ、内容によっては会社の経費として認められません。 ③ 社会保険料:現物給与の計算に誤りがあると、年金事務所の調査で最大2年さかのぼって保険料を請求されることがあります。 |
シミュレーション:月80万円の役員報酬を受け取る社長が社宅に切り替えた場合
結論から言うと、このケースでは、社長の手取りが年間約46.5万円増え、会社の負担も年間約51万円減ります。具体的な数字で確認しましょう。
前提条件
- 社長(45歳・独身)の役員報酬は月80万円。家賃月20万円のマンション(70㎡・小規模な住宅)に、自分の名義で住んでいる
- 社宅への切り替え後:会社名義で同じ部屋を借り、役員報酬を期首から月60万円に減額。社長は会社に月3万円の家賃を払う
- 税金の基準(賃貸料相当額)は月3万円、社会保険の基準(現物給与の価額)は月5万円と仮定。差額2万円が社会保険の報酬に加算され、標準報酬月額は62万円
- 健康保険(介護保険を含む)は約11.6%、厚生年金は18.3%を労使で折半。厚生年金の標準報酬月額は上限65万円で計算
- 所得税は2026年分の基礎控除で計算し、住民税は所得割10%のみで計算した概算です
社長の手取り(年間)
| 項目 | 切り替え前 | 切り替え後 |
| 役員報酬 | 960万円 | 720万円 |
| 社会保険料(本人負担) | 約126.4万円 | 約111.2万円 |
| 所得税(復興特別所得税込み) | 約74.9万円 | 約29.4万円 |
| 住民税 | 約59.6万円 | 約37.8万円 |
| 家賃の支払い | 240万円(大家さんへ) | 36万円(会社へ) |
| 家賃を払った後の手取り | 約459.1万円 | 約505.6万円 |
会社の負担(年間)
| 項目 | 切り替え前 | 切り替え後 |
| 役員報酬 | 960万円 | 720万円 |
| 社会保険料(会社負担) | 約126.4万円 | 約111.2万円 |
| 社宅の家賃 | 0円 | 240万円 |
| 社長から受け取る家賃 | 0円 | △36万円 |
| 会社の負担合計 | 約1,086.4万円 | 約1,035.2万円 |
| 【シミュレーションから分かること】 同じ部屋に住み続けながら、社長の手取りは年約46.5万円増え、会社の負担は年約51.2万円減ります。会社の経費が減る分、法人税は増えますが(実効税率約30%と仮定すると約15万円)、それを差し引いても会社・社長の合計で年80万円前後の改善です。 ただし、社会保険の基準を満たさないまま家賃を3万円にしているため、差額2万円分は社会保険料の計算に含めています。もし差額の加算を忘れていれば、年金事務所の調査で過去にさかのぼって請求されることになります。 また、標準報酬月額が下がる分、将来の厚生年金はわずかに減ります。手取りだけでなく、老後の年金とのバランスも含めて設計しましょう。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 個人事業主でも、社宅の仕組みで節税できますか?
A. できません。個人事業主は自分自身に家を貸すことができないため、社宅の仕組みは使えません。自宅の一部を事務所として使っている場合は、使っている面積の割合など合理的な基準で家賃を按分し、仕事で使う分だけを経費にします。
Q. すでに住んでいる賃貸住宅でも、社宅に切り替えられますか?
A. 切り替えられます。大家さんや管理会社の承諾を得て、契約の名義を会社に変更すれば、そのまま住み続けながら社宅にできます。名義変更の際に、新たに保証金や手数料がかかる場合があるので、事前に確認しましょう。
Q. 家族と一緒に住んでも問題ありませんか?
A. 問題ありません。社宅は役員や社員本人だけでなく、家族と一緒に住むことも一般的です。ただし、広さによっては「小規模な住宅」にあたらず、本人が払うべき家賃の基準が高くなる点に注意してください。
Q. 敷金・礼金・仲介手数料は会社の経費になりますか?
A. 敷金は退去時に返ってくるお金なので、経費ではなく会社の資産として記録します。仲介手数料は支払った年の経費になります。礼金は、20万円未満であれば支払った年の経費にでき、20万円以上の場合は原則として5年(契約期間が5年より短い場合はその期間)に分けて経費にします。
Q. 社長の持ち家でも社宅にできますか?
A. 社長が自分の持ち家を会社に貸し、会社が社宅として社長に貸す方法もあります。ただし、社長には会社から受け取る家賃の所得が生じるうえ、住宅ローン控除が受けられなくなるなどの影響があるため、必ず事前に専門家と試算してください。
まとめ:社宅は「税金と社会保険の両方の物差し」で設計する
| 【3行まとめ】 1.会社名義で借りた住まいを社宅として貸せば、家賃の大部分を会社の経費にでき、手取りが増えます。 2.本人負担の家賃の基準は、税金と社会保険で別物。両方を満たす金額で設計しましょう。 3.名義変更・役員報酬の改定時期・社員の同意の3つを押さえることが成功の条件です。 |
役員社宅・借り上げ社宅は、正しく設計すれば、会社と社長・社員の双方にとって長く効果が続く仕組みです。一方で、税金と社会保険の基準の違いや、労働条件の変更の手続きなど、一つの専門分野だけでは見落としが生まれやすい論点でもあります。
当事務所には、国税OBの税理士が在籍しており、税務調査で確認されやすい社宅の論点を踏まえた設計を行っています。さらに、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、賃貸料相当額と現物給与の両方の基準の確認、社宅管理規程の作成、社会保険の随時改定の手続きまで、ワンストップでご支援できます。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今の家賃を会社の経費にできるか知りたい」「社宅にしたら手取りがいくら増えるか試算してほしい」——役員報酬を見直す決算前のご相談が、最も効果の出るタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。 |
個人事業主の節税は12月31日が締め切り!
今からでも間に合う年末の節税対策7選と、税金・国保が本当に下がる順番
「今年はけっこう売上が伸びた。来年3月の確定申告で、いくら税金を払うことになるんだろう……」
秋も深まるこの時期、そんな不安が頭をよぎる個人事業主の方は多いはずです。そして、毎年のように「もっと早く対策しておけばよかった」と後悔する声を聞きます。というのも、個人事業主の税金は1月1日から12月31日までの1年間のもうけで決まるため、年が明けてからできる節税はほとんど残っていないからです。
この記事では、10月の今から12月31日までに実行できる節税対策を7つに絞って解説します。さらに、対策によって「所得税・住民税」だけが下がるのか、「国民健康保険料」まで下がるのかという、意外と知られていない違いも整理しました。後半では、売上1,000万円の個人事業主のケースで、対策前と対策後の負担額を具体的な数字で比べます。
| 【この記事の結論】 ① 個人事業主の節税は「12月31日まで」が勝負です。年明けにできることは、ほぼ申告の手続きだけです。 ② 対策には「税金だけ下がるもの」と「国民健康保険料まで下がるもの」があります。必要な経費の前倒しや青色申告特別控除は国保にも効きますが、小規模企業共済などの所得控除は国保には効きません。 ③ 不要な買い物は節税になりません。100万円使って下がる税金は、多くても数十万円。手元のお金が減るだけの「節税」は避けましょう。 |
個人事業主の税金はどう決まる?節税の前に知っておきたい仕組み
結論から言うと、個人事業主の税金は「売上−経費−控除」で計算した金額に税率をかけて決まります。節税とは、この「経費」と「控除」を、ルールの範囲で正しく、もれなく積み上げることです。
節税とは、税金のルールで認められた方法を使って、払う税金を適正に少なくすることです。うその経費を計上したり、売上を隠したりする「脱税」とはまったく別物です。
身近な例でいえば、リンゴ農家さんが1年間でリンゴを1,000万円分売ったとします。そこから苗木代や肥料代、軽トラックのガソリン代などの経費を引いた残りが「もうけ(所得)」です。さらに、家族の状況や将来への備えに応じた「控除」を差し引いた残りに、税金がかかります。
個人事業主にかかる主な税金と保険料
| 種類 | 計算のもと | 納める時期の目安 |
| 所得税 | 1年間の所得から各種控除を引いた金額 | 翌年3月15日まで(確定申告) |
| 住民税 | 所得税とほぼ同じ(控除額は一部異なる) | 翌年6月から |
| 個人事業税 | 事業の所得から事業主控除(年290万円)を引いた金額 | 翌年8月・11月 |
| 国民健康保険料 | 前年の所得から基礎控除(43万円)を引いた金額 | 翌年6月ごろから |
ここで注目していただきたいのが、国民健康保険料の計算です。国保は「所得」をもとに計算されますが、小規模企業共済やiDeCo、生命保険料などの所得控除は差し引かれません。このため、同じ金額を使っても、対策の種類によって下がる負担が違ってくるのです。
| 税理士の実務視点 個人事業主の方の多くは、税金よりも国民健康保険料の負担の重さに驚かれます。所得が増えるほど国保も上がり、自治体によっては所得の1割前後になることもあります。年末の対策を考えるときは、「税金」と「保険料」を一体で見ることが、手取りを守るための基本です。 |
今からでも間に合う!年末の節税対策7選
結論として、10月からでも十分に間に合う対策は7つあります。効果が大きく、しかも「お金が手元から消えない」ものから順に検討するのが鉄則です。
対策① 小規模企業共済に加入し、掛金を前納する
小規模企業共済とは、個人事業主や小さな会社の役員が、廃業や引退に備えて積み立てる「経営者の退職金制度」のことです。掛金は月1,000円から7万円まで選べ、全額がその年の所得から差し引かれます。
年末対策として特に有効なのが「前納」です。1年以内の分をまとめて前払いした場合、支払った年の控除にできるため、年の途中から加入しても、最大で年84万円の控除を受けられる可能性があります。払った掛金は将来の退職金として戻ってくるため、お金を使わずに税金を減らせるのが最大の魅力です。
対策② iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金を見直す
iDeCoとは、自分で掛金を出して運用し、原則60歳以降に年金や一時金として受け取る、国の私的年金制度のことです。掛金は全額が所得から差し引かれます。個人事業主の掛金の上限は、国民年金基金と合わせて月6.8万円です。
ただし、iDeCoは前納ができません。また、12月分の掛金は翌年1月に引き落とされるため、翌年の控除になる点に注意が必要です。今年分として控除されるのは、今年1月から12月までに引き落とされた掛金です。
対策③ 国民年金保険料を前納する(家族分もOK)
国民年金保険料は、全額が「社会保険料控除」として所得から差し引かれます。最大2年分をまとめて前納でき、前納した年に全額を控除することも選べます。前納すると保険料の割引も受けられます。
また、生計を一にする家族の国民年金保険料や国民健康保険料をあなたが払った場合、その分もあなたの社会保険料控除になります。たとえば、20歳以上の学生の子の国民年金保険料を親が払えば、親の控除にできます。
対策④ 必要な設備は年内に買って、年内に使い始める
青色申告をしている個人事業主は、1つ30万円未満のパソコンや機械などを買った場合、年間合計300万円までなら、買った年に全額を経費にできる特例があります。
ポイントは、「買った日」ではなく「使い始めた日」の年の経費になることです。12月29日に注文して、届いたのが1月5日なら、今年の経費にはなりません。年末に買う場合は、年内に届いて使い始められるよう、早めに手配しましょう。
対策⑤ 12月分の経費は「払っていなくても」今年に計上する
12月分の家賃や電気代、外注先への報酬などは、支払いが1月になっても、今年の経費として計上できます。これは、費用は「お金を払った日」ではなく「その費用が発生した日」の年に計上するというルールによるものです。
反対に、12月に商品を渡したりサービスを提供し終えたりした売上は、入金が1月でも今年の売上になります。経費だけ前に入れて売上を後ろにずらすと、「期ズレ」として税務調査で指摘されるため、両方を正しく計上することが大切です。
対策⑥ 青色申告特別控除65万円の条件を満たす
青色申告特別控除とは、きちんとした帳簿をつけて申告する個人事業主が、所得から一定額を差し引ける特典のことです。最大65万円を受けるには、次の条件をすべて満たす必要があります。
| 控除額 | 主な条件 |
| 65万円 | 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告。さらに「e-Taxで申告」または「優良な電子帳簿で保存」のどちらかを満たす |
| 55万円 | 65万円の条件のうち、e-Taxまたは電子帳簿保存の条件だけを満たさない場合 |
| 10万円 | 簡易な帳簿で青色申告をしている場合 |
| なし | 白色申告の場合 |
紙で申告している方がe-Taxに切り替えるだけで、控除が55万円から65万円に増えます。期限(翌年3月15日)を1日でも過ぎると最大でも10万円になってしまうため、期限内の申告も重要な条件です。
対策⑦ 来年分の家賃や保険料などを前払いする(短期前払費用)
事務所の家賃や保守契約の料金など、毎月同じサービスを受ける契約については、支払った日から1年以内の分を前払いし、毎年継続して同じ方法で処理する場合に、払った年の経費にできる特例があります。ただし、毎年続けることが条件なので、一度始めたら翌年以降も前払いを続ける必要があります。
7つの対策で「下がるもの」の一覧
それぞれの対策が、どの税金や保険料を下げるのかをまとめると次のとおりです。
| 対策 | 所得税・住民税 | 国民健康保険料 | 個人事業税 | 手元のお金 |
| ①小規模企業共済 | 下がる | 下がらない | 下がらない | 積立として残る |
| ②iDeCo | 下がる | 下がらない | 下がらない | 積立として残る(原則60歳まで引き出せない) |
| ③国民年金の前納 | 下がる | 下がらない | 下がらない | 将来の年金につながる |
| ④30万円未満の設備 | 下がる | 下がる | 下がる | 減る(必要な物に限る) |
| ⑤12月分経費の計上 | 下がる | 下がる | 下がる | 変わらない(本来の計上) |
| ⑥青色申告特別控除65万円 | 下がる | 下がる | 下がらない | 減らない |
| ⑦短期前払費用 | 下がる | 下がる | 下がる | 前払い分が減る(初年度のみ効果) |
| [画像指示:節税対策ごとに「所得税・住民税」「国民健康保険料」「個人事業税」のどれが下がるかを、信号の色分けで示した図解イラスト / キャプション:同じ金額でも、対策の種類によって下がる負担の範囲が違います] |
年末までのスケジュール:5つのステップ
結論から言うと、年末の節税は「10月に今年のもうけを予想する」ことから始まります。もうけの見込みが分からないまま対策を打つと、やりすぎたり、手遅れになったりします。
| STEP1 10月:今年の所得と税額を予想する 1〜9月の実績に、10〜12月の見込みを足して、今年のもうけと税金・国保の負担額をざっくり試算します。 |
▼
| STEP2 11月:共済・iDeCo・国民年金の手続き 小規模企業共済の加入や前納、国民年金の前納などは、申し込みから引き落としまで時間がかかるため、早めに手続きします。 |
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| STEP3 12月上旬:必要な設備の購入と使用開始 本当に必要な設備だけを選び、年内に届いて使い始められるよう手配します。 |
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| STEP4 12月31日:未払い経費と在庫の確認 12月分の未払いの経費、まだ入金されていない売上、売れ残った商品(在庫)の金額を確認して記録します。 |
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| STEP5 1〜3月:帳簿を締めてe-Taxで申告 控除証明書などの書類をそろえ、3月15日までにe-Taxで申告します。 |
やってはいけない!年末の節税NG行動と実務上の罠
結論として、年末の節税で一番多い失敗は「税金を減らすために、必要のないお金を使ってしまう」ことです。
NG① 税金を減らすための「不要な買い物」
所得税と住民税の税率が合計30%の人が、100万円の経費を使って減らせる税金は約30万円です。残りの70万円は、手元から消えてしまいます。本当に必要な物を、必要なタイミングで買うことだけが、正しい節税です。
NG② 消耗品の大量の買いだめ
事務用品などの消耗品は、原則として「使った年」の経費です。毎年ほぼ同じ量を買って使っている場合は買った年の経費にできますが、年末に急に何年分も買いだめすると、使っていない分は経費として認められません。
NG③ 家族旅行や私的な支出を経費にする
家族旅行や自宅の家具・家電を経費にするのは、典型的な否認のパターンです。自宅兼事務所の家賃や光熱費、仕事とプライベートで使う車などは、仕事で使う割合(家事按分)を合理的な基準で決め、その分だけを経費にしましょう。
| 【要注意】架空の経費は「節税」ではなく「脱税」です 実際には払っていない経費を計上したり、売上を除いたりした場合、税務調査で発覚すると、本来の税金に加えて重加算税(35%)と延滞税が課されます。 さらに、所得を少なく申告していたことになるため、国民健康保険料なども本来の金額にさかのぼって見直されることがあります。 |
シミュレーション:売上1,000万円の個人事業主が年末対策をした場合
結論から言うと、売上1,000万円・経費400万円の個人事業主が3つの対策を行うと、税金と国民健康保険料の合計が年間約52万円下がる計算になります。しかも、そのうち84万円は共済の積立として手元に残ります。
前提条件
- 青色申告の個人事業主(独身・扶養家族なし)。売上1,000万円、経費400万円
- これまでは簡易な帳簿で、青色申告特別控除は10万円。社会保険料控除は年90万円
- 対策:①仕事で必要なパソコン25万円を12月に購入して使用開始、②複式簿記に切り替えe-Taxで申告し65万円控除、③小規模企業共済に加入し月7万円×12か月=84万円を前納
- 国民健康保険料は所得から43万円を引いた金額の約10%と仮定した概算です(実際の料率・上限額は自治体で異なります)。個人事業税と住民税の均等割は省略しています
| 項目 | 対策前 | 対策後 |
| 売上 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 経費 | 400万円 | 425万円(パソコン25万円を追加) |
| 青色申告特別控除 | 10万円 | 65万円 |
| 事業所得 | 590万円 | 510万円 |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 0円 | 84万円 |
| 所得税(復興特別所得税込み) | 約45.6万円 | 約17.9万円 |
| 住民税 | 約45.7万円 | 約29.3万円 |
| 国民健康保険料 | 約54.7万円 | 約46.7万円 |
| 合計負担 | 約146.0万円 | 約93.9万円 |
※所得税の基礎控除は、2026年分の合計所得金額に応じた金額(このケースでは63万円)で計算しています。
| 【シミュレーションから分かること】 3つの対策で、税金と国保の合計負担は約52.1万円下がります。 このうち、国保が下がったのは「パソコンの経費」と「青色申告特別控除」の効果だけで、共済の掛金は国保には影響していません。 一方、共済の84万円は「使ったお金」ではなく「将来の退職金の積立」です。手元のお金を減らさずに税金を下げられる対策を優先することが、年末の節税の基本です。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 年が明けてからできる節税対策はありますか?
A. ほとんどありません。個人事業主の所得は1月1日から12月31日までの1年間で決まるため、経費や共済の掛金も12月31日までに支払いや使用開始を済ませる必要があります。年明けにできるのは、医療費控除などの控除をもれなく申告することや、青色申告特別控除の条件を満たして期限内に申告することが中心です。
Q. 白色申告ですが、今から青色申告にできますか?
A. 今年分(2026年分)を青色申告にすることはできません。青色申告をするには、その年の3月15日まで(新たに開業した場合は開業から2か月以内)に承認申請書を出す必要があります。来年分から青色申告にしたい場合は、2027年3月15日までに申請しましょう。
Q. 小規模企業共済とiDeCo、どちらを優先すべきですか?
A. どちらも掛金の全額が所得から差し引かれます。小規模企業共済は前納ができ、廃業時などに受け取れるうえ、掛金の範囲内で事業資金の貸付を受けられます。iDeCoは原則60歳まで引き出せませんが、運用の成果で受取額が増える可能性があります。年末の駆け込み対策としては、前納できる小規模企業共済の方が使いやすいのが実務上の結論です。
Q. 30万円未満の特例は、白色申告でも使えますか?
A. 使えません。30万円未満の資産を一括で経費にできる特例は、青色申告の個人事業主などに限られます。白色申告の場合は、10万円未満の資産は全額をその年の経費にでき、20万円未満の資産は3年で均等に経費にする方法を選べます。
Q. 所得がかなり増えたのですが、法人にした方がよいですか?
A. 所得の規模によっては、法人にすることで税金や社会保険を含めた負担が変わる場合があります。ただし、法人にすると社会保険への加入が必要になるなど、税金以外の影響も大きいため、年末の対策とは分けて、来年以降の計画として専門家と一緒に試算することをおすすめします。
まとめ:年末の節税は「早く・必要なものから・お金を残して」
| 【3行まとめ】 1.個人事業主の節税は12月31日が締め切り。10月の今、今年のもうけを予想することから始めましょう。 2.共済・iDeCoは税金だけ、必要な経費と青色申告特別控除は国保まで下げます。違いを知って組み合わせましょう。 3.不要な買い物や架空の経費は逆効果。手元にお金が残る対策を優先するのが鉄則です。 |
年末の節税は、正しい順番で取り組めば、手元のお金を減らさずに税金と保険料を確実に下げられます。一方で、どの対策がどれだけ効くかは、所得の水準や家族構成、来年以降の計画によって大きく変わります。
当事務所では、長年の巡回監査で培った経験をもとに、毎月の数字から年末の着地を予想し、早めの対策をご提案しています。国税OBの税理士が在籍しているため、税務調査で指摘されない範囲の見極めも的確です。さらに、税理士と社会保険労務士が連携しているため、国民健康保険や国民年金、将来の法人化に伴う社会保険の負担まで含めた、手取りベースのアドバイスが可能です。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今年の税金がいくらになるか分からない」「どの対策から手をつければいいか迷っている」——12月を迎える前のご相談が、最も選択肢の多いタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。 |
役員社宅で社長の手取りはいくら増える?
借り上げ社宅の家賃計算と「社会保険料が思ったほど下がらない」落とし穴
「10月の給与明細を見たら、社会保険料がまた上がっていた……」
毎年4〜6月の給与をもとに決まる社会保険料は、9月分から新しい金額に切り替わり、多くの会社では10月に支払う給与から天引き額が変わります。役員報酬を上げても、税金と社会保険料に持っていかれて手取りがほとんど増えない——そう感じている経営者の方は少なくありません。
そこでよく耳にするのが「社長の家を会社で借りる(役員社宅)と節税になる」という話です。これは事実です。ただし、正しい家賃の計算方法を知らずに始めると、税務調査で「給与」と判断されて追加の税金がかかったり、期待していたほど社会保険料が下がらなかったりすることがあります。
この記事では、役員社宅の仕組み、社長が負担すべき家賃の計算方法、導入の手順、そして税金と社会保険の両面から見た落とし穴を、はじめての方にも分かるように解説します。後半では、家賃20万円のマンションを例に、手取りがいくら増えるのかを具体的な数字でシミュレーションします。
| 【この記事の結論】 ① 役員社宅は、ルールどおりに運用すれば合法的に手取りを増やせる方法です。会社が家賃を払い、社長は国税庁の計算式で出した「賃貸料相当額」だけを負担します。家賃20万円の物件なら、社長の負担は2万円台に収まることも珍しくありません。 ② 税金と社会保険では「家賃のモノサシ」が違います。税金は固定資産税の評価額をもとに計算しますが、社会保険は都道府県ごとの「1畳あたりの金額」で計算します。この違いを知らないと、社会保険料の削減効果を見誤ります。 ③ 役員報酬の見直しは、事業年度が始まってから3か月以内が原則です。思い立ったらすぐ始めるのではなく、次の期首に向けて「社宅規程・契約・報酬改定」をセットで準備するのが成功の鍵です。 |
役員社宅とは?節税になる仕組みをまず理解しよう
結論から言うと、役員社宅で税金が減るのは「同じお金を、給与としてではなく家賃として会社から出す」からです。
役員社宅とは、会社が借りた(または所有する)住宅を、会社の役員に住まいとして貸し出す仕組みのことです。会社が不動産会社や大家さんと賃貸契約を結ぶ形を、特に「借り上げ社宅」と呼びます。
家庭のやりくりに例えると
お父さんが毎月のお小遣い30万円の中から家賃20万円を払っている家庭を想像してください。お小遣いには税金がかかるので、実際には「税金を引かれた後のお金」で家賃を払っていることになります。
一方、家賃を家計(会社)から直接大家さんに払い、お父さんはお小遣いを減らして少しだけ家賃を家計に入れる形にするとどうでしょう。お父さんの「税金がかかるお小遣い」が減るので、同じ生活をしながら税金を小さくできます。これが役員社宅の基本的な考え方です。
住宅手当・個人契約との違い
「家賃を会社が払う」方法には、住宅手当を出す方法もあります。しかし住宅手当は、名前が違うだけで中身は給与なので、税金も社会保険料も減りません。3つの方法を比べると、違いがよく分かります。
| 比較項目 | 個人で契約・自分で支払い | 住宅手当を支給 | 借り上げ社宅(役員社宅) |
| 賃貸契約の名義 | 社長個人 | 社長個人 | 会社 |
| 家賃を払う人 | 社長(給与の手取りから) | 社長(手当込みの給与から) | 会社が大家さんへ直接 |
| 所得税・住民税 | 給与全額に課税 | 手当も給与として課税 | 社長の負担額が適正なら、会社負担分は非課税 |
| 社会保険料 | 給与全額が対象 | 手当も対象 | 都道府県別の基準額を超える部分だけが対象 |
| 会社の経費(損金) | 給与として経費 | 給与として経費 | 家賃として経費 |
| 節税効果 | なし | なし | 大きい |
| [画像指示:個人契約・住宅手当・借り上げ社宅の3パターンで、家賃のお金の流れ(会社→社長→大家さん/会社→大家さん)を矢印で比較した図解イラスト / キャプション:会社から大家さんへ直接家賃が流れることで、社長の「税金がかかる給与」が減ります] |
社長が払うべき家賃「賃貸料相当額」の計算方法
結論として、役員社宅の成否は「社長がいくら会社に家賃を払うか」で決まります。この金額が少なすぎると、差額は社長への給与とみなされて課税されます。
賃貸料相当額とは、役員が社宅を借りる際に、税務上「これだけは払っておく必要がある」とされる家賃の目安額のことです。国税庁の通達で計算方法が決められており、住宅の広さや構造によって3つの区分に分かれます。
住宅の3つの区分と計算方法
| 区分 | 判定の基準 | 社長が負担すべき家賃(月額) |
| ① 小規模な住宅 | 床面積132㎡以下(木造など法定耐用年数30年以下の建物)、または99㎡以下(鉄筋コンクリート造など30年超の建物) | 次の合計額(固定資産税の課税標準額をもとに計算):建物の課税標準額×0.2%+12円×床面積(㎡)÷3.3㎡+敷地の課税標準額×0.22% |
| ② 小規模でない住宅 | ①を超える広さで、③に当たらないもの | 自社所有:(建物の課税標準額×12%〔耐用年数30年超は10%〕+敷地の課税標準額×6%)÷12/借り上げ:家賃の50%と上記の計算額のいずれか多い額 |
| ③ 豪華な住宅 | 床面積240㎡超で、取得価額・家賃・内外装などから見て豪華なもの(240㎡以下でもプールなど個人の好みの設備があるもの) | 通常の家賃相当額(時価)。節税効果はほぼなし |
多くの都市部のマンションは①の「小規模な住宅」に当たります。この場合、計算の土台が固定資産税の評価額なので、実際の家賃の1〜2割程度に収まることがよくあります。ここが役員社宅の節税効果が大きい理由です。
固定資産税の課税標準額はどうやって調べる?
固定資産税の課税標準額とは、市区町村が固定資産税を計算するもとにしている、土地や建物の評価額のことです。借り上げ社宅の場合、会社は大家さんではありませんが、借りている人(借主)として、賃貸借契約書を持参すれば市区町村(東京23区は都税事務所)で「固定資産評価証明書」などを取得できます。マンションの場合は、建物も敷地も「その部屋の持分」で計算します。
| 税理士の実務視点 実務で最も多いミスは、計算式を使わずに「家賃の1割をもらっておけば大丈夫」と自己流で決めてしまうことです。税務調査では評価証明書をもとに検算されるため、根拠のない金額は通用しません。 評価額は3年ごとに見直されるため、評価替えの年には賃貸料相当額も計算し直す必要があります。計算の根拠資料(評価証明書と計算表)は、社宅ごとに毎年ファイルしておきましょう。 |
税金と社会保険で「家賃のモノサシ」が違う
結論から言うと、役員社宅で所得税は大きく減っても、社会保険料は「税金ほどは」減りません。理由は、社会保険が税金とは別の基準で社宅を評価するからです。
社会保険は「1畳あたりいくら」で計算する
現物給与とは、お金ではなく、住まいや食事など「モノやサービス」の形で受け取る報酬のことです。社会保険では、会社が社宅を提供した場合、厚生労働大臣が都道府県ごとに定める「1畳あたりの金額」に、居間や寝室など住むための部屋の畳数を掛けた額を報酬として扱います。台所・トイレ・浴室・玄関・廊下は畳数に含めません。
そして、この金額から社長が払っている家賃を差し引いた残りが、社会保険料の計算に上乗せされます。つまり、税金のルールどおりに家賃を払っていても、社会保険の基準額の方が高ければ、その差額分には社会保険料がかかるのです。
| 項目 | 税金(所得税・住民税) | 社会保険(健康保険・厚生年金) |
| 基準となるルール | 国税庁の通達(賃貸料相当額) | 厚生労働大臣の告示(現物給与の価額) |
| 計算の土台 | 固定資産税の課税標準額と床面積 | 都道府県別の1畳あたりの金額×居住用の部屋の畳数 |
| 社長がその額以上を払えば | 給与課税なし | 報酬への上乗せなし |
| 社長の負担が少ないと | 差額が給与として課税 | 差額が報酬に加算され保険料が増える |
| 見落としやすい点 | 評価替え(3年ごと)で再計算 | 告示額は毎年度見直される |
| [画像指示:同じマンションの一室について、税金用の「賃貸料相当額」と社会保険用の「畳数×都道府県別単価」の2本のモノサシを並べて比較した図解イラスト / キャプション:税金と社会保険では社宅の評価方法が違うため、同じ自己負担額でも結果が変わります] |
社会保険料が下がるのは「4か月目から」
役員報酬を下げても、社会保険料はすぐには下がりません。随時改定とは、固定的な給与が変わり、その後3か月の平均で保険料の区分(等級)が2段階以上変わったときに、4か月目から保険料を見直す仕組みのことです。社宅の導入と同時に報酬を下げた場合、年金事務所への「月額変更届」の提出が必要になるかを必ず確認してください。
| 税理士の実務視点 当事務所に寄せられるご相談でも、「社宅にしたのに社会保険料がほとんど変わらない」という声は少なくありません。原因の多くは、社会保険の現物給与の計算を見落としていること、または随時改定の手続き漏れです。 役員社宅は「税金の制度」と思われがちですが、実際には税金と社会保険の両方のルールを同時に満たして初めて効果が最大化する制度です。 |
役員社宅のメリット・デメリット
結論として、役員社宅は会社にも社長にもメリットがある一方、社会保険の給付や手続きの手間といったデメリットもあります。両方を比べたうえで判断しましょう。
| メリット | デメリット・注意点 | |
| 社長個人 | 所得税・住民税が減り、手取りが増える/健康保険料が下がる | 標準報酬が下がると、傷病手当金などの給付額も下がる/厚生年金の上限に達していない場合は、将来の年金額が減る |
| 会社 | 家賃を経費にできる/会社負担の社会保険料が下がる | 社宅規程の作成、契約・評価額の管理などの事務負担が増える |
| 税務調査 | ルールどおりなら指摘されない | 自己負担額の根拠がないと、差額が役員給与として課税される |
なお、厚生年金の保険料の上限(標準報酬月額の上限)は、2027年9月から段階的に引き上げられる予定です。現在は上限に達していて年金保険料が変わらない社長でも、今後は社宅の導入によって年金保険料と将来の年金額の両方が変わる可能性があります。
役員社宅を導入する6つのステップ
結論から言うと、役員社宅は「規程→物件→契約→計算→報酬改定→毎月の運用」の順番で進めます。特に報酬改定のタイミングを外すと、効果が1年先送りになります。
| STEP1 社宅規程をつくる 社宅の対象者、自己負担額の計算方法、会社と社長の費用負担の区分(家賃・光熱費・修繕費など)を規程にまとめ、取締役会などで決議します。 |
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| STEP2 物件を選ぶ・区分を確認する 床面積と建物の構造(耐用年数)から、「小規模な住宅」に当たるかを確認します。広さが基準を少し超えるだけで、負担額が家賃の50%以上に跳ね上がることがあります。 |
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| STEP3 会社名義で賃貸借契約を結ぶ 新規なら会社が契約者になります。今住んでいる部屋を社宅にする場合は、大家さんの承諾を得て契約名義を会社に変更します。 |
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| STEP4 賃貸料相当額を計算する 固定資産評価証明書を取得し、国税庁の計算式で社長の負担額を計算します。あわせて社会保険の現物給与の額も確認します。 |
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| STEP5 役員報酬を改定する 原則として事業年度開始から3か月以内に、株主総会などで役員報酬の改定を決議します。議事録も必ず残しましょう。 |
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| STEP6 毎月の給与で自己負担額を差し引く 社長の負担額は給与から差し引き、会社の帳簿に記録します。報酬改定後3か月の平均で等級が2段階以上変われば、月額変更届を提出します。 |
税務調査で指摘されやすい実務上の罠
結論として、役員社宅の失敗の多くは「タイミング」「負担の範囲」「記録」の3つから生まれます。
罠① 期の途中で役員報酬を下げてしまう
定期同額給与とは、毎月同じ金額で支払われる役員報酬のことで、原則としてこの形でないと会社の経費になりません。報酬の金額を変えられるのは、原則として事業年度開始から3か月以内です。社宅を始めたからといって期の途中で報酬を下げると、増額・減額の扱いをめぐって経費性が問題になるおそれがあります。
罠② 光熱費・家具・家電まで会社で払う
社宅として非課税で扱えるのは、あくまで「住まいを貸すこと」です。電気・ガス・水道などの光熱費や、私物としての家具・家電、駐車場代などを会社が負担すると、その分は社長への給与として課税されます。
罠③ 初期費用の処理を間違える
会社名義で契約すると、初期費用も会社が支払います。仲介手数料は支払った年度の経費になりますが、敷金は戻ってくるお金なので資産です。また、20万円以上の礼金は「繰延資産」として、5年(契約期間が5年より短ければその期間)で分けて経費にします。なお、住宅の家賃には消費税がかからないため、消費税の計算で差し引くことはできません。
| 【要注意】社長の負担がゼロ・少なすぎる社宅は「給与」になる 社長から家賃を受け取っていない、または計算の根拠がない少額しか受け取っていない場合、税務調査で賃貸料相当額との差額が役員給与と判断されます。 その結果、社長個人に源泉所得税がかかり、会社には不納付加算税が課されることがあります。さらに社会保険でも、現物給与の届出漏れとして保険料をさかのぼって請求される可能性があります。 「誰がいくら負担するか」を規程と計算表で説明できる状態にしておくことが、最大の防御策です。 |
シミュレーション:家賃20万円のマンションを役員社宅にした場合
結論から言うと、下の前提では、社長個人の手取りが年約69万円、会社の負担が年約11万円減り、合計で年約80万円の効果になります。具体的な数字で確認しましょう。
前提条件
- 東京都内の鉄筋コンクリート造マンション、床面積70㎡(小規模な住宅に該当)、家賃月20万円
- 固定資産税の課税標準額(その部屋の持分):建物600万円、敷地400万円と仮定
- 社会保険の現物給与の単価は1畳あたり2,830円、居住用の部屋は20畳と仮定
- 社長は50歳。役員報酬は月80万円(年960万円)で、家賃は個人で払っている
- 社宅導入にあわせて期首に役員報酬を月62万円に改定(会社の支出総額をほぼ同じに保つ設計)
- 健康保険・介護保険の料率は労使合計約11.5%(本人約5.75%)と仮定。数値は分かりやすさを優先した概算です
① 社長が負担する家賃(賃貸料相当額)
| 計算項目 | 計算式 | 月額 |
| 建物部分 | 600万円×0.2% | 12,000円 |
| 床面積部分 | 12円×70㎡÷3.3㎡ | 約255円 |
| 敷地部分 | 400万円×0.22% | 8,800円 |
| 合計(社長の負担額) | 約21,055円 |
家賃20万円に対して、社長の負担は約2.1万円(家賃の約1割)です。残りの約17.9万円は会社が負担しても、社長への給与にはなりません。
② 社会保険の報酬の変化
社会保険の現物給与は「2,830円×20畳=56,600円」です。社長の負担額21,055円を差し引いた35,545円が報酬に上乗せされるため、社会保険上の報酬は「62万円+35,545円=約65.6万円」となります。
| 項目 | 導入前 | 導入後(実際) | 現物給与を見落とした場合の見込み |
| 社会保険上の報酬 | 80万円 | 約65.6万円 | 62万円 |
| 健康保険の標準報酬月額 | 79万円 | 65万円 | 62万円 |
| 厚生年金の標準報酬月額 | 65万円(上限) | 65万円(上限) | 62万円 |
見込みと実際では健康保険の等級に差が出るうえ、厚生年金はもともと上限に達しているため保険料が変わりません。「社会保険料がもっと下がるはず」と考えていると、ここで期待とのズレが生まれます。
③ 年間の効果
| 項目 | 計算の考え方 | 年間の効果 |
| 給与所得の減少 | 年960万円→744万円(給与所得765万円→約559.6万円) | 約205.4万円減 |
| 課税所得の減少 | 上記から、社会保険料控除の減少分(約9.7万円)を差し引き | 約195.7万円減 |
| 所得税(復興特別所得税込み) | 約195.7万円×20.42% | 約40.0万円減 |
| 住民税 | 約195.7万円×10% | 約19.6万円減 |
| 健康保険料(本人分) | (79万円−65万円)×5.75%×12か月 | 約9.7万円減 |
| 社長個人の手取り増加 | 約69.3万円 | |
| 健康保険料(会社負担分) | 本人分と同額 | 約9.7万円減 |
| 会社の支出総額 | 年960万円→744万円+家賃240万円−社長負担約25.3万円 | 約1.3万円減 |
| 会社の負担減少 | 約11.0万円 | |
| 合計の効果 | 年約80万円 |
| 【シミュレーションから分かること】 社長の生活(住む部屋も、家賃を除いて自由に使えるお金も)はほぼ変わらないまま、年約80万円、5年続ければ約400万円の差になります。 一方で、効果の大半は所得税・住民税によるもので、社会保険料の削減は限定的です。社会保険の現物給与を織り込んで試算しないと、効果を過大に見積もってしまいます。 所得が高く税率の高い社長ほど効果は大きくなり、逆に役員報酬が低い場合は効果が小さく、年金額の減少などのデメリットが上回ることもあります。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 社長1人の会社でも、役員社宅は使えますか?
A. 使えます。役員社宅は会社の規模や役員の人数に関係なく利用できます。ただし、社長1人の会社ほど「会社のお金と個人のお金の区別」を厳しく見られるため、社宅規程の作成、会社名義の契約、計算根拠の保存を必ず行ってください。
Q. 今住んでいる賃貸マンションを、そのまま社宅にできますか?
A. できます。大家さんや管理会社の承諾を得て、契約名義を個人から会社に変更します。名義変更の際に新たな契約扱いとなり、礼金や手数料がかかる場合があるため、事前に確認しましょう。社長個人が所有している自宅を会社に貸して社宅にする方法もありますが、会社から受け取る家賃は社長の不動産所得になるため、効果は別途試算が必要です。
Q. 固定資産税の課税標準額が分からない場合はどうすればよいですか?
A. 借主である会社が、賃貸借契約書を持参して市区町村(東京23区は都税事務所)で固定資産評価証明書などを取得するのが確実です。どうしても取得できない場合、借り上げ社宅であれば家賃の50%を社長が負担すれば税務上の問題は生じませんが、その分節税効果は小さくなります。
Q. 期の途中から社宅に切り替えることはできますか?
A. 社宅の利用自体は期の途中からでも始められます。ただし、役員報酬の減額は原則として事業年度開始から3か月以内に行う必要があります。期の途中で始める場合は報酬を据え置いたまま社宅を開始し、次の期首に報酬を改定するのが安全な進め方です。具体的な進め方は、必ず税理士と相談してから決めてください。
Q. 光熱費や家具、駐車場代も会社で負担できますか?
A. 会社が負担すること自体はできますが、その分は社長への給与として課税されます。社宅として非課税になるのは住まいそのものの家賃部分だけです。社宅規程で「会社が負担するもの」と「社長が負担するもの」をはっきり分けておきましょう。
まとめ:役員社宅は「税金と社会保険をセットで設計」が成功の鍵
| 【3行まとめ】 1.役員社宅は、会社が家賃を払い、社長は国税庁の計算式による「賃貸料相当額」だけを負担することで、合法的に手取りを増やせる方法です。 2.税金と社会保険では社宅の評価方法が違うため、社会保険料は税金ほど下がりません。現物給与を織り込んだ試算が欠かせません。 3.役員報酬の改定は期首から3か月以内が原則。社宅規程・会社名義の契約・報酬改定をセットで、次の期首に向けて準備しましょう。 |
役員社宅は、仕組みそのものはシンプルですが、「税金の通達」「社会保険の告示」「役員報酬のルール」という3つの制度が重なり合う分野です。どれか一つでも見落とすと、効果が小さくなるだけでなく、税務調査や年金事務所の調査で思わぬ請求を受けることにもなりかねません。
当事務所には、国税の調査実務を内側から知る国税OBの税理士が在籍しており、調査官が社宅のどこを確認するのかを踏まえた規程づくりと計算根拠の整備をお手伝いしています。さらに、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、所得税・法人税の節税効果と、社会保険料・将来の年金額への影響を一度に試算し、社長にとって本当に得になる役員報酬と社宅の組み合わせをご提案できます。定期的な巡回監査を通じて、評価替えの年の再計算や毎月の運用まで継続して支えます。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「役員報酬の手取りを増やしたい」「今の住まいを社宅にできるか知りたい」——次の期首を迎える前のご相談が、最も大きな効果を生むタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。 |
