役員社宅・借り上げ社宅で節税!

家賃を会社の経費にして手取りを増やす仕組みと、税金と社会保険で「家賃の物差し」が違う落とし穴

「毎月の家賃が重い。しかも、その家賃は税金と社会保険料を引かれた後の手取りから払っている……」

経営者の方から、こうした声をよく伺います。実は、社長や社員が住む家を会社が借りて「社宅」として貸す形に切り替えるだけで、家賃の大部分を会社の経費にでき、社長の手取りと会社の負担の両方を改善できる場合があります。役員社宅は、税務の世界では「王道の節税策」として知られています。

ただし、この仕組みには大きな落とし穴があります。税金と社会保険では、本人が払うべき家賃の「物差し」がまったく違うのです。税金のことだけを考えて設計すると、社会保険料で思わぬ差が出てしまいます。

この記事では、役員社宅・借り上げ社宅の仕組み、本人が払う家賃の決め方、導入の手順と注意点を、はじめての方でも一読で分かるように解説します。後半では、月80万円の役員報酬を受け取る社長のケースで、社宅に切り替えた場合の手取りの変化を具体的な数字でシミュレーションします。

【この記事の結論】 ① 会社が借りた家を社宅として貸し、本人から一定の家賃を受け取れば、家賃の大部分を会社の経費にでき、本人は給与として課税されません。 ② 本人が払う家賃の基準は、税金と社会保険で違います。税金は「固定資産税の評価額」、社会保険は「国が定めた1畳あたりの金額」が物差しです。両方を確認して家賃を決めることが成功のカギです。 ③ 契約の名義、役員報酬を変えるタイミング、社員の同意の3つを外すと、効果がなくなるうえにトラブルになります。

役員社宅・借り上げ社宅とは?節税になる仕組み

結論から言うと、社宅で節税になるのは、「給料を払って、本人がその手取りから家賃を払う」という流れを、「会社が直接家賃を払い、本人からは少しだけ家賃を受け取る」という流れに変えられるからです。

借り上げ社宅とは、会社が自分の名義で賃貸住宅を借り、それを役員や社員に住まいとして貸す仕組みのことです。役員に貸すものを、特に役員社宅と呼びます。

家庭のやりくりに例えてみましょう。お父さんがお小遣いを渡し、子どもがそこから塾代を払うと、お小遣いの段階で「天引き」があるとしたら、塾代に回せるお金は減ってしまいます。ところが、お父さんが塾に直接塾代を払えば、天引きされずに済みます。社宅は、これと同じ発想で、「天引き(税金と社会保険料)の前」のお金で家賃を払う仕組みなのです。

住宅手当と社宅の違い

「家賃を会社が負担する」という点では住宅手当も同じですが、税金と社会保険料の扱いはまったく違います。

項目住宅手当(現金で支給)借り上げ社宅(条件を満たす場合)
本人の所得税・住民税かかる(給与として課税)かからない
社会保険料かかる(報酬に含まれる)国の基準額以上を本人が払えば、かからない
会社の経費なるなる(家賃から本人負担分を引いた額)
契約の名義本人会社
消費税計算に影響なし住宅の家賃は非課税のため、差し引けない
[画像指示:「住宅手当」と「借り上げ社宅」で、家賃が税金・社会保険料の天引き前に払われるか後に払われるかを、お金の流れの矢印で比較した図解イラスト / キャプション:社宅は「天引き前」のお金で家賃を払う仕組みです]

本人が払う家賃はいくら?税金の基準「賃貸料相当額」

結論として、税金の面では、本人から「賃貸料相当額」以上の家賃を受け取っていれば、給与として課税されません。この金額は、実際の家賃より大幅に低くなることが多いのが特徴です。

賃貸料相当額とは、社宅を貸したときに本人から受け取るべき家賃として、税金のルールで定められた計算上の金額のことです。計算には、その建物と土地の「固定資産税の課税標準額」を使います。この金額は、物件の貸主(大家さん)を通じて確認するか、市区町村で証明書を取得して調べます。

役員の場合:住宅の広さで3つに分かれる

区分判定の目安本人から受け取る家賃の基準(月額)
小規模な住宅床面積が木造132㎡以下、木造以外(マンション等)99㎡以下次の①〜③の合計額 ①建物の固定資産税の課税標準額×0.2% ②12円×床面積(㎡)÷3.3㎡ ③土地の固定資産税の課税標準額×0.22%
小規模でない住宅上記の面積を超える住宅会社が払う家賃の50%と、所定の計算式で出した金額のうち、多い方
豪華な社宅床面積240㎡超で、プール等の設備や内装などから総合判断通常支払われるべき家賃(世間相場の家賃)

一般的なファミリー向けマンション(70㎡程度)であれば「小規模な住宅」にあたり、賃貸料相当額は実際の家賃の1〜2割程度になることも珍しくありません。

社員の場合:賃貸料相当額の50%以上でOK

社員に貸す社宅は、役員よりも条件がやさしく、上記の「小規模な住宅」の計算式で出した賃貸料相当額の50%以上を本人から受け取っていれば、給与として課税されません。

最大の落とし穴:社会保険の「家賃の物差し」は別物

結論から言うと、税金の基準を満たしていても、社会保険の基準を満たしていなければ、差額が「報酬」に加算されて社会保険料が上がります。ここが、税金だけを見て設計した社宅の最大の盲点です。

社会保険では、住まいを会社から提供されることは「現物給与」として扱われます。現物給与とは、お金ではなく、住まいや食事などの「物やサービス」で支払われる給与のことです。その価値は、厚生労働大臣が都道府県ごとに定めた「1畳あたりの金額」に、居間や寝室など居住用の部屋の畳数をかけて計算します(台所・トイレ・浴室・玄関などは含みません)。

項目税金(所得税・住民税)社会保険(健康保険・厚生年金)
物差し固定資産税の課税標準額をもとにした賃貸料相当額都道府県ごとの1畳あたりの金額×居住用の畳数
本人負担が基準未満のとき差額が給与として課税される差額が報酬に加算され、保険料が上がる
金額の傾向低めになりやすい税金の基準より高くなることが多い
税理士の実務視点 社宅の相談で実際によくあるのが、「税理士の指示で家賃を賃貸料相当額に設定したら、社会保険の手続きで差額の加算が必要だと分かった」というケースです。税金の基準は税理士、社会保険の基準は社会保険労務士の専門領域で、物差しが違うため、片方だけで判断すると必ずズレが生じます。本人負担の家賃は、両方の基準を並べて確認したうえで決めることが実務上の鉄則です。

社宅のメリット・デメリット

結論として、社宅は社長・社員の手取りを増やせる一方、将来の年金額がわずかに減ることや、管理の手間が増えるというデメリットもあります。

立場メリットデメリット・注意点
会社家賃が経費になる。給与を減らした分、会社負担の社会保険料が下がる。採用や定着の武器になる契約・更新・退去の管理が必要。礼金や仲介手数料などの初期費用も会社負担
社長・社員税金と社会保険料が下がり、手取りが増える報酬が下がる分、将来の厚生年金や傷病手当金などの給付が少し減る。退職時は引っ越しが必要

社宅を導入する5つのステップ

結論から言うと、社宅の導入は「規程づくり→契約の名義変更→報酬の見直し→毎月の精算→社会保険の手続き」の順で進めます。

STEP1 社宅管理規程を作る 対象者、本人負担の家賃の計算方法、水道光熱費の負担、退去時のルールなどを定めます。役員への適用は取締役会などで決議し、議事録を残します。

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STEP2 賃貸契約の名義を会社に切り替える 大家さん・管理会社と相談し、会社名義で契約し直します。本人名義のままでは、会社が払う家賃は住宅手当と同じ扱いになります。

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STEP3 役員報酬・給与を見直す 役員報酬は原則として事業年度の開始から3か月以内に改定します。社員の給与を減らす場合は、本人の同意が不可欠です。

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STEP4 本人負担の家賃を毎月精算する 税金と社会保険の両方の基準を満たす金額を、給与から天引きするなどして毎月受け取ります。

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STEP5 社会保険の手続きを行う 報酬が大きく変わった場合は、変更後3か月の報酬をもとに保険料の等級を見直す「随時改定」の届出を行います。
[画像指示:社宅導入の5ステップを、規程・契約書・給与明細・年金事務所のアイコンでつないだ図解イラスト / キャプション:税金の手続きと社会保険の手続きは、セットで進めることが大切です]

実務上の注意点と見落としがちな罠

結論として、社宅が否認されたりトラブルになったりする原因は、ほとんどが「名義」「費用の線引き」「労務の手続き」のいずれかです。

罠① 水道光熱費や家具を会社が払っている

会社が負担してよいのは、原則として家賃と、建物の管理に必要な費用です。電気・ガス・水道代など本人の生活費を会社が払うと、その分は給与として扱われます。役員の場合は、毎月同じ額でない支給は役員賞与となり、会社の経費にもなりません。

罠② 社員の給与を一方的に下げて社宅に切り替える

社員の給与を減らして社宅に切り替える場合、本人の同意なく給与を下げることは、労働条件の「不利益変更」として認められません。手取りが増える仕組みであっても、内容をていねいに説明し、書面で同意を得ることが必要です。

罠③ 「豪華な社宅」と判断される

床面積が240㎡を超え、プールなどの設備がある住宅や、社長個人の趣味を反映した内装の住宅は、「豪華な社宅」として世間相場の家賃を本人が負担しなければなりません。この場合、節税効果はほとんどなくなります。

【要注意】社宅の否認で生じる負担 ① 源泉所得税:本人負担の家賃が不足していた分は給与とされ、源泉所得税と不納付加算税(原則10%)がかかります。 ② 法人税(役員の場合):役員への経済的な利益は役員給与とされ、内容によっては会社の経費として認められません。 ③ 社会保険料:現物給与の計算に誤りがあると、年金事務所の調査で最大2年さかのぼって保険料を請求されることがあります。

シミュレーション:月80万円の役員報酬を受け取る社長が社宅に切り替えた場合

結論から言うと、このケースでは、社長の手取りが年間約46.5万円増え、会社の負担も年間約51万円減ります。具体的な数字で確認しましょう。

前提条件

  • 社長(45歳・独身)の役員報酬は月80万円。家賃月20万円のマンション(70㎡・小規模な住宅)に、自分の名義で住んでいる
  • 社宅への切り替え後:会社名義で同じ部屋を借り、役員報酬を期首から月60万円に減額。社長は会社に月3万円の家賃を払う
  • 税金の基準(賃貸料相当額)は月3万円、社会保険の基準(現物給与の価額)は月5万円と仮定。差額2万円が社会保険の報酬に加算され、標準報酬月額は62万円
  • 健康保険(介護保険を含む)は約11.6%、厚生年金は18.3%を労使で折半。厚生年金の標準報酬月額は上限65万円で計算
  • 所得税は2026年分の基礎控除で計算し、住民税は所得割10%のみで計算した概算です

社長の手取り(年間)

項目切り替え前切り替え後
役員報酬960万円720万円
社会保険料(本人負担)約126.4万円約111.2万円
所得税(復興特別所得税込み)約74.9万円約29.4万円
住民税約59.6万円約37.8万円
家賃の支払い240万円(大家さんへ)36万円(会社へ)
家賃を払った後の手取り約459.1万円約505.6万円

会社の負担(年間)

項目切り替え前切り替え後
役員報酬960万円720万円
社会保険料(会社負担)約126.4万円約111.2万円
社宅の家賃0円240万円
社長から受け取る家賃0円△36万円
会社の負担合計約1,086.4万円約1,035.2万円
【シミュレーションから分かること】 同じ部屋に住み続けながら、社長の手取りは年約46.5万円増え、会社の負担は年約51.2万円減ります。会社の経費が減る分、法人税は増えますが(実効税率約30%と仮定すると約15万円)、それを差し引いても会社・社長の合計で年80万円前後の改善です。 ただし、社会保険の基準を満たさないまま家賃を3万円にしているため、差額2万円分は社会保険料の計算に含めています。もし差額の加算を忘れていれば、年金事務所の調査で過去にさかのぼって請求されることになります。 また、標準報酬月額が下がる分、将来の厚生年金はわずかに減ります。手取りだけでなく、老後の年金とのバランスも含めて設計しましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 個人事業主でも、社宅の仕組みで節税できますか?

A. できません。個人事業主は自分自身に家を貸すことができないため、社宅の仕組みは使えません。自宅の一部を事務所として使っている場合は、使っている面積の割合など合理的な基準で家賃を按分し、仕事で使う分だけを経費にします。

Q. すでに住んでいる賃貸住宅でも、社宅に切り替えられますか?

A. 切り替えられます。大家さんや管理会社の承諾を得て、契約の名義を会社に変更すれば、そのまま住み続けながら社宅にできます。名義変更の際に、新たに保証金や手数料がかかる場合があるので、事前に確認しましょう。

Q. 家族と一緒に住んでも問題ありませんか?

A. 問題ありません。社宅は役員や社員本人だけでなく、家族と一緒に住むことも一般的です。ただし、広さによっては「小規模な住宅」にあたらず、本人が払うべき家賃の基準が高くなる点に注意してください。

Q. 敷金・礼金・仲介手数料は会社の経費になりますか?

A. 敷金は退去時に返ってくるお金なので、経費ではなく会社の資産として記録します。仲介手数料は支払った年の経費になります。礼金は、20万円未満であれば支払った年の経費にでき、20万円以上の場合は原則として5年(契約期間が5年より短い場合はその期間)に分けて経費にします。

Q. 社長の持ち家でも社宅にできますか?

A. 社長が自分の持ち家を会社に貸し、会社が社宅として社長に貸す方法もあります。ただし、社長には会社から受け取る家賃の所得が生じるうえ、住宅ローン控除が受けられなくなるなどの影響があるため、必ず事前に専門家と試算してください。

まとめ:社宅は「税金と社会保険の両方の物差し」で設計する

【3行まとめ】 1.会社名義で借りた住まいを社宅として貸せば、家賃の大部分を会社の経費にでき、手取りが増えます。 2.本人負担の家賃の基準は、税金と社会保険で別物。両方を満たす金額で設計しましょう。 3.名義変更・役員報酬の改定時期・社員の同意の3つを押さえることが成功の条件です。

役員社宅・借り上げ社宅は、正しく設計すれば、会社と社長・社員の双方にとって長く効果が続く仕組みです。一方で、税金と社会保険の基準の違いや、労働条件の変更の手続きなど、一つの専門分野だけでは見落としが生まれやすい論点でもあります。

当事務所には、国税OBの税理士が在籍しており、税務調査で確認されやすい社宅の論点を踏まえた設計を行っています。さらに、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携しているため、賃貸料相当額と現物給与の両方の基準の確認、社宅管理規程の作成、社会保険の随時改定の手続きまで、ワンストップでご支援できます。

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今の家賃を会社の経費にできるか知りたい」「社宅にしたら手取りがいくら増えるか試算してほしい」——役員報酬を見直す決算前のご相談が、最も効果の出るタイミングです。初回のご相談はオンラインでも承っています。

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