M&Aを決断したら次は何をする?

中小企業の相談から成約までの6ステップを税理士が徹底解説

「そろそろ会社の将来を考えなければならない」「後継者がいないまま、なんとなくM&Aという言葉が頭に浮かんでいる」——そのように感じながらも、「何から手をつければよいのか分からない」「誰に相談すればよいのか」「一歩を踏み出すのが怖い」というご相談を、経営者の方から数多くいただきます。

結論からお伝えします。M&Aを考え始めた経営者が次にすべきことは、いきなり相手先を探すことではありません。まずは信頼できる相談先を選び、秘密保持契約を結んだうえで、自社の企業価値を客観的に把握することです。この順番を誤ると、情報が思わぬところから漏れたり、不利な条件で交渉を進めてしまったりする危険があります。

この記事では、中小企業のM&Aについて、相談を始めてから契約が成立(クロージング)するまでの流れを6つのステップに分けて解説します。各段階で実務上とくに注意すべき「落とし穴」や、実際の数字を使った譲渡価格・税金のシミュレーション、経営者の皆様からよくいただく質問への回答まで、税理士の実務視点から網羅的にまとめました。最後まで読めば、次に自社が何をすべきかが具体的に見えてきます。

そもそもM&Aとは?中小企業における「会社を譲る」ことの意味

M&Aとは、Mergers and Acquisitions(合併と買収)の略称で、会社の経営権や事業を他の会社や個人に譲り渡す、または譲り受けることです。中小企業の場合、その大半は「後継者不在の解決策」として行われる第三者への事業承継であり、会社の株式を第三者に譲渡する「株式譲渡」という手法が中心となります。

「身売り」「乗っ取り」といったイメージを持たれる方も少なくありませんが、実務上のM&Aは、従業員の雇用や取引先との関係を維持したまま会社を存続させるための、前向きな経営判断のひとつです。中小企業庁が公表している中小M&Aガイドラインでも、後継者不在に悩む中小企業の重要な選択肢として、M&Aの活用が推奨されています。

中小企業のM&A、相談から成約までの6つのステップ(全体像)

結論として、中小企業のM&Aは「相談先の選定」から「最終契約・クロージング」まで、おおむね6つのステップを踏んで進みます。案件の規模や難易度にもよりますが、実務上は相談を開始してから成約まで半年から1年程度を要するのが一般的です。次のステップに進む前に、まずは全体の流れを把握しておきましょう。

ステップ1 相談先の選定 ステップ2 秘密保持契約(NDA)とノンネームシートによる打診 ステップ3 トップ面談・企業価値算定(バリュエーション) ステップ4 基本合意書(LOI)の締結 ステップ5 デューデリジェンス(DD/買収監査) ステップ6 最終契約書の締結・クロージング → PMI(統合作業)

[画像指示:相談からクロージングまでの6ステップを示すフローチャート図解イラスト/キャプション:中小企業M&Aの基本的な流れ(相談〜クロージングまで)]

ステップ1 相談先を選ぶ

相談先とは、M&Aの進め方について助言を受けたり、譲渡先の候補を探してもらったりする窓口のことです。代表的な相談先には、公的機関である事業承継・引継ぎ支援センター、民間のM&A仲介会社・ファイナンシャル・アドバイザー(FA)、そして日頃から自社の財務内容を把握している顧問税理士等の専門家があります。

結論として、最初の相談先は1か所に絞らず、複数の窓口を比較したうえで選ぶことをお勧めします。相談先ごとに得意分野や候補先ネットワーク、手数料体系が異なるためです。下の比較表を参考に、自社の状況に合った窓口を選んでください。

相談先特徴費用感こんな方におすすめ
事業承継・引継ぎ支援センター国が設置する公的機関が中立的な立場で助言・マッチングを行う相談は無料まずは情報収集や公的支援策を確認したい方
M&A仲介会社・FA買い手候補の選定(マッチング)から契約交渉まで一貫して支援する多くは成功報酬制(着手金の有無は会社による)早期に幅広い候補先の中から相手を探したい方
顧問税理士等の専門家自社の財務内容を熟知した立場から助言し、必要に応じて他の専門家と連携する顧問契約の範囲内、または個別相談による日頃から相談している専門家に窓口を任せたい方

ステップ2 秘密保持契約(NDA)とノンネームシートによる打診

秘密保持契約(NDA)とは、M&Aの検討過程で開示する会社の機密情報を、目的外に利用したり第三者に漏らしたりしないことを約束する契約のことです。結論として、この契約を結ぶまでは、社名や具体的な財務数値を開示する必要はありません。

実務上は、まず社名を伏せた「ノンネームシート」と呼ばれる概要資料(業種、所在地のおおまかな地域、売上規模など)を使って候補先の関心を確認し、関心を示した候補先との間で秘密保持契約を締結した段階で、初めて社名や詳細な情報を開示するという手順を踏みます。この段取りを踏むことで、従業員や取引先に情報が漏れるリスクを最小限に抑えられます。

ステップ3 トップ面談・企業価値算定(バリュエーション)

企業価値算定(バリュエーション)とは、譲渡対象となる会社や事業の値段の目安を、財務状況や将来の収益力に基づいて算出することです。中小企業のM&Aでは、貸借対照表の時価純資産に、営業利益(正常収益力)の3〜5年分を「のれん(営業権)」として加算する「年倍法(年買法)」と呼ばれる簡便な手法が広く使われています。

この段階では、譲渡側と譲受側の経営者同士が直接顔を合わせる「トップ面談」も行われます。結論として、トップ面談は条件交渉の場ではなく、経営理念や従業員の処遇に対する考え方など、数字に表れない部分を確認し合う場と位置づけて臨むことが実務上のポイントです。

ステップ4 基本合意書(LOI)の締結

基本合意書(LOI)とは、その時点で合意している譲渡価格の目安やスケジュールなど、大枠の条件を書面で確認し合うものです。結論として、基本合意書を締結した段階では、原則として法的な譲渡義務は生じません。独占交渉権や秘密保持義務など一部の条項を除き、法的拘束力を持たせないのが一般的だからです。

多くの場合、この基本合意書には、一定期間、譲渡側が他の候補先と並行して交渉しないことを約束する「独占交渉権」が盛り込まれます。これにより、譲受側は安心してこの後のデューデリジエンスに費用と時間をかけることができます。

ステップ5 デューデリジェンス(DD/買収監査)

デューデリジェンス(DD)とは、譲受側が譲渡対象の会社について、財務・税務・法務などの観点から詳細な調査を行うことです。結論として、この段階で初めて、決算書には表れていない簿外債務や偶発債務、契約上のリスクなどが明らかになることがあります。

・財務・税務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスでは、資産・負債の実態や収益力の正常性を確認します。税務デューデリジェンスでは、過去の申告内容に誤りがないか、追徴課税を受けるリスクが潜んでいないかを確認します。顧問税理士が日頃から適正な会計処理・税務処理を行っておくことは、この段階をスムーズに通過するための最も有効な備えです。

・法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスでは、許認可の維持要件、労務管理の状況、係争中の訴訟の有無、取引先との契約内容(チェンジ・オブ・コントロール条項の有無など)を確認します。労務管理の不備は、譲渡価格の減額交渉の材料にされやすい代表的な項目です。

[画像指示:デューデリジェンス(財務・税務・法務)の3つの調査範囲を示す図解イラスト/キャプション:デューデリジェンスで確認される主な3つの領域]

実務上の罠として特に多いのが、経営者個人が会社の経費として計上していた私的な支出や、親族への未払金・貸付金といった帳簿の整理不足です。こうした点は、DDで指摘されると譲渡価格の減額や交渉の長期化に直結するため、相談を始める前の段階から決算書と実態を一致させておくことが、結果的に最も有利な条件でのM&Aにつながります。

ステップ6 最終契約書の締結・クロージング、そしてPMI

最終契約書とは、デューデリジェンスの結果を踏まえて確定した譲渡価格や条件を定める、法的拘束力を持つ契約書のことです。この契約書には通常、開示した情報に虚偽がないことを保証する「表明保証」条項が盛り込まれ、これに違反した場合には損害賠償責任を負うことになります。

契約締結後、株式の引き渡しと譲渡代金の支払いを実行する手続きを「クロージング」と呼び、これをもって法的な手続きは完了します。しかし、実務上はここからが重要です。クロージング後に行う組織・業務・システムなどの統合作業を「PMI(Post Merger Integration)」といい、従業員への丁寧な説明や取引先への挨拶など、PMIの巧拙がM&A成功の可否を大きく左右します。

M&Aで会社を譲渡するメリット・デメリット

結論として、M&Aによる第三者への事業承継には、廃業と比較して大きなメリットがある一方、経営者として理解しておくべきデメリットも存在します。両面を正しく把握したうえで判断することが重要です。

項目メリットデメリット・留意点
事業の存続従業員の雇用や取引先との関係を維持したまま会社を存続できる譲受企業の経営方針次第で、社名や事業内容が変わる場合がある
資金の確保譲渡対価としてまとまった資金を得られ、引退後の生活資金等に充てられる希望どおりの譲渡価格になるとは限らず、算定額が期待を下回ることもある
個人保証・担保金融機関からの経営者保証(個人保証)や担保提供から解放されることが多い契約内容によっては、一定期間、引き継ぎのため経営への関与を求められる
手続きの負担許認可や既存の取引関係をそのまま活かせる場合が多いデューデリジェンス対応など、経営者自身の時間的・精神的な負担が発生する

実務上の注意点・落とし穴(税理士の視点から)

仲介手数料の相場と「レーマン方式」の注意点

レーマン方式とは、譲渡価格の金額に応じて段階的に手数料率を下げながら計算する、M&A仲介手数料の一般的な算定方式のことです。結論として、手数料がどの金額を基準に計算されるのか(譲渡価格そのものか、負債を含めた総資産か等)は仲介会社によって異なるため、契約前に必ず算定基準を確認する必要があります。

また、最低手数料額が定められているケースが多く、譲渡価格が小さい案件では手数料率が実質的に高くなることがあります。複数の仲介会社から見積もりを取り、手数料体系を比較したうえで契約先を決めることが実務上のポイントです。

株式譲渡か事業譲渡かで、経営者の手取り額は大きく変わる

結論として、同じ譲渡価格であっても、株式譲渡と事業譲渡では経営者の手取り額に大きな差が生じます。株式譲渡では、譲渡益に対して申告分離課税(税率20.315%)が個人の株主に対して一度だけ課税されます。

一方、事業譲渡の場合は、まず譲渡益に対して法人税等(実効税率30%程度)が課税されます。その後、会社を清算して残った資金を株主に分配する際には、その分配金がみなし配当として扱われ、さらに所得税・住民税が課税されるため、株式譲渡に比べて経営者の手取り額は少なくなるのが一般的です。どちらの手法を選ぶかは、税負担だけでなく、許認可の引き継ぎや簿外債務の遮断といった観点も踏まえて総合的に判断する必要があります。

従業員・取引先への説明タイミング

結論として、従業員への開示は、基本合意締結後、あるいは最終契約直前など、案件がある程度固まった段階で行うのが実務上の通例です。早すぎる開示は、案件が成立しなかった場合の混乱や、優秀な人材の離職につながるおそれがあるためです。取引先への説明時期についても、譲受企業と事前にすり合わせておくことが欠かせません。

具体的シミュレーション:譲渡価格と税金の試算例

結論として、譲渡価格や手取り額は、決算書の数字さえ分かれば概算を試算できます。ここでは、後継者不在に悩む食品卸売業(年間売上高8,000万円)を例に、実際の数字を使って計算してみます。

【前提条件】時価純資産(資産・負債を時価評価した実質的な純資産)2,000万円、正常収益力(役員報酬等を適正水準に調整した後の年間利益)800万円、のれんは正常収益力の3年分として算定、株式の当初取得費300万円、仲介手数料は譲渡価格の5%。

項目計算式・金額
時価純資産2,000万円
正常収益力(年間)800万円
のれん(正常収益力 × 3年)800万円 × 3年 = 2,400万円
譲渡価格の目安2,000万円 + 2,400万円 = 4,400万円
仲介手数料(譲渡価格の5%)4,400万円 × 5% = 220万円
株式の取得費300万円
譲渡所得(譲渡価格-取得費-手数料)4,400万円-300万円-220万円 = 3,880万円
税額(譲渡所得 × 20.315%)3,880万円 × 20.315% ≒ 788万円
手取り額(譲渡価格-手数料-税額)4,400万円-220万円-788万円 = 3,392万円

[画像指示:企業価値算定(時価純資産+のれん)の計算イメージを示す図解イラスト/キャプション:年倍法による譲渡価格算定の考え方]

結論として、このケースでは譲渡価格4,400万円に対し、手取り額は約3,392万円となります。仮に同じ譲渡価格を事業譲渡で受け取った場合には、前述のとおり法人税等と分配時の課税が重なるため、手取り額はこれを下回るのが一般的です。自社の場合の正確な試算については、決算書をもとに個別に計算する必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q. M&Aの相談は無料でできますか?

A. 結論として、多くの相談窓口では初期相談を無料で行っています。事業承継・引継ぎ支援センターは公的機関であるため相談料はかかりません。民間のM&A仲介会社の多くも、契約成立までは着手金や中間金がかからない完全成功報酬制を採用しています。ただし契約内容によっては着手金が発生する会社もあるため、契約前に手数料体系を必ず確認してください。

Q. 会社を譲渡する話が従業員や取引先に漏れないか心配です。大丈夫ですか?

A. 結論として、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで進めるため、適切な手順を踏めば情報が漏れる心配はありません。初期段階では社名を伏せたノンネームシートで概要のみを開示し、相手先が関心を示した段階で秘密保持契約を結んでから社名や詳細情報を開示するのが実務上の標準的な手順です。

Q. 会社の業績が良くない場合でも、M&Aで譲渡できますか?

A. 結論として、業績が振るわない会社であっても譲渡できる可能性は十分にあります。譲受企業は、利益だけでなく、保有する技術力、許認可、顧客基盤、従業員の技能といった事業の強みに価値を見出すことが少なくないためです。業績だけで判断せず、まずは専門家に自社の強みを整理してもらうことをお勧めします。

Q. 基本合意書を締結したら、必ずその相手と契約しなければなりませんか?

A. 結論として、基本合意書を締結した段階では、法的な譲渡義務は生じません。独占交渉権や秘密保持義務などの一部条項を除き、法的拘束力を持たせないのが一般的だからです。その後のデューデリジェンスで重大な問題が見つかった場合には、価格の見直しや契約自体の中止も可能です。

Q. 個人事業主でもM&Aによる事業の譲渡は可能ですか?

A. 結論として、個人事業主であっても事業譲渡という形でM&Aを行うことは可能です。個人事業の場合は株式が存在しないため、屋号や顧客、設備、在庫といった事業用の資産・負債を個別に譲渡する事業譲渡の形式を取ります。法人とは手続きが異なりますが、早めに相談を始めることが有効な点は同じです。

まとめ:次にすべきことは「相談」と「企業価値の把握」です

  • M&Aは「相談 → 企業価値算定 → 基本合意 → デューデリジェンス → 最終契約・クロージング → PMI」という流れで進みます。
  • 次のステップとして最も重要なのは、秘密保持契約を結べる信頼できる相談先を早期に選び、自社の企業価値を客観的に把握することです。
  • 手数料体系や契約書の内容、税金の取り扱いは個々の状況によって大きく異なるため、独自の判断は思わぬ損失につながります。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

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