夫が亡くなったら、妻の年金はどうなる?

「遺族厚生年金」と「繰り下げた老齢基礎年金」は同時にもらえるのか、中学生にもわかるように徹底解説

[画像:夫婦が並んで年金手帳と電卓を見ながら微笑んでいる、温かみのあるイラスト(キャプション:もしもの時、家族の年金はどうなる?)]

はじめに:その不安、とてもよくわかります

「もし自分が先に死んでしまったら、残された妻の生活費は大丈夫だろうか」「自分の年金を遅らせて増やしている最中に何かあったら、その頑張りは無駄になってしまうのだろうか」——経営者や個人事業主の方から、こうしたご相談を本当によくいただきます。

結論からお伝えします。ご主人が亡くなった場合、奥様は「遺族厚生年金」を受け取りながら、ご自身の老齢基礎年金(繰り下げて増額した分も含めて)を同時に満額受け取ることができます。この2つは、お互いを減らし合う関係にはありません。

ただし、「老齢厚生年金」を繰り下げている場合は少し話が変わります。この記事では、年金制度が初めての方でも迷わないように、身近な例えを使いながら、仕組み・注意点・具体的な金額シミュレーションまで、順を追ってわかりやすく解説していきます。

この記事でわかること

  • 年金の「2階建て」の仕組みが、お小遣い制度に例えるだけでスッと理解できます
  • 遺族厚生年金と老齢基礎年金が、なぜ両方もらえるのかの理由
  • 「繰り下げ」で増やした年金が、死亡によって無駄にならないための注意点
  • 実際の金額でシミュレーションした、もらえる年金額のイメージ

第1章:そもそも「年金」は2階建てのビルだと考えてください

年金の話がややこしく感じる最大の理由は、「年金にも種類がある」ことを知らずに話を聞いてしまうからです。まずはこのイメージだけ持ってください。

1階部分:老齢基礎年金(国民年金)

日本に住む20歳から60歳までのすべての人が加入する、いわば「建物の1階=全員共通の土台」です。会社員でも、自営業者でも、専業主婦(主夫)でも、原則としてこの1階部分にはみんな入っています。

2階部分:老齢厚生年金

会社員や公務員など、厚生年金に加入していた人だけが上乗せでもらえる「2階部分」です。個人事業主で厚生年金に入っていなかった方は、この2階部分はありません。給料(お給料の額)に応じて、2階の広さ(もらえる金額)が変わるとイメージしてください。

[画像:2階建てのビルのイラスト。1階に『老齢基礎年金(全員共通)』、2階に『老齢厚生年金(会社員・公務員のみ)』というラベルが貼られている図解]

「遺族年金」も同じ2階建てで考える

実は、家族が亡くなったときにもらえる「遺族年金」も、同じ2階建ての建物構造をしています。

 1階:遺族基礎年金2階:遺族厚生年金
誰がもらえる?子のある配偶者、または子亡くなった方に生計を維持されていた配偶者・子など
支給の条件原則、18歳到達年度末までの子がいること厚生年金加入中の死亡などが条件。子の有無は問わない
今回のケースお子様が成人している場合は対象外になりやすい妻が受け取れる中心的な年金

お子様がすでに成人されている場合、多くのケースで中心となるのは「遺族厚生年金」です。以降はこちらを前提に解説します。

第2章:遺族厚生年金とは何か

遺族厚生年金とは、厚生年金に加入していた方(またはその年金を受け取っていた方)が亡くなったときに、生計を維持されていた配偶者などに支払われる年金です。金額の目安は、亡くなった方が本来もらえるはずだった老齢厚生年金の4分の3(75%)です。

たとえるなら「家族で分けていたリンゴの木」

夫婦で1本のリンゴの木(厚生年金)を育てていたとします。夫が亡くなっても、その木そのものは残っていて、収穫できるリンゴの4分の3を、遺された妻が受け取れる——これが遺族厚生年金のイメージです。木を最初から育て直す必要はありません。

第3章:「繰り下げ受給」とは何か

老齢基礎年金・老齢厚生年金は、本来65歳から受け取れますが、受け取り開始を66歳以降に遅らせる(=繰り下げる)ことで、金額を増やせる制度があります。

繰り下げた期間増額率備考
1年(66歳)8.4%増1か月あたり0.7%増
3年(68歳)25.2%増 
5年(70歳)42.0%増以前は70歳が上限でした
10年(75歳)84.0%増2022年4月以降、75歳まで拡大

つまり、年金の受け取りを「我慢」した分だけ、その後の金額が一生涯増え続ける仕組みです。これを「もったいないから」と後回しにしていた矢先にご主人が亡くなった、というご相談は少なくありません。

第4章:結論——遺族厚生年金と、繰り下げた老齢基礎年金は「両方とも」満額もらえる

ここが本記事の最も重要なポイントです。

なぜ両方もらえるのか

遺族厚生年金は「亡くなったご主人の年金」がベースになった給付です。一方、老齢基礎年金は「奥様ご自身が積み立ててきた年金」です。そもそも財布(お金の出どころ)が別なので、片方をもらったからといって、もう片方が減らされることはありません。

たとえるなら「実家からの仕送り」と「自分のお給料」

奥様が受け取る老齢基礎年金は、いわば奥様自身が働いて得た「お給料」。遺族厚生年金は、ご主人が遺してくれた「実家からの仕送り」。お給料をもらったからといって仕送りが止まる、ということがないのと同じです。

年金の種類誰の記録に基づくか死亡による影響
老齢基礎年金(繰り下げ分含む)妻自身の加入記録影響なし。増額分もそのまま満額受給
遺族厚生年金夫の厚生年金の記録新たに受給権が発生
老齢厚生年金(妻自身の分・繰り下げ待機中の場合)妻自身の厚生年金記録繰り下げ待機がその時点でストップ(次章で解説)

第5章:唯一の注意点——「老齢厚生年金」を繰り下げている場合

先ほどの結論には、1つだけ例外があります。それは、奥様ご自身も会社員経験があり、ご自身の老齢厚生年金(2階部分)を繰り下げて増額待機中だった場合です。

この場合、ご主人が亡くなり「遺族厚生年金」の受給権を得た時点で、老齢厚生年金の繰り下げ待機は自動的にストップします。それ以降は増額されず、その時点までの増額率で受け取るか、増額なしの本来の金額で受け取るかを選ぶことになります。そのうえで、ご自身の老齢厚生年金と遺族厚生年金の金額を比較し、遺族厚生年金の方が高ければ、その差額が上乗せして支給される「差額支給」という仕組みになります。

一方で、老齢基礎年金(1階部分)の繰り下げは、この影響を一切受けません。遺族厚生年金の受給権を得たあとも、そのまま繰り下げ待機を続けて増額幅を積み増すことも可能です。

[画像:『1階部分(老齢基礎年金)は繰り下げ継続OK』『2階部分(老齢厚生年金)は繰り下げストップ』を対比させたシンプルな比較イラスト]

手続きの流れ(ステップ図)

STEP1:ご主人が死亡 → 遺族厚生年金の受給権が発生

STEP2:年金事務所または街角の年金相談センターで「遺族厚生年金」を請求

STEP3:ご自身の老齢基礎年金は、繰り下げ待機を続けるか、ここで請求するかを選択

STEP4:老齢厚生年金を繰り下げ待機中だった場合、その時点までの増額率で受給内容を確定

STEP5:遺族厚生年金+老齢基礎年金(必要に応じて老齢厚生年金の差額分)を受給開始

第6章:具体的な金額でシミュレーションしてみましょう

会社員だったご主人と、専業主婦(第3号被保険者)だった奥様のケースで考えてみます。数字はわかりやすくするための目安です。

前提条件

  • 妻:65歳から老齢基礎年金の受給を開始せず、70歳まで繰り下げ待機中(満額の目安:年額約81万円)
  • 夫:65歳で死亡。夫の老齢厚生年金額(本来額)は年額約120万円

計算1:繰り下げによる老齢基礎年金の増額

5年間(60か月)繰り下げ → 0.7%×60か月=42%増額

81万円 ×(1+0.42)= 約115万円/年

計算2:遺族厚生年金の金額

夫の老齢厚生年金 120万円 × 3/4 = 90万円/年

計算3:合計でいくら受け取れるか

受給する年金年額(目安)
老齢基礎年金(70歳まで繰り下げ・42%増)約115万円
遺族厚生年金約90万円
合計(年額)約205万円

このように、繰り下げで積み上げた老齢基礎年金の増額分は、遺族厚生年金と何ら競合せず、丸ごと上乗せされます。「繰り下げている途中で何かあったら損をするのでは」という不安は、少なくとも老齢基礎年金に関しては杞憂だとご理解いただけたかと思います。

よくある質問(FAQ)

Q1. 遺族厚生年金には税金がかかりますか?

かかりません。遺族厚生年金は非課税所得です。所得税・住民税の計算上、収入として計上する必要はありません。ただし、健康保険の扶養認定や介護保険料の算定などで収入とみなされる場合があるため、個別の確認をおすすめします。

Q2. 妻が働いていて厚生年金に加入している場合も、遺族厚生年金はもらえますか?

もらえます。ただし収入要件(前年収入850万円未満など)を満たす必要があります。また、自身の老齢厚生年金がある場合は、前述のとおり金額の調整(差額支給)が行われます。

Q3. 遺族厚生年金は一生涯もらえるのですか?

原則として、妻が再婚しない限り一生涯受給できます(30歳未満で子のない妻は5年間の有期給付となるなど、年齢等による例外はあります)。

Q4. 老齢基礎年金の繰り下げ請求は、あとからでも取り消せますか?

繰り下げ待機中であれば、いつでも請求(受給開始)の手続きができます。一方、すでに増額された年金として受給を始めたあとに、増額前の金額に戻すことはできません。

Q5. 遺族厚生年金の請求には期限がありますか?

請求の権利(受給権)は5年で時効により消滅します。「まだ大丈夫」と後回しにせず、できるだけ早めに年金事務所で手続きすることをおすすめします。

まとめ

  • 遺族厚生年金と、妻自身の老齢基礎年金(繰り下げ増額分も含む)は、同時に満額受給できます
  • 老齢基礎年金の繰り下げは、遺族厚生年金の受給によって影響を受けません
  • 妻自身が老齢厚生年金を繰り下げ待機中だった場合のみ、その繰り下げは受給権発生時点でストップします
  • 遺族厚生年金の請求には5年の時効があるため、早めの手続きが重要です

年金制度は、ご家庭の加入歴や働き方によって、実際にもらえる金額や手続きの最適なタイミングが大きく変わります。「うちの場合はどうなるのか」を正確に知るためには、実際の年金記録に基づいた個別の試算が欠かせません。

個別具体的なケースは、加入記録や家族構成によって判断が大きく異なります。「わが家の場合はいくらもらえるのか」「繰り下げは続けるべきか」など、少しでも不安な点がございましたら、お気軽に当事務所へご相談ください。

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