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私たちが今すぐやるべき資産防衛策
「今年も税収が過去最高を更新した」というニュースを見て、「国が豊かになっているのに、なぜ自分の生活や会社の資金繰りは楽にならないのだろう」と感じたことはありませんか。
実はこれは気のせいではありません。日本では今、多くの人が気づかないうちに負担が増えていく「ステルス増税(見えない増税)」が静かに進んでいます。税率そのものは変わらなくても、控除額が据え置かれたり、加算される期間が延長されたりすることで、実質的に納める税金が増えていく——これが「ステルス増税」の正体です。
この記事を最後まで読んでいただくと、次の3点が中学生でも理解できるレベルで分かるようになります。
- なぜ税収が過去最高なのに、家計や経営が楽にならないのか
- 具体的にどのような制度変更が「隠れた増税」になっているのか
- 経営者・個人事業主が今すぐ始めるべき資産防衛策
結論を先にお伝えします。「何もしない」ことが一番のリスクです。制度の変化を正しく理解し、早め早めに手を打つことが、あなたの会社と家族の資産を守る唯一の方法です。
第1章 なぜ「税収は過去最高」なのに、私たちの生活は楽にならないのか
1-1 税収84兆円超の中身を見てみよう
2025年度の国の一般会計税収(所得税・法人税・消費税などの合計)は84兆円を超え、6年連続で過去最高を更新する見通しとなりました。2026年度予算でも83兆円台が見込まれており、実現すれば7年連続の記録更新となります。
一見すると「景気が良くなった証拠」に思えますが、内訳を見ると次のことが分かります。
- 所得税:賃上げによる名目上の増加に加え、前年に実施された定額減税の反動による増加
- 消費税:物価上昇(値上げ)による課税額の増加
- 法人税:企業業績の改善による増加
つまり、「みんなの給料の額面が増えた」「モノの値段が上がった」ことが、そのまま税収増につながっているのです。これは経済学で「インフレ税」と呼ばれる現象に近い状態だといえます。
🖼 家庭の給料袋が物価上昇で目減りする一方、税収グラフだけが右肩上がりに伸びていく様子を対比したイラスト(キャプション:名目の税収は増えても、手取りの実感は増えていない)
1-2 リンゴ屋さんで考える「インフレ税」のカラクリ
分かりやすく、リンゴ屋さんの例で考えてみましょう。
昨年、リンゴ1個100円で売っていたお店が、原材料費の高騰で今年は120円に値上げしました。売上(金額ベース)は増えますが、売れる個数(実質の取引量)は変わっていません。それでも、売上に対して一定割合でかかる消費税は、120円×税率分で計算されるため、税金の金額は自動的に増えます。
これと同じことが、国全体の経済でも起きています。物価が上がれば、モノを買うたびに払う消費税額も、給料が増えれば所得税額も、自動的に膨らんでいきます。制度(税率)は変えていないのに、結果として国の取り分(税収)だけが増えていく——これが「ステルス増税」の一番わかりやすい構造です。
第2章 見えない負担増、「ステルス増税」の具体例
制度が変わっていないのに負担が増える現象に加え、実際に「制度の中身」が静かに見直され、負担が増えているケースもあります。経営者・個人事業主に特に関係の深い3つの実例を見ていきましょう。
2-1 相続税の基礎控除は10年以上「据え置き」——地価上昇でジワジワ課税対象に
相続税には「基礎控除」という、ここまでの財産には税金がかかりませんという非課税の枠があります。現在の計算式は次の通りです。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
この計算式は2015年(平成27年)の改正以来、10年以上見直されていません。ところがこの間、都市部を中心に地価は上昇を続けています。つまり、同じ「実家の土地・建物」を持っているだけでも、評価額が上がれば基礎控除を超えやすくなり、これまで相続税とは無縁だった家庭にも課税対象が広がっているのです。税率も控除額の計算式も「変えていない」のに、対象者だけが静かに増えていく——これも典型的なステルス増税です。
🖼 同じ広さ・同じ間取りの家が、10年前と現在で地価上昇により相続税評価額が上がっていく様子を示すビフォーアフター図(キャプション:制度は同じでも、地価が上がれば税負担は自然に重くなる)
2-2 生前贈与の「持ち戻し期間」が3年→7年へ延長
生前に子や孫へ財産を贈与しておくことは、昔から定番の相続税対策でした。ところが令和5年度の税制改正により、亡くなる前の一定期間内に行った贈与は「相続財産に足し戻して」相続税を計算するというルール(生前贈与加算)の対象期間が、これまでの3年から段階的に7年へと延長されています。
| 相続が開始する時期 | 加算対象となる贈与の期間 |
| 〜2026年12月31日 | 相続開始前3年以内(従来どおり) |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日以降〜相続開始日まで(段階的に拡大) |
| 2031年1月1日以降 | 相続開始前7年以内(完全移行) |
延長された4年分(相続開始前3年超〜7年以内)については合計100万円までは加算しなくてよいという緩和措置はありますが、それでも持ち戻し期間が長くなる分、「せっかく生前に贈与した財産」が相続税の計算に取り込まれやすくなります。年間110万円の非課税枠内で贈与していても、7年以内に相続が発生すれば加算対象になり得る点は、見落とされがちな重要ポイントです。
2-3 「年収の壁」引き上げの裏側にある税制のバランス調整
2026年度税制改正では、所得税がかかり始める年収のボーダーライン、いわゆる「年収の壁」が178万円へ引き上げられました。働く人にとっては減税に見える改正ですが、政府の試算では、この引き上げによる減収(年間約6,680億円)を、企業向けの「賃上げ促進税制」の要件見直しによる増収(年間約6,750億円)でほぼ相殺する設計になっています。
つまり、個人の手取りが増えるように見える改正の裏で、賃上げに積極的でない企業や、税制優遇の要件を満たせない企業の税負担は相対的に増える設計になっているのです。経営者としては「減税ムード」だけを見て安心せず、自社が新しい賃上げ促進税制の要件を満たせているかどうかを、必ず確認する必要があります。
🖼 「年収の壁引き上げ」による家計の減税と、「賃上げ促進税制の見直し」による企業側の負担増がシーソーのように釣り合っている図解(キャプション:個人減税の財源は、企業の税制見直しで確保されている)
第3章 具体的シミュレーションで見る「ステルス増税」のインパクト
シミュレーション1:地価上昇と生前贈与加算が重なったケース
中小企業のオーナー経営者Aさん(自社株・自宅を保有)を例に考えてみます。
- 法定相続人:配偶者と子2人の合計3人
- 基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 10年前の相続財産評価額(自宅・自社株など):4,500万円 → 基礎控除内で相続税なし
- 現在の評価額(地価上昇・自社株評価額上昇後):6,500万円 → 課税遺産総額は6,500万円−4,800万円=1,700万円
この1,700万円に対して相続税がかかることになり、これまで「うちは関係ない」と思っていた家庭にも、静かに納税義務が発生します。さらに、生前贈与を毎年110万円ずつ行っていた場合、相続発生のタイミングによっては、その贈与分の一部または全部が相続財産に足し戻され、課税対象がさらに膨らむ可能性があります。
シミュレーション2:法人の賃上げ促進税制、対応するかしないかの差
年間給与総額3,000万円の会社で、賃上げ促進税制の上乗せ要件(教育訓練費の増加や、くるみん・えるぼし等の認定取得など)を満たせた場合と、満たせなかった場合を比較します。
| 項目 | 要件を満たした場合 | 要件を満たさなかった場合 |
| 税額控除の適用 | 給与増加額に応じた高い控除率が適用される | 基本部分のみ、または適用なし |
| 法人税への影響 | 控除額が増え、実質的な税負担が軽くなる | 控除額が少なく、他社より税負担が重くなる |
| 経営への意味 | 賃上げの原資を税制でカバーしやすい | 賃上げしても税制メリットを取りこぼす |
制度自体は「優遇税制」であっても、要件を満たせなければ相対的に負担が重くなる——これもまた、知らないうちに不利になる「ステルス増税」の一種といえます。
第4章 経営者・個人事業主が今すぐ始めるべき資産防衛ステップ
資産防衛の流れを、ステップ図でまとめると次のようになります。
🖼 下記5ステップを矢印でつないだ資産防衛ロードマップのフローチャート(キャプション:資産防衛は一度きりの対策ではなく、毎年の見直しが重要)
STEP1 現状把握
→ 自社の決算書・保有資産・相続財産の評価額を「現在の時価」で棚卸しする
STEP2 制度カレンダーの確認
→ 生前贈与加算の経過措置(2026年/2027〜2030年/2031年〜)を家族の年齢構成に当てはめる
STEP3 贈与・承継プランの再設計
→ 暦年贈与を続けるか、相続時精算課税(年110万円の基礎控除あり)に切り替えるかを比較検討する
STEP4 法人の税制優遇の適用可否チェック
→ 賃上げ促進税制など、自社が使える控除を専門家と一緒に確認する
STEP5 定期的な見直し(年1回以上)
→ 税制改正は毎年行われるため、「一度作ったら終わり」ではなく、毎年アップデートする
今すぐできる具体的なアクション
- 相続財産(不動産・自社株など)を最新の評価額で試算し直す
- 生前贈与を行う場合は、「いつ・誰に・いくら」を記録に残す(贈与契約書の作成など)
- 相続時精算課税制度と暦年贈与、どちらが自社・家族に合うかをシミュレーションする
- 自社が賃上げ促進税制などの優遇措置の要件を満たしているか確認する
- 年に一度は専門家と「制度改正の棚卸し」を行う
よくある質問(FAQ)
Q1. ステルス増税とは、具体的にどういう意味ですか?
A1. 税率そのものを上げる「増税」ではなく、控除額の据え置きや加算対象期間の延長など、制度の一部を見直すことで、結果的に納税額が増えていく現象を指します。ニュースで大きく報じられにくいため「見えない増税」と呼ばれています。
Q2. 生前贈与の110万円非課税枠は、もう使う意味がないのですか?
A2. いいえ、意味はあります。110万円の基礎控除自体はなくなっていません。ただし、贈与してから相続開始までの期間が加算対象期間(最大7年)内だと、相続財産に足し戻される可能性がある点に注意が必要です。早めに贈与を始めるほど、加算対象期間から外れやすくなります。
Q3. 相続税の基礎控除が10年以上変わっていないのは本当ですか?
A3. はい。現在の基礎控除の計算式(3,000万円+600万円×法定相続人の数)は2015年の改正から適用されているもので、その後見直されていません。この間の地価上昇により、課税対象となる方は増加傾向にあります。
Q4. 年収の壁が178万円に引き上げられたのは、単純に減税ということですか?
A4. 個人の所得税負担は軽くなりますが、その財源の一部は企業向けの税制見直し(賃上げ促進税制の要件見直しなど)で確保されています。経営者の立場では、減税と増税がセットで動いている点を理解しておく必要があります。
Q5. 資産防衛の対策は、いつから始めればよいですか?
A5. 早ければ早いほど選択肢が広がります。特に生前贈与は、加算対象期間(最大7年)から外れるまでに時間がかかるため、「まだ大丈夫」と思っているうちに始めることが最大の防衛策になります。
まとめ
- 税収が過去最高を更新しているのは、必ずしも景気拡大だけが理由ではなく、物価上昇や賃上げによる名目上の増加も大きく影響しています。
- 相続税の基礎控除の据え置きや、生前贈与加算の期間延長(3年→7年)など、税率を変えずに負担を増やす「ステルス増税」が静かに進んでいます。
- 「年収の壁」引き上げのような減税に見える改正の裏で、法人向けの増収策が組み合わされているケースもあります。
- 対策は、現状把握 → 制度カレンダーの確認 → 贈与・承継プランの再設計 → 優遇税制の適用確認 → 毎年の見直し、というステップで進めるのが効果的です。
税制は毎年のように改正され、しかもその影響は会社の規模、資産の構成、家族構成によって一人ひとり異なります。「自分の場合はどうなるのか」を正確に判断するには、最新の制度を踏まえた個別のシミュレーションが欠かせません。
個別具体的なケースについては判断が難しい部分も多いため、まずは当事務所へお気軽にご相談ください。現状の資産状況や事業承継の見通しを整理し、今の制度に合わせた最適な資産防衛プランを一緒に考えさせていただきます。
