会社員の「増額」効果を税理士がわかりやすく解説
「iDeCoって、60歳になったらもう終わりですよね?」
顧問先の経営者様や、そこで働く従業員の方から、こうしたご質問をよくいただきます。実は、60歳以降も会社員として厚生年金に加入して働き続ける方は、iDeCo(個人型確定拠出年金)への掛金拠出を65歳になるまで続けることができます。
これを知らずに60歳で拠出をやめてしまうと、本来受け取れたはずの所得税・住民税の軽減効果や、運用益が非課税になるメリットを、最大5年分も取りこぼしてしまう可能性があります。
この記事を読めば、次の4つがすべて理解できます。
- 60歳以降もiDeCoの掛金拠出を続けられる条件
- 拠出期間を延ばすことで生まれる「増額」効果の正体
- 実際の数字を使った節税シミュレーション
- 手続き上の注意点・落とし穴
【結論】60歳以降も厚生年金に加入して働く会社員の方は、iDeCoの拠出をやめずに65歳まで続けたほうが、税金の面でも将来受け取る資産の面でも得をするケースがほとんどです。
■ そもそもiDeCo(個人型確定拠出年金)とは
iDeCoとは、自分で毎月一定額を積み立て、自分で選んだ運用商品(投資信託や定期預金など)で運用しながら育て、60歳以降に年金または一時金として受け取る、私的な年金制度のことです。
たとえるなら、毎月決まった金額を「専用のお小遣い帳(口座)」に積み立てて、そのお金を自分で運用しながら育て、老後に引き出す仕組みです。積み立てている間は税金が軽くなり、運用で増えた利益にも税金がかからないという、国が用意した「おトクな貯金箱」とイメージしていただくとわかりやすいと思います。
[画像指示:お小遣い帳にたとえたiDeCoの基本イメージ図解イラスト/キャプション:毎月の掛金を積み立て、自分で運用しながら育て、老後に受け取るという3つのステップで成り立っています]
■ 60歳になったら、iDeCoの掛金拠出はどうなるのか
【結論】60歳以降も厚生年金保険に加入して会社員として働き続ける方(国民年金の第2号被保険者)は、65歳の誕生日の前日まで、iDeCoへの掛金拠出を続けることができます。
◆ 拠出を続けられる人・続けられない人
60歳を境に、iDeCoの掛金拠出を続けられるかどうかは、国民年金の「被保険者区分」によって決まります。まずは下の表でご自身がどこに当てはまるかご確認ください。
| 国民年金の被保険者区分 | 対象となる方 | 60歳以降の拠出継続 |
|---|---|---|
| 第1号被保険者 | 自営業・フリーランス等 | 原則60歳で終了(国民年金に任意加入すれば65歳未満まで可) |
| 第2号被保険者 | 厚生年金に加入する会社員・公務員 | 65歳の誕生日前日まで継続可能 |
| 第3号被保険者 | 会社員・公務員に扶養される配偶者 | 60歳で終了 |
| 任意加入被保険者 | 海外居住者等 | 65歳未満まで継続可能 |
表1:60歳以降のiDeCo拠出継続の可否(被保険者区分別)
◆ なぜ「厚生年金に加入していること」が条件なのか
国民年金第2号被保険者とは、厚生年金保険に加入して働いている会社員・公務員のことです。iDeCoは国民年金の被保険者であることが加入の土台となる制度のため、60歳を過ぎても厚生年金に加入して働き続けている限り、国民年金第2号被保険者としての資格が続き、iDeCoへの加入・拠出も継続できるという仕組みになっています。
一方、自営業の方(第1号被保険者)や、会社員・公務員の配偶者に扶養されている方(第3号被保険者)は、原則として60歳で国民年金の被保険者資格を失うため、iDeCoの掛金拠出も60歳で終了します。
■ 拠出期間を延ばす「増額」効果の正体——3つの節税メリット
【結論】60歳から65歳までの5年間、iDeCoへの拠出を続けると、①毎年の所得控除による税負担軽減、②運用益の非課税、③受け取り時の税制優遇という3つのメリットを、追加でまるまる5年分受け取ることができます。
◆ メリット① 掛金全額が所得控除の対象になる
小規模企業共済等掛金控除とは、iDeCoに拠出した掛金の全額を、その年の所得から差し引くことができる所得控除のことです。
たとえば、リンゴを売って得た利益(所得)にかかる税金を計算するとき、iDeCoに拠出した金額はまるごと「利益」から除外して計算してもらえます。利益が少なく見える分、その年の所得税・住民税が軽くなる、という仕組みです。60歳以降も給与収入があり、所得税・住民税を負担している会社員にとっては、拠出を続けるだけで毎年確実に得られるメリットです。
◆ メリット② 運用で増えた利益に税金がかからない
運用益非課税とは、iDeCoの口座内で投資信託などを運用して得た利益(値上がり益・分配金等)に対して、通常かかる約20.315%の税金が一切かからないことです。
通常、証券会社の一般口座(NISA以外の口座)で運用益が出ると、約2割が税金として差し引かれます。iDeCoの口座の中で運用している間は、この税金が発生しません。拠出期間が長いほど運用期間も長くなるため、非課税で増やせる金額も大きくなります。
◆ メリット③ 受け取るときも税金が優遇される
退職所得控除・公的年金等控除とは、iDeCoの資産を一時金または年金として受け取る際に、通常の所得よりも税負担が軽くなるよう用意された控除制度のことです。
一時金で受け取る場合は退職金と同じ扱いになり、加入期間に応じた大きな控除額が用意されています。年金形式で受け取る場合は、公的年金と合算して公的年金等控除の対象になります。拠出期間(加入期間)が長いほど一時金受け取り時の控除額も大きくなる仕組みのため、60歳で拠出をやめず65歳まで続けることは、受け取り時の税負担軽減にもつながります。
[画像指示:iDeCoの3つの節税メリット(掛金の所得控除・運用益非課税・受け取り時の税制優遇)を一覧できる図解イラスト/キャプション:iDeCoは「積み立てるとき」「運用しているとき」「受け取るとき」の3つの場面で税制優遇を受けられます]
■ メリットだけじゃない!実務上の注意点・落とし穴
【結論】60歳以降の拠出継続には要件や上限額の確認が欠かせません。特に「拠出限度額」「受給開始年齢のルール」「勤務先の制度変更」の3点は事前確認が必須です。
◆ 拠出限度額は勤務先の企業年金の有無で変わる
iDeCoの掛金には上限額があり、勤務先に企業年金があるかどうかで金額が異なります。2024年12月の制度改正により、企業年金がある会社員・公務員の上限額が引き上げられていますので、ご自身がどの区分に当てはまるか確認しておきましょう。
| 区分 | 月額の拠出限度額 |
|---|---|
| 企業年金のない会社員 | 2万3,000円 |
| 企業型確定拠出年金(企業型DC)のみに加入 | 2万円(企業型DCの事業主掛金との合計枠内) |
| 確定給付企業年金(DB)等にも加入・公務員 | 2万円 |
| 自営業・フリーランス(第1号被保険者) | 6万8,000円(国民年金基金等と合算) |
| 専業主婦・夫等(第3号被保険者) | 2万3,000円 |
表2:iDeCoの掛金拠出限度額(2024年12月改正後)
◆ 60歳から「すぐに」受け取れるとは限らない
通算加入者等期間とは、iDeCoや企業型確定拠出年金に加入していた期間を通算した年数のことです。
60歳から資産を受け取るには、この通算加入者等期間が10年以上必要です。10年に満たない場合は、期間の長さに応じて受給開始可能年齢が61歳から65歳の間に繰り下がります。裏を返せば、60歳を過ぎても慌てて受け取る必要はなく、拠出も運用も引き続き行いながら、ご自身にとって有利なタイミングで受け取りを選べるということでもあります。
◆ 会社の制度変更・再雇用時は運営管理機関への確認を
60歳以降に再雇用や役職変更、勤務先の年金制度変更(企業型DCの導入・終了など)があった場合、拠出限度額や加入資格に影響することがあります。60歳の誕生日を迎える前に、iDeCoの運営管理機関(証券会社・銀行等)や勤務先の担当部署に、拠出継続の可否と上限額を確認しておくことをお勧めします。
・60歳到達時の判定フロー
| 【60歳到達】 │ ▼Q1. 60歳以降も厚生年金に加入して働きますか? │ ├─ はい ─────────────▶ 65歳の誕生日前日まで拠出継続が可能 │ └─ いいえ │ ▼ Q2. 国民年金に任意加入しますか? │ ├─ はい ───────▶ 65歳未満まで拠出可能(国民年金保険料の納付が必要) │ └─ いいえ ─────▶ 60歳で掛金拠出は終了(その後は運用指図者として運用のみ継続) |
[画像指示:60歳到達時に「iDeCo拠出を続けられるか」を判定するフローチャート図解イラスト/キャプション:60歳以降に厚生年金に加入して働き続けるかどうかで、拠出継続の可否が決まります]
■ 【シミュレーション】60歳から65歳まで拠出を続けた場合の節税効果
【結論】会社に企業年金がない会社員の方が、上限の月額2万3,000円を60歳から65歳まで5年間拠出し続けた場合、所得控除だけで累計約27万6,000円、運用益の非課税効果を含めると合計で約30万円の税負担軽減効果が見込めます。
・前提条件
- Aさん(60歳、会社員、再雇用契約で65歳まで厚生年金に加入して勤務予定)
- 勤務先に企業年金制度なし → 拠出限度額は月額2万3,000円(年額27万6,000円)
- 所得税率10%、住民税率10%(合計20%)と仮定 ※実際の税率は課税所得金額により異なります
- 運用利回りは年3%と仮定 ※将来の運用成果を保証するものではありません
・① 所得控除による節税効果
年間拠出額27万6,000円 × 税率20% = 5万5,200円/年
5年間の累計節税額 = 5万5,200円 × 5年 = 27万6,000円
・② 運用益非課税による節税効果
毎月2万3,000円を年利3%で5年間(60回)積み立てた場合、5年後の資産額は概算で約148万6,900円(元本合計138万円+運用益 約10万6,900円)となります。
この運用益 約10万6,900円は、通常の課税口座であれば約20.315%(約2万1,700円)が税金として差し引かれますが、iDeCoの口座内であれば非課税のため、まるごと手元に残ります。
・③ 5年間の合計効果
所得控除による節税額 27万6,000円 + 運用益非課税による節税額 約2万1,700円 = 合計 約29万7,700円の税負担軽減効果となります。
| 項目 | 60歳で拠出を終了した場合 | 65歳まで拠出を継続した場合 |
|---|---|---|
| 拠出期間 | 60歳まで | 65歳まで(+5年間) |
| 5年間の所得控除による節税額 | 0円 | 約27万6,000円 |
| 運用益非課税による節税効果(概算) | 発生しない | 約2万1,700円 |
| 65歳時点の上乗せ資産額(概算) | 0円 | 元本+運用益 約148万6,900円 |
表3:拠出を60歳でやめた場合と65歳まで続けた場合の比較(概算)
【結論】もし60歳で拠出をやめていたら、約29万7,700円の税負担軽減と、約148万6,900円の資産形成の機会を失うことになります。
■ よくある質問(FAQ)
Q. 60歳になったら、iDeCoの掛金拠出は自動的に止まりますか?
A. いいえ、自動的には止まりません。60歳以降も厚生年金保険に加入して働き続ける会社員の方(国民年金第2号被保険者)は、65歳の誕生日の前日まで掛金拠出を継続できます。ただし、退職や再雇用による働き方の変化があった際は、資格の確認が必要です。
Q. 60歳以降も拠出を続けるために、特別な手続きは必要ですか?
A. 60歳到達時点で厚生年金に継続加入していれば、多くの場合、追加の手続きは不要です。ただし、定年退職後にいったん厚生年金の資格を喪失し、再雇用契約で再加入するようなケースでは、勤務先や運営管理機関に加入状況を確認しておくと安心です。
Q. 60歳になったら、すぐにiDeCoの資産を受け取ることはできますか?
A. 通算加入者等期間が10年以上ある方は60歳から受け取りが可能ですが、10年に満たない場合は、期間に応じて受給開始可能年齢が61歳から65歳の間に繰り下がります。焦って受け取らず、拠出や運用を続けながら有利なタイミングを選ぶことができます。
Q. 会社員の掛金の上限額はいくらですか?
A. 勤務先に企業年金がない会社員の場合は月額2万3,000円、企業型確定拠出年金のみに加入している場合は月額2万円が上限です(2024年12月の制度改正により、企業年金がある会社員の上限額が引き上げられています)。ご自身の上限額は、給与明細や勤務先の担当部署、運営管理機関からのお知らせで確認できます。
Q. 65歳になったら、それまで積み立てたiDeCoの資産はどうなりますか?
A. 65歳以降は新たに掛金を拠出することはできませんが、それまで積み立てた資産の運用は75歳になるまで継続できます。受け取り開始のタイミングは60歳から75歳の間で選ぶことができるため、65歳の時点ですぐに受け取る必要はありません。
■ まとめ&ご相談のご案内
最後に、この記事の要点を3つにまとめます。
- 60歳以降も厚生年金に加入して働く会社員は、iDeCoの掛金拠出を65歳まで続けられます。
- 拠出を続けることで、所得控除・運用益非課税・受け取り時の税制優遇という3つのメリットを最大5年分積み増せます。
- 拠出限度額や受給開始年齢のルールは個人の働き方や加入期間によって異なるため、事前の確認が欠かせません。
【結論】税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
