インボイス「2割特例」はいつまで使える?

2026年9月終了後、個人事業主・法人がとるべき対応と選択肢を解説

「うちの消費税、来年からいきなり負担が増えるのでは……」インボイス登録をきっかけに消費税を納めるようになった個人事業主や小さな会社の経営者様から、こうした不安の声を数多くお聞きします。実は、消費税の負担を大きく減らしてくれる「2割特例」には終わりの時期がすでに決まっており、しかもその終了後の取り扱いについて、令和8年度の税制改正で新しいルールが追加されました。

この記事を読んでいただければ、2割特例が具体的にいつまで使えるのか、終了した後にどんな選択肢があるのか、そしてご自身の場合はどの方法を選ぶのが得なのかが、実際の数字の例を通してはっきりと分かります。

【結論】 2割特例は、個人事業者であれば令和8年(2026年)分の消費税申告までが最後の適用です。法人の場合は決算月によって最後の対象期間が変わりますが、いずれも令和8年9月30日を含む課税期間までとなります。個人事業者については、2割特例が終わった後の令和9年分・令和10年分についても納税額を軽くできる「3割特例」という新しい経過措置が用意されました。一方、法人には3割特例はありませんので、2割特例が終わるタイミングで「簡易課税制度」か「本則課税」かを選ぶ準備を、今のうちから進めておく必要があります。

2割特例とは?まずは仕組みをおさらいしましょう

【結論】 2割特例とは、インボイス登録をきっかけに免税事業者から課税事業者になった小規模な事業者が、消費税の納税額を「売上にかかる消費税額のわずか20%」という簡単な計算だけで済ませられる特例のことです。

たとえるなら、お小遣い帳の使い道を1円単位まで細かく記録する代わりに、「もらったお小遣いの2割だけ、決まったところに納める」というルールにしてもらったようなものです。本来、消費税は「売った時にお客様から預かった消費税」から「仕入れや経費で自分が支払った消費税」を1つずつ差し引いて計算します。しかし2割特例では、その面倒な差し引き計算をせずに、預かった消費税の2割を納めるだけでよいのです。

2割特例の対象になるのは、次のすべてに当てはまる事業者です。

  • インボイス発行事業者の登録をしたことで、免税事業者から課税事業者になった方
  • 基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下であること
  • 資本金の額などにより、そもそも課税事業者になることが決まっている法人ではないこと
項目2割特例の対象になる方2割特例の対象にならない方
課税事業者になったきっかけインボイス登録をしたから売上が1,000万円を超えたから/資本金要件などで元々課税事業者
基準期間の課税売上高1,000万円以下1,000万円超
具体例開業したての個人事業主、小規模な法人売上高が大きい事業者、資本金1,000万円以上の新設法人

🖼 2割特例の納税額の計算イメージを説明する図解イラスト(預かった消費税の箱から2割だけを取り出して納めるイメージ) / キャプション:2割特例は「預かった消費税の2割だけ納める」というシンプルな仕組みです

2割特例はいつまで使える?個人事業者と法人で異なる終了時期

【結論】 2割特例が使えるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間に含まれる課税期間までです。個人事業者は令和8年(2026年)分の申告が最後となり、法人は決算月によって最後の対象期間が異なります。

▶ 個人事業者の場合

個人事業者の課税期間は1月から12月までの1年間です。したがって、2割特例が使える期間は次の4回分の申告に限られます。

  • 令和5年分(登録した月から12月まで)
  • 令和6年分
  • 令和7年分
  • 令和8年(2026年)分 ← これが最後

つまり、令和8年分(2026年1月〜12月分)の消費税申告書を提出したら、2割特例はいったん終了します。この申告書の提出期限は、原則として令和9年3月31日です。

▶ 法人の場合は決算月によって最後の期間が変わります

法人の課税期間は事業年度(決算期)ごとに区切られるため、「令和8年9月30日を含む事業年度」が最後の対象です。決算月によって最後の適用期間がずれる点に、実務上は特に注意が必要です。

決算月(例)2割特例が使える最後の事業年度消費税申告の期限(目安)
9月決算令和7年10月〜令和8年9月期令和8年11月30日
12月決算令和8年1月〜12月期令和9年2月末日
3月決算令和8年4月〜令和9年3月期令和9年5月31日
6月決算令和8年7月〜令和9年6月期令和9年8月31日

9月決算の法人はすでに最後の適用期間を迎えており、3月決算や6月決算の法人はまだ1年前後の猶予があります。ご自身の決算月がどこに当てはまるか、この機会に必ず確認しておきましょう。

🖼 決算月ごとに2割特例の最終適用期間がずれることを示すタイムラインの図解 / キャプション:決算月によって「2割特例が使える最後の1年」は異なります

2026年9月終了後はどうなる?個人事業者向け「3割特例」の新設

【結論】 令和8年度税制改正により、2割特例が終わったあとの個人事業者を対象に、令和9年分・令和10年分の消費税納税額を売上にかかる消費税額の30%に抑えられる「3割特例」という新しい経過措置が設けられました。急激な負担増を和らげるための、いわば2割特例の延長戦です。

3割特例とは、インボイス登録をきっかけに課税事業者になった個人事業者に限り、課税標準額に対する消費税額から7割を控除した残り、つまり3割相当額を納税額にできる制度のことです。

3割特例には次の特徴があります。

  • 対象は個人事業者のみです。法人は対象外です
  • 対象となる期間は令和9年分・令和10年分の2回のみです
  • 事前の届出は不要で、確定申告書にその旨を記載するだけで適用できます
  • 2割特例と同じく、インボイス登録によって課税事業者になった方が対象で、売上増加によって課税事業者になった方は対象外です

▶ 法人には3割特例がありません

ここが今回の改正で最も注意すべき点です。3割特例はあくまで個人事業者向けの措置であり、法人には用意されていません。したがって法人の場合は、2割特例が終わる事業年度の翌事業年度から、簡易課税制度か本則課税のいずれかを選んで納税することになります。準備なしにこのタイミングを迎えると、想定以上に納税額が増えて資金繰りに影響するおそれがありますので、決算月を確認したうえで早めに検討を始めることをおすすめします。

特例終了後の3つの選択肢を比較する

【結論】 2割特例(個人事業者は3割特例も含む)が使えなくなったあとの選択肢は、「簡易課税制度」「本則課税(一般課税)」「免税事業者に戻る」の3つです。どれが得かは業種や経費の割合によって変わるため、必ず試算をしたうえで選ぶことが実務上の鉄則です。

▶ 選択肢1:簡易課税制度

簡易課税制度とは、実際の仕入れや経費の金額にかかわらず、売上を業種ごとに決められた「みなし仕入率」で割り引いて納税額を計算できる制度のことです。基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が、事前に届出書を提出することで選べます。

事業区分該当する業種の例みなし仕入率
第1種卸売業90%
第2種小売業、飲食料品を扱う農林漁業80%
第3種建設業、製造業、その他の農林漁業・鉱業70%
第4種飲食店業など、他のどの区分にも当てはまらない事業60%
第5種運輸通信業、金融保険業、サービス業50%
第6種不動産業40%

みなし仕入率が高い業種(卸売業や小売業)ほど、簡易課税を選んだときの納税額は少なくなります。逆にサービス業などみなし仕入率が低い業種は、簡易課税よりも実額で計算する本則課税のほうが有利になるケースも珍しくありません。

実務上の注意点として、簡易課税制度を選ぶと、原則として2年間は本則課税に戻れません(いわゆる「2年縛り」)。大きな設備投資を予定している場合、簡易課税を選んでいると本則課税なら受けられたはずの還付が受けられなくなることがありますので、選ぶ前に必ず今後の投資計画も踏まえて試算してください。

▶ 実務の落とし穴:簡易課税制度選択届出書の提出期限に緩和措置

簡易課税制度を選ぶには、本来「適用を受けたい課税期間が始まる前日まで」に届出書を提出しなければなりません。うっかり期限を過ぎてしまうと、その課税期間は本則課税で計算するしかなくなります。

しかし令和8年度税制改正により、2割特例または3割特例を使っていた事業者に限り、特例の適用を受けた課税期間の「翌課税期間」について、翌課税期間の確定申告の期限までに届出書を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できるという緩和措置が設けられました。これは令和8年10月1日以後に終了する課税期間から翌課税期間を迎える場合に使えるルールです。

たとえば、令和10年分(3割特例の最後の年)まで特例を使っていた個人事業者が、令和11年分から簡易課税に切り替えたい場合、通常なら令和10年12月31日までに届出が必要なところ、この緩和措置により令和11年分の確定申告期限である令和12年4月1日ごろまで届出を待つことができます。12月決算の法人であれば、特例終了後の事業年度(例:令和9年12月期)についても、その事業年度の申告期限(令和10年2月29日ごろ)まで届出書の提出を待てることになります。

とはいえ、これはあくまで「期限に間に合わなかったときの救済」であり、判断そのものを先延ばしにしてよい理由にはなりません。試算はできるだけ早く済ませておくことが実務上の結論です。

▶ 選択肢2:本則課税(一般課税)

本則課税とは、売上で預かった消費税額から、仕入れや経費で実際に支払った消費税額を1つずつ差し引いて納税額を計算する、消費税の原則的な計算方法のことです。

経費や仕入れの金額が大きい事業者、設備投資を予定している事業者は、本則課税のほうが納税額を抑えられる場合があります。ただし、日々の取引についてインボイス(適格請求書)を1枚ずつ保存し、帳簿に正しく記録する事務負担が発生する点はデメリットです。

▶ 選択肢3:あえて免税事業者に戻る

免税事業者に戻るとは、インボイス発行事業者の登録を取り消し、消費税を納める義務そのものをなくす選択のことです。基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば選べます。

ただしこの選択には大きな注意点があります。登録を取り消すとインボイス(適格請求書)を発行できなくなるため、取引先が仕入税額控除を受けられなくなります。取引先が一般消費者や免税事業者中心であれば影響は小さいですが、取引先の多くが課税事業者である場合は、値引きを求められたり、取引そのものを見直されたりするリスクがあります。登録を取り消す前に、必ず主要な取引先との関係を確認してください。

なお、免税事業者から仕入れを受ける課税事業者側にも、仕入税額の一定割合を控除できる経過措置があります。令和8年10月からは2年間70%の控除が認められ、その後は段階的に控除割合が縮小していく予定ですので、取引先側の負担も今後変化していく点は知っておくとよいでしょう。

🖼 簡易課税・本則課税・免税事業者に戻る、という3つの選択肢を比較するフローチャート / キャプション:2割特例・3割特例が終わったあとは、この3つの中から自社に合う方法を選びます

STEP1:あなたは個人事業者? 法人?
  │
  ├─ 個人事業者 → STEP2へ
  └─ 法人      → STEP3へ

STEP2(個人事業者):令和9年分・令和10年分は3割特例が使えるか確認
  │
  ├─ 使える  → 3割特例を適用(申告書に付記するだけ)
  └─ 使えない → STEP3へ

STEP3:業種のみなし仕入率と実際の経費割合を比較する
  │
  ├─ みなし仕入率のほうが有利      → 簡易課税制度を選択(事前届出が必要)
  ├─ 実額のほうが有利          → 本則課税を選択
  └─ 売上1,000万円以下で取引先への影響も小さい → 免税事業者に戻ることも検討

具体的なシミュレーションで比較してみましょう

【結論】 同じ2割特例からのスタートでも、業種や経費の割合によって、特例終了後に有利な選択肢はまったく変わります。ここでは2つのケースで実際の金額を試算します(消費税率は10%として計算しています)。

▶ ケース1:フリーランスのデザイナー(個人事業者、年間売上600万円)

年間売上600万円(税抜)、経費は主にパソコンやソフト利用料など少なめの想定です。

制度計算方法納税額の目安
2割特例(令和8年まで)60万円(預かった消費税)×20%12万円
3割特例(令和9・10年)60万円×30%18万円
簡易課税(第5種・サービス業)60万円×(100%-50%)30万円
本則課税(実額経費150万円想定)60万円-実際に支払った消費税15万円45万円

このケースでは、経費が少ないサービス業のため、簡易課税や本則課税に切り替えると納税額が大きく増えることが分かります。3割特例が使える令和9年・10年はそれを活用し、その後は無理に本則課税に切り替えず、簡易課税とじっくり比較したうえで判断するのが実務上の結論です。

▶ ケース2:個人経営の卸売業者(個人事業者、年間売上900万円)

年間売上900万円(税抜)、卸売業のため簡易課税の「第1種」に該当する想定です。

制度計算方法納税額の目安
2割特例(令和8年まで)90万円×20%18万円
3割特例(令和9・10年)90万円×30%27万円
簡易課税(第1種・卸売業)90万円×(100%-90%)9万円

このケースでは、卸売業のみなし仕入率が90%と非常に高いため、簡易課税に切り替えたほうが、2割特例を使っていたときよりもさらに納税額が少なくなります。3割特例をそのまま適用するよりも、早めに簡易課税制度選択届出書を提出しておいたほうが有利になる典型的な例です。業種によっては「特例が終わる=負担が増える」とは限らないことがよく分かるケースです。

よくある質問(FAQ)

Q. 2割特例が終わるとき、税務署への届出などの手続きは必要ですか?

A. 2割特例そのものをやめる手続きは不要です。適用できる期間が過ぎれば、自動的に次の申告から2割特例は使えなくなります。ただし、その後に簡易課税制度を選びたい場合は「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。

Q. 3割特例を使うために事前の届出は必要ですか?

A. 不要です。3割特例は、対象となる年分の確定申告書にその旨を記載するだけで適用できます。2割特例と同様、事前の届出は求められていません。

Q. 簡易課税制度選択届出書はいつまでに提出すればよいですか?

A. 原則は、適用を受けたい課税期間が始まる前日までです。ただし2割特例・3割特例を使っていた事業者については、特例期間の翌課税期間の確定申告期限まで提出を待てる緩和措置が設けられています。とはいえ判断は早いに越したことはありません。

Q. 2割特例や3割特例が終わったら、必ず納税額は増えますか?

A. 業種や経費の割合によります。卸売業や小売業のようにみなし仕入率が高い業種では、簡易課税制度に切り替えることで、2割特例のときよりも納税額が少なくなることもあります。ケースごとの試算が欠かせません。

Q. あえてインボイスの登録を取り消して免税事業者に戻ることはできますか?

A. 基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば可能です。ただし登録を取り消すとインボイス(適格請求書)を発行できなくなり、取引先が仕入税額控除を受けられなくなります。主要な取引先との関係を十分に確認したうえで判断する必要があります。

まとめ・お問い合わせへの誘導

この記事の要点は次の3つです。

  • 2割特例は個人事業者なら令和8年(2026年)分まで、法人なら令和8年9月30日を含む決算期までで終了します
  • 個人事業者には令和9年分・令和10年分に使える「3割特例」が新設されましたが、法人には同様の措置がないため、簡易課税か本則課税かを早めに検討する必要があります
  • 特例終了後にどの制度が有利かは業種や経費の割合によって大きく変わるため、必ず具体的な試算を行ったうえで判断することが重要です

税務の判断は個々の状況によって異なります。自己判断で損をする前に、お気軽に当事務所へご相談ください。

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