生前贈与の「110万円非課税」は廃止された?

2026年(令和8年)最新版でやさしく解説

このページの目次

はじめに:「廃止されたって本当?」その不安、3分で解消します

「親が元気なうちに、少しずつお金を渡しておきたい」「110万円までなら税金がかからないって聞いたけど、最近の法改正で使えなくなったらしい」——そんな噂を聞いて、不安になっていませんか。

結論から先にお伝えします。

「年間110万円までの贈与が非課税になる」という制度(暦年贈与の基礎控除)は、廃止されていません。2026年(令和8年)現在も、引き続き使えます。

ただし、「噂」が完全なデマというわけでもありません。実は2024年(令和6年)に、この制度のまわりで大きな変更がありました。これを知らずに今までと同じ感覚で贈与をすると、「思っていたより相続税が高くなった」「もっと早く始めればよかった」という後悔につながりかねません。

この記事では、なぜ「廃止された」という噂が広まったのか、実際に何が変わったのか、結局どう贈与を進めればいいのかを、難しい専門用語を使わず、家庭のお小遣いに例えながら、誰でも理解できるレベルで分かりやすく解説します。

[画像案] 困った表情の中高年男性が、スマートフォンで「生前贈与 廃止」と検索している様子のイラスト(キャプション:「110万円贈与は終わった」という噂、本当のところは?)

1. そもそも「生前贈与の110万円非課税枠」とは?

1-1. 「贈与税」をお小遣いで例えると

個人から個人へ無償で財産(現金・不動産・株式など)を渡す行為を「贈与」といい、もらった側には本来「贈与税」という税金がかかります。

ですが、もらったら毎回税金がかかるのでは、お年玉やお小遣いまで課税されてしまい、現実的ではありません。そこで国は、次のルールを設けています。

1年間(1月1日〜12月31日)にもらった財産の合計が110万円以下なら、贈与税はゼロでよい

これを「暦年課税(れきねんかぜい)の基礎控除」と呼びます。これが世間でいう「110万円贈与」の正体です。例えるなら、お小遣い帳に「年間110万円までは“非課税ポケット”に入れてOK」という枠が用意されているイメージです。

1-2. 「誰から」もらうかではなく「誰が」もらうかで数える

ここで多くの方が誤解するポイントがあります。

  • 誤解:父から110万円、母から110万円もらっても、それぞれ非課税
  • 正解:もらう人(子)を主語にして、1年間にもらった金額の「合計」で判定する

父と母からそれぞれ110万円ずつ(合計220万円)もらった場合、110万円を超えた110万円分には贈与税がかかります。「ポケットは渡す人ごとではなく、もらう人ごとに1つだけ」と覚えてください。

[画像案] 1人の子どもに対して、父・母・祖父からそれぞれ矢印が伸び、合算された金額が「110万円の非課税ポケット」に入りきらず一部があふれている図解(キャプション:非課税枠は「もらう人」1人につき年間110万円)

2. 「廃止された」と言われる本当の理由——正体は2つの法改正

「110万円が廃止された」という噂が広まった背景には、2023年度(令和5年度)の税制改正で行われた、性質の異なる2つの変更があります。

2-1. 変更点1:「生前贈与加算」の期間が3年→7年に延長された

110万円以下の贈与であっても、贈与した人(親)が亡くなる直前に行われたものは「なかったこと」にされて、相続財産に足し戻されるというルールが、もともと存在していました。これを「生前贈与加算」といいます。亡くなる直前に駆け込みで財産を子どもに移し、相続税を逃れることを防ぐための仕組みです。

この「足し戻しの対象期間」が、2024年1月1日以降の贈与から、「亡くなる前3年以内」から「亡くなる前7年以内」へ、段階的に延長されました。これが「実質的に使いにくくなった=廃止された」という噂につながったと考えられます。

重要なのは、110万円という非課税の「金額」自体は1円も変わっていないという点です。変わったのは、相続税の計算に巻き戻される「期間」だけです。

2-2. 変更点2:ライバル制度「相続時精算課税」にも110万円ができた

贈与税にはもう一つ、「相続時精算課税制度」という別の選択肢があります。2,500万円まで贈与税がかからない代わりに、相続発生時に贈与分も含めて相続税を計算し直す仕組みです。これまでは年間の非課税枠がありませんでしたが、2024年1月から、こちらの制度にも新たに「年間110万円」の非課税枠が作られました。

「相続時精算課税にも110万円ができた」というニュースが、「暦年贈与(もとからある110万円)が廃止されて、新しい110万円に置き換わった」と誤って伝わったケースが多いようです。実際には、従来の暦年贈与の110万円はそのまま残り、別の制度にも新しく110万円ができて、選択肢が2つになった、というのが正しい理解です。

[画像案] 「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの道が分かれている分岐点のイラスト。両方の道の入口に「年間110万円まで非課税」の看板が立っている(キャプション:110万円の非課税枠は、実は2種類に増えた)

3. 一覧で比較:暦年課税 vs 相続時精算課税

どちらの制度を使うかによって、メリット・デメリットが大きく異なります。

比較項目暦年課税(従来の110万円贈与)相続時精算課税制度
年間の非課税枠110万円110万円
累計の特別控除なし2,500万円(110万円とは別枠)
110万円超の税率贈与額が増えるほど税率アップ(最大55%)一律20%
亡くなる前の足し戻しあり(2031年以降は7年以内の贈与が対象)110万円の基礎控除部分はなし/2,500万円部分は相続財産に加算
申告の手間110万円以下なら申告不要110万円以下なら申告不要(初回は届出書が必要)
制度の撤回いつでも自由に選べる一度選ぶと、その贈与者からの贈与は暦年課税に戻せない
向いている人早めにコツコツ・長期間贈与できる人値上がりが見込まれる財産を早めに移したい人

どちらが有利かは、財産の総額、贈与する人の年齢や健康状態、贈与したい財産の種類によって変わります。一度選択すると後戻りできない制度もあるため、個別の判断は専門家に相談することを強くおすすめします。

4. 「生前贈与加算」をもっと分かりやすく——ステップ図で理解する

「亡くなる前7年以内の贈与は足し戻される」と言われても、ピンとこない方も多いと思います。家庭のやりくりに例えて、ステップで見てみましょう。

【ステップ図】生前贈与加算のしくみ(暦年課税を選んだ場合)

STEP1 親が元気なうちに、子へ毎年110万円を贈与する

  ↓

STEP2 贈与税はその都度かからない(110万円以下のため)

  ↓

STEP3 残念ながら親が亡くなる(相続が発生)

  ↓

STEP4 亡くなった日から「さかのぼって7年以内」に行われた贈与がないか確認

  ↓

STEP5 該当する贈与があれば、相続財産に足し戻して相続税を計算し直す

  ↓

STEP6 7年より前(8年目以降)の贈与は、足し戻されず非課税のまま確定

つまり、贈与を始めるタイミングが早ければ早いほど、「7年より前」の部分が増えて、非課税の効果がしっかり残るということです。

延長された4年分(亡くなる前3年超〜7年以内)の贈与については、合計100万円までは足し戻しの対象から除外する緩和措置も用意されています。なお、この7年ルールは2024年1月の贈与からスタートし、完全な「7年」になるのは2031年(令和13年)以降に発生する相続からです。2026年7月時点では、まだ移行期間の途中です。

[画像案] カレンダー上に「贈与」のマークが7年分並び、相続発生日から矢印で7年さかのぼって囲み線が引かれているインフォグラフィック(キャプション:亡くなる日から7年さかのぼって贈与をチェック)

5. 数字で納得!具体的なシミュレーション

ケース1:贈与をまったくしなかった場合

  • 財産総額:6,000万円
  • 相続人:子2人
  • 相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×2人=4,200万円
  • 課税対象額:6,000万円-4,200万円=1,800万円
  • 概算の相続税額:約180万円程度(各種条件により変動)

ケース2:10年前から毎年110万円ずつ、2人の子に贈与していた場合

  • 毎年の贈与額:子1人あたり110万円×2人=220万円
  • 10年間の贈与累計:220万円×10年=2,200万円
  • 相続発生時の財産:6,000万円-2,200万円=3,800万円
  • 亡くなる前7年以内の贈与(子2人×110万円×7年=1,540万円)は相続財産に足し戻される
  • 足し戻し後の課税対象財産:3,800万円+1,540万円-基礎控除4,200万円=1,140万円
  • 概算の相続税額:約114万円程度

このケースでは、8年目より前(3年分、子2人×110万円×3年=660万円)の贈与だけが「完全に非課税」として確定し、節税効果として残った計算になります。

ポイント:贈与を始めるのが早ければ早いほど、「7年より前」の非課税部分の割合が増えていきます。同じ110万円贈与でも、80歳から始めるのと60歳から始めるのとでは、最終的な節税効果に大きな差が生まれます。

上記はあくまで仕組みを理解していただくための簡易シミュレーションです。実際の税額は、財産の種類、特例の適用有無、家族構成等によって大きく変動します。

[画像案] 「贈与なし」「110万円贈与あり」の2本の棒グラフを並べて、相続税額の差を視覚的に比較したシンプルなグラフ(キャプション:早く始めるほど差が広がる、生前贈与の効果)

6. 2026年(令和8年度)税制改正で、あわせて押さえておきたいポイント

6-1. 教育資金の一括贈与の非課税措置が終了(令和8年3月31日まで)

祖父母などから孫へ、教育資金として1,500万円まで一括で非課税贈与できる特例がありましたが、この措置は令和8年3月31日をもって延長されず終了しました。すでに専用口座を作って拠出した分については、引き続き非課税の扱いが適用されます。教育費の援助は、今後は都度の必要な範囲での贈与や、暦年贈与の110万円枠の活用が中心になっていきます。

6-2. 貸付用不動産の評価方法の見直し(令和9年1月1日以降適用)

アパートなど人に貸している不動産を使った相続税対策について、市場価格との差が大きすぎるケースに対応するため、評価方法が見直されます。不動産を使った大型の相続税対策を検討している方は、この点にも注意が必要です。

これらは一般的なご家庭の110万円贈与への直接的な影響は限定的ですが、教育資金や不動産を絡めた対策をお考えの場合は、早めに専門家へ確認することをおすすめします。

7. 結局、生前贈与はやったほうがいい?向いている人・向いていない人

こんな方には生前贈与(110万円贈与)がおすすめです

  • 相続財産が、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えそうな方
  • 贈与する側がまだ比較的お元気で、長期間コツコツ続けられる見込みがある方
  • 子だけでなく、孫(法定相続人以外)にも財産を渡したい方

慎重な検討が必要な方

  • 財産総額が相続税の基礎控除内に収まりそうな方
  • 贈与する側の年齢が高く、健康状態に不安がある方
  • 贈与によって、ご自身の老後の生活資金が不足してしまうおそれがある方

生前贈与は「節税のテクニック」である以前に、「自分の生活を守りながら、大切な人に想いを託す」行為です。節税効果だけを追い求めて、ご自身の老後資金を削ってしまっては本末転倒です。

8. 生前贈与で失敗しないための3つの注意点

注意点1:「もらった」という証拠を必ず残す

口約束だけの贈与は、税務調査で「名義預金(めいぎよきん)」、つまり「形だけ子の名義になっているが、実質的には親の財産のまま」とみなされ、贈与そのものが否定されてしまうリスクがあります。毎年、贈与契約書を作成し、振込で記録を残し、もらった側が自分で通帳やカードを管理することが重要です。

注意点2:「孫」への贈与は加算対象外になりやすいが、例外もある

法定相続人ではない孫への贈与は、原則として生前贈与加算(7年ルール)の対象外です。ただし、孫が遺言で財産を受け取る場合や、代襲相続人となるケースでは、孫への贈与であっても足し戻しの対象になるため注意が必要です。

注意点3:教育費や生活費の「都度贈与」は、そもそも110万円の枠を使わなくてよい

入学金や仕送りなど、必要な都度、必要な金額だけを渡す教育費・生活費は、もともと贈与税がかからない「非課税財産」として扱われます。まとめて一括で渡すのではなく、必要なタイミングごとに渡すようにすると、110万円の枠を温存できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 結局、110万円の生前贈与は廃止されたのですか?

A. 廃止されていません。2026年現在も、1年間に110万円以下の贈与であれば贈与税はかかりません。変わったのは、亡くなる前の贈与が相続財産に足し戻される期間が、3年から7年に延長されたという点です。

Q2. 7年ルールは、もう完全に適用されているのですか?

A. いいえ。2024年1月の贈与から段階的に延長が始まっており、完全な「7年」になるのは2031年(令和13年)以降に発生する相続からです。2026年7月時点では、まだ移行期間の途中です。

Q3. 毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると、贈与税がかかると聞きました。本当ですか?

A. はい、注意が必要です。「毎年100万円ずつ10年間渡す」とあらかじめ約束していた場合、まとめて贈与されたとみなされ課税される可能性があります。贈与のたびに金額や時期を変える、その都度贈与契約書を作成するといった工夫が重要です。

Q4. 暦年課税と相続時精算課税、どちらを選べばいいですか?

A. 一概には言えません。長期間コツコツ贈与できる場合は暦年課税が、値上がりしそうな財産を早めに移したい場合は相続時精算課税が向いている傾向があります。専門家とともに慎重に判断することをおすすめします。

Q5. 贈与税の申告はどんなときに必要ですか?

A. 1年間にもらった財産の合計が110万円以下であれば、申告は不要です。110万円を超えた場合や相続時精算課税を初めて利用する場合は、原則として翌年2月1日から3月15日までに申告が必要です。

まとめ:制度は「廃止」ではなく「変化」している。だからこそ早めの相談が大切

  • 年間110万円までの贈与が非課税になる「暦年課税」の仕組みは、廃止されていません。
  • 亡くなる前の贈与が相続財産に足し戻される期間が、2024年1月の贈与分から「3年」から「7年」へ段階的に延長されています。
  • 「相続時精算課税」にも新たに年間110万円の非課税枠ができ、選択肢が広がりました。
  • 教育資金の一括贈与の非課税措置は令和8年3月31日で終了するなど、関連制度も変化し続けています。
  • 制度を正しく理解し、早めに、計画的に贈与を始めることが、結果的に最も効果的な節税・資産承継につながります。

生前贈与は、財産の額、ご家族の構成、贈与する方の年齢や健康状態によって、「どの制度を、いつから、どのくらいのペースで使うべきか」がご家庭ごとに大きく異なります。インターネットの一般的な情報だけで判断してしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまうことも少なくありません。

「うちの場合はどうなんだろう」「暦年課税と相続時精算課税、どちらが向いているのか知りたい」——そんな個別具体的なご判断は、ぜひ専門家への相談をおすすめします。当事務所では、最新の税制に基づいた生前贈与・相続対策のご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください.

keyboard_arrow_up

0263520972 お問い合わせバナー 無料法律相談について