賞与の社会保険料と源泉所得税の計算方法を税理士がやさしく解説|経営者が支給前に確認すべき手続きと落とし穴
「冬のボーナス、額面60万円で出したのに、社員から『思ったより少ない』と言われてしまった」
「賞与の社会保険料って、毎月の給与と同じ計算でいいの?」「支給したあとに何か届け出が必要だった気がする……」
12月の賞与支給を前に、こんな疑問や不安を抱えている経営者・総務担当者の方は多いのではないでしょうか。賞与の計算は、毎月の給与とはルールがまったく違う部分があり、なんとなく給与と同じ感覚で処理していると、天引き額の誤りや届出漏れにつながります。
この記事では、賞与から引かれる社会保険料と源泉所得税の計算方法を、はじめての方でも一読で分かるように解説します。さらに、2026年4月分から新しく始まった「子ども・子育て支援金」の扱い、支給後5日以内に必要な届出、退職予定者や育休中の社員の扱いといった実務の落とし穴まで、税金と社会保険の両面から整理します。
| 【この記事の結論】 ① 賞与の手取りは、額面のおよそ8割が目安です。社会保険料(約15%)と源泉所得税(数%)が差し引かれます。 ② 賞与の計算は「毎月の給与とは別ルール」です。社会保険料は賞与の額そのもの(1,000円未満切捨て)に保険料率をかけ、源泉所得税は「前月の給与」をもとに税率を決めます。住民税は賞与からは引きません。 ③ 支給したら5日以内に「賞与支払届」を年金事務所へ。届出を忘れると、社員の将来の年金額にも影響します。支給しなかった月にも届出が必要な場合があります。 |
このページの目次
賞与(ボーナス)とは?社会保険と税金での扱いの基本
結論から言うと、賞与は「年3回以下の臨時の支給」であれば、社会保険でも税金でも毎月の給与とは別の計算方法で処理します。
賞与とは、毎月の給与とは別に、夏や冬、決算期などに臨時で支給されるお金のことです。名前が「ボーナス」「期末手当」「寸志」「決算賞与」など何であっても、労働の対価として支給されるものは賞与として扱われます。
家庭のやりくりにたとえると、毎月の給与は「毎月決まって入るお小遣い」、賞与は「年に数回もらえる特別なお年玉」のようなものです。お年玉にもきちんと記録とルールがあるように、賞与にも専用の計算ルールがあります。
「年4回以上」払うと賞与ではなくなる
社会保険では、支給回数によって扱いが変わります。年3回以下の支給は「賞与」、年4回以上の支給は「報酬(毎月の給与の一部)」として扱われます。年4回以上になると、賞与の額を12で割って毎月の標準報酬月額に上乗せする計算になり、手続きが複雑になります。賞与規程の支給回数は、社会保険の扱いまで見据えて決めることが大切です。
毎月の給与と賞与の違い(比較表)
| 項目 | 毎月の給与 | 賞与(年3回以下) |
| 社会保険料の計算の基準 | 標準報酬月額(4〜6月の平均などで決まる等級) | 標準賞与額(賞与の額の1,000円未満を切り捨てた額) |
| 社会保険料の上限 | 等級の上限まで(厚生年金は65万円の等級が上限) | 健康保険は年度累計573万円、厚生年金は1か月150万円が上限 |
| 源泉所得税の計算方法 | 「月額表」で、その月の給与額から税額を求める | 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で、前月の給与額から税率を求める |
| 住民税 | 毎月の給与から天引き(特別徴収) | 天引きしない |
| 雇用保険料 | 給与額×料率 | 賞与額×料率(上限なし) |
| 年金事務所への届出 | 原則なし(等級変更時を除く) | 支給日から5日以内に「賞与支払届」 |
| 税理士の実務視点 社員から「ボーナスは住民税が引かれないのに、なぜ所得税は引かれるのか」と質問されることがあります。住民税は前年の所得をもとに1年分の税額が決まっており、それを毎月の給与で12回に分けて納めているため、賞与からは引かないのです。一方、所得税は「その年の収入」にかかる税金なので、賞与のたびに概算で天引きし、年末調整で最終的に精算します。 |
賞与から引かれる社会保険料の計算方法
結論として、賞与の社会保険料は「標準賞与額 × 保険料率 ÷ 2(本人負担分)」というシンプルな式で計算します。毎月の給与のように等級表を見る必要はありません。
標準賞与額とは、実際に支給した賞与の額(税金や保険料を引く前の総額)から、1,000円未満を切り捨てた金額のことです。たとえば賞与が603,500円なら、標準賞与額は603,000円になります。
賞与にかかる社会保険料の種類と負担割合
| 保険の種類 | 保険料率の目安(2026年度) | 本人負担 | 会社負担 |
| 健康保険 | 約10%(都道府県・加入する健保組合で異なる) | 半分 | 半分 |
| 介護保険(40〜64歳のみ) | 約1.6% | 半分 | 半分 |
| 厚生年金保険 | 18.3%(全国一律) | 9.15% | 9.15% |
| 子ども・子育て支援金(2026年4月分〜) | 0.23%(健康保険料とあわせて徴収) | 0.115% | 0.115% |
| 雇用保険(一般の事業) | 1.35% | 0.5% | 0.85% |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | なし | 全額 |
| 労災保険 | 業種により異なる | なし | 全額 |
※保険料率は、協会けんぽの全国平均水準などをもとにした目安です。実際の計算では、自社が加入する健康保険の料率を使ってください。
■ 2026年度から新しく加わった「子ども・子育て支援金」
子ども・子育て支援金とは、少子化対策の財源として、2026年4月分の保険料から医療保険(健康保険)の保険料に上乗せして集められるお金のことです。会社と本人が半分ずつ負担し、毎月の給与だけでなく賞与にもかかります。今年の冬のボーナスは、この支援金がかかる初めての冬の賞与になるため、給与計算ソフトの設定が更新されているか、事前に確認しておきましょう。
保険料には上限がある
賞与の額が大きい場合、保険料の計算に使う金額には上限があります。健康保険・介護保険は年度(4月〜翌3月)の累計で573万円、厚生年金保険は1か月あたり150万円が上限です。たとえば役員に1回300万円の賞与を支給した場合、厚生年金保険料は150万円分にしかかかりません。
| [画像指示:賞与の額面から社会保険料・源泉所得税が差し引かれ、手取りが残るまでを階段状に示した図解イラスト / キャプション:賞与から引かれるのは社会保険料と所得税。住民税は引かれません] |
賞与から引かれる源泉所得税の計算方法
結論として、賞与の源泉所得税は「(賞与 − 社会保険料)× 税率」で計算し、その税率は前月の給与と扶養家族の人数で決まります。賞与の金額そのもので税率が決まるわけではない点が、最大のポイントです。
源泉所得税とは、会社が給与や賞与を支払うときに、本人に代わって所得税をあらかじめ差し引き、国に納める仕組みのことです。
計算は4ステップで進める
| STEP1 前月の給与から社会保険料を引いた額を確認する 賞与を支給する月の「前月」に支払った給与の総額から、社会保険料と雇用保険料を差し引いた金額を出します。 |
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| STEP2 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で税率を探す 国税庁が毎年公表している表で、STEP1の金額と扶養親族等の数が交わる欄の税率を確認します。 |
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| STEP3 賞与から社会保険料を差し引く 賞与の総額から、前の章で計算した賞与の社会保険料・雇用保険料を差し引きます。 |
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| STEP4 STEP3の金額に税率をかける これが賞与から天引きする源泉所得税です。支給月の翌月10日までに税務署へ納めます(納期の特例を受けている場合は半年ごと)。 |
例外:前月の給与がない場合や、賞与が前月給与の10倍を超える場合
入社直後で前月に給与がない場合や、賞与の額(社会保険料控除後)が前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超える場合は、算出率の表は使いません。賞与を6か月(賞与の計算対象期間が6か月を超えるときは12か月)で割った金額を毎月の給与に足して「月額表」で計算する、別の方法になります。役員や決算賞与のように大きな額を支給するときは、この例外に当たらないかを必ず確認してください。
| 税理士の実務視点 2026年1月から、令和7年度の税制改正(基礎控除の引上げなど)を反映した新しい源泉徴収税額表が使われています。賞与の算出率の表も改正後のものを使う必要があります。給与計算ソフトをお使いの場合でも、税額表が最新版に更新されているかを、冬の賞与の前に一度確認しておくと安心です。 |
支給前後に必要な手続きと、見落としがちな落とし穴
結論として、賞与で最も多いミスは「計算」よりも「届出漏れ」と「例外的な社員の扱い」です。支給前に次の3点を必ず確認しましょう。
落とし穴① 賞与支払届の提出漏れ
賞与支払届とは、賞与を支給したことと、その金額を年金事務所(健康保険組合に加入している場合は組合にも)に知らせる届出のことです。支給日から5日以内に提出します。電子申請も可能です。
この届出をもとに保険料が請求され、同時に社員の将来の年金額の計算にも反映されます。提出を忘れると、あとから保険料をまとめて請求されるだけでなく、社員の年金記録に賞与が載らないという不利益が生じます。
また、年金事務所に登録している「賞与支払予定月」に賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」の提出が必要です。今年は業績の関係で冬の賞与を見送る、という場合も手続きを忘れないようにしましょう。
落とし穴② 月末退職者の賞与
社会保険料は、資格を失う日(退職日の翌日)の属する月の前月分までかかります。そのため、退職日によって賞与の保険料のかかり方が変わります。
| ケース | 資格を失う日 | 12月支給の賞与の社会保険料 |
| 12月31日(月末)に退職 | 1月1日 | かかる(12月はまだ加入している月のため) |
| 12月30日に退職 | 12月31日 | かからない(12月は資格を失った月のため) |
雇用保険料と源泉所得税は、退職日に関係なく賞与の支給額に対してかかります。退職予定の社員に賞与を支給する際は、退職日と支給日の関係を事前に確認しておきましょう。
落とし穴③ 産休・育休中の社員の賞与
産前産後休業中や育児休業中の社員は、届出をすれば社会保険料が免除されます。ただし、賞与の保険料が免除されるのは、育児休業の期間が1か月を超える場合に限られます(2022年10月以降に開始した育休)。「月末に数日だけ育休を取れば賞与の保険料がかからない」という扱いは、現在はできません。
落とし穴④ 役員への賞与は「事前の届出」がないと会社の経費にならない
社員への賞与は原則として会社の経費(損金)になりますが、役員への賞与は、支給額と支給日を事前に税務署へ届け出る「事前確定届出給与」の手続きをしていなければ、会社の経費になりません。届出の期限は原則として「株主総会の決議日から1か月以内」かつ「事業年度開始から4か月以内」のいずれか早い日です。冬に役員賞与を出す予定がある場合、多くの会社ではすでに期限を過ぎているため、来期の役員報酬の設計とあわせて検討しましょう。
| 【要注意】「寸志」「商品券」も賞与です 少額の寸志や、現金の代わりに渡す商品券・ギフトカードも、給与・賞与として源泉所得税の対象です。社会保険でも、年3回以下の支給であれば賞与として届出の対象になります。「少額だから」「現金ではないから」と給与計算から外していると、税務調査や年金事務所の調査で指摘される原因になります。 |
シミュレーション:額面60万円の冬のボーナス、手取りと会社の負担はいくら?
結論から言うと、額面60万円の賞与の場合、社員の手取りは約49万円、会社が実際に負担する総額は約69万円になります。具体的な数字で確認しましょう。
前提条件
- 社員:35歳(介護保険料はかからない)、扶養親族1人
- 毎月の給与:30万円(標準報酬月額30万円)。前月の給与から社会保険料・雇用保険料を引いた額は約25.6万円
- 冬の賞与:60万円(12月支給)
- 保険料率:健康保険10%、厚生年金18.3%、子ども・子育て支援金0.23%、雇用保険(本人0.5%・会社0.85%)、子ども・子育て拠出金0.36%(会社のみ)
- 源泉所得税の税率:算出率の表で4.084%と仮定
- 数値は分かりやすさを優先した概算です(労災保険料は含めていません)
社員の手取りの計算
| 項目 | 計算の考え方 | 金額 |
| 賞与(額面) | 600,000円 | |
| 健康保険料 | 600,000円 × 10% ÷ 2 | ▲30,000円 |
| 厚生年金保険料 | 600,000円 × 9.15% | ▲54,900円 |
| 子ども・子育て支援金 | 600,000円 × 0.115% | ▲690円 |
| 雇用保険料 | 600,000円 × 0.5% | ▲3,000円 |
| 源泉所得税 | (600,000円 − 88,590円)× 4.084% | ▲20,886円 |
| 手取り額 | 額面の約82% | 約490,500円 |
会社が負担する総額
| 項目 | 計算の考え方 | 金額 |
| 賞与(額面) | 600,000円 | |
| 健康保険料(会社負担) | 600,000円 × 10% ÷ 2 | 30,000円 |
| 厚生年金保険料(会社負担) | 600,000円 × 9.15% | 54,900円 |
| 子ども・子育て支援金(会社負担) | 600,000円 × 0.115% | 690円 |
| 雇用保険料(会社負担) | 600,000円 × 0.85% | 5,100円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 600,000円 × 0.36% | 2,160円 |
| 会社の負担総額 | 額面の約115% | 約692,800円 |
| 【シミュレーションから分かること】 額面60万円の賞与でも、社員の手元に届くのは約49万円、会社が用意するお金は約69万円です。その差は約20万円にもなります。 賞与の予算を組むときは「額面×約1.15倍」を会社の負担として資金繰りに織り込むこと、そして社員には「額面と手取りの違い」を明細で丁寧に説明することが、社員の納得感と信頼につながります。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 賞与から住民税が引かれないのはなぜですか?
A. 住民税は前年の所得をもとに1年分の税額が決まっていて、それを毎月の給与から12回に分けて天引きしているためです。賞与から追加で引くことはありません。
Q. 賞与の社会保険料は、毎月の給与と同じ等級表で計算しますか?
A. いいえ。賞与は等級表を使わず、賞与の額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に保険料率をかけて計算します。健康保険は年度累計573万円、厚生年金は1か月150万円が上限です。
Q. 賞与の源泉所得税は、賞与の金額が大きいほど税率が高くなりますか?
A. 原則として、税率は賞与の金額ではなく「前月の給与(社会保険料控除後)」と扶養親族等の数で決まります。ただし、賞与が前月の給与の10倍を超える場合などは、月額表を使う別の計算方法になります。
Q. 冬の賞与を支給しないことにしました。何か手続きは必要ですか?
A. 年金事務所に登録している賞与支払予定月に賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」の提出が必要です。支払予定月自体を変更したい場合も、あわせて手続きをしておきましょう。
Q. 寸志や商品券を渡す場合も、社会保険料や所得税がかかりますか?
A. はい。労働の対価として渡すものは、金額の大小や現金かどうかにかかわらず給与・賞与として扱われます。源泉所得税の天引きと、社会保険の賞与支払届の対象になります。
まとめ:賞与は「計算」と「届出」をセットで準備する
| 【3行まとめ】 1.賞与の手取りは額面の約8割。会社の負担は額面の約1.15倍を見込んで資金繰りを組みましょう。 2.社会保険料は「標準賞与額×料率」、源泉所得税は「前月の給与」で税率を決める別ルール。住民税は引きません。 3.支給後5日以内の賞与支払届、不支給の報告、退職者・育休者・役員の扱いまで、支給前に確認を。 |
賞与は、社員にとって1年の頑張りが形になる大切なお金です。だからこそ、計算の誤りや手続きの漏れは、会社への信頼を損ないかねません。そして賞与の実務は、源泉所得税という「税金」と、社会保険料・届出という「労務」が同時に関わる分野です。
当事務所では、税理士と社会保険労務士が同じ事務所で連携し、賞与の計算・届出から、役員賞与の事前確定届出、賞与規程や人事評価制度の設計まで一体でサポートしています。国税OBの税理士も在籍しており、税務調査で確認されやすい給与・賞与の処理についても、調査官の視点を踏まえて点検します。
| 税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。 「今年の冬の賞与、計算や手続きに不安がある」「役員賞与や決算賞与をどう設計すればよいか知りたい」——支給前のご相談が、最も効果の大きいタイミングです。オンラインでのご相談も承っています。 |
