忘年会・新年会の費用は会社の経費になる?

福利厚生費と交際費の分かれ目と、見落としがちな「残業代・労災」の落とし穴
「今年の忘年会、会社の経費で落としていいのかな?」
11月に入ると、お店の予約や出欠の確認が始まり、経営者や総務担当の方からこんなご相談が一気に増えます。「1人1万円以下なら大丈夫と聞いたけど本当?」「来られない社員に現金を渡したら喜ばれるかな?」「二次会も会社で払っていい?」——どれも、よかれと思ってやったことが、あとで税務調査の指摘につながりやすいポイントです。
さらに見落とされがちなのが、税金以外の問題です。参加を半ば強制した忘年会は「仕事」と判断され、その時間に残業代が発生することがあります。帰り道の事故や飲酒トラブルでは、会社の責任が問われる場面もあります。
この記事では、忘年会・新年会の費用がどんなときに経費になるのか、福利厚生費・交際費・給与の分かれ目を一つずつ整理し、税金と労務の両面から「やってはいけない運営」を解説します。後半では、従業員25名の会社を例に、運営の仕方ひとつで負担がどれだけ変わるかを数字でシミュレーションします。
【この記事の結論】
① 全員に声をかけ、常識的な金額で行う社内の忘年会は「福利厚生費」として全額経費になります。参加した社員に税金もかかりません。
② 「1人1万円以下なら交際費にならない」ルールは、社内だけの飲み会には使えません。社外の人が参加する飲食だけが対象です。役員だけ・有志だけの会は交際費になります。
③ 最大の落とし穴は「不参加者への現金」と「参加の強制」の2つ。前者は参加者全員への給与課税、後者は残業代や労災の問題につながります。

忘年会の費用はどう分類される?3つの経費区分の基本
結論から言うと、忘年会の費用は「誰のために、どんな形で使ったか」によって、福利厚生費・交際費・給与のどれかに分かれます。同じ飲食代でも、区分が変わると税金の扱いがまったく違ってきます。
福利厚生費とは、従業員全体の慰安や健康、生活の充実のために、会社が全員を対象に平等に負担する費用のことです。
交際費とは、取引先など事業に関係のある人への接待や贈り物、または社内の一部の人だけのための飲食などにかかる費用のことです。
給与とは、会社が役員や従業員に支払う労働の対価のことで、現金だけでなく、個人的な利益になる物やサービスの提供も含まれます。
家庭にたとえると分かりやすくなります。家族全員でお祝いのケーキを食べるのが「福利厚生費」、ご近所や親戚へのお礼の品が「交際費」、子ども一人ひとりに渡すお小遣いが「給与」です。ケーキは家族みんなのものですが、お小遣いはその子個人のものになる——この違いが、税金の扱いの違いにつながります。
比較項目 福利厚生費 交際費 給与(役員給与を含む)
誰のため 従業員全員 取引先・社内の一部の人 特定の役員・従業員個人
忘年会での典型例 全員を招待した一次会 取引先との忘年会、有志の二次会、役員だけの会 不参加者への現金、社長家族との私的な食事
法人税(会社の経費) 全額経費になる 中小企業は年800万円まで経費(※) 従業員分は経費。役員分は原則経費にならない
消費税 差し引ける(仕入税額控除) 差し引ける 差し引けない
受け取った人の所得税 かからない (取引先には)かからない 源泉徴収が必要
社会保険料 対象外 対象外 現金などは報酬・賞与として対象になり得る
※資本金1億円以下の法人などの中小企業は、交際費のうち年800万円までを経費にするか、接待のための飲食費の50%を経費にするかを選べます。
[画像指示:家族のケーキ(福利厚生費)、ご近所へのお礼(交際費)、子どものお小遣い(給与)にたとえて、忘年会費用の3区分を示した図解イラスト / キャプション:同じ飲食代でも「誰のための支出か」で区分が変わります]

福利厚生費として認められる3つの条件
結論として、社内の忘年会を福利厚生費にするには、次の3つの条件を満たすことが必要です。税務上は「従業員の慰安のために通常かかる費用」は交際費から除かれ、参加者への給与課税もしないこととされています。
■ 条件1:全従業員を対象にしている
参加するかどうかは自由でかまいませんが、全員に声をかけていることが前提です。正社員だけを招待してパート・アルバイトを外すと、「一部の人のための飲食」として交際費と判断されるおそれがあります。支店や部署ごとに開催する場合は、その単位で全員が対象になっていれば問題ありません。
■ 条件2:金額・内容が社会通念上一般的な範囲である
法律で「1人いくらまで」という上限が決まっているわけではありません。実務上の結論としては、一般的なお店での一次会程度が、税務調査でも無理なく説明できる範囲です。高級料亭での豪華な宴会や、二次会・三次会まで会社が全額負担する形は、通常の範囲を超えると判断されやすくなります。
■ 条件3:会社の行事として行い、記録を残している
会社が主催し、費用を会社が負担していることを、案内文・参加者名簿・領収書(インボイス)で示せるようにしておきます。記録がなければ、私的な飲み会との区別がつきません。
税理士×社労士の実務視点
福利厚生費かどうかを判断するとき、調査官がまず確認するのは「対象者の範囲」です。金額は多少高くても全員対象であれば説明がつきますが、対象者が偏っていると金額が小さくても交際費や給与と判断されます。案内文の宛先を「全従業員」にしておく——これだけで防げる指摘がたくさんあります。

「1人1万円以下なら交際費にならない」はどこまで本当?
結論から言うと、このルールは社外の人が参加する飲食にだけ使えるもので、社内の人だけの飲み会には使えません。ここが最も誤解の多いポイントです。
1万円基準とは、取引先などとの飲食費で、1人あたりの金額が1万円以下(2024年4月1日以後の支出分)のものを、交際費から除くことができるルールのことです。ただし、法律上「もっぱら社内の役員・従業員やその親族だけで行う飲食」は対象外とされています。つまり、社員同士の有志の飲み会は、1人5,000円でも交際費になります。
また、このルールを使うには、次の内容を記録して保存しておく必要があります。
● 飲食をした年月日
● 参加した取引先などの氏名・会社名と、自社との関係
● 参加人数
● その費用の金額
● お店の名前と所在地
なお、1人あたりの金額は、会社が消費税を「税抜」で経理している場合は税抜金額、「税込」で経理している場合は税込金額で判定します。
■ ケース別の判定早見表
ケース 判定 ポイント
全従業員に案内した一次会(1人8,000円) 福利厚生費 全員対象・常識的な金額
取引先2名と自社2名の忘年会(4名で38,000円、1人9,500円) 交際費から除外(会議費など) 社外の人が参加。記録の保存が条件
社員だけの有志の二次会(1人5,000円) 交際費 社内だけなので1万円基準は使えない
役員だけの忘年会 交際費(内容により役員給与) 全員対象ではない
自己都合で欠席した社員に5,000円を支給 参加者・不参加者全員の給与 次の項で詳しく解説
社長と家族だけの食事を会社で支払い 役員給与(経費にならない) 会社の行事ではない私的な支出

最大の罠:欠席した社員に「代わりのお金」を渡してはいけない
結論として、自己都合で参加しなかった社員に、参加の代わりとして現金を渡すと、その社員だけでなく参加した社員全員にも、同じ金額の給与があったものとして扱われます。
「来られなかった人にも不公平がないように」という気づかいから行われることが多いのですが、税務のルールでは、現金を選べる時点で「忘年会は給与の一種」と考えられてしまいます。たとえば欠席者に5,000円を渡すと、参加者も5,000円分の給与を受け取ったことになり、全員分の源泉徴収が必要になります。
【要注意】現金・商品券は少額でも「給与」
① 欠席者への現金:参加者全員に同額の給与課税。源泉所得税を納めていなければ、不納付加算税(原則10%)の対象になります。
② 年末の「餅代」や商品券:金額にかかわらず給与です。社会保険では賞与として扱われ、賞与支払届の提出と保険料の納付が必要になります。
③ 代わりにできること:欠席者への配慮は、全員に同じ記念品(社名入りの品物など常識的なもの)を配る、日程を複数用意するといった方法で行うのが安全です。

二次会・お歳暮など年末の支出の扱い
結論として、年末の支出は「全員のためか、一部の人のためか」で判断します。
● 二次会:希望者だけの参加になるのが普通なので、会社が負担すれば交際費です。中小企業は年800万円まで経費になるため、税額が大きく変わることは少ないですが、特定の人だけを毎回招く形は給与と判断されるおそれがあります。
● 取引先へのお歳暮:交際費です。贈り先と品物の記録を残しておきましょう。
● 社員全員への忘年会の手土産(同じ品物):常識的な金額であれば福利厚生費として扱えます。

社労士目線で見る3つの落とし穴:残業代・労災・会社の責任
結論から言うと、税金の面で「福利厚生費」にできても、運営の仕方によっては労働時間・労災・使用者責任という別の問題が生まれます。税理士と社会保険労務士の両方の視点で点検することが大切です。
落とし穴① 参加が「事実上の強制」なら労働時間になる
労働時間とは、会社の指揮命令のもとに置かれている時間のことです。就業規則や契約書の書き方ではなく、実態で判断されます。
忘年会は本来、自由参加の懇親の場なので、労働時間にはあたりません。しかし次のような場合は、業務の一環と判断され、その時間分の賃金(法定労働時間を超えれば25%以上の割増賃金)を支払う必要が出てきます。
● 欠席すると評価や賞与に影響すると伝えている、または欠席者を叱責している
● 出欠を業務命令として指示している、出席が昇進の条件のようになっている
● 社長の方針説明や表彰式など、仕事の内容が中心になっている
● 幹事の準備を、勤務時間外に業務として指示している
落とし穴② 労災は「原則対象外」でも例外がある
業務災害とは、仕事が原因で起きたケガや病気のことで、会社の指示のもとで働いている最中に起きたかどうか(業務遂行性)が判断の出発点になります。
自由参加の忘年会でのケガは、原則として労災の対象になりません。ただし、会社が参加を強く求めていた場合など、業務の延長と評価されると労災と認められることがあります。実際に最高裁判所は2016年(平成28年)、仕事の途中で上司の求めにより歓送迎会に参加し、その後、職場に戻る途中で起きた事故を業務災害と認めています。
落とし穴③ 飲酒運転・ハラスメントでは会社の責任も問われる
車で帰る予定の人にお酒をすすめたり提供したりすることは、道路交通法で禁止されています。また、忘年会の場でのハラスメントや暴力は、会社の行事中の出来事として、会社が使用者責任や安全への配慮の責任を問われる可能性があります。
税理士×社労士の実務視点
実務上の結論は、「税金のために全員対象にする」ことと「労務のために参加は本当に自由にする」ことを両立させることです。案内文には「全従業員が対象です。参加は自由です」と両方を書いておきましょう。この一文が、税務調査でも労務トラブルでも会社を守る証拠になります。

安心して経費にするための忘年会運営5ステップ
結論として、次の5ステップで準備すれば、税金と労務の両方のリスクを抑えた忘年会になります。
STEP1 全従業員に案内する
パート・アルバイトを含めて全員に案内し、「参加は自由」と明記します。出欠で評価が変わらないことも伝えます。
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STEP2 予算と会場を決める
一次会を基本に、常識的な金額で計画します。二次会の会社負担は交際費になる前提で判断します。
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STEP3 当日の安全ルールを決める
車で来る人を事前に確認し、帰りの手段を決めておきます。ハラスメント防止の一言を開会時に伝えます。
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STEP4 証拠をそろえて保存する
お店のインボイス(領収書)、案内文、参加者名簿をまとめて保存します。欠席者に現金は渡しません。
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STEP5 正しい区分で記帳する
一次会は福利厚生費、有志の二次会は交際費、取引先との飲食は1万円基準の記録とともに処理します。

[画像指示:忘年会の案内から記帳までの5ステップを、チェックリスト形式で示した図解イラスト / キャプション:案内文の一文と記録の保存が、税務と労務の両方で会社を守ります]

シミュレーション:運営の違いで負担はどれだけ変わる?
結論から言うと、同じ忘年会でも運営を誤ると、給与課税の手続きが発生したり、3年分で約146万円の未払残業代を抱えたりする可能性があります。具体的な数字で比べてみましょう。
前提条件
● 資本金1,000万円の製造業、役員2名・従業員23名の合計25名(消費税は税込経理)
● 忘年会は勤務終了後に3時間、一次会のみ、1人8,000円(税込)
● 参加は役員2名・従業員18名の20名。自己都合の欠席者は従業員5名
● 従業員の平均時給は1,800円、忘年会は1日8時間を超える時間帯に行うものとします
● 数値は分かりやすさを優先した概算です
3つのパターンの比較
比較項目 A:正しい運営 B:欠席者に現金 C:参加を事実上強制
運営の内容 全員に案内・参加自由 欠席者5名に5,000円ずつ支給 欠席を許さず、社長の方針説明が中心
会社が払う忘年会費 16万円(福利厚生費) 16万円+現金2.5万円 16万円
消費税で差し引ける額 約1.45万円 約1.45万円(現金分は対象外) 約1.45万円
給与として課税される額 なし 25名×5,000円=12.5万円 なし
必要になる手続き なし 全員分の源泉徴収、現金受給者の賞与支払届 労働時間として賃金の支払い
隠れた負担 なし 源泉漏れなら不納付加算税10% 1回あたり約12.2万円の割増賃金
パターンCの未払残業代を計算すると
参加が強制と判断されると、従業員18名分(役員は除く)の3時間が時間外労働になります。
計算項目 計算式 金額
1人あたり(1回) 1,800円 × 1.25 × 3時間 6,750円
参加者全員(1回) 6,750円 × 18名 121,500円
1年分(忘年会・新年会・歓迎会・送別会の年4回) 121,500円 × 4回 486,000円
3年分(賃金請求権の時効期間) 486,000円 × 3年 1,458,000円
賃金を請求できる期間は、現在は当分の間3年とされています。さらに裁判になった場合は、未払額と同額までの「付加金」の支払いを命じられることもあります。
【シミュレーションから分かること】
忘年会の費用そのものは、どのパターンでも同じ16万円です。違いを生むのは「誰に声をかけたか」「現金を渡したか」「参加を自由にしたか」という運営の中身です。
パターンAのように、全員に案内して参加は自由、欠席者への現金はなし——この形にしておけば、費用は全額経費、社員への課税なし、労務リスクもなしという、最も安全な忘年会になります。

よくある質問(FAQ)
Q. 従業員のいない個人事業主の忘年会は経費になりますか?
A. なりません。福利厚生費は従業員のための費用なので、事業主一人や家族だけの食事は、原則として私的な支出(家事費)になります。ただし、取引先を招いた忘年会であれば交際費として経費にできます。個人事業主には交際費の上限はありませんが、事業との関係を説明できる記録は必要です。
Q. パート・アルバイトを呼ばなくても福利厚生費になりますか?
A. 原則として全従業員が対象である必要があるため、パート・アルバイトを外すと交際費と判断されるおそれがあります。勤務時間の都合で参加が難しい場合でも、案内は全員に出しておきましょう。部署や支店ごとに開催する場合は、その単位の全員を対象にすれば問題ありません。
Q. オンライン忘年会で、料理を各家庭に届けた費用はどうなりますか?
A. 全員に同じ内容を、常識的な金額で届けるのであれば、福利厚生費として扱えます。一方、現金や自由に使えるギフト券・ポイントを配る方法は、給与として課税されます。届けるのは「料理などの物」にしておくのが安全です。
Q. 忘年会の領収書は何を保存すればよいですか?
A. お店が発行するインボイス(適格請求書または適格簡易請求書)を保存します。あわせて、案内文と参加者名簿を残しておくと、全員対象の会社行事であることを説明でき、福利厚生費としての根拠になります。取引先との飲食では、1万円基準の記録事項も忘れずに残しましょう。
Q. 会社の飲み会への参加を断る社員がいます。参加を命じてもよいですか?
A. 命じることはできますが、その場合は業務になるため、その時間分の賃金や割増賃金の支払いが必要になります。懇親が目的なら、参加は本当に自由にし、欠席しても評価に影響しないことを明確にしておくのが、税務と労務の両面から見た実務上の結論です。
まとめ:忘年会は「全員に声をかけ、参加は自由に」が鉄則
【3行まとめ】
1.全員を対象にした常識的な金額の一次会は福利厚生費。案内文の宛先を「全従業員」にするのが基本です。
2.1万円基準は社外の人が参加する飲食だけ。社内の有志の会や役員だけの会は交際費になります。
3.欠席者への現金は全員への給与課税、参加の強制は残業代・労災の問題に。運営の中身が負担を左右します。

忘年会や新年会の経費処理は、毎年くり返される身近なテーマだからこそ、自己流の処理が積み重なりやすい分野です。そして本記事で見たように、税金の判断と、労働時間や労災といった労務の判断が、同じ一つの行事の中で交差します。
当事務所には、国税の調査実務を内側から知る国税OBの税理士が在籍しており、調査官が福利厚生費や交際費のどこを確認するのかを踏まえて、日ごろの経理処理を点検しています。さらに、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、経費の区分と、就業規則や賃金・社会保険の手続きを一体で見直すことができます。巡回監査を通じて、こうした年末の処理も日ごろから確認しています。
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