兄弟間で「実家をどうするか」もめたら?

相続放棄・換価分割・代償分割の違いを徹底整理

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【対象:相続問題を抱えるご家族 / 読了時間:約15分】

「お父さんが亡くなって、実家の処分をどうするか兄弟間でもめてしまった……」

「長男が家を継ぎたいと言い張るけど、私は現金でもらいたい」

「そもそも相続放棄ってどういう意味? 売ったほうがいいの?」

こういった悩みは、相続の現場で非常によく聞かれます。特に、亡くなった親の実家は、お金に換算すると非常に大きな資産でありながら、兄弟でそのまま公平に分けることが難しいため、揉め事の火種になりやすいのです。

この記事では、実家の相続でよく使われる3つの方法——「相続放棄」「換価分割(かんかぶんかつ)」「代償分割(だいしょうぶんかつ)」——を、税理士の立場から一つひとつ丁寧に解説します。

読み終わる頃には、「自分のケースにはどの方法が向いているのか」がスッキリわかるようになります。ぜひ最後までお読みください。

このページの目次

■ そもそも不動産の相続はなぜ難しいの?

相続財産に「現金」しかないなら、人数で割るだけなので比較的シンプルです。しかし「実家(不動産)」が含まれると、一気に話が複雑になります。その理由を見てみましょう。

◆ 不動産は「分割」できない

現金なら1,000万円を2人で「500万円ずつ」と割れますが、家は物理的に半分に切ることができません。「名義を2人にする(共有)」こともできますが、後々の売却や管理で必ずトラブルになります。

◆ 評価額と「気持ち」が一致しないことが多い

長男は「思い出の家を守りたい」、次男は「現金で受け取りたい」と思うことは珍しくありません。不動産は単なる「金額」以上に感情が絡むため、交渉が難航しやすいのです。

◆ 相続税の支払いは「現金」が原則

相続税は、原則として現金で支払わなければなりません。不動産しか相続していない場合、「家はあるのに税金を払うお金がない」という深刻な事態が起こりうるのです。

【まとめ】不動産相続の難しさ:① 物理的に分けられない ② 感情・思い出が絡む ③ 相続税の現金不足問題

■ 「実家」の相続を解決する3つの方法 全体像

実家(不動産)を巡る相続問題を解決するための主な方法は次の3つです。まずは表で全体像を把握しましょう。

【比較表】実家の相続3パターン早わかり

方法内容のひと言まとめ家はどうなる?お金はもらえる?向いているケース
相続放棄「自分は相続しない」と裁判所に申告する自分は取得しないもらえない(プラスもマイナスも放棄)借金が多い場合など
換価分割家を売ってお金に換えてから全員で分ける売却される全員に現金で入る誰も住まない場合・公平に分けたい場合
代償分割誰か一人が家を取得し、他の人に現金を払う特定の一人が取得する家を取得しない人は現金をもらえる誰かが住み続けたい・家を守りたい場合

それぞれの方法を、これから順番に詳しく解説していきます。

■ 方法①:相続放棄(そうぞくほうき)

◆ 一言でいうと?

「自分はこの相続から完全に抜ける」と裁判所に届け出ることです。

◆ もう少し詳しく(中学生でもわかる例え)

たとえば、お父さんが3,000万円の家と1,000万円の借金を残して亡くなったとします。プラスの財産(家)もマイナスの財産(借金)も引き継ぐのが相続の基本ルールです。しかし借金の額が大きかったり、相続そのものに関わりたくない事情がある場合、「私は何もいらない。借金も引き受けない」と宣言できます。これが相続放棄です。

【相続放棄 ステップ図】

ステップやること期限・注意点
STEP 1相続の開始(被相続人の死亡)を知る
STEP 2財産・負債の内容を確認するなるべく早く動く
STEP 3相続放棄を決意する他の相続人と話し合う
STEP 4家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出【重要】相続開始を知った日から3か月以内
STEP 5裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届くこれで手続き完了

◆ 絶対に覚えておきたいポイント

  • 期限は「3か月以内」:相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述しないと、自動的に「相続する」ことになってしまいます。
  • 一度放棄したら取り消せない:気が変わっても、原則として撤回することはできません。
  • プラスもマイナスも全部放棄:実家(プラス)だけ放棄して借金(マイナス)だけ受け取るような「いいとこどり」はできません。
  • 次の順位の相続人に相続権が移る:放棄すると、次の相続順位の親族(兄弟・甥・姪など)に相続権が移ることがあります。連絡が必要です。

◆ こんな場合に向いています

  • 故人に多額の借金や債務(保証人など)があり、相続すると損になるとき
  • 財産はほとんどなく、手続きが面倒なだけのとき
  • 他の兄弟が家を相続することになり、自分は一切関わりたくないとき(ただし、現金は一切もらえません)

⚠ 注意:「実家だけ欲しくない」という理由での相続放棄はおすすめできません。

放棄すると他の財産(預貯金・有価証券など)も全て受け取れなくなります。

「実家は欲しくないが、預金は受け取りたい」という場合は、次の換価分割や代償分割を検討してください。

■ 方法②:換価分割(かんかぶんかつ)

◆ 一言でいうと?

実家を売却して、売れたお金を相続人で分け合う方法です。

◆ 中学生でもわかる例え

りんごの木(実家)を相続したとします。木ごと分けることはできないので、一度りんごを全部売って現金にしてから、その現金を兄弟で分ける。これが換価分割のイメージです。

◆ 換価分割の流れ

【換価分割 フローチャート】

順序内容
遺産分割協議「実家を売って現金で分ける」と相続人全員で合意する(書面に残す)
相続登記いったん相続人名義に不動産を登記する(全員の共有名義 or 代表者名義)
売却活動不動産会社に依頼して売却する
売却代金の受領売却代金が入金される
費用の控除仲介手数料・測量費・解体費などを差し引く
分配残った金額を遺産分割協議で決めた割合で分ける

◆ 税金はどうなる?(重要)

換価分割では「不動産を売った」ことになるため、譲渡所得税(じょうとしょとくぜい)がかかる場合があります。

項目内容
課税対象売却価格 − 取得費(購入費用など) − 譲渡費用(仲介手数料など)
税率(短期:所有5年以下)約39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%)
税率(長期:所有5年超)約20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)
相続した不動産の所有期間「被相続人が取得した日」から引き継ぐ(亡くなってから新しくカウントしない)
3,000万円特別控除条件を満たせば、譲渡益から3,000万円控除できる場合がある(空き家特例など)

📌 ポイント:相続した不動産の「取得費」が不明な場合は、売却代金の5%しか取得費として認められない(概算取得費)ため、譲渡税が高くなることがあります。

できるだけ購入当時の書類(売買契約書・領収書)を探しましょう。

◆ こんな場合に向いています

  • 誰も実家に住む予定がない(または住んでいない)
  • 兄弟全員が公平にお金を受け取ることを望んでいる
  • 相続税の支払いのために現金が必要
  • 実家が遠方にあり、管理が難しい

⚠ 注意点:「売れるまで時間がかかる」「相場より安くしか売れない」「市場に出したくない」という場合は、換価分割が難しいこともあります。

また、相続人全員の同意が必要なため、一人でも反対すると実行できません。

■ 方法③:代償分割(だいしょうぶんかつ)

◆ 一言でいうと?

一人が実家を丸ごと取得するかわりに、他の相続人には自分のお金(または財産)で相応の額を支払う方法です。

◆ 中学生でもわかる例え

兄弟3人でゲームソフトを1本相続したとします。物理的に3分割はできません。そこで長男が「俺がそのゲームを全部もらう。代わりに弟二人に3,000円ずつ渡すよ」と約束する。これが代償分割です。

◆ 代償分割の流れ

順序内容
不動産の評価額の確定相続税評価額(路線価など)または時価で不動産の価値を算定する
遺産分割協議「長男が家を取得し、次男・三男に代償金を支払う」と全員で合意する
代償金の支払い代償を支払う相続人が、他の相続人に現金を支払う
相続登記不動産を家を取得した相続人一人の名義に登記する

◆ 代償金の計算例(シミュレーション)

【設定】父が亡くなり、相続人は長男・次男・三男の3人。遺産は「実家(時価3,000万円)」と「預金300万円」のみ。

 詳細
遺産総額3,000万円(実家)+300万円(預金)= 3,300万円
法定相続分(各1/3)3,300万円 ÷ 3 = 1,100万円
長男が取得するもの実家(3,000万円)+預金100万円 = 合計3,100万円
長男が支払う代償金3,100万円 − 1,100万円 = 2,000万円(次男・三男に各1,000万円)
次男・三男が受け取るもの代償金1,000万円+預金100万円 = 合計1,100万円(それぞれ)

✅ 結果:全員が法定相続分(1,100万円相当)を受け取れる形で分割できました!

  長男は実家を守り続けることができます。

◆ 代償分割の税務上のポイント

  • 受け取った代償金には税金はかからない(相続税の対象は遺産全体で計算済み)
  • 代償金を不動産で支払う場合は譲渡所得税がかかる可能性あり(現金で払う方が一般的)
  • 代償金の金額を明確に遺産分割協議書に記載することが重要

◆ こんな場合に向いています

  • 長男(または誰か)が「実家を守りたい」「住み続けたい」と強く希望している
  • 代償金を支払える資力(現金・貯蓄)がある相続人がいる
  • 実家を売却したくない(先祖代々の土地、事業用不動産など)

⚠ 注意点:代償金を支払う相続人に十分な現金がないと実行できません。

「家はもらいたいが代償金を払えない」という場合、代償分割は成立しません。

住宅ローンを組む「代償分割ローン」という方法もありますが、すべての金融機関で利用できるわけではありません。専門家への相談が必要です。

■ 3つの方法を徹底比較! あなたに合うのはどれ?

比較項目相続放棄換価分割代償分割
家はどうなる自分は取得しない売却される誰か一人が取得
お金の受け取り一切なし売却代金を分配家を取らない人は現金受取
手続きの複雑さ比較的シンプル(裁判所手続き)やや複雑(売却手続き)複雑(評価・協議・支払い)
必要な現金不要不要(売却後に分配)代償金を支払う現金が必要
全員の合意各自が個別に判断全員の合意が必要全員の合意が必要
不動産を残せるか×(関与しない)×(売却する)○(誰かが保有継続)
感情的な問題少ない(離脱するため)あることも揉めやすい(評価額で対立)
相続税への影響他の人の相続割合が増える売却益に譲渡税代償金自体は非課税
期限の制約3ヶ月以内に申述要なし(売却タイミングは自由)なし
主な向き不向き借金が多い・関与したくない誰も住まない・公平に分けたい誰かが家を守りたい

■ あなたのケース別! おすすめの方法早見表

こんな状況なら…おすすめの方法
親が多額の借金を残した→ ①相続放棄 を検討
兄弟全員が実家から遠くに住んでいて、誰も住むつもりがない→ ②換価分割 がシンプル
長男が実家に住んでいて、引き続き住み続けたい→ ③代償分割 を検討
兄弟間で公平感を重視したい→ ②換価分割 または ③代償分割
長男が代償金を払えるだけの資金がない→ ②換価分割 が現実的
実家が借地・農地など特殊な不動産→ 専門家(税理士・司法書士)への相談が必須
相続税の申告期限(10ヶ月)が迫っている→ 早急に専門家へ。期限を超えると加算税・延滞税が発生

■ 具体的なシミュレーション 〜田中家の場合〜

◆ 設定

父(田中太郎)が死去。相続人:長男(一郎・52歳)、次男(二郎・48歳)、三女(花子・45歳)

遺産:実家(土地・建物の時価評価額5,000万円)、預金500万円、合計5,500万円

負債:なし

法定相続分:各1/3 → 一人あたり約1,833万円

状況:長男は実家に同居。次男・三女は別居で現金を希望。

◆ パターンA:換価分割を選んだ場合

  • 実家を市場に売り出し、4,800万円で売却(仲介手数料等差し引き後)
  • 預金500万円と合わせて5,300万円を3等分
  • 全員が約1,767万円の現金を受け取る
  • ただし長男は住む場所を失い、引越し費用が発生
  • 売却益に対して譲渡所得税が発生する可能性あり(父の取得費・所有年数による)

✅ 公平な分割ができるが、長男が実家を失うというデメリットがある

◆ パターンB:代償分割を選んだ場合

  • 長男が実家(5,000万円)と預金200万円(合計5,200万円)を取得
  • 長男は次男・三女それぞれに代償金として (5,200万円−1,833万円)= 約1,683万円を支払う
  • 次男・三女はそれぞれ代償金約1,683万円+預金150万円 = 約1,833万円を受け取る
  • 長男は合計約3,366万円の現金を用意する必要がある

✅ 長男は実家を守れるが、3,366万円の現金を用意できるかがカギ

  住宅ローンの残債がある場合や現金が不足する場合は困難になる

◆ パターンC:次男・三女が相続放棄した場合

  • 次男と三女が相続放棄 → 長男が単独で全財産(5,500万円相当)を相続
  • 次男・三女は一切の財産を受け取れない
  • 長男は全額の相続税を一人で負担することになる

❌ 次男・三女にとっては経済的な損失が大きいため、この方法は一般的ではない

  「次男・三女が家に興味がない」だけなら、換価分割や代償分割の方が合理的

■ よくある質問(FAQ)

Q1. 相続放棄すると、自分の子ども(孫)も相続できなくなりますか?

A. はい、相続放棄した場合、放棄した人の子(孫)も代わりに相続することはできません。

代襲相続(だいしゅうそうぞく)は「相続人が死亡している場合」には適用されますが、相続放棄の場合は適用されません。

放棄した人の子が相続したいなら、その子が独自に相続権を持つ立場(孫養子など)でない限り、受け取る権利はありません。

Q2. 不動産の評価額は何を使えばいいですか?路線価と時価、どっちが正しい?

A. 目的によって使い分けます。

・相続税の計算:路線価(こうじちか)や固定資産税評価額を使った「相続税評価額」を使用します。

・代償金の計算:実際に売れる金額に近い「時価(市場価格)」を使うことが多いです。

路線価は時価の約80%程度と言われており、兄弟間で「どちらの評価額を使うか」でトラブルになることがあります。

→ 公平性を担保するために、不動産鑑定士による評価書を取得するケースもあります。

Q3. 遺産分割協議は必ず書面にしないといけませんか?

A. 法律上、口頭でも有効ですが、必ず「遺産分割協議書」を書面にして全員が署名・実印を押しましょう。

書面にしないと、後から「言った、言わない」のトラブルになります。

また、不動産の相続登記(名義変更)には遺産分割協議書が必要です。

なお、2024年4月から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと過料(罰則)が科されます。

Q4. 相続税の申告はいつまでにしないといけませんか?

A. 相続税の申告期限は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。

例)2024年1月15日に父が死去 → 2024年11月15日が申告・納税の期限

遺産分割協議がまとまらなくても、この期限は待ってくれません。

期限を過ぎると、延滞税(最大年14.6%)や無申告加算税(15〜20%)が課されます。

分割協議が終わっていない場合は、法定相続分で仮申告する「未分割申告」を行い、後日修正申告します。

Q5. 換価分割で実家を売った場合、相続人それぞれに確定申告が必要ですか?

A. はい、原則として売却に参加した相続人それぞれが確定申告を行う必要があります。

売却益(譲渡所得)が発生した場合、各自の持分に応じた分が課税対象となります。

ただし、「被相続人の空き家に係る3,000万円特別控除(空き家特例)」を使えば、

一定条件下で売却益から3,000万円を控除できます(2027年12月31日まで延長中)。

この特例の条件・手続きは複雑なため、必ず税理士に確認してください。

■ まとめ:実家の相続でもめないために

【3つの方法 最終まとめ】

方法こんな時に使う最大のメリット最大のデメリット
相続放棄借金が多い・関わりたくないマイナス財産も引き受けなくてよいプラスの財産も全部放棄
換価分割誰も住まない・公平に分けたい現金化して全員が公平に受け取れる実家が手放される・売却に時間がかかる
代償分割誰かが家を守りたい実家を残しながら他者にも公平に代償金の現金が必要・評価額で揉めやすい
  • 相続放棄は「3ヶ月以内」の期限があるため、速やかに判断が必要です。
  • 換価分割・代償分割はいずれも遺産分割協議書の作成と、不動産の正確な評価が不可欠です。
  • 相続税の申告・納税は「10ヶ月以内」。分割が決まらなくても期限は延びません。
  • 2024年4月から相続登記が義務化。3年以内に登記しないと罰則があります。

「自分のケースではどの方法が最適か?」は、財産の種類・金額・家族関係・税負担など

複数の要素が絡み合うため、一概には言えません。

「なんとなく換価分割にしよう」と安易に決めると、後から多額の税金が発生したり、

兄弟間で新たなトラブルが生じることも少なくありません。

 

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本記事は2025年6月時点の法令・通達に基づいています。税法改正により内容が変更されることがあります。

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