税務調査の知識 税務調査で狙われやすいケース

国税当局は数ある納税者の中から申告漏れが想定される調査先を選定して調査に臨んでいるわけですが、どのようなケースが税務調査で狙われているのでしょうか。

近年の傾向から、5つのポイントがあると考えます。

国税当局が税務調査に積極的に取り組んでいるジャンルに該当している場合は優先的に調査先として選定されている可能性が高い

国税庁では、中期的な取り組みとして、公平な課税や実態解明を達成するべく、その時代における特定ジャンルの納税者に対して積極的に税務調査に取り組むこととしており、毎年その調査の状況を公表しています。

令和2年~令和3年にかけて国税庁が積極的に税務調査に取り組んだジャンルは次のとおりで、調査1件当たりの申告漏れ所得金額や追徴税額も高額となっています。

個人事業者

富裕層 資産運用の多様化・国際化に対応するため、近年富裕層の個人納税者に対して積極的に調査が行われています。
(1件当たり申告漏れ所得金額 2,229万円)
海外投資家等 経済社会の国際化に対応するため、海外投資家や輸出入を行っている個人事業者に対して積極的に調査が行われています。
(1件当たり申告漏れ所得金額 2,239万円)
シェアリングエコノミー等新分野の経済活動家 近年、シェアリングエコノミー、仮装通貨取引、アフィリエイト、ネット通販等といった新分野の経済活動が急激に普及しており、これらを取り巻く市場も活況を呈しています。
国税庁では、これらの新分野の取引実態を解明するとともに、公平な課税を実現するために積極的な調査が行われています。
(1件当たり申告漏れ所得金額 1,872万円)
無申告者 国税庁は、税金を少なく申告している納税者よりも、税金の申告すらしていない無申告者に対しては近年厳しく対応することとし、積極的に調査を行っています。
(1件当たり申告漏れ所得金額 2,565万円)

法人

消費税の還付申告法人 消費税の不正還付は、いわば国庫金の搾取ともいえる悪質性が高い行為とされており、消費税の還付申告を行った法人には、その還付理由にもよりますが、高い確率で調査が行われています。(1件当たり追徴税額 364万円)
海外取引法人 近年増加する輸出入取引や海外投資スキームを使う法人については、積極的に調査が行われています。
また、調査にあたっては、租税条約に基づく外国の税務当局との情報交換や、日本の国税当局から世界主要都市に派遣されている駐在職員を活用するなど、深度ある調査が行われています。(1件当たり申告漏れ所得金額 1,838万円)
無申告法人 税務当局にとって無申告を放置することは、日本の申告納税制度の根幹を揺るがすこととなるため、無申告法人に対して積極的に調査を行い、厳しく対処しています。
(1件当たり追徴税額 324万円)

好況事業者は調査先として選定される可能性が最も高い

国税庁が積極的に調査に取り組むジャンルであるかないかにかかわらず、好況な個人事業者や法人に対しては税務調査が行われやすい傾向にあります。

儲けが増えると所得税、法人税や消費税も多く納税することとなりますが、中には税金を少なくするために意図的に売上を少なくしたり架空の経費を計上するといった不正経理を行って、脱税を行ってしまう納税者も少なからず存在するのが現実です。

税務当局は、公平に課税を実現することを使命としていますので、真面目に申告している納税者のためにも、こうした儲かっていて不正を行いやすい環境にある納税者や業界を対象に積極的に調査を行っていると考えられます。

各勘定科目の大きな変動に税務署は目を光らせている

国税当局は、納税者から提出された確定申告書、決算書、勘定科目の内訳書、事業概況説明書などから、細かく決算内容を分析しています。

継続的に事業を行っている個人事業者や法人については、その年の決算のみならず、当然に過去の決算と比較して、不自然な数字の変動はないか検討しています。

次のケースのように各勘定科目に大きな変動がある場合には、税務調査を受ける可能性が高いと考えます。

  • 売上が急増しているのに利益が低調
  • 特定の経費が急激に増加
  • 期末の売掛金が減少
  • 期末の未払金が増加
  • 高額な退職金を支給
  • 決算賞与を支給
  • 代表者借入金が急増
  • 不動産や大規模設備などの固定資産を購入
  • 固定資産売却益、貸倒損失などの多額な特別損益を計上
  • 子会社、営業所、支店等を開設

国税当局はあらゆる取引情報を保有している

国税当局は、あらゆる手段で日々大量の取引情報を収集しています。

法定調書制度に基づく情報収集

日本の税法では、ある取引に際して金銭の授受があった場合には、金銭の支払者等に対してその取引情報を国税当局に調書として提出する義務が定められています。

例えば、不動産の使用料、報酬料金、株式の譲渡、投資信託の分配金、生命保険の一時金、非居住者に対する支払い、金地金の譲渡などがあります。

国税当局は、これらの法定調書から取引情報を蓄積し、申告すべき収入がきちんと申告されているのかチェックしていますので、申告されていないと想定される場合には税務調査に移行される可能性が高くなります。

また、近年は、100万円を超える金銭を日本国外に送金又は日本国外から受領した場合には、海外為替取引した金融機関はその情報を国税当局に対して「国外送金等調書」として提出しなければならないこととされており、国外との資金のやりとりも国税当局に捕捉されていると考えてよいでしょう。

税務調査時における情報収集

日々行われる税務調査においても、あらゆる取引資料が収集されているものと想定されます。

例えば、建設業を営む法人Aから外注先B法人に対して毎月外注費を支払っていますが、これらの支払手段はすべて現金で行われていました。

現金で支払われた外注費は年間で1,000万円となり、B法人はこの1,000万円は売上に計上しなければなりませんが、B法人の代表者は「現金でもらった売上は税務署にバレないだろうから売上に計上しないで自分のポケットに入れてしまおう。」と考え、この1,000万円は売上に計上せずに確定申告しました。

翌年、A法人に対して税務調査が行われましたが、A法人の税務調査においてB法人に対して支払われた金額についてはすべて国税当局に捕捉され、取引情報として蓄積されることとなります。現金取引は、一般的には脱税が行いやすい環境にあると考えられますので、国税当局も確実に取引情報として蓄積するものと想像します。

こうなると、B法人の脱税がバレルのは時間の問題です。

このように、税務調査では他の納税者の取引資料が収集されています。

また、これらの資料から申告漏れが想定されるものについては優先的に調査が行われやすいと考えます。

長期未接触又は設立後3~5年経過後は注意

国税当局も限られた人員で税務調査に臨んでいますので、1年間にすべての納税者に対して税務調査を行うことはできません。

したがって、税務調査が行われる間隔は、結果として数年に1度という実情となっています。

納税者の事業規模等にもよりますが、一定の規模以上の納税者であれば、3年~5年に1回は調査が行われています。

中には、「かれこれもう10年以上調査なんて来ていない」というケースもあるかと思いますが、調査がないケースというのは、比較的小規模で取引形態もごくシンプルな場合が多いと思われます。

しかしながら、事業規模が小規模であっても取引形態が変わったり、不動産や機械、車輌など大きな資産の売買などがあった場合などは、税務調査が行われる可能性は高い傾向にあります。

また、開業直後や法人設立直後は、すぐに調査は行われない傾向にありますが、3年から5年後には会社の実態を把握する目的で高い確率で調査が行われる可能性があると考えます。

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