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中小企業のM&A、株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割の選び方
「M&Aを検討し始めたものの、株式譲渡や事業譲渡のほかにも方法があると聞いて、結局どれを選べばよいのか分からない」——前回、後継者不在の解決策としてM&Aの基礎をお伝えしましたが、実際に検討を始めると、この壁にぶつかる経営者さまが少なくありません。
結論から申し上げます。中小企業のM&Aで使われる方式は、主に「株式譲渡」「事業譲渡」「吸収合併」「会社分割」の4つです。そして、多くの中小企業では株式譲渡が選ばれますが、会社の状況や買い手の意向によっては、別の方式のほうが望ましい結果につながることもあります。
この記事を読んでいただければ、4つの方式それぞれの仕組みと違い、自社にはどの方式が向いているのかの判断基準、そして実務上見落としがちな税金・許認可・従業員同意の注意点までが具体的にわかります。税理士の実務視点から、方式選びで損をしないためのポイントを整理してお伝えいたします。
中小企業のM&Aで使われる4つの方式
結論 M&Aの方式とは、会社や事業の経営権・資産をどのような法的手続きで買い手に移すかという「引き継ぎ方の型」のことです。会社ごと渡すか、一部だけ渡すか、対等に一つになるかによって、選ぶべき型が変わります。
■ 株式譲渡(会社ごと渡す)
株式譲渡とは、会社のオーナーである株主が保有株式を買い手に譲り渡し、会社の経営権をそのまま引き継ぐ方法のことです。財布そのものを丸ごと渡すイメージで、資産・負債・契約・許認可がすべて維持されます。中小企業のM&Aで最も多く使われる、いわば標準的な方式です。
■ 事業譲渡(必要な部分だけ渡す)
事業譲渡とは、会社という器はそのままに、特定の事業や資産・契約だけを選んで買い手に譲り渡す方法のことです。財布の中から必要なものだけを選んで渡すイメージで、不採算部門を切り離したいときや、買い手が特定の店舗・技術だけを求めているときに使われます。
■ 吸収合併(会社を一つに統合する)
吸収合併とは、譲渡する側の会社を消滅させ、その会社が持っていた権利義務のすべてを、譲り受ける側の会社が包括的に引き継ぐ方法のことです。家計に例えるなら、2つの家計を「一つの財布」にまとめてしまうイメージです。契約や許認可、雇用契約も個別の同意なしに一括で引き継がれる(包括承継)点が特徴ですが、消滅する会社の名前や独立性は残らないため、中小企業のM&Aでは株式譲渡ほど多くは使われません。
■ 会社分割(事業の一部を切り出して渡す)
会社分割とは、会社が営む事業の一部を切り出し、その事業に関する権利義務を包括的に買い手(既存の会社、または新しく設立する会社)に引き継がせる方法のことです。事業譲渡と似ていますが、事業譲渡が契約や資産を一つひとつ個別に移すのに対し、会社分割は「事業のかたまり」ごと契約上の地位を包括的に移せる点が異なります。複数の事業を持つ会社が、特定の事業だけをグループ内外に切り出したいときに使われます。
[画像指示:株式譲渡・事業譲渡・吸収合併・会社分割の4つの方式を、それぞれ「財布ごと渡す」「中身だけ渡す」「財布を一つにする」「財布の一部を切り出す」というイメージイラストで対比する図解/キャプション:会社を譲る4つの方法、イメージで理解しましょう]
4方式を徹底比較(比較表)
結論 4つの方式は、引き継ぐ対象・手続きの手間・かかる税金の種類が大きく異なります。表で全体像をつかんでおくと、専門家との打ち合わせもスムーズに進みます。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 吸収合併 | 会社分割 |
| 引き継ぐ対象 | 会社そのもの | 選んだ事業・資産のみ | 会社の権利義務すべて | 切り出した事業のかたまり |
| 会社の存続 | 存続する | 存続する | 譲渡側は消滅する | 存続する(分割元・分割先とも) |
| 対価の受取主体 | 株主である個人 | 会社(法人) | 株主(株式や金銭) | 会社、または株主 |
| 対価の種類 | 現金が中心 | 現金が中心 | 株式が中心(金銭合併も可) | 株式または金銭 |
| 手続きの手間 | 比較的シンプル | 契約・許認可を個別に移すため煩雑 | 株主総会決議など手続きが重い | 株主総会決議・労働者保護手続きが必要 |
| 従業員の同意 | 原則不要(雇用契約はそのまま) | 転籍のため個別同意が必要 | 原則不要(包括承継) | 原則不要だが労働者保護の手続きが必要 |
| 簿外債務のリスク | 買い手が引き継ぐ可能性がある | 会社側に残るため回避しやすい | 買い手が包括的に引き継ぐ | 分割契約の定め方により変動 |
どの方式を選ぶべきか(判断ステップ)
結論 方式選びに迷ったときは、「会社を丸ごと譲るか、一部だけ譲るか」「対価は現金か株式か」という2つの問いに沿って考えると、答えが見えてきます。
STEP1 会社を丸ごと譲りたいか、事業の一部だけを譲りたいかを決める
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STEP2-A 丸ごと譲る場合:対価を現金で受け取りたいなら「株式譲渡」を検討する
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STEP2-B 丸ごと譲る場合:買い手と対等に一つの会社へ統合したいなら「吸収合併」を検討する
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STEP3-A 一部だけ譲る場合:契約や資産の数が少なくシンプルに済ませたいなら「事業譲渡」を検討する
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STEP3-B 一部だけ譲る場合:従業員や契約を含む事業のかたまりごと包括的に引き継ぎたいなら「会社分割」を検討する
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STEP4 候補の方式について、税理士など専門家に税金・許認可・契約面の影響を確認する
多くの中小企業では、手続きのシンプルさと従業員の同意が原則不要である点から、最終的に株式譲渡に落ち着くケースが大半です。ただし、複数の事業を営んでいる会社や、後継者に一部の事業だけを残したい会社では、事業譲渡や会社分割を組み合わせて使うことも実務上よくあります。
実務上の注意点:許認可・税金・従業員同意で見落としがちな罠
結論 方式選びで最も後悔しやすいのが、許認可の引き継ぎ、税金の二重負担、従業員の同意という3つの実務ポイントの見落としです。
■ 許認可は自動的に引き継がれるとは限らない
建設業や飲食業、運送業など許認可が必要な業種では、株式譲渡や吸収合併であれば会社そのものが存続するため許認可はそのまま維持されますが、事業譲渡や会社分割の場合は、業種によって買い手側が許認可を新たに取得し直す必要があります。譲渡価格の交渉に入る前に、対象事業の許認可がどの方式であれば引き継げるのかを必ず確認する必要があります。
■ 事業譲渡は法人と個人、二段階の税負担になりやすい
株式譲渡では、対価を受け取るのは株主である経営者個人であり、譲渡所得として一段階の課税で完結します。一方、事業譲渡では対価を受け取るのは会社(法人)であるため、まず法人税等が課され、その後に会社に残った資金を経営者が退職金や配当として個人で受け取る際に、改めて所得税・住民税が発生します。同じ譲渡価格でも、方式によって手取り額が大きく変わる点は、次のシミュレーションで具体的に確認します。
■ 従業員の同意が必要な場面を見落とさない
事業譲渡では、従業員との雇用契約は自動的に引き継がれず、一人ひとりから転籍への個別同意を得る必要があります。株式譲渡や吸収合併、会社分割では原則として個別同意は不要ですが、会社分割では労働者保護のための法定手続き(労働者への通知や協議)が必要になるため、進め方を誤ると後からトラブルに発展することがあります。
具体的なシミュレーション:株式譲渡と事業譲渡で手取りはこれだけ変わる
結論 同じ譲渡価格でも、株式譲渡か事業譲渡かで、経営者の手取り額は大きく異なります。前回と同じ年商8,000万円の製造業のケースで比較してみましょう。
【前提条件(前回と同じケース)】
・譲渡価格の目安:4,500万円
・譲渡益(簿価との差額):4,200万円
・法人税等の実効税率:概算でおよそ33%と仮定(所得金額・自治体により変動)
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
| 対価の受取主体 | 経営者個人 | 会社(法人) |
| 課税段階 | 個人の譲渡所得税のみ(1段階) | 法人税等+個人の受取り時課税(2段階) |
| 1段階目の税額(目安) | 譲渡所得税等 4,200万円×20.315%=約853万円 | 法人税等 4,200万円×約33%=約1,386万円 |
| 1段階目の手取り(目安) | 約3,647万円(個人が直接受領) | 約2,814万円(会社に留保) |
このように、株式譲渡は個人が譲渡所得税等(約853万円)を負担するだけで手続きが完結するのに対し、事業譲渡では会社が法人税等(約1,386万円)を負担したうえで、さらに会社に残った資金を経営者が退職金や配当として受け取る際に個人の税負担が別途発生します。個人が最終的に受け取る手取り額を最大化したい場合、株式譲渡のほうが税負担の面で有利になるケースが多いというのが、実務上の一般的な傾向です。
※事業譲渡後に会社の資金を個人へ移す際の税額は、退職所得控除の適用状況(勤続年数等)や配当か退職金かの選択によって大きく変わるため、個別の試算が必要です。ここでは方式による法人段階の税負担の違いを示す目安としてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 結局、どの方式を選べばよいか自分では判断できません。誰に相談すればよいですか?
A. 方式選びは、税金・許認可・契約関係が複雑に絡み合うため、税理士など中小企業のM&Aに精通した専門家に、早い段階から相談することをお勧めします。会社の状況を伝えれば、複数の方式を比較したうえで提案を受けられます。
Q. 吸収合併や会社分割は、中小企業でも実際に使われますか?
A. 使われますが、株式譲渡や事業譲渡に比べると件数は少なくなります。複数の事業を展開している会社がグループ内で事業を整理する場合や、対等に近い規模の会社同士が経営統合する場合などで選ばれる傾向があります。
Q. 事業譲渡を選ぶと、必ず税金面で不利になるのですか?
A. 必ずしもそうとは限りません。会社に譲渡益を留保して設備投資や次の事業展開に充てたい場合や、対象事業だけを切り離して他の事業は温存したい場合には、事業譲渡が適していることもあります。手取り額だけでなく、会社の今後の方針も含めて検討する必要があります。
Q. 方式は途中で変更できますか?
A. 交渉の初期段階であれば、買い手との協議により方式を変更することは可能です。ただし、基本合意後に方式を変更すると、税務や手続きのやり直しが発生し、時間と費用のロスにつながるため、初期段階で専門家を交えて方式を固めておくことが望ましいです。
まとめ&お問い合わせへの誘導
この記事の要点は次の3つです。
1.中小企業のM&Aには「株式譲渡」「事業譲渡」「吸収合併」「会社分割」の4つの方式があり、会社を丸ごと譲るか一部だけ譲るかで選ぶべき方式が変わります。
2.許認可の引き継ぎ、従業員の同意の要否、税金の負担段階は方式ごとに異なり、同じ譲渡価格でも手取り額が大きく変わることがあります。
3.多くの中小企業では株式譲渡が選ばれますが、会社の状況によっては事業譲渡や会社分割が適している場合もあり、専門家との早期の相談が欠かせません。
税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。
