なぜ富裕層は現金を不動産に変えるのか?
相続税評価額が下がる仕組みを中学生でもわかるように解説
公開日:2026年5月8日 |
このページの目次
はじめに――「なぜ現金より不動産のほうが相続に有利なの?」
「お金持ちはなぜわざわざ現金を不動産に換えるの?」と疑問に思ったことはありませんか?実はそこには、日本の相続税の計算ルールにある大きな「差」が隠れています。
簡単に言うと、同じ1億円の財産でも、現金で持つより不動産で持つほうが「相続税の計算上の価格(評価額)」が低くなる仕組みが日本の税法には存在します。この仕組みを上手に活用することが、富裕層の間で広く行われている相続税対策の一つです。
本記事では、その仕組みをできるだけやさしく、かつ正確に解説します。税理士が監修した信頼性の高い情報を、中学生でも理解できるようにかみ砕きましたので、ぜひ最後まで読んでみてください。
| 📋 この記事でわかること(目次) |
| ① 富裕層とはどんな人たちか? ── 日本の超富裕層の実態 |
| ② 相続税の基本 ── 「評価額」って何? |
| ③ 現金を不動産に換えると評価額はどう変わるか |
| ④ 賃貸不動産にするとさらに評価額が下がる理由 |
| ⑤ 具体的な計算例 ── 10億円を不動産に換えた場合 |
| ⑥ 超富裕層への課税強化とその影響 |
| ⑦ 国外転出時課税制度とは何か |
| ⑧ 不動産小口化商品という選択肢 |
| ⑨ 注意点とリスク |
| ⑩ まとめ |
① 富裕層とはどんな人たちか?
まず「富裕層」という言葉の定義を確認しましょう。野村総合研究所の調査(2021年)によると、日本の富裕層は「純金融資産」(不動産を除く預貯金・株式などの金融資産)の額によって次のように分類されています。
【図表1】日本の富裕層の分類(野村総合研究所 2021年調査)
| 分類 | 純金融資産の目安 | 世帯数 | 全体に占める割合 |
| 超富裕層 | 5億円以上 | 9.0万世帯 | 0.17% |
| 富裕層 | 1億円〜5億円未満 | 139.5万世帯 | 約2.6% |
| 準富裕層 | 3,000万円〜1億円未満 | 325.4万世帯 | 約6.1% |
| アッパーマス層 | 3,000万円未満 | 712.1万世帯 | 約13.3% |
| マス層(一般層) | 3,000万円未満 | 4,213.2万世帯 | 約78.0% |
出所:野村総合研究所「NRI富裕層アンケート調査」(2021年)をもとに作成
注目すべきは「超富裕層」の少なさです。全体のわずか0.17%にすぎませんが、その保有資産は国内外で非常に大きな影響力を持っています。
また、世界に目を向けると、資産3,000万ドル(約45億円)以上を保有する「超高資産家」の数で日本はかつて世界第2位(2017年)でしたが、2022年には4位に下がっています。その背景には、国内の課税強化や円安などの影響があるとみられています。
② 相続税の基本 ── 「評価額」って何?
相続税は、亡くなった人(被相続人)の財産を受け取った人(相続人)に対してかかる税金です。ここで重要なのが「評価額」という概念です。
| 💡 評価額とは?(ポイント解説) |
| 相続税を計算するとき、財産の価値はすべて「時価(実際の市場価格)」ではなく、 |
| 税法で決められた独自のルールで計算した「評価額」を使います。 |
| ★ 現金・預金 → 額面そのまま(1億円は1億円として評価) |
| ★ 土 地 → 路線価方式などで評価(時価の約80%程度) |
| ★ 建 物 → 固定資産税評価額(時価の約60%程度) |
| つまり、現金より不動産のほうが評価額が低くなりやすい! |
現金や預金はそのままの金額(額面)が評価額になりますが、土地や建物は税法上の独自の計算方法で評価されるため、一般的に市場価格(時価)よりも低い評価額になります。
この「評価額の差」を活用するのが、現金を不動産に換える相続税対策の基本的な考え方です。
③ 現金を不動産に換えると評価額はどう変わるか
では具体的に、土地と建物はどのように評価されるのでしょうか。それぞれの評価方法を丁寧に説明します。
土地の評価:路線価方式
土地の相続税評価額は原則として「路線価(ろせんか)方式」で計算します。
| 📌 路線価とは? |
| 路線価とは、国税庁が毎年発表する「その道路に面した土地1㎡あたりの価格」のことです。 |
| 一般的に、路線価は時価(実際の売買価格)の約80%程度に設定されています。 |
| 例)時価1億円の土地 → 路線価評価額は約8,000万円 |
建物の評価:固定資産税評価額
建物の相続税評価額は「固定資産税評価額」を使います。
| 📌 固定資産税評価額とは? |
| 固定資産税評価額は、市区町村が固定資産税を計算するために決めた建物の価格です。 |
| 一般的に、時価(建築費や市場価格)の約60%程度とされています。 |
| 例)時価1億円の建物 → 固定資産税評価額は約6,000万円 |
【図表2】現金と不動産の評価額の違い(イメージ)
| 財産の種類 | 時価(実際の価格) | 相続税の評価額(目安) |
| 現金・預金 | 1億円 | 1億円(変わらない) |
| 土地(更地) | 1億円 | 約8,000万円(路線価 = 時価×80%) |
| 建物(自己使用) | 1億円 | 約6,000万円(固定資産税評価額 = 時価×60%) |
| 賃貸建物(貸家) | 1億円 | 約4,200万円(固定資産税評価額×70%) |
| 貸家建付地 | 1億円 | 約6,320万円(詳細は後述) |
※ 数値はあくまで目安です。実際は物件の立地・状況等により異なります。
④ 賃貸不動産にするとさらに評価額が下がる理由
土地や建物を購入するだけでも評価額は下がりますが、さらにその不動産を「賃貸」として他の人に貸し出すと、評価額がさらに下がります。なぜでしょうか?
それは、借りている人(借家人・テナント)の「権利」が認められているからです。
| 🏠 借家権とは?(超わかりやすく解説) |
| アパートやマンションを借りている人(借家人)には、「すぐには追い出されない権利」があります。 |
| これを「借家権(しゃくやけん)」と呼びます。 |
| この借家権が存在する分だけ、オーナー(大家さん)の財産価値は制限されます。 |
| そのため、税法上は「借家権割合(30%)」だけ評価額を差し引く(控除する)ことができます。 |
| つまり、自分で使っている建物より、人に貸している建物のほうが評価額が低くなるのです! |
貸家建付地(かしやたてつけち)とは?
土地の場合、その上に賃貸用の建物が建っている土地のことを「貸家建付地(かしやたてつけち)」と呼びます。
貸家建付地の評価額は、通常の路線価から「借地権と借家権を組み合わせた割合」を差し引いて計算します。これにより、更地(何も建っていない土地)よりもさらに低い評価額になります。
【図表3】不動産の評価額が下がる仕組み(段階的イメージ)
| ステップ | 内容 | 評価額への影響 |
| STEP 1 | 現金・預金をそのまま保有 | 評価額 = 時価100% (割引なし) |
| STEP 2 | 土地・建物を購入(自己使用) | 土地:時価の約80% / 建物:時価の約60% |
| STEP 3 | 購入した建物を賃貸に出す | 建物:さらに借家権30%分を控除 |
| STEP 4 | 土地も「貸家建付地」として評価 | 土地:路線価から借地権×借家権分を控除 |
このように、現金 → 不動産購入 → 賃貸化 → 貸家建付地評価、という手順を踏むことで、段階的に評価額を圧縮することができます。
⑤ 具体的な計算例 ── 10億円を不動産に換えた場合
では、実際の数字で計算してみましょう。ここでは元の記事にある計算式をそのまま使って解説します。
| 📊 計算の前提条件 |
| ・現金(または預金)の金額:10億円 |
| ・土地の取得価格(時価):5億円(このうち土地5億円とする) |
| ・建物の取得価格(時価):5億円 |
| ・賃貸として人に貸し出している(空室なし・満室の場合) |
| ・借地権割合:70%(地域によって異なる。路線価図に記載) |
| ・借家権割合:30%(全国一律) |
建物の評価額を計算する
計算式:
建物の評価額 = 時価 × 固定資産税評価額の割合(約60%) × (1 - 借家権割合30%)
| 5億円 × 0.6 × (1 ー 0.3)= 2億1,000万円 |
つまり、時価5億円の建物が 2億1,000万円 という評価額になります。 時価から見ると、約58%減ということになります。
土地の評価額を計算する
計算式(貸家建付地):
土地の評価額 = 時価 × 路線価割合(約80%) × (1 ー 借地権割合70% × 借家権割合30%)
| 5億円 × 0.8 × (1 ー 0.7 × 0.3)= 3億1,600万円 |
時価5億円の土地が 3億1,600万円 という評価額になります。時価から見ると、約37%減ということになります。
合計の評価額を確認する
【図表4】現金10億円を賃貸不動産に換えた場合の評価額の変化
| 財産の種類 | 時価(取得費) | 相続税評価額 | 評価の圧縮効果 |
| 建物 | 5億円 | 2億1,000万円 | 約▲2億9,000万円 |
| 土地(貸家建付地) | 5億円 | 3億1,600万円 | 約▲1億8,400万円 |
| 合計 | 10億円 | 5億2,600万円 | 約▲4億7,400万円 |
| ✅ 計算結果のポイント |
| 現金10億円をそのまま保有していた場合の相続税評価額:10億円 |
| 賃貸不動産(土地+建物)に換えた場合の相続税評価額:約5億2,600万円 |
| ➡ 評価額が約4億7,400万円(約47%)も圧縮されました! |
| ただし、この計算はあくまで一例です。物件の立地・賃貸状況(空室率など)・ |
| 借地権割合によって結果は大きく変わります。 |
⑥ 超富裕層への課税強化とその影響(2025年以降)
2023年度の税制改正によって、所得が極めて高い人(超富裕層)に対する新たな課税ルール「最低税負担の調整制度」が導入されました。これは2025年分の所得税から適用されています。
| 📋 最低税負担の調整制度(ミニマムタックス)の概要 |
| ■ 対象者:年間の基準所得金額が3.3億円を超える、極めて高収入の人 |
| (対象者は約200〜300人と推定される非常に少数) |
| ■ 計算式: |
| (基準所得金額 ー 3.3億円)× 22.5% ー 基準所得税額 = 追加納付税額 |
| ■ 「22.5%」は所得税の最高税率(45%)の半分 |
| ■ 基準所得金額とは:確定申告が不要な配当所得や株式の売却益なども |
| 含めた合計所得金額のこと(税逃れを防ぐための定義) |
この制度が生まれた背景には、超高額所得者の中に株式配当などを多く受け取ることで実質的な税負担率が低くなるケースがあったことがあります。これに対して「最低でもこれだけは税金を払うべき」という基準を設けたものです。
対象者は全国でわずか200〜300人程度と非常に少数のため、「なぜ法律でわざわざ規定する必要があったのか」という専門家からの疑問の声もあります。
⑦ 国外転出時課税制度とは何か
日本の相続税・所得税の課税を避けるために海外に移住する富裕層に対して、2015年に「国外転出時課税制度(こくがいてんしゅつじかぜいせいど)」が導入されました。
| 🌏 国外転出時課税制度のポイント |
| ■ 対象者:1億円以上の「対象資産」(株式・投資信託など)を保有している居住者 |
| ■ 制度の内容: |
| 対象者が日本国外に移住する場合、その時点で対象資産を「売った」とみなして |
| 含み益(まだ実現していない利益)に所得税・復興特別所得税が課税される。 |
| ■ 贈与・相続にも適用: |
| 国外に住む親族(非居住者)に対象資産を贈与・相続した場合も同様に課税される。 |
| ■ 目的: |
| キャピタルゲイン課税(資産を売却した際の利益への課税)を逃れるために |
| 海外移住後に売却するという節税行為を防止するため。 |
この制度により、「日本を出て海外で資産を売れば税金を払わなくて済む」という手法は基本的に封じられました。
一方で、不動産は日本国内に存在する資産であるため、国外転出時課税の対象外となります。これが「不動産を持つ富裕層は国内で相続・節税対策を行う」という傾向につながっています。
⑧ 不動産小口化商品という選択肢
「不動産を購入したいが、まとまった金額の物件を一人で買うのは難しい」という場合に活用できるのが「不動産小口化商品」です。
| 🏢 不動産小口化商品とは? |
| 一つの大型不動産(オフィスビル・マンションなど)を小さな「口数」に分けて、 |
| 複数の投資家が共同で保有する仕組みです。 |
| ■ メリット: |
| ・少額(数百万円〜)から不動産に投資・保有が可能 |
| ・複数の物件に分散投資することでリスク軽減 |
| ・現金を不動産評価(=路線価・固定資産税評価額)で相続できる |
| ・相続人に均等に分配しやすい(遺産分割が容易) |
| ■ 注意点: |
| ・流動性が低い(すぐに現金化できない場合がある) |
| ・物件の価値が下落するリスクがある |
| ・商品の内容・信頼性の確認が必要 |
特に、相続人(財産を受け取る人)が複数いる場合、一棟のマンションをそのまま相続すると「誰がどの部分を受け取るか」でもめやすいですが、小口化商品なら人数分に分けやすいというメリットがあります。
⑨ 注意点とリスク ── 必ずしも「トクをする」わけではない
不動産への換換は確かに相続税評価額を下げる効果がありますが、万能の対策ではありません。以下の点に注意が必要です。
【図表5】不動産活用による相続税対策の注意点・リスク一覧
| リスク・注意点 | 内容の説明 |
| 空室リスク | 空室が多いと評価額の圧縮効果が減少します。賃貸状況(稼働率)が重要です。入居者がいない物件は「貸家」として認められない可能性があります。 |
| 不動産価格の下落リスク | 購入後に不動産の市場価格が下がると、評価額圧縮効果よりも実際の財産価値の損失が大きくなる可能性があります。 |
| 流動性の低さ | 不動産は株式や現金と違い、すぐに売れるわけではありません。急に現金が必要になったときに対応が難しい場合があります。 |
| 管理コスト | 不動産には修繕費、管理費、固定資産税などのランニングコストがかかります。節税効果だけで判断するのは危険です。 |
| 税務調査のリスク | 節税目的が明らかな不動産取得については、国税庁が「不当な税負担の回避」として否認するケースも増えています(判例あり)。 |
| 借地権割合の地域差 | 借地権割合は地域によって30%〜90%まで異なります。路線価図で確認が必要です。同じ計算でも地域によって大きく結果が変わります。 |
| ⚠️ 税務上の「否認リスク」について(重要) |
| 近年、国税庁は「相続税対策のためだけに行われた不動産購入」について、 |
| 「租税回避行為(税逃れ)」として評価額の圧縮を否認するケースが出ています。 |
| 特に注意が必要な事例: |
| ・相続直前(数か月〜1〜2年以内)に購入した不動産 |
| ・節税以外の経済的合理性が見当たらない取引 |
| ・過度に評価額を圧縮することのみを目的とした取引 |
| 不動産を活用した相続対策を行う際は、必ず税理士等の専門家に相談しましょう。 |
⑩ まとめ ── 現金を不動産に換える相続税対策の全体像
この記事で解説した内容を最後に整理します。
【図表6】記事の総まとめ:現金→不動産の相続税対策フロー
| 項目 | ポイント |
| なぜ不動産が有利? | 相続税評価額が時価より低くなるため。現金は時価=評価額だが、不動産は評価額が下がる。 |
| 土地の評価方法 | 路線価方式(時価の約80%)。賃貸に使えば貸家建付地としてさらに低く評価される。 |
| 建物の評価方法 | 固定資産税評価額(時価の約60%)。賃貸建物(貸家)は借家権30%を控除でさらに低下。 |
| 計算例 | 10億円の現金を賃貸不動産に換えると評価額は約5.26億円(約47%圧縮)になる可能性がある。 |
| 課税強化の動き | 超富裕層への最低税負担制度(2025年〜)、国外転出時課税制度(2015年〜)が導入済み。 |
| 注意点 | 空室リスク・価格下落・管理コスト・税務調査(否認)リスクがある。専門家への相談が必須。 |
現金を不動産に換える相続税対策は、日本の税法の評価ルールを活用した合法的な節税手法です。しかし、その効果は物件の選び方・賃貸状況・立地・借地権割合など多くの条件に左右されます。また、節税目的だけで動くと税務調査でリスクが生じることもあります。
相続税対策は、不動産購入だけでなく、生前贈与・生命保険の活用・遺言書の作成など、総合的な視点で検討する必要があります。ぜひ信頼できる税理士や専門家に早めに相談することをおすすめします。
【免責事項・ご注意】
本記事は、一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別の税務・法律アドバイスではありません。掲載している計算例・数値はあくまで説明のための目安であり、実際の税務処理とは異なる場合があります。税務上のご判断は、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。税制は毎年改正されるため、最新の情報は国税庁ホームページ等でご確認ください。
