社員には「退職金」という制度があります。会社をやめるときに、それまでの勤続年数に応じてまとまったお金を受け取れる仕組みです。ところが、個人事業主や小さな会社の社長には、こうした退職金がありません。そのため、「仕事をやめたあとの生活費はどうしよう」と不安になる人も多いのではないでしょうか。
そんな個人事業主や小さな会社の経営者を助けてくれる制度が「小規模企業共済(しょうきぼきぎょうきょうさい)」です。毎月コツコツとお金を積み立てることで、将来「自分で作る退職金」を準備できるうえ、毎年の税金を安くする効果もある、とてもお得な制度です。
この記事では、小規模企業共済のしくみと、すごい節税効果について、図を使いながら中学生にもわかるようにやさしく解説します。最後まで読むと、「なぜこの制度が個人事業主に人気なのか」がしっかり理解できるはずです。
この記事を読むとわかること
- 小規模企業共済とはどんな制度なのか
- 掛金が全額所得控除になる節税効果のしくみ
- 共済金を受け取るときの税制優遇のしくみ
- 事業資金が足りないときに使える貸付制度
- 加入する前に知っておきたい注意点
- iDeCoや国民年金基金との組み合わせ方
このページの目次
1.小規模企業共済とはどんな制度?
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者・役員のための「退職金づくりの制度」です。運営しているのは、中小企業基盤整備機構(中小機構)という国の機関です。国が関わっている制度であるという点も、安心して利用できる理由の一つといえるでしょう。
仕組みはとてもシンプルです。加入者は毎月決まった金額(掛金)を積み立てていきます。そして、仕事をやめたとき(廃業時)や、年をとって引退するとき(老齢給付)などに、積み立てたお金を「共済金」として受け取ることができます。
イメージとしては、「自分で自分のために作る退職金の貯金箱」と考えるとわかりやすいでしょう。毎月貯金箱にお金を入れていき、いざというときにまとめて使えるようにしておく、というイメージです。会社員の場合、こうした「将来のための積み立て」は会社が代わりに行ってくれていますが、個人事業主の場合は自分自身で準備する必要があります。小規模企業共済は、その「自分で準備する仕組み」を国がサポートしてくれる制度だと考えるとよいでしょう。
掛金は月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で自由に決めることができます。また、一度決めた掛金は、その後の状況に応じて増やしたり減らしたりすることも可能です。「今月は売上が増えたから掛金を増やそう」「今月は厳しいから掛金を減らそう」といった調整ができるのは、収入に変動がある個人事業主にとって、利用しやすい仕組みといえます。
積み立てたお金(共済金)の使い道は、主に次の2つです。
- 仕事をやめたあとの生活資金として使う
- 事業がうまくいかなくなったときの「事業再建資金」として使う

図1:小規模企業共済のしくみ
このように、小規模企業共済は「将来のための備え」として、個人事業主や小規模企業の経営者にとって非常に頼りになる制度といえます。
2.すごい節税効果その①「掛金が全額、所得控除になる」
小規模企業共済の最大の魅力は、なんといっても「節税効果」の大きさです。ここからは、その仕組みを順番に見ていきましょう。
まず1つ目のポイントは、「支払った掛金が全額、所得控除の対象になる」という点です。これを「小規模企業共済等掛金控除」と呼びます。
そもそも「所得控除」とは何でしょうか。少し難しく感じるかもしれませんが、考え方はシンプルです。私たちが支払う税金(所得税や住民税など)は、1年間に得た「所得(収入から必要経費などを引いた金額)」をもとに計算されます。「所得控除」とは、税金を計算するときのもとになる金額(所得)から、一定のルールに基づいて一定の金額を差し引くことができる仕組みです。
所得控除の金額が大きくなればなるほど、税金がかかる対象の金額(課税所得)が小さくなり、結果として支払う税金も少なくなります。つまり、所得控除は「税金の対象になる金額を減らしてくれる、お得な仕組み」だとイメージするとよいでしょう。
たとえば、毎月の掛金を3万円に設定した場合、1年間の掛金の合計は「3万円×12ヵ月=36万円」になります。この36万円が、そのまま全額、所得控除として使えるのです。
つまり、本来であれば税金がかかるはずだった36万円分の所得に対して、税金がかからなくなるということです。掛金として積み立てたお金は、将来自分のために戻ってくるお金でありながら、積み立てている間は税金を減らす効果もあるという、二重にお得な仕組みになっています。

図2:掛金が全額所得控除になるイメージ
掛金は月額1,000円から70,000円まで自由に設定できるため、年間でみると最大84万円(7万円×12ヵ月)もの所得控除を受けられる可能性があります。所得が多く、税負担が大きい人ほど、この所得控除の効果を大きく感じられるでしょう。
また、所得控除を受けるためには、確定申告のときに「小規模企業共済等掛金控除」として、1年間に支払った掛金の金額を記入する必要があります。中小機構から送られてくる払込証明書などを確認しながら、忘れずに記入するようにしましょう。
3.すごい節税効果その②「受け取るときも税金が優遇される」
小規模企業共済のすごいところは、掛金を積み立てている間の節税効果だけではありません。将来、共済金を受け取るときにも、税金が優遇される仕組みになっています。
共済金の受け取り方には、次の3つのパターンがあります。
- 一括で受け取る(まとめて1回で受け取る方法)
- 分割で受け取る(年金のように、毎年少しずつ受け取る方法)
- 一括と分割を併用する(まとめて受け取る部分と、分割で受け取る部分を組み合わせる方法)
このうち、一括で受け取る場合には「退職所得控除」という税制上の優遇を受けることができます。退職所得控除は、本来、会社員が退職金を受け取るときに使われる控除ですが、小規模企業共済の共済金を一括で受け取る場合にも、この退職所得控除の仕組みが適用されます。退職所得控除は、他の所得控除と比べても優遇の度合いが大きいことで知られており、まとまった金額を受け取る場合でも、税負担を抑えやすいという特徴があります。
一方、分割で受け取る場合には「公的年金等控除」という優遇を受けることができます。これは、国の年金として受け取るお金に対して使われる控除の仕組みで、毎年少しずつ受け取るお金についても、一定の金額までは税金がかからないようにする効果があります。
そして、一括と分割を併用する場合には、それぞれの受け取り方に応じて、退職所得控除と公的年金等控除の両方の優遇を受けることが可能です。

図3:共済金の受け取り方と税制優遇
このように、小規模企業共済は「積み立てている間」も「受け取るとき」も税金面で優遇されるという、加入者にとって非常にありがたい制度になっているのです。積み立て期間中はずっと所得控除の恩恵を受けながら、将来お金を受け取るときにも税金の負担が軽くなる、という「入口」と「出口」の両方でメリットがある点が、この制度が高く評価される理由の一つです。
4.事業資金が足りないときに頼れる「貸付制度」
個人事業主や小規模企業の経営者にとって、事業を続けていく中で「急にお金が必要になった」という場面は少なくありません。そんなときに役立つのが、小規模企業共済に用意されている「貸付制度」です。
小規模企業共済の加入者は、積み立ててきた共済金の範囲内で、事業資金などを低い金利で借りることができます。もちろん、借りたお金は期限までに返す必要がありますが、一般的な金融機関からの借り入れに比べると、かなり低い金利で利用できるのが特徴です。
具体的には、通常の貸付制度である「一般貸付」は年利1.5%、病気やケガ、災害など特別な事情がある場合に利用できる「特別貸付」は年利0.9%という低金利になっています。
事業資金が不足したときや、資金繰りが厳しくなったときに、こうした低金利の貸付制度を利用できることは、経営の安定につながる大きな安心材料になるでしょう。「自分が積み立ててきたお金を、必要なときには低い金利で借りることができる」という点は、小規模企業共済が単なる「税金対策」だけでなく、事業のセーフティネットとしても機能していることを示しています。
5.加入する前に知っておきたい4つの注意点
小規模企業共済は、節税効果が大きく、いざというときには低金利の貸付制度も利用できる、メリットの多い制度です。しかし、加入する前に知っておきたい注意点もいくつかあります。ここでは、特に重要な4つのポイントを紹介します。

図4:加入期間に関する4つの注意ポイント
1つ目は、掛金を納めた月数(掛金納付月数)が6ヵ月未満の場合、廃業時に受け取れる「共済金A」や、老齢給付として受け取れる「共済金B」は受け取ることができないという点です。加入してすぐにやめてしまうと、これらの共済金は受け取れないため、注意が必要です。
2つ目は、個人事業主が法人化(法人なり)した場合などに受け取れる「準共済金」や、自分の都合で解約したときに受け取る「解約手当金」については、掛金納付月数が12ヵ月未満の場合は受け取れないという点です。
3つ目は、共済金の受け取り金額は、掛金として納めた金額の80%から120%の範囲になるということです。ただし、掛金納付月数が240ヵ月(20年)以上にならなければ、共済金が掛金として納めた金額の100%以上になることはありません。つまり、お得に共済金を受け取るためには、20年以上の長期にわたって加入することが大切になります。また、掛金の金額を途中で変更した場合、その変更後の掛金について納付月数が240ヵ月以上にならないと、元本割れ(積み立てた金額より受け取る金額が少なくなること)が生じる可能性がある点にも注意が必要です。
4つ目は、老齢給付として共済金Bを受け取るためには、65歳以上であることに加えて、掛金納付月数が180ヵ月以上であることが必要という点です。老齢給付を希望する場合には、自分の加入期間がどのくらいになるのかを、あらかじめしっかり確認しておくことが大切です。
これらの注意点をふまえると、小規模企業共済は「短期間でお金を増やす」ための制度ではなく、「長期間にわたってコツコツ積み立て、将来の安心につなげる」ための制度であると理解しておくとよいでしょう。掛金の金額を決めるときも、無理のない範囲で、できるだけ長く続けられる金額に設定することがポイントになります。
6.iDeCoや国民年金基金と組み合わせて、もっとお得に
個人事業主が老後資金を準備しながら所得控除を受けられる制度としては、小規模企業共済のほかにも、「国民年金基金」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」があります。
これらの制度の特徴をまとめると、次のようになります。
| 項目 | 小規模企業共済 | 国民年金基金 | iDeCo |
| 運営機関 | 中小企業基盤整備機構(中小機構) | 国民年金基金連合会 | 国民年金基金連合会・各金融機関 |
| 主な対象者 | 個人事業主・小規模企業の経営者・役員 | 自営業者など国民年金の加入者 | 自営業者・会社員・公務員など |
| 掛金 | 月1,000円〜70,000円 (500円単位で自由に設定) | 加入時に決めたコースに応じて変動 | 一定の上限の範囲内で自由に設定 |
| 積立中の所得控除 | 小規模企業共済等掛金控除 (掛金が全額控除) | 社会保険料控除 (掛金が全額控除) | 小規模企業共済等掛金控除 (掛金が全額控除) |
| 受け取り方法 | 一括・分割・併用から選択 | 原則、年金形式で受け取り | 一括・分割・併用から選択 |
| 受け取り時の控除 | 退職所得控除・公的年金等控除 | 公的年金等控除 | 退職所得控除・公的年金等控除 |
| 併用の可否 | 他の2制度と併用可能 | 他の2制度と併用可能 | 他の2制度と併用可能 |
表:小規模企業共済・国民年金基金・iDeCoの特徴比較
小規模企業共済、国民年金基金、iDeCoは、いずれも個人事業主が利用できる、所得控除を受けながら将来に向けてお金を準備できる制度です。そして、これら3つの制度は、互いに併用することが可能です。
つまり、小規模企業共済に加入しながら、国民年金基金やiDeCoにも加入することで、所得控除の対象となる範囲が広がり、より高い節税効果を得られる可能性があります。それぞれの制度の特徴を理解したうえで、自分に合った組み合わせを検討してみるとよいでしょう。
ただし、すでに紹介したとおり、小規模企業共済は掛金の納付月数によっては元本割れする可能性もあるため、その点には十分注意しましょう。複数の制度を組み合わせる場合も、それぞれの制度のメリットと注意点をきちんと理解したうえで、無理のない範囲で活用することが大切です。
よくある質問(Q&A)
ここでは、小規模企業共済についてよく聞かれる質問を、Q&A形式でまとめました。
Q1.掛金は途中で変更できますか?
A.はい、できます。掛金は月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で自由に設定でき、加入後に増額・減額することも可能です。収入の状況に応じて柔軟に調整できる点は、個人事業主にとって大きな安心材料です。
Q2.節税効果はどのくらいありますか?
A.支払った掛金は全額が所得控除の対象になります。たとえば毎月3万円の掛金であれば、年間36万円が所得控除となり、その分、税金がかかる所得(課税所得)が少なくなります。所得控除額が大きい人ほど、税負担を軽くする効果も大きくなります。
Q3.共済金はいつ受け取れますか?
A.仕事をやめたとき(廃業時)や、老齢給付の条件を満たしたときなどに受け取ることができます。ただし、受け取れる共済金の種類によって、必要な掛金納付月数(6ヵ月、12ヵ月、180ヵ月など)が異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
Q4.元本割れすることはありますか?
A.あります。共済金の受け取り金額は掛金の80%から120%の範囲ですが、掛金納付月数が240ヵ月(20年)未満の場合は、掛金として納めた金額の100%に満たない金額になる可能性があります。長期間の加入を前提とした制度であることを理解しておきましょう。
Q5.小規模企業共済とiDeCo、国民年金基金はどう違うのですか?
A.いずれも個人事業主などが利用できる、所得控除を受けながら将来のお金を準備する制度ですが、運営している機関や、受け取り方の仕組みなどが異なります。小規模企業共済は中小機構が運営する「経営者・個人事業主のための退職金制度」、国民年金基金とiDeCoは老後の年金を増やすための制度という位置づけです。3つの制度は併用できるため、それぞれの特徴を理解したうえで、自分に合った組み合わせを考えることが大切です。
まとめ
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者・役員が、将来の生活資金や事業再建資金を準備できる共済制度です。最大の特徴は、その節税効果の大きさにあります。
支払った掛金は全額が所得控除の対象となり、毎年の税金を軽減する効果があります。さらに、将来共済金を受け取るときにも、一括受け取りなら退職所得控除、分割受け取りなら公的年金等控除といった税制優遇を受けることができます。加えて、事業資金が必要になったときには、低金利の貸付制度を利用できる点も心強いポイントです。
一方で、加入期間が短いと共済金を受け取れない場合があることや、お得に共済金を受け取るには20年以上の長期加入が必要であることなど、注意しておきたい点もあります。
高い節税効果が期待できる制度であることは間違いありませんので、制度の内容をよく確認したうえで、長期的な活用を見据えて、小規模企業共済の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
